特開2016-101935(P2016-101935A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ OCI株式会社の特許一覧 ▶ 三菱樹脂株式会社の特許一覧 ▶ 東京食品機械株式会社の特許一覧

特開2016-101935深絞り包装用の転写シート並びに当該シートを利用した深絞り包装方式の食品転写方法
<>
  • 特開2016101935-深絞り包装用の転写シート並びに当該シートを利用した深絞り包装方式の食品転写方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-101935(P2016-101935A)
(43)【公開日】2016年6月2日
(54)【発明の名称】深絞り包装用の転写シート並びに当該シートを利用した深絞り包装方式の食品転写方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 85/50 20060101AFI20160502BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20160502BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20160502BHJP
   B65D 1/28 20060101ALI20160502BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20160502BHJP
   B65D 77/20 20060101ALI20160502BHJP
【FI】
   B65D85/50
   A23L1/00 G
   B65D1/00 111
   B65D1/28
   B65D65/40 D
   B65D77/20 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-240124(P2014-240124)
(22)【出願日】2014年11月27日
(71)【出願人】
【識別番号】591264197
【氏名又は名称】OCI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006172
【氏名又は名称】三菱樹脂株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397028511
【氏名又は名称】東京食品機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆
(72)【発明者】
【氏名】山田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 洋平
(72)【発明者】
【氏名】辻川 喜保
(72)【発明者】
【氏名】林 寛之
【テーマコード(参考)】
3E033
3E035
3E067
3E086
4B035
【Fターム(参考)】
3E033AA20
3E033BA13
3E033BA14
3E033BA15
3E033BA16
3E033BA17
3E033BA18
3E033BA21
3E033BA30
3E033BB08
3E033CA20
3E033FA04
3E033GA03
3E035AA05
3E035AA07
3E035AA18
3E035BA02
3E035BC02
3E035CA04
3E067AA11
3E067AB01
3E067AB02
3E067AB04
3E067AB06
3E067AB10
3E067AB14
3E067BA02A
3E067BB14A
3E067BB15A
3E067BB16A
3E067BB25A
3E067BB30A
3E067BC07A
3E067CA24
3E067EA06
3E067EA35
3E067EB27
3E067EE33
3E067FA01
3E067FC01
3E067GD10
3E086AA21
3E086AB01
3E086AC07
3E086AD24
3E086AD30
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA29
3E086BB51
3E086BB90
3E086CA01
3E086CA04
3E086CA05
3E086CA22
3E086CA25
4B035LC16
4B035LE11
4B035LG57
4B035LK01
4B035LK19
4B035LP45
4B035LT16
(57)【要約】
【課題】 ヒートシール性合成樹脂の基材からなる転写包材を深絞り包装に適用して、転写剤層の剥離や割れがなく、食品添加剤を食品表面に良好に転写する。
【解決手段】 深絞り包装用のヒートシール性合成樹脂の基材に転写剤層を塗工してなり、転写剤層は食品添加剤と結合剤を含有し、当該結合剤はセルロース誘導体、二酸化ケイ素、食物繊維、炭酸カルシウムより選ばれた少なくとも2種以上の混合物である深絞り包装用の転写シートである。セルロース誘導体、二酸化ケイ素、食物繊維等の特定成分を複合的に組み合わせて結合剤に用いることで、深絞り成形で包材に外部負荷がかかっても、成形部位での転写剤層の基材からの剥離や割れを抑制でき、食品表面に円滑に転写できる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
深絞り包装用のヒートシール性合成樹脂の基材に転写剤層を塗工してなり、当該転写剤層は食品添加剤と結合剤を含有するとともに、上記結合剤はセルロース誘導体、二酸化ケイ素、食物繊維、炭酸カルシウムよりなる群から選ばれた少なくとも2種以上の混合物であることを特徴とする深絞り包装用の転写シート。
【請求項2】
結合剤が、セルロース誘導体と炭酸カルシウムの混合物、セルロース誘導体と食物繊維の混合物、又はセルロース誘導体と食物繊維と二酸化ケイ素の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の深絞り包装用の転写シート。
【請求項3】
食品添加剤が風味剤、調味料、色素、くん液、抗菌剤、保存剤、酸化防止剤から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の深絞り包装用の転写シート。
【請求項4】
転写剤層における食品添加剤と結合剤の重量比率は、食品添加剤が風味剤、調味料、色素、くん液であるとき、食品添加物:結合剤=1:0.01〜1:5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の深絞り包装用の転写シート。
【請求項5】
