【解決手段】フィルム基材の両面にそれぞれハードコート層を形成し、該ハードコートフィルムの少なくとも一方の面の表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲であることにより、印刷適性に優れたハードコートフィルムが得られる。
前記ハードコートフィルムの一方の面の表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲であり、かつ、他方の面の算術平均粗さ(Ra)が3nmよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
前記ハードコートフィルムの表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲である面の算術平均粗さ(Ra)が1.5nm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載のハードコートフィルム。
前記ハードコートフィルムの表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲である面のハードコート層の厚みが、3μm以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のハードコートフィルム。
前記ハードコート層には電子線硬化型樹脂が含有され、該電子線硬化型樹脂は、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のハードコートフィルム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
本発明に係るハードコートフィルムは、上記の第1の発明にあるとおり、フィルム基材の両面にそれぞれハードコート層を形成させたハードコートフィルムであって、該ハードコートフィルムの少なくとも一方の面の表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲であることを特徴とするものである。
なお、本発明において、「○○〜△△」とは、特に断りのない限り、「○○以上△△以下」を意味するものとする。
以下、詳しく説明する。
【0013】
(フィルム基材)
本発明において使用されるフィルム基材は、特に限定されるものではなく、例えば、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレングリシジルメタクリレート及びこれらの混合物を例示することができるが、耐熱性、入手性、経済性の点からポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロースを構成材料とする熱可塑性樹脂フィルムを用いることが好ましい。とりわけ、透明性が高く、しかも安価で入手しやすい点で、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好適である。
【0014】
(ハードコート層)
本発明におけるハードコート層には、バインダー樹脂である電子線硬化型樹脂、及び表面自由エネルギーを上記の所定の範囲内に調整するためのレベリング剤を含有する。
本発明において上記ハードコート層に用いられる電子線硬化型樹脂は、ハードコート層とフィルム基材との密着性を安定的に確保するために、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂を少なくとも含むことが好ましい。
【0015】
本発明において好ましく用いられる、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂とは、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する電子線又は紫外線硬化可能な(メタ)アクリレート樹脂からなるものをいう。分子内に含まれる(メタ)アクリロイル基の個数は、3〜6個が好ましく、4〜6個がさらに好ましい。(メタ)アクリロイル基が分子内に6個よりも多く含まれる場合、電子線硬化樹脂の硬化収縮により、ハードコート層のカールが大きくなりすぎてしまい、ロール巻取りの際にシワやヨレが発生しやすくなり製造工程等での取り扱い性が低下する。一方、分子内に含まれる(メタ)アクリロイル基の個数が3個未満の場合、ハードコート層に要求される所望のハード性が得られない。
【0016】
本発明に好ましく用いられる3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂の具体例としては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の、ポリオールポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0017】
