【解決手段】エンジン(1)の吸気通路を画定する吸気通路壁の表面には正の電荷が帯電し、この帯電電荷量を低下させるために自己放電式除電器(10)が吸気通路壁面上に設置される。この自己放電式除電器(10)は設置箇所を中心とした限られた範囲内の吸気通路壁表面の帯電電荷量を低下させることができ、帯電電荷により吸入空気の流路断面の縮小が引き起こされる箇所の吸気通路壁面上に自己放電式除電器(10)が設置される。
吸気通路を画定する吸気通路壁の表面に正の電荷が帯電する車両の吸気装置において、吸気通路壁面上に設置すると該設置箇所を中心とした限られた範囲内の吸気通路壁表面の帯電電荷量を低下させることのできる自己放電式除電器を備えており、該自己放電式除電器を吸気通路壁面上に設置した車両の吸気装置。
該自己放電式除電器は、吸入空気の流路上において吸入空気の流路断面が縮小される吸入空気流路断面縮小部の吸気通路壁面上に設置される請求項1に記載の車両の吸気装置。
該自己放電式除電器は、吸入空気の流路上において吸入空気の流路断面が縮小される全ての吸入空気流路断面縮小部の吸気通路壁面上に設置される請求項1に記載の車両の吸気装置。
該自己放電式除電器は、帯電電荷量が増大すると吸気通路壁の内壁面上において吸入空気の剥離を生じさせる吸気通路壁面上に設置される請求項1に記載の車両の吸気装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に車両の吸気装置を図解的に示す。
図1を参照すると、1はエンジン、2は吸気装置を夫々示す。
図1に示されるように、吸気装置2は、エアクリーナ3と、サージタンク4と、エアクリーナ3への吸入空気導入管5と、エアクリーナ3からサージタンク4に向けて延びる吸入空気ダクト6、サージタンク4からエンジン1に向けて延びる吸気枝管7からなる。なお、
図1において破線8はエアフィルタを示している。吸入空気は吸入空気導入管5の吸入空気導入口5aから吸入空気導入管5を介してエアクリーナ3内に流入し、次いで吸入空気はエアフィルタ8を通って吸入空気ダクト6内に流入する。次いで、吸入空気は吸入空気ダクト6からサージタンク4内に流入し、次いで吸気枝管7を介してエンジン1に供給される。
【0010】
図1に示される吸気装置2では、吸入空気導入口5aから吸気枝管7の下流端までが吸気通路を構成しており、この吸気通路は吸入空気導入管5の管壁、エアクリーナ3の周壁、吸入空気ダクト6の管壁、サージタンク4の周壁および吸気枝管7の管壁によって画定されている。従って、
図1に示される吸気装置2では、これら吸入空気導入管5の管壁、エアクリーナ3の周壁、吸入空気ダクト6の管壁、サージタンク4の周壁および吸気枝管7の管壁が、吸気通路を画定する吸気通路壁を構成している。
図1に示される吸気装置2では、これら吸入空気導入管5の管壁、エアクリーナ3の周壁、吸入空気ダクト6の管壁、サージタンク4の周壁および吸気枝管7の管壁、即ち、吸気通路を画定する吸気通路壁は非導電性の合成樹脂材料から形成されている。
【0011】
図2Aは
図1に示される吸入空気導入管5の斜視図を示しており、
図2Bは
図1に示される吸入空気導入管5の別の例の斜視図を示している。また、
図3は
図1に示される吸入空気ダクト6の斜視図を示しており、
図4Bは
図1に示される吸気枝管7の斜視図を示している。
【0012】
さて、車両が走行せしめられると、タイヤの各部が路面に対して接触、剥離を繰り返すことによって静電気が発生し、またエンジン1の構成部品やブレーキ装置の構成部品が相対運動することによっても静電気が発生する。また、車両の走行時に空気が車両の外周面上を摩擦接触しつつ流れることによっても静電気が発生する。これらの発生した静電気によって車両のボディ、エンジン1等には電荷が帯電し、吸気装置2にも電荷が帯電する。このとき、吸気装置2、即ち、吸気通路を画定する吸気通路壁の表面上に正の電荷が帯電することが確認されており、しかも吸気通路を画定する吸気通路壁の表面の電圧値は1000(v)以上の高電圧になる場合があることが確認されている。従って、
