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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-10757(P2016-10757A)
(43)【公開日】2016年1月21日
(54)【発明の名称】酸性水の中和処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/66 20060101AFI20151218BHJP
【FI】
   C02F1/66 510L
   C02F1/66 521C
   C02F1/66 521D
   C02F1/66 521M
   C02F1/66 530L
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-133319(P2014-133319)
(22)【出願日】2014年6月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(74)【代理人】
【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100116528
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 俊男
(74)【代理人】
【識別番号】100146031
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 明夫
(74)【代理人】
【識別番号】100122747
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 洋子
(74)【代理人】
【識別番号】100125793
【弁理士】
【氏名又は名称】川田 秀美
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 玲
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】宮本 登
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 国男
(57)【要約】
【課題】鉱泉水等が流入した河川水等の酸性水を中和処理することができ、中和の際に発生する残渣の質量を低減でき、かつ残渣の容積の増加を抑える酸性水の中和処理方法を提供する。
【解決手段】炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整する第一工程と、マグネシウム化合物を含む中和剤を酸性水に更に添加し撹拌して、pHを5.0以上9.0以下の処理水に調整する第二工程とを含む酸性水の中和処理方法である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整する第一工程と、
マグネシウム化合物を含む中和剤を更に酸性水に添加し撹拌して、pHを5.0以上9.0以下の処理水に調整する第二工程とを含むことを特徴とする酸性水の中和処理方法。
【請求項2】
第一工程において、第一工程途中の酸性水のpH(a)と第一工程終了後の酸性水のpH(b)との変化率が、下記式(1)を満たすように酸性水を5〜60分間保持する、請求項1に記載の酸性水の中和処理方法。
(b−a)/b≦0.05 式(1)
a:第一工程途中の酸性水のpH
b:第一工程終了時の酸性水のpH
【請求項3】
第一工程で使用する中和剤が炭酸カルシウムであり、炭酸カルシウムの濃度(Y,mEq/L)が、酸性水中の酸濃度(X,mEq/L)に対して、下記式(2)を満たすように中和剤を添加する、請求項1又は2に記載の酸性水の中和処理方法。
1.30X≦Y≦1.60X 式(2)
【請求項4】
第一工程において、炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを2.5以上3.0以下に調整するA工程と、次に、マグネシウム化合物を含む中和剤を酸性水に更に添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整するB工程とを含む、請求項1記載の酸性水の中和処理方法。
【請求項5】
B工程において、B工程途中の酸性水のpH(a’)とB工程終了後の酸性水のpH(b’)との変化率が下記式(1’)を満たすように酸性水を5〜60分間保持する、請求項4に記載の酸性水の中和処理方法。
(b’−a’)/b’≦0.05 式(1’)
a’:第一工程のB工程途中の酸性水のpH
b’:第一工程のB工程終了時の酸性水のpH
【請求項6】
第一工程で使用する中和剤の炭酸カルシウムとマグネシウム化合物の濃度(Z,mEq/L)が、酸性水の酸濃度(X,mEq/L)に対して、下記式(3)を満たすように、中和剤を添加する、請求項4又は5に記載の酸性水の中和処理方法。
1.17X≦Z≦1.26X 式(3)
【請求項7】
マグネシウム化合物が、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、及び炭酸マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のマグネシウム化合物である、請求項1〜6のいずれか1項記載の酸性水の中和処理方法。
【請求項8】
酸性水が酸性の鉱泉水が流入する河川水である、請求項1〜7のいずれか1項記載の酸性水の中和処理方法。
【請求項9】
酸性水が酸性の鉱泉水が流入し、流量が0.10m/s〜1.0m/sの河川水であり、
河川の上流側で第一工程を実施し、
第一工程を行った上流側よりも下流側で第二工程を実施する、請求項1〜8のいずれか1項記載の酸性水の中和処理方法。
【請求項10】
第一工程の前に、河川水のpHを測定し、河川水のpH及び河川の流量に基づき、河川水のpHが3.6以上pH4.4以下となる炭酸カルシウムを含む中和剤の量を算出する工程を含む、請求項9記載の酸性水の中和処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性水の中和処理方法に関し、特に、中和剤を多段階に酸性水に添加して酸性水を中和処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性の鉱泉水が流入する河川などでは、河川水のpHが4以下にまで酸性化することがある。このような酸性水は、生物や植物に対して有害であり、橋やダムなどの土木構造物を腐食させる傾向にあるため、中和する必要がある。
【0003】
