【解決手段】マグネシウム(Mg):50質量%以上と、アルミニウム(Al):1.8質量%〜5.0質量%と、マンガン(Mn):0.05質量%〜0.4質量%と、カルシウム(Ca):0.8質量%〜2.6質量%と、ストロンチウム(Sr):0.4質量%〜1.3質量%とを含み、下記式(1)を満足することを特徴とするマグネシウム合金押出し材である。
0.8×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.98≦[Al]≦1.2×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.9 (1)<ここで、[Ca]は質量%で示したカルシウム(Ca)の含有量であり、[Sr]は質量%で示したストロンチウム(Sr)の含有量であり、[Al]は質量%で示したアルミニウム(Al)の含有量である。>
マグネシウム(Mg):50質量%以上と、アルミニウム(Al):1.8質量%〜5.0質量%と、マンガン(Mn):0.05質量%〜0.4質量%と、カルシウム(Ca):0.8質量%〜2.6質量%と、ストロンチウム(Sr):0.4質量%〜1.3質量%とを含み、下記式(1)を満足することを特徴とするマグネシウム合金押出し材。
0.8×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.98≦[Al]≦1.2×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.9 (1)
ここで、[Ca]は質量%で示したカルシウム(Ca)の含有量であり、[Sr]は質量%で示したストロンチウム(Sr)の含有量であり、[Al]は質量%で示したアルミニウム(Al)の含有量である。
1)マグネシウム(Mg):50質量%以上と、アルミニウム(Al):1.8質量%〜5.0質量%と、マンガン(Mn):0.05質量%〜0.4質量%と、カルシウム(Ca):0.8質量%〜2.6質量%と、ストロンチウム(Sr):0.4質量%〜1.3質量%とを含み、下記式(1)を満足するビレットを準備する工程と、
2)前記ビレットを250℃〜400℃の間の温度に加熱して、押出し比100以下、押出し速度10m/分以上で押出し加工する工程と、を含むことを特徴とするマグネシウム合金押出し材の製造方法。
0.8×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.98≦[Al]≦1.2×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.9 (1)
ここで、[Ca]は質量%で示したカルシウム(Ca)の含有量であり、[Sr]は質量%で示したストロンチウム(Sr)の含有量であり、[Al]は質量%で示したアルミニウム(Al)の含有量である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、耐熱性を高めるためにミッシュメタルまたは希土類元素を含む合金ビレットの鋳造、押出し、鍛造条件が開示されている。しかし、実際に達成された押出し速度のレベルは、実施例に記載された5m/分であり、十分に高い押出し速度を得るのは困難である。また、開示されている合金組成は、高価なミッシュメタルまたは希土類元素を必須の成分としているため、コストが高くなってしまうという問題がある。
【0006】
特許文献2は、自動車エアコン用圧縮機の機構部品に適用可能なMg−Al−Mn−Ca合金を押出し加工したマグネシウム合金部材とその製造方法が開示されている。しかし、特許文献2に記載の方法でも高い押出し速度で安定した加工を行うことは困難である。
【0007】
本発明は、高い押出し速度で形成可能でかつ十分な強度を有するマグネシウム合金押出し材を提供すること、および高い押出し速度で十分な強度を有するマグネシウム合金押出し材を製造可能なマグネシウム合金押出し材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様1は、マグネシウム(Mg):50質量%以上と、アルミニウム(Al):1.8質量%〜5.0質量%と、マンガン(Mn):0.05質量%〜0.4質量%と、カルシウム(Ca):0.8質量%〜2.6質量%と、ストロンチウム(Sr):0.4質量%〜1.3質量%とを含み、下記式(1)を満足することを特徴とするマグネシウム合金押出し材である。