図1に示される吸気装置2では、吸入空気導入管5の管壁、エアクリーナ3の周壁、吸入空気ダクト6の管壁、サージタンク4の周壁および吸気枝管7の管壁の表面の電圧値は1000(v)以上の高電圧になる場合があることになる。
【0013】
ところで、吸気通路壁のような非導電性合成樹脂材料からなる薄肉壁の表面の電圧値が高くなると、薄肉壁の表面に沿う空気の流れが変化することが確認されている。そこで、まず初めに、薄肉壁の表面に沿う空気の流れが、薄肉壁の表面の電圧値によってどのように変化するかということについて、本発明者が実験により確認した現象から説明を行う。
図6Aは、正の電荷が帯電している薄肉壁9の表面に沿って空気が流れている場合を示している。この場合、空気は正に帯電する傾向にあるので、
図6Aは、正に帯電した空気が、正の電荷が帯電している薄肉壁9の表面に沿って流れている場合を示している。さて、
図6Aにおいて、実線の矢印は、薄肉壁9の表面の電圧値が低い場合を示しており、この場合には空気は薄肉壁9の表面に沿って流れる。これに対し、破線の矢印は、薄肉壁9の表面の電圧値が高い場合を示しており、この場合には空気は薄肉壁9の表面が下方に向け湾曲したところで、即ち空気流が薄肉壁9の表面から離れやすいところで、薄肉壁9の表面から離れるように流れる。
【0014】
図6Bは、
図6Aにおいて薄肉壁9の表面に沿って流れる空気の主流の流速U
∞ と、薄肉壁9の表面から距離Sだけ離れた位置での流速Uとの速度比U/U
∞ のX地点(
図6A)における実測値を示している。なお、
図6Bにおいて黒塗りの菱形で示される各点は、薄肉壁6の表面に正の電荷が帯電していない場合を示しており、
図6Bにおいて黒塗りの四角形で示される各点は、薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電している場合を示している。
図6Bから、薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電している場合には薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電していない場合に比べて、速度境界層が薄肉壁9の表面から離れ、従って薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電している場合には、
図6Aにおいて破線の矢印で示されるように、薄肉壁6の表面から離れるように流れていることがわかる。
【0015】
上述したように、空気は正に帯電する傾向があり、従って空気の一部は正の空気イオン(丸内に+で表示)となっている。従って、薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電していると正の空気イオンと薄肉壁9の表面との間には斥力が作用するために、
図6Aにおいて破線の矢印で示されるように、空気は薄肉壁9の表面が下方に向け湾曲したところで、即ち空気流が壁面9の表面から離れやすくなったところで、薄肉壁9の表面から離れるように流れることになる。このように薄肉壁9の表面への正の電荷の帯電により薄肉壁9の表面に沿って流れる空気流が薄肉壁9の表面から離れることは実験により確かめられており、この場合、薄肉壁9の表面の電圧値が高くなるほど、薄肉壁9の表面に沿って流れる空気流が薄肉壁9の表面から離れることがわかっている。
【0016】
