【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、人間の体表面と体内との双方の動きを同時に模擬可能なファントムであって、
人間の胴体を模擬し、1つの部屋(セル)から成る構造の胴体部セル(12)と、人間の内臓器を模擬した臓器セル(11a、11b)を収納し前記胴体部セル(12)内に配置した1つ以上の内臓部セル(2)と、を備え、
前記内臓部(2)セルおよび前記臓器セル(11a、11b)は、流体を通すための管状部材(40)を装着するための装着部(170)を備え、
前記胴体部セル(12)、前記内臓部セル(2)および前記臓器セル(11a、11b)は、表面に弾力性が有って膨張および収縮可能な材質で構成され、
前記流体が前記セル内に流入することによって前記膨張が起こる一方、前記流体が前記セル内から流出することによって前記収縮が起こり、
前記内臓部セルおよび前記臓器セルの前記膨張および前記収縮の膨縮動作に同期し、かつ、この膨縮動作が伝播していくようにして、前記胴体部セルの表面が動く構成であることを特徴とするようにした。
【0014】
ここで「胴体」とは、人の中心部のうち頭、首、四肢を除く部分で胸部、腹部を含む。また、「流体」とは、少なくとも、気体、液体およびその混合体を含むことは言うまでも無い。気体の代表例は空気、液体の代表例は水であるが、これらの代表例に限られない。更に、膨縮(expansion and contraction)とは膨張と収縮の動きを指す。また、管状部材の一例としてチューブが挙げられる。
【0015】
本発明のマルチセル構造型ファントムは、人間の胴体を模擬したセル構造の胴体部セル、および、人間の内臓器を摸擬して胴体部内に配置した内臓部セルは共に、表面に弾力性が有り膨張および収縮が可能な1つの部屋(セル)から成るセル構造(「Elastic Ballon」とも称する)を有する。さらに、各セル構造は、流体例えば気体(空気)を通す管状部材を装着するための装着部を備えて、気体がセル内に流入することによって膨張が起こる反面、気体がセル内から流出することによって収縮が起こる。そして、このマルチセル構造型ファントムは、内臓部セル、および、この内臓部セル内に配置される臓器セルの膨縮動作に同期し、かつ、この膨縮動作が伝播していくようにして、胴体部セルの表面が動く動作が行われる。したがって、例えば管状部材を介し圧縮空気の送り込み制御を行うことにより、各セルは、膨らみ動作と萎み動作とを繰り返して、人間の体表面(胴体部セル表面)と体内(臓器セル、内臓部セルの膨縮)の双方の動きを同時に摸擬することが可能となる。
【0016】
また、前記表面に弾力性が有って膨張および収縮可能な材質を、電磁波を通す材料とすれば、例えばX線CT画像取得等において、人間(患者)の動きを忠実に再現することが可能であり、X線治療等に利用することが可能である。ここで電磁波は電波やX線(放射線)を含む広義の波動を指す。
【0017】
また、複数の前記臓器セルの間に挟み込むようにして配置された、ターゲットセルと複数の内部セルを更に備え、
前記内部セルは、前記ターゲットセルを包み込むようにその周囲に配置され、 前記ターゲットセルは、悪性腫瘍を摸擬し、その内部に放射線を検出する検出器を内蔵し、
前記内部セルは、放射線を透過する材質で構成され、流体を通すための管状部材を装着するための装着部を備え、
前記流体が前記内部セル内に流入することによって膨張が起こる一方、前記流体が前記内部セル内から流出することによって収縮が起こり、
この膨縮動作によって、前記ターゲットセルを任意の方向に移動することが可能とする構成とすることもできる。
【0018】
この構成によれば、悪性腫瘍を摸擬したターゲットセル(4)を包むようにその周囲に配置した内部セルの膨縮動作によって、ターゲットセルを3次元の任意の方向に移動することが可能となり、しかも、ターゲットセル(4)に内蔵された検出器は放射能を検出する。よって、ターゲットセル(4)を動かすことによって、悪性腫瘍の動きが精密に再現されるため、検出器でX線を検出して例えばX線での悪性腫瘍に対する治療計画を立案することが可能になる。
