【実施例】
【0032】
以下、本発明の深絞り包装用の転写シートの製造例、上記製造例で得られた転写シートを用いた深絞り包装方法の実施例、上記転写シートを用いた各種転写評価試験例を順次述べる。
尚、本発明は下記の製造例、実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0033】
《深絞り包装方式の食品添加剤の転写実施例》
実施例1〜5のうち、実施例1〜2は結合剤にセルロース誘導体と炭酸カルシウムを使用した例、実施例3〜5は同じくセルロース誘導体と食物繊維と二酸化ケイ素の混合物を使用した例である。実施例1〜2は深絞り容器に投入する食品がチーズであり、水分転写した例、実施例3〜4は食品が共にソーセージであり、実施例3は生のソーセージ生地に加熱転写した例、実施例4は加熱済みソーセージに水分転写した例である。実施例5は生のハンバーグに加熱転写した例である。実施例6〜9は実施例1を基本としたもので、実施例6は転写シートの引張弾性率が実施例1より大きな例であり、実施例7は実施例1に対して引張弾性率が室温(23℃)では少し小さく、高温(80℃)では少し大きな例であり、実施例9は転写シートの引張弾性率が実施例1より小さな例である。実施例8は底材だけではなく、蓋材にも転写剤層を塗工した例である(他の実施例では底材のみに転写剤層を塗工した)。
一方、比較例1〜5のうち、比較例1と5は結合剤として食物繊維を単用した例であり、比較例5は食物繊維を比較例1より増量した例である。比較例2は同じく二酸化ケイ素を単用した例である。比較例3〜4はセルロース誘導体を単用した例であり、比較例4は比較例3よりセルロース誘導体を増量した例である。尚、前述したように、比較例3〜5で使用したセラックは結合補強剤である。
尚、上記実施例及び比較例では、深絞り成形容器は各食品に適した形状(底の深さなど)、或いは大きさに調整された。
【0034】
(1)実施例1
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
香辛料抽出物 20.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 10.0重量%
炭酸カルシウム 5.0重量%
エタノール 65.0重量%
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
内層のヒートシール層としてPE(膜厚40μm)、ポリエチレン系接着性樹脂層(膜厚10μm)、中間層にNy(膜厚20μm)とEVOH(膜厚10μm)、ポリプロピレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、外層としてPP(膜厚30μm)を順次積層して共押出無延伸シートを作成し、PEの内層表面にコロナ処理を施して、ヒートシール性の合成樹脂シートAを製造した。合成樹脂シートAの引張弾性率は、23℃で790MPa、80℃で190MPaであった。
次いで、前記転写剤を上記合成樹脂シートAに塗工量15.4g/m2で塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
先ず、原料ナチュラルチーズをスクレッパーにより、表面のパラフィン、カビ等を除去し、カッターで粗くカットした後、チョッパーにて4〜5mmの細粒に粉砕し、ローラー磨砕機にかけ乳化釜により加温し、その他配合原料を添加して乳化を行い、冷却、成形してプロセスチーズを得た。
そして、前記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦130mm、横30mm、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記チーズを充填、真空包装し、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0035】
(2) 実施例2
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液粉末 21.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 10.0重量%
炭酸カルシウム 5.0重量%
エタノール 64.0重量%
上記くん液粉末はチャーデックス(レッドアロー社製)を使用した。
次いで、上記転写剤を前記実施例1の合成樹脂シートAに塗工量22.2g/m2で塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様に、上記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦130mm、横30mm、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記チーズを充填、真空包装し、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0036】
(3)実施例3
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液 63.0重量%
微粒二酸化ケイ素 4.0重量%
食物繊維 6.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 1.0重量%
エタノール 26.0重量%
上記くん液は前記実施例2の粉末状のくん液とは異なり、液状のくん液であって、ゼスティースモーク(ケリー社製)とエンビロ(レッドアロー社製)の混合液を使用した。
上記食物繊維は天然木材由来のセルロース精製品を使用した。
ヒドロキシプロピルセルロースは実施例1と同じである。
次いで、上記転写剤を前記実施例1の合成樹脂シートAに塗工量28.8g/m2で塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