また、薄肉壁9の表面形状が空気流の剥離を生じやすい形状を有している場合において、薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電していないときには空気流の剥離が生じないが、薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電すると、空気流の剥離が生じる場合があることが確認されている。更に、薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電している場合には薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電していない場合に比べて、空気流の剥離の大きさが増大することも確認されている。このように、薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電すると、電気的な反発力に基づいて、空気流が薄肉壁9の表面から離れ、或いは空気が剥離を生じることが確かめられている。
【0017】
ところで、薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電しているときに、薄肉壁9の表面に沿う空気の流れを、薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電していない場合の空気の流れに戻すには、薄肉壁9の表面に帯電している正の電荷の全部或いは一部を除去し、即ち薄肉壁9の表面を除電し、それにより薄肉壁9の表面の電圧値を低下させることが必要となる。この場合、本発明では、薄肉壁9の表面を除電するために自己放電式除電器を用いており、この自己放電式除電器の一例が
図7Aから
図7Cに示されている。なお、
図7Aおよび
図7Bは、代表的な自己放電式除電器10の平面図および側面断面図を夫々示しており、
図7Cは、別の自己放電式除電器10の側面断面図を示している。
【0018】
図7Aおよび
図7Bに示される例では、この自己放電式除電器10は細長い矩形状の平面形状をなすと共に、薄肉壁9の表面上に導電性接着剤12により接着せしめられる金属箔11からなる。一方、
図7Cに示される例では、この自己放電式除電器10は薄肉壁9の表面上に一体的に形成された導電性薄膜からなる。本発明では、
図7Aから7Cに示される自己放電式除電器10を用いて、薄肉壁9の表面の一部を除電するようにしている。なお、本発明による実施例では、後述するように、この自己放電式除電器10を用いて、
図1に示される吸気通路壁の表面の一部を除電するようにしている。
【0019】
図8Aは、
図7Aおよび7Bに示される自己放電式除電器10を薄肉壁9の表面に設置した場合を示している。このように自己放電式除電器10を薄肉壁9の表面に設置すると、
図8Cに示されるように、自己放電式除電器10の設置箇所を中心とした破線で示す限られた範囲内の薄肉壁9の表面の帯電電荷量が低下せしめ、その結果
図8Cにおいて破線で示す限られた範囲内の薄肉壁9の表面の電圧が低下せしめられることが確認されている。従って、薄肉壁9の表面に沿う空気の流れを薄肉壁9の表面に正の電荷が帯電していない場合の空気の流れに戻したい場合には、正の電荷が帯電していない場合の空気の流れに戻したい箇所の薄肉壁9の表面に自己放電式除電器10を設置すればよいことになる。この場合、
図8Bに示されるように、自己放電式除電器10を薄肉壁9の裏面に設置しても、
図8Cに示されるように、自己放電式除電器10の設置箇所を中心とした破線で示す限られた範囲内の薄肉壁9の表面の帯電電荷量、即ち電圧を低下させられることが確認されている。
【0020】
この場合、自己放電式除電器10により薄肉壁9の表面の除電が行われるときの除電メカニズムについては明らかではないが、おそらく自己放電式除電器10からの正の電荷の放電作用によって自己放電式除電器10の設置箇所周りの薄肉壁9の表面の除電作用が行われているものと推測される。次に、薄肉壁9の拡大断面図を示す
図9Aと
図9Aに示す自己放電式除電器10の端部の拡大図を示す
図9Bを参照しつつ、薄肉壁9の表面において行われていると推測される除電メカニズムについて説明する。
