【実施例1】
【0016】
図1(a)は、実施例1に係る弾性表面波共振器の上面図、
図1(b)は、
図1(a)のA−A間の断面図である。実施例1の弾性表面波共振器100は、
図1(a)及び
図1(b)のように、圧電基板10上に、IDT12と、弾性表面波の伝搬方向でIDT12の両側に配置された反射器14と、が設けられている。IDT12は、入出力端子16にそれぞれ接続された1組の櫛型電極18を含む。圧電基板10は、例えばタンタル酸リチウム(LT:LiTaO
3)又はニオブ酸リチウム(LN:LiNbO
3)等の圧電材である。IDT12及び反射器14は、例えばアルミニウム(Al)や銅(Cu)等の単層金属膜又はAlを主体とする合金であってもよいし、AlやCu等の単層金属膜又はAlを主体とする合金の下にチタン(Ti)やクロム(Cr)等の金属が設けられた積層金属膜であってもよい。
【0017】
圧電基板10の下面には、スピネル基板20が接合されている。圧電基板10とスピネル基板20は、例えば直接接合されている。スピネル基板20は、例えばMgAl
2O
4の化学式で表され、スピネル結晶構造を有する。また、スピネル基板20は、例えば多結晶基板であり、結晶粒径は例えば10μm〜70μmである。圧電基板10の側面とスピネル基板20の側面とは、同一面となっている。即ち、圧電基板10の側面とスピネル基板20の側面との境界には段差が形成されていない。
【0018】
スピネル基板20の熱膨張係数は7.5ppm/℃であり、サファイア基板と同様に(サファイアの熱膨張係数:7.7ppm/℃)、圧電基板10の熱膨張係数(例えばLTの熱膨張係数:16.1ppm/℃、LNの熱膨張係数:15.4ppm/℃)よりも小さい。このため、弾性表面波共振器100の周波数温度特性が改善される。
【0019】
次に、実施例1の弾性表面波共振器100の製造方法について説明する。
図2(a)から
図2(d)は、実施例1に係る弾性表面波共振器100の製造方法を示す断面図である。なお、
図2(a)から
図2(d)は、多面取りプロセスによる製造方法を示している。また、
図2(a)から
図2(d)において、IDT12を簡潔に記載し、反射器14の記載を省略している。
【0020】
図2(a)のように、LT又はLN等のウエハ状の圧電基板10上に、複数のIDT12と反射器(不図示)を形成する。複数のIDT12それぞれは、共振器を構成する。IDT12等は、例えば蒸着法及びリフトオフ法を用いて形成することができる。また、IDT12等を、例えばスパッタ法及びエッチング法を用いて形成してもよい。圧電基板10の下面に、例えば多結晶基板からなるウエハ状のスピネル基板20を接合させる。圧電基板10の厚さは、例えば20μm〜100μmであり、スピネル基板20の厚さは、例えば100μm〜300μmである。なお、以下において、ウエハ状の圧電基板10とウエハ状のスピネル基板20とが接合された基板をウエハ22と称すこととする。
【0021】
圧電基板10とスピネル基板20との接合は、例えば表面活性化による直接接合方法を用いることができる。即ち、まず、圧電基板10とスピネル基板20をRCA洗浄法等で洗浄し、表面、特に接合面に付着している化合物や吸着物等の不純物を除去する。なお、RCA洗浄とは、アンモニアと過酸化水素と水とを容積配合比1:1〜2:5〜7で混合した洗浄液や、塩素と過酸化水素と水とを容積配合比1:1〜2:5〜7で混合した洗浄液、等を用いて行われる洗浄方法である。
【0022】
次に、洗浄した基板を乾燥した後、アルゴン(Ar)等の不活性ガス又は酸素のイオンビーム、中性子ビーム、又はプラズマ等を圧電基板10及びスピネル基板20の接合面に照射して、残留した不純物を除去すると共に、表層を活性化させる。活性化処理を行うことで、照射面(接合面)には、表面活性化処理として照射した材料の原子を含む、厚さ数nm程度のアモルファス層が形成される。例えば、圧電基板10側のアモルファス層は、圧電基板10を構成する組成原子(例えばLTやLNに含まれる原子)と照射ビーム原子(例えばAr原子)とを材料として形成される。同様に、スピネル基板20側のアモルファス層は、スピネル基板20を構成する組成原子と照射ビーム原子(例えばAr原子)とを材料として形成される。
【0023】
その後、圧電基板10に形成されたアモルファス層とスピネル基板20に形成されたアモルファス層とを位置合わせをしつつ貼り合わせることで、圧電基板10とスピネル基板20との間にアモルファス層を有するウエハ22が形成される。この貼り合わせ処理は、真空中又は窒素や不活性ガス等の高純度ガス雰囲気で行うが、大気中で行ってもよい。また、圧電基板10とスピネル基板20を挟むように加圧する場合もある。なお、この貼り合わせ処理は、常温又は100℃程度に加熱処理した条件下で行うことができる。このように100℃程度以下に加熱しつつ接合を行うことで、圧電基板10とスピネル基板20との接合強度を向上させることが可能となる。