0.8×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.98≦[Al]≦1.2×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.9 (1)
ここで、[Ca]は質量%で示したカルシウム(Ca)の含有量であり、[Sr]は質量%で示したストロンチウム(Sr)の含有量であり、[Al]は質量%で示したアルミニウム(Al)の含有量である。
【0009】
本発明の態様2は、下記式(3)で示される、Caの含有量とSrの含有量の比が1.5〜2.5であることを特徴とする態様1に記載のマグネシウム合金押出し材である。
[Ca]/[Sr] (3)
ここで、[Ca]は質量%で示したカルシウム(Ca)の含有量であり、[Sr]は質量%で示したストロンチウム(Sr)の含有量である。
【0010】
本発明の態様3は、室温における0.2%耐力が290MPa以上であることを特徴とする態様1または2に記載のマグネシウム合金押出し材である。
【0011】
本発明の態様4は、断面観察における第2相の面積率が3.5〜10.0%であることを特徴とする態様1〜3のいずれかに記載のマグネシウム合金押出し材である。
【0012】
本発明の態様5は、1)マグネシウム(Mg):50質量%以上と、アルミニウム(Al):1.8質量%〜5.0質量%と、マンガン(Mn):0.05質量%〜0.4質量%と、カルシウム(Ca):0.8質量%〜2.6質量%と、ストロンチウム(Sr):0.4質量%〜1.3質量%とを含み、下記式(1)を満足するビレットを準備する工程と、
2)前記ビレットを250℃〜400℃の間の温度に加熱して、押出し比100以下、押出し速度10m/分以上で押出し加工する工程と、を含むことを特徴とするマグネシウム合金押出し材の製造方法である。
0.8×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.98≦[Al]≦1.2×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.9 (1)
ここで、[Ca]は質量%で示したカルシウム(Ca)の含有量であり、[Sr]は質量%で示したストロンチウム(Sr)の含有量であり、[Al]は質量%で示したアルミニウム(Al)の含有量である。
である。
【0013】
本発明の態様6は、前記工程2)の後に、均質化熱処理を行うことを特徴とする態様5に記載のマグネシウム合金押出し材の製造方法である。
【0014】
本発明の態様7は、前記均質化処理が、380℃〜420℃の間の処理温度に48時間以上保持することを含む態様6に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
高い押出し速度で形成可能でかつ、十分な強度を有するマグネシウム合金押出し材を提供することができる。また、高い押出し速度で十分な強度を有するマグネシウム合金押出し材を製造可能なマグネシウム合金押出し材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明者らは、押出し加工により得られた押出し材が十分な強度を確保できるように、マグネシウム(Mg)(50質量%以上含有する)と、アルミニウム(Al)と、マンガン(Mn)と、カルシウム(Ca)と、ストロンチウム(Sr)とを含む、Mg−Al−Mn−Ca−Sr系マグネシウム合金に注目した。
Mg−Al−Mn−Ca−Sr系合金は、第2相として金属間化合物Al
2CaおよびAl
4Srを形成することにより強度(例えば、高い0.2%耐力)の向上を期待できる。
しかし、これまでのMg−Al−Mn−Ca−Sr系合金を用いた押出し材は、例えば5m/分程度の低速度で押出し加工ができても得られた押出し材の延性が十分でなく、使用できない、または10m/分程度の押出し速度で押出し加工を行うことができるものの得られた押出し材の強度が十分でないという問題があった。
【0018】
そこで、本願発明者らは鋭意検討し、十分な量のAl
2CaおよびAl