このようなハードコート層に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂を用いることにより、フィルム基材との密着性および印刷層との密着性を向上することができる。
【0018】
また、本発明において、上記の3官能以上、すなわち3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂と他の電子線硬化型樹脂を所望の効果を阻害しない範囲で併用することができる。電子線硬化型樹脂とは、電子線または紫外線等を照射することによって重合し硬化する透明な樹脂であり、例えば、アクリル系のモノマーやウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、及びエポキシアクリレート系樹脂等のオリゴマーやポリマーなどから適宜選択することが出来る。モノマーとして好ましいものは、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化可能な多官能アクリレートからなるものが挙げられる。分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線硬化可能な多官能アクリレートの具体例としては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のポリオールポリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルのジアクリレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルのジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのジ(メタ)アクリレートなどのエポキシ(メタ)アクリレート、多価アルコールと多価カルボン酸及び/またはその無水物とアクリル酸とをエステル化することによって得ることができるポリエステル(メタ)アクリレート、多価アルコール、多価イソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させることによって得られるウレタン(メタ)アクリレート、ポリシロキサンポリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0019】
本発明におけるハードコートフィルムにおける上記の3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂の配合量は、ハードコート層における電子線硬化型樹脂の全重量に対し25〜100質量%であることが好ましく、より好ましくは50〜100質量%、更に好ましくは80〜100質量%である。
【0020】
また、本発明のハードコートフィルムにおいては、フィルム基材の両面にそれぞれ上記ハードコート層を設けている。前にも説明したように、フィルム基材として好適なポリエチレンテレフタレート等のポリエステルフィルムは、高温高湿環境下では、オリゴマーがフィルム表面に析出して基材が白化する現象が生じることがあるが、フィルム基材の両面にそれぞれ上記ハードコート層を設けることにより、オリゴマーの析出を防止することができ、高温高湿環境下においてもハードコートフィルムの透過率やヘイズなどの光学特性の変化を抑制することが可能になる。
【0021】
上記のとおり、本発明のハードコートフィルムにおいては、少なくとも一方の面の表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲であることを特徴とするものである。
【0022】
本発明者らの鋭意検討の結果、フィルム基材上に形成させたハードコート層の表面自由エネルギーを所定の範囲内、すなわち表面自由エネルギーの小さい30mN/m〜55mN/mの範囲に調整することにより、ハードコート層の上に印刷層を形成した場合、印刷層とハードコート層の密着性に優れることを見出した。つまり、ハードコート層の表面自由エネルギーを30mN/m〜55mN/mの範囲に調整することにより、ハードコート層の上に印刷層を形成する場合、印刷層とハードコート層の密着性に優れ、印刷適性の優れたハードコートフィルムを得ることができる。ハードコート層の表面自由エネルギーが30mN/m未満であると、インクが濡れ広がらず印刷に適さない。また、ハードコート層の表面自由エネルギーが55mN/m以下であると、高精細印刷適性が向上するため好ましい。他方、ハードコート層の表面自由エネルギーが55mN/mよりも大きい(55mN/m超)と、印刷層の密着性は得られるものの、印刷層の精細さに欠け、そのため高精細印刷適性が不十分である。
【0023】
本発明において、ハードコート層の表面自由エネルギーとは、ハードコート層表面が層内部(バルク)に比べて過剰に持つエネルギーのことである。また、この表面自由エネルギーは、接触角計(たとえば協和界面科学株式会社製全自動接触角計DM−701など)を用い、水とヘキサデカンでの接触角をKaelble−Uy法にて解析することによって測定することができる。