基材が無延伸の合成樹脂シートであり、その引張弾性率は室温で600MPa以上、且つ80℃で150MPa以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の深絞り包装用の転写シート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の転写シートにより蓋材と底材が構成され、深絞り包装機により底材を深絞り容器状に成形し、当該深絞り容器に食品を収容し、深絞り容器の開口部を蓋材でヒートシールするとともに、加熱又は水分作用により、転写シートのうちの少なくとも底材に塗工した転写剤層を食品の表面に転写することを特徴とする深絞り包装方式の食品転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は深絞り包装用の転写シート並びに当該シートを利用した深絞り包装方式の食品転写方法に関して、風味剤、調味剤などの食品添加剤を転写剤層として塗工した転写シートを深絞り包装に適用した場合、特に深絞りに伴うシート延伸部での塗工層の割れを抑制して、食品添加剤を食品表面に良好、確実に転写できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品或いは加工食品などの食品用包材においては、ガスバリア性、耐水性、耐油性、耐ピンホール性などの機能に加えて、食品の製造工程の簡素化、効率化を図り、食味、風味、保存性、或いは品質安定性などを向上するために、調味剤、風味剤、くん液、色素、抗菌剤などの食品添加剤をシート上に塗工して転写包材を作成し、包材に充填した食品の表面に塗工成分を転写することが行われている。
【0003】
そこで、転写型の食品用包材の従来技術を挙げると、次の通りである。
(1)特許文献1(特開2008−099563号公報、OCI(株)と東和化工)
繊維材層とヒートシール性合成樹脂層をヒートシール性の中間樹脂層を介して積層し、繊維材層に調味剤、風味剤、色素、くん液などの水性改質剤を塗工し、繊維材層の目の粗さと中間樹脂層の溶融粘度を調整して、ヒートシールの際に、水性改質剤の繊維材層への吸収を妨げない範囲で、溶融樹脂を繊維材層に適正に含浸させて、自動包装機にて効率的に製袋可能に構成した転写型食品包材である(請求項1〜8、段落6、15)。
【0004】
(2)特許文献2(特開2000−139401号公報、OCI(株))
合成樹脂、天然高分子系の単層フィルム又は積層フィルムの片面に可食性可塑剤を介して可食性色素層を塗工し、色素層を内側にした筒状包材を形成して、シャーリングした包材に練り肉原料を充填して加熱調理し、色素を練り肉食品の表面に転写して着色する。練り肉原料に替えて、チーズなどを適用することもできる(請求項1〜4)。
【0005】
(3)特許文献3(特開2003−310192号公報、OCI(株))
ヒートシール性の合成樹脂フィルム上に可食性色素層を塗工し、シェラックとゼインの混合物を主成分とする耐水層を上記可食性色素層の上に形成するとともに、シェラックとゼインの混合重量比率と塗工量を特定範囲に限定したプリン類用の絵柄転写フィルムであり、液状プリンに当該フィルムを接触させて加熱すると、凝固したプリンの表面に絵柄を簡便かつ鮮明に転写できるものである(請求項1〜2、段落1、7)。
【0006】
(4)特許文献4(WO2010/140550号公報、OCI(株))
耐熱性及び耐水性の合成樹脂フィルムなどの基材に着色層を塗工し、着色層が水溶性色素と結合剤を含有する食品用色素転写包材であり、水溶性色素はカラメル、カカオ色素、べにばな色素などから選ばれ、結合剤は炭酸カルシウム、澱粉類、二酸化ケイ素、卵殻カルシウム、貝殻カルシウム、酸化チタンから選ばれた少なくとも一種であり(請求項1〜9、段落17)、焼き豚、ハム、ソーセージなどの加工食品の表面にカラメルなどの水溶性色素を色流れ、色むらなしに安定して転写できる(段落8)。
【0007】
(5)特許文献5(WO95/024835号公報、OCI(株))
一方向に連続する耐熱性及び耐水性の合成樹脂フィルムなどの基材に食品素材層を連続方向に所定間隔をあけて繰り返し塗工し、基材と食品素材層の間に可食性の糊材層を有する食品素材転写シートであり(特許請求の範囲、第5頁)、転写シートの結紮用余白部で裁断し、シートの幅方向の両側部余白を接着又は抱合し、チューブ状ケーシングとし、肉原料などを充填して、加熱などにより食品素材を肉表面に転写するものである(第8頁)。
上記食品素材はコショウ、海苔、チーズ粉末、各種エキス(魚肉エキス、肉エキス、野菜エキスなど)の乾燥粉末などであり、糊材は澱粉、化工澱粉、ガム類、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースなどである(第6頁)。
【0008】
(6)特許文献6(特開2007−189997号公報、OCI(株))
耐熱性の合成樹脂などの基材シートに粉末状又は顆粒状の食品素材層を結合剤を介して塗工し、基材シートが補強性樹脂を中間層としてその表裏に特定以上の膜厚のポリオレフィンを積層した3層構造シートである食品素材転写シートであり、基材強度、シール強度、基材シールのカールなどの問題を克服して良好に転写できるものである(請求項1〜7、段落6)。
上記食品素材は調味料、風味剤、色素、保存剤、酸化防止剤などであり、結合剤はカゼイン類、ゼラチン類、ガム類、アルギン酸塩、ペクチン、マンナン、シェラックなどである(段落18〜19)。
【0009】
(7)特許文献7(特開昭57−159437号公報、大阪化学合金)
セルロース皮膜の内面に、色素、調味剤、フレーバーなどと、プルラン、ゼラチン、ガム類などの親水性高分子物質を含む皮膜形成材の内張り層を設けた食品包材である(特許請求の範囲)。
例えば、実施例1では、プルラン、アラビアゴム、アルギン酸塩と、キビ色素、レシチン、スモークフレーバーを含む内張り層を設けたセルロース包材にソーセージ原料を充填し、蒸煮してスモーク風味のソーセージを製造する(第4頁)。
【0010】
(8)特許文献8(特開平5−146261号公報、三菱レイヨン)
アルギン酸塩、ペクチン、ガム類、カラギーナンなどの水溶性多糖類とエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールを主成分とする多糖類フィルム上に、天然色素、合成色素などの可食性インクで絵柄を印刷した絵柄転写フィルムである(請求項1〜5、段落6、8、10〜11)。
例えば、実施例1では、カラギーナンとソルビトールとグリセリンを含む多糖類フィルム上にフラボノイド系天然色素インクで絵柄を印刷して絵柄転写フィルムを作成し、フライパンに流延したホットケーキミックスの上面にこの転写フィルムを張り付け、反転・加熱して、ホットケーキ上に絵柄を転写する(段落13〜14)。
【0011】
【特許文献1】特開2008−099563号公報
【特許文献2】特開2000−139401号公報
【特許文献3】特開2003−310192号公報
【特許文献4】WO2010/140550号公報
【特許文献5】WO95/024835号公報
【特許文献6】特開2007−189997号公報
【特許文献7】特開昭57−159437号公報
【特許文献8】特開平5−146261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
深絞り包装では、蓋材と底材の2種のフラットなシートを使用し、底材を金型に合わせて容器状に成形し、この成形部分に食品を入れた後、成形した容器の開口部を蓋材で覆って真空引き、或いはガス置換し、ヒートシールして封止することを基本原理としている。