4Srを形成するとともに、マトリクスに固溶するアルミニウムの量を抑制することで、押出し時の優れた加工性を確保し、高い押出し速度を実現できるとともに、得られた押出し材が十分な強度が得られることを見いだしたのである。
【0019】
より具体的には、マグネシウム(Mg)と、アルミニウム(Al)と、マンガン(Mn)と、カルシウム(Ca)と、ストロンチウム(Sr)とを含み、マグネシウム(Mg)の含有量が50質量%以上であるMg−Al−Mn−Ca−Sr系合金の押出し材を得るにあたり、アルミニウム(Al)を1.8質量%〜5.0質量%と、マンガン(Mn)を0.05質量%〜0.4質量%、カルシウム(Ca)を0.8質量%〜2.6質量%、ストロンチウム(Sr):0.4質量%〜1.3質量%と、その組成範囲を限定し、アルミニウム含有量を下記の式(1)を満足するように制御する。
【0020】
0.8×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.98≦[Al]≦1.2×(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.9 (1)
ここで、[Ca]は質量%で示したカルシウム(Ca)の含有量であり、[Sr]は質量%で示したストロンチウム(Sr)の含有量であり、[Al]は質量%で示したアルミニウム(Al)の含有量である。
【0021】
式(1)を満足することは、押出し材が含有するアルミニウムとストロンチウムとアルミニウムの大部分がAl
2CaおよびAl
4Srを形成するのに用いられ、マトリクスにアルミニウムが固溶しているとしても少量であることを意味する。
詳細を以下に説明する。
Mg−Al−Mn−Ca−Sr系合金の含有するカルシウムの全てがAl
2Caを形成し、含有する全てのストロンチウムがAl
4Srを形成するためには、下記(2)式に示す量のアルミニウムを含有する必要がある。
【0022】
[Al]=(2×[Ca]/40.08+4×[Sr]/87.62)×26.9 (2)
ここで、[Ca]は質量%で示したカルシウム(Ca)の含有量であり、[Sr]は質量%で示したストロンチウム(Sr)の含有量であり、[Al]は質量%で示したアルミニウム(Al)の含有量である。
【0023】
ここで、式(1)および式(2)に示された「40.08」は、カルシウムの原子量であり、「87.62」は、ストロンチウムの原子量であり、「26.9」は、アルミニウムの原子量である。
アルミニウムの含有量が、式(2)から求まる量よりも多い場合、Al
2CaおよびAl
4Srの形成に寄与せずにマトリクス(母相)中に固溶するアルミニウムが確実に存在することとなる。マトリクス中に固溶したアルミニウムは、積層欠陥エネルギーを低下させる。積層欠陥エネルギーが低いほど、高温における加工時の応力が高くなる。すなわち、固溶したアルミニウム量が増えるほど、高温度での変形抵抗が大きくなり、従って、押出し加工時の加工性が低くなる。
【0024】
一方、アルミニウムの含有量が、式(2)から求まる量よりも少ない場合、Al
2Caを形成しないカルシウムおよび/またはAl
4Srを形成しないストロンチウムが存在することとなる。すなわち、添加したカルシウムおよびストロンチウムの少なくとも一方が、アルミニウムとの間に金属間化合物(Al
2CaまたはAl
4Sr)を形成しない余剰分を生ずることとなる。すなわち、十分な強度を得るために必要な十分な量のAl
2CaとAl
4Srとを形成できない虞がある。
【0025】
このため、式(2)を満足することが理想的である。しかし、量産性等を考えると、ある程度成分がばらつくことが不可避であること、さらに汎用性を考えると許容できる組成範囲が広いことが好ましい。このような観点から検討した結果、式(2)で規定されるアルミニウム量のプラスマイナス20%(すなわち、0.8倍〜1.2倍)の範囲にアルミニウム量を管理することで、上述したアルミニウム量が多い場合および少ない場合の影響を抑制でき、例えば10m/分以上の押出し速度を実現できる高い押出し加工性と、例えば0.2%耐力が290MPa以上(300MPaクラス)の高い強度とを両立できることを見いだしたのである。
このような、式(1)を満足する本発明に係るMg−Al−Mn−Ca−Sr系マグネシウム合金押出し材について、以下により詳しく説明する。
【0026】
1.Mg−Al−Mn−Ca−Sr系マグネシウム合金の成分