また、本発明において、印刷層とは、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェットなどの公知の印刷法あるいは公知の塗工法を適用して形成することができるベタ、図柄、パターン等の印刷層のことである。
【0024】
本発明のハードコートフィルムにおいては、印刷層とハードコート層の密着性および印刷層の精細さの観点から、少なくとも一方の面の表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲であり、38mN/m〜50mN/mの範囲であることが特に好ましく、38mN/m〜45mN/mの範囲であることが更に好ましい。
【0025】
本発明のハードコ−トフィルムにおいて、フィルム基材上に形成させたハードコート層の表面自由エネルギーを30mN/m〜55mN/mの範囲に調整するためには、ハードコート層のレベリング剤として例えば所定のフッ素系のレベリング剤を用いることが有効である。
【0026】
ここでいう所定のフッ素系レベリング剤とは、例えば、ヘキサフルオロプロペンオリゴマー誘導体を少なくとも含むフッ素系レベリング剤である。このようなヘキサフルオロプロペンオリゴマー誘導体を含むフッ素系レベリング剤は、分子内に二重結合を持ち、全体が分岐したパーフルオロアルケニルの分子構造を有しており、例えば下記の分子構造を有する化合物である。
【0028】
上記フッ素系レベリング剤は、レベリング性を向上させるだけでなく、たとえば直鎖状のフッ素系レベリング剤などと比べると、ハードコート層表面に結晶構造を形成し難く、ハードコート層の表面自由エネルギーの調節など、少量添加でも表面改質効果に優れている。
【0029】
このようなフッ素系レベリング剤を用いることにより、ハードコート層の表面自由エネルギーを30mN/m〜55mN/mの範囲内に好ましく調整することが可能である。
本発明に好ましく用いられるフッ素系レベリング剤としては、たとえば市販されているフタージェント681(商品名)(株式会社ネオス製)、フタージェント602A(商品名)(株式会社ネオス製)などが具体的に挙げられる。
【0030】
本発明においては、ハードコート層の表面自由エネルギーを30mN/m〜55mN/mの範囲内に調整するため、所望の効果を阻害しない範囲で、上記フッ素系レベリング剤と他の種類のレベリング剤を併用してもよく、また上記フッ素系レベリング剤に代わり他の種類のレベリング剤で構成されていてもよい。その様な他の種類のレベリング剤としては、アクリル系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤、アルキルアンモニウム系レベリング剤などが挙げられる。
【0031】
本発明のハードコート層における表面自由エネルギーを上記範囲内に調整するためのフッ素系レベリング剤の配合量は、ハードコート層の電子線硬化型樹脂に対して、0.1重量%〜3.0重量%の範囲であることが好ましい。該レベリング剤の配合量が0.1重量%未満であると、レベリング剤の絶対量が少ないために、表面自由エネルギーの調整効果が得られ難く、3.0重量%を超えると、塗膜中の不純物が多くなるために、ハード性低下の可能性がある。
なお、レベリング剤を併用する(例えば上記フッ素系レベリング剤と他の種類のレベリング剤を併用する)場合、レベリング剤の総配合量は、上記の範囲でなくてもよい。
【0032】
本発明のハードコートフィルムにおいては、フィルム基材の両面にそれぞれ形成させたハードコートフィルムの少なくとも一方の面(つまり印刷面)の表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲であればよいが、ハードコートフィルムの両面とも表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲に調整されていれば、両面とも印刷適性に優れたハードコートフィルムが得られる。
【0033】
本発明のハードコートフィルムにおいて、ハードコート層の厚みは特に限定されるものではないが、好ましくは1μm〜20μm、より好ましくは1μm〜15μm、更に好ましくは1μm〜10μmである。両面のハードコート層の厚みはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。また、算術平均粗さ(Ra)が3nmよりも大きい他方の面に関しては、耐ブロッキング性の観点で、1μm〜5μmが特に好ましく、印刷面のハードコート層の厚みは、印刷層形成時の耐久性(光焼成時の熱劣化防止など)を得るために3μm〜10μmであることが特に好ましい。
ハードコート層の厚みが20μmを超える場合、電子線硬化型樹脂の硬化収縮によりハードコートフィルムのカールが大きくなりすぎてしまい、取り扱い性が低下する。またハードコート層の厚みが1μm未満である場合、ハードコート層は十分なハード性を有さず、ハードコートフィルムの機能を満たさない恐れがある。
