特開2016-101182(P2016-101182A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2016-101182マルチセル構造型ファントム、その制御方法およびその制御システムならびにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-101182(P2016-101182A)
(43)【公開日】2016年6月2日
(54)【発明の名称】マルチセル構造型ファントム、その制御方法およびその制御システムならびにプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/03 20060101AFI20160502BHJP
   A61B 6/00 20060101ALI20160502BHJP
【FI】
   A61B6/03 F
   A61B6/00 390A
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-239408(P2014-239408)
(22)【出願日】2014年11月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度〜平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超低侵襲治療機器システムの研究開発:高精度X線治療機器の研究開発/がんの超早期局在診断に対応した高精度X線治療システム」委託契約、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】506118216
【氏名又は名称】株式会社アキュセラ
(74)【代理人】
【識別番号】100105810
【弁理士】
【氏名又は名称】根本 宏
(72)【発明者】
【氏名】田辺 英二
(72)【発明者】
【氏名】菅原 浩一郎
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA01
4C093AA22
4C093CA36
4C093GA01
(57)【要約】
【課題】体表面と体内のとの双方の動きを同時に摸擬することが可能なファントムを提供すること。
【解決手段】胴体を模擬した胴体部セル12と、肺等の内臓器を摸擬した臓器セル11a、11bを収納し、胴体部セル12内に配置した内臓部セル2を備え、胴体部セル12、内臓部セル2および臓器セル11a、11bは、表面に弾力性が有り風船状に膨らむことが可能なセルから成る構造であり、各セルは、流体を通すためのチューブ40を装着するための突起部170を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人間の体表面と体内との双方の動きを同時に模擬可能なファントムであって、
人間の胴体を模擬し、1つの部屋(セル)から成る構造の胴体部セルと、人間の内臓器を模擬した臓器セルを一以上収納し前記胴体部セル内に配置した1つ以上の内臓部セルと、を備え、
前記内臓部セルおよび前記臓器セルは、流体を通す管状部材を装着するための装着部を備え、
前記胴体部セル、前記内臓部セルおよび前記臓器セルは、表面に弾力性が有って膨張および収縮可能な材質で構成され、
前記流体が前記セル内に流入することによって前記膨張が起こる一方、前記流体が前記セル内から流出することによって前記収縮が起こり、
前記内臓部セルおよび前記臓器セルの前記膨張および前記収縮の膨縮動作に同期し、かつ、この膨縮動作が伝播していくようにして、前記胴体部セルの表面が動く構成であることを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
前記表面に弾力性が有って膨張および収縮可能な材質は、
電磁波を通す材料であることを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項3】
請求項1および2の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
複数の前記臓器セルの間に挟み込むようにして配置された、ターゲットセルと複数の内部セルを更に備え、
前記内部セルは、前記ターゲットセルを包み込むようにその周囲に配置され、 前記ターゲットセルは、悪性腫瘍を摸擬し、その内部に放射線を検出する検出器を内蔵し、
前記内部セルは、放射線を透過する材質で構成され、流体を通すための管状部材を装着するための装着部を備え、
前記流体が前記内部セル内に流入することによって膨張が起こる一方、前記流体が前記内部セル内から流出することによって収縮が起こり、
この膨縮動作によって、前記ターゲットセルを任意の方向に移動することが可能に構成されたことを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項4】
請求項3に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
前記ターゲットセルの近傍に一つ以上のマーカを配置することを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項5】
請求項4に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
前記ターゲットセルの内部にX線を検出する記録媒体を装着したことを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項6】
請求項1、2、3、4および5の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
前記装着部は、
前記管状部材であるチューブを嵌め込むための中空の突起部であることを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項7】
請求項1、2、3、4および5の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
前記装着部は、
前記セルと前記管状部材であるチューブが一体成形されていることを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6および7の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
前記内臓部セル、前記臓器セルおよび前記内部セルの充填物の電子密度が、前記臓器セルに対応する人体の臓器の電子密度に等価であることを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5、6、7および8の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