従来、酸性水を中和する方法として、炭酸カルシウム(石灰石等)を投入して中和する方法が広く行われている。
【0004】
その他、酸性水を中和する方法として、酸化マグネシウム及び/又は水酸化マグネシウムを酸性水に添加して中和する方法(特許文献1)や、炭酸カルシウムと酸化マグネシウム及び/又は水酸化マグネシウムを併用し、具体的には炭酸カルシウムと酸化マグネシウム及び/又は水酸化マグネシウムとの混合物を酸性水に一度に添加して中和する方法が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−190969号公報
【特許文献2】特開2003−251371号公報
【0006】
しかしながら、酸性水に炭酸カルシウムを添加した場合、中和過程で酸性水中に含まれる鉄やアルミニウムなどの成分が、水酸化鉄や水酸化アルミニウムなどの水酸化物となって析出するとともに、未反応の炭酸カルシウムが沈殿し、貯水場の底部に沈積する残渣量が増えるという問題があった。貯水場に沈積する残渣量が増えると、沈積した残渣を浚渫して除去する費用が増大し、浚渫土の捨て場の残余年数が低下するという問題も生じた。
【0007】
また、酸化マグネシウム及び/又は水酸化マグネシウムを添加して酸性水を中和する方法や、炭酸カルシウムと酸化マグネシウム及び/又は水酸化マグネシウムとの化合物を酸性水に一度に添加して中和する方法にあっては、中和によって析出する水酸化物等が非常に微細であるため、析出物によって濁りが生じ、特に河川などを中和する方法として用いた場合は、中和によって生成された残渣を含む濁水がダムの下流まで流れるという環境上の問題があった。
【0008】
以上のような背景から、酸性水を中和する方法として、中和によって生じる残渣の質量を低減でき、かつ残渣の容積の増加を抑える方法が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、酸性水、例えば鉱泉水等が流入した河川水等の酸性水を中和処理することができ、中和の際に発生する残渣の質量を低減でき、かつ残渣の容積の増加を抑える技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、酸性水に中和剤を多段階に添加し撹拌して、中和処理する方法であって、炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整する第一工程と、マグネシウム化合物を含む中和剤を酸性水に更に添加し撹拌して、pHを5.0以上9.0以下の処理水に調整する第二工程とを含む中和処理方法によって、上記課題を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]を提供するものである。
[1]
炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整する第一工程と、
マグネシウム化合物を含む中和剤を更に酸性水に添加し撹拌して、pHを5.0以上9.0以下の処理水に調整する第二工程とを含むことを特徴とする酸性水の中和処理方法。
[2]
第一工程において、第一工程途中の酸性水のpH(a)と第一工程終了後の酸性水のpH(b)との変化率が、下記式(1)を満たすように酸性水を5〜60分間保持する、前記[1]に記載の酸性水の中和処理方法。
(b−a)/b≦0.05 式(1)
a:第一工程途中の酸性水のpH
b:第一工程終了時の酸性水のpH
[3]
第一工程で使用する中和剤が炭酸カルシウムであり、炭酸カルシウムの濃度(Y,mEq/L)が、酸性水中の酸濃度(X,mEq/L)に対して、下記式(2)を満たすように中和剤を添加する、前記[1]又は[2]に記載の酸性水の中和処理方法。
1.30X≦Y≦1.60X 式(2)
[4]
第一工程において、炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを2.5以上3.0以下に調整するA工程と、次に、マグネシウム化合物を含む中和剤を更に酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整するB工程とを含む、前記[1]に記載の酸性水の中和処理方法。
[5]
B工程において、B工程途中の酸性水のpH(a’)とB工程終了後の酸性水のpH(b’)との変化率が式(1’)を満たすように酸性水を5〜60分間保持する、前記[4]に記載の酸性水の中和処理方法。
(b’−a’)/b’≦0.05 式(1’)
a’:第一工程のB工程途中の酸性水のpH
b’:第一工程のB工程終了時の酸性水のpH
[6]
第一工程で使用する中和剤の炭酸カルシウムとマグネシウム化合物の濃度(Z,mEq/L)が、酸性水の酸濃度(X,mEq/L)に対して、下記式(3)を満たすように中和剤を添加する、前記[4]又は[5]に記載の酸性水の中和処理方法。
1.17X≦Z≦1.26X 式(3)
[7]
マグネシウム化合物が、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、及び炭酸マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のマグネシウム化合物である、前記[1]〜[6]に記載の酸性水の中和処理方法。
[8]
酸性水が酸性の鉱泉水が流入する河川水である、前記[1]〜[7]に記載の酸性水の中和処理方法。
[9]
酸性水が酸性の鉱泉水が流入し、流量が0.10m/s〜1.0m/sの河川水であり、
河川の上流側で第一工程を実施し、
第一工程を行った上流側よりも下流側で第二工程を実施する、前記[1]〜[8]のいずれかに記載の酸性水の中和処理方法。
[10]
第一工程の前に、河川水のpHを測定し、河川の流量及びpHに基づき、河川水のpHが3.6以上pH4.4以下となる中和剤の量を算出する工程を含む、前記[9]に記載の酸性水の中和処理方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の酸性水の中和処理方法によれば、例えば鉱泉水等が流入した河川水等の酸性水の中和処理方法において、発生する残渣の質量を低減でき、かつ残渣の容積の増加を抑えて中和処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】中和処理方法によって中和された処理水中の残渣の容積の測定例を示す写真である。