【0034】
上記ハードコート層を形成する塗液には、上記電子線硬化型樹脂、レベリング剤のほかに、必要に応じて、光重合開始剤、消泡剤、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、重合禁止剤、湿潤分散剤、レオロジーコントロール剤、酸化防止剤、防汚剤、帯電防止剤、導電剤などが配合される。
【0035】
上記ハードコート層形成用塗液をフィルム基材上へ塗布するには、公知の任意の塗工方法を用いることができる。例えば、リバースコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、キスコート法、ワイヤーバーコート法、カーテンコート法などが挙げられ、これ等の方法を単独或いは複数組み合わせて用いてもよい。
【0036】
また、フィルム基材上に塗布したハードコート層を硬化させる電子線、紫外線の照射条件等は、使用する電子線硬型樹脂、その他添加する各種薬品にあわせて適宜調整すればよい。なお、本発明において、表面のハード性を改善する場合には、窒素ガスなどを封入し酸素濃度を1000ppm以下とした条件下で電子線、紫外線等を照射することができる。
【0037】
また、本発明において、上記ハードコートフィルムの表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲である面(つまり印刷面)の算術平均粗さ(Ra)が1.5nm未満であることがより好ましい。
なお、ここで算術平均粗さ(Ra)とは、JIS B 0031(1994)/JIS B 0061(1994)付属書で定義されるもので、ある基準長さにおける粗さ曲線の平均線からの絶対偏差を平均化した値であり、つまり平均線以下の粗さ曲線部分を正値側に折り返した時の凹凸の平均値をいう。具体的には、表面粗さ計で測定した粗さ曲線のデータから算出することができる。
【0038】
本発明のハードコートフィルムは、低表面自由エネルギー面である印刷面の算術平均粗さ(Ra)が1.5nm未満であることにより、印刷適性をより向上させることができる。
【0039】
また、本発明のハードコートフィルムは、当該ハードコートフィルムの一方の面(印刷面)の表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲であり、かつ、他方の面(印刷面とは反対面)の算術平均粗さ(Ra)が3nmよりも大きいことを特徴とするハードコートフィルムとすることができる。かかる実施態様のハードコートフィルムによれば、上述の印刷適性に優れるとともに、印刷面とは反対面のハードコート層の表面の算術平均粗さ(Ra)が所定値よりも大きいことにより、フィルムの巻取りの際の耐ブロッキング特性にも優れたハードコートフィルムを得ることができる。前にも説明したように、本発明者らは鋭意検討した結果、ハードコート層の表面の算術平均粗さ(Ra)が所定値よりも大きいことにより、良好な耐ブロッキング特性が得られることを見出した。つまり、ハードコートフィルムの印刷面とは反対面の算術平均粗さ(Ra)が3nmよりも大きいことにより、本発明のハードコートフィルムの巻取りの際のブロッキングを有効に防止することが可能である。
なお、ここで算術平均粗さ(Ra)とは、上記と同義であるため、重複説明は省略する。
【0040】
また、当該ハードコートフィルムの他方の面(印刷面とは反対面)の算術平均粗さ(Ra)が30nm程度よりも大きくなると、ヘイズが上昇するおそれがある。
また、表面の算術平均粗さ(Ra)が3nmよりも大きなハードコート層を形成する方法としては、例えばハードコート層に平均一次粒径が10nm〜100nm程度の微粒子を含有させる方法などが挙げられる。
【0041】
以上説明したように、本発明のハードコートフィルムは、ハードコート層の表面自由エネルギーを所定の範囲内(30mN/m〜55mN/m)に調整することにより、ハードコート層の上に印刷層を形成した場合、印刷層とハードコート層の密着性に優れるため、印刷適性の優れたハードコートフィルムを得ることができる。特に、上記低表面自由エネルギー面である印刷面の算術平均粗さ(Ra)が1.5nm未満であることにより、印刷適性をより向上させることができる。したがって、本発明によれば、印刷用途として好適なハードコートフィルムが得られる。
【0042】
また、本発明のハードコートフィルムは、表面自由エネルギーを所定の範囲内に調整した印刷面とは反対面のハードコート層の表面の算術平均粗さ(Ra)が所定値よりも大きいことにより、上記の印刷適性に優れるとともに、フィルムの巻取りの際の耐ブロッキング特性にも優れたハードコートフィルムとすることができる。
【0043】
また、本発明のハードコートフィルムは、フィルム基材の両面にそれぞれハードコート層を形成することにより、上記の印刷適性に優れるとともに、高温高湿環境下においても透過率やヘイズなどの光学特性の変化が少ないハードコートフィルムとすることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
