【解決手段】互いに直交する第1,第2シャフトSH1,SH2を一体に有して第2シャフトSH2の軸線回りに入力部材Iと一体に回転する十字状シャフト体SHと、第1シャフトSH1に軸支されたピニオンPと、そのピニオンPに噛合する一対のサイドギヤSとを備える差動装置において、サイドギヤSには、第2シャフトSH2を貫通支持させる小径孔6iと、その小径孔6iの外端に段差面6sを介して連なる大径孔6oとが形成され、大径孔6o内には、第2シャフトSH2の両端部31,32に結合されてサイドギヤSの第2シャフトSH2からの離脱を阻止する固定部材Tが収容され、その固定部材Tよりも軸方向で外方側で大径孔6oの内周面には出力軸Aが相対回転不能に嵌合される。
回転力が入力される環状の入力部材(I)と、その入力部材(I)に両端部(21,22)が支持される第1シャフト(SH1)及びこの第1シャフト(SH1)と直交する第2シャフト(SH2)を一体に有し且つその第2シャフト(SH2)の軸線(L2)回りに前記入力部材(I)と一体に回転する十字状シャフト体(SH)と、その第1シャフト(SH1)に回転自在に支持されたピニオン(P)と、そのピニオン(P)に噛合すると共に一対の出力軸(A)にそれぞれ接続される一対のサイドギヤ(S)とを備え、前記入力部材(I)から前記十字状シャフト体(SH)に伝達された回転力を、前記ピニオン(P)及び前記一対のサイドギヤ(S)を介して前記一対の出力軸(A)に分配して伝達する差動装置において、
各々の前記サイドギヤ(S)には、前記第2シャフト(SH2)を相対回転自在に貫通支持する小径孔(6i)と、その小径孔(6i)の軸方向外端に段差面(6s)を介して連なり且つ該サイドギヤ(S)の外側面に開口する大径孔(6o)とが形成され、その各々の大径孔(6o)内には、前記第2シャフト(SH2)の両端部(31,32)に結合されて前記サイドギヤ(S)の第2シャフト(SH2)からの離脱を阻止する固定部材(T)が収容され、その固定部材(T)よりも軸方向外方側において前記大径孔(6o)には、前記出力軸(A)が相対回転不能に嵌合されることを特徴とする差動装置。
前記固定部材(T)と前記段差面(6s)との間には、その間の相対回転を許容するようにして環状ワッシャ(10)が挟持されることを特徴とする、請求項1に記載の差動装置。
前記入力部材(I)には、前記第1シャフト(SH1)の両端部(21,22)をそれぞれ嵌合支持させる一対の支持孔(Ia,Ib)が同一軸線上に設けられ、その一方の支持孔(Ia)の内径(d2)は、その支持孔(Ia)の軸線に対し第1シャフト(SH1)を傾斜姿勢とすることで第1シャフト(SH1)の一端部(21)を該一方の支持孔(Ia)に挿入し得るように、該一端部(21)の外径よりも大径に形成され、前記一端部(21)と前記一方の支持孔(Ia)との間には、該一端部(21)を該一方の支持孔(Ia)内で同軸姿勢に保持する介挿物(B)が設けられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の差動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来装置では、動力伝達を担うデフケースを省略することはできても、ピニオン・ピニオンシャフト・サイドギヤよりなる差動機構を収容する比較的大型のサイドギヤ保持用ケースは設ける必要があるため、デフケース省略によっても差動装置全体を十分に構造簡素化したり軽量化したりすることができない問題があった。また、サイドギヤ保持用ケースをも差動機構に一纏めに組付けなければ、差動機構を単一ユニットとして所定の精度で組立てることができないため、差動機構単独での精度保証も困難である等の問題もあった。