【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の炭素繊維スライバの製造方法及びその製造装置は、次のような構成を有している。
(1)炭素繊維と合成繊維とを混棉して形成する炭素繊維スライバの製造方法であって、
前記炭素繊維は、短繊維状に切断されてランダムな方向に開繊された綿状繊維であり、前記合成繊維は、短繊維状に形成されて略同一方向に配列された捲縮可能な綿状繊維であること、
前記合成繊維の捲縮方向と送り方向とを略合致させ、所定の厚さに積層した前記合成繊維の上方に、前記炭素繊維を層状に重ね合わせる第1工程と、
前記第1工程で重ね合わせた前記炭素繊維と前記合成繊維とを、送り方向前方に配置されたフロントローラと送り方向後方に配置されたバックローラとによって挟み込み、繊維にドラフトを掛けながら前記フロントローラと前記バックローラとの中間部に配置されたギル装置にて前記送り方向に繊維を梳ってフリース状のウェブを形成する第2工程と、
前記フロントローラから送り出される前記フリース状のウェブが、上方の炭素繊維を下方の合成繊維によって両側から包み込まれながら束状に集束して連続した炭素繊維スライバとして形成される第3工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、第1工程にて、合成繊維の捲縮方向と送り方向とを略合致させたので、合成繊維は、送り方向にドラフトを掛けると、繊維同士が近接して交絡し、延伸しつつ繊維間の連結強度が増加する。また、所定の厚さに積層した合成繊維の上方に、炭素繊維を層状に重ね合わせるので、送り方向にドラフトを掛けたとき繊維間の連結強度が増加して延伸した合成繊維が、その上方に重ね合わせる炭素繊維を下方から支持しつつ移送することができる。
また、第2工程にて、第1工程で重ね合わせた炭素繊維と合成繊維とを、送り方向前方に配置されたフロントローラと送り方向後方に配置されたバックローラとによって挟み込み、繊維にドラフトを掛けながらフロントローラとバックローラとの中間部に配置されたギル装置にて送り方向に繊維を梳るので、重ね合わせた炭素繊維と合成繊維とを送り方向にドラフトを掛けて互いに近接させた状態で、ギル装置が両繊維を梳ることができる。また、ギル装置は、下歯によって合成繊維と炭素繊維とを下方から支持した状態で、ランダムな方向に向いた炭素繊維を送り方向に整列させることができる。炭素繊維は、送り方向に整列される際、合成繊維によって下方から支持されているので、ばらばらに落下することはない。
【0009】
ここで、合成繊維は、短繊維状に形成されて略同一方向に配列された捲縮可能な綿状繊維であり、合成繊維の捲縮方向と送り方向とを予め略合致させて配置されているので、ギル装置の針が繊維を送り方向に梳ることによって、合成繊維は、互いに近接した炭素繊維とも交絡しやすくなる。また、合成繊維は、炭素繊維が送り方向に整列されるときに併せて炭素繊維に絡みつくので、炭素繊維の極端な屈曲が防止されて、炭素繊維は折損しにくくなる。また、炭素繊維は、合成繊維に交絡されることで、送り方向に整列された状態に保持される。
その結果、折損することなく送り方向に整列された炭素繊維と、その廻りに絡み合った合成繊維とが混棉されて、フリース状のウェブが形成される。
【0010】
また、第3工程にて、フロントローラから送り出されるフリース状のウェブが、上方の炭素繊維を下方の合成繊維によって両側から包み込まれながら束状に集束して連続した炭素繊維スライバとして形成されるので、折損することなく送り方向に整列された炭素繊維と、その廻りに交絡した合成繊維とが混棉されて形成されたウェブから、所定の太さを備え連続した炭素繊維スライバを形成することができる。また、炭素繊維スライバは、フリース状のウェブが束状に集束して形成されるので、下方に積層された合成繊維が、上方の炭素繊維を外周側から包み込むことができる。そのため、第2工程で合成繊維に交絡されなかった炭素繊維を、第3工程で合成繊維が外周側から包み込むことによって、炭素繊維スライバから炭素繊維が落下したり離脱するおそれを低減できる。
よって、本発明によれば、炭素繊維の折損を防止しつつ、合成繊維が炭素繊維に交絡して混棉された炭素繊維スライバを簡単に製造する炭素繊維スライバの製造方法を提供することができる。
【0011】
(2)(1)に記載された炭素繊維スライバの製造方法において、