トルエン/1-プロパノール(NPA)=30/70重量部、6個の(メタ)アクリロイル基を有するジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを主成分とする電子線硬化型樹脂(商品名:M−403、東亜合成株式会社製)100重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュアー184、BASFジャパン株式会社製)3重量部、耐光安定剤(商品名:チヌビン123、BASFジャパン株式会社製)1.5重量部、レベリング剤(商品名:フタージェント681、株式会社ネオス製)0.15重量部を混合して固形分濃度30%のハードコート層A用塗液を作製し、125μm厚さのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:A4300、東洋紡株式会社製)の一方の面にワイヤーバーを用いて乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗工した。次いで、この塗工層(ハードコート層A)を80℃で1分間乾燥させ溶剤を揮発後、積算光量300mJ/cm
2の紫外線照射処理により硬化させた。
【0045】
次に、トルエン/メチルイソブチルケトン(MIBK)=40/60重量部、無機系ナノ粒子(商品名:オルガノシリカゾルMIBK−ST、平均粒径20nm、日産化学工業株式会社製)10重量部、6個の(メタ)アクリロイル基を有するジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを主成分とする電子線硬化型樹脂(商品名:M−400、東亜合成株式会社製)90重量部、光重合開始剤(商品名:イルガキュアー184、BASFジャパン株式会社製)3重量部、耐光安定剤(商品名:チヌビン123、BASFジャパン株式会社製)1.5重量部を混合して固形分濃度30%のハードコート層B用塗液を作製し、上記ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:A4300、東洋紡株式会社製)の他方の面にワイヤーバーを用いて乾燥後の膜厚が2μmとなるように塗工した。次いで、この塗工層(ハードコート層B)を80℃で1分間乾燥させ溶剤を揮発後、積算光量300mJ/cm
2の紫外線照射処理により硬化させた。
以上のようにして、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:A4300、東洋紡株式会社製)の両面にそれぞれハードコート層A,Bを塗工した本発明実施例1のハードコートフィルムを作製した。
【0046】
(実施例2)
実施例1のハードコート層Aに含有される添加剤を、シロキサン系レベリング剤(商品名:BYK325、BASFジャパン株式会社製)0.15重量部及びアルキルアンモニウム系レベリング剤(商品名:Disper BYK140、BASFジャパン株式会社製)0.6重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A、Bを塗工してなる本発明実施例2のハードコートフィルムを作製した。
【0047】
(実施例3)
実施例1のハードコート層Aに含有されるレベリング剤を、レベリング剤(商品名:フタージェント602A、株式会社ネオス製)0.05重量部及びレベリング剤(商品名:Disper BYK140、BASFジャパン株式会社製)4.2重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A、Bを塗工してなる本発明実施例3のハードコートフィルムを作製した。
【0048】
(実施例4)
実施例1のハードコート層Bに含有される無機系ナノ粒子を、無機系ナノ粒子(商品名:オルガノシリカゾルMIBK−ST、平均粒径20nm、日産化学工業株式会社製)7重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A、Bを塗工してなる本発明実施例4のハードコートフィルムを作製した。
【0049】
(実施例5)
実施例1のハードコート層Aに、さらに無機系ナノ粒子(商品名:ELCOM V8804、平均粒径12μm、日揮触媒化成株式会社製)20重量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A、Bを塗工してなる本発明実施例5のハードコートフィルムを作製した。
【0050】
(実施例6)
実施例1のハードコート層A,Bを、基材フィルムとして80μm厚さのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(商品名:KC8UAW、コニカミノルタ株式会社製)上に塗工したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A,Bを塗工してなる本発明実施例6のハードコートフィルムを作製した。