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたもので、デフケースを省略しながらも従来装置の上記問題を解決できるようにした差動装置及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、回転力が入力される環状の入力部材と、その入力部材に両端部が支持される第1シャフト及びこの第1シャフトと直交する第2シャフトを一体に有し且つその第2シャフトの軸線回りに前記入力部材と一体に回転する十字状シャフト体と、その第1シャフトに回転自在に支持されたピニオンと、そのピニオンに噛合すると共に一対の出力軸にそれぞれ接続される一対のサイドギヤとを備え、前記入力部材から前記十字状シャフト体に伝達された回転力を、前記ピニオン及び前記一対のサイドギヤを介して前記一対の出力軸に分配して伝達する差動装置において、各々の前記サイドギヤには、前記第2シャフトを相対回転自在に貫通支持する小径孔と、その小径孔の軸方向外端に段差面を介して連なり且つ該サイドギヤの外側面に開口する大径孔とが形成され、その各々の大径孔内には、前記第2シャフトの端部に結合されて前記サイドギヤの第2シャフトからの離脱を阻止する固定部材が収容され、その固定部材よりも軸方向外方側において前記大径孔には、前記出力軸が相対回転不能に嵌合されることを第1の特徴としている。
【0007】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記固定部材と前記段差面との間には、その間の相対回転を許容するようにして環状ワッシャが挟持されることを第2の特徴とする。
【0008】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記入力部材には、前記第1シャフトの両端部をそれぞれ嵌合支持させる一対の支持孔が同一軸線上に設けられ、その一方の支持孔の内径は、その支持孔の軸線に対し第1シャフトを傾斜姿勢とすることで第1シャフトの一端部を該一方の支持孔に挿入し得るように、該一端部の外径よりも大径に形成され、前記一端部と前記一方の支持孔との間には、該一端部を該一方の支持孔内で同軸姿勢に保持する介挿物が設けられることを第3の特徴とする。
【0009】
また本発明は、前記第3の特徴を有する差動装置の製造方法であって、前記十字状シャフト体の前記第1シャフトに前記ピニオンを組み付けてサブアッセンブリを得る工程と、そのサブアッセンブリを、前記第1シャフトが前記入力部材の支持孔の軸線に対し傾いた傾斜姿勢として、第1シャフトの前記一端部を前記一方の支持孔に挿入してから、前記サブアッセンブリを、前記傾斜姿勢が修正された状態で第1シャフトの軸線に沿う方向に移動させることで、第1シャフトの他端部を他方の支持孔に挿入する工程と、次いでその第1シャフトの前記一端部と前記一方の支持孔との間に前記介挿物を装入して該一端部を該一方の支持孔内で同軸姿勢に保持すると共に、前記第1シャフトを前記入力部材に固定する工程と、次いで前記第2シャフトの両端部に前記一対のサイドギヤの前記小径孔をそれぞれ嵌合させ、その嵌合後に、前記第2シャフトの両端部に一対の前記固定部材を前記大径孔内でそれぞれ結合して、その両サイドギヤを第2シャフトの両端部にそれぞれ抜け止め保持する工程とを少なくとも含むことを第4の特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の特徴によれば、サイドギヤには、十字状シャフト体の第2シャフトを回転自在に貫通支持する小径孔と、その小径孔の外端に段差面を介して連なり且つサイドギヤの外側面に開口する大径孔とが形成され、その大径孔内には、第2シャフトの端部に結合されてサイドギヤの第2シャフトからの離脱を阻止する固定部材が収容されるので、その固定部材により、十字状シャフト体の第2シャフトにサイドギヤを所定の組立精度を以て的確に保持させることができ、これにより、ピニオン・十字状シャフト体・両サイドギヤを含む差動機構を単一の組立ユニット体として取り扱うことが可能となって、差動機構を覆う大型ケースや従来のデフケースを、サイドギヤの組付位置の固定(即ち差動機構の組立状態の維持)のために特別に設ける必要はなくなるため、差動装置全体として構造簡素化や軽量化、延いてはコスト節減に大いに寄与することができる。