本発明に係るMg−Al−Mn−Ca−Sr系マグネシウム合金は、マグネシウム(Mg):50質量%以上と、アルミニウム(Al):1.8質量%〜5.0質量%と、マンガン(Mn):0.05質量%〜0.4質量%と、カルシウム(Ca):0.8質量%〜2.6質量%と、ストロンチウム(Sr):0.4質量%〜1.3質量%とをと含む。
【0027】
好ましい実施形態の1つでは、残部が不可避不純物からなる。しかし、この実施形態に限定されるものではなく、意図的に他の元素を添加してもよい。このような添加元素については後述する。
以上の説明から判るように本発明に係る押出し材では、高価な希土類元素またはミッシュメタルを必須の成分とせずに所望の特性を得ることができる。しかし、このことは、本発明に係るマグネシウム合金押出し材が希土類元素等を含んではいけないことを意味するものではない。その特性をよりいっそう向上させるために、本発明に係るマグネシウム合金押出し材は、適宜、希土類元素またはミッシュメタル等を含んでよい。
【0028】
次に、アルミニウム、マンガン、カルシウムおよびストロンチウムの含有量について説明する。
(1)アルミニウム(Al)
アルミニウム含有量は、1.8質量%〜5.0質量%である。
アルミニウム含有量が1.8質量%未満だと金属間化合物の量が不足し、十分な強度が得られないという問題を生ずる場合があり、アルミニウム含有量が5.0質量%を超えると粒界の金属間化合物の量が過剰となり、押出し性が低下するという問題、またはアルミニウムが母相に固溶するリスクが高くなって、加工性を低下させるという問題を生ずる場合があるからである。
【0029】
(2)マンガン(Mn)
マンガン含有量は、0.05質量%〜0.4質量%である。マンガンは結晶粒径を微細化して、機械的強度を向上する効果を有する。
マンガン含有量が0.05質量%未満だと結晶粒微細化効果が不十分で、機械的強度を十分に向上できないという問題を生ずる場合があり、マンガン含有量が0.4質量%を超えると結晶粒微細化を阻害する場合があるからである。
【0030】
(3)カルシウム(Ca)
カルシウム含有量は、0.8質量%〜2.6質量%である。
カルシウム含有量が0.8質量%未満だと金属間化合物の量が不十分となり、十分な機械的強度が得られないという問題、またはアルミニウムが母相に固溶するリスクが高まることで、加工性が低下するという問題を生ずる場合があり、カルシウム含有量が2.6質量%を超えると粒界の化合物量が過剰となり、押出しに要する応力が高くなるという問題を生ずる場合があるからである。
【0031】
(4)ストロンチウム(Sr)
好ましいストロンチウム含有量は、0.4質量%〜1.3質量%である。
ストロンチウム含有量が0.4質量%未満だとカルシウムの場合と同様に、金属間化合物の量が不十分となり、十分な機械的強度が得られないという問題、またはアルミニウムが母相に固溶するリスクが高まることで、加工性を低下するという問題を生ずる場合があり、ストロンチウム含有量が1.3質量%を超えると粒界の化合物量が過剰となり、押出しに要する応力が高くなるという問題を生ずる場合があるからである。
【0032】
(5)第2相の面積率
なお、アルミニウム含有量、カルシウム含有量およびストロンチウム含有量のそれぞれを上述の範囲内とすることで、より確実に、得られた押出し材の断面における第2相の面積率を好ましい範囲である3.5%〜10.0%とすることができる。
上述のように、本発明に係る押出し材には、Al
2CaおよびAl
4Srが析出している。この析出物Al
2CaおよびAl
4Srを総称し、「第2相」と呼んでいる。
【0033】
押出し材の断面組織における第2相の面積率は、押出し材の機械的特性に影響を与える。第2相の面積率が小さ過ぎても、大き過ぎても機械的特定は低下する。第2の面積率が増加すると、結晶粒径が微細化するという効果があり、これにより室温での強度(とりわけ0.2%耐力)を向上できる。これは、第2相による結晶粒界のピン止め効果により、押出し時の結晶粒成長を抑制するためであると考えられる。しかし、第2相の面積率が過大になると、結晶粒径が粗大化する傾向が見られる。これは、第2相粒子のサイズが大きくなり、ピン止め効果を発揮することができなくなるためであると考えられる。そして、ピン止め効果を発揮することができる十分な量の第2相粒子が存在するためには、第2相の面積率は、3.5%〜10.0%であることが好ましい。