前記第1工程にて所定の厚さに積層した合成繊維は、前記第3工程にて形成された炭素繊維スライバであることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、第1工程にて所定の厚さに積層した合成繊維は、第3工程にて形成された炭素繊維スライバであるので、第1工程では、送り方向に整列された炭素繊維とその廻りに交絡した合成繊維とが混棉されて所定の太さを備え、所定の厚さに積層された炭素繊維スライバの上に、新たな炭素繊維が積層される。そのため、第2工程及び第3工程を経由して、炭素繊維の混合率がさらに上昇した炭素繊維スライバを形成することができる。この場合にも、新たな炭素繊維の廻りに合成繊維が絡み合って、炭素繊維を送り方向に整列させた状態に保持しつつ、炭素繊維の折損を防止することができる。したがって、より一層高強度な炭素繊維スライバを形成することができる。また、炭素繊維スライバにおける、炭素繊維の整列度合いをより一層高めることができる。
【0013】
(3)(1)又は(2)に記載された炭素繊維スライバの製造方法において、
前記第1工程で重ね合わせる前記炭素繊維の単位面積当たりの重量は、所定の厚さに積層した前記合成繊維の単位面積当たりの重量と略同程度であることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、第1工程で重ね合わせる炭素繊維の単位面積当たりの重量は、所定の厚さに積層した合成繊維の単位面積当たりの重量と略同程度であるので、フロントローラとバックローラとで炭素繊維と合成繊維とを挟み込む際、炭素繊維と合成繊維とを略同等の割合で押し潰してドラフトを掛けることができる。そのため、ギル装置の針が繊維を梳るときに、炭素繊維と合成繊維とを略均等に分散させながら、スムーズに梳ることができる。その結果、炭素繊維と合成繊維とがより一層均等に分散された炭素繊維スライバを形成することができる。
【0015】
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載された炭素繊維スライバの製造方法において、
前記合成繊維の自由長は、前記炭素繊維の自由長より短いことを特徴とする。
【0016】
本発明においては、合成繊維の自由長は、炭素繊維の自由長より短いので、フロントローラとバックローラとで炭素繊維と合成繊維とを挟み込み、ドラフトを掛けながら、ギル装置の針が繊維を梳るときに、短くて動きやすい合成繊維が炭素繊維の隙間に侵入しやすくなる。そのため、炭素繊維の隙間に侵入した合成繊維が、炭素繊維により一層強く絡み合うことができる。その結果、より一層高強度な炭素繊維スライバを形成することができる。
なお、合成繊維の自由長は、炭素繊維の自由長の1/4〜1/2倍程度が好ましい。例えば、炭素繊維の自由長は15〜25cm程度が好ましく、合成繊維の自由長は、5〜10cm程度が好ましい。
【0017】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載された炭素繊維スライバの製造方法に用いる製造装置であって、
前記炭素繊維と前記合成繊維とを載置して搬送する搬送コンベアと、前記搬送コンベアの前端側に配置されたバックローラと、前記バックローラの送り方向前方に配置されたフロントローラと、前記バックローラと前記フロントローラとの中間部に配置されたギル装置と、前記フロントローラの送り方向前方に配置されたカレンダーローラとを備え、
前記フロントローラの回転速度は、前記バックローラの回転速度より速いこと、前記フロントローラにおける上部ローラの外径は、当該フロントローラにおける下部ローラの外径より大きいことを特徴とする。
【0018】
本発明においては、炭素繊維と合成繊維とを載置して搬送する搬送コンベアと、搬送コンベアの前端側に配置されたバックローラと、バックローラの送り方向前方に配置されたフロントローラと、バックローラとフロントローラとの中間部に配置されたギル装置と、フロントローラの送り方向前方に配置されたカレンダーローラとを備え、フロントローラの回転速度は、バックローラの回転速度より速いので、押し潰されて扁平になった炭素繊維と合成繊維とを、送り方向に引き延ばし(ドラフト)を掛けてより一層近接させた状態で、ギル装置が繊維を梳ることによって、炭素繊維を合成繊維に交絡しやすくすることができる。また、フロントローラにおける上部ローラの外径は、当該フロントローラにおける下部ローラの外径より大きいので、炭素繊維の極端な屈曲が防止されて、炭素繊維は折損しにくくなる。
その結果、折損することなく送り方向に整列された炭素繊維と、その廻りに絡み合った合成繊維とが混棉されて、フリース状のウェブが形成され、炭素繊維の折損を防止して、合成繊維が炭素繊維に交絡して混棉された炭素繊維スライバを簡単に製造することができる。