しかも、そのようなケース無しの差動機構を所定の精度で一纏めに組立て可能としたことで、差動機構単独での精度保証も可能となる。また、前記固定部材よりも軸方向外方側においてサイドギヤの前記大径孔に出力軸が相対回転不能に嵌合されるので、固定部材と干渉することなく出力軸と第2シャフト間の接続を無理なく行うことができる。
【0011】
また特に本発明の第2の特徴によれば、固定部材とサイドギヤの前記段差面との間には、その間の相対回転を許容するようにして環状ワッシャが挟持されるので、ピニオンとサイドギヤとの噛合部のバックラッシュ等を踏まえて第2シャフトに対する軸方向相対位置を設定すべきサイドギヤと、固定部材との間の間隔調整を、厚みの異なるワッシャの選択使用により的確に行うことができ、差動機構単独での精度保証が容易となる。
【0012】
また特に本発明の第3,第4の各特徴によれば、十字状シャフト体の第1シャフトにピニオンを組み付けてサブアッセンブリを得た後、そのサブアッセンブリを傾斜姿勢として第1シャフトの一端部を一方の支持孔に挿入させてから、そのサブアッセンブリを、前記傾斜姿勢を修正した状態で第1シャフトの軸線に沿う方向に移動させることで、第1シャフトの他端部を他方の支持孔に挿入させ、次いでその第1シャフトの一端部と一方の支持孔との間に介挿物を装入して該一端部を該一方の支持孔内で同軸姿勢に保持すると共に、第1シャフトを入力部材に固定し、次いで第2シャフトの両端部に一対のサイドギヤの小径孔をそれぞれ嵌合させ、その嵌合後に、第2シャフトの両端部に一対の固定部材を大径孔内でそれぞれ結合して、その両サイドギヤを第2シャフトの両端部にそれぞれ抜け止め保持できるから、十字状シャフト体にピニオンを予め組込んだ小組立体としてのサブアッセンブリごと入力部材に一挙に組付けることができ、更にその組付け体に一対のサイドギヤを容易に組付けることができるため、全体として差動装置の組立作業が容易で、生産性向上に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を、添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて以下に説明する。
【0015】
先ず、
図1及び
図2において、差動装置Dは、自動車に搭載されるエンジン(図示せず)から伝達された回転駆動力を、左右一対の車軸に連なる左右一対の出力軸Aに分配して伝達することにより、その左右車軸を、それらの差動回転を許容しつつ駆動するためのものであって、例えば車体前部のエンジンの横に配置されたミッションケース1内に収容、支持されている。
【0016】
そのミッションケース1は、差動装置Dを左右から挟む第1,第2ケース部1a,1bを少なくとも含むものであり、その第1,第2ケース部1a,1b間は、ボルトb等の結合手段で着脱可能に結合される。また第1,第2ケース部1a,1bに形成されて各出力軸Aが嵌挿される貫通孔1ah,1bhの内周と、各出力軸Aの外周との間には、その間をシールする環状シール部材3a,3bと、その環状シール部材3a,3bより外側で各出力軸Aを回転自在に支持する軸受4a,4bとがそれぞれ介装される。
【0017】