【0034】
第2相の面積率は、明瞭なコントラストが得られた走査型電子顕微鏡(SEM)写真を用いて画像処理により求めることができる。より具体的には、画像の白黒を反転させ、0〜255までの階調値に対して輝度分布(ヒストグラム)を表示させる。ヒストグラムには高輝度側に第2相のピークが出現する。このピークの左側に接線を引き、ベースラインと交わる点を閾値とする(多くの場合、閾値は125程度となる)。そして、この閾値を用いて、手動でピクセルを2値化する(閾値よりも高輝度側のピクセルが第2相に相当する)。そして、閾値より階調値が低いピクセル数と閾値以上の階調値を有するピクセル数を求め、その比率から第2相の面積率を算出することができる。
なお、必要に応じて画像解析ソフト(例えば、日鉄住金テクノロジー株式会社(旧:住友金属テクノロジー株式会社製)「粒子解析Ver.3.5」等)を用いてよい。
【0035】
(6)Caの含有量とSrの含有量の比
本発明に係る押出し材は、式(3)で示されるCaの含有量とSrの含有量の比が1.5〜2.5であることが好ましい。
【0036】
[Ca]/[Sr] (3)
ここで、[Ca]は質量%で示したカルシウム(Ca)の含有量であり、[Sr]は質量%で示したストロンチウム(Sr)の含有量である。
【0037】
上述のように、カルシウムとストロンチウムは、それぞれ、Al
2CaおよびAl
4Srを形成し、この結果、結晶粒径を微細にし、室温における強度を向上させるという効果を有する。この効果は、カルシウムの方がより顕著であり、ストロンチウムはカルシウムの効果を補完する。このため、カルシウム含有量とストロンチウム含有量との間には、最適な比率があることを本願発明者らが見いだしたものである。
【0038】
(7)その他の成分
上述したように、好ましい実施形態の1つでは、残部が不可避不純物からなる。しかし、この実施形態に限定されるものではなく、マグネシウム合金押出し材の特性を向上することができる任意の元素を含んでよい。
マグネシウムを50質量%以上含有し、アルミニウム、マンガン、カルシウムおよびストロンチウムを含有し、式(1)を満足するマグネシウム合金は、他の任意の元素を含んでも、その元素の種類によらず、ほとんどの場合、上述の本願発明の効果を示すことが可能である。
【0039】
このように添加可能の任意の元素の好適な例を以下に示す。
亜鉛(Zn):0.2〜1.0質量%、
シリコン(Si):0.1〜1.5質量%、
レアアース(RE):0.1〜1.2質量%、
ジルコニウム(Zr):0.2〜0.8質量%、
スカンジウム(Sc):0.2〜3.0質量%、
イットリウム(Y):0.2〜3.0 質量% 、
スズ(Sn):0.2〜3.0質量%、
バリウム(Ba):0.2〜3.0質量%および
アンチモン(Sb):0.1〜1.5質量%
からなる群から選択される少なくとも1つを含有してよい。
【0040】
以下に、例示したそれぞれの元素を添加する効果を示す。
亜鉛は、強度向上および鋳造性向上の効果を有する。亜鉛の含有量が0.2〜1.0質量%であれば、その効果を充分に発揮することが可能である。
【0041】
シリコンは、マグネシウムと金属間化合物を形成し、得られた金属間化合物が高温において安定なため、高温における変形において、粒界滑りを効果的に抑制し、耐熱性を向上させることができる。シリコンの含有量が0.1〜1.5質量%であれば、その効果を充分に発揮することが可能である。
【0042】
レアアース(希土類元素)は、マグネシウムと金属間化合物を形成し、得られた金属間化合物が高温において安定なため、高温における変形において、粒界滑りを効果的に抑制し、耐熱性を向上させることができる。レアアースの含有量が0.1〜1.2質量%であれば、その効果を充分に発揮することが可能である。
【0043】
ジルコニウムは、マグネシウムと金属間化合物を形成し、得られた金属間化合物が高温において安定なため、高温における変形において、粒界滑りを効果的に抑制し、耐熱性を向上させることができる。ジルコニウムの含有量が0.2〜0.8質量%であれば、その効果を充分に発揮することが可能である。
【0044】
