特開2016-102172(P2016-102172A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-102172(P2016-102172A)
(43)【公開日】2016年6月2日
(54)【発明の名称】焼成鉛筆芯
(51)【国際特許分類】
   C09D 13/00 20060101AFI20160502BHJP
   B43K 19/02 20060101ALI20160502BHJP
【FI】
   C09D13/00
   B43K19/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-241967(P2014-241967)
(22)【出願日】2014年11月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000005511
【氏名又は名称】ぺんてる株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉森 潤
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039BA03
4J039BA07
4J039BA17
4J039BA24
4J039BC29
4J039BD04
4J039CA09
4J039DA03
4J039DA05
4J039DA06
4J039EA19
4J039EA48
4J039GA30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】焼成により得られる鉛筆芯では、潤滑効果の高い主材を用いなければ芯体の崩れを良くし、濃い筆記線を得られなかったが、主材が純黒色ではなく光も強く反射するため、光の反射が強く出た黒灰色の筆跡になってしまう問題があった。濃い濃度で反射の少ない、黒色の筆記線の焼成鉛筆芯の提供。
【解決手段】黒鉛及び/又は窒化ホウ素と鉄塩との結晶層間化合物を配合した焼成芯体の含浸成分中にフェノール類含有する焼成鉛筆芯を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛及び/又は窒化ホウ素と、鉄塩との結晶層間化合物を配合した焼成芯体の気孔にフェノール類を配置した焼成鉛筆芯。
【請求項2】
前記鉄塩の鉄が3価であると共に、前記フェノール類が没食子酸である請求項1に記載の焼成鉛筆芯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配合物を、混練、細線状に押出成形後、焼成温度まで熱処理を施して得られる焼成鉛筆芯に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な焼成鉛筆芯は、黒鉛と合成及び/又は天然樹脂とを基本に、これに必要に応じてフタル酸エステル等の可塑剤、メチルエチルケトン等の溶剤、ステアリン酸などの滑材、窒化ホウ素、タルク、雲母、カーボンブラック、無定形シリカ等の顔料や体質材を併用し、これらの配合材料を分散混合および混練して、細線状に押出成形した後、焼成温度まで熱処理を施し、得られた焼成芯体の気孔中に流動パラフィン、シリコーンオイルなどの油状物を含浸させて得られている。
【0003】
黒鉛は、着色成分であると共に、劈開性を有し、また、表面が不活性であることから、焼成鉛筆芯に用いた際に周囲の有機物との結び付きが少なく、芯体より離脱し易いので潤滑性の高い筆記感を得ることができる。しかし、その筆跡は黒鉛のベーサル面が紙面と平行に並ぶことにより光の反射が強く、黒灰色の金属光沢を有する筆跡になってしまう問題があった。
【0004】
そこで、この筆跡の色を反射率の低い純粋な黒色に近づけようとする試みが種々なされており、カーボンブラックのような黒色顔料を副着色材として併用して、筆記線をより黒色に近づけようとする試みもなされている。しかし劈開性や表面滑性のない顔料を使用するとバインダー樹脂炭化物との結合で芯体は崩れ難くなるので、結局濃度の薄い筆記線しか得られず、筆記線の黒さを感じられないものとなってしまう。
【0005】
そこで、黒鉛や、黒鉛同様に劈開性と潤滑性を有する窒化ホウ素を用いて、成形後焼成処理した芯体への、含浸処理により筆跡の濃度を改善する手法が種々報告されている。
【0006】
例えば、特開昭53−074922号公報(特許文献1)に記載の発明は、焼成芯にゾル溶液又は有機チタン化合物又は金属化合物を含浸乾燥後、染料溶液又は金属錯塩を形成する配位子成分を含む溶液を含浸乾燥させ着色物を付与する方法、金属化合物と配位子成分を含む溶液を含浸乾燥させ着色物を付与する方法が開示されており、例えば金属化合物として二価の銅、ニッケル、コバルト、鉄等の塩、三価の鉄塩、四価のバナジウム塩、六価のモリブデン酸塩等が挙げられ、配位子成分としてジチオオキザミド、N−N−ビスヒドロキシエチルジチオオキザミド、N−Nビス−2オクタノイルオキシエチルジチオオキザミド、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、サリチル酸、スルホサリチル酸、ジヒドロキシナフタリンスルホン酸、クロモトロープ酸、没食子酸、キニザリン、ビロカテコール、タイロン、アリザリン、ヒドロキシ安息香酸、エチルエステル、ヒドロキシベンズアルデヒド、ヒドロキシジナフトアルモムド、ジメチルグリオキシム、フェニレンジアミン、ヒドロキシキノリン、サリチルアルドオキシム、グリシン、アミノ安息香酸、アミノフェノール、アミノナフトール、ニトロソナフトール、テトラヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられている。