前記差動装置Dは、動力源としてのエンジンから回転力を受けるファイナルドリブンギヤとしてのリングギヤRと、このリングギヤRを外周に一体に突設した円筒状の入力部材Iと、この入力部材IにリングギヤRから伝達された回転力を左右一対の出力軸Aに分配して伝達する差動機構DMとを備える。その入力部材Iの外周部は、ミッションケース1の第1,第2ケース部1a,1bに、左右に間隔をおいて並ぶ一対の軸受2a,2bを介して回転自在に支持される。
【0018】
そのリングギヤRは、入力部材Iの軸方向中間部の外周面より(即ち前記左右一対の軸受2a,2bを間に挟むようにして)半径方向外方に張出すリング板状の基部Rmと、その基部Rmの外周に一体に連なる幅広の入力歯部Rgとで構成され、基部Rmには複数の肉抜き孔Rmaが形成される。而して、これら肉抜き孔Rmaは、差動機構DMの組立工程で後述する第1シャフトSH1に対する逃げとして機能し得るものであり、また差動装置Dの軽量化に寄与し得るものである。また、リングギヤR及び入力部材Iは、切削加工その他の種々の塑性加工法で製造可能であるが、これらを特に鍛造で成形する場合には、その成形工程で肉抜き孔Rmaも容易に成形可能である。尚、リングギヤRは、これを入力部材Iと別体に形成して、入力部材Iに対して適当な固定手段、例えばねじ止め、溶接、圧入、カシメ等の固定手段を以て後付けで固定してもよい。尚また、リングギヤRの入力歯部Rgは、ヘリカルギヤでもスパーギヤでもよい。
【0019】
また差動機構DMは、一対のピニオンPと、入力部材Iに一体に回転するよう取付けられると共に両ピニオンPを回転自在に支持する十字状シャフト体SHと、両ピニオンPに噛合する環状の入力歯部Sgを外周部に有して左右一対の出力軸Aにそれぞれ接続される一対のサイドギヤSとを備える。そして、入力部材Iから十字状シャフト体SHに伝達された回転力を、ピニオンP及び一対のサイドギヤSを経て一対の出力軸Aに分配して伝達できるようになっている。
【0020】
前記十字状シャフト体SHは、入力部材Iに両端部21,22が支持される第1シャフトSH1と、この第1シャフトSH1と直交する第2シャフトSH2とを一体に有して十字状に形成されており、その第2シャフトSH2の軸線L2回りに入力部材Iと一体に回転する。その第1シャフトSH1の両端部21,22には、一対のピニオンPがそれぞれ回転自在に支持されており、その各々のピニオンPの外端面は、入力部材Iの内周面に球面状のワッシャ11,12を挟んで回転自在に当接、支持される。
【0021】
各々のサイドギヤSは、円環状のギヤ本体Smと、そのギヤ本体Smの内側面に形成されてピニオンPと噛合する入力歯部Sgと、そのギヤ本体Smの外側面に一体に突設されて軸方向外方に延びる円筒状の軸部Sjとを備える。
【0022】
そして、一対のサイドギヤSの軸部Sjの内周には、十字状シャフト体SHの第2シャフトSH2の両端部31,32を回転自在に貫通支持する小径孔6iと、その小径孔6iの軸方向外端に環状の段差面6sを介して連なり且つサイドギヤSの外側面(即ち軸部Sjの外端面)に開口する大径孔6oとよりなる段付き孔が形成される。一方、第2シャフトSH2の両端部31,32は、内方寄りの大径部31i,32iと、この大径部31i,32iの外端に段部を介して一体に連なる外方寄りの小径部31o,32oとを有しており、その大径部31i,32iが前記小径孔6iに相対回転自在に嵌合し、また小径部31o,32oが前記大径孔6o内に臨んでいる。
【0023】
尚、第2シャフトSH2の両端部31,32(特に大径部31i,32i)は、図示例では小径孔6iに回転自在に直接嵌合されるが、その嵌合部に軸受ブッシュを介装してもよい。
【0024】