スカンジウムは、マグネシウムに添加すると、積層欠陥エネルギーを下げ、高温における変形速度を低下させる効果がある。スカンジウムの含有量が0.2〜3.0質量%であれば、その効果を充分に発揮することが可能である。
【0045】
イットリウムは、マグネシウムに添加すると、積層欠陥エネルギーを下げ、高温における変形速度を低下させる効果がある。イットリウムの含有量が0.2〜3.0質量%であれば、その効果を充分に発揮することが可能である。
なお、本明細書における「レアアース(希土類元素)」は、所謂、ランタノイドを意味し、スカンジウムおよびイットリウムを含まない概念である。
【0046】
スズ(錫)は、マグネシウムに添加すると、積層欠陥エネルギーを下げ、高温における変形速度を低下させる効果がある。スズの含有量が0.2〜3.0質量%であれば、その効果を充分に発揮することが可能である。
【0047】
バリウムは、マグネシウムに添加すると、積層欠陥エネルギーを下げ、高温における変形速度を低下させる効果がある。バリウムの含有量が0.2〜3.0質量%であれば、その効果を充分に発揮することが可能である。
【0048】
アンチモンは、マグネシウムに添加すると、積層欠陥エネルギーを下げ、高温における変形速度を低下させる効果がある。スカンジウムの含有量が0.1〜1.5質量%であれば、その効果を充分に発揮することが可能である。
【0049】
2.製造方法
次に本発明に係るマグネシウム合金押出し材の製造法について説明する。
(1)押出し加工
押出し加工に用いるビレットは、既知の任意の方法により準備してよい。
例えば、高周波誘導炉等の既知の溶解炉用いて、原料金属または原料合金等を溶解(溶融)し、溶湯を得て、必要に応じて添加元素を溶湯に加え、所定の成分の溶湯を鋳造することにより、所望の組成(マグネシウム:50質量%以上と、アルミニウム(Al):1.8質量%〜5.0質量%と、マンガン(Mn):0.05質量%〜0.4質量%と、カルシウム(Ca):0.8質量%〜2.6質量%と、ストロンチウム(Sr):0.4質量%〜1.3質量%とを含み、式(1)を満足する)を有するビレットを得ることができる。
なお、押出し加工に適した形状を得ること等を目的に、得られたビレットに、必要に応じて機械加工を施してよい。
【0050】
得られたビレットを250℃〜400℃の間の温度に加熱し、押出し加工を行うことで押出し材を得る。押出し比を100以下とすることで、確実に押出し速度を10m/分以上とすることができる。
ビレット温度が250℃未満では、必要な押出し荷重が過大になり、スムーズに押出すことができず、得られた押出し材に割れなどが発生する。押出し温度が400℃を超えると、酸化および溶解が発生して、得られた押出し材の機械的強度特性が低下する。
【0051】
押出し比は、押出し加工を受けるビレット材と押出された棒材の断面積比として定義される。押出し比が100を超えると、押出し機に要求される押出し荷重が900MPaを超えることになり、押出し力が非常に大きな押出し機が必要になるので、実用的でない。一方、押出し比が100以下となると、同じビレットを押出した時に押出される棒材の面積を大きくできることになり、ビレットの単位面積当たりの押出し荷重が小さくなるので、同じ押出し荷重においては、押出し速度を速くすることができる。
【0052】
(2)均質化熱処理
押出し加工により得られた押出し材に均質化熱処理を行うことが好ましい。
ビレットではAl
2CaおよびAl
4Srの多くは、結晶粒界に網目状に析出するが、押出し加工により、これらの金属間化合物の第2相が押出し方向に平行に分布する。押出し方向に平行に分布した金属間化合物は、押出し材の機械的特性を低下させる傾向がある。
押出し加工後に均質化熱処理を行うことにより、Al
2CaおよびAl
4Srを結晶粒界に沿って均一に再析出させることができ、押出し材の組織が均質になり、押出し材の機械的特性を高めることができる。
【0053】
好ましい均質化熱処理条件は、押出し加工後に380℃〜420℃の間の処理温度で48時間以上保持することである。処理温度が380℃よりも低いと、均質化熱処理の効果が不十分になり、組織が十分に均質化しない場合があり、処理温度が420℃よりも高いと、再析出した金属間化合物Al
2CaおよびAl
4Srが粗大化する場合がある。また、保持時間が48時間よりも短いと、処理温度が低い時と同様に均質化熱処理の効果が不十分になり、組織が十分に均質化しない場合がある。
