【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
[酸性水]
酸性水は、酸性の温泉水が流れ込んでいる河川から採取した。表1は、酸性水のpH、酸濃度(mEq/L)、硫酸イオン濃度(SO
42−(mg/L))、アルミニウムイオン濃度(Al
3+(mg/L))、及び鉄イオン濃度(Fe
3+(mg/L))を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
[中和剤の種別]
炭酸カルシウムを含む中和剤:市販の石灰石微粉末(JIS Z8801の試験用ふるいを用いて、石灰石微粉末100質量%に対して、ふるいの呼び寸法75μmのふるいを通過した石灰石(炭酸カルシウム)微粉末が81質量%、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2200、溶媒:エタノール)で測定した平均粒子径が20μm)
マグネシウム化合物を含む中和剤:水酸化マグネシウムを含むスラリー(水酸化マグネシウム濃度40質量%)
【0048】
[1.実験方法]
[中和処理方法]
3リットルの酸性水(液温を23℃に維持)をマグネチックスターラー(回転数:約600rpm)で撹拌し、これに中和剤を添加した。添加後、連続的に酸性水のpHを測定した。多段階的に中和剤を添加する場合は、各工程において段階的に中和剤を酸性水に添加した。
【0049】
[残渣質量の秤量]
中和剤を添加してから2時間後に撹拌を終了し、24時間静置した。その後、中和処理後の処理水の全量をろ紙(5C、直径:150mm)を用いて濾過した。ろ過残渣は、40℃の乾燥機中で24時間乾燥した後、質量を秤量した。
【0050】
[残渣容積の測定]
中和剤を添加してから2時間後に撹拌を終了し、24時間静置した。その後、処理水の上澄み溶液を廃棄し、濃縮し、試験管にて残渣容積を測定した。
図1に、中和処理方法を行った処理水中の残渣の容積を測定した例の写真を示す。以下のように、比較例1〜3の中和処理方法は、第一工程及び第二工程のように多段階で中和剤を添加しなかった。
【0051】
(比較例1,2 中和剤の単独添加)
比較例1の方法は、第一工程と第二工程のように中和剤を段階的に酸性水に添加することなく、石灰石微粉末(炭酸カルシウム)単独を酸性水に一度に添加し、1段階で中和した。また、比較例2の方法は、水酸化マグネシウムスラリー単独を酸性水に一度に添加し、1段階で中和した。比較例1及び2における中和剤の添加量、2時間のpH、残渣の質量及び容積を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
(比較例1〜2の結果の考察)
表2の比較例1に示すように、酸性水に石灰石微粉末(炭酸カルシウム)を単独添加した場合は、残渣の質量は0.38g/Lと多い。一方、表2の比較例2に示すように、酸性水に水酸化マグネシウムスラリーを単独添加すると、残渣の質量は比較例1よりも減少するが、残渣の容積は4.2cm
3/Lと比較例1よりも著しく増大する。
【0054】
図2は、比較例1の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図2に示すように、比較例1の方法は、酸性水に石灰石微粉末を添加後、10分経過後には、酸性水のpHが4.4を超えていた。
図2、
図4〜12において、「石灰石」は、「石灰石微粉末」を示す。
【0055】
図3は、比較例2の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図3に示すように、比較例2の方法は、酸性水に水酸化マグネシウムスラリーを添加後、10分経過後には、酸性水のpHが4.4を超えていた。
図3〜12において、「水マグ」は、「水酸化マグネシウムスラリー」を示す。
【0056】
(比較例3 石灰石微粉末と水酸化マグネシウムスラリーの同時添加)
比較例3の方法は、第一工程と第二工程のように中和剤を段階的に酸性水に添加することなく、石灰石微粉末(炭酸カルシウム)と水酸化マグネシウムスラリーとを酸性水に一度に同時に添加し、1段階で中和した。比較例3における中和剤(石灰石微粉末、水酸化マグネシウムスラリー)の添加量、2時間後のpH、残渣の質量及び容積を表3に示す。
【0057】
【表3】
【0058】
(比較例3の結果の考察)
表3に示すように、石灰石微粉末と水酸化マグネシウムスラリーを一度に同時に酸性水に添加した場合、残渣の質量は比較例1よりも減少するが、残渣の容積が3.7cm
3/Lと比較例1よりも著しく増大する。
【0059】
図4は、比較例3の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図4に示すように、比較例3の方法は、酸性水に石灰石微粉末及び水酸化マグネシウムスラリーを同時に添加後、10分経過後には、酸性水のpHが4.4を超えていた。
【0060】
(実施例1〜2)
実施例1〜2の中和処理方法は、第一工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHを3.6以上4.4以下に調整し、表4に示す時間保持した。実施例1〜2の方法は、第二工程で水酸化マグネシウムスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pHを5.0以上9.0以下の処理水に調整し、2段階で中和した。第二工程において水酸化マグネシウムスラリーは、第一工程における石灰石微粉末を添加したときから40分経過後に酸性水に添加した。
【0061】
(比較例4〜6)
比較例4〜6の中和処理方法は、第一工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH3.6未満に調整し、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、2段階で中和した。第二工程において水酸化マグネシウムスラリーは、第一工程における石灰石微粉末を添加したときから40分間経過後に酸性水に添加した。表4は、実施例1〜2及び比較例4〜6の第一工程における石灰石微粉末の添加量、第一工程における酸性水を調整したpH、pHを調整した酸性水の保持時間、第二工程における水酸化マグネシウムスラリーの添加量、2時間後のpH、残渣の質量及び容積等を示す。
【0062】
【表4】
【0063】
