特開2016-10401(P2016-10401A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-10401(P2016-10401A)
(43)【公開日】2016年1月21日
(54)【発明の名称】飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/00 20060101AFI20151218BHJP
【FI】
   A23L2/00 B
   A23L2/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-111465(P2015-111465)
(22)【出願日】2015年6月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-117351(P2014-117351)
(32)【優先日】2014年6月6日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】畑中 大
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲也
【テーマコード(参考)】
4B017
【Fターム(参考)】
4B017LC02
4B017LC04
4B017LK06
4B017LK08
4B017LK16
4B017LP01
(57)【要約】
【課題】チアミン又はその塩、及びポリフェノール類を含有する飲料組成物において、ポリフェノール類によって消失する香味要素のうちビタミン感及びボリューム感のみを選択的に付与した飲料を提供すること。
【解決手段】チアミン又はその塩、ポリフェノール類及びさとうきび抽出物を配合することを特徴とする飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チアミン又はその塩、ポリフェノール類及びさとうきび抽出物を配合することを特徴とする飲料。
【請求項2】
ポリフェノール類が没食子酸又はその誘導体、タンニン類、クロロゲン酸、ヘスペリジン、カテキン及びルチンのいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
さとうきび抽出物が、バガス抽出物又は糖蜜抽出物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の飲料。
【請求項4】
低カロリーであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チアミン又はその塩、及びポリフェノール類を含有する飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
チアミン又はその塩はビタミンB1として様々な薬効が知られており、医薬品、医薬部外品、食品などに広く配合されている。チアミン又はその塩は、溶液中において、経時的にチアミン又はその塩の分解物に起因する独特の香味を発生させる。この香味には、薬効感や飲み応えに繋がるビタミン感やボリューム感という好ましい要素が含まれるが、一方では、服用しにくさに繋がる不快臭(オフフレーバー)も伴うという問題点がある。
【0003】
ビタミン感やボリューム感といったチアミン又はその塩の分解物に起因する好ましい要素の増強を目的に、ラズベリーフレーバー、パイナップルフレーバー等を、ドリンク剤を始めとした水溶液に添加する方法(非特許文献1参照)が提案されているが、フレーバー固有の香味によって、製品の風味が制限されてしまうという課題がある。
【0004】
一方、チアミン又はその塩の分解物に起因するオフフレーバーへの対策として、ポリフェノールを水溶液に添加する方法(特許文献1参照)が提案されているが、この方法はオフフレーバーの解消に有効であるものの、同時に、ビタミン感、ボリューム感も抑制してしまう。当該文献では、ポリフェノールにさらにパイナップル香料を添加する方法も提案されているが、十分な効果ではない。したがって、チアミン又はその塩の分解物に起因するオフフレーバーを抑制しつつ、ビタミン感やボリューム感を損なうことのない、更なる技術の向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4311251号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】特許標準技術集 香料 3−1−2−4 飲料(機能性飲料)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、チアミン又はその塩、及びポリフェノール類を含有する飲料において、ポリフェノール類によって消失する香味要素のうちビタミン感及びボリューム感のみを選択的に該飲料に付与することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、チアミン又はその塩、及びポリフェノール類を含む水溶液に、さとうきび抽出物を配合することにより、ポリフェノール類によって消失するビタミン感、ボリューム感を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、
(1)チアミン又はその塩、ポリフェノール類及びさとうきび抽出物を配合することを特徴とする飲料、
(2)ポリフェノール類が没食子酸又はその誘導体、タンニン類、クロロゲン酸、ヘスペリジン、カテキン及びルチンのいずれかであることを特徴とする、(1)に記載の飲料、
(3)さとうきび抽出物が、バガス抽出物又は糖蜜抽出物であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の飲料、
(4)低カロリーであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の飲料、
である。
【発明の効果】
【0010】