先ず、原料肉をチョッパー処理し、リン酸塩、亜硝酸塩などを添加してサイレントカッターで混練し、豚脂、調味料の順に添加した後、均質なエマルジョン状態になるまでカッターで混練を続けて生のソーセージ練り生地を得た。
そして、前記実施例1と同様に、上記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦130mm、横30mm、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記生のソーセージ練り生地を充填、真空包装し、加熱転写にてソーセージにくん液の風味を付与した。
【0037】
(4)実施例4
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
ポリリジン溶解液 90.0重量%
微粒二酸化ケイ素 5.0重量%
食物繊維 3.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 2.0重量%
上記ポリリジン溶解液は抗菌剤であるポリリジンを精製水に溶解した液である。
上記食物繊維は実施例3と同じであり、ヒドロキシプロピルセルロースは実施例1と同じである。
次いで、上記転写剤を前記実施例1の合成樹脂シートAに塗工量21.0g/m2で塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例3と同様に原料肉を処理して、生のソーセージ練り生地を調製した。次いで、羊腸などのチューブ包材にこの練り生地を充填して加熱調理し、加熱済みソーセージを得た。
そして、前記実施例1と同様に、上記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦130mm、横30mm、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記加熱済みソーセージを充填、真空包装し、水分転写にてソーセージに抗菌効果を付与した。
【0038】
(5)実施例5
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
酵母エキス 20.4重量%
微粒二酸化ケイ素 5.0重量%
食物繊維 5.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 0.4重量%
水 69.2重量%
上記食物繊維は実施例3と同じであり、ヒドロキシプロピルセルロースは実施例1と同じである。
次いで、上記転写剤を前記実施例1の合成樹脂シートAに塗工量20.9g/m2で塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
先ず、牛肉、牛脂、豚肉を6mmチョッパー処理し、全卵・オニオンソテー・食塩・香辛料などと良くミキサーで混練した後、パン粉を添加混合して生地を調整し、ハンバーグ生地を製造した。
そして、前記実施例1と同様に、上記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦90mm、横70mmの長円形で、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記生のハンバーグ生地を充填、真空包装し、加熱転写にてハンバーグに酵母エキスの味付けをした。
【0039】
(6)実施例6
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
内層のヒートシール層としてPE(膜厚30μm)、ポリエチレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、中間層にNy(膜厚30μm)、ポリプロピレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、外層としてPP(膜厚50μm)を順次積層して共押出無延伸シートを作成し、PE層表面にコロナ処理を施して、ヒートシール性の合成樹脂シートBを製造した。合成樹脂シートBの引張弾性率は、23℃で1000MPa、80℃で270MPaであった。
次いで、前記実施例1と同様の条件で、上記合成樹脂シートBに転写剤層を塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様の条件で、上記転写シートを深絞り包装機にかけて、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0040】
(7)実施例7
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
内層のヒートシール層としてPP(膜厚40μm)、ポリプロピレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、中間層にEVOH(膜厚10μm)、外層としてNy(膜厚40μm)を順次積層して共押出無延伸シートを作成し、PP層表面にコロナ処理を施して、ヒートシール性の合成樹脂シートCを製造した。合成樹脂シートCの引張弾性率は、23℃で750MPa、80℃で200MPaであった。
次いで、前記実施例1と同様の条件で、上記合成樹脂シートCに転写剤層を塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様の条件で、上記転写シートを深絞り包装機にかけて、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0041】
(8)実施例8
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