即ち、深絞り包装の特徴は底材を深絞り成形により容器状に加工する点にあるが、調味剤、風味剤などの転写剤層を塗工した転写シートをこの深絞り包装に適用すると、この深絞り工程においてシートの成形部位に延伸の負荷がかかるため、シートに塗工した転写剤層は延伸の負荷に追随できずに剥離や割れを起こし、食品表面に調味剤などを確実に転写できず、転写不良を起こす問題があった。
【0013】
これを防止するためには、例えば、シャーリング工程でのストレスを前提とした上記特許文献2の包材のように、ストレスを吸収可能な可食性可塑剤の層を介して色素層を設けるなどの対応策が必要になる。
また、転写型食品包材において、基材シートが合成樹脂である場合、色素を塗工するためには、上記特許文献1に示すように、紙や不織布などの吸水性のある繊維材層を合成樹脂層の上に設けなければ、色素成分を充分に保持することは容易でないという問題があった。
【0014】
本発明は、ヒートシール性合成樹脂の基材からなる転写包材を深絞り包装に適用して、転写剤層の剥離や割れがなく、食品添加剤を食品表面に良好に転写することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、転写型食品包材を深絞り包装に適用するにあたり、上記特許文献1〜7の包材の転写剤層に用いられる結合剤を中心に鋭意研究した結果、セルロース誘導体、二酸化ケイ素、食物繊維などの特定の成分を単独で使用するのではなく、複合的に組み合わせて結合剤に用いることにより、深絞り工程で包材に外部負荷がかかっても、成形部位での転写剤層の基材からの剥離や割れを抑制できること、上記特定成分の結合剤の使用により合成樹脂の基材に対して色素を含む食品添加剤を支障なく塗工できることを見い出して、本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明1は、深絞り包装用のヒートシール性合成樹脂の基材に転写剤層を塗工してなり、当該転写剤層は食品添加剤と結合剤を含有するとともに、上記結合剤はセルロース誘導体、二酸化ケイ素、食物繊維、炭酸カルシウムよりなる群から選ばれた少なくとも2種以上の混合物であることを特徴とする深絞り包装用の転写シートである。
【0017】
本発明2は、上記本発明1において、結合剤が、セルロース誘導体と炭酸カルシウムの混合物、セルロース誘導体と食物繊維の混合物、又はセルロース誘導体と食物繊維と二酸化ケイ素の混合物であることを特徴とする深絞り包装用の転写シートである。
【0018】
本発明3は、上記本発明1又は2において、 食品添加剤が、風味剤、調味料、色素、くん液、抗菌剤、保存剤、酸化防止剤から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする深絞り包装用の転写シートである。
【0019】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、転写剤層における食品添加剤と結合剤の重量比率は、食品添加剤が風味剤、調味料、色素、くん液であるとき、食品添加物:結合剤=1:0.01〜1:5であることを特徴とする深絞り包装用の転写シートである。
【0020】
本発明5は、上記本発明1〜4のいずれかにおいて、基材が無延伸の合成樹脂シートであり、その引張弾性率は室温で600MPa以上、且つ80℃で150MPa以上であることを特徴とする深絞り包装用の転写シートである。
【0021】
本発明6は、上記本発明1〜5のいずれかの転写シートにより蓋材と底材が構成され、深絞り包装機により底材を深絞り容器状に成形し、当該深絞り容器に食品を収容し、深絞り容器の開口部を蓋材でヒートシールするとともに、加熱又は水分作用により、転写シートのうちの少なくとも底材に塗工した転写剤層を食品の表面に転写することを特徴とする深絞り包装方式の食品転写方法である。
【発明の効果】
【0022】
転写型包材を深絞り包装に適用すると、従来では、底材を深絞り成形した際に、成形時の外力により食品添加物が基材から部分剥離や割れを起こすため、食品添加剤が食品表面に確実に転写せず、転写不良を起こしていた。
これに対して、本発明の転写シートでは、セルロース誘導体、二酸化ケイ素、食物繊維などの特定成分の複合的な組み合わせを結合剤として選択することにより、転写剤層を基材に柔軟に保持でき、深絞り成形の際に基材に延伸作用が働いても、転写剤層はその延伸しようとする基材に円滑に追随するため、深絞り包装に適用しても食品添加剤の部分剥離や割れを抑制できる。
また、基材に無延伸で引張弾性率(室温及び80℃の高温)が特定以上の合成樹脂シートを選択すると、上記深絞り成形部位の部分剥離や割れの抑制作用を一層向上できる。
さらに、上記特定成分の結合剤の使用により合成樹脂の基材に対して色素を含む食品添加剤も支障なく塗工できるため、前記特許文献1のような紙や不織布などの吸水性のある繊維材層を合成樹脂層の上に介在させるなどの必要はなく、生産性が高い。
このため、本発明の転写シートを深絞り包装に適用した場合、底材を容器状に深絞り成形した部位にハム、チーズ、かまぼこ等の食品を投入し、深絞り容器の開口部を蓋材で真空・ヒートシールして封止すると、加熱や水分作用により風味剤、調味料、色素などの食品添加剤を食品表面に確実、良好に転写できる。
【0023】
前記特許文献4の色素転写包材では、着色層に含まれる結合剤は炭酸カルシウム、澱粉類、二酸化ケイ素、卵殻カルシウム、貝殻カルシウム、酸化チタンから選ばれた少なくとも一種を開示するが(請求項3、段落17)、包材を製造する具体的な実施例1〜8の結合剤に着目すると、実施例1は炭酸カルシウム、実施例2は澱粉、実施例3は二酸化ケイ素、実施例4は貝殻カルシウム、実施例5は澱粉、実施例6は炭酸カルシウム、実施例7は澱粉、実施例8は炭酸カルシウムであり、いずれも成分を単独で使用しており、複合的な組み合わせによる成分の使用はない。
尚、上記実施例5〜8では、結合補強剤としてのセラックを結合剤に補助添加している(段落18)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、第一に、深絞り包装用のヒートシール性合成樹脂の基材に、食品添加剤と結合剤を含有する転写剤層を塗工し、複合的に組み合わせた特定成分を当該結合剤に選択した深絞り包装用の転写シートであり、第二に、上記転写シートを深絞り包装に適用したもので、深絞り包装に用いるフラットな底材と蓋材が上記転写シートであって、底材を容器状に深絞り成形して、深絞り容器の開口部に食品を投入し、蓋材でヒートシールして封止し、加熱又は水分作用により、食品表面に食品添加剤を転写する深絞り包装方式の転写方法である。
【0025】
本発明の転写シートを構成する基材は、深絞り包装に用いるヒートシール性の合成樹脂シートであり、具体的には、深絞り包装でのフラットな底材と蓋材として夫々用いることができる。
ヒートシール性の合成樹脂シートはヒートシール性を有する合成樹脂層を少なくとも1層具備するシートであり、単層シート、積層シートのいずれでも良く、積層シートでは一方の外層にヒートシール性の合成樹脂層が配置される。
ヒートシール性を有する合成樹脂としては、例えば、各種のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、アイオノマー等のポリオレフィンが挙げられる。また、非相溶性のポリオレフィン樹脂2種類を混合することにより、手で容易に開封できる易開封性を包材に付与でき、例えば、ポリエチレンにポリプロピレンを混合した系、ポリエチレンにポリブテンを混合した系などが挙げられる。