【0007】
また、特開昭53−074921号公報(特許文献2)に記載の発明は、トリフェニルメタン系染料、又はカチオン界面活性剤又は金属塩を、焼成した鉛筆芯を浸漬して数百℃に加熱したものが開示されており、トリフェニルメタン系染料としてマラカイトグリーン、ナフタレングリーン、パラロザアニリン、ビクトリアブルー、ベンザアニリン、ナフタクロムグリーン、アウリン、ナフタクロムブルー、カチオン界面活性剤にとしてアルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムブロマイド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、金属塩として鉄、コバルト、ニッケル、モリブデンのハロゲン化物が挙げられている。
【0008】
含浸以外の手法では、特開2001−112792号公報(特許文献3)に記載の発明において、黒鉛のほかに、層間に炭化物及び又は焼成で炭化物となる有機物を配した劈開性の無機非晶質板状粒子を配合材料として用いることで、筆跡の濃度が濃く黒味の向上した鉛筆芯を得る手法が開示されており、炭化物となる有機物として、ポリ酢酸ビニルや塩化ビニルやポリイミド等の樹脂溶液、酢酸ビニルやフルフリルアルコール等の重合性有機物の溶液が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭53−074922号公報
【特許文献2】特開昭53−074921号公報
【特許文献3】特開2013−112792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、結局染料となる着色成分を芯体の気孔に含浸して固形化したものであるから、筆記時に現れた黒鉛のベーサル面には着色成分がなく、黒鉛のベーサル面の反射による黒灰色の金属光沢を有する筆跡となるものであった。
【0011】
また、特許文献2に記載の発明では、トリフェニルメタン系染料、又はカチオン界面活性剤又は金属塩にて「黒鉛と層間化合物を形成する」と記載されているが、その手段は単なる浸漬処理であり、トリフェニルメタン系染料やカチオン界面活性剤のサイズや、浸漬液の表面張力などから考えて、約3.35Åと極小の結晶層間に浸漬処理だけでこれらの物質が侵入するとは考えにくく、層状に重なっている黒鉛粒子と黒鉛粒子との粒子層間に上記物質が侵入したものである。したがって、筆記時に現れた黒鉛のベーサル面には着色成分がなく、黒鉛のベーサル面の反射による黒灰色の金属光沢を有する筆跡となるものであった。
【0012】
更に、引用文献3に記載の発明では、粒子内の層間が広い劈開性の無機非晶質板状粒子を利用し、その層間に炭化物及び又は焼成で炭化物となる有機物を配したものを配合材料として用いているが、層間に炭化物を配した劈開性の無機非晶質板状粒子は黒鉛に比べると潤滑性が劣るため、筆記に適した芯体の潤滑性を得るには黒鉛を併用する必要があり、黒鉛の表面や劈開面に化合物を付着させて反射や色味を変えるものではないため、黒味を得るには限界があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、黒鉛及び/又は窒化ホウ素と、鉄塩との結晶層間化合物を配合した焼成芯体の気孔にフェノール類を配置した焼成鉛筆芯を第1の要旨とし、前記鉄塩の鉄が3価であると共に、前記フェノール類が没食子酸である焼成鉛筆芯を第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
鉄塩は、フェノール類と錯体を形成し、紫〜黒色に呈色することが知られているが、この呈色した錯体は、その大きさから、そのまま黒鉛や窒化ホウ素の結晶層間に配置させることはできない。ただし、鉄塩のみであれば、黒鉛や窒化ホウ素の結晶層間に導入できるので、結晶層間化合物を形成することができ、この結晶層間化合物を配合した焼成鉛筆芯では、筆記により劈開した黒鉛や窒化ホウ素のベーサル面上に、前記の鉄塩が存在した筆跡が形成される。このベーサル面上の鉄塩に、焼成後の芯体の気孔に配置されたフェノール類が作用すると、前述の錯体が形成されて、ベーサル面を着色し、光沢が抑えられた純黒な筆跡が形成される。
【0015】
特に、鉄塩の鉄が3価であり、フェノール類が没食子酸であると、得られる錯体は黒色度が高いため、より濃く黒い筆記線を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明の黒鉛や窒化ホウ素と鉄塩の結晶層間化合物は、黒鉛や窒化ホウ素の結晶層間に鉄塩が導入配置された物質であり、一般的には単に「層間化合物」と称されているが、本発明においては、焼成された鉛筆芯の配合物が焼成の際に気化して抜けた際にできる、気孔などと称される黒鉛粒子同士の間の層状部分の隙間に、含浸成分などと称される何らかの物質が導入されたものと、その構成や作用効果の違いを明確にするために「結晶層間化合物」と呼ぶこととする。
