【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
<黒鉛結晶層間化合物A〜Dの作製>
鱗片状黒鉛(商品名CPB、日本黒鉛工業(株)製)と塩化鉄(III)(関東化学(株)製)を等量、混ざらないように、横にした石英管の両端に入れて蓋をしてターボポンプを用いて減圧後、350℃で15時間、24時間、5時間、3時間の加熱を夫々することにより、塩化鉄(III)が結晶層間に導入された黒鉛層間化合物A〜Dを得た。得られたA〜Dはラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm
−1付近に、黒鉛や塩化鉄(III)とは異なるピークを確認した。黒鉛結晶層間化合物A〜Dの重量は、処理前の重量に対し夫々80%、100%、15%、10%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.6mol%、6.9mol%、1.1mol%、0.7mol%である。
<黒鉛結晶層間化合物Eの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、塩化鉄(III)を水酸化鉄(III)(和光純薬工業(株)製)に替えることにより、水酸化鉄(III)が結晶層間に導入された黒鉛結晶層間化合物Eを得た。ラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm
−1付近に、黒鉛や水酸化鉄(III)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し50%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.3mol%である。
<黒鉛結晶層間化合物Fの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、塩化鉄(III)を臭化鉄(III)(和光純薬工業(株)製)に替えることにより、臭化鉄(III)が結晶層間に導入された黒鉛結晶層間化合物Fを得た。ラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm
−1付近に、黒鉛や臭化鉄(III)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し130%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.0mol%である。
<黒鉛結晶層間化合物Gの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、塩化鉄(III)を硫酸鉄(II)(和光純薬工業(株)製)に替えることにより、硫酸鉄(II)が結晶層間に導入された黒鉛結晶層間化合物Gを得た。ラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm
−1付近に、黒鉛や硫酸鉄(II)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し80%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.9mol%である。
<窒化ホウ素結晶層間化合物Hの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、鱗片状黒鉛を窒化ホウ素(HP−1、水島合金鉄(株)製)に替えることにより、塩化鉄(III)が結晶層間に導入された窒化ホウ素層間化合物Hを得た。ラマンスペクトル測定により窒化ホウ素に固有のピーク1380cm
−1付近に、窒化ホウ素や塩化鉄(III)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し40%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、5.8mol%である。
<窒化ホウ素結晶層間化合物Iの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、鱗片状黒鉛を窒化ホウ素(HP−1、水島合金鉄(株)製)に替え、塩化鉄(III)を水酸化鉄(III)に替えることにより、水酸化鉄(III)が結晶層間に導入された窒化ホウ素層間化合物Iを得た。ラマンスペクトル測定により窒化ホウ素に固有のピーク1380cm
−1付近に、窒化ホウ素や水酸化鉄(III)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し30%増加しており、層間に存在する鉄塩のモル濃度は、6.5mol%である。
<実施例1>
ポリ塩化ビニル 25重量部
黒鉛結晶層間化合物A(基材の黒鉛25重量部、層間に存在する塩化鉄(III)20重量部) 45重量部
ステアリン酸 2重量部
フタル酸ジブチル 10重量部
メチルエチルケトン 20重量部
上記材料をヘンシェルミキサーによる分散混合処理、3本ロールにより10分間混練処理をした後、単軸押出機にて細線状に押出成形し、空気中で室温から300℃まで約10時間かけて昇温し、300℃で約1時間保持する加熱処理をし、更に、密閉容器中で1000℃を最高とする焼成処理を施した。焼成後の重量は焼成前の重量に比べ20wt%減っており、焼成芯体中の黒鉛結晶層間化合物Aの比率は66wt%である。冷却後、ピロガロール(3価フェノール、和光純薬工業(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液を80℃に加温して10時間含浸処理を行い呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。含浸率は10wt%である。
<実施例2>
実施例1において、結晶層間化合物Aの配合量を45重量部から25重量部(基材の黒鉛14重量部、層間に処理されている塩化鉄(III)11重量部)に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。芯体内の結晶層間化合物Aの比率は51wt%である。
<実施例3>
実施例1において、結晶層間化合物Aの配合量を45重量部から20重量部(基材の黒鉛11重量部、層間に処理されている塩化鉄(III)9重量部)に変え、鱗片状黒鉛を35重量部加えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。芯体内の結晶層間化合物Aの比率は46wt%である。