図2】比較例1の中和処理方法において、石灰石微粉末(炭酸カルシウム)を酸性水に添加した後の酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図3】比較例2の中和処理方法において、水酸化マグネシウムスラリーを酸性水に添加した後の酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図4】比較例3の中和処理方法において、石灰石微粉末(炭酸カルシウム)と水酸化マグネシウムスラリーとを同時に酸性水に添加した後の酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図5】実施例1の中和処理方法において、2段階で中和剤を酸性水に添加した酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図6】実施例2の中和処理方法において、2段落で中和剤を酸性水に添加した酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図7】比較例4の中和処理方法において、2段階で中和剤を酸性水に添加した酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図8】比較例5の中和処理方法において、2段階で中和剤を酸性水に添加した酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図9】比較例6の中和処理方法において、2段階で中和剤を酸性水に添加した酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図10】比較例7の中和処理方法において、3段階で中和剤を酸性水に添加した酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図11】実施例3の中和処理方法において、3段階で中和剤を酸性水に添加した酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
図12】比較例8の中和処理方法において、3段階で中和剤を酸性水に添加した酸性水(処理水)のpHと時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の酸性水の中和処理方法は、炭酸カルシウムを含む中和剤と、マグネウム化合物を含む中和剤とを酸性水に段階的に添加して、多段階的に酸性を中和する方法である。
本発明の酸性水の中和処理方法は、炭酸カルシウムを含む中和剤を添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整する第一工程と、マグネシウム化合物を含む中和剤を更に酸性水に添加し撹拌して、pHを5.0以上9.0以下の処理水に調整する第二工程とを含む。
【0015】
第一工程において、炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し撹拌して、得られる酸性水のpHは、3.6以上4.4以下であり、好ましくは3.7以上4.4以下であり、より好ましくは3.8以上4.4以下であり、さらに好ましくは4.0以上4.4以下である。本明細書において、pH測定時の酸性水又は処理水の温度は、好ましくは20〜30℃であり、より好ましくは21〜28℃であり、特に好ましくは23℃±1℃である。
【0016】
本発明の酸性水の中和処理方法における第二工程は、マグネシウム化合物を含む中和剤を更に酸性水に添加し撹拌して、pHを5.0以上9.0以下、好ましくは5.0以上8.0以下、より好ましくは5.0以上7.0以下、さらに好ましくは5.0以上6.5以下の処理水に調整する工程である。
【0017】
第一工程において、炭酸カルシウムを含む中和剤を添加した酸性水が、pH3.6未満であるか、pH4.4を超えると、酸性水中に含まれる沈殿物として析出される成分を十分に沈殿物として析出させることができず、沈殿物として析出する成分が酸性水中に残存する。第一工程において、沈殿物となって析出する成分が酸性水中に残存したままであると、次の第二工程で中和剤の添加によって、急激に微細な水酸化物となって析出され、残渣が嵩高くなり、残渣の容積が多くなって、堆積せずに水とともに流れるおそれがある。
【0018】
第二工程において、マグネシウム化合物を含む中和剤を添加した酸性水のpHが5.0未満であると、酸性水を十分に中和させることができないため好ましくない。一方、第二工程において、マグネシウム化合物を含む中和剤を添加した処理水のpHが9.0を超えると、アルカリ性が強くなり環境に影響を与えるため好ましくない。処理水のpHが9.0を超えると、中和剤を過剰に添加することになるため、経済的に好ましくない。
【0019】
第一工程において、第一工程途中の酸性水のpH(a)と第一工程終了時の酸性水のpH(b)との変化率が下記式(1)を満たすように、酸性水を5〜60分間保持することが好ましい。第一工程において、下記式(1)を満たすように酸性水を保持する時間は、より好ましくは10〜40分間、さらに好ましくは10〜20分間である。ここで、第一工程途中の酸性水のpH(a)とは、第一工程での中和剤の添加後から第二工程での中和剤の添加までの間の任意の時間の酸性水のpHをいう。また、第一工程終了時の酸性水のpH(b)とは第二工程の中和剤を添加する直前の酸性水のpHをいう。
(b−a)/b≦0.05 式(1)
a:第一工程途中の酸性水のpH
b:第一工程終了時の酸性水のpH
【0020】
本発明の中和処理方法の第一工程において、酸性水に添加する中和剤は、炭酸カルシウムを含むことが好ましく、中和剤が炭酸カルシウムであることがより好ましい。中和剤が炭酸カルシウムであるとは、中和剤が炭酸カルシウムのみからなることをいい、中和剤が炭酸カルシウム以外の成分を実質的に含まないことを意味する。ここで「炭酸カルシウム以外の成分を実質的に含まない」とは、原料や生産工程から不純物として炭酸カルシウム以外の成分が中和剤中に混入することはあり得るが、炭酸カルシウム以外の成分を意図的に中和剤に含有しないことを意味する。
【0021】
第一工程で添加する炭酸カルシウムは、石灰石の粉砕物、石灰石骨材の微粒部分、軽質炭酸カルシウム等が挙げられる。また、炭酸カルシウムは、粒子径が75μm以下である炭酸カルシウムの割合が、炭酸カルシウム全体量100質量%に対して、好ましくは80〜99質量%であり、より好ましくは85〜99質量%、さらに好ましくは95〜99質量%である。ここで、炭酸カルシウムの粒子径が75μm以下であるとは、JIS Z8801の試験用ふるいを用いて、ふるいの呼び寸法75μmのふるいを通過した炭酸カルシウムの粒子径をいう。
【0022】