【0024】
なお、ここでは表面活性化の方法として、不活性ガスのイオンビーム等を用いた場合について説明したが、基板の接合面に真空中で中間膜となる材料を成膜することも、表面活性化の手法として有効である。真空中で形成された膜の表面は、汚染物のない活性な状態になるため、接合強度が向上する。この場合、成膜する材料は基板と同じ材料でもよいし、異なる材料を使用することにより接合強度の向上を図ることもできる。また、成膜の前後に不活性ガスのイオンビーム等による表面活性化法を併用することも、接合力の向上に有効である。
【0025】
図2(b)のように、ウエハ22の下面をダイシングテープ24に貼り付ける。ダイシングテープ24は、ダイシングリング26に固定されている。圧電基板10上に、IDT12等を保護するレジスト膜28を形成する。
【0026】
図2(c)のように、ダイシングブレード30を用いたダイシングによって、レジスト膜28、圧電基板10、及びスピネル基板20を一度で分断する。即ち、レジスト膜28、圧電基板10、及びスピネル基板20は、ダイシングブレード30によって同時に分断される。ダイシングブレード30は、硬度が比較的高いスピネル基板20の分断に適したブレードを用いる。なお、スピネル基板20を完全に分断するために、ダイシングテープ24の一部まで切り込みを入れることが好ましい。
【0027】
図2(d)のように、レジスト膜28を除去液等によって剥離する。ウエハ22は複数のチップ32に個片化されており、チップ32をダイシングテープ24からピックアップすることで、実施例1の弾性表面波共振器が形成される。
【0028】
ここで、実施例1に係る弾性表面波共振器100の効果を説明するにあたり、まず、比較例に係る弾性表面波共振器について説明する。
図3(a)から
図3(d)は、比較例1に係る弾性表面波共振器の製造方法を示す断面図である。なお、
図3(a)から
図3(d)においても、
図2(a)から
図2(d)と同様に、多面取りプロセスによる製造方法を示すと共に、IDTを簡潔に記載し、反射器の記載を省略している。
【0029】
図3(a)のように、LT又はLN等のウエハ状の圧電基板60上に、複数のIDT62と反射器(不図示)とを形成する。その後、圧電基板60の下面に、ウエハ状のサファイア基板70を接合させる。圧電基板60とサファイア基板70との接合は、
図2(a)で説明した表面活性化による直接接合法を用いることができる。なお、以下において、ウエハ状の圧電基板60とウエハ状のサファイア基板70とが接合された基板をウエハ72と称すこととする。
【0030】
図3(b)のように、ウエハ72の下面をダイシングテープ74に貼り付ける。ダイシングテープ74は、ダイシングリング76に固定されている。圧電基板60上に、IDT62等を保護するレジスト膜78を形成する。
【0031】
図3(c)のように、ダイシングブレード80を用いたダイシングによって、レジスト膜78、圧電基板60、及びサファイア基板70を一度で分断する。ダイシングブレード80は、硬度が比較的高いサファイア基板70の分断に適したブレードを用いる。この際に、サファイア基板70の硬度(モース硬度:9)と圧電基板60の硬度(例えばLTのモース硬度:5.5、LNのモース硬度:5)との差が大きいことから、分断面にチッピング82が発生し易い。また、サファイア基板70は単結晶基板であることから、クラック84が発生した場合に奥深くまで進行し易い。
【0032】
図3(d)のように、レジスト膜78を除去液等によって剥離する。ウエハ72は複数のチップ86に個片化されており、チップ86をダイシングテープ74からピックアップすることで、比較例1の弾性表面波共振器が形成される。
【0033】
比較例1のように、圧電基板60とサファイア基板70とをダイシングブレード80によって同時に分断した場合、圧電基板60とサファイア基板70との硬度の差が大きいため、分断面にチッピング82が発生し易くなってしまう。そこで、チッピング82の発生を抑制するために、圧電基板60とサファイア基板70とを別々に分断することが考えられる。
【0034】
図4(a)から
図4(d)は、比較例2に係る弾性表面波共振器の製造方法を示す断面図である。なお、
図4(a)から
図4(d)においても、
図2(a)から
図2(d)と同様に、多面取りプロセスによる製造方法を示すと共に、IDTを簡潔に記載し、反射器の記載を省略している。