(実施例1〜2の結果の考察)
実施例1〜2の中和処理方法は、第一工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH3.6以上4.4以下に調整し、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、2段階で中和した。実施例1〜2の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少なく、残渣の容積の増加も比較例1と比べて抑えられた。
【0064】
表1に示すように、処理前の酸性水の酸濃度Xは10mEq/Lである。実施例1〜2の中和処理方法において、第一工程において使用した添加した石灰石微粉末(炭酸カルシウム)の濃度(Y,mEq/L)は、実施例1が15.6mEq/Lであり、実施例2が13.6mEq/Lであり、下記式(2)が示す範囲を満たしていた。
1.30X≦Y≦1.60X 式(2)
【0065】
図5は、実施例1の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図5に示すように、実施例1の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、20分経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が下記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を4.4に設定し、酸性水が下記式(1)を満たすpH(a)となってから20分間、撹拌しつつ、下記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
(b−a)/b≦0.05 式(1)
a:第一工程途中の酸性水のpH
b:第一工程終了時の酸性水のpH
【0066】
図6は、実施例2の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図6に示すように、実施例2の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、30分間経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が上記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を4.1に設定し、酸性水が上記式(1)を満たすpHとなってから10分間、撹拌しつつ、上記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0067】
(比較例4〜6の結果の考察)
比較例4〜6の中和処理方法は、第一工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH3.6未満に調整し、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、2段階で中和した。比較例4〜6の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少ないが、残渣の容積は比較例1と比べて著しく増大した。
【0068】
比較例4〜6の中和処理方法において、第一工程において添加した中和剤である石灰石微粉末(炭酸カルシウム)の濃度(Y,mEq/L)は、いずれも13mEq/L以下であり、上記式(2)が示す範囲を満たしていなかった。
【0069】
図7は、比較例4の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図7に示すように、比較例1の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、30分経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が上記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を2.9に設定し、酸性水が上記式(1)を満たすpHとなってから10分間、撹拌しつつ、上記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0070】
図8は、比較例5の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図8に示すように、比較例5の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、25分間経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が上記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を3.3に設定し、酸性水が上記式(1)を満たすpHとなってから15分間、撹拌しつつ、上記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0071】
図9は、比較例6の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図9に示すように、比較例6の方法は、第一工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、15分間経過後に、第一工程途中の酸性水のpH(a)が上記式(1)を満たすpHとなった。第一工程終了時のpH(b)を2.8に設定し、酸性水が上記式(1)を満たすpHとなってから25分間、撹拌しつつ、上記式(1)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0072】
(実施例3)
実施例3の中和処理方法は、第一工程のA工程において、酸性水に石灰石微粉末を添加し撹拌して、酸性水のpHを2.5以上3.0以下に調整した。次に、A工程において酸性水に石灰石微粉末を添加して20分間経過後、第一工程のB工程において、酸性水に水酸化マグネシウムスラリーを更に添加し撹拌して、酸性水のpH3.6以上4.4以下に調整し、表5に示す時間保持した。その後、実施例3の方法は、第二工程において、水酸化マグネシウムスラリーを添加し撹拌して、処理水のpHを5.0以上9.0以下に調整し、3段階で中和した。第二工程において水酸化マグネシウムスラリーは、第一工程における石灰石微粉末を添加したときから40分経過後に添加した。