本発明の中和処理方法における第一工程は、第一工程で使用する中和剤が炭酸カルシウムであり、炭酸カルシウムの濃度(Y,mEq/L)が、酸性水の酸濃度(X,mEq/L)に対して、下記式(2)を満たすように中和剤を添加することが好ましい。ここで、「Emq」は、ミリグラム当量を示す。
1.30X≦Y≦1.60X 式(2)
例えば、炭酸カルシウム濃度(Y)は、主に添加した中和剤中の炭酸イオン濃度(CO2−)をいい、酸性水中の酸濃度(X)は、主に酸性水中の水素イオン濃度(H)をいう。
【0023】
本発明の第一工程において、上記式(2)は、例えば河川から酸性水を採取して、中和剤を徐々に添加して酸性水のpHの変化を測定し、酸性水のpHが3.6以上4.4以下となる中和剤の添加量を測定して、上記式(2)を満たす中和剤の添加量を導き出すことが好ましい。ここで上記式(2)を満たす中和剤の添加量を求める場合は、第一工程において中和剤を添加した後、上記式(1)を満たすように酸性水のpHの変化を調整しつつ、酸性水を5〜60分間保持した後に、酸性水のpHが3.6以上4.4以下となる、上記式(2)を満たす中和剤の添加量を決定することが好ましい。
【0024】
本発明の第一工程において、炭酸カルシウムを含む中和剤を添加して酸性水のpHを高めた後に、マグネシウム化合物を含む中和剤を更に酸性水に添加して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整してもよい。
中和処理方法の第一工程において、炭酸カルシウムを含む中和剤とマグネシウム化合物を含む中和剤との両方を酸性水に添加する場合には、先に、炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し、次に、マグネシウム化合物を含む中和剤を酸性水に添加することが好ましい。先に、マグネシウム化合物を含む中和剤を酸性水に添加し、酸性水のpHが上昇すると、酸性水中に析出物が析出し、これらの析出物が、次に添加する炭酸カルシウムの周囲に付着して、炭酸カルシウムの中和効率が低下し、中和に必要な中和剤の添加量が増加するため好ましくない。
【0025】
本発明の中和処理方法の第一工程は、炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを2.5以上3.0以下に調整するA工程と、次に、マグネシウム化合物を含む中和剤を更に酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整するB工程を含むことが好ましい。
【0026】
B工程において、B工程途中の酸性水のpH(a)とB工程終了後の酸性水のpH(b)との変化率が下記式(1’)を満たすように、酸性水を5〜60分間保持することが好ましい。B工程において、下記式(1’)を満たすように酸性水を保持する時間は、より好ましくは10〜40分間、さらに好ましくは10〜20分間である。ここで、第一工程のB工程途中の酸性水のpH(a’)とは、第一工程のB工程におけるマグネシウム化合物を含む中和剤を添加した後から第二工程での中和剤の添加までの間の任意の時間の酸性水のpHをいう。また、第一工程のB工程終了後の酸性水のpH(b’)とは、第二工程の中和剤を添加する直前の酸性水のpHをいう。
(b’−a’)/b’≦0.05 式(1’)
a’:第一工程のB工程途中の酸性水のpH
b’:第一工程のB工程終了時の酸性水のpH
【0027】
本発明の中和処理方法における第一工程は、第一工程で使用する中和剤の炭酸カルシウムとマグネシウム化合物の濃度(Z,mEq/L)が、酸性水の酸濃度(X,mEq/L)に対して、下記式(3)を満たすよう中和剤を添加することが好ましい。ここで、「mEq」は、ミリグラム当量を示す。
1.17X≦Y≦1.26X 式(3)
例えば、炭酸カルシウムとマグネシウム化合物の濃度(Z)は、主に中和剤として添加した、炭酸カルシウムの炭酸イオン濃度(CO2−)とマグネシウム化合物の陰イオン濃度(例えば、炭酸イオン濃度(CO2−)、水酸化イオン濃度(OH))の合計の濃度をいう。酸性水の酸濃度(X)は、主に酸性水中の水素イオン濃度(H)をいう。
【0028】
本発明の第一工程において、上記式(3)に示される第一工程における中和剤の添加量の範囲が、式(2)に示される第一工程における中和剤の添加量の範囲と異なるのは、マグネシウム化合物を含む中和剤は、炭酸カルシウムよりも酸性水中の成分との反応速度が速く、酸性水中の酸性陰イオン濃度に対して、炭酸カルシウムを含む中和剤よりも比較的少量で、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に達することができるからである。
【0029】
本発明の第一工程において、上記式(3)は、例えば河川から河川水を採取して酸性水とし、この酸性水に中和剤を徐々に添加して酸性水のpHの変化を測定し、酸性水のpHが3.6以上4.4以下となる中和剤の添加量を測定して、上記式(3)を満たすカルシウムイオン濃度とマグネシウムイオン濃度の合計量を導き出すことが好ましい。ここで中和剤の添加量を求める場合は、A工程において炭酸カルシウムを添加し、次に、B工程においてマグネシウム化合物を含む中和剤を添加し、第一工程のB工程途中のpH(a’)と、第一工程のB工程終了後のpH(b’)とが上記式(1’)を満たすように酸性水のpHの変化を調整しつつ、酸性水を5〜60分間保持した後に、酸性水のpHが3.6以上4.4以下となる中和剤の添加量を決定することが好ましい。
【0030】
中和剤に含まれるマグネシウム化合物は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなる群より選ばれる少なくとも一種のマグネシウム化合物であることが好ましい。マグネシウム化合物は、中和効率を考慮すると純度の高いものが好ましい。マグネシウム化合物は、純度の高い高濃度のマグネシウム化合物に関わらず、マグネシウム化合物を含むものであれば濃度は限定されない。
【0031】
酸化マグネシウムは、例えば、マグネサイト、ブルーサイト、又は海水から得られた水酸化マグネシウムを焼成することによって得られる酸化マグネシウム等を挙あげることができる。
水酸化マグネシウムは、例えば酸化マグネシウムを水和させて得られた水酸化マグネシウム、又は海水から得られた水酸化マグネシウム等を挙げることができる。
マグネシウム化合物は、一種を単独で、又は二種以上を混合して使用することができる。マグネシウム化合物は、特に海水から得られた水酸化マグネシウムを用いることが経済的であり好ましい。