前記内臓部セルは、少なくとも、胸部セルと腹部セルで構成されていることを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8および9の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
前記臓器セルは、少なくとも、肺および心臓の内の一つを模擬したものであることを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9および10の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造型ファントムにおいて、
前記各セルへ流体を通す管状部材が、送出用と排出用の2系統で構成されたことを特徴とするマルチセル構造型ファントム。
【請求項12】
請求項1、2、3、4,5、6、7、8、9、10および11の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造ファントム型の制御方法であって、
圧縮流体を送出するコンプレッサと各セルの装着部とを、流体を双方向に通す管状部材群で接続し、
この管状部材群のそれぞれの途中に、開閉制御可能な複数の弁を設置し、
前記コンプレッサから送出される前記圧縮流体の送り出し制御を前記各弁の開閉制御によって行うことを特徴とするマルチセル構造型ファントムの制御方法。
【請求項13】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9、10および11の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造型ファントムを制御するシステムであって、
圧縮流体を送出するコンプレッサと、
このコンプレッサと各セルとを接続する管状部材群と、
この管状部材群のそれぞれの途中に設けられ、開閉制御可能な複数の弁と、
自システムの動作制御を行うコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記各弁を開閉制御する開閉制御手段を備えることを特徴とするマルチセル構造型ファントムの制御システム。
【請求項14】
請求項13に記載のマルチセル構造型ファントムの制御システムにおいて、
前記コンプレッサと前記各弁との間に圧力を調整するレギュレータを備えたことを特徴とするマルチセル構造型ファントムの制御システム。
【請求項15】
請求項14に記載のマルチセル構造型ファントムの制御システムにおいて、
前記レギュレータを複数種類備え、この複数種類のレギュレータには調整圧力の異なるものが含まれることを特徴とするマルチセル構造型ファントムの制御システム。
【請求項16】
請求項13、14および15の内のいずれか一項に記載のマルチセル構造型ファントムの制御システムを動作させるためのプログラムであって、
前記コントローラに、
前記各弁を開閉制御する開閉制御機能を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線治療前にX線が照射された領域がどのようになるか等を調べるために使用するためのファントム(phantom)の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線(X線)治療において、X線を照射対象である患者に照射する際に、最初に、X線放射部からX線を発生させ放射させる。次に、この放射されたX線をコリメータと称される絞り機能を有するデバイスによって、患者の患部の形状に合わせて絞り込む処理を行う。この際、異常な細胞(例えば癌細胞)に対しては、X線を正確に照射する一方、正常な細胞に対しては、可能な限りX線を照射させないようにする必要がある。
【0003】
これに対しては、本願の発明者が先に提案したコリメータ(特願2012−104302)を使用することによって、コリメータ前面の開口部(aperture)を細長くなるように制御し、X線の照射域を細長くすること等によって対応することが可能である。しかし、人間の体内に発生する癌の形状は様々なものがあり、また、X線照射対象である人間は生命体であるため、横臥状態等の安静時であっても微弱な体動(体が動くこと)が行われる。この体動は、例えば呼吸、心拍等の内臓の動きに基づくもの等があり、様々なパターンで4次元(4D)的な移動が行われる。ここで4Dとは、3次元座標領域での移動に、時間軸における移動を加えた4次元移動を意味する。
【0004】
具体例を挙げると、肺の初期段階の癌に対する放射線治療を行う際には、呼吸に応じて肺が動くことによって肺癌も移動する。そして、癌部の動きを捉えて、癌そのものにX線を正確に照射するために、癌の近傍にマーカを設置し、マーカの動きをX線透視画像により捉えてX線を照射する。照射方法には、基本的に「待ち伏せ方式」、「動体追尾方式」の2方式がある。「待ち伏せ方式」は、癌腫瘍の近傍に設置したマーカが特定の位置に到来した時に、X線を癌腫瘍に照射する方式である。また「動体追尾方式」は癌腫瘍の近傍に設置したマーカを一組みのX線透視画像で常時監視する、つまり、マーカの3次元位置をリアルタイム(短いインターバル毎)に検出(例えば10(msec)毎に位置を検出)し、次いで、治療装置にマーカ位置を通知することで、位置検出時に、治療装置は正確にX線を癌に照射するという方式である。
【0005】
さて、先に述べたように、いかに精度の良いコリメータを使用する場合であっても、X線治療を行う際には、最初に患者の4Dでの動きを調べ、この動きに追随してX線が適切な照射ポイントに照射されているか等をチェックする必要がある。つまり、X線照射が、患者の動きを考慮して、適切な領域に照射されているか等のチェックを行う必要がある。このチェックは、X線を照射しながら行うため、人間を対象として行うことはできない。
【0006】
そこで、人間を模擬したファントム(phantom)というものが使用される。このファントムとして様々なものが提案されている。例えば、複数の円筒体を用意し、この用意した複数の円筒体を組み合わせて「円筒体ファントム」を構成することが提案されている(例えば特許文献1参照。)。この複数の円筒体の内部は、それぞれ異なる寸法や形状を有している。そして、このファントムを構成する或る円筒体に設けられた貫通穴に線量測定器を挿入し、人体の胴部へのX線の被爆線量を推定することなどが可能となる。
【0007】