【実施例】
【0054】
表1に、本発明のマグネシウム合金押出し材の特性を調べるために設計した合金の組成を示した。なお、合金設計組成における残部はマグネシウムである。
特記事項欄に特段の記載のない実施例の合金は、マグネシウム(Mg):50質量%以上と、アルミニウム(Al):1.8質量%〜5.0質量%と、マンガン(Mn):0.05質量%〜0.4質量%と、カルシウム(Ca):0.8質量%〜2.6質量%と、ストロンチウム(Sr):0.4質量%〜1.3質量%とを含むとともに、式(1)満足する。
また、実施例1〜3は、式(3)で示されるカルシウムの含有量とストロンチウムの含有量の比が1.5〜2.5の範囲に入るように設計されたものである。その他の合金(比較例)は、特記事項に記載したように組成を調整したものである。
【0055】
合金設計組成を目標成分とし、合金を溶製し、ビレットを鋳造した。より詳細には、マグネシウムを溶解した後、680℃ないし700℃で所定量のアルミニウムおよびマンガンを添加し、これら添加元素を溶解し、5分間撹拌した後、所定量のカルシウムを添加し、カルシウムが十分溶解するまで撹拌し、更に所定量のAl−Sr合金を添加し、十分溶解するまで撹拌し、15分間静置した後、金型に鋳込んでビレットを作製した。
ビレットの組成を分析した結果を、表1に合金溶製組成として示した。なお、表1の合金溶製組成において、残部はマグネシウムおよび不可避不純物である(すなわち、マグネシウム含有量は、50質量%を大きく超えている)。
【0056】
【表1】
【0057】
実施例1〜3および比較例1について、合金設計組成と合金溶製組成との差異および式(3)で示されるカルシウムの含有量とストロンチウムの含有量の比(Ca/Sr)を表2に示した。表2において、合金設計組成と合金溶製組成との差異は、パーセント比で示し、合金設計組成の値より合金設計組成の値が小さい場合をマイナスとし、合金設計組成の値より合金溶製組成の値が大きい場合をプラスとして示した。
【0058】
【表2】
【0059】
実際の合金の溶解においては、添加元素によって溶融したマグネシウムへの溶解性が異なること、添加元素が他の元素や不純物との間で金属間化合を生成することまたは沈降することなどによって、溶製した合金の組成は、設計組成からバラつくのが通常である。表2の結果を見ると、実施例1〜3では設計組成と溶製組成の間で最も大きな差異があるのは、実施例2のマンガンで、+17%程度の差異がある。比較例1では、マンガンがで−47%、Srが+31%となっており、その差異が極めて大きい。比較例においても実施例と同様の管理下で合金を溶製しており、また実施例でもマンガンおよびストロンチウムの設計組成と溶製組成の差異は大きな値となっていることから、マンガンとストロンチウムは目標通りの量を正確に含有させることが難しい元素と言える。このことから、式(1)が、式(2)の値に対してプラスマイナス20%の許容範囲を有することは高い量産性を確保する上で極めて効果的であるといえる。
【0060】
作製した直径35mm、長さ80mmの上述のビレットを、直径19.7mm、長さ50mmの円柱状に加工し、押出し用ビレットとした。押出し加工は、押出し温度350℃、押出し比100、押出し速度10m/分(ひずみ速度3.0s
−1)で実施した。比較例2および3では、押出し速度10m/分では押出し加工できなかったため、押出し速度4.5m/分(ひずみ速度1.3s
−1)で押出し加工を行った。
潤滑剤としてボロンナイトライドを使用した。得られた押出した材は、直径2.0mmの線材である。
【0061】
押出し荷重は、押出し荷重−変位曲線において、初期にピーク荷重を示した後に荷重がほぼ一定の定常状態を示したので、この一定荷重を押出し荷重とした。この押出し荷重から、押出し応力をSiebelの式 P=K・A・lnR(P:押出し荷重、K:押出し応力、A:ビレットの断面積、R:押出し比)から求めた。
押出し材の引張り特性を評価した。試験片は、押出した線材を試験部直径1.5mm、試験部長さ9mmとなるように加工し、室温で、ひずみ速度1.0×10
−3s
−1で引張り試験を行った。
【0062】