【0018】
本発明における鉄塩とは、溶解や融解時に2価又は3価の鉄イオンと陰イオンとを解離するもので、具体的には水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、ヨウ化鉄(II)、臭化鉄(II)、臭化鉄(III)、フッ化鉄(III)などが挙げられる。このような鉄塩は、気相中や超臨界流体中など拡散浸透性の良い状態において約3.3Åの間隔である黒鉛や窒化ホウ素の結晶層間に導入可能な化合物である。この鉄塩が解離した鉄イオンは、金属錯体として6配位構造をとることができ、金属錯体となった鉄イオン中に存在する5つの電子軌道(d軌道)は、エネルギー差がついた状態、所謂配位子場分裂の状態になり、光を吸収する。特に、フェノール類との錯体は、配位子場分裂の状態によってもたらされる光の吸収波長域が可視光領域にあたり、紫系〜黒系の深色に呈色する。
【0019】
黒鉛は、人造黒鉛と天然黒鉛に大別することができ、焼成鉛筆芯には、結晶が成長して劈開性の良好な天然黒鉛が一般的に利用されている。天然黒鉛の中でも、結晶の発達した鱗状黒鉛や鱗片状黒鉛と、純度が低い低結晶性の土状黒鉛などに分類されるが、中でも発達した結晶が積層して高いアスペクト比と平滑な表面を持つ鱗片状黒鉛は、細線状に芯体を成形する際に押出方向に配向することで芯体の強度を向上させ、また、その優れた劈開性により滑らかな運筆感と高い筆跡濃度が得られるので好ましく利用されている。黒鉛の結晶格子は六方晶系に属し、六角網目状に共有結合で炭素原子が結ばれた平面が所謂ベーサル面であり、これが上下に規則正しく、ファンデルワールス結合で積み重なった構造を持っている。このファンデルワールス結合で結ばれた結晶層間の距離は3.35Åである。鱗片状黒鉛の市販品としては、CPB、CSP、ACP−1000、J−CPB(以上日本黒鉛(株)製)などが挙げられる。
【0020】
窒化ホウ素(h−BN)は、黒鉛と類似の六方晶系結晶構造をとるものであり、窒素原子とホウ素原子とが交互に正六角形の頂点に配置する層が弱いファンデルワールス力で繋がり積層しており、層間が容易に離れて劈開するので、黒鉛と同様に焼成鉛筆芯の主材として好ましく用いることが出来る。結晶層間の距離は3.3Åである。六方晶系の窒化ホウ素市販品としては、デンカボロンナイトライドSGP、MGP、GP、HGP、SP−2、SGPS(以上、電気化学工業(株)製)、ショウビーエヌUHP、UHP−1K、UHP−2、UHP−S1(以上、昭和電工(株)製)、FS−1、HP−P1、HP−60、HP−2、HP−4W、HP−6、HP−1(以上、水島合金鉄(株)製)などが挙げられる。
【0021】
本発明における結晶層間化合物を形成する方法としては、例えば鉄塩と共に、黒鉛や窒化ホウ素を封入して真空脱気した管を加熱し、気化させた鉄塩を黒鉛や窒化ホウ素層間へ導入させる気相法や、鉄塩のニトロメタンの溶液中に黒鉛や窒化ホウ素とを漬ける溶媒法、鉄塩を相溶させた超臨界流体中に黒鉛や窒化ホウ素を晒して層間へ鉄塩を導入させる超臨界法などが採用でき、その他にも従来公知の方法を限定なく用いることが出来る。
【0022】
鉄塩導入後の化合物が結晶層間化合物であることは、ラマンスペクトルを測定することで確認することができ、スペクトル中で黒鉛や窒化ホウ素、用いる鉄塩の吸収スペクトルと比較して、新たなピークの発現を確認することで結晶層間化合物の確認とする。例えば、黒鉛と塩化鉄(III)を用いた場合、1580cm−1付近には黒鉛に固有のピークが得られ、1315cm−1付近には塩化鉄に固有のピークが得られ、黒鉛の表面にのみ塩化鉄(III)が付着したような複合物質では1580cm−1及び1315cm−1付近に塩化鉄と黒鉛のピークが現れるのであるが、黒鉛と塩化鉄との結晶層間化合物の場合には1600cm−1付近に新たなピークが発現する。
【0023】
フェノール類とは、芳香環とそれにつながる水酸基を単数若しくは複数有する化合物であり、溶液状態では水酸基中の水素原子が解離し易いことが特徴である。そして水素原子が解離した状態となることにより、水酸基中の酸素の非共有電子対が金属塩中の金属イオンと容易に配位結合を結び金属錯体を形成することができる。その際、金属塩が鉄塩であると、得られる鉄錯体は赤紫や紫、青紫や青黒、黒など紫系〜黒系の深色に呈色する特徴がある。鉄フェノール錯体では単座配位子による錯体より多座配位子による錯体、すなわち一価フェノールにより形成された鉄錯体よりも多価フェノールにより形成された鉄錯体の方が安定化し易い。
【0024】
具体的には、一価フェノールとして、フェノール、サリチル酸、チモール、クレゾール、ナフトール、およびこれらの誘導体、二価フェノールとして、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、オルシン、クロロゲン酸、およびこれらの誘導体、三価フェノールとして、ピロガロール、フロログルシン、ヒドロキシヒドロキノン、没食子酸、およびこれらの誘導体等が挙げられる。