ヒートシール性の合成樹脂シートにおいては、ヒートシール性の合成樹脂層に他種の合成樹脂層を積層したシートが好ましい。ヒートシール性合成樹脂層に積層する樹脂を例示すると、シートに剛性や強度を付与する目的では、各種のポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアミド(PA)(例えば、ナイロン(Ny))、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性エラストマーなどが挙げられ、また、ガスバリア性を付与する目的では、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)、メタキシレンジアミンナイロン(MXNy)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、環状ポリオレフィン(COP)などが挙げられる。積層においては、適宜、各層間に接着性樹脂層を配することにより、層間密着性を良好に保つこともできる。
積層シートにおける層構成を例示すると、PA(Ny)/ポリオレフィン(PE、PP)の2層シート、ポリオレフィン/PA/ポリオレフィンの3層シート、ポリエステル/EVOH/PA/PEの4層シートなどである。
特に、ヒートシール性の点から一方の外層にPEを主成分とした層、深絞りの点から中間層にPA層、ガスバリア性の点から中間層にEVOH層を配置し、共押出方式で成膜した積層シートは、本発明の食品用深絞り包材として好適である。また、深絞り包装機にかける場合、ロール巻きにした転写シートを引き出して使用することから、ヒートシール性合成樹脂層とは反対側の他方の外層にPP層を配置すると、ロール巻きした際にヒートシール性合成樹脂層の側に塗工した転写剤がシートの逆面側へ付着する「裏移り」を防止するとともに、シート全体の剛性を向上することができる。さらに、食品を充填した包装容器をボイル処理しない場合には、他方の外層にグリコール変性ポリエステル(PETG)層を配置すると、カールすることなく良好なハリ及び透明外観性を転写シートに付与できる。
上記基材は深絞り包装に適用する合成樹脂シートであり、転写処理には室温下での水分転写と加熱転写が含まれるため、深絞り成形時に伸び易い性質を担保する点から、基材は無延伸が好ましく、また、引張弾性率(室温、加熱時の80℃)も適正値以上のものが好ましい。
上記引張弾性率については、室温で600MPa以上、且つ(加熱時の)80℃で150MPa以上に設計すると、深絞り成形部位の部分剥離や割れをより一層抑制でき、また、加熱工程での転写ピッチを安定させることができる。より好ましい引張弾性率は、室温で700MPa以上、更に好ましくは800MPa以上であり、80℃では、200MPa以上、更に好ましくは250MPa以上である。
但し、本発明の合成樹脂シートの引張弾性率は、島津製作所製オートグラフAGS−Xを用い、シート幅5mm、チャック間距離300mm、引張速度5mm/分の条件で測定し、シートの縦方向と横方向の測定値の平均値から得られる数値である。
また、合成樹脂シートのうちの転写剤層を塗工する内面をコロナ放電などで粗面化すると、転写剤層の付着力を向上することができる。
尚、本発明の転写シートは、深絞り包装の底材と蓋材の両方に用いることができるが、深絞り成形した底材と平らな蓋材を組み合わせる場合、蓋材の側は深絞りのようなストレスが負荷されないため、延伸フィルムを用いた積層体を選択することができる。延伸フィルムを用いた積層体としては、例えば、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、二軸延伸ナイロンフィルム、無機蒸着二軸延伸ポリエステルフィルムなどの延伸フィルムと、ヒートシール性を有する低密度ポリエチレンなどのポリオレフィン系フィルムとを積層したものなどが挙げられる。ポリオレフィン系フィルムの表面にはコロナ処理を施すと良い。蓋材に転写剤層を塗工する場合、ヒートシール性のポリオレフィン系フィルムに調味剤、風味剤などの転写剤層を形成することもできるし、延伸フィルムに商品説明や宣伝用の顔料・染料印刷を施すこともできる。
【0026】
基材となる合成樹脂シートに塗工させる転写剤層は食品添加剤と結合剤を含有する。
上記食品添加剤は、調味料、風味剤、色素、くん液、抗菌剤、保存剤、酸化防止剤から選ばれ、これらを単用又は併用できる。
上記調味剤としては、香辛料抽出物、醤油、ウスターソース、みそ、焼肉タレ、ニンニク、粉末のり、粉末ゴマ、ペパー(黒胡椒など)、ジンジャー、チリ、ナツメグ、パプリカ、キャラウェー、ハツカ、ワサビ、酵母エキス、肉エキス、カニエキス、カツオエキス、グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、食塩、砂糖などの天然調味料、燻結晶、炒り麦粉、粉末チーズ、バター、マーガリン、お茶類などが挙げられる。
上記風味剤としては、スモークフレーバー、バナナ、イチゴ、オレンジ、メロン等の果汁フレーバー、ビーフフレーバー、ポークフレーバー、チキンフレーバー、カツオフレーバー、ウメフレーバーなどが挙げられる。
上記色素としては、アナトー、コウリャン、シアナット、ウコン、モナスカス、カカオ、ベニバナ、クチナシ、コチニール、クロレラ、スピルリナ、カラメル、シソ、タマネギ、アカネなどの天然色素、食用赤色2号、3号、102号、106号、同黄色4号、5号、同青色1号などの合成色素が挙げられる。
上記くん液は食品に主にスモーク臭と保存性を付与する液状、或いは粉末状のもので、市販品としてはゼスティースモーク(ケリー社製)、チャーデックス、エンビロ(以上の2品はレッドアロー社製)などがある。
上記保存剤としては、ソルビン酸類、デヒドロ酢酸、安息香酸、或はこれらの塩、プロタミンなどが挙げられる。
上記抗菌剤はいわば鮮度保持剤であり、からし、わさび、これらの抽出物、抗菌性カルシウム、ポリリジン、キトサン、グレープフルーツ種子抽出物などのような、保存剤より機能が緩いが、短期の制菌作用を有するものをいう。
上記酸化防止剤としては、トコフェロール、没食子酸プロピルなどのポリフェノール類、グアヤク脂、L−アスコルビン酸、各種フラボノイド類などが挙げられる。
【0027】
上記結合剤は食品添加剤を包材の内面に担持するためのもので、セルロース誘導体、二酸化ケイ素、食物繊維、炭酸カルシウムよりなる群から選ばれた成分を複合的に組み合わせたもので、少なくとも2種以上の混合物からなる。この点で、類似の成分を単独使用した実施例1〜8が開示されている前記特許文献4とは異なる。
結合剤の適した組み合わせとしては、セルロース誘導体と炭酸カルシウムの混合物、セルロース誘導体と食物繊維、セルロース誘導体と食物繊維と二酸化ケイ素の混合物などであり、より好ましくはセルロース誘導体と炭酸カルシウムの混合物、セルロース誘導体と食物繊維と二酸化ケイ素の混合物である。
上記セルロース誘導体は、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)などである。