しかしながら、この円筒体ファントムは何ら動きを表現するものにはなっていないため、前述した体動は考慮されていない。そこで、調整可能ファントム等が提案されている(例えば特許文献2参照。)。この調整用ファントムにおいては、アクチュエータの動きが、機械的結合を介して、当該調整用ファントムのベース縦長方向の移動となる。つまり、アクチュエータが動くことによって、ベース上の調整用ファントムを移動させている。また、この調整用ファントムは、物理的特性が第1の値を持つ第1断面部分と、物理的特性が第2の値を持つ第2断面部分とを有していて、第2断面部分に対する第1断面部分の比が、調整用ファントムの移動方向に沿って変化する。
【0008】
更に、弾性体ケースの中に、肺、心臓等を表す小袋(pouch)を詰め込み人間の臓器を模擬したファントムも提案されている(例えば特許文献3参照。)。コンピュータによる弁の開閉制御によって、圧縮空気がサイクリックに肺、心臓等の各臓器を摸擬した部分に送り込むようにして、臓器による体動を表現したファントムが実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−185328号公報(第5−6頁、第2図)
【特許文献2】特表2009−522055号公報(第6−7頁、第2図)
【特許文献3】米国特許第8535061号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献2に記載されている調整ファントムにおいては、その動きの方向が一方向である。また、調整用ファントムの内部の動き等は表現されていないので、人間の体動を表現できていないという問題があった。更に、調整ファントムを、物理的特性が第1の値を持つ第1断面部分と、物理的特性が第2の値を持つ第2断面部分とで構成しているが、人体内部はこのような単純な物理的特性では表現できないという問題があった。
【0011】
また、特許文献3に記載されているファントムは、一見、臓器による体動を表現しているように見える。しかしながら、このファントムは、肺、心臓等の各臓器の内部は、何ら人間の臓器内部を表現していない。また、従来のファントムにおいては、人体の電子密度(CT画像の濃淡画像)を再現することは困難であった。このため、従来の動体ファントムを用いた治療計画に対する治療の事前検証において、癌に対する吸収線量の再現性は不十分であった。米国アキュレイ社のサイバーサイフを使用しても、体内の患部の動きを再現してX線治療を行うのがせいぜいであった。
【0012】
本発明は、かかる従来の課題を解決するためになされたもので、人間の体表面と体内の双方の動きを同時に摸擬することが可能なファントムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、人間の体表面と体内との双方の動きを同時に模擬可能なファントムであって、
人間の胴体を模擬し、1つの部屋(セル)から成る構造の胴体部セル(12)と、人間の内臓器を模擬した臓器セル(11a、11b)を収納し前記胴体部セル(12)内に配置した1つ以上の内臓部セル(2)と、を備え、
前記内臓部(2)セルおよび前記臓器セル(11a、11b)は、流体を通すための管状部材(40)を装着するための装着部(170)を備え、
前記胴体部セル(12)、前記内臓部セル(2)および前記臓器セル(11a、11b)は、表面に弾力性が有って膨張および収縮可能な材質で構成され、
前記流体が前記セル内に流入することによって前記膨張が起こる一方、前記流体が前記セル内から流出することによって前記収縮が起こり、
前記内臓部セルおよび前記臓器セルの前記膨張および前記収縮の膨縮動作に同期し、かつ、この膨縮動作が伝播していくようにして、前記胴体部セルの表面が動く構成であることを特徴とするようにした。
【0014】
ここで「胴体」とは、人の中心部のうち頭、首、四肢を除く部分で胸部、腹部を含む。また、「流体」とは、少なくとも、気体、液体およびその混合体を含むことは言うまでも無い。気体の代表例は空気、液体の代表例は水であるが、これらの代表例に限られない。更に、膨縮(expansion and contraction)とは膨張と収縮の動きを指す。また、管状部材の一例としてチューブが挙げられる。
【0015】
本発明のマルチセル構造型ファントムは、人間の胴体を模擬したセル構造の胴体部セル、および、人間の内臓器を摸擬して胴体部内に配置した内臓部セルは共に、表面に弾力性が有り膨張および収縮が可能な1つの部屋(セル)から成るセル構造(「Elastic Ballon」とも称する)を有する。さらに、各セル構造は、流体例えば気体(空気)を通す管状部材を装着するための装着部を備えて、気体がセル内に流入することによって膨張が起こる反面、気体がセル内から流出することによって収縮が起こる。そして、このマルチセル構造型ファントムは、内臓部セル、および、この内臓部セル内に配置される臓器セルの膨縮動作に同期し、かつ、この膨縮動作が伝播していくようにして、胴体部セルの表面が動く動作が行われる。したがって、例えば管状部材を介し圧縮空気の送り込み制御を行うことにより、各セルは、膨らみ動作と萎み動作とを繰り返して、人間の体表面(胴体部セル表面)と体内(臓器セル、内臓部セルの膨縮)の双方の動きを同時に摸擬することが可能となる。
【0016】
また、前記表面に弾力性が有って膨張および収縮可能な材質を、電磁波を通す材料とすれば、例えばX線CT画像取得等において、人間(患者)の動きを忠実に再現することが可能であり、X線治療等に利用することが可能である。ここで電磁波は電波やX線(放射線)を含む広義の波動を指す。
【0017】
また、複数の前記臓器セルの間に挟み込むようにして配置された、ターゲットセルと複数の内部セルを更に備え、
前記内部セルは、前記ターゲットセルを包み込むようにその周囲に配置され、 前記ターゲットセルは、悪性腫瘍を摸擬し、その内部に放射線を検出する検出器を内蔵し、
前記内部セルは、放射線を透過する材質で構成され、流体を通すための管状部材を装着するための装着部を備え、
前記流体が前記内部セル内に流入することによって膨張が起こる一方、前記流体が前記内部セル内から流出することによって収縮が起こり、
この膨縮動作によって、前記ターゲットセルを任意の方向に移動することが可能とする構成とすることもできる。
【0018】
この構成によれば、悪性腫瘍を摸擬したターゲットセル(4)を包むようにその周囲に配置した内部セルの膨縮動作によって、ターゲットセルを3次元の任意の方向に移動することが可能となり、しかも、ターゲットセル(4)に内蔵された検出器は放射能を検出する。よって、ターゲットセル(4)を動かすことによって、悪性腫瘍の動きが精密に再現されるため、検出器でX線を検出して例えばX線での悪性腫瘍に対する治療計画を立案することが可能になる。