【0051】
(実施例7)
実施例1のハードコート層Aに用いられる電離放射線硬化型樹脂を3個の(メタ)アクリロイル基を有するジペンタエリスリトールトリアクリレートを主成分とする電子線硬化型樹脂(商品名:A−TMM−3、新中村化学工業株式会社製)と変更し、ハードコート層Bに用いられる電離放射線硬化型樹脂を3個の(メタ)アクリロイル基を有するジペンタエリスリトールトリアクリレートを主成分とする電子線硬化型樹脂(商品名:A−TMM−3、新中村化学工業株式会社製)と変更したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A,Bを塗工してなる本発明実施例7のハードコートフィルムを作製した。
【0052】
(実施例8)
実施例1のハードコート層Aに含有されるレベリング剤を、レベリング剤(商品名:フタージェント602A、株式会社ネオス製)0.15重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A、Bを塗工してなる本発明実施例8のハードコートフィルムを作製した。
【0053】
(実施例9)
実施例1のハードコート層Aの膜厚を3μmとなるように塗工したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A、Bを塗工してなる本発明実施例9のハードコートフィルムを作製した。
【0054】
(比較例1)
実施例1のハードコート層Aに含有されるレベリング剤を、レベリング剤(商品名:BYK325、BASFジャパン株式会社製)0.3重量部及びレベリング剤(商品名:Disper BYK140、BASFジャパン株式会社製)0.6重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A、Bを塗工してなる比較例1のハードコートフィルムを作製した。
【0055】
(比較例2)
実施例1のハードコート層Aに含有されるレベリング剤を、レベリング剤(商品名:フタージェント602A、株式会社ネオス製)0.2重量部及びレベリング剤(商品名:Disper BYK140、BASFジャパン株式会社製)4.2重量部に変更したこと以外は、実施例1と同様にしてハードコート層A、Bを塗工してなる比較例2のハードコートフィルムを作製した。
【0056】
得られた実施例1〜9及び比較例1,2の各ハードコートフィルムに対して以下の試験を行い、その結果を纏めて表1に示した。なお、表1中の「層構成」の欄において、上記ハードコート層A面を「HC−A面」、上記ハードコート層B面を「HC−B面」とそれぞれ表記した。
【0057】
[評価項目]
(1)全光線透過率とヘイズ値
全光線透過率及びヘイズ値は、村上色彩技術研究所製ヘイズメーター「HM150」を用いて測定した。
(2)算術平均粗さ(Ra)
株式会社菱化システム製の三次元表面粗さ計「VertScan2.0」を用いて、フィルム表面の粗さ曲線を測定し、算術平均粗さ(Ra)を求めた。
(3)表面自由エネルギー
協和界面科学株式会社製全自動接触角計DM−701を用い、純水及びヘキサデカンを用いてフィルム表面の接触角を測定し、その接触角の値から表面自由エネルギーを算出した。
【0058】
(4)耐ブロッキング性
ハードコートフィルムを10cm角に裁断し同じ面が上になるように10枚重ねて、上から10kgの重りを置いて、40℃の乾燥機内で24時間放置し、圧着の有無を目視で判定した。評価基準は以下のとおりである。
○:圧着無し △:圧着少し有り ×:圧着有り
(5)耐熱湿性
ハードコートフィルムを、85℃、85%RHの高温高湿環境下で250時間放置し、放置後の各ハードコートフィルムの全光線透過率及びヘイズ値を測定した。
【0059】
(6)印刷層密着性
ハードコートフィルムのハードコート層A上に、ワイヤーバーを用いて、16μm厚のベタ印刷層を形成した。インキは、十条ケミカル株式会社製のUVインキ「レイキュアーUIMインキ」に、添加剤として十条ケミカル株式会社製の増感剤「JAR−5」を5重量%(対インキ)添加したものを使用した。塗工後、キセノンフラッシュ光照射により乾燥して上記印刷層を形成した。
そして、形成した印刷層の密着性評価をJIS−K5600−5−6記載のクロスカット法に準拠して行った。
具体的には、印刷層にカッターで100マスを作り、天然ゴム系粘着テープ(セキスイテープNo.252)での剥離試験をクロスカット法で実施し、密着性を100マスでのハードコート層の残存率で評価した。表1中のN=1は1回目の測定結果を、N=5は同一箇所での5回目の測定結果を示す。なお、表中の100%は全く塗膜(印刷層)の剥れがなかったことを示す。また、「○」は印刷層密着性が優れている、「△」は印刷層密着性が若干低下するが実用上問題なし、「×」は印刷層密着性が悪いという評価を示している。
【0060】
(7)印刷層の精細さ