<実施例4〜6>
実施例1において、結晶層間化合物Aに代え、結晶層間化合物B〜Dを用いた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例7>
実施例1において、含浸成分ピロガロールの濃度を5mol%から1.2mol%に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例8>
実施例1において、含浸成分ピロガロールの濃度を5mol%から0.8mol%に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例9>
実施例1において、含浸成分をピロガロールから没食子酸(和光純薬工業(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例10>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを黒鉛結晶層間化合物Eに変え、含浸成分をピロガロールから没食子酸の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例11>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを黒鉛結晶層間化合物Gに変え、含浸成分をピロガロールから没食子酸の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例12>
実施例1において、含浸成分をピロガロールからクロロゲン酸(2価フェノール、和光純薬工業(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例13>
実施例1において、含浸成分をピロガロールからレゾルシノール(2価フェノール、住友化学(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例14>
実施例1において、含浸成分をピロガロールからナフトール(1価フェノール、和光純薬工業(株)製)の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例15〜17>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを黒鉛結晶層間化合物E〜Gに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例18>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを窒化ホウ素結晶層間化合物Hに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例19>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを窒化ホウ素結晶層間化合物Iに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例20>
実施例18において、含浸成分をピロガロールから没食子酸の5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例18と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<実施例21>
実施例18において、含浸成分をピロガロールからナフトールの5mol%ジプロピレングリコール溶液に変えた他は、実施例18と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<鉄塩以外の黒鉛結晶層間化合物Jの作製>
黒鉛結晶層間化合物Aの処理において、塩化鉄(III)を塩化銅(II)(和光純薬工業(株)製)に替えることにより、塩化銅(II)が結晶層間に導入された黒鉛結晶層間化合物Jを得た。ラマンスペクトル測定により黒鉛に固有のピーク1580cm
−1付近に、黒鉛や塩化銅(II)とは異なるピークを確認した。処理前の重量に対し70%増加しており、層間に存在する塩化銅のモル濃度は、5.9mol%である。
<比較例1>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液から流動パラフィンへ変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例2>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部と塩化鉄(III)の20重量部に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例3>
実施例1において、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液から流動パラフィンへ変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例4>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部に変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例5>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液に代え、5wt%塩化鉄(III)水溶液に減圧下30分浸漬後、100℃で3時間乾燥させ、次に没食子酸10wt%水溶液中に減圧下30分間浸漬後、100℃で3時間乾燥させ、その後流動パラフィンを100℃で20分間含浸した他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。特許文献1の再現実験である。
<比較例6>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aの45重量部を鱗片状黒鉛の25重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液に代え、90wt%の塩化鉄(III)水溶液を減圧含浸後、300℃にて45分間加熱し、放冷後100℃の流動パラフィンに20分間含浸した他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。特許文献2の再現実験である。
<層間に炭化物となる有機物を配した、劈開性無機非晶質板状粒子の層間化合物Kの作製>