【0025】
尚、芳香環に水酸基がついたフェノール構造を有する化合物でも、同じ芳香環内にニトロ基のような電子吸引性の官能基が複数ついている、ピクリン酸のような化合物は、電子吸引性基によって水酸基の酸素が有する非共有電子対を吸引してしまうので、鉄塩と錯体を形成して呈色することはなく、本発明におけるフェノール類には含まない。
【0026】
黒鉛や窒化ホウ素のベーサル面上に鉄塩とフェノール類との錯体が配置された筆跡は、反射率(Y値)として30%以下、CIE 1976 L表色系における明度L値が60以下、色度a値及びb値が±2.0以下となることが期待できる。ここで、Y値が低いほど反射が少ないことを表し、L値が小さいほど暗色であることを表し、a値及びb値は0に近いほど無彩色になることを表す。また、黒とは最も暗い無彩色である。よってY値が30%以下、L値が60以下、a値及びb値が±2.0以下となることにより、目視にて筆跡が、反射が少なく黒いと認識することができる。
【0027】
使用するフェノール類の中でも没食子酸は3価のフェノールで、芳香環の炭素番号1の位置にカルボキシル基が、3、4、5の位置に水酸基が配置している化合物である。この没食子酸と3価の鉄との錯体は、没食子酸と3価の鉄が結びついた分子構造に起因する光の吸収に加え、没食子酸は一分子中に3つの配位部位を持つことから一部が複数の鉄イオンと配位結合を結び、d軌道のエネルギー差が様々な状態の鉄原子が発生して、光の波長吸収帯が幅広く分布するようになることにより純粋な黒色を呈する。3価の鉄塩と没食子酸との錯体が配置された筆跡は、Y値が20%以下、L値が50以下、a値及びb値が±1.0以下となることにより、目視にて筆跡が、より反射が少なく黒いと認識することができる。
【0028】
フェノール類は液状ならばそのまま焼成鉛筆芯を浸漬させるなどして含浸させればよく、固体状態ならば溶媒に溶解させて含浸すればよい。鉄塩やフェノール類は極性分子であるので、どちらかが溶解した状態ならば相溶して錯体を形成することが出来る。使用できる溶剤の具体例としては、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。フェノール類の焼成芯体への含浸方法は、加圧含浸や減圧含浸、加熱含浸など従来公知の含浸手法を限定なく用いることができる。
【0029】
完成した芯体内には、結晶層間化合物全体に対し鉄塩を1mol%以上含む結晶層間化合物と、溶液全体に対しフェノール類を1mol%以上含む溶液を含浸することが好ましい。結晶層間化合物全体に対し鉄塩を1mol%以上含む結晶層間化合物と、溶液全体に対しフェノール類を1mol%以上含む溶液があると、筆記線上で、着色した結晶層間化合物の黒鉛及び窒化ホウ素ベーサル面が光沢を大幅に減ずることができ、着色効果を発揮することが出来る。
【0030】
また、芯体内に結晶層間化合物は50wt%以上含有することが好ましい。含有量が50wt%以上あると、結晶層間化合物の劈開により芯体が筆記時に摩耗し易く、濃い筆線濃度を得られるので好ましい。
【0031】
結晶層間化合物中の結晶層内に存在する鉄塩のモル濃度は、鉄塩導入前後の黒鉛又は窒化ホウ素重量を量り、その差が結晶層内に存在する鉄塩の量とし、これらの重量と鉄塩の分子量と黒鉛又は窒化ホウ素の原子量から算出する。
【0032】
本発明の焼成鉛筆芯に使用できる上記以外の使用材料としては、本発明による焼成鉛筆芯の効果を損なわない範囲で、従来用いられている焼成鉛筆芯の構成材料を際限なく用いることができ、また、従来公知の製造方法を際限なく用いて製造することができる。
【0033】
一例を挙げると、タルク、雲母などの無機粒子も併用することができ、結合材となる合成樹脂としてポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィン樹脂、フラン樹脂、ポリビニルアルコール、スチロール樹脂、アクリル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレンーブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリルアミド樹脂、ブチルゴムなど、リグニン、セルロース、トラガントガム、アラビアガムなどの天然樹脂を必要に応じて1種または2種以上併用することもできる。更に、フタル酸ジオクチル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、ジオクチルアジペート、ジアリルイソフタレート、トリクレジルホスフェート、アジピン酸ジオクチルなどの従来公知の可塑剤、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類やエタノール等のアルコール類、水などの溶剤、ステアリン酸、ベヘニン酸など脂肪酸類や脂肪酸アマイド類等の滑材、ステアリン酸塩などの安定剤を併用しても良い。また、鉄、アルミニウム、チタン、亜鉛等金属の酸化物や窒化物、無定形シリカなど賦形目的の充填材や、カーボンブラック、フラーレンなど少量の着色剤、カーボンナノチューブ、炭素繊維、繊維状チタン酸カリウムなどのフィラーを併用してもよい。