またサイドギヤSの軸部Sjの大径孔6o内には、第2シャフトSH2の両端部31,32に結合されてサイドギヤSの第2シャフトSH2からの離脱を阻止する固定部材Tが収容される。この固定部材Tは、図示例では円形のリング板状に形成されるものであり、これと、小径孔6iの外端開口を囲繞する前記段差面6sとの間に間隔調整用の環状ワッシャ10を相対回転自在に挟むようにして、第2シャフトSH2の両端部31,32(図示例では小径部31o,32oの外周)に固定部材Tが嵌合され、且つその嵌合面間が溶接wにより結合される。尚、その結合手段として、図示例の溶接wに代えて、他の適当な固定手段、例えば圧入、カシメ、ねじ止め等の固定手段を用いてもよい。
【0025】
また固定部材Tの内側面には、環状ワッシャ10の内周部を嵌合させる環状の係合突部Taが突設される。その係合突部Taの端面は、第2シャフトSH2の両端部31,32における前記大径部31i,32iと小径部31o,32oとの間の段部に環状の空隙14を介して対向している。尚、図示はしないが、第2シャフトSH2の両端部31,32と係合突部Taとの相対向面間に、前記空隙14を埋めるようにワッシャを介装してもよいし、或いは第2シャフトSH2の両端部31,32及び係合突部Taとの相対向面の少なくとも一方を前記空隙14内で他方側に延ばして、その相対向面を互いに直接密着させるようにしてもよい。
【0026】
更にサイドギヤSの軸部Sjの大径孔6oには、固定部材Tよりも軸方向外方側においてスプライン歯15が形成されており、このスプライン歯15と、出力軸Aの内端外周の形成したスプライン歯16とが相対回転不能にスプライン嵌合する。
【0027】
次に入力部材Iへの十字状シャフト体SHの取付構造について説明する。その入力部材Iには、第1シャフトSH1の両端部21,22をそれぞれ嵌合支持させる一対の支持孔Ia,Ibが同一軸線上(即ち第1シャフトSH1の軸線L1上)に設けられており、その一方の支持孔Iaの内径d2は、第1シャフトSH1の対応する一端部21の外径よりも十分大径に形成され、またその他方の支持孔Ibの内径d1は、第1シャフトSH1の対応する他端部22の外径と略等径に形成されて、該他方の支持孔Ibに該他端部22を抜差可能に、しかもガタなく嵌合支持し得るようになっている。
【0028】
そして、このように一方の支持孔Iaの内径を第1シャフトSH1の対応する一端部21の外径よりも十分大径に形成したことにより、後述する入力部材Iへの十字状シャフト体SHの取付工程(
図3)では、支持孔Iaの中心軸線に対し第1シャフトSH1を傾けた状態で第1シャフトSH1の一端部21を一方の支持孔Iaに挿入可能となり(
図3の(B)〜(D)を参照)、更にその挿入後に第1シャフトSH1の傾きを修正した状態で第1シャフトSH1の他端部22を他方の支持孔Ibに同軸姿勢で挿入可能となる(
図3の(D)〜
図4の(F)を参照)。
【0029】
また、第1シャフトSH1の前記一端部21とサイドギヤSの前記一方の支持孔Iaとの間には、該一端部21を該一方の支持孔Ia内で同軸姿勢に保持する介挿物としてのブッシュBが圧入により介装、固定され、このブッシュBにより、サイドギヤSの前記一方の支持孔Iaに第1シャフトSH1の前記一端部21をガタなく嵌合させ、しかも或る程度の摩擦力を以て連結することが可能である。尚、そのブッシュBの固定手段としては、圧入に代えて、他の適当な固定手段、例えば溶接、カシメ等の固定手段を用いることができる。
【0030】
また、入力部材Iの一対の支持孔Ia,Ibに第1シャフトSH1の両端部21,22をそれぞれ嵌合支持させた状態で、左右一方の軸受2bのインナレース2biが入力部材Iの外周に圧入固定されると、このインナレース2biが第1シャフトSH1の両端面に係合することで同シャフトSH1の入力部材Iに対する固定がより確実になされる。
【0031】