チアミン又はその塩、及びポリフェノール類を含有する飲料において、ポリフェノール類によって消失するビタミン感、ボリューム感を該飲料に付与することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、チアミン又はその塩とは、チアミン、塩酸チアミン、硝酸チアミンなどをあげることができ、硝酸ビスチアミン、チアミンジスルフィド、チアミンジセチル硫酸エステル塩、塩酸ジセチアミン、フルスルチアミン、塩酸フルスルチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン等のチアミン誘導体又はその塩も含む。チアミン又はその塩の含有量は、飲料全量に対して通常0.0001〜0.3W/V%であるが、本発明の効果をよく発揮できる含有量は、飲料全量に対して0.001〜0.1W/V%であり、より好ましくは0.005〜0.05W/V%である。
【0012】
本発明に用いるポリフェノールとは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ植物成分の総称であり、光合成によってできる植物の色素や苦味の成分であり、植物細胞の生成、活性化などを助ける働きを持つ。人体においては、活性酸素の抑制、脳梗塞や動脈硬化の予防、血中コレステロールの抑制そして高血圧の予防、肝機能の向上、殺菌効果、糖尿病の改善、ホルモン促進作用、抗酸化作用、がん予防等の効能が知られている。具体的には没食子酸、その誘導体(例えば没食子酸メチル、エチル、プロピル、ブチルエステル及び没食子酸のナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩)、クロロゲン酸、エラグ酸、タンニン類( 例えばタンニン酸、プロアントシアニジン、ガロタンニン、エラグタンニン)、フラボノイド類( 例えばフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、イソフラボン、アントシアニン、ヘスペリジン、ルチン、フラバノール(カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等))、カルコン、オーロンが挙げられる。飲料全体の風味の面から、好ましくは没食子酸又はその誘導体、タンニン類、クロロゲン酸、ヘスペリジン、カテキン又はルチンであり、特に好ましくは没食子酸又はその誘導体である。
【0013】
上記のポリフェノールは一種又は二種以上を任意組み合わせて用いることができ、チアミン又はその塩1質量部に対して、通常0.001〜100質量部、好ましくは0.03〜10質量部が添加される。風味の面から、ポリフェノールの量が少ないとオフフレーバーの改善効果が損なわれ、多すぎると飲料全体の風味に影響する。
【0014】
本発明に用いるポリフェノールは、合成品だけでなく、植物抽出物、果汁等及びそれらの由来物として添加してもよく、具体的には緑茶ポリフェノール、赤ワインポリフェノール、リンゴポリフェノール、ブドウ種子ポリフェノール、ブドウ葉ポリフェノール、ウーロン茶ポリフェノール、シソポリフェノール、ソバポリフェノール、カカオポリフェノール、コーヒーポリフェノール、甜茶ポリフェノール、シソ抽出物、カカオ抽出物、ソバ抽出物、柑橘果皮抽出物、ブルーベリー抽出物、緑茶抽出物、コーヒー抽出物、リンゴ抽出物、月見草抽出物、ウーロン茶抽出物、ブドウ種子抽出物、ブドウ葉抽出物、ユーカリ抽出物、グァバ抽出物、甜茶抽出物、ライチ種子抽出物、クランベリー抽出物、大豆イソフラボンなどが挙げられる。
【0015】
本発明に用いるさとうきび抽出物とは、さとうきびから糖分や塩分等を除き得られる、天然の食品素材又は食品添加物であり、例えば、三井製糖製のMSX−100、MSX−1L(J)、タイショウテクノス社製MASK・A等がある。さとうきび抽出物は、その製造工程からバガス抽出物と、糖蜜抽出物に細別される。
【0016】
さとうきび抽出物のうちバガス抽出物は、さとうきび由来のバガスを水又は親水性溶媒で抽出して得られたバガス抽出物をいう。ここで、さとうきび由来のバガスとしては、さとうきびからの製糖過程で排出されるバガスを典型例として挙げることができ、好ましくは、製糖の際の圧搾工程により糖汁を圧搾した後に排出されるバガスを挙げることができる。バガスとしては、高圧蒸煮処理などの処理を施したものを使用してもよく、高圧蒸煮処理を施していないバガスを用いてもよい。
【0017】
さとうきび抽出物のうち糖蜜抽出物は、さとうきびから原料糖又は精製糖を製造する工程において、副産物として生ずる糖蜜あるいは廃糖蜜(モラセスともいう)を、固定担体を用いたカラムクロマトグラフィーで処理し、糖分を除去したもの、若しくは糖蜜あるいは廃糖蜜のアルコール発酵液、又はそれらの混合物をいう。
【0018】
さとうきび抽出物は、食品の好ましくない味を改善する効果、不快なにおいを消す効果、細菌やウィルスの感染防御効果、肝障害の抑制効果などの効能が知られており、食品分野をはじめ環境消臭剤等、さまざまな分野で使用されている。本発明においては、意外にもさとうきび抽出物が、ポリフェノール類によって消失するビタミン感、ボリューム感を付与するために使用可能であることを見出した。
【0019】
さとうきび抽出物は、飲料に対し、通常0.001〜1W/V%、好ましくは0.002〜0.5W/V%、より好ましくは0.005〜0.1W/V%配合される。
【0020】
本発明における「飲料」とは、内服することができる液体であれば特に制限はなく、飲料として必要とされる甘味料等を配合していないものも含まれる。具体的には、例えば内服液剤、ドリンク剤等の医薬品及び医薬部外品のほか、栄養機能性食品、特定保健用食品等の各種飲料や、果実・野菜系飲料、炭酸飲料、スポーツ・健康機能性飲料、乳飲料,茶飲料,コーヒー飲料,ゼリー飲料といった食品飲料領域における各種飲料が挙げられる。
【0021】
本発明の飲料は、ビタミン感や飲み応えを感じられるという点において、pHは酸性側が好ましく、pH2.0〜7.0の範囲がより好ましく、pH2.5〜5.0の範囲が更に好ましく、特にpH2.5〜4.0の範囲が好ましい。飲料のpH調整は、可食性の酸をpH調整剤として用いることができる。pH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、乳酸、コハク酸、アスコルビン酸、酢酸などの有機酸及びそれらの塩類、塩酸、リン酸などの無機酸及びそれらの塩類などが挙げられる。これらのpH調整剤は1種又は2種以上使用できる。