上記炭酸カルシウムは卵殻カルシウム、貝殻カルシウムなどを包含する概念である。
上記食物繊維はペクチン、グルコマンナン、アルギン酸塩、カラギーナン、アガロース、難消化性デキストリン、或いは誘導体でない天然系セルロースなどを包含する概念であり、天然難消化性デキストリンが好ましい。
上記二酸化ケイ素としては微粒二酸化ケイ素が好ましい。
【0028】
転写剤層における食品添加剤と結合剤の重量比率は、食品添加剤が風味剤、調味料、色素、くん液であるとき、好ましい重量比率は、食品添加物:結合剤=1:0.01〜1:5、より好ましくは1:0.1〜1:2であり、当該重量比率は選択する食品添加剤により変移する。
例えば、食品添加剤がくん液の場合、好ましい重量比率は、くん液:結合剤=1:0.14、さらに好ましくは、くん液:結合剤=1:0.17である。
食品添加剤に対して結合剤が適正比率より少ないと深絞り包装に際して転写剤層の部分剥離や割れが発生し易くなり、結合剤が適正比率より多いと食品添加剤の比率が低下して風味などが弱くなり、また、転写剤層を塗工する際の粘度が増して印刷適性(塗工適性)が損なわれる弊害がある。
尚、上記結合剤にセラックなどの結合補強剤を補助添加しても良いが、転写剤の経時安定性を保持するために、当該補強剤の比率を抑制することが好ましい。
【0029】
上記本発明6は上記転写シートを深絞り包装に適用した転写方法であり、図1はこの深絞り包装の概略工程図である。
図1に基づいて転写シートを用いた深絞り包装方法を概説すると、フラットな転写シートにより蓋材と底材を構成し、深絞り包装機の巻き取りロールから引き出された底材は加熱真空成形エリアの成形金型で加熱されて深絞り容器状に成形され、充填エリアで当該深絞り容器にハム、ソーセージ、チーズなどの食品がこの容器に充填され、シールエリアで別の巻き取りロールから引き出された蓋材が上記深絞り容器に合流し、シール金型により深絞り容器の開口部と蓋材がヒートシールされ、横方向と縦方向のカット装置でパッケージがカッティングされる。
前述したように、深絞り容器の開口部に蓋材をヒートシールする場合、実際には真空引きやガス置換を施すが、本発明のように、転写シートを深絞り包装に適用する場合には、真空包装することが好ましい。
また、深絞り包装に際しては、蓋材と底材の両方のシートに転写剤層を塗工することが好ましいが(図1では両材に塗工)、底材だけに転写剤層を塗工しても、食品表面は底材からなる深絞り容器の内壁に広い面積で直接的、或いは近接的に接するため、食品への風味、食味付けに問題はない。
【0030】
食品表面への転写方法は、加熱による転写と、水分作用による転写の2方式に分かれ、水分転写では、食品自体の水分により食品添加剤は転写シートから食品表面に転写され、他方の加熱転写では、カッティング・エリアの搬送下流側に設けた転写用ヒート装置で加熱されて食品添加剤は転写シートから食品表面に転写される。加熱は蒸し、湯煮(ボイル加熱)などにより行う。
転写剤層を塗工する対象部位は、蓋材と底材の一方、或いは両方のいずれに塗工しても良く、実際的な見地から食品に調味、風味などを付与するには、少なくとも底材に塗工すれば足りる。
深絞り容器に収容する食品としては、ハム、ソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、かまぼこなどの食肉加工品、チーズ類、ゆで卵、卵焼き、焼き魚、魚介類の干物、生肉、生魚(三枚下ろしの切り身、刺し身等)などが挙げられる。
【0031】
この深絞り容器への収容に適した食品の調製方法を簡単に述べると、例えば、上記干物では、サンマ、アジ、ホッケ等の魚のエラ・内臓を取り除き、開いた後に塩水に浸漬して芯まで塩が回ったら取り出し、表面の塩を洗い流して水分を拭き取り、干して表面を乾燥させて調製される。チーズ、ソーセージ、ハンバーグについては後述の実施例で述べる。
このうち、生肉、生ハンバーグ、生ミートボール、生魚、食肉加工品、チーズ類、干物などの非加熱で販売される食品は、各食品に含まれる水分で深絞り容器を構成する転写シートから食品の表面に食品添加剤が転写される。
一方、食肉加工品、ハンバーグ、ミートボール、焼魚、ゆで卵、卵焼きなどのように加熱調理して販売される食品については、加熱調理後に深絞り包装した場合には二次殺菌的な加熱により転写され、また、深絞り包装後に加熱調理する場合にはこの加熱に伴って転写される。
この深絞り包装方式の転写方法においては、食品を収容した深絞り成形容器と蓋材をシール金型でヒートシールする際に、真空引きを同時に行って、食品の表面を容器の内面に密着させて調味剤や風味剤などの食品添加剤を食品側に転写するが、他方、空引きなしでヒートシールを行い、食品表面と容器内面とが必ずしも密着しない状態であっても食品添加剤を良好に転写することができる(特に、水分転写の場合)。例えば、風味剤などを塗工した転写シートの深絞り容器に、チーズ、ハム・ソーセージを初め、干物や魚の切り身などの食品を密着状でなく投入することで、これらの食品表面に円滑に風味付けをすることができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の深絞り包装用の転写シートの製造例、上記製造例で得られた転写シートを用いた深絞り包装方法の実施例、上記転写シートを用いた各種転写評価試験例を順次述べる。
尚、本発明は下記の製造例、実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0033】
《深絞り包装方式の食品添加剤の転写実施例》
実施例1〜5のうち、実施例1〜2は結合剤にセルロース誘導体と炭酸カルシウムを使用した例、実施例3〜5は同じくセルロース誘導体と食物繊維と二酸化ケイ素の混合物を使用した例である。実施例1〜2は深絞り容器に投入する食品がチーズであり、水分転写した例、実施例3〜4は食品が共にソーセージであり、実施例3は生のソーセージ生地に加熱転写した例、実施例4は加熱済みソーセージに水分転写した例である。実施例5は生のハンバーグに加熱転写した例である。実施例6〜9は実施例1を基本としたもので、実施例6は転写シートの引張弾性率が実施例1より大きな例であり、実施例7は実施例1に対して引張弾性率が室温(23℃)では少し小さく、高温(80℃)では少し大きな例であり、実施例9は転写シートの引張弾性率が実施例1より小さな例である。実施例8は底材だけではなく、蓋材にも転写剤層を塗工した例である(他の実施例では底材のみに転写剤層を塗工した)。
一方、比較例1〜5のうち、比較例1と5は結合剤として食物繊維を単用した例であり、比較例5は食物繊維を比較例1より増量した例である。比較例2は同じく二酸化ケイ素を単用した例である。比較例3〜4はセルロース誘導体を単用した例であり、比較例4は比較例3よりセルロース誘導体を増量した例である。尚、前述したように、比較例3〜5で使用したセラックは結合補強剤である。
尚、上記実施例及び比較例では、深絞り成形容器は各食品に適した形状(底の深さなど)、或いは大きさに調整された。
【0034】
(1)実施例1
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