【0019】
そして、ターゲットセル(4)の近傍にひとつ以上のマーカ(70)を配置した構成とすれば、このマーカ(70)が例えばX線治療における体動追跡に利用することが可能である。そして、このターゲットセル(4)の内部にX線に反応可能な記録媒体(例えばフィルム)を装着しておけば、X線照射による線量計算等を行うことが可能になる。また、前記装着部を、管状部材としてのチューブ(40)を嵌め込むための中空の突起部(170)とした構成としたり、セルと管状部材であるチューブ(40)が一体成形されている構成としたりすれば、当該チューブ(40)の装着が容易であるという利点を有する。
【0020】
また、前記内臓部セル(2)、前記臓器セル(11a、11b)および前記内部セルの充填物の電子密度が、前記臓器セル(11a、11b)に対応する人体の臓器の電子密度に等価である構成とすれば、対象物を人間としたX線CT撮像と等価の画像を得ることが可能となる。また、前記流体を通す管状部材を、送出用と排出用の2系統で構成すれば流体を双方向に通すことが可能になるので、例えば人間の呼気と吸気に対応した動きをリアルに模擬することが可能となる。
【0021】
このようにして、内臓部セルを少なくとも、胸部セルと腹部セルで構成することができ、人間の内臓内の動きを一層リアルに再現することが可能となる。内臓部のセルを、例えば肺、心臓を模擬したものとすれば、それぞれの臓器での種々のシミュレーションが可能になり、例えば心臓病、肺癌の治療を効率良く行うことが可能になる。臓器を模擬する場合、一度に複数種類のものを模擬しても良いし、一度に一つの臓器しか模擬しないのでも良い。
【0022】
また、本発明の他の態様は、上記のいずれかのマルチセル構造型ファントムの制御方法であって、
圧縮流体を送出するコンプレッサ(20)と各セルの装着部(170)とを、流体を双方向に通す管状部材(40xx)群で接続し、
この管状部材群(40xx)のそれぞれの途中に、開閉制御可能な複数の弁(50zz)を設置し、
前記コンプレッサ(20)から送出される前記圧縮流体の送り出し制御を前記各弁(50)の開閉制御によって行うことを特徴とするマルチセル構造型ファントムの制御方法である
【0023】
より具体的に記載すると、本発明の他の態様は、人間の胴体を模擬し、1つの部屋(セル)から成る構造の胴体部セル(12)と、人間の内臓器を模擬した臓器セル(11a、11b)を収納し前記胴体部セル(12)内に配置した1つ以上の内臓部セル(2)と、を備え、
前記内臓部(2)セルおよび前記臓器セル(11a、11b)は、流体を通すための管状部材(40)を装着するための装着部(170)を備え、
前記胴体部セル(12)、前記内臓部セル(2)および前記臓器セル(11a、11b)は、表面に弾力性が有って膨張および収縮可能で、かつ、放射能を通す材質で構成され、前記流体が前記セル内に流入することによって前記膨張が起こる一方、前記流体が前記セル内から流出することによって前記収縮が起こり、
前記内臓部セルおよび前記臓器セルの前記膨張および前記収縮の膨縮動作に同期し、かつ、この膨縮動作が伝播していくようにして、前記胴体部セルの表面が動く構成であるマルチセル構造型ファントムの制御方法であって、
圧縮空気を送出するコンプレッサ(20)と各セルの装着部(170)とを、空気を双方向に通す管状部材(40xx)群で接続し、
この管状部材群(40xx)のそれぞれの途中に、開閉制御可能な複数の弁(50zz、60zz)を設置し、
前記コンプレッサ(20)から送出される前記圧縮流体の送り出し制御を前記各弁(50)の開閉制御によって行うことを特徴とするマルチセル構造型ファントムの制御方法である
【0024】
この方法発明によれば、コンプレッサから送られる圧縮流体の送り込み制御を弁の開閉によって行うので、各セルは、膨らみ動作と萎み動作とを繰り返し行い、人間の体表面と体内の双方の動きを同時に摸擬することが可能となる。
【0025】
また、本発明の更に他の態様は、上記のいずれかのマルチセル構造型ファントムを制御するシステムであって、
圧縮流体を送出するコンプレッサ(20)と、
このコンプレッサと各セルとを接続する管状部材群(40xx)と、
この管状部材群のそれぞれの途中に設けられ、開閉制御可能な複数の弁(50zz、60zz)と、
自システムの動作制御を行うコントローラ(10)と、を備え、
前記コントローラ(10)は、
前記各弁を開閉制御する開閉制御手段を備えることを特徴とする。
【0026】
より具体的に記載すると、人間の胴体を模擬し、1つの部屋(セル)から成る構造の胴体部セル(12)と、人間の内臓器を模擬した臓器セル(11a、11b)を収納し前記胴体部セル(12)内に配置した1つ以上の内臓部セル(2)と、を備え、
前記内臓部(2)セルおよび前記臓器セル(11a、11b)は、流体を通すための管状部材(40)を装着するための装着部(170)を備え、
前記胴体部セル(12)、前記内臓部セル(2)および前記臓器セル(11a、11b)は、表面に弾力性が有って膨張および収縮可能で、かつ、放射能を通す材質で構成され、
前記流体が前記セル内に流入することによって前記膨張が起こる一方、前記流体が前記セル内から流出することによって前記収縮が起こり、前記内臓部セルおよび前記臓器セルの前記膨張および前記収縮の膨縮動作に同期し、かつ、この膨縮動作が伝播していくようにして、前記胴体部セルの表面が動く構成であるマルチセル構造型ファントムを制御するシステムであって、
圧縮流体を送出するコンプレッサ(20)と、
このコンプレッサと各セルとを接続する管状部材群(40xx)と、
この管状部材群のそれぞれの途中に設けられ、開閉制御可能な複数の弁(50zz)と、
自システムの動作制御を行うコントローラ(10)と、を備え、
前記コントローラ(10)は、
前記各弁を開閉制御する開閉制御手段を備えることを特徴とする。
【0027】
この発明によれば、コントローラが備える制御手段が、各弁を開閉制御するので、管状部材を介し圧縮空気の送り込み制御を行うことができる。その結果、各セルは、膨ら動作と萎む動作とを繰り返して、人間の体表面と体内の動きとの双方を同時に摸擬することが可能となる。なお、管状部材としてチューブを用いることができ、また、チューブ継ぎ手部品等を介在させることが可能である。
【0028】
また、コンプレッサ(20)と各弁(50、60)との間に圧力を調整するレギュレータ30を備えた構成にすれば圧力が精度良く所望の値に保たれ、ファントムの動きが所望のものとなる。更に、このレギュレータ(31、32)を複数種類備え、この複数のレギュレータ(31、32)には調整圧力の異なるものが含まれる構成とすれば、調整圧力が異なるセルに対して異なる圧力の圧縮空気を送ることができるので、セルの動きを一層細かに制御することが可能となる。