【0021】
前述したように、薄肉壁9は非導電性の合成樹脂材料から形成されている。このように薄肉壁9が非導電性の合成樹脂材料から形成されていると、薄肉壁9の内部には電荷が帯電せず、薄肉壁9の表面に電荷が帯電する。なお、
図1に示される吸気通路壁は、外側表面および内側表面のいずれにも正の電荷が帯電することが確かめられている。本発明による実施例ではこの吸気通路壁の表面の一部を除電するようにしており、従って吸気通路壁の表面を除電する場合を想定して、
図9Aには、薄肉壁9の表面および裏面のいずれにも正の電荷が帯電している場合が示されている。一方、前述したように、自己放電式除電器10は、導電性接着剤12により薄肉壁9の表面に接着された金属箔11からなる。金属箔11および導電性接着剤12は共に導電性であり、従って、金属箔11の内部、即ち自己放電式除電器10の内部には正の電荷が帯電することになる。
【0022】
ところで、自己放電式除電器10の電圧は自己放電式除電器10の周りの薄肉壁9の表面の電圧とほぼ等しくなっており、従って自己放電式除電器10の電圧はかなり高くなっている。一方、前述したように、空気は正に帯電する傾向があり、従って空気の一部は正の空気イオン(丸内に+で表示)となっている。この場合、空気イオンの電位と自己放電式除電器10の電位とを比べると、自己放電式除電器10の電位の方が空気イオンの電位に比べてかなり高くなっている。従って、空気イオンが
図9Bに示されるように、例えば自己放電式除電器10の角部13に近づくと、空気イオンと自己放電式除電器10の角部13間の電界強度が高くなり、その結果、空気イオンと自己放電式除電器10の角部13間で放電が生ずることになる。
【0023】
空気イオンと自己放電式除電器10の角部13間で放電が生ずると、
図9Bに示されるように、空気イオンの電子の一部が自己放電式除電器10内に移動するため、空気イオンの正の帯電量が増大し(丸内に++で表示)、自己放電式除電器10内に移動した電子によって自己放電式除電器10に帯電している正の電荷が中和される。一旦、放電が行われると放電が生じやすくなり、別の空気イオンが自己放電式除電器10の角部13に近づくと空気イオンと自己放電式除電器10の角部13間でただちに放電が生ずることになる。即ち、自己放電式除電器10の周りの空気が移動していると、空気イオンが次から次へと自己放電式除電器10の角部13に近づき、従って空気イオンと自己放電式除電器10の角部13との間で継続的に放電が生ずることになる。
【0024】
空気イオンと自己放電式除電器10の角部13との間で継続的に放電が生ずると、自己放電式除電器10に帯電している正の電荷が次から次へと中和され、その結果自己放電式除電器10に帯電している正の電荷量が減少する。自己放電式除電器10に帯電している正の電荷量が減少すると、自己放電式除電器10の周囲の薄肉壁9の表面上に帯電している正の電荷が自己放電式除電器10内に移動し、従って自己放電式除電器10の周囲の薄肉壁9の表面上に帯電している正の電荷も減少する。その結果、自己放電式除電器10および自己放電式除電器10の周囲の薄肉壁9の表面の電圧が徐々に低下していくことになる。このような自己放電式除電器10および自己放電式除電器10の周囲の薄肉壁9の表面の電圧の低下作用は、自己放電式除電器10の電圧が低くなって放電作用が停止するまで継続し、その結果、
図8Cに示されるように、自己放電式除電器10の設置箇所を中心とした破線で示す限られた範囲内の薄肉壁9の表面の電圧が低下することになる。
【0025】
一方、前述したように、空気イオンと自己放電式除電器10の角部13間で放電が生ずると、