ハードコートフィルムのハードコート層A上に、十条ケミカル株式会社製のUVインキ「レイキュアーUIMインキ」に、添加剤として十条ケミカル株式会社製の増感剤「JAR−5」を5重量%(対インキ)添加し混合したインキを用い、卓上型スクリーン印刷機(商品名:DP−320、ニューロング精密工業株式会社製)を用いて、線幅200μm、100μm、50μmの各印刷線(印刷層)を形成した。印刷後、キセノンフラッシュ光照射(キセノンパルス光照射装置S−2100、XENON Corporation製)により、常法に従い乾燥して上記印刷線を硬化させ、硬化後の印刷層の精細さを目視にて判断した。
◎:線幅50μmで滲みがなく、はっきりと印刷されている。
○:線幅50μmでは若干滲みがあるが、線幅100μmには滲みがなく、はっきりと印刷されている。
△:線幅100μmでは若干滲みがあるが、線幅200μmには滲みがなく、はっきりと印刷されている。
×:線幅200μmでも滲みがあり、印刷が不明瞭である。
【0061】
(8)印刷層形成後の耐久性
ハードコートフィルムのハードコート層A上に、十条ケミカル株式会社製のUVインキ「レイキュアーUIMインキ」に、添加剤として十条ケミカル株式会社製の増感剤「JAR−5」を5重量%(対インキ)添加し混合したインキを用い、卓上型スクリーン印刷機(商品名:DP−320、ニューロング精密工業株式会社製)を用いて、線幅200μmの印刷線(印刷層)を形成した。印刷後、キセノンフラッシュランプ光照射(キセノンパルス光照射装置S−2100、XENON Corporation製)により、常法に従い乾燥して上記印刷線を硬化させた後、印刷層を有する本発明のハードコートフィルムに外観上の劣化(フィルムの割れや膨張等)がないかをレーザー顕微鏡にて判断した。
○:光照射による劣化はみられず、外観良好である。
△:光照射後のフィルムに若干変形がみられるが、実用上問題無い。
×:光照射後のフィルムに変形がみられる。
【0062】
【表1】
【0063】
上記表1の結果から明らかなように、本発明実施例1〜9のハードコートフィルムは、フィルム基材上に形成させたハードコート層の表面自由エネルギーを所定の範囲内(30mN/m〜55mN/m)に調整することにより、ハードコート層の上に印刷層を形成した場合、印刷層とハードコート層の密着性に優れるため、印刷適性の優れたハードコートフィルムを得ることができる。また、本発明実施例のハードコートフィルムは、印刷層の精細さについても良好である。したがって、本発明によれば、印刷用途のハードコートフィルムとして好適である。
また、実施例2、3とその他の実施例との対比から、ハードコート層の表面自由エネルギーが、38mN/m〜50mN/mの範囲内であることにより、特に本発明の効果に優れたハードコートフィルムが得られる。
【0064】
また、実施例4とその他の実施例との対比から、本発明のハードコートフィルムは、印刷面とは反対面のハードコート層の表面の算術平均粗さ(Ra)が所定値(3nm)よりも大きいことにより、上記の印刷適性に優れるとともに、フィルムの巻取りの際の耐ブロッキング特性にも優れたハードコートフィルムとすることができる。
また、実施例5とその他の実施例との対比から、表面自由エネルギーが、30mN/m〜55mN/mの範囲である印刷面の算術平均粗さ(Ra)が1.5nm未満であることにより、印刷適性をより向上させることができる。
【0065】
また、本発明実施例1〜9のハードコートフィルムは、フィルム基材の両面にそれぞれハードコート層を形成していることにより、上記の印刷適性に優れるとともに、高温高湿環境下においても透過率やヘイズなどの光学特性の変化が少ないことがわかる。
【0066】
また、本発明においては、ハードコート層に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート樹脂を用いることにより、フィルム基材との密着性および印刷層との密着性を向上することができる。
また、フィルム基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)の他、トリアセチルセルロース(TAC)を用いた場合(実施例6)にも、本発明の良好な効果が得られる。
【0067】
一方で、本発明実施例9のハードコートフィルムは、印刷面のハードコート層の厚さが3μm以上であると、光照射等の印刷層形成時の熱エネルギーによるハードコートフィルムへの影響が抑制されるため、印刷層形成後の耐久性が特に良好であることが示される。
【0068】
一方、ハードコート層の印刷面の表面自由エネルギーが30mN/m未満である比較例1のハードコートフィルムにおいては、インクが濡れ広がらず印刷に適さない。また、ハードコート層の印刷面の表面自由エネルギーが55mN/mよりも大きい比較例2のハードコートフィルムにおいては、印刷層の密着性は得られるものの、印刷層の精細さに欠け、そのため高精細印刷適性が不十分である。
以上のことから、本発明のハードコートフィルムの優れた効果は明らかである。