【0019】
そして、ターゲットセル(4)の近傍にひとつ以上のマーカ(70)を配置した構成とすれば、このマーカ(70)が例えばX線治療における体動追跡に利用することが可能である。そして、このターゲットセル(4)の内部にX線に反応可能な記録媒体(例えばフィルム)を装着しておけば、X線照射による線量計算等を行うことが可能になる。また、前記装着部を、管状部材としてのチューブ(40)を嵌め込むための中空の突起部(170)とした構成としたり、セルと管状部材であるチューブ(40)が一体成形されている構成としたりすれば、当該チューブ(40)の装着が容易であるという利点を有する。
【0020】
また、前記内臓部セル(2)、前記臓器セル(11a、11b)および前記内部セルの充填物の電子密度が、前記臓器セル(11a、11b)に対応する人体の臓器の電子密度に等価である構成とすれば、対象物を人間としたX線CT撮像と等価の画像を得ることが可能となる。また、前記流体を通す管状部材を、送出用と排出用の2系統で構成すれば流体を双方向に通すことが可能になるので、例えば人間の呼気と吸気に対応した動きをリアルに模擬することが可能となる。
【0021】
このようにして、内臓部セルを少なくとも、胸部セルと腹部セルで構成することができ、人間の内臓内の動きを一層リアルに再現することが可能となる。内臓部のセルを、例えば肺、心臓を模擬したものとすれば、それぞれの臓器での種々のシミュレーションが可能になり、例えば心臓病、肺癌の治療を効率良く行うことが可能になる。臓器を模擬する場合、一度に複数種類のものを模擬しても良いし、一度に一つの臓器しか模擬しないのでも良い。
【0022】
また、本発明の他の態様は、上記のいずれかのマルチセル構造型ファントムの制御方法であって、
圧縮流体を送出するコンプレッサ(20)と各セルの装着部(170)とを、流体を双方向に通す管状部材(40xx)群で接続し、
この管状部材群(40xx)のそれぞれの途中に、開閉制御可能な複数の弁(50zz)を設置し、
前記コンプレッサ(20)から送出される前記圧縮流体の送り出し制御を前記各弁(50)の開閉制御によって行うことを特徴とするマルチセル構造型ファントムの制御方法である
【0023】
より具体的に記載すると、本発明の他の態様は、人間の胴体を模擬し、1つの部屋(セル)から成る構造の胴体部セル(12)と、人間の内臓器を模擬した臓器セル(11a、11b)を収納し前記胴体部セル(12)内に配置した1つ以上の内臓部セル(2)と、を備え、
前記内臓部(2)セルおよび前記臓器セル(11a、11b)は、流体を通すための管状部材(40)を装着するための装着部(170)を備え、
前記胴体部セル(12)、前記内臓部セル(2)および前記臓器セル(11a、11b)は、表面に弾力性が有って膨張および収縮可能で、かつ、放射能を通す材質で構成され、前記流体が前記セル内に流入することによって前記膨張が起こる一方、前記流体が前記セル内から流出することによって前記収縮が起こり、
前記内臓部セルおよび前記臓器セルの前記膨張および前記収縮の膨縮動作に同期し、かつ、この膨縮動作が伝播していくようにして、前記胴体部セルの表面が動く構成であるマルチセル構造型ファントムの制御方法であって、
圧縮空気を送出するコンプレッサ(20)と各セルの装着部(170)とを、空気を双方向に通す管状部材(40xx)群で接続し、
この管状部材群(40xx)のそれぞれの途中に、開閉制御可能な複数の弁(50zz、60zz)を設置し、
前記コンプレッサ(20)から送出される前記圧縮流体の送り出し制御を前記各弁(50)の開閉制御によって行うことを特徴とするマルチセル構造型ファントムの制御方法である
【0024】