図9Bに示される如く、正の帯電量の増大した空気イオン(丸内に++で表示)が生成され、この正の帯電量の増大した空気イオンは周囲の空気中に飛散する。この正の帯電量の増大した空気イオンの量は、自己放電式除電器10の周囲を流動する空気の量に比べれば極めて少量である。なお、自己放電式除電器10の周りの空気が停滞しており、空気イオンが移動しない場合には、継続して放電が生じず、薄肉壁9の表面の電圧は低下しない。即ち、薄肉壁9の表面の電圧を低下させるには、自己放電式除電器10の周りの空気を流動させることが必要となる。
【0026】
空気イオンと自己放電式除電器10間の放電は、空気イオンと自己放電式除電器10の角部13との間、或いは空気イオンと自己放電式除電器10の周辺部の尖端部14との間で生ずる。従って、空気イオンと自己放電式除電器10との間で放電を生じさせ易くずるには、自己放電式除電器10の周辺部に角部13に加え、多数の尖端部14を形成しておくことが好ましいといえる。従って、自己放電式除電器10を作成する際には、大きな寸法の金属箔を切断することによって金属箔11を作成する際に、切断面に尖端部14のようなバリが生ずるように、金属箔を切断することが好ましいことになる。
【0027】
図7Aおよび7Bに示される自己放電式除電器10の金属箔11は、延性金属、例えばアルミニウム又は銅からなり、本発明による実施例では金属箔11はアルミニウム箔からなる。また、本発明による実施例において用いられているアルミニウム箔11の長手方向の長さは50mmから100mm程度であり、厚みは0.05mmから0.2mm程度である。この場合、
図8Cにおいて電圧の低下する破線で示す限られた範囲の直径Dは、150mmから200mm程度となる。なお、自己放電式除電器10として、アルミニウム箔11に導電性接着剤12の層が形成されているアルミニウムテープを切断して用いることもできる。更に、自己放電式除電器10は、
図7Cに示されるように、薄肉壁9の表面上に一体的に形成された導電性薄膜から構成することもできる。この場合でも、導電性薄膜の周辺部には、
図9Bに示されるような角部13に加え、多数の尖端部14を形成しておくことが好ましい。
【0028】
なお、
図8Bを参照しつつ説明したように、自己放電式除電器10を薄肉壁9の裏面に設置しても、
図8Cに示されるように、自己放電式除電器10の設置箇所を中心とした破線で示す限られた範囲内の薄肉壁9の表面の電圧は低下する。ただし、自己放電式除電器10を薄肉壁9の裏面に設置した場合は、自己放電式除電器10を薄肉壁9の表面に設置した場合に比べて、薄肉壁9の表面の電圧の低下量は少なくなる。このように自己放電式除電器10を薄肉壁9の裏面に設置しても、薄肉壁9の表面の電圧が低下するのは、薄肉壁9の裏面における電圧の低下が薄肉壁9の表面の電圧の低下として薄肉壁9の表面に現れてくるからだと考えられる。
【0029】
さて、前述したように、
図1に示される吸気装置2では、吸気通路を画定する吸気通路壁の表面の電圧値、即ち、吸入空気導入管5の管壁、エアクリーナ3の周壁、吸入空気ダクト6の管壁、サージタンク4の周壁および吸気枝管7の管壁の表面の電圧値は1000(v)以上の高電圧になることが確認されている。この場合、
図6Aおよび6Bに示される実験結果から判断すると、この高電圧により吸気装置2内を流れる吸入空気の流れが変化せしめられており、それにより吸入効率に影響が出ていると推測される。そこで、吸入効率について実験を行った結果、吸気通路壁表面の帯電電荷により生ずる高電圧が吸入効率を低下させていることが判明し、この場合、吸気通路壁面上に自己放電式除電器10を設置すると吸入効率が向上することが判明したのである。
【0030】
そこで本発明では、吸気通路を画定する吸気通路壁の表面に正の電荷が帯電する車両の吸気装置において、吸気通路壁面上に設置すると設置箇所を中心とした限られた範囲内の吸気通路壁表面の帯電電荷量を低下させることのできる自己放電式除電器10を備えており、この自己放電式除電器10を吸気通路壁面上に設置している。
この場合、吸気通路壁面上における自己放電式除電器10の設置箇所が吸入効率の向上に大きな影響を与える。そこで次に、自己放電式除電器10の好ましい設置箇所について説明する。