【0029】
本発明によれば、上記のマルチセル構造型ファントムの制御システムを動作させるためのプログラムであって、前記コントローラに、前記各弁を開閉制御する開閉制御機能を実現させるためのプログラムも提供される。このためには例えばコントローラをCPU等で構成し、CPUがROM等の記録媒体に記録したプログラムを実行する構成とすることができる。CPUは記録媒体に記録されたプログラムを実行することによって、コントローラの機能を実現できる。
【0030】
なお、この「課題を解決するための手段」において、発明の構成要素に対して符号を付したのは実施形態との整合性を明確にするためであり、権利範囲の広さを限定的にしたものでは無い。また、本発明の要旨を逸脱しないものである限り、本発明の権利範囲に含まれることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、体表面と体内との双方の動きを同時に摸擬することが可能なファントムを実現でき、例えばX線治療の治療計画の立案を一層精度より実現することが可能になるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】CT装置の構成図である。
図2】X線治療装置の構成図である。
図3】胴体部セル12、胸部セル2、腹部セル6、内臓部セル2等の模式的な説明図である。
図4】制御系の構成図である。
図5】肺腫瘍の放射線治療用事前検証の流れの説明図である。
図6】セルにチューブ40を装着するための装着部の構成の説明図である。
図7】内部セル3及びターゲットセル4の構成の模式的な説明図である。
図8】本発明のマルチセル構造型ファントムの動作を説明する模式図である。
図9】弁(50zz、60zz)の開閉制御信号のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。図1はCT画像を撮像するためのCT装置の構成図、図2はX線追跡照射等を行うためのX線治療装置の構成図である。先ずこれらの構成について説明する。
【0034】
(CT装置)
CT(Computer Tomography)装置では、X線を使用して身体の内部断面を画像化する装置である。CT装置は、円環状の部材で形成されたガントリ100を備える。このガントリ100内には、例えば8kV〜110kV程度のX線を照射するX線照射部110と、このX線照射部110の丁度反対側に透過X線を受ける円弧形状の検出器120とが配置されている。X線照射部110と検出器120とはこのような位置関係を保ちながらガントリカバー内において、例えば1秒間に2周回転する。また、寝台であるカウチ200が配設されており、X線照射部110と検出器120の回転動作によって、カウチ200の上に横臥する人間Hやカウチ200の上に乗せられるファントムFのCT画像を撮像するようになっている。
【0035】
さらに、撮像された多数のCT画像は情報処理装置300に送信されるように構成されている。この情報処理装置300には、表示デバイスであるモニタ310と、入力デバイスであるキーボード320等が備えられている。情報処理装置300の右側に設けられたSDカード装着部330にはSDカードが装着可能になっている。そして、操作者がSDカードをSDカード装着部330に装着し、更に、モニタ310上の操作画面に対して、入力デバイス320を操作して入力操作を行うと、情報処理装置300はSDカードに必要な情報を記録する等の所望の処理が実行される。後に説明するが、医師等が、モニタ310上の画像を見ながら人間の呼吸による体動の解析、治療計画の立案等を容易に行うことが可能になっている。
【0036】
(X線治療装置)
X線治療装置は、例えば6MV〜10MV程度のX線を照射するX線照射部150と、患部の形状に合わせてX線の照射エリアを絞り込むX線コリメータ160とを有している。カウチ200にはファントム(F)1を乗せる。このファントム1は本発明の特徴的なものである。このファントム1は、人間の胴体を模擬した胴体部セル(図3の符号12参照)と、人間の内臓器を摸擬した臓器セル(図3の符号11a、11b参照:肺を模した臓器セル)を収納し胴体部セル12内に配置した内臓部セル2とを備え、胴体部セル12、内臓部セル2および臓器セル11a、11bは、表面に弾力性が有り風船状に膨張し、および収縮することが可能な1つの部屋(「セル」と称する)から成る構造であり、各セルは、流体、例えば空気(以下、流体を空気として説明する。)を双方向に通すための管状部材としてのチューブ40を装着するための装着部(図6の符号170)を備えている。このセルに空気を吹き込むことによって、上記の膨張が起こる。
【0037】
この多数ある装着部170には、n本(nはセル総数で通常は8以上)の中空円形のチューブ40が装着されている。各チューブ40のセルとは反対側の端部には、コンプレッサ20の送り出す圧縮空気の圧力を調整するレギュレータ31、32が接続されている。そして、各チューブ40の途中には弁50、60が設置されている。この弁50(50aa、50ba、50ca、50da、50ab、50bb、50bc、50bd)、60(60aa、60ba、60ca、60da、60ab、60bb、60bc、60bd)は開閉制御が可能である。エアコンプレッサ20から送り出される圧縮空気は、圧力レギュレータ30によってその圧力が調整される。なお、圧力レギュレータ30内に圧力センサを設け、この圧力センサによる検出圧力に応じて調整圧力をフィードバック制御する構成とすれば精度良く圧力調整が行えるので好ましい。
【0038】
そして、コントローラ10は、先にCT装置で撮像したデータ等が記録されたSDカード35を装着すると、予め設定したタイミングで各弁50、60の開閉制御を行う。この予め設定したタイミングでの弁50、60の開閉制御によって、各セルが膨らむ動作と、萎み動作とが繰り返して行われる。かくして、人間の体表面と体内の双方の動きを、同時に摸擬することが可能となる。X線装置は、この人間の体表面と体内の双方の動きが再現されたファントム1に対してX線照射を行って、患者のX線治療の検証等を行う。なお、一つの治療室でCT装置とX線治療装置との双方を起動する際には、CT装置のX線の出射位置と、X線治療装置のX線の出射位置とは3次元座標(X,Y,Z)的に合致させることを要する。そのため、例えば装置搬送用のロボットを設置して両装置の入れ替えや位置合わせを行うようにすれば良い。
【0039】
(ファントム構造)