底材に上記実施例1の合成樹脂シートAを用いるとともに、蓋材として、コロナ処理を施した直鎖状低密度PEフィルム(内層、膜厚40μm)とアルミナ蒸着二軸延伸フィルム(膜厚12μm)と二軸延伸PPフィルム(膜厚30μm)とをウレタン系接着剤を用いてドライラミネートした積層シートを用いて、実施例1と同様の条件で、底材と蓋材の両方に転写剤層を塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様の条件で、上記底材と蓋材からなる転写シートを深絞り包装機にかけて、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0042】
(9)実施例9
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
内層のヒートシール層としてPE(膜厚70μm)、ポリエチレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、外層にNy(膜厚40μm)を順次積層して共押出無延伸シートを作成し、PE層表面にコロナ処理を施して、ヒートシール性の合成樹脂シートDを製造した。合成樹脂シートDの引張弾性率は、23℃で400MPa、80℃で100MPaであった。
次いで、前記実施例1と同様の条件で、上記合成樹脂シートに転写剤層を塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様の条件で、上記転写シートを深絞り包装機にかけて、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0043】
(6)比較例1
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液 70.0重量%
食物繊維 6.0重量%
エタノール 24.0重量%
上記転写剤を製造し、前記合成樹脂シートAに塗工して転写シートを作成したが、当該合成樹脂シート上で転写剤が充分に乾燥せず、ベタつきが生じた。
この結果、当該転写シートを巻き取ると、転写剤が裏移りして、いわゆるブロッキングを起こしたため、深絞り包装機に掛けることができなかった。
従って、上記転写シートを深絞り包装機に適用した以後の評価試験は行なわなかった。
【0044】
(8)比較例2
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液 70.0重量%
微粒二酸化ケイ素 4.0重量%
エタノール 26.0重量%
上記転写剤を製造し、前記合成樹脂シートAに塗工して転写シートを作成したが、当該合成樹脂シート上で転写剤が充分に乾燥せず、ベタつきが生じた。
この結果、当該転写シートを巻き取ると、転写剤が裏移りして、いわゆるブロッキングを起こしたため、深絞り包装機に掛けることができなかった。
従って、上記転写シートを深絞り包装機に適用した以後の評価試験は行なわなかった。
【0045】
(9)比較例3
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液 65.50重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 0.45重量%
セラック 5.00重量%
エタノール 29.05重量%
上記転写剤を製造したが、転写剤の経時安定性が悪くてセラックの沈殿が生じ、均一な相を形成しなかった。
従って、転写剤層を基材シートに塗工することができず、以後の評価試験は行なわなかった。
【0046】
(10)比較例4
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
粉末調味料 20.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 10.0重量%
セラック 5.0重量%
エタノール 65.0重量%
上記粉末調味料はチャーデックス(レッドアロー社製)を使用した。
次いで、上記転写剤を前記合成樹脂シートAに塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様に、上記転写シートを用いて深絞り包装機にかけたところ、深絞り成形工程において、容器状に成形しようとした転写シート(底材)から加熱プレートに転写剤の色移りが見られた。尚、前述したように、深絞り成形は熱可塑性合成樹脂を加熱により容器状に成形することを基本とする。
上述の通り、色移りは見られたが、深絞り包装の作業を継続して、深絞り容器にチーズを投入し、蓋材のヒートシールで充填、真空包装して、水分転写によりチーズに調味付与を行った。
【0047】
(11)比較例5
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
粉末調味料 20.0重量%
食物繊維 10.0重量%
セラック 5.0重量%
エタノール 65.0重量%
上記粉末調味料は上記比較例4と同じであり、上記食物繊維は前記実施例3と同じである。
次いで、上記転写剤を上記合成樹脂シートAに塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様に、上記転写シートを用いて深絞り包装機にかけたところ、深絞り成形工程において、容器状に成形しようとした転写シート(底材)の延伸部で、塗工した転写剤がその延伸作用によって底材に追随できず、転写剤層に割れが生じた。
上述の通り、割れが発生したが、深絞り包装の作業を継続して、深絞り容器にチーズを投入し、蓋材のヒートシールで充填、真空包装して、水分転写によりチーズに調味付与を行った。
【0048】
そこで、上記実施例1〜9並びに比較例1〜5で得られた各転写シート並びに深絞り包装機への適用について、以下の深絞り包装方式の各種転写試験を行って、総合的な評価を行った。
但し、前述したように、比較例3は以下の評価試験(2)〜(4)を行わず、比較例1〜2は以下の評価試験(3)〜(4)を行わなかった。
【0049】
《深絞り包装方式の転写試験例》
(1)転写剤の経時安定性
実施例1〜9並びに比較例1〜5で得られた各転写剤について、調製後1時間を経た後の相分離や沈殿の有無を観察し、次の基準で転写剤の経時安定性の優劣を評価した。
○:1時間経過後も均一な相を保持していた。