【0019】
(6)炭素繊維と合成繊維とを混棉して形成する炭素繊維スライバの製造方法であって、
前記炭素繊維は、短繊維状に切断されてランダムな方向に開繊された綿状繊維であり、前記合成繊維は、短繊維状に形成されて略同一方向に配列された捲縮可能な綿状繊維であること、
前記合成繊維の捲縮方向と送り方向とを略合致させ、所定の厚さに積層した前記合成繊維の上方に、前記炭素繊維を層状に重ね合わせる第1工程と、
前記第1工程で重ね合わせた前記炭素繊維と前記合成繊維とを、送り方向前方に配置された開繭機のシリンダ外周に第1ウェブとして複数回巻き取る第2工程と、
前記第2工程で巻き取った第1ウェブを、前記開繭機のシリンダから外して、送り方向で短冊部材に切断する第3工程と、
前記第3工程で切断した短冊部材を、フロントローラと送り方向後方に配置されたバックローラとによって挟み込み、ドラフトを掛けながら前記フロントローラと前記バックローラとの中間部に配置されたギル装置にて前記送り方向に繊維を梳ってフリース状の第2ウェブを形成する第4工程と、
前記フロントローラから送り出される前記第2ウェブが、一箇所に集束して連続した炭素繊維スライバに形成される第5工程とを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明においては、第1工程にて、合成繊維の捲縮方向と送り方向とを略合致させたので、合成繊維は、送り方向にドラフトを掛けると、繊維同士が近接して交絡し、延伸しつつ繊維間の連結強度を増加させる。また、所定の厚さに積層した合成繊維の上方に、炭素繊維を層状に重ね合わせるので、送り方向にドラフトを掛けたとき繊維間の連結強度を増加させて延伸した合成繊維は、その上方に重ね合わせる炭素繊維を下方から支持しつつ移送することができる。
また、第1工程で重ね合わせた炭素繊維と合成繊維とを、送り方向前方に配置された開繭機のシリンダ外周に第1ウェブとして複数回巻き取る第2工程を備えるので、炭素繊維と合成繊維とを複数層に積層した混合綿からなる第1ウェブを形成することができる。
また、第2工程で巻き取った第1ウェブを、前記開繭機のシリンダから外して、送り方向で短冊部材に切断する第3工程を備えるので、炭素繊維と合成繊維とが複数層に積層した混合綿ウェブを送り方向で必要な幅サイズに揃えることができる。
また、第3工程で切断した短冊部材を、フロントローラと送り方向後方に配置されたバックローラとによって挟み込み、ドラフトを掛けながら前記フロントローラと前記バックローラとの中間部に配置されたギル装置にて前記送り方向に繊維を梳ってフリース状の第2ウェブを形成する第4工程を備えるので、複数層に積層した炭素繊維と合成繊維とからなる短冊部材を送り方向にドラフトを掛けて互いに近接させた状態で、ギル装置が両繊維を梳ることができる。また、ギル装置は、下歯によって合成繊維と炭素繊維とを下方から支持した状態で、ランダムな方向に向いた炭素繊維を送り方向に整列させることができる。炭素繊維は、送り方向に整列される際、複数層に積層された合成繊維によって下方から支持されているので、繊維長が短くてもばらばらに落下することはない。したがって、再利用する炭素繊維を有効に活用することができる。
【0021】
ここで、合成繊維は、短繊維状に形成されて略同一方向に配列された捲縮可能な綿状繊維であり、合成繊維の捲縮方向と送り方向とを予め略合致させて配置されているので、ギル装置の針が繊維を送り方向に梳ることによって、合成繊維は、互いに近接した炭素繊維とも交絡しやすくなる。また、合成繊維は、炭素繊維が送り方向に整列されるときに併せて炭素繊維に絡みつくので、炭素繊維の極端な屈曲が防止されて、炭素繊維は折損しにくくなる。また、炭素繊維は、合成繊維に交絡されることで、送り方向に整列された状態に保持される。
その結果、折損することなく送り方向に整列された炭素繊維と、その廻りに絡み合った合成繊維とが混棉されて、フリース状の第2ウェブが形成される。
【0022】
また、フロントローラから送り出される第2ウェブが、一箇所に集束して連続した炭素繊維スライバに形成される第5工程を備えるので、折損することなく送り方向に整列された炭素繊維と、その廻りに交絡した合成繊維とが混棉されて形成された第2ウェブから、所定の太さを備え連続した炭素繊維スライバを形成することができる。
よって、本発明によれば、炭素繊維の折損を防止しつつ、合成繊維が炭素繊維に交絡して混棉された炭素繊維スライバを簡単に製造する炭素繊維スライバの製造方法を提供することができる。