次に本発明の特徴部であるマルチセル構造型ファントムの構成、作用等について、図3図6図7を参照して説明する。このマルチセル構造型のファントムは、人間の胴体を模擬した胴体部セル12と、人間の内臓器を摸擬した臓器セル11a、11bを収納し胴体部セル12内に配置した内臓部セル2とを備え、胴体部セル12、内臓部セル2および臓器セル11a、11bは、表面に弾力性が有り風船状に膨らむつまり膨張することが可能であると共に、収縮することが可能な1つの部屋(セル)から成る構造(セル構造)であり、各セルは、空気を通すためのチューブを装着するための突起部170を備えていて、各セルは空気を吹き込まれることにより膨張する構成となっている。そして、各セルは人体の電子密度(CT画像の濃淡密度)に可能な限り近い材料を使用している。また、人体の電子密度に可能な限り近づけるため、セル内部やセル同士の隙間には適切な充填物等を挿入している。そして、本ファントムは、電磁波の一種であるX線(放射線)が照射されることを想定して、放射線を通して耐放射線性に優れた材料で形成されている。このために、好適な材料としては、シリコーンゴム、ポリイミド等が挙げられる。
【0040】
ここで「胴体」とは、人間の中心部のうち頭、首、四肢を除く部分で胸部、腹部を含む部分であるため、本ファントムは、図3(a)に示すように、人体から首、両手、下半身を除いている。したがって、図3(a)に示すように、本ファントムの一例は、両手を除いて左および右の肩部7、7を形成しているし、また、頭部も除かれている。図3(a)の切断線Sによって、胴体部セル12の内部を示すと、左および右の肺を模擬した臓器セル11a、11bが配置されている。図3(a)では腹部セル6の図示を省略しており、図3(b)では臓器セル11a、11bの図示を省略している。また、本実施形態では敢えて単純化を図って他の臓器例えば心臓、肝臓等のセルを配置することは止めているが、実際には複数種類の臓器を模擬したセルを多数、胴体部セル12の内部に配置した構成とする。
【0041】
図3(b)は胴体部セル12の横方向の断面の模式的な説明図である。この模式的な図面は、正確な断面図とは異なり、理解容易化を図るための模式的な説明図である。図3(b)に示すように、胴体部セル12の背面である背面部5は、例えば硬質エポキシ材が層状になっている。その上に、胸の部分を模擬した内臓部セル2と、腹の部分を模擬した内臓部セル6とが配置されている。これら内臓部セル2、6の上には、例えば軟質エポキシ材が層状に形成されている。そして、最上部には弾力性を有するシリコーンゴム等で形成された体表面8が装着されている。軟質エポキシ材や、体表面8に弾性材を使用したので、内臓部セル2、6の上方への膨らみ動作と、下方への萎み動作を繰り返すことが可能になっている。このことによって、内臓部セル、胴体部セルはもちろんのこと体表面も同時に上下方向(図面左右方向)に動くので、人間の体の動きを極めてリアルに再現することが可能になっている。
【0042】
また、図3(c)は、内臓部セル2内の臓器セル11a、11b、内部セル3およびターゲットセル4の構造を示した模式的な図面である。この例では、内臓部セル2の内部に、2つの臓器セル11a、11bが配置されている。それぞれの臓器セル11a、11bは肺を模擬している。臓器セル11a、11bは、表面に弾力性が有り風船状に膨張することが可能なセル構造で成っており、臓器セル11a、11bは、空気を通すためのチューブを装着するための突起部170を備えていて、内部セル11a、11b内に空気が吹き込まれることにより膨張する。なお、内部セル11a、11bは、内臓部セル2に設けた小孔等によって、チューブ40と連通するようになっている。
【0043】
そして、この例では、1対の臓器セル11a、11bを挟むようにして、ターゲットセル4とこれを取り囲む8個の内部セル3aa、3ba、3ca、3da、3ab、3bb、3cb、3db(図3(c)では3aa、3ba、3ca、3daの4個のみ図示している。)の合計9個のセルを配置している。ターゲットセル4は、悪性腫瘍を模擬したセルであり、その内部に放射線を検出する検出器(カプセル)やフィルムを内蔵可能な構成を有している。この検出器は、例えば、フラットパネルセンサ、フォトダイオードのような半導体センサで製造可能である。なお、カプセル形状は例えば球状や円筒状に製造することが挙げられるが形状はこれらに限られなく、可能な限り腫瘍の形状を模擬している。ターゲットセル4やその周りの内部セル3aa、3ba、3ca、3da、3ab、3bb、3cb、3dbも、表面に弾力性が有り風船状に膨張することが可能なセル構造で成っており、各セルは、空気を双方向に通すためのチューブを装着するための突起部170を備えていて、空気を吹き込まれることにより膨張する。内臓部セル2は、臓器セル11a、11bを収納するために、収納空間を構成可能な外側構造となっている。
【0044】
このように、胴体部セル12の内部に、胸の部分を模擬した内臓部セル2を配置し、更に、内臓器である肺を模擬した臓器セル11a、11bが配置されている。かくして、本発明の実施形態のファントムは、胴体部セルの内部に1以上の内臓部セルを配置し、内臓部セルの中に複数の臓器セルと、この臓器セルに挟まれるように複数の内部セルとさらにこの内部セルに包み込まれるようにターゲットセルが配置されるマルチセル(多数セル)の構造を有している。そこで、本発明の実施形態のファントムを「マルチセル構造型ファントム」と称する。なお、図3の例では可能な限りモデルを単純化して説明したものであるが、実際には肺の形や肺胞等の形状のセルを臓器セル11a、11b内に設置することによって、電子密度を向上することができると共に、人間の動きを一層リアルに再現することが可能になる。なお、空洞部にはいわゆるスポンジを圧縮して充填すること等も可能である。
【0045】
図6は、各セルの突起部170について説明するための図面である。図6(a)に示すように、セルC表面から突起部170が突出している。図6(b)は、図6(a)における突起部170の線X−Xでの断面の拡大図である。突起部170は断面形状が円環状であり、突起部分は中空の管状の形状をなしていている。つまり、突起部170の突起方向に垂直な断面は、円形の貫通穴172が空いている。そして、突起部170の突起方向外側端はチューブ40に嵌め込まれると共に、その突起方向内側端はセルの内部と連通している。チューブ40は、全体的に弾性を有していて中空の極細径の材質でできており、チューブ40の内径は、突起部170の外形の径より若干小さくなっている。したがって、チューブ40を突起部170に嵌め込んだり、嵌め込んだチューブ40を突起部170から取り外したりすることが可能である。
【0046】
