(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-108997(P2016-108997A)
(43)【公開日】2016年6月20日
(54)【発明の名称】作業機械の制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20160523BHJP
F02D 29/04 20060101ALI20160523BHJP
【FI】
F01N3/08 B
F02D29/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-245978(P2014-245978)
(22)【出願日】2014年12月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】栗本 真司
【テーマコード(参考)】
3G091
3G093
【Fターム(参考)】
3G091AA05
3G091AA18
3G091AB06
3G091BA14
3G091BA21
3G091CB08
3G093AA10
3G093AA15
3G093AB01
3G093BA05
3G093DB27
3G093EA01
3G093EB06
(57)【要約】
【課題】 液体還元剤の残量が少なくなり、エンジンの出力を低下させたときでも、油圧ポンプが必要とするトルクを確保しながらディーゼルエンジンが停止することを回避できる作業機械の制御装置を提供する。
【解決手段】 液体還元剤の残量が減少したときに、油圧ポンプを駆動するディーゼルエンジンの出力を低下させるエンジン制御手段を備えた作業機械の制御装置において、前記油圧ポンプとして可変容量型油圧ポンプ11を用いるとともに、前記エンジン制御手段14がディーゼルエンジン13の出力を低下させたときに、前記可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を減少させる容積制御手段21を設けた。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンと、該ディーゼルエンジンで回転駆動される油圧ポンプと、該油圧ポンプから吐出される作動油によって作動する作業機器と、前記ディーゼルエンジンから排出された排ガスの浄化を行う液体還元剤を貯留する液体還元剤タンクと、該液体還元剤タンクに貯留された液体還元剤の残量を検出する残量検出手段と、該残量検出手段で検出した液体還元剤の残量が減少したときに前記ディーゼルエンジンの出力を低下させるエンジン制御手段とを備えた作業機械の制御装置において、前記油圧ポンプとして可変容量型油圧ポンプを用いるとともに、前記エンジン制御手段がディーゼルエンジンの出力を低下させたときに、前記可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を減少させる容積制御手段を設けたことを特徴とする作業機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の制御装置に関し、詳しくは、作業機器を作動させる油圧ポンプをディーゼルエンジンで駆動する作業機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンを駆動源とする各種作業機械、例えば杭打機や地盤改良機、クレーンなどでは、排ガス規制の高次化に伴い、排気系に液体還元剤、例えば尿素水溶液を噴射して排ガスを浄化することが行われている。このような作業機械では、液体還元剤の残量が少なくなったときに、ディーゼルエンジンの出力を低下させたり、ディーゼルエンジンを停止させたりするようにしている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−160104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ディーゼルエンジンの出力を低下させた場合、油圧ポンプが必要とするトルクに対してディーゼルエンジンの出力トルクが下回ると、ディーゼルエンジンが停止して作業を継続できなくなるおそれがある。例えば、
図4に示すように、吐出量(押しのけ容積)が一定の固定容量型油圧ポンプをディーゼルエンジンで駆動する場合、最大圧力まで吐出量S1は一定であり、ポンプ軸トルクT1、すなわち、ディーゼルエンジンが油圧ポンプを駆動するトルクは、吐出圧力の上昇に伴って上昇する。
【0005】
このとき、ディーゼルエンジンが出力可能な最大トルク(100%)が
図4に示す想像線M1で示す値である場合、油圧ポンプが吐出可能な最大圧力の50%程度になる点P1を超えると、油圧ポンプを駆動するためのポンプ軸トルクT1に対してディーゼルエンジンの出力トルクM1が下回るため、ディーゼルエンジンが停止してしまう。
【0006】
また、吐出量を調節可能な可変容量型油圧ポンプをディーゼルエンジンで駆動する場合は、
図5の実線S2に示すように、ポンプ軸トルクT2がディーゼルエンジンが出力可能なトルクM2に近付いたときに吐出量を減少させてポンプ軸トルクT2の上昇を抑え、最大吐出圧力までディーゼルエンジンを停止させることなく油圧ポンプを駆動可能にする制御が行われている。
【0007】