マグネシウム化合物を含む中和剤は、粉体の状態で酸性水に添加してもよく、粉体の状態の中和剤に水を加えてスラリーの状態で添加してもよい。マグネシウム化合物を含む中和剤は、スラリーの状態で添加することがハンドリングの面で好ましい。
【0032】
本発明の中和処理方法における撹拌は、スラリーまたは溶液をかき混ぜることを意味し、撹拌機を用いてもよく、河川の流れを利用して酸性水を撹拌してもよい。
【0033】
本発明の中和処理方法は、酸性水の中和に適用することができる。酸性水は、鉱山廃水等が流れ込んだ酸性水や、酸性の鉱泉水が流入する河川水であってもよい。また、本発明の中和処理方法は、連続式に酸性水が流れる装置を用いて行ってもよく、バッチ式で酸性水が貯留される装置を用いて行ってもよい。
【0034】
次に、本発明の酸性水の中和処理方法を酸性の河川水の処理に用いる場合の形態について説明する。
本発明は、酸性水が酸性の鉱泉水が流入する河川水であり、炭酸カルシウムを含む中和剤を酸性水に添加し撹拌して酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整する第一工程を、河川の上流側で実施し、マグネシウム化合物を含む中和剤を酸性水に更に添加し撹拌してpHを5.0以上9.0以下の処理水に調整する第二工程を、第一工程を行った上流側よりも下流側で実施する、中和処理方法である。ここで、中和剤を酸性水(河川水)に添加して行う撹拌は、河川の流れを利用して撹拌することが好ましい。
【0035】
本発明は、準備工程として、第一工程の前に、河川水を河川から一部抜き出して、河川水のpHを測定し、河川水のpH及び河川の流量に基づいて、河川水のpHが3.6以上4.4以下となる中和剤の量を算出する工程を含むことが好ましい。
【0036】
次に、本発明の中和処理方法は、河川水のpHが3.6以上4.4以下となる炭酸カルシウムを含む中和剤を河川に投入し、河川の流速を考慮して、pHが3.6以上4.4以下である河川水を5〜60分間保持できるだけ離れた位置で、第二工程として、マグネシウム化合物を含む中和剤を河川水に添加する。マグネシウム化合物を含む中和剤の量は、河川の流量に基づき、河川水のpHが3.6以上4.4以下からpHが5.0以上9.0以下となる量を算出して添加することが好ましい。具体的には、第一工程において、河川の上流側で炭酸カルシウムを含む中和剤を河川に投入し、pHが3.6以上4.4以下である河川水を5〜60分間保持できるだけ離れた位置で、マグネシウム化合物を含む中和剤を投入する、第二工程を行うことが好ましい。
【0037】
酸性水が河川水である場合には、中和処理を行っている間、第一工程において、河川水のpH及び河川の流量に基づいて算出された量の炭酸カルシウムを含む中和剤を継続的又は断続的に河川に投入し続けることが好ましい。
中和剤を継続的又は断続的に河川に投入する場合には、中和剤の量は、河川水のpH、河川の流量及び河川の流速に基づいて、第一工程における河川水がpH3.6以上4.4以下を5〜60分間維持する量を算出して、算出された量の中和剤を河川に投入する。中和処理方法を行っている間、定期的に河川水を河川から一部抜き出し、河川水のpHを測定し、河川水のpH、河川の流量及び河川の流速から、河川水のpHが3.6以上4.4以下となる炭酸カルシウムイオン量を算出し、河川水のpHに応じて、河川に投入する炭酸カルシウムの添加量を変化させることが好ましい。
【0038】
第一工程において、第一工程途中の河川水のpH(a)と第一工程終了時の河川水のpH(b)との変化率が、河川の流量、河川の流速等を考慮して、下記式(1)を満たすように河川水が5〜60分間保持される位置に、第二工程を行う場所を決定することが好ましい。ここで、第一工程途中の河川水のpH(a)とは、炭酸カルシウムを含む中和剤が添加された場所から第二工程を行う場所の間に存在する河川水のpHをいう。また、第一工程終了時のpH(b)とは、第二工程を行う場所に存在し、第二工程の前、すなわちマグネシウム化合物を含む中和剤を添加する前の河川水のpHをいう。
(b−a)/b≦0.05 式(1)
a:第一工程途中の酸性水のpH
b:第一工程終了時の酸性水のpH
【0039】
第一工程で使用する中和剤は炭酸カルシウムであり、炭酸カルシウムの濃度(Y,mEq/L)が、河川水の酸濃度(X,mEq/L)に対して、下記式(2)を満たすように中和剤を添加することが好ましい。
1.30X≦Y≦1.60X 式(2)
【0040】
第一工程において、炭酸カルシウムを含む中和剤を添加して酸性水のpHを高めた後に、マグネシウム化合物を含む中和剤を酸性水に更に添加して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整してもよい。
第一工程は、炭酸カルシウムを含む中和剤を河川水に添加して河川水のpHを2.5以上3.0以下に調整するA工程と、次に、マグネシウム化合物を含む中和剤を更に河川水に添加して、河川水のpHを3.6以上4.4以下に調整するB工程を含むことが好ましい。
【0041】
B工程において、B工程途中の河川水のpH(a’)とB工程終了時の河川水のpH(b’)との変化率が下記式(1’)を満たすように、酸性水を5〜60分間保持される位置に、第二工程を行う場所を決定することが好ましい。ここで、第一工程のB工程途中の河川水のpH(a’)とは、炭酸カルシウムを含む中和剤を添加した後、マグネシウム化合物を含む中和剤が添加された場所から第二工程を行う場所の間に存在する河川水のpHをいう。また、第一工程のB工程終了時の河川水のpH(b’)とは、第二工程を行う場所に存在し、第二工程の前、すなわちマグネシウム化合物を含む中和剤を添加する前の河川水のpHをいう。
(b’−a’)/b’≦0.05 式(1’)
a’:第一工程のB工程途中の酸性水のpH
b’:第一工程のB工程終了時の酸性水のpH
【0042】
第一工程は、第一工程で使用する中和剤の炭酸カルシウムとマグネシウム化合物の濃度(Z,mEq/L)が、河川水の酸濃度(X,mEq/L)に対して、下記式(3)を満たすよう中和剤を添加することが好ましい。
1.17X≦Y≦1.26X 式(3)
【0043】
本発明の中和処理方法は、鉱山廃水等が流れ込んだ酸性水や、酸性の鉱泉水が流入する河川水に適用することができ、河川自体を利用して中和処理を行うことが可能である。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[酸性水]
酸性水は、酸性の温泉水が流れ込んでいる河川から採取した。表1は、酸性水のpH、酸濃度(mEq/L)、硫酸イオン濃度(SO2−(mg/L))、アルミニウムイオン濃度(Al3+(mg/L))、及び鉄イオン濃度(Fe3+(mg/L))を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