また、図6(c)は、セルCとチューブ40を一体成形で構成した構成例であり、セルCとチューブ40を一体成形することによって、装着部からの空気の漏れやチューブの脱落がなくなり、信頼性が向上するという利点も有する。かくして、容易にチューブ40を着脱できる装着部が実現できる。
【0047】
(セルの動きの制御系)
次に、図4図7図8図9を参照して各セルの動きの制御系を説明する。なお、簡単のため内臓部セル2、内部セル8個の各セルに対する制御系で説明する。図4に示すように、制御対象は、内臓部セル2と内臓部セル2の内部に配置された、8個の内部セルを3aa、3ba、3ca、3da、3ab、3bb、3cb、3dbとする。図7は、内部セル3aa〜3dbとターゲットセルの構成の模式的な説明図である。図7(b)は、図7(a)をa方向(紙面表側)から見た図であり、図7(c)は、図(a)をb方向(紙面裏側)から見た図である。図7は、8個の内部セルの配置例を示している。平面視正方形を構成するように並べられた4つの内部セル(3ba、3ca、3bb、3cb)の上に、更に4つの内部(3aa、3ab、3db、3da)セルが積み重ねられた2段型の構成である。8個の内部セルは、悪性腫瘍を摸擬しその内部に放射線を検出する検出器を内蔵するターゲットセル4を包み込むようにその周囲に配置されている。ターゲットセル4と複数の内部セルは、複数の臓器セル(図3の符号11a、11b)の間に挟み込むようにして配置されている。そして、このような配置は、8個の内部セルを膨張させたり収縮させたりすることによって、これら8個の内部セルで包み込むように配置されたターゲットセル4を、X、Y、Z軸方向の3次元で移動させることであり、この目的に合うように内部セルの個数を増減することができる。
【0048】
また、内部セルに1個以上のマーカ70、例えば金マーカを装着することによって、実際のX線治療において使用されるマーカの状態を模擬することができる。このマーカ70は、内部セルのほか、ターゲットセルに直接装着することもできる。図7において、内部セル3ab、3bb、3cb、3dbに空気を流入して膨張させると、ターゲットセル4がX軸方向移動する。この場合、内部セル3aa、3ba、3ca、3daの空気を流出させることで、ターゲットセル4の移動を一層細かに制御することができる。同様に、3bb、3ba、3ca、3cbを膨張させ、3ab、3aa、3da、3dbを収縮させることで、ターゲットセル4をZ軸方向に移動することができる。このように、各内部セルの膨張と収縮を制御することによって、結局、3次元的に任意の方向にターゲットセルを移動することが可能となる。
【0049】
図4において、各セルにはチューブ40が接続され、各チューブの途中には、弁50aa、50ba、50ca、50da、50ab、50bb、50cb、50db、51、ならびに、弁60aa、60ba、60ca、60da、60ab、60bb、60cb、60db、61が設けられている。各チューブ40の各セルとの接続端とは反対側の端部には、圧力レギュレータ31、32に接続されている。ここで、弁50は、空気が各セルへ流入することを制御する弁であり、弁60は、空気が各セルから流出することを制御する弁である。
【0050】
制御系は、圧縮空気を送り出すコンプレッサ20と、複数の圧力レギュレータで成るレギュレータ群とコントローラ10で構成される。コントローラ10は、弁の開閉を制御する信号Saa、Sba、Sca、Sda、Sab、Sbb、Scb、Sdb、S2ならびにWaa、Wba、Wca、Wda、Wab、Wbb、Wcb、Wdb、W2を、各弁に対して送信し、各弁50aa〜50db、51ならびに60aa〜60db、61の開閉を制御する。図1に示すように、コントローラ10に、SDカード35が装着されると、このSDカードに記録された情報を読み取って動作を行う。圧力レギュレータ群には複数種類の圧力レギュレータ31、32が存在する。この例では、圧力レギュレータ31と圧力レギュレータ32とを有して圧力レギュレータ群を構成している。圧力レギュレータ31はその圧力調整精度が細かく微細制御用に向くため、この例では内部セル3aa〜3dbの制御用とし、一方、圧力レギュレータ32は、内臓部セル2の制御用としている。このように、動きの振幅が異なるセルに対して異なる調整圧力で圧縮空気を送ることができるので、セルの動きを一層細かに制御することが可能となる。
【0051】
そして、SDカード35が装着されたコントローラ10は、予め設定されたタイミングチャートにしたがって、弁50aa〜50db、51ならびに60aa〜60db、61を開閉制御する。
【0052】
図9には、人間の呼吸サイクルに応じて動く臓器や体表面の動きを模擬するように各弁を制御する信号のタイミングチャートを示す。先ず、肺に空気を取り入れる吸気フェーズについて説明する。図8において、内臓部セル2と臓器セル11bに空気を流入させるように、弁51、11b1が開き、また、弁61、11b2が閉じるように制御する。この結果、内臓部セル2と臓器セル11bは膨張し、体表面8が体外側へ押し広げられる。次に、肺から空気を吐き出す呼気フェーズについて説明する。内臓器セル2と臓器セル11bから空気を流出させるため、弁51、11b1を閉じ、また、弁61、11b2を開くように制御する。この結果、内臓部セル2と臓器セル11bが収縮し、これに応じて体表面8は体内側へ収縮する。かくして、人間の呼吸サイクルに応じて動く、臓器や体表面の動きを模擬することが可能になる。なお、上記の膨張や収縮の程度(具体的にどの程度臓器や体表面が動くかは)は、患者固有の呼吸サイクルに合わせて設定することができる。また、弁50aa〜50db、60aa〜60dbの開閉制御を行うことによって、ターゲットセル4の動きは、実際の腫瘍の動きを模擬することができる。なお、図8において横方向の矢印はその方向に、矢印が示された物が移動することを示している。
【0053】
ここで図9について具体的に説明すると、図4図8等を参照して分かるように、「S2、S11b」はそれぞれ内臓部セル2、この内部に配置される臓器セル11bの弁50に対する制御信号、「Saa、Sba、Sab、Sbb」はそれぞれ内部セル3aa、3ba、3ab、3bbの弁50に対する制御信号、「Wca、Wda、Wcb、Wdb」はそれぞれ内部セル3ca、3da、3cd、3dbの弁60に対する制御信号である。さらに、「W2、W11b」はそれぞれ内臓部セル2、臓器セル11bの弁60に対する制御信号、「Sca、Sda、Sab、Sdb」はそれぞれ内部セル3ca、3da、3ab、3dbの弁50に対する制御信号、「Waa、Wba、Wab、Wbb」はそれぞれ内部セル3aa、3ba、3ab、3bbの弁60に対する制御信号である。