【0034】
これら配合材料をニーダー、ヘンシェルミキサー、3本ロールなどで均一分散させた後に細線状に成形し、使用する樹脂に応じて適宜熱処理を施し、最終的に非酸化雰囲気中で800℃〜1300℃の焼成処理を施し焼成鉛筆芯を得る。その後、フェノール類が溶解した液に浸漬してフェノール類を含浸して本発明の焼成鉛筆芯が完成する。さらに必要に応じて、α−オレフィンオリゴマー、シリコーン油、流動パラフィン、スピンドル油、エステルオイル等の合成油、スクワラン、ヒマシオイル等の動植物油、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス、カルナバワックスといった蝋状物を含浸させてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
<黒鉛結晶層間化合物A〜Dの作製>
鱗片状黒鉛(商品名CPB、日本黒鉛工業(株)製)と塩化鉄(III)(関東化学(株)製)を等量、混ざらないように、横にした石英管の両端に入れて蓋をしてターボポンプを用いて減圧後、350℃で15時間、24時間、5時間、3時間の加熱を夫々することにより、塩化鉄(III)が結晶層間に導入された黒鉛層間化合物A〜Dを得た。得られたA〜Dはラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm−1付近に、黒鉛や塩化鉄(III)とは異なるピークを確認した。黒鉛結晶層間化合物A〜Dの重量は、処理前の重量に対し夫々80%、100%、15%、10%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.6mol%、6.9mol%、1.1mol%、0.7mol%である。
<黒鉛結晶層間化合物Eの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、塩化鉄(III)を水酸化鉄(III)(和光純薬工業(株)製)に替えることにより、水酸化鉄(III)が結晶層間に導入された黒鉛結晶層間化合物Eを得た。ラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm−1付近に、黒鉛や水酸化鉄(III)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し50%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.3mol%である。
<黒鉛結晶層間化合物Fの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、塩化鉄(III)を臭化鉄(III)(和光純薬工業(株)製)に替えることにより、臭化鉄(III)が結晶層間に導入された黒鉛結晶層間化合物Fを得た。ラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm−1付近に、黒鉛や臭化鉄(III)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し130%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.0mol%である。
<黒鉛結晶層間化合物Gの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、塩化鉄(III)を硫酸鉄(II)(和光純薬工業(株)製)に替えることにより、硫酸鉄(II)が結晶層間に導入された黒鉛結晶層間化合物Gを得た。ラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm−1付近に、黒鉛や硫酸鉄(II)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し80%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.9mol%である。
<窒化ホウ素結晶層間化合物Hの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、鱗片状黒鉛を窒化ホウ素(HP−1、水島合金鉄(株)製)に替えることにより、塩化鉄(III)が結晶層間に導入された窒化ホウ素層間化合物Hを得た。ラマンスペクトル測定により窒化ホウ素に固有のピーク1380cm−1付近に、窒化ホウ素や塩化鉄(III)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し40%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.8mol%である。