香辛料抽出物 20.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 10.0重量%
炭酸カルシウム 5.0重量%
エタノール 65.0重量%
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
内層のヒートシール層としてPE(膜厚40μm)、ポリエチレン系接着性樹脂層(膜厚10μm)、中間層にNy(膜厚20μm)とEVOH(膜厚10μm)、ポリプロピレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、外層としてPP(膜厚30μm)を順次積層して共押出無延伸シートを作成し、PEの内層表面にコロナ処理を施して、ヒートシール性の合成樹脂シートAを製造した。合成樹脂シートAの引張弾性率は、23℃で790MPa、80℃で190MPaであった。
次いで、前記転写剤を上記合成樹脂シートAに塗工量15.4g/m2で塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
先ず、原料ナチュラルチーズをスクレッパーにより、表面のパラフィン、カビ等を除去し、カッターで粗くカットした後、チョッパーにて4〜5mmの細粒に粉砕し、ローラー磨砕機にかけ乳化釜により加温し、その他配合原料を添加して乳化を行い、冷却、成形してプロセスチーズを得た。
そして、前記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦130mm、横30mm、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記チーズを充填、真空包装し、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0035】
(2) 実施例2
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液粉末 21.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 10.0重量%
炭酸カルシウム 5.0重量%
エタノール 64.0重量%
上記くん液粉末はチャーデックス(レッドアロー社製)を使用した。
次いで、上記転写剤を前記実施例1の合成樹脂シートAに塗工量22.2g/m2で塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様に、上記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦130mm、横30mm、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記チーズを充填、真空包装し、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0036】
(3)実施例3
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液 63.0重量%
微粒二酸化ケイ素 4.0重量%
食物繊維 6.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 1.0重量%
エタノール 26.0重量%
上記くん液は前記実施例2の粉末状のくん液とは異なり、液状のくん液であって、ゼスティースモーク(ケリー社製)とエンビロ(レッドアロー社製)の混合液を使用した。
上記食物繊維は天然木材由来のセルロース精製品を使用した。
ヒドロキシプロピルセルロースは実施例1と同じである。
次いで、上記転写剤を前記実施例1の合成樹脂シートAに塗工量28.8g/m2で塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
先ず、原料肉をチョッパー処理し、リン酸塩、亜硝酸塩などを添加してサイレントカッターで混練し、豚脂、調味料の順に添加した後、均質なエマルジョン状態になるまでカッターで混練を続けて生のソーセージ練り生地を得た。
そして、前記実施例1と同様に、上記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦130mm、横30mm、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記生のソーセージ練り生地を充填、真空包装し、加熱転写にてソーセージにくん液の風味を付与した。
【0037】
(4)実施例4
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
ポリリジン溶解液 90.0重量%
微粒二酸化ケイ素 5.0重量%
食物繊維 3.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 2.0重量%
上記ポリリジン溶解液は抗菌剤であるポリリジンを精製水に溶解した液である。
上記食物繊維は実施例3と同じであり、ヒドロキシプロピルセルロースは実施例1と同じである。
次いで、上記転写剤を前記実施例1の合成樹脂シートAに塗工量21.0g/m2で塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例3と同様に原料肉を処理して、生のソーセージ練り生地を調製した。次いで、羊腸などのチューブ包材にこの練り生地を充填して加熱調理し、加熱済みソーセージを得た。
そして、前記実施例1と同様に、上記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦130mm、横30mm、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記加熱済みソーセージを充填、真空包装し、水分転写にてソーセージに抗菌効果を付与した。
【0038】
(5)実施例5
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
酵母エキス 20.4重量%
微粒二酸化ケイ素 5.0重量%
食物繊維 5.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 0.4重量%
水 69.2重量%
上記食物繊維は実施例3と同じであり、ヒドロキシプロピルセルロースは実施例1と同じである。
次いで、上記転写剤を前記実施例1の合成樹脂シートAに塗工量20.9g/m2で塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
先ず、牛肉、牛脂、豚肉を6mmチョッパー処理し、全卵・オニオンソテー・食塩・香辛料などと良くミキサーで混練した後、パン粉を添加混合して生地を調整し、ハンバーグ生地を製造した。
そして、前記実施例1と同様に、上記転写シートを深絞り包装機(東京食品機械(株)製、R535)にかけて縦90mm、横70mmの長円形で、深さ25mmの深絞り容器に成形した後、上記生のハンバーグ生地を充填、真空包装し、加熱転写にてハンバーグに酵母エキスの味付けをした。
【0039】
(6)実施例6
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