【0054】
図9を参照して分かるように、「S2、S11b」がオンの時(状態1)、「Saa、Sba、Sab、Sbb」がオンとなり、「Wca、Wda、Wcb、Wdb」もオンとなる。つまり、内臓部セル2、臓器セル11bの弁50が開状態、内部セル3aa、3ba、3ab、3bbの弁50が開状態、内部セル3ca、3ba、3ab、3bbの弁60が開状態になる。一方、この状態1の時、「W2、W11b」がオフとなり、「Sca、Sda、Scb、Sdb」もオフ、「Waa、Wba、Wab、Wbb」もオフとなる。つまり、内臓部セル2、臓器セル11bの弁60が閉状態、内部セル3ca、3da、3cb、3dbの弁50が閉状態、内部セル3aa、3ba、3ab、3bbの弁60が閉状態になる。
【0055】
次に、「S2、S11b」がオフ(状態2)の時、「Saa、Sba、Sab、Sbb」がオフとなり、「Wca、Wda、Wcb、Wdb」もオフとなり、結局、内臓部セル2、臓器セル11bの弁50が閉状態、内部セル3aa、3ba、3ab、3bbの弁50が閉状態、内部セル3ca、3ba、3ab、3bbの弁60が閉状態になる。一方、この状態2の時、「W2、W11b」がオンとなり、「Sca、Sda、Scb、Sdb」もオン、「Waa、Wba、Wab、Wbb」もオンとなり、結局、内臓部セル2、臓器セル11bの弁60が開状態、内部セル3ca、3da、3cb、3dbの弁50が開状態、内部セル3aa、3ba、3ab、3bbの弁60が開状態になる。
【0056】
このようにして、状態1と状態2とが交互に繰り返される。状態1は吸気状態に対応し、臓部セル2と臓器セル11bとは膨張し、体表面8が体外側へ押し広げられる。一方、状態2は呼気状態に対応し、内臓部セル2と臓器セル11bとが収縮し、これに応じて体表面8は体内側へ収縮する。この状態1と状態2とが繰り返されることによって、人間の吸気および呼気のサイクルである「呼吸サイクル」が実現される。つまり、この呼吸サイクルに応じて動く、臓器や体表面の動きを模擬することが可能になる。なお、図9は、各弁を制御する信号のタイミングチャートの一例にすぎない。
【0057】
(治療検証)
次に、図5を参照して、肺の悪性腫瘍を例にとって、その放射線治療の事前検証の流れについて説明する。まず、ステップS1において、図1のX線治療装置のカウチ200上に人間(患者)Hを横臥させて、患者の4次元CT画像を撮像する。この結果は、情報処理装置300内のメモリに格納される。ここで4次元と称したのは、撮像したデータの3次元に時間軸を加えた4つの次元を持つことを意味する。マルチフェーズでの画像は「呼気→吸気→…」を複数フェーズ繰り返すことによって得られる画像である。このマルチフェーズの画像を得ることにより、身体内の特定位置の動きを追跡して人間の動きを把握することが可能になる。身体の特定位置の動きを追跡すうために、患部位置近傍に金マーカを刺入し、この金マーカ位置を追跡することにしても良い。
【0058】
次に、ステップS2において、4次元CT画像を参考にして、医師が治療計画を立案する。この治療計画では例えば照射するX線ビームの方向、照射野サイズ、ビーム強度、ビーム本数等を決める。次いで、ステップS3において、4次元CT画像から、各フェーズでの患部の位置を抽出して、SDカード35にその情報を記録する。そして、ステップS4において、SDメモリ35を図2のX線装置のコントローラ10に装着する。以上が準備である。つまり、この準備において、患者の患部の動きの情報をSDカードに記録することができる。
【0059】
次に、ステップS5において、マルチセル構造型ファントムFを図1のCT装置のカウチ200に乗せて、このファントムFの4次元のCT画像を撮像する。次に、ステップS6において、患部のマッピングや線量計算を行う。線量計算では、治療領域にどの程度のX線が吸収されるか、周辺臓器の被曝線量、周辺組織の被曝線量等を求める。次いで、ステップS7において、ターゲットセル4内に内蔵したカプセルにフィルムを装着する。そして、ステップS8において、図4に示すような制御システムのコントローラ10を起動させて、マルチセル構造型ファントムを動かしながら、図2で説明したX線治療装置を使用して患部の追跡照射を行う。ステップS9では、患部を模したターゲットセル4内のカプセルに装着されたフィルムに対するX線の照射のされ方等を判断して、ステップS2で立案した治療計画が計画通り実行されたか等の検証を行う。かくして、マルチセル構造型ファントムを用いたX線治療前の検証(事前検証)が行われる。
【0060】
以上、肺に悪性腫瘍ができたことを一例として説明してきたように、X線治療の事前検証を精度よく行うことができる。これによってX線治療の精度が向上し、悪性腫瘍のみをターゲットとしてX線を照射することができ、正常細胞へのX線照射を極力阻止することが可能となる。また、本実施形態のファントムによればその内部に金属類が入り込むことを防止でき、金属類による電磁波の影響を従来より大幅に低減できる。
【0061】
(心臓等の他の臓器)
図3の胴体部セル12の内部に適宜、内臓部セルを配置し、その中に心臓、肝臓、膵臓、腎臓、前立腺などの内臓器を模擬した臓器セルを配置しても良い。例えば、心臓の外壁面は1つのセルが、風船状に膨らんだり萎んだりするように、圧縮空気の送り出し制御を行うことによって、その動作をリアルに再現することが可能である。そして、人間の体内の骨の構造を模した部材をセルの外部に設けてより人間の体動をリアルに再現するようにしても良い。また、電子密度を人間の臓器に近づけるように、内臓部セル2等の必要なセルの内部に各種の充填物を配置する構成とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のファントムは、例えば放射線治療を行う放射線治療装置等に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 ファントムF
2 内臓部セル
3 内部セル
4 ターゲットセル
6 内臓部セル(腹部セル)
7 肩部
8 体表面
10 コントローラ
11a、11b 臓器セル
12 胴体部セル
20 コンプレッサ
30 圧力レギュレータ
31 圧力レギュレータ
32 圧力レギュレータ
35 SDカード
40 チューブ
50 弁(吸気用)
60 弁(排気用)
70 マーカ
100 ガントリ
110 X線放射部
150 X線照射部
160 コリメータ
170 突起部
200 カウチ
300 情報処理装置
310 モニタ
320 キーボード
330 SDカード装着部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9