第2相の面積率は、明瞭なコントラストが得られた走査型電子顕微鏡(SEM)写真を用いて画像処理により求めた。より具体的には、画像の白黒を反転させ、0〜255までの階調値に対して輝度分布(ヒストグラム)を表示させた。ヒストグラムの高輝度側に出現した第2相のピークの左側に接線を引き、ベースラインと交わる点を閾値とした。そして、この閾値を用いて、手動でピクセルを2値化する(閾値よりも高輝度側のピクセルが第2相に相当する)。そして、日鉄住金テクノロジー株式会社(旧:住友金属テクノロジー株式会社)製の画像解析ソフト「粒子解析Ver.3.5」を用いて、閾値より階調値が低いピクセル数と閾値以上の階調値を有するピクセル数を求め、その比率から面積率を算出した。
【0063】
結果を、表3に示す。
押出し比100、押出し速度10m/分のサンプルの特性を比較すると、以下の様に判断される。
マンガン以外の組成が略同じであって、マンガンを添加した実施例2とマンガンを添加しなかった比較例7とを比べると、実施例2のサンプルの0.2%耐力が301MPaであるのに対し、比較例7のサンプルでは0.2%耐力が254MPaであり、マンガンを添加した実施例2の0.2%耐力が高くなった。これは、マンガンが有する結晶微細化効果により強度が上昇したためと考えられる。
【0064】
同様に、ストロンチウム以外の組成が略同じで、ストロンチウムを含む実施例2とストロンチウムを含まない比較例8とを比較すると、実施例2のサンプルの0.2%耐力が301MPaであり、押出し応力が170MPaであるのに対して、比較例8のサンプルでは、0.2%耐力が265MPaであり、押出し応力190MPaであった。ストロンチウムを含む実施例2の合金は強度が高い一方、押出し応力(すなわち、押出し荷重)が低いことが判る。すなわち、ストロンチウムの添加は、結晶微細化による強度向上効果のほかに、押出し荷重を低下させるので、押出し荷重を下げて高速押出し性を確保するために、ストロンチウムの含有が有効であることを示している。
【0065】
【表3】
*:押出し材が十分な構成を有せず、試験片を作製できなかった。
【0066】
図1は、アルミニウムの含有量と0.2%耐力の関係を示すグラフである。
0.2%耐力の目標値(290MPa)を達成できるアルミニウム含有量の範囲は、
図1より1.8〜5.0質量%と読み取ることができる。
【0067】
このアルミニウムの組成範囲に対応するカルシウムとストロンチウムの好ましい組成範囲は、式(2)と、Caの含有量とSrの含有量の比を2.0とした時の関係から求めた計算値と、表1の合金溶製組成から、カルシウムが0.8質量%〜2.6質量%、ストロンチウムが0.4〜1.3質量%となる。
【0068】
アルミニウム含有量がこの好ましい組成範囲からを外れ、かつ式(1)を満足しない比較例2および3は、押出し速度を4.5m/分としても押出し荷重が大きく、高速押出しできないことが判る。
【0069】
カルシウムおよびストロンチウムが過剰で、式(1)を満足しない比較例3、アルミニウム含有量が過剰で式(1)を満足しない比較例2および4、アルミニウム含有量が不足している比較例1、5および6、Mnが不足している比較例7、およびSrが不足し、かつ式(1)を満足しない比較例8は、いずれも0.2%耐力が目標の290MPaに達していない。
【0070】
図2は、第2相の面積率と0.2%耐力の関係を示す図である。
図2から、好ましい第2の相面積率は、3.5%〜10.0%であることが分かる。
【0071】
溶製した実施例1、2および比較例1の押出し加工後の金属組織のSEM写真
図3に示す。
表3に示した、第2相の面積率が異なるように、実施例1と2では第2相が粒界を覆っているのに対し、比較例1では粒界を覆う第2相が少なくなっている。
【0072】
以上の様に、本発明に係るマグネシウム合金押出し材およびその製造方法によれば、高い押出し速度で形成可能でかつ、十分な強度を有するマグネシウム合金押出し材を提供することができる。本発明に係る押出し材は、室温における0.2%耐力が290MPa以上であり、代表的なアルミニウム押出し材であるA6N01Sの一般的な保証値である0.2%耐力205MPa以上を超えた優れた特性を有する。このため、アルミニウム合金に比べて比重が小さい(比剛性の高い)マグネシウム合金組成加工部材への置き換えが可能となり、自動車、鉄道用車両、航空機など多くの用途において軽量化に寄与できる。