内層のヒートシール層としてPE(膜厚30μm)、ポリエチレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、中間層にNy(膜厚30μm)、ポリプロピレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、外層としてPP(膜厚50μm)を順次積層して共押出無延伸シートを作成し、PE層表面にコロナ処理を施して、ヒートシール性の合成樹脂シートBを製造した。合成樹脂シートBの引張弾性率は、23℃で1000MPa、80℃で270MPaであった。
次いで、前記実施例1と同様の条件で、上記合成樹脂シートBに転写剤層を塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様の条件で、上記転写シートを深絞り包装機にかけて、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0040】
(7)実施例7
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
内層のヒートシール層としてPP(膜厚40μm)、ポリプロピレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、中間層にEVOH(膜厚10μm)、外層としてNy(膜厚40μm)を順次積層して共押出無延伸シートを作成し、PP層表面にコロナ処理を施して、ヒートシール性の合成樹脂シートCを製造した。合成樹脂シートCの引張弾性率は、23℃で750MPa、80℃で200MPaであった。
次いで、前記実施例1と同様の条件で、上記合成樹脂シートCに転写剤層を塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様の条件で、上記転写シートを深絞り包装機にかけて、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0041】
(8)実施例8
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
底材に上記実施例1の合成樹脂シートAを用いるとともに、蓋材として、コロナ処理を施した直鎖状低密度PEフィルム(内層、膜厚40μm)とアルミナ蒸着二軸延伸フィルム(膜厚12μm)と二軸延伸PPフィルム(膜厚30μm)とをウレタン系接着剤を用いてドライラミネートした積層シートを用いて、実施例1と同様の条件で、底材と蓋材の両方に転写剤層を塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様の条件で、上記底材と蓋材からなる転写シートを深絞り包装機にかけて、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0042】
(9)実施例9
[合成樹脂シート及び転写シートの製造例]
内層のヒートシール層としてPE(膜厚70μm)、ポリエチレン系接着性樹脂(膜厚10μm)、外層にNy(膜厚40μm)を順次積層して共押出無延伸シートを作成し、PE層表面にコロナ処理を施して、ヒートシール性の合成樹脂シートDを製造した。合成樹脂シートDの引張弾性率は、23℃で400MPa、80℃で100MPaであった。
次いで、前記実施例1と同様の条件で、上記合成樹脂シートに転写剤層を塗工して、転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様の条件で、上記転写シートを深絞り包装機にかけて、水分作用による転写にてチーズに香辛料の風味を付与した。
【0043】
(6)比較例1
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液 70.0重量%
食物繊維 6.0重量%
エタノール 24.0重量%
上記転写剤を製造し、前記合成樹脂シートAに塗工して転写シートを作成したが、当該合成樹脂シート上で転写剤が充分に乾燥せず、ベタつきが生じた。
この結果、当該転写シートを巻き取ると、転写剤が裏移りして、いわゆるブロッキングを起こしたため、深絞り包装機に掛けることができなかった。
従って、上記転写シートを深絞り包装機に適用した以後の評価試験は行なわなかった。
【0044】
(8)比較例2
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液 70.0重量%
微粒二酸化ケイ素 4.0重量%
エタノール 26.0重量%
上記転写剤を製造し、前記合成樹脂シートAに塗工して転写シートを作成したが、当該合成樹脂シート上で転写剤が充分に乾燥せず、ベタつきが生じた。
この結果、当該転写シートを巻き取ると、転写剤が裏移りして、いわゆるブロッキングを起こしたため、深絞り包装機に掛けることができなかった。
従って、上記転写シートを深絞り包装機に適用した以後の評価試験は行なわなかった。
【0045】
(9)比較例3
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
くん液 65.50重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 0.45重量%
セラック 5.00重量%
エタノール 29.05重量%
上記転写剤を製造したが、転写剤の経時安定性が悪くてセラックの沈殿が生じ、均一な相を形成しなかった。
従って、転写剤層を基材シートに塗工することができず、以後の評価試験は行なわなかった。
【0046】
(10)比較例4
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
粉末調味料 20.0重量%
ヒドロキシプロピルセルロース 10.0重量%
セラック 5.0重量%
エタノール 65.0重量%
上記粉末調味料はチャーデックス(レッドアロー社製)を使用した。
次いで、上記転写剤を前記合成樹脂シートAに塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様に、上記転写シートを用いて深絞り包装機にかけたところ、深絞り成形工程において、容器状に成形しようとした転写シート(底材)から加熱プレートに転写剤の色移りが見られた。尚、前述したように、深絞り成形は熱可塑性合成樹脂を加熱により容器状に成形することを基本とする。
上述の通り、色移りは見られたが、深絞り包装の作業を継続して、深絞り容器にチーズを投入し、蓋材のヒートシールで充填、真空包装して、水分転写によりチーズに調味付与を行った。
【0047】
(11)比較例5
[転写剤の製造例]
下記の組成で転写剤を調製した。
粉末調味料 20.0重量%
食物繊維 10.0重量%
セラック 5.0重量%
エタノール 65.0重量%
上記粉末調味料は上記比較例4と同じであり、上記食物繊維は前記実施例3と同じである。
次いで、上記転写剤を上記合成樹脂シートAに塗工して転写シートを作成した。
[深絞り包装による転写例]