【0035】
図4(a)は、比較例1の
図3(b)に示す図と同じである。
図4(a)に示す状態までは、比較例1の
図3(a)及び
図3(b)で説明した工程が行われる。
【0036】
図4(b)のように、圧電基板60の分断に適したダイシングブレード90を用いたダイシングによって、レジスト膜78と圧電基板60とを同時に分断する。この際、後述するサファイア基板70の分断におけるダイシングブレードの位置マージンを確保するために、厚いダイシングブレード90を用いる。例えば、0.2mmtのダイシングブレード90を用いる。
【0037】
図4(c)のように、サファイア基板70の分断に適したダイシングブレード92を用いたダイシングによって、サファイア基板70を分断する。この際に、ダイシングブレード92によって圧電基板60が分断されることを抑制するために、ダイシングブレード92の厚さを、圧電基板60の分断に用いたダイシングブレード90よりも薄くする。例えば、0.15mmtのダイシングブレード92を用いる。
【0038】
図4(d)のように、レジスト膜78を除去液等によって剥離する。ウエハ72は複数のチップ94に個片化されており、チップ94をダイシングテープ74からピックアップすることで、比較例2の弾性表面波共振器が形成される。
【0039】
比較例2のように、圧電基板60とサファイア基板70とをそれぞれに適したダイシングブレード90、92を用いて別々に分断することで、分断面にチッピングが発生することが抑制される。しかしながら、圧電基板60とサファイア基板70とを別々に分断するため、工程数が増大してしまい、また、それぞれの分断に適したブレードを用意する必要がある。また、サファイア基板70は単結晶基板であるため、クラック(
図4(c)、
図4(d)では不図示)が発生した場合の進行具合は変わらない。
【0040】
さらに、比較例2のように、圧電基板60とサファイア基板70とを別々に分断する場合、サファイア基板70のダイシングにおけるダイシングブレード92の位置マージンを確保するために、圧電基板60のダイシングでは厚いダイシングブレード90を用いる。このような位置マージンの確保のために、不要な領域(
図4(d)における圧電基板60とサファイア基板70の境界の段差領域96)が形成されてしまい、デバイスが大型化して、1つのウエハから取れるデバイスの数が減ってしまう。
【0041】
一方、実施例1では、圧電基板10と、圧電基板10の下面に接合したスピネル基板20と、を同時に分断している。スピネル基板20はサファイア基板と比べて硬度が低いため(スピネル基板のモース硬度:8)、圧電基板10とスピネル基板20との硬度が近づき、圧電基板10とスピネル基板20を同時に分断した場合でもチッピングの発生を抑制できる。
【0042】
また、圧電基板10とスピネル基板20を同時に分断しているため、工程数の増大やデバイスの大型化を抑制できる。例えば、比較例1のように、圧電基板60とサファイア基板70をダイシングブレード80で同時に分断するとチッピング82が発生してしまう。チッピングの発生を抑制するために、比較例2のように、圧電基板60とサファイア基板70を別々に分断すると、工程数の増大やデバイスの大型化が生じてしまう。これに対し、実施例1では、圧電基板10とスピネル基板20をダイシングブレード30で同時に分断しても、チッピングの発生を抑制できるため、工程数の増大やデバイスの大型化も抑制できる。このように実施例1で分断した圧電基板とスピネル基板の4方向の分断面(チップの4側面)は、圧電基板とスピネル基板の間に段差のない単一な面となる。この側面を500〜5000倍程度に拡大して観察すると例えばダイシングによって平坦になった粒子や脆性破壊した粒子などが確認される。
【0043】
スピネル基板20は、単結晶基板の場合でもよいが、多結晶基板である場合が好ましい。スピネル基板20を多結晶基板(例えば結晶粒径が10μm〜70μm)とすることで、圧電基板10とスピネル基板20との同時分断においてスピネル基板20にクラックが発生した場合でも、クラックの進行を結晶粒界で止めることができ、クラックが奥深くまで進行することを抑制できる。クラックの進行を抑制する点から、スピネル基板20の結晶粒径は小さい方が好ましく、例えば10μm〜50μmが好ましく、10μm〜30μmがより好ましい。
【0044】
LT基板又はLN基板は硬度が比較的低いことから、LT基板又はLN基板にサファイア基板を接合させて同時に分断した場合、チッピングが発生し易い。したがって、圧電基板10がLT基板又はLN基板の場合に、チッピングの発生を抑制するため、圧電基板10に接合させる基板をスピネル基板20とすることが好ましい。なお、圧電基板10は、LT基板又はLN基板である場合に限らず、水晶等の圧電材からなる場合でもよい。