この方法発明によれば、コンプレッサから送られる圧縮流体の送り込み制御を弁の開閉によって行うので、各セルは、膨らみ動作と萎み動作とを繰り返し行い、人間の体表面と体内の双方の動きを同時に摸擬することが可能となる。
【0025】
また、本発明の更に他の態様は、上記のいずれかのマルチセル構造型ファントムを制御するシステムであって、
圧縮流体を送出するコンプレッサ(20)と、
このコンプレッサと各セルとを接続する管状部材群(40xx)と、
この管状部材群のそれぞれの途中に設けられ、開閉制御可能な複数の弁(50zz、60zz)と、
自システムの動作制御を行うコントローラ(10)と、を備え、
前記コントローラ(10)は、
前記各弁を開閉制御する開閉制御手段を備えることを特徴とする。
【0026】
より具体的に記載すると、人間の胴体を模擬し、1つの部屋(セル)から成る構造の胴体部セル(12)と、人間の内臓器を模擬した臓器セル(11a、11b)を収納し前記胴体部セル(12)内に配置した1つ以上の内臓部セル(2)と、を備え、
前記内臓部(2)セルおよび前記臓器セル(11a、11b)は、流体を通すための管状部材(40)を装着するための装着部(170)を備え、
前記胴体部セル(12)、前記内臓部セル(2)および前記臓器セル(11a、11b)は、表面に弾力性が有って膨張および収縮可能で、かつ、放射能を通す材質で構成され、
前記流体が前記セル内に流入することによって前記膨張が起こる一方、前記流体が前記セル内から流出することによって前記収縮が起こり、前記内臓部セルおよび前記臓器セルの前記膨張および前記収縮の膨縮動作に同期し、かつ、この膨縮動作が伝播していくようにして、前記胴体部セルの表面が動く構成であるマルチセル構造型ファントムを制御するシステムであって、
圧縮流体を送出するコンプレッサ(20)と、
このコンプレッサと各セルとを接続する管状部材群(40xx)と、
この管状部材群のそれぞれの途中に設けられ、開閉制御可能な複数の弁(50zz)と、
自システムの動作制御を行うコントローラ(10)と、を備え、
前記コントローラ(10)は、
前記各弁を開閉制御する開閉制御手段を備えることを特徴とする。
【0027】
この発明によれば、コントローラが備える制御手段が、各弁を開閉制御するので、管状部材を介し圧縮空気の送り込み制御を行うことができる。その結果、各セルは、膨ら動作と萎む動作とを繰り返して、人間の体表面と体内の動きとの双方を同時に摸擬することが可能となる。なお、管状部材としてチューブを用いることができ、また、チューブ継ぎ手部品等を介在させることが可能である。
【0028】
また、コンプレッサ(20)と各弁(50、60)との間に圧力を調整するレギュレータ30を備えた構成にすれば圧力が精度良く所望の値に保たれ、ファントムの動きが所望のものとなる。更に、このレギュレータ(31、32)を複数種類備え、この複数のレギュレータ(31、32)には調整圧力の異なるものが含まれる構成とすれば、調整圧力が異なるセルに対して異なる圧力の圧縮空気を送ることができるので、セルの動きを一層細かに制御することが可能となる。
【0029】
本発明によれば、上記のマルチセル構造型ファントムの制御システムを動作させるためのプログラムであって、前記コントローラに、前記各弁を開閉制御する開閉制御機能を実現させるためのプログラムも提供される。このためには例えばコントローラをCPU等で構成し、CPUがROM等の記録媒体に記録したプログラムを実行する構成とすることができる。CPUは記録媒体に記録されたプログラムを実行することによって、コントローラの機能を実現できる。
【0030】
なお、この「課題を解決するための手段」において、発明の構成要素に対して符号を付したのは実施形態との整合性を明確にするためであり、権利範囲の広さを限定的にしたものでは無い。また、本発明の要旨を逸脱しないものである限り、本発明の権利範囲に含まれることは言うまでもない。