×:1時間経過後、又はそれ以前に相分離を起こし、或いは一部が沈殿して、不均一状態を呈した。
【0050】
(2)転写シートの印刷適性
実施例1〜9及び比較例1〜5で得られた各転写剤を基材に塗工した転写シートについて、転写シートを巻き取り操作した際に、転写剤の裏移りの有無、並びに裏移りに起因してシート同士がくっつくブロッキングの有無を観察し、次の基準で印刷適性(塗工適性)の優劣を評価した。
○:裏移り、ブロッキングが共になし。
×:裏移り、ブロッキングのいずれか、或いはその両方あり。
【0051】
(3)転写シートの深絞り成形適性
実施例1〜9及び比較例1〜5で得られた各転写シートについて、転写シートを深絞り包装機にかけた場合に、深絞り成形工程での不具合の有無を観察して、次の基準で深絞りの成形適性の優劣を評価した。但し、上記不具合は下記(a)及び(b)の2点を主眼に判断した。
(a)加熱成形時の加熱プレートへの転写剤の付着の有無。
(b)転写剤層の割れの有無。
○:上記(a)の転写剤の付着も、上記(b)の割れも認められなかった。
×:上記(a)の転写剤の付着と上記(b)の割れの一方、或いは両方が認められた。
【0052】
(4)深絞り包装での転写適性
実施例1〜9及び比較例1〜5で得られた各転写シートを深絞り包装機にかけて、加熱或いは水分転写を行い、包装容器から取り出した食品を観察して、次の基準で食品表面への食品添加剤の転写の優劣を評価した。
○:良好に転写されていた。
△:一部に転写不良が認められた。
×:全体に転写不良であった。
【0053】
下表はその転写試験の結果である。
尚、「−−」は試験を行っていないことを意味する。
経時安定性 印刷適性 成形適性 転写適性
実施例1 ○ ○ ○ ○
実施例2 ○ ○ ○ ○
実施例3 ○ ○ ○ ○
実施例4 ○ ○ ○ ○
実施例5 ○ ○ ○ ○
実施例6 ○ ○ ○ ○
実施例7 ○ ○ ○ ○
実施例8 ○ ○ ○ ○
実施例9 ○ ○ ○ △
比較例1 ○ × −− −−
比較例2 ○ × −− −−
比較例3 × −− −− −−
比較例4 ○ ○ × △
比較例5 ○ ○ × △
【0054】
《転写シートを深絞り包装に適用した際の転写試験の総合評価》
上表を見ると、セルロース誘導体の単独使用では結合剤として機能不足なので、比較例3はセラックを結合補強剤として補助添加したが、当該比較例3にあっても転写剤の経時安定性に劣り、以後の評価試験ができなかった。
結合剤として食物繊維を単独使用した比較例1、二酸化ケイ素を単独使用した比較例2では、共に転写シートの巻き取り時に転写剤が裏移りするため、印刷適性が劣った。
また、比較例4はセルロース誘導体にセラックを結合補強剤として補助添加した点で比較例3と共通するが、セルロース誘導体の含有量を増したことで経時安定性は改善されたが、深絞り成形工程で転写剤の色移りが見られて成形適性に劣り、結果として一部に転写不良が認められた。
セルロース誘導体に替えて食物繊維を使用し、セラックを補助添加した比較例5では、深絞り成形工程で転写剤層の割れが見られて成形適性に劣り、やはり比較例4と同様に部分的な転写不良が認められた。
【0055】
これに対して、結合剤としてセルロース誘導体と炭酸カルシウムの混合物を使用した実施例1〜2、二酸化ケイ素と食物繊維とセルロース誘導体の混合物を使用した実施例3〜5では、経時安定性、印刷適性並びに成形適性に優れ、これに伴い食品表面に食品添加剤を良好に転写できた。
引張弾性率の高い合成樹脂シートを用いた実施例6では、塗工工程でのシートの伸びが少なく、塗工条件の調整が更に容易であった。逆に、実施例6に比べて引張弾性率の低い合成樹脂シートを用いた実施例9では、塗工のピッチずれが少し生じ、深絞り成型の金型と塗工部にズレが発生したため、食品の一部に転写不良が認められたが、商品として問題なかった。
このため、合成樹脂の基材シートに食品添加剤を塗工した転写シートを深絞り包装に適用する場合、転写適性を良好に担保するためには、食物繊維や二酸化ケイ素などを結合剤に単用する場合に比べて、セルロース誘導体と炭酸カルシウムの混合物、二酸化ケイ素と食物繊維とセルロース誘導体の混合物などの特定の組み合わせから選択された結合剤を使用することの顕著な優位性が裏付けられる。
特に、セルロース誘導体にセラックを補助添加した比較例4〜5では、経時安定性並びに印刷適性には優れるが、成形適性に問題があり、結果的に一部に転写不良を起こすことから、セルロース誘導体を結合剤に使用する場合でも、本発明のように、良好な転写適性を達成するには、その相手方にセラックなどの結合補強剤ではなく、炭酸カルシウム、或いは二酸化ケイ素と食物繊維の複合などの特定の成分を選択することが重要である。
また、合成樹脂の基材シートに引張弾性率の高いシートを用いると、塗工ピッチが安定するため、深絞り成型での金型と塗工部のズレの発生を防止して、食品表面に食品添加剤を良好に転写できる。
【0056】
実施例1〜5では、各種の調味剤、くん液などの食品添加剤を様々な食品に転写しているが、本発明の転写シートを深絞り包装に適用すると、加熱によっても、また、水分作用によっても転写シートに塗工した食品添加剤を食品表面に円滑に転写できることが分かる。
特に、生のソーセージ生地に加熱転写した実施例3、加熱済みソーセージに水分転写した実施例4に着目すると、転写される側の食品は生の原料であっても、加熱済みの食品であっても、共に優れた転写適性を具備していることが分かる。
従って、深絞り包装容器に投入できる食品は生の食品、加熱加工品を問わず、また、転写方式も加熱転写と水分転写のいずれも可能であるため、適用できる食品のバリエーションが広がるとともに、転写操作の自由度も良い。
しかも、冒述の特許文献1では、紙や不織布などの吸水性のある繊維材層を合成樹脂層の上に介在させているが、本発明では、特定成分を組み合わせた結合剤の使用により合成樹脂の基材に対して色素などを含む食品添加剤を支障なく塗工できるため、基材シートを複雑な構造にする必要はなく、転写シートの作成並びに転写作業の両面において生産性が高い。