【0073】
(比較例7〜8)
比較例7〜8は、第一工程のA工程において、酸性水に石灰石微粉末を添加して、酸性水のpHを2.5以上3.0以下に調整した。次に、A工程において酸性水に石灰石微粉末を添加して20分間経過後、第一工程のB工程において、酸性水に水酸化マグネシウムスラリーを更に添加して、酸性水を表5に示すpHに調整し、表5に示す時間保持した。その後、比較例7〜8の方法は、第二工程において、水酸化マグネシウムスラリーを添加して、処理水のpHを5.0以上9.0以下に調整し、3段階で中和した。第二工程において水酸化マグネシウムスラリーは、第一工程における石灰石微粉末を添加したときから40分経過後に添加した。
表5は、実施例3及び比較例7〜8の第一工程のA工程における石灰石微粉末の添加量、第一工程のB工程における水酸化マグネシウムの添加量、pHを調整した酸性水の保持時間、第二工程における水酸化マグネシウムスラリーの添加量、2時間後のpH、残渣の質量及び容積等を示す。
【0074】
【表5】
【0075】
(実施例3の結果の考察)
実施例3の中和処理方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH2.5以上3.0以下に調整し、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを酸性水に添加し撹拌して、酸性水をpH3.6以上4.4以下に調整し、次いで、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、3段階で中和した。実施例3の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少なく、残渣の容積の増加も抑えられた。
【0076】
表1に示すように、処理前の酸性水の酸濃度Xは10mEq/Lである。実施例3の中和処理方法において、第一工程のA工程で使用した石灰石微粉末(炭酸カルシウム)の濃度と、第一工程のB工程で使用した水酸化マグネシウムスラリーの濃度との合計の濃度(Z,mEq/L)は11.9mEq/Lであり、下記式(3)が示す範囲を満たしていた。
1.17X≦Y≦1.26X 式(3)
【0077】
図11は、実施例3の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図11に示すように、実施例3の方法は、第一工程のA工程で酸性水に石灰石微粉末を添加後、20分経過後に、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを添加し、水酸化マグネシウムスラリーを添加後、5分経過後、第一工程のB工程途中の酸性水が下記式(1’)を満たすpHとなった。第一工程のB工程終了時のpH(b)を4.0に設定し、酸性水が下記式(1’)を満たすpH(a’)となってから15分間、撹拌しつつ、下記式(1’)を満たすように酸性水のpHを保持した。
(b’−a’)/b’≦0.05 式(1’)
a’:第一工程のB工程途中の酸性水のpH
b’:第一工程のB工程終了時の酸性水のpH
【0078】
(比較例7〜8の結果の考察)
比較例7の中和処理方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpH2.7に調整し、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHは4.4を超えて4.5に調整し、次いで、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、3段階で中和した。比較例7の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少ないが、残渣の容積は比較例1と比べて増大した。
比較例8の処理方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpH2.7に調整し、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを酸性水に添加し撹拌して、酸性水のpHは3.6未満の3.5に調整し、次いで、第二工程で水酸化マグネシウスラリーを酸性水に添加し撹拌して、pH5.0以上9.0以下の処理水に調整し、3段階で中和した。比較例8の方法において、残渣の質量は比較例1よりも少ないが、残渣の容積は比較例1と比べて著しく増大した。
【0079】
比較例7〜8の中和処理方法において、第一工程のA工程で使用した石灰石微粉末(炭酸カルシウム)の濃度と、第一工程のB工程で使用した水酸化マグネシウムスラリーの濃度との合計の濃度(Z,mEq/L)は、比較例7が12.7mEq/Lであり、比較例8が11.6mEq/Lであり、いずれも上記式(3)が示す範囲を満たしていなかった。
【0080】
図10は、比較例7の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図10に示すように、比較例7の方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を添加後、20分経過後に、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを添加し、水酸化マグネシウムスラリーを添加後、5分経過後に、第一工程のB工程途中の酸性水のpH(a’)が上記式(1’)を満たすpHとなった。第一工程のB工程終了時のpH(b’)を4.5に設定し、酸性水が上記式(1’)を満たすpHとなってから15分間、撹拌しつつ、上記式(1’)を満たすように酸性水のpHを保持した。
【0081】
図12は、比較例8の中和処理方法における酸性水又は処理水のpHと時間との関係を示す図である。
図12に示すように、比較例8の方法は、第一工程のA工程で石灰石微粉末を添加後、20分経過後に、第一工程のB工程で水酸化マグネシウムスラリーを添加し、水酸化マグネシウムスラリーを添加後、5分経過後に、第一工程のB工程途中の酸性水のpH(a’)が上記式(1’)を満たすpHとなった。第一工程のB工程終了時のpH(b’)を3.5に設定し、酸性水が上記式(1’)を満たすpHとなってから15分間、撹拌しつつ、上記式(1’)を満たすように酸性水のpHを保持した。