次に本実施形態の作用を説明する。本実施形態の差動装置Dは、エンジンからの回転力をリングギヤRから入力部材Iに受けた場合に、ピニオンPが第1シャフトSH1の軸線L1回りに自転しないで十字状シャフト体SHと共に第2シャフト体SH2の軸線L2回りに公転するときは、左右のサイドギヤSが同速度で回転駆動されて、その駆動力が均等に左右の出力軸Aに伝達される。また、自動車の旋回走行等により左右の出力軸Aに回転速度差が生じるときは、ピニオンPが第1シャフトSH1の軸線L1回りに自転しつつ第2シャフト体SH2の軸線L2回りに公転することで、そのピニオンPから左右のサイドギヤSに対してその差動回転を許容しつつ回転駆動力が伝達される。以上は、従来周知の差動装置の作動と同様である。
【0032】
ところで本実施形態の組立工程では、先ず、ピニオンP・十字状シャフト体SH・両サイドギヤSを主要部とする差動機構DMと、入力部材Iとを一纏めのユニット体とした差動装置Dを組立て、しかる後にその差動装置Dの入力部材Iをミッションケースの第1,第2ケース1a,1bに軸受2a,2bを介して組付けることにより、差動装置Dのミッションケース1への組付けが完了する。そして、この状態から、差動装置Dにおける左右のサイドギヤSの軸部Sjに左右の出力軸Aの内端をそれぞれスプライン嵌合15,16させることで、両サイドギヤSと両出力軸A間がそれぞれ接続される。
【0033】
次に
図3及び
図4を併せて参照して、上記差動装置Dの組立(即ち製造)方法の一例を説明する。
【0034】
即ち、本実施形態で差動装置Dの組立工程は、次の[1]〜[6]の工程を少なくとも含む。
[1] 先ず、
図3(A)に示すように、十字状シャフト体SHの第1シャフトSH1に一対のピニオンP及び一方のワッシャ11を組み付けて、サブアッセンブリU1を得る工程
[2] 次いで
図3(B)に示すように、前記サブアッセンブリU1を、第1シャフトSH1が入力部材Iの一方の支持孔Iaの軸線に対し傾いた傾斜姿勢とすることで、第1シャフトSH1の一端部21を一方の支持孔Iaに浅く挿入する工程
[3] 次いで
図3(B)〜(D)に示すように、前記サブアッセンブリU1を、第1シャフトSH1の傾きが修正される方向に徐々に姿勢変化させつつ第1シャフトSH1の軸線L1に沿う一方側(図示例では下方)に移動させることで、第1シャフトSH1の一端部21を一方の支持孔Iaに深く挿入する工程
[4] 次いで
図4(E)に示すように、前記サブアッセンブリU1を、前記傾斜姿勢が修正された状態で第1シャフトSH1の軸線L1に沿う他方側(図示例では上方)に移動させることで、第1シャフトSH1の他端部22を他方の前記支持孔Ibに同軸姿勢で深く挿入すると共に、第1シャフトSH1の一端部21を一方の支持孔Iaより一旦離脱させて第1シャフトSH1の一端部21に他方のワッシャ12を装着する工程
[5] 次いで
図4(F)〜(G)に示すように、第1シャフトSH1の一端部21を一方の支持孔Iaに再度挿入した後、第1シャフトSH1の一端部21と一方の支持孔Iaとの間にブッシュBを圧入して、該一端部21を該一方の支持孔Ia内で同軸姿勢に保持すると共に第1シャフトSH1を入力部材Iに固定し、これにより、ピニオンP・十字状シャフト体SH・入力部材Iからなる二次的なサブアッセンブリU2を得る工程
[6] 次いで
図4(G)に示すように、第2シャフトSH2の両端部31,32の大径部31i,32iに両サイドギヤSの小径孔6iを嵌合させ、その嵌合後に、第2シャフトSH2の両端部31,32の小径部31o,32oに一対の固定部材Tを両サイドギヤSの大径孔6o内でそれぞれ結合することにより、その両サイドギヤSを第2シャフトSH2の両端部31,32にそれぞれ相対回転自在に抜け止め保持させるようにして、差動装置Dの最終的な組立体を得る工程