【0031】
本発明者が、自己放電式除電器10の好ましい設置箇所について実験および検討を行った結果、
図1に示される吸気装置2においては、吸入空気の流路上において吸入空気の流路断面が縮小される吸入空気流路断面縮小部に自己放電式除電器10を設置すると、吸入効率が格段に向上することが判明している。この場合、吸入空気の流路上において最初に吸入空気の流路断面が縮小される吸入空気流路断面縮小部は、吸気装置2への空気導入口である。そこでまず初めに、吸気装置2への空気導入口、即ち吸入空気導入管5の拡大側面断面図を示す
図5Aを参照しつつ、吸気装置2への空気導入口における自己放電式除電器10の好ましい設置箇所について説明する。
【0032】
図5Aを参照すると、吸入空気導入管5は一様流路断面を有する管状部5bと、管状部5bの先端部から吸入空気導入口5aの向けて次第に拡開する拡開部5cとを有する。なお、
図5Aにおいて、実線の矢印は、静電気の帯電による吸入空気導入管5の電圧が低いときの吸入空気の流れを示しており、破線の矢印は、静電気の帯電による吸入空気導入管5の電圧が高いときの吸入空気の流れを示している。拡開部5cの内周面の形状は、吸入空気導入口5aから拡開部5cの内壁面に沿って流入した吸入空気が拡開部5cの内壁面に沿って進んだ後、できるだけ管状部5bの内壁面に沿って進むような形状に形成されており、その結果、静電気の帯電による吸入空気導入管5の電圧が低いときには実線の矢印で示されるように、吸入空気導入口5aから拡開部5cの内壁面に沿って流入した吸入空気は、拡開部5cの内壁面に沿って進んだ後、管状部5bの内壁面に沿って進む。
【0033】
ところが、
図5Aからわかるように、拡開部5cの内壁面に沿って流れる吸入空気の流れ方向は、管状部5b内への入口付近では流路断面の中心部の方を向いており、従って拡開部5cの内壁面に沿って流れる吸入空気は管状部5b内の入口付近では管状部5bの内壁面から剥離し易い流れになっている。その結果、静電気の帯電により吸入空気導入管5の電圧が高くなると、破線の矢印で示されるように、拡開部5cの内壁面に沿って流入れる吸入空気は、管状部5b内に流入するときに、電気的な反発力によって、管状部5bの内壁面から剥離し、その後暫く進んだ後に、管状部5bの内壁面に沿って進むようになる。
【0034】
吸入空気の流路が破線の矢印で示されるように変化すると、吸入空気の流路断面が縮小されることになり、吸入抵抗が増大する。その結果、吸入効率が低下することになる。そこで、吸入空気の流路断面の縮小を引き起こす帯電電荷を除去するために、吸入空気の流路断面の縮小作用が生じる場所、即ち、拡開部5c側の管状部5bの端部の外壁面上に自己放電式除電器10が設置されている。このように拡開部5c側の管状部5bの端部の外壁面上に自己放電式除電器10を設置すると、自己放電式除電器10を中心とした一定範囲内の拡開部5cの内壁面および管状部5bの内壁面の電圧が低下し、従って拡開部5cの内壁面に沿い流れる吸入空気は、実線の矢印で示されるように、拡開部5cの内壁面に沿って進んだ後、管状部5bの内壁面に沿って進むようになる。その結果、吸入効率が向上せしめられることになる。
【0035】
なお、この例では、自己放電式除電器10は、
図5Aおよび
図2Aに示されるように、自己放電式除電器10が管状部5bの外周方向に沿って延びるように、管状部5bの外壁面上に配置される。また、
図2Bに示されるように、管状部5bが長円形の断面形状を有する場合には、複数個の自己放電式除電器10が、管状部5bの外周方向において一直線上に整列するように管状部5bの外壁面上に配置される。
【0036】