【0022】
本発明の飲料には、服用性を向上させることを目的として、さらに糖類や高甘味度甘味料を配合することが可能である。糖類を配合する場合には、砂糖、ブドウ糖、果糖、ブドウ糖果糖液糖、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、トレハロース、及びマルチトール、オリゴ糖、プシコースからなる群より選ばれる1種又は2種以上の糖類、高甘味度甘味料を配合する場合には、スクラロース、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、フェニルアラニン化合物、ネオテーム、及びステビア抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の高甘味度甘味料を用いることができる。
【0023】
本発明の効果はチアミン又はその塩の風味が知覚されやすいという点で低カロリー飲料において顕著である。本明細書でいう低カロリー飲料とは、カロリーオフの飲料(飲料100mLあたり20kcal以下の飲料)やノンカロリー飲料(飲料100mLあたり5kcal未満の飲料)をいう。本発明の飲料中の熱量(カロリー)は、好ましくは0〜20kcal/100mL、更に好ましくは0〜10kcal/100mLである。
【0024】
飲料に含まれる熱量(カロリー)は、食品では例えば、健康増進法に関連して公表されている「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」に従って算出することができる。すなわち、定量した各種栄養成分の量に、それぞれの成分のエネルギー換算係数(たんぱく質:4kcal/g、脂質:9kcal/g、糖質:0〜4kcal/g、食物繊維:0〜2kcal/g、アルコール:7kcal/g、有機酸:3kcal/g)を乗じたものの総和として算出できることができる。例えば、難消化性糖質のエネルギー換算係数は、第1群(エリスリトール、スクラロース)が0kal/g、第2群(マンニトール、マルチトール、パラチニット、フルクトオリゴ糖、キシロオオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ラフィノース、スタキオース、乳化オリゴ糖、ソルボース、ラクチュロース、シクロデキストリン類)が2kcal/g、第3群(ソルビトール、キシリトール、マルトテトライトール)が3kcal/gである。低カロリー飲料では、上記「低カロリー」の範囲内であれば特に限定されず、必要に応じて糖類及び/又は甘味料等をそれぞれ単独若しくは混合物として配合することもできる。
【0025】
本発明の飲料にはその他の成分としてビタミン類、ミネラル類、アミノ酸又はその塩類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリーなどを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0026】
さらに必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、上記記載以外の香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、コーティング剤、懸濁化剤、乳化剤、保存剤、甘味料、酸味料などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合することができる。
【0027】
本発明の飲料は、常法により調製することができ、その方法は特に限定されるものではない。内服液剤の場合、通常、各成分をとり、適量の精製水で溶解した後、pHを所望の酸性域に調整し、さらに精製水を加えて容量調整し、必要に応じてろ過、殺菌処理を施すことにより得られる。
【0028】
以下に実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0029】
実施例1
硝酸チアミン5mgを精製水に溶解し、没食子酸プロピル1mg、さとうきび抽出物として糖蜜抽出物を5mg加えた。次いで、クエン酸を用いてpHを2.6に調整し、精製水を加えて全量を100mLとし、ガラス瓶に充填しキャップを施して飲料を得た。
【0030】
以下の実施例2〜7、及び比較例1〜12も実施例1と同様に調製した。なお、実施例2では、さとうきび抽出物としてバガス抽出物を使用した。また、実施例3および比較例8におけるタンニン類(柿抽出物由来)はパンシルPS‐M(商品名、松尾薬品産業株式会社より入手)を使用した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
試験例1
表1〜3に示す飲料を65℃で1日保存し、試験サンプルとした。得られた試験サンプルをカップに約10mL注ぎ、ビタミン感、ボリューム感についてブラインドで評価した。結果を表4〜6に示す。
【0035】
表4〜6において、ビタミン感、ボリューム感の程度は以下のとおりである。
++:かなりある
+:ある
±:わずかにあるが、十分でない
−:まったく無い
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
表4〜6から明らかなように、ラズベリーフレーバー、パイナップルフレーバー、コーラフレーバー、シナモンフレーバー、クローブフレーバーを配合しても、ポリフェノールを配合することで消失したビタミン感、ボリューム感を付与することは出来なかったが、さとうきび抽出物を配合するとビタミン感、ボリューム感を付与することが出来た。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明により、チアミン、又はその塩、及びポリフェノール類を含有しつつ、ビタミン感、ボリューム感が付与された飲料の提供を通じて、健全な飲料業界の発達に寄与することが期待される。