【0045】
なお、実施例1では、ダイシングブレード30を用いたダイシングによって圧電基板10とスピネル基板20を同時に分断する場合を例に示したが、レーザダイシングによって圧電基板10とスピネル基板20を同時に分断する場合でもよい。
【実施例2】
【0046】
図5(a)は、実施例2に係る弾性表面波共振器の上面図、
図5(b)は、
図5(a)のA−A間の断面図である。実施例2の弾性表面波共振器200は、
図5(a)及び
図5(b)のように、スピネル基板20の側面にレーザ光の照射による改質領域34が形成されている。その他の構成は、実施例1の
図1(a)及び
図1(b)と同じであるため、説明を省略する。
【0047】
次に、実施例2に係る弾性表面波共振器200の製造方法について説明する。
図6(a)から
図7(b)は、実施例2に係る弾性表面波共振器の製造方法を示す断面図である。なお、
図6(a)から
図7(b)においても、
図2(a)から
図2(d)と同様に、多面取りプロセスによる製造方法を示すと共に、IDTを簡潔に記載し、反射器の記載を省略している。
【0048】
図6(a)のように、LT又はLN等のウエハ状の圧電基板10上に、複数のIDT12と反射器(不図示)とを形成する。IDT12等の形成は、
図2(a)で説明した方法を用いることができる。その後、圧電基板10の下面に、スピネル基板20を接合させる。圧電基板10とスピネル基板20との接合は、
図2(a)で説明した表面活性化による直接接合法を用いることができる。
【0049】
図6(b)のように、ウエハ22の下面をダイシングテープ24に貼り付ける。ダイシングテープ24は、ダイシングリング26に固定されている。
【0050】
図6(c)のように、レーザ照射装置36を用い、圧電基板10を介してスピネル基板20内にレーザ光38を照射する。レーザ光38の熱により、スピネル基板20内にスピネル基板20の材料が改質した改質領域34が形成される。改質領域34は、スピネル基板20の厚さ方向に1又は複数形成される。レーザ光38の出力パワーによって改質領域34の大きさが変わり、焦点位置によって高さ方向における改質領域34の形成位置が変わり、移動速度及び/又は照射周波数によって隣接する改質領域34の間隔が変わる。なお、改質領域34は、圧電基板10内に形成されてもよい。改質領域34は、ウエハ22を分断する分断領域(スクライブライン)に形成される。レーザ光38は、例えばグリーンレーザ光であり、例えばNd:YAGレーザの第2高調波である。波長が500nm程度のレーザ光38を用いることにより、スピネル基板20内に効率よく改質領域34を形成することができる。
【0051】
図7(a)のように、ウエハ22の上下を反転させる。支持ステージ42上に、保護シート44を介して、ウエハ22を配置する。ウエハ22の圧電基板10側の面が保護シート44で保護される。改質領域34下の支持ステージ42には溝46が設けられている。ダイシングテープ24の上から、ブレード40をウエハ22に押し当て、改質領域34と重なる領域においてウエハ22をブレイクする。
【0052】
図7(b)のように、ウエハ22を支持ステージ42から離脱させる。ウエハ22の上下を反転させる。ウエハ22は複数のチップ48に個片化されており、チップ48をダイシングテープ24からピックアップすることで、実施例2の弾性表面波共振器が形成される。このように実施例2で分断した圧電基板とスピネル基板の4方向の分断面(4側面)は、圧電基板とスピネル基板の間に段差のない単一な面となる。この側面を500〜5000倍程度に拡大して観察すると、たとえばレーザ光照射による点状の痕せきや、焼結体磁器が脆性破壊したときの細かい凹凸が確認される。
【0053】
実施例2のように、圧電基板10とスピネル基板20との同時分断は、スピネル基板20にレーザ光38を照射して改質領域34を形成した後、改質領域34に沿って圧電基板10とスピネル基板20とを同時に分断するようにしてもよい。この場合でも、チッピングの発生を抑制できる。
【0054】
また、例えば圧電基板とサファイア基板が接合されたウエハにブレードを押し当ててブレイクする場合、圧電基板とサファイア基板の両方を分断できる条件でウエハをブレイクすると、チッピングが発生し易い。これに対し、圧電基板10の下面に接合させる基板をスピネル基板20とすることで、スピネル基板20にブレード40を押し当てて、圧電基板10とスピネル基板20を同時にブレイクする場合でも、チッピングの発生を抑制できる。