尚、前記[1]の工程で得られるサブアッセンブリU1は、その後の工程において、作業員が手、或いは組立装置に付属の治具(図示せず)によりピニオンPを第1シャフト体SH1から抜け落ちないよう支えることで、その組立状態が維持される。また、前記[3]の工程では、第1シャフトSH1の一端部21がリングギヤRの肉抜き孔Rmaに一時的に進入することでリングギヤRを無理なく逃げ得るため、サブアッセンブリU1の姿勢変化(即ち
図3(B)〜(D)に示す傾斜姿勢の修正動作)が無理なく実行される。
【0035】
尚また、前記ワッシャ11,12の第1シャフト体SH1への組付手順は、上記実施形態に限定されず、即ち、サブアッセンブリU1の入力部材Iへの組付けに障害とならないタイミングであれば、適宜、変更可能である。例えば、ワッシャ11は、
図3(D)の段階で組付けてもよく、またワッシャ12は、後々のサブアッセンブリU1の入力部材Iへの組付けに障害とならなければ
図3(A)の段階で組付けてもよい。
【0036】
而して、以上の各工程を採用することにより、本実施形態では、十字状シャフト体SHの第1シャフトSH1にピニオンPを組み付けてサブアッセンブリU1を組立てた後、そのサブアッセンブリU1を、第1シャフトSH1が入力部材Iの一方の支持孔Iaの軸線に対し傾いた傾斜姿勢とすることで、第1シャフトSH1の一端部21を一方の支持孔Iaに先ず挿入させ、その挿入後にサブアッセンブリU1を、前記傾斜姿勢が徐々に修正されるように姿勢変化させると共に第1シャフトSH1の軸線L1に沿う方向に適宜往復移動させることで、第1シャフトSH1の両端部21,22を入力部材Iの支持孔Ia,Ibに同軸姿勢で各々挿入させることができる。次いでその第1シャフトSH1の一端部21と一方の支持孔Iaとの間にブッシュBを圧入して、該一端部21を該一方の支持孔Ia内で同軸姿勢に保持すると共に第1シャフトSH1を入力部材Iに固定することができ、しかる後に第2シャフトSH2の両端部31,32に両サイドギヤSの小径孔6iをそれぞれ嵌合させ、その嵌合後に、その第2シャフトSH2の両端部31,32に両サイドギヤSの大径孔6o内で一対の固定部材Tをそれぞれ結合して、両サイドギヤSを第2シャフトSH2の両端部31,32にそれぞれ相対回転自在に抜け止め保持することができる。
【0037】
そして、このような本実施形態の組立手法を採用することにより、十字状シャフト体SHにピニオンPを予め組込んだサブアッセンブリU1ごと入力部材Iに一挙に組付けることができ、更にそのようにして得た組立体(即ち前記二次的なサブアッセンブリU2)に対して、一対のサイドギヤSを入力部材Iに邪魔されることなく容易に組付けることができるため、全体として組立作業が容易で、生産性向上が図られる。
【0038】
而して、上記本実施形態において、サイドギヤSには、十字状シャフト体SHの第2シャフトSH2を回転自在に貫通支持する小径孔6iと、その小径孔6iの外端に段差面6sを介して連なり且つサイドギヤsの外側端に開口する大径孔6oとが形成され、その大径孔6o内には、第2シャフトSH2の端部31,32に結合されてサイドギヤSの第2シャフトSH2からの離脱を阻止する固定部材Tが収容されることから、その固定部材Tにより、両サイドギヤSを第2シャフトSH2の端部31,32に所定の組立精度を以て的確に保持できて、ピニオンP・十字状シャフト体SH・両サイドギヤSよりなる差動機構DMを、ケース無しで単独の組立ユニット体として取り扱うことが可能となる。
【0039】
これにより、差動機構DMを覆う大型ケースや従来のデフケースを、サイドギヤSの組付位置の固定(即ち差動機構DMの組立状態の維持)のために特別に設ける必要はなくなり、差動装置D全体として構造簡素化や軽量化が図られる。しかも、そのようなケース無しの差動機構DMを所定の精度で一纏めに組立て可能としたことで、差動機構DM単独での精度保証も可能となる。また、固定部材Tよりも軸方向外方側でサイドギヤSの前記大径孔6oに出力軸Aが相対回転不能にスプライン嵌合されるので、固定部材Tと干渉することなく出力軸Aと第2シャフトSH2間を的確に接続可能となる。