前記実施例1と同様に、上記転写シートを用いて深絞り包装機にかけたところ、深絞り成形工程において、容器状に成形しようとした転写シート(底材)の延伸部で、塗工した転写剤がその延伸作用によって底材に追随できず、転写剤層に割れが生じた。
上述の通り、割れが発生したが、深絞り包装の作業を継続して、深絞り容器にチーズを投入し、蓋材のヒートシールで充填、真空包装して、水分転写によりチーズに調味付与を行った。
【0048】
そこで、上記実施例1〜9並びに比較例1〜5で得られた各転写シート並びに深絞り包装機への適用について、以下の深絞り包装方式の各種転写試験を行って、総合的な評価を行った。
但し、前述したように、比較例3は以下の評価試験(2)〜(4)を行わず、比較例1〜2は以下の評価試験(3)〜(4)を行わなかった。
【0049】
《深絞り包装方式の転写試験例》
(1)転写剤の経時安定性
実施例1〜9並びに比較例1〜5で得られた各転写剤について、調製後1時間を経た後の相分離や沈殿の有無を観察し、次の基準で転写剤の経時安定性の優劣を評価した。
○:1時間経過後も均一な相を保持していた。
×:1時間経過後、又はそれ以前に相分離を起こし、或いは一部が沈殿して、不均一状態を呈した。
【0050】
(2)転写シートの印刷適性
実施例1〜9及び比較例1〜5で得られた各転写剤を基材に塗工した転写シートについて、転写シートを巻き取り操作した際に、転写剤の裏移りの有無、並びに裏移りに起因してシート同士がくっつくブロッキングの有無を観察し、次の基準で印刷適性(塗工適性)の優劣を評価した。
○:裏移り、ブロッキングが共になし。
×:裏移り、ブロッキングのいずれか、或いはその両方あり。
【0051】
(3)転写シートの深絞り成形適性
実施例1〜9及び比較例1〜5で得られた各転写シートについて、転写シートを深絞り包装機にかけた場合に、深絞り成形工程での不具合の有無を観察して、次の基準で深絞りの成形適性の優劣を評価した。但し、上記不具合は下記(a)及び(b)の2点を主眼に判断した。
(a)加熱成形時の加熱プレートへの転写剤の付着の有無。
(b)転写剤層の割れの有無。
○:上記(a)の転写剤の付着も、上記(b)の割れも認められなかった。
×:上記(a)の転写剤の付着と上記(b)の割れの一方、或いは両方が認められた。
【0052】
(4)深絞り包装での転写適性
実施例1〜9及び比較例1〜5で得られた各転写シートを深絞り包装機にかけて、加熱或いは水分転写を行い、包装容器から取り出した食品を観察して、次の基準で食品表面への食品添加剤の転写の優劣を評価した。
○:良好に転写されていた。
△:一部に転写不良が認められた。
×:全体に転写不良であった。
【0053】
下表はその転写試験の結果である。
尚、「−−」は試験を行っていないことを意味する。
経時安定性 印刷適性 成形適性 転写適性
実施例1 ○ ○ ○ ○
実施例2 ○ ○ ○ ○
実施例3 ○ ○ ○ ○
実施例4 ○ ○ ○ ○
実施例5 ○ ○ ○ ○
実施例6 ○ ○ ○ ○
実施例7 ○ ○ ○ ○
実施例8 ○ ○ ○ ○
実施例9 ○ ○ ○ △
比較例1 ○ × −− −−
比較例2 ○ × −− −−
比較例3 × −− −− −−
比較例4 ○ ○ × △
比較例5 ○ ○ × △
【0054】
《転写シートを深絞り包装に適用した際の転写試験の総合評価》
上表を見ると、セルロース誘導体の単独使用では結合剤として機能不足なので、比較例3はセラックを結合補強剤として補助添加したが、当該比較例3にあっても転写剤の経時安定性に劣り、以後の評価試験ができなかった。
結合剤として食物繊維を単独使用した比較例1、二酸化ケイ素を単独使用した比較例2では、共に転写シートの巻き取り時に転写剤が裏移りするため、印刷適性が劣った。
また、比較例4はセルロース誘導体にセラックを結合補強剤として補助添加した点で比較例3と共通するが、セルロース誘導体の含有量を増したことで経時安定性は改善されたが、深絞り成形工程で転写剤の色移りが見られて成形適性に劣り、結果として一部に転写不良が認められた。
セルロース誘導体に替えて食物繊維を使用し、セラックを補助添加した比較例5では、深絞り成形工程で転写剤層の割れが見られて成形適性に劣り、やはり比較例4と同様に部分的な転写不良が認められた。
【0055】
これに対して、結合剤としてセルロース誘導体と炭酸カルシウムの混合物を使用した実施例1〜2、二酸化ケイ素と食物繊維とセルロース誘導体の混合物を使用した実施例3〜5では、経時安定性、印刷適性並びに成形適性に優れ、これに伴い食品表面に食品添加剤を良好に転写できた。
引張弾性率の高い合成樹脂シートを用いた実施例6では、塗工工程でのシートの伸びが少なく、塗工条件の調整が更に容易であった。逆に、実施例6に比べて引張弾性率の低い合成樹脂シートを用いた実施例9では、塗工のピッチずれが少し生じ、深絞り成型の金型と塗工部にズレが発生したため、食品の一部に転写不良が認められたが、商品として問題なかった。
このため、合成樹脂の基材シートに食品添加剤を塗工した転写シートを深絞り包装に適用する場合、転写適性を良好に担保するためには、食物繊維や二酸化ケイ素などを結合剤に単用する場合に比べて、セルロース誘導体と炭酸カルシウムの混合物、二酸化ケイ素と食物繊維とセルロース誘導体の混合物などの特定の組み合わせから選択された結合剤を使用することの顕著な優位性が裏付けられる。
特に、セルロース誘導体にセラックを補助添加した比較例4〜5では、経時安定性並びに印刷適性には優れるが、成形適性に問題があり、結果的に一部に転写不良を起こすことから、セルロース誘導体を結合剤に使用する場合でも、本発明のように、良好な転写適性を達成するには、その相手方にセラックなどの結合補強剤ではなく、炭酸カルシウム、或いは二酸化ケイ素と食物繊維の複合などの特定の成分を選択することが重要である。
また、合成樹脂の基材シートに引張弾性率の高いシートを用いると、塗工ピッチが安定するため、深絞り成型での金型と塗工部のズレの発生を防止して、食品表面に食品添加剤を良好に転写できる。
【0056】
実施例1〜5では、各種の調味剤、くん液などの食品添加剤を様々な食品に転写しているが、本発明の転写シートを深絞り包装に適用すると、加熱によっても、また、水分作用によっても転写シートに塗工した食品添加剤を食品表面に円滑に転写できることが分かる。
特に、生のソーセージ生地に加熱転写した実施例3、加熱済みソーセージに水分転写した実施例4に着目すると、転写される側の食品は生の原料であっても、加熱済みの食品であっても、共に優れた転写適性を具備していることが分かる。
従って、深絞り包装容器に投入できる食品は生の食品、加熱加工品を問わず、また、転写方式も加熱転写と水分転写のいずれも可能であるため、適用できる食品のバリエーションが広がるとともに、転写操作の自由度も良い。
しかも、冒述の特許文献1では、紙や不織布などの吸水性のある繊維材層を合成樹脂層の上に介在させているが、本発明では、特定成分を組み合わせた結合剤の使用により合成樹脂の基材に対して色素などを含む食品添加剤を支障なく塗工できるため、基材シートを複雑な構造にする必要はなく、転写シートの作成並びに転写作業の両面において生産性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】転写シートを用いた深絞り包装の概略工程図である。
図1