[中和剤の種別]
炭酸カルシウムを含む中和剤:市販の石灰石微粉末(JIS Z8801の試験用ふるいを用いて、石灰石微粉末100質量%に対して、ふるいの呼び寸法75μmのふるいを通過した石灰石(炭酸カルシウム)微粉末が81質量%、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2200、溶媒:エタノール)で測定した平均粒子径が20μm)
マグネシウム化合物を含む中和剤:水酸化マグネシウムを含むスラリー(水酸化マグネシウム濃度40質量%)
【0048】
[1.実験方法]
[中和処理方法]
3リットルの酸性水(液温を23℃に維持)をマグネチックスターラー(回転数:約600rpm)で撹拌し、これに中和剤を添加した。添加後、連続的に酸性水のpHを測定した。多段階的に中和剤を添加する場合は、各工程において段階的に中和剤を酸性水に添加した。
【0049】
[残渣質量の秤量]
中和剤を添加してから2時間後に撹拌を終了し、24時間静置した。その後、中和処理後の処理水の全量をろ紙(5C、直径:150mm)を用いて濾過した。ろ過残渣は、40℃の乾燥機中で24時間乾燥した後、質量を秤量した。
【0050】
[残渣容積の測定]
中和剤を添加してから2時間後に撹拌を終了し、24時間静置した。その後、処理水の上澄み溶液を廃棄し、濃縮し、試験管にて残渣容積を測定した。図1に、中和処理方法を行った処理水中の残渣の容積を測定した例の写真を示す。以下のように、比較例1〜3の中和処理方法は、第一工程及び第二工程のように多段階で中和剤を添加しなかった。
【0051】
(比較例1,2 中和剤の単独添加)
比較例1の方法は、第一工程と第二工程のように中和剤を段階的に酸性水に添加することなく、石灰石微粉末(炭酸カルシウム)単独を酸性水に一度に添加し、1段階で中和した。また、比較例2の方法は、水酸化マグネシウムスラリー単独を酸性水に一度に添加し、1段階で中和した。比較例1及び2における中和剤の添加量、2時間のpH、残渣の質量及び容積を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
(比較例1〜2の結果の考察)
表2の比較例1に示すように、酸性水に石灰石微粉末(炭酸カルシウム)を単独添加した場合は、残渣の質量は0.38g/Lと多い。一方、表2の比較例2に示すように、酸性水に水酸化マグネシウムスラリーを単独添加すると、残渣の質量は比較例1よりも減少するが、残渣の容積は4.2cm/Lと比較例1よりも著しく増大する。
【0054】
図2は、比較例1の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図2に示すように、比較例1の方法は、酸性水に石灰石微粉末を添加後、10分経過後には、酸性水のpHが4.4を超えていた。図2図4〜12において、「石灰石」は、「石灰石微粉末」を示す。
【0055】
図3は、比較例2の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図3に示すように、比較例2の方法は、酸性水に水酸化マグネシウムスラリーを添加後、10分経過後には、酸性水のpHが4.4を超えていた。図3〜12において、「水マグ」は、「水酸化マグネシウムスラリー」を示す。
【0056】
(比較例3 石灰石微粉末と水酸化マグネシウムスラリーの同時添加)
比較例3の方法は、第一工程と第二工程のように中和剤を段階的に酸性水に添加することなく、石灰石微粉末(炭酸カルシウム)と水酸化マグネシウムスラリーとを酸性水に一度に同時に添加し、1段階で中和した。比較例3における中和剤(石灰石微粉末、水酸化マグネシウムスラリー)の添加量、2時間後のpH、残渣の質量及び容積を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
(比較例3の結果の考察)
表3に示すように、石灰石微粉末と水酸化マグネシウムスラリーを一度に同時に酸性水に添加した場合、残渣の質量は比較例1よりも減少するが、残渣の容積が3.7cm/Lと比較例1よりも著しく増大する。
【0059】
図4は、比較例3の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図4に示すように、比較例3の方法は、酸性水に石灰石微粉末及び水酸化マグネシウムスラリーを同時に添加後、10分経過後には、酸性水のpHが4.4を超えていた。
【0060】
(実施例1〜2)
実施例1〜2の中和処理方法は、第一工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整し、表4に示す時間保持した。実施例1〜2の方法は、第二工程で水酸化マグネシウムスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pHを5.0以上9.0以下の処理水に調整し、2段階で中和した。第二工程において水酸化マグネシウムスラリーは、第一工程における石灰石微粉末を添加したときから40分経過後に酸性水に添加した。
【0061】
(比較例4〜6)
比較例4〜6の中和処理方法は、第一工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH3.6未満に調整し、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、2段階で中和した。第二工程において水酸化マグネシウムスラリーは、第一工程における石灰石微粉末を添加したときから40分間経過後に酸性水に添加した。表4は、実施例1〜2及び比較例4〜6の第一工程における石灰石微粉末の添加量、第一工程における酸性水を調整したpH、pHを調整した酸性水の保持時間、第二工程における水酸化マグネシウムスラリーの添加量、2時間後のpH、残渣の質量及び容積等を示す。
【0062】
【表4】
【0063】
(実施例1〜2の結果の考察)
実施例1〜2の中和処理方法は、第一工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH3.6以上4.4以下に調整し、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、2段階で中和した。実施例1〜2の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少なく、残渣の容積の増加も比較例1と比べて抑えられた。