【0040】
その上、本実施形態の固定部材Tは、サイドギヤSの前記小径孔6iの外端開口を囲繞する段差面6sとの間に環状ワッシャ10を挟むようにして第2シャフトSH2に結合されるから、差動機構DMの組立工程においてピニオンPとサイドギヤSとの噛合部のバックラッシュ等を踏まえて第2シャフトSH2に対する軸方向相対位置を設定すべきサイドギヤSと、固定部材Tとの間の間隔調整を、予め用意された厚みの異なる複数種類のワッシャ10の選択使用により容易且つ的確に行えるため、差動機構DM単独での精度保証がより一層容易となる。尚、上記環状ワッシャ10は、これを設けずとも精度確保が可能な場合には省略してもよい。
【0041】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【0042】
例えば、前記実施形態では、前記[2]の工程においてサブアッセンブリU1の傾斜姿勢で第1シャフトSH1の一端部21を一方の支持孔Iaに一旦浅く挿入(
図3(B))した後で、前記[3]の工程においてサブアッセンブリU1を、姿勢変化(傾斜姿勢を修正)しつつ第1シャフトSH1の軸線L1に沿う方向に移動させることで、第1シャフトSH1の一端部21を一方の支持孔Iaに深く挿入(
図3(B)〜(C))するようにしたものを示したが、その挿入手法については、本実施形態に限定されない。例えば、前記一方の支持孔Iaの内径(従って支持孔Iaと第1シャフトSH1の一端部21との間の間隙)を十分大きく設定すれば、前記[2]の工程においてサブアッセンブリU1の傾斜姿勢で第1シャフトSH1の一端部21を一方の支持孔Iaに一気に深く挿入(
図3(C)の状態)してもよく、その場合は、その挿入後にサブアッセンブリU1の姿勢変化操作(即ち前記傾斜姿勢の修正)を実行する。
【0043】
また前記実施形態では、前記[3]の工程で第1シャフトSH1の一端部21がリングギヤRの肉抜き孔Rmaに一時的に進入することでリングギヤRを無理なく逃げられるようにしたものを示したが、前記一方の支持孔Iaのサイズ等によっては、リングギヤRに肉抜き孔Rmaを設けなくても前記[3]の工程で第1シャフトSH1の一端部21がリングギヤRを無理なく逃げられる場合が想定され、その場合には、肉抜き孔Rmaを省略可能である。
【0044】
また前記実施形態では、サイドギヤSの第2シャフトSH2への抜け止め保持のために、大径孔6o内に収容されて第2シャフトSH2の両端部31,32に結合されるリング状の固定部材Tを用いたものを示したが、この固定部材Tの形状構造は、本実施形態に限定されず、即ち、大径孔6o内に在ってサイドギヤSを第2シャフトSH2の両端部31,32に相対回転自在に抜け止め保持する機能を果たし且つ出力軸Aと機械的に干渉しないものであれば、種々の形状構造に変更可能である。
【0045】
また前記実施形態では、第1シャフト体SH1を入力部材Iの一対の支持孔Ia,Ibに挿入支持する関係から、ピニオンP・十字状シャフト体SHからなるサブアッセンブリU1を入力部材Iに組み付けた後に、左右のサイドギヤSを第2シャフト体SH2に固定するようにしたものを示したが、入力部材Iへの第1シャフト体SH1の支持形態によっては、左右のサイドギヤSを第2シャフト体SH2に固定した後(即ちピニオンP・十字状シャフト体SH・両サイドギヤSからなる差動機構DMをサブアッセンブリとして組み立てた後)に、これを入力部材Iに組付けるようにしてもよい。
【0046】
また、前記実施形態において、差動装置Dは、左右車軸の回転差を許容するものであったが、前輪と後輪の回転差を許容するものであってもよい。