<窒化ホウ素結晶層間化合物Iの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、鱗片状黒鉛を窒化ホウ素(HP−1、水島合金鉄(株)製)に替え、塩化鉄(III)を水酸化鉄(III)に替えることにより、水酸化鉄(III)が結晶層間に導入された窒化ホウ素層間化合物Iを得た。ラマンスペクトル測定により窒化ホウ素に固有のピーク1380cm−1付近に、窒化ホウ素や水酸化鉄(III)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し30%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、6.5mol%である。
<実施例1>
ポリ塩化ビニル 25重量部
黒鉛結晶層間化合物A(基材の黒鉛25重量部、層間に存在する塩化鉄(III)20重量部) 45重量部
ステアリン酸 2重量部
フタル酸ジブチル 10重量部
メチルエチルケトン 20重量部
上記材料をヘンシェルミキサーによる分散混合処理、3本ロールにより10分間混練処理をした後、単軸押出機にて細線状に押出成形し、空気中で室温から300℃まで約10時間かけて昇温し、300℃で約1時間保持する加熱処理をし、更に、密閉容器中で1000℃を最高とする焼成処理を施した。焼成後の重量は焼成前の重量に比べ20wt%減っており、焼成芯体中の黒鉛結晶層間化合物Aの比率は66wt%である。冷却後、ピロガロール(3価フェノール、和光純薬工業(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液を80℃に加温して10時間含浸処理を行い呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。含浸率は10wt%である。
<実施例2>
実施例1において、結晶層間化合物Aの配合量を45重量部から25重量部(基材の黒鉛14重量部、層間に処理されている塩化鉄(III)11重量部)に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。芯体内の結晶層間化合物Aの比率は51wt%である。
<実施例3>
実施例1において、結晶層間化合物Aの配合量を45重量部から20重量部(基材の黒鉛11重量部、層間に処理されている塩化鉄(III)9重量部)に変え、鱗片状黒鉛を35重量部加えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。芯体内の結晶層間化合物Aの比率は46wt%である。
<実施例4〜6>
実施例1において、結晶層間化合物Aに代え、結晶層間化合物B〜Dを用いた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例7>
実施例1において、含浸成分ピロガロールの濃度を5mol%から1.2mol%に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例8>
実施例1において、含浸成分ピロガロールの濃度を5mol%から0.8mol%に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例9>
実施例1において、含浸成分をピロガロールから没食子酸(和光純薬工業(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例10>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを黒鉛結晶層間化合物Eに変え、含浸成分をピロガロールから没食子酸の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例11>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを黒鉛結晶層間化合物Gに変え、含浸成分をピロガロールから没食子酸の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例12>
実施例1において、含浸成分をピロガロールからクロロゲン酸(2価フェノール、和光純薬工業(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例13>
実施例1において、含浸成分をピロガロールからレゾルシノール(2価フェノール、住友化学(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例14>
実施例1において、含浸成分をピロガロールからナフトール(1価フェノール、和光純薬工業(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例15〜17>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを黒鉛結晶層間化合物E〜Gに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例18>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを窒化ホウ素結晶層間化合物Hに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例19>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを窒化ホウ素結晶層間化合物Iに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例20>