【0064】
表1に示すように、処理前の酸性水の酸濃度Xは10mEq/Lである。実施例1〜2の中和処理方法において、第一工程において使用した添加した石灰石微粉末(炭酸カルシウム)の濃度(Y,mEq/L)は、実施例1が15.6mEq/Lであり、実施例2が13.6mEq/Lであり、下記式(2)が示す範囲を満たしていた。
1.30X≦Y≦1.60X 式(2)
【0065】
図5は、実施例1の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図5に示すように、実施例1の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、20分経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が下記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を4.4に設定し、酸性水が下記式(1)を満たすpH(a)となってから20分間、撹拌しつつ、下記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
(b−a)/b≦0.05 式(1)
a:第一工程途中の酸性水のpH
b:第一工程終了時の酸性水のpH
【0066】
図6は、実施例2の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図6に示すように、実施例2の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、30分間経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が上記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を4.1に設定し、酸性水が上記式(1)を満たすpHとなってから10分間、撹拌しつつ、上記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0067】
(比較例4〜6の結果の考察)
比較例4〜6の中和処理方法は、第一工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH3.6未満に調整し、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、2段階で中和した。比較例4〜6の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少ないが、残渣の容積は比較例1と比べて著しく増大した。
【0068】
比較例4〜6の中和処理方法において、第一工程において添加した中和剤である石灰石微粉末(炭酸カルシウム)の濃度(Y,mEq/L)は、いずれも13mEq/L以下であり、上記式(2)が示す範囲を満たしていなかった。
【0069】
図7は、比較例4の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図7に示すように、比較例1の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、30分経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が上記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を2.9に設定し、酸性水が上記式(1)を満たすpHとなってから10分間、撹拌しつつ、上記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0070】
図8は、比較例5の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図8に示すように、比較例5の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、25分間経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が上記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を3.3に設定し、酸性水が上記式(1)を満たすpHとなってから15分間、撹拌しつつ、上記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0071】
図9は、比較例6の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図9に示すように、比較例6の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、15分間経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が上記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を2.8に設定し、酸性水が上記式(1)を満たすpHとなってから25分間、撹拌しつつ、上記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0072】
(実施例3)
実施例3の中和処理方法は、第一工程のA工程において、酸性水に石灰石微粉末を添加し撹拌して、酸性水のpHを2.5以上3.0以下に調整した。次に、A工程において酸性水に石灰石微粉末を添加して20分間経過後、第一工程のB工程において、酸性水に水酸化マグネシウムスラリーを更に添加し撹拌して、酸性水のpH3.6以上4.4以下に調整し、表5に示す時間保持した。その後、実施例3の方法は、第二工程において、水酸化マグネシウムスラリーを添加し撹拌して、処理水のpHを5.0以上9.0以下に調整し、3段階で中和した。第二工程において水酸化マグネシウムスラリーは、第一工程における石灰石微粉末を添加したときから40分経過後に添加した。
【0073】
(比較例7〜8)
比較例7〜8は、第一工程のA工程において、酸性水に石灰石微粉末を添加して、酸性水のpHを2.5以上3.0以下に調整した。次に、A工程において酸性水に石灰石微粉末を添加して20分間経過後、第一工程のB工程において、酸性水に水酸化マグネシウムスラリーを更に添加して、酸性水を表5に示すpHに調整し、表5に示す時間保持した。その後、比較例7〜8の方法は、第二工程において、水酸化マグネシウムスラリーを添加して、処理水のpHを5.0以上9.0以下に調整し、3段階で中和した。第二工程において水酸化マグネシウムスラリーは、第一工程における石灰石微粉末を添加したときから40分経過後に添加した。