ポリビニルアルコール(商品名:ゴーセノールNL−05、日本合成化学工業(株)製)の20wt%水溶液に、減圧環境下で劈開性の無機非晶質板状粒子(シルリーフ、水澤化学工業(株)製)を8時間浸漬した。濾過により粒子を回収後乾燥し、層間化合物Kを得た。
<比較例7>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを、鱗片状黒鉛を25重量部と層間化合物Kを20重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液から流動パラフィンに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。特許文献3の再現実験である。
<比較例8>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aに代えて黒鉛結晶層間化合物Jを使用した他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例9>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aに代えて、窒化ホウ素の25重量部に変え、含浸成分をピロガロールの5mol%ジプロピレングルコール溶液から流動パラフィンに変えた他は、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
<比較例10>
実施例1において、黒鉛結晶層間化合物Aを窒化ホウ素の25重量部と塩化鉄(III)の20重量部に変えたほかは、実施例1と同様にして呼び径0.5の焼成鉛筆芯を得た。
【0036】
以上、各実施例及び比較例で得た焼成鉛筆芯について、筆記線の濃さについてJIS S 6005に準じて曲げ強さと濃度を評価した。濃く黒い程、濃度数値は高くなるが、光沢のある筆記線でも高い数値が得られ易い。そこで、筆記線の反射率測定として、濃度測定条件から画線間隔を0.3mmに変えることで紙面を塗り潰した画線紙をCIE XYZ表色系のY値を分光測色計にて測定した。Y値の小さい方が、反射が少ない。更に色相や彩度を評価するため、CIE 1976 L
*a
*b
*表色系における明度L
*値、色度a
*値及びb
*値を測定した。L
*値は小さい程暗い色を表し、a
*値及びb
*値は0に近づくほど無彩色になり、a
*値がプラスに大きい程赤でマイナスに大きい程緑味のある色を、b
*値がプラスに大きい程黄でマイナスに大きい程青味のある色を表す。濃度数値が高くY値とL
*値が小さい程、そしてa
*値及びb
*値が0に近いほど、濃いだけではなく、光沢が抑えられた黒い筆記線と評価される。
【0037】
【表1】
上記表1の結果から明らかなように、本発明範囲の実施例1〜21の焼成鉛筆芯は、比較例1〜10の焼成鉛筆芯に比べて、濃く反射の少ない黒色の筆跡を得られることが判明した。
【0038】
実施例1は塩化鉄(III)を5.6mol%含む黒鉛結晶層間化合物を用い、濃度5mol%のピロガロール溶液を含浸した芯であり、黒鉛を用い流動パラフィンを含浸した比較例1、塩化鉄とピロガロールは含有するが結晶層間化合物ではない黒鉛を使用した比較例2、塩化銅を含む黒鉛結晶層間化合物とピロガロール含浸液を使用した比較例3と比較して、濃度が濃く、Y値とL
*値が小さい。またa
*値及びb
*値も0に近づいており、濃さと反射の少なさを伴った黒色の筆記線となる効果が得られている。尚、引用文献1、2の再現実験である比較例5、6は、比較例1の濃度、Y値、L
*値、a
*値及びb
*値とほぼ変わらず、濃さと反射の少なさを伴った黒色の筆記線となる効果は得られていない。引用文献3の再現実験である比較例7は、比較例1に比べて濃度が僅かに上がりY値とL
*値が僅かに下がり、a
*値及びb
*値が0に近づいたが、実施例ほどの顕著な効果を示していない。
【0039】
実施例2〜3は、実施例1から芯体に含まれる結晶層間化合物の量を変えた例であり、量が増えるほど効果が高くなる。これは、芯体に含まれる結晶層間化合物が増えるほど、結晶層間化合物の劈開によって筆記時に崩れ易くなり、筆記線における着色面積が増えるので、着色効果が増すものと推察される。特に結晶層間化合物の量が50wt%以上の実施例1、2で良い効果が得られており、芯体内に50wt%以上含有することが好ましいといえる。
【0040】
実施例4〜6は、実施例1から結晶層間化合物の層間に存在する鉄塩の濃度を変えた例であり、また実施例7〜8は、実施例1から含浸成分中のフェノール濃度を変えた例であり、夫々濃度が高まるほど濃度が濃く、Y値とL
*値が低く、a
*値及びb
*値が0に近づく効果が得られている。これは、筆記線ベーサル面上の錯体量が増え、よりベーサル面の光沢を抑え着色の効果が増したものと推察される。特に1mol%以上の実施例4,5及び実施例7でよい効果が得られており、芯体内には、鉄塩を1mol%以上含む結晶層間化合物と、フェノール類を1mol%以上含む溶液を含浸することが好ましいと言える。
【0041】
実施例9〜10は、実施例1から含浸するフェノール類を没食子酸または加水分解性タンニンであるタンニン酸に変えた例であり、他の実施例と比較して、より濃度が濃くY値とL
*値が低く、a
*値及びb
*値が0に近づく効果が得られている。尚、実施例11は含浸成分に没食子酸を用いているが、結晶層間化合物中の鉄塩が3価の塩化鉄(III)から2価の硫酸鉄(II)に変えたものであり、実施例9〜10程の効果は得られていない。これは、没食子酸及びその誘導体と3価の鉄塩との錯体が黒色を呈することにより、ベーサル面の着色効果が増したものと推察される。
【0042】
実施例12〜14は、実施例1から含浸成分中のフェノール類の種類を変えた例であり、いずれも実施例1同等の効果が得られている。また実施例15〜17は、実施例1から結晶層間に存在する鉄塩の種類を変えた例であり、いずれも実施例1同等の効果が得られている。これは、フェノール類の種類によらず、鉄塩との錯体がベーサル面の光沢を抑え着色効果を奏したと推察される。
【0043】
実施例18は、結晶層間化合物を窒化ホウ素結晶層間化合物に変えた例であり、窒化ホウ素を使用した比較例9、10に比べ、濃度が濃く、Y値とL
*値が低く、a
*値及びb
*値が0に近づく効果が得られている。これは黒鉛結晶層間化合物同様に、筆記線上で鉄塩とフェノール類との錯体が窒化ホウ素ベーサル面の光沢を抑え着色効果を得られたものと推察する。実施例19〜21は実施例18から鉄塩やフェノール類の種類を変えた例であり、黒鉛結晶層間化合物における実施例と同様の傾向となった。