一方、自己放電式除電器10は、管状部5bの内壁面上に設置することも可能である。しかしながら、自己放電式除電器10を管状部5bの内壁面上に設置すると、放電により正の帯電量の増大した空気イオンが下流側に送り込まれ、下流側にも自己放電式除電器10か設置されていた場合には、この下流側の自己放電式除電器10における放電作用が阻害されるおそれがある。また、自己放電式除電器10を管状部5bの内壁面上に設置すると、自己放電式除電器10が脱落した場合にエンジン1に影響が出る。従って、本発明による実施例では、自己放電式除電器10は管状部5bの外壁面上、即ち吸気通路壁の外壁面上に設置されている。
【0037】
なお、
図5Aに示されるように、静電気の帯電による吸入空気導入管5の電圧が低いときはもとより、静電気の帯電による吸入空気導入管5の電圧が高くなっても、吸入空気が管状部5b内に流入した後暫く進んだ後には、管状部5bの内壁面に沿って進む。即ち、吸入空気の流路断面が変化しない場合には、帯電電荷が吸入空気の流路断面を変化させるような影響を与えなくなる。従って、管状部5bの下流側には自己放電式除電器10を設置する必要はないことになる。一方、吸入空気が吸入空気導入管5からエアクリーナ3内に流入するときには吸入空気流は広がるだけなので、このときにも帯電電荷が吸入空気の流路断面に影響を与えることはなく、従って吸入空気導入管5の出口に自己放電式除電器10を設置する必要はないことになる。即ち、吸入空気導入管5についてみると、拡開部5c側の管状部5bの端部の外壁面上にのみ自己放電式除電器10を設置すれば十分である。
【0038】
吸入空気の流路上において次に吸入空気の流路断面が縮小される吸入空気流路断面縮小部は、エアクリーナ3の出口、即ち吸入空気ダクト6の入口部である。吸入空気が吸入空気ダクト6内に流入した後は、吸入空気が吸気枝管7内に流入するまで吸入空気の流路断面の縮小が引き起こされることはなく、吸入空気の流路上において次に吸入空気の流路断面が縮小される吸入空気流路断面縮小部は、サージタンク4の出口、即ち吸気枝管7の入口部である。吸入空気が吸気枝管7内に流入した後は、吸入空気の流路断面の縮小が引き起こされることはない。従って、
図1に示される吸気装置2において、吸入空気の流路断面が縮小される残りの吸入空気流路断面縮小部は、吸入空気ダクト6への入口部と吸気枝管7の入口部のみである。
【0039】
吸入空気ダクト6の入口部と吸気枝管7の入口部とは形状が類似しており、従ってこれら吸入空気ダクト6の入口部および吸気枝管7の入口部では同様な吸入空気の流れとなる。従って、吸入空気ダクト6の入口部と吸気枝管7の入口部では、自己放電式除電器10の好ましい設置箇所は同様となる。従って、次に、サージタンク4の出口、即ち吸気枝管7の拡大側面断面図を示す
図5Bを参照しつつ、サージタンク4の出口における自己放電式除電器10の好ましい設置箇所についてのみ細かく説明する。
【0040】
図5Bを参照すると、吸気枝管7はサージタンク4の平坦な内壁面上において開口しているので、サージタンク4から吸気枝管7内に流入する吸入空気流は、静電気の帯電による吸気枝管7の電圧が低いときであっても、実線の矢印で示されるように、吸気枝管7の入口部において剥離する。この場合には、静電気の帯電による吸気枝管7の電圧が高くなると、破線の矢印で示されるように、吸気枝管7の入口部における吸入空気流の剥離の程度が大きくなる。吸気枝管7の入口部における吸入空気流の剥離の程度が大きくなると、吸入空気の流路断面が大きく縮小されることになり、吸入抵抗が増大する。その結果、吸入効率が低下することになる。
【0041】
そこで、吸入空気の流路断面の縮小を引き起こす帯電電荷を除去するために、吸入空気の流路断面の縮小作用が生じる場所、即ち、サージタンク4側の吸気枝管7の端部の外壁面上に自己放電式除電器10が設置されている。このようにサージタンク4側の吸気枝管7の端部の外壁面上に自己放電式除電器10を設置すると、自己放電式除電器10を中心とした一定範囲内のサージタンク4の内壁面および吸気枝管7の内壁面の電圧が低下し、従ってサージタンク4から吸気枝管7内に流入する吸入空気流の剥離の程度は、実線の矢印で示されるように、小さくなる。その結果、吸入効率が向上せしめられることになる。なお、この例でも、自己放電式除電器10は、