表5は、実施例3及び比較例7〜8の第一工程のA工程における石灰石微粉末の添加量、第一工程のB工程における水酸化マグネシウムの添加量、pHを調整した酸性水の保持時間、第二工程における水酸化マグネシウムスラリーの添加量、2時間後のpH、残渣の質量及び容積等を示す。
【0074】
【表5】
【0075】
(実施例3の結果の考察)
実施例3の中和処理方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH2.5以上3.0以下に調整し、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH3.6以上4.4以下に調整し、次いで、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、3段階で中和した。実施例3の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少なく、残渣の容積の増加も抑えられた。
【0076】
表1に示すように、処理前の酸性水の酸濃度Xは10mEq/Lである。実施例3の中和処理方法において、第一工程のA工程で使用した石灰石微粉末(炭酸カルシウム)の濃度と、第一工程のB工程で使用した水酸化マグネシウムスラリーの濃度との合計の濃度(Z,mEq/L)は11.9mEq/Lであり、下記式(3)が示す範囲を満たしていた。
1.17X≦Y≦1.26X 式(3)
【0077】
図11は、実施例3の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図11に示すように、実施例3の方法は、第一工程のA工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、20分経過後に、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを添加し、水酸化マグネシウムスラリーを添加後、5分経過後、第一工程のB工程途中の酸性水が下記式(1’)を満たすpHとなった。第一工程のB工程終了時のpH(b)を4.0に設定し、酸性水が下記式(1’)を満たすpH(a’)となってから15分間、撹拌しつつ、下記式(1’)を満たすように酸性水のpHを保持した。
(b’−a’)/b’≦0.05 式(1’)
a’:第一工程のB工程途中の酸性水のpH
b’:第一工程のB工程終了時の酸性水のpH
【0078】
(比較例7〜8の結果の考察)
比較例7の中和処理方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpH2.7に調整し、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHは4.4を超えて4.5に調整し、次いで、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、3段階で中和した。比較例7の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少ないが、残渣の容積は比較例1と比べて増大した。
比較例8の処理方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpH2.7に調整し、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHは3.6未満の3.5に調整し、次いで、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、3段階で中和した。比較例8の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少ないが、残渣の容積は比較例1と比べて著しく増大した。
【0079】
比較例7〜8の中和処理方法において、第一工程のA工程で使用した石灰石微粉末(炭酸カルシウム)の濃度と、第一工程のB工程で使用した水酸化マグネシウムスラリーの濃度との合計の濃度(Z,mEq/L)は、比較例7が12.7mEq/Lであり、比較例8が11.6mEq/Lであり、いずれも上記式(3)が示す範囲を満たしていなかった。
【0080】
図10は、比較例7の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図10に示すように、比較例7の方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を添加後、20分経過後に、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを添加し、水酸化マグネシウムスラリーを添加後、5分経過後に、第一工程のB工程途中の酸性水のpH(a’)が上記式(1’)を満たすpHとなった。第一工程のB工程終了時のpH(b’)を4.5に設定し、酸性水が上記式(1’)を満たすpHとなってから15分間、撹拌しつつ、上記式(1’)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0081】
図12は、比較例8の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。図12に示すように、比較例8の方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を添加後、20分経過後に、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを添加し、水酸化マグネシウムスラリーを添加後、5分経過後に、第一工程のB工程途中の酸性水のpH(a’)が上記式(1’)を満たすpHとなった。第一工程のB工程終了時のpH(b’)を3.5に設定し、酸性水が上記式(1’)を満たすpHとなってから15分間、撹拌しつつ、上記式(1’)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の中和処理方法によれば、例えば、鉱泉水や鉱山廃水等が流れ込んだ河川の酸性水を中和処理することができ、中和において発生する中和残渣の質量を低減でき、かつ中和残渣容積の増加を抑えて中和処理を行うことができるため、産業上有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12