実施例18において、含浸成分をピロガロールから没食子酸の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例18と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例21>
実施例18において、含浸成分をピロガロールからナフトールの5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例18と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<鉄塩以外の黒鉛結晶層間化合物Jの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、塩化鉄(III)を塩化銅(II)(和光純薬工業(株)製)に替えることにより、塩化銅(II)が結晶層間に導入された黒鉛結晶層間化合物Jを得た。ラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm−1付近に、黒鉛や塩化銅(II)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し70%増加しており、層間に存在する塩化銅のモル濃度は、5.9mol%である。
<比較例1>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液から流動パラフィンへ変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例2>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部と塩化鉄(III)の20重量部に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例3>
実施例1において、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液から流動パラフィンへ変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例4>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例5>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液に代え、5wt%塩化鉄(III)水溶液に減圧下30分浸漬後、100℃で3時間乾燥させ、次に没食子酸10wt%水溶液中に減圧下30分間浸漬後、100℃で3時間乾燥させ、その後流動パラフィンを100℃で20分間含浸した他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。特許文献1の再現実験である。
<比較例6>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液に代え、90wt%の塩化鉄(III)水溶液を減圧含浸後、300℃にて45分間加熱し、放冷後100℃の流動パラフィンに20分間含浸した他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。特許文献2の再現実験である。
<層間に炭化物となる有機物を配した、劈開性無機非晶質板状粒子の層間化合物Kの作製>
ポリビニルアルコール(商品名:ゴーセノールNL−05、日本合成化学工業(株)製)の20wt%水溶液に、減圧環境下で劈開性の無機非晶質板状粒子(シルリーフ、水澤化学工業(株)製)を8時間浸漬した。濾過により粒子を回収後乾燥し、層間化合物Kを得た。
<比較例7>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを、鱗片状黒鉛を25重量部と層間化合物Kを20重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液から流動パラフィンに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。特許文献3の再現実験である。
<比較例8>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aに代えて黒鉛結晶層間化合物Jを使用した他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例9>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aに代えて、窒化ホウ素の25重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液から流動パラフィンに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例10>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを窒化ホウ素の25重量部と塩化鉄(III)の20重量部に変えたほかは、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