図5Bおよび
図4に示されるように、自己放電式除電器10が吸気枝管7の外周方向に沿って延びるように、吸気枝管7の外壁面上に配置される。
【0042】
一方、吸入空気ダクト6も、
図1および
図3からわかるように、エアクリーナ3の平坦な内壁面上において開口しているので、エアクリーナ3から吸入空気ダクト6内に流入する吸入空気流は、静電気の帯電による吸入空気ダクト6の電圧が低いときであっても、吸入空気ダクト6の入り口部において剥離し、
図5Bに示される吸気枝管7の場合と同様に、静電気の帯電による吸入空気ダクト6の電圧が高くなると、吸入空気ダクト6の入口部における吸入空気流の剥離の程度が大きくなる。吸入空気ダクト6の入口部における吸入空気流の剥離の程度が大きくなると、吸入空気の流路断面が大きく縮小されることになり、吸入抵抗が増大する。その結果、吸入効率が低下することになる。
【0043】
そこで、この吸入空気ダクト6についても、吸入空気の流路断面の縮小を引き起こす帯電電荷を除去するために、吸入空気の流路断面の縮小作用が生じる場所、即ち、エアクリーナ3側の吸入空気ダクト6の端部の外壁面上に自己放電式除電器10が設置されている。このようにエアクリーナ3側の吸入空気ダクト6の端部の外壁面上に自己放電式除電器10を設置すると、自己放電式除電器10を中心とした一定範囲内のエアクリーナ3の内壁面および吸入空気ダクト6の内壁面の電圧が低下し、従ってエアクリーナ3から吸入空気ダクト6内に流入する吸入空気流の剥離の程度は小さくなる。その結果、吸入効率が向上せしめられることになる。なお、この例でも、自己放電式除電器10は、
図3に示されるように、自己放電式除電器10が吸入空気ダクト6の外周方向に沿って延びるように、吸入空気ダクト6の外壁面上に配置される。
【0044】
このように本発明による実施例では、自己放電式除電器10は、吸入空気の流路上において吸入空気の流路断面が縮小される吸入空気流路断面縮小部の吸気通路壁面上、即ち、吸気装置2への空気導入口、エアクリーナ3の出口又はサージタンク4の出口のいずれかに設置される。具体的に言うと、自己放電式除電器10は、吸入空気導入管5の管状部5bの入口部の外壁面上、吸入空気ダクト6の入口部の外壁面上、および吸気枝管7の入口部の外壁面上のいずれかに設置される。
【0045】
この場合、最も高い吸気効率を得るためには、吸入空気の流路上において吸入空気の流路断面が縮小される全ての吸入空気流路断面縮小部の吸気通路壁面上に自己放電式除電器10を設置することが好ましく、この場合には、自己放電式除電器10は、吸気装置2への空気導入口、エアクリーナ3の出口およびサージタンク4の出口の全てに、具体的に言うと、自己放電式除電器10は、吸入空気導入管5の管状部5bの入口部の外壁面上、吸入空気ダクト6の入口部の外壁面上、および吸気枝管7の入口部の外壁面上の全てに設置される。
【0046】
一方、上述したように、自己放電式除電器10は、吸入空気の流路上において吸入空気の流路断面が縮小される吸入空気流路断面縮小部以外には、即ち、吸気装置2への空気導入口、エアクリーナ3の出口およびサージタンク4の出口以外には設置する必要がない。即ち、本発明による実施例では、自己放電式除電器10は、吸気装置2への空気導入口、エアクリーナ3の出口又はサージタンク4の出口のみに設置されている。
【0047】
なお、
図5Aおよび5Bからわかるように、吸気通路壁の帯電電荷量が増大すると、この帯電電荷によって吸入空気の流路断面の縮小が引き起こされ、このとき吸入空気の剥離が生ずる。従って、自己放電式除電器10、帯電電荷量が増大すると吸気通路壁の内壁面上において吸入空気の剥離を生じさせる吸気通路壁面上に設置されていると言うこともできる。