【0036】
以上、各実施例及び比較例で得た焼成鉛筆芯について、筆記線の濃さについてJIS S 6005に準じて曲げ強さと濃度を評価した。濃く黒い程、濃度数値は高くなるが、光沢のある筆記線でも高い数値が得られ易い。そこで、筆記線の反射率測定として、濃度測定条件から画線間隔を0.3mmに変えることで紙面を塗り潰した画線紙をCIE XYZ表色系のY値を分光測色計にて測定した。Y値の小さい方が、反射が少ない。更に色相や彩度を評価するため、CIE 1976 L表色系における明度L値、色度a値及びb値を測定した。L値は小さい程暗い色を表し、a値及びb値は0に近づくほど無彩色になり、a値がプラスに大きい程赤でマイナスに大きい程緑味のある色を、b値がプラスに大きい程黄でマイナスに大きい程青味のある色を表す。濃度数値が高くY値とL値が小さい程、そしてa値及びb値が0に近いほど、濃いだけではなく、光沢が抑えられた黒い筆記線と評価される。
【0037】
【表1】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲の実施例1〜21の焼成鉛筆芯は、比較例1〜10の焼成鉛筆芯に比べて、濃く反射の少ない黒色の筆跡を得られることが判明した。
【0038】
実施例1は塩化鉄(III)を5.6mol%含む黒鉛結晶層間化合物を用い、濃度5mol%のピロガロール溶液を含浸した芯であり、黒鉛を用い流動パラフィンを含浸した比較例1、塩化鉄とピロガロールは含有するが結晶層間化合物ではない黒鉛を使用した比較例2、塩化銅を含む黒鉛結晶層間化合物とピロガロール含浸液を使用した比較例3と比較して、濃度が濃く、Y値とL値が小さい。またa値及びb値も0に近づいており、濃さと反射の少なさを伴った黒色の筆記線となる効果が得られている。尚、引用文献1、2の再現実験である比較例5、6は、比較例1の濃度、Y値、L値、a値及びb値とほぼ変わらず、濃さと反射の少なさを伴った黒色の筆記線となる効果は得られていない。引用文献3の再現実験である比較例7は、比較例1に比べて濃度が僅かに上がりY値とL値が僅かに下がり、a値及びb値が0に近づいたが、実施例ほどの顕著な効果を示していない。
【0039】
実施例2〜3は、実施例1から芯体に含まれる結晶層間化合物の量を変えた例であり、量が増えるほど効果が高くなる。これは、芯体に含まれる結晶層間化合物が増えるほど、結晶層間化合物の劈開によって筆記時に崩れ易くなり、筆記線における着色面積が増えるので、着色効果が増すものと推察される。特に結晶層間化合物の量が50wt%以上の実施例1、2で良い効果が得られており、芯体内に50wt%以上含有することが好ましいといえる。
【0040】
実施例4〜6は、実施例1から結晶層間化合物の層間に存在する鉄塩の濃度を変えた例であり、また実施例7〜8は、実施例1から含浸成分中のフェノール濃度を変えた例であり、夫々濃度が高まるほど濃度が濃く、Y値とL値が低く、a値及びb値が0に近づく効果が得られている。これは、筆記線ベーサル面上の錯体量が増え、よりベーサル面の光沢を抑え着色の効果が増したものと推察される。特に1mol%以上の実施例4,5及び実施例7でよい効果が得られており、芯体内には、鉄塩を1mol%以上含む結晶層間化合物と、フェノール類を1mol%以上含む溶液を含浸することが好ましいと言える。
【0041】
実施例9〜10は、実施例1から含浸するフェノール類を没食子酸または加水分解性タンニンであるタンニン酸に変えた例であり、他の実施例と比較して、より濃度が濃くY値とL値が低く、a値及びb値が0に近づく効果が得られている。尚、実施例11は含浸成分に没食子酸を用いているが、結晶層間化合物中の鉄塩が3価の塩化鉄(III)から2価の硫酸鉄(II)に変えたものであり、実施例9〜10程の効果は得られていない。これは、没食子酸及びその誘導体と3価の鉄塩との錯体が黒色を呈することにより、ベーサル面の着色効果が増したものと推察される。
【0042】
実施例12〜14は、実施例1から含浸成分中のフェノール類の種類を変えた例であり、いずれも実施例1同等の効果が得られている。また実施例15〜17は、実施例1から結晶層間に存在する鉄塩の種類を変えた例であり、いずれも実施例1同等の効果が得られている。これは、フェノール類の種類によらず、鉄塩との錯体がベーサル面の光沢を抑え着色効果を奏したと推察される。
【0043】
実施例18は、結晶層間化合物を窒化ホウ素結晶層間化合物に変えた例であり、窒化ホウ素を使用した比較例9、10に比べ、濃度が濃く、Y値とL値が低く、a値及びb値が0に近づく効果が得られている。これは黒鉛結晶層間化合物同様に、筆記線上で鉄塩とフェノール類との錯体が窒化ホウ素ベーサル面の光沢を抑え着色効果を得られたものと推察する。実施例19〜21は実施例18から鉄塩やフェノール類の種類を変えた例であり、黒鉛結晶層間化合物における実施例と同様の傾向となった。