しかし、液体還元剤の残量が少なくなったときに、ディーゼルエンジンの出力を低下させる制御を行う場合、ディーゼルエンジンの出力を75%に低下させると吐出圧力が点P2を超えたとき、50%に低下させると吐出圧力が点P3を超えたとき、20%に低下させると吐出圧力が点P4を超えたときに、ポンプ軸トルクT2に対してディーゼルエンジンの出力トルクM3,M4,M5がそれぞれ下回るため、ディーゼルエンジンが停止して作業機械による作業が継続できなくなってしまう。
【0008】
そこで本発明は、液体還元剤の残量が少なくなり、エンジンの出力を低下させたときでも、油圧ポンプが必要とするトルクを確保しながらディーゼルエンジンが停止することを回避できる作業機械の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の作業機械の制御装置は、ディーゼルエンジンと、該ディーゼルエンジンで回転駆動される油圧ポンプと、該油圧ポンプから吐出される作動油によって作動する作業機器と、前記ディーゼルエンジンから排出された排ガスの浄化を行う液体還元剤を貯留する液体還元剤タンクと、該液体還元剤タンクに貯留された液体還元剤の残量を検出する残量検出手段と、該残量検出手段で検出した液体還元剤の残量が減少したときに前記ディーゼルエンジンの出力を低下させるエンジン制御手段とを備えた作業機械の制御装置において、前記油圧ポンプとして可変容量型油圧ポンプを用いるとともに、前記エンジン制御手段がディーゼルエンジンの出力を低下させたときに、前記可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を減少させる容積制御手段を設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の作業機械の制御装置によれば、可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積を減少させることにより、ディーゼルエンジンの出力が低下しても油圧ポンプが必要とするトルクを得ることができる。したがって、ディーゼルエンジンが停止することがなくなり、油圧ポンプから作業機器に十分な圧力の作動油を供給することができ、作業機器の作業速度は低下するものの、作業途中で停止することがなくなり、作業を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の作業機械の制御装置の一形態例を示す説明図である。
【
図2】液体還元剤(尿素)の残量とディーゼルエンジンの出力(トルク)との関係の一形態例を示す図である。
【
図3】本発明の制御装置で制御した可変容量型油圧ポンプにおける軸トルクと吐出量と吐出圧力との関係の一形態例を示す説明図である。
【
図4】固定容量型油圧ポンプにおける軸トルクと吐出量と吐出圧力との関係の一例を示す説明図である。
【
図5】可変容量型油圧ポンプにおける軸トルクと吐出量と吐出圧力との関係の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至
図3は本発明の一形態例を示すもので、本形態例に示す作業機械は、2台の可変容量型油圧ポンプ11,11と1台の固定容量型油圧ポンプ12とを1台のディーゼルエンジン13で回転駆動し、可変容量型油圧ポンプ11から吐出された作動油を、油圧モータ、油圧シリンダなどの各種作業機器に供給して各種作業を行い、固定容量型油圧ポンプ12は、制御回路にパイロット用作動油を供給するために使用している。
【0013】
ディーゼルエンジン13には、エンジン制御手段14が設けられており、各種条件に基づいて燃料噴射量が調節され、ディーゼルエンジン13の出力、回転数が制御されている。ディーゼルエンジン13の排ガスを排出する排気系15には、NOx浄化用の液体還元剤である尿素水溶液を排ガス中に噴射する尿素噴射部16と、各種触媒などを備えた排ガス後処理装置17とが設けられており、尿素噴射部16には、尿素配管18を介して液体還元剤タンクである尿素タンク19が接続されている。
【0014】
排ガス後処理装置17には、NOx濃度や排気温度、排気圧力などを検出する各種センサが設けられており、尿素タンク19には、尿素水溶液の残量や温度、濃度などを検出する各種センサが設けられている。これらの各種センサが検出した各情報は、センサ配線17a,19aを介して排ガス後処理制御手段20に送信され、排ガス後処理制御手段20にて演算処理され、尿素水溶液の噴射量を調節するための信号が尿素噴射量制御配線16aを介して尿素噴射部16に送信されるとともに、尿素水溶液の残量を検出するセンサ(残量検出手段)が検出した尿素タンク19内の尿素水溶液の残量に基づいてディーゼルエンジン13の出力を制御する信号がCANなどの通信手段20aを介して前記エンジン制御手段14に送信される。
【0015】
エンジン制御手段14は、排ガス後処理制御手段20から尿素タンク19内の尿素水溶液の残量が減少したとの信号を受信したときに、ディーゼルエンジン13の出力を低下させる制御を行う。
図2は、排ガス後処理制御手段20から送信される尿素タンク19内の尿素水溶液の残量(尿素残量)と、エンジン制御手段14によって制御されるエンジンの出力(エンジントルク)との関係を示している。尿素タンク19内の尿素残量が、タンク容量に対して7.5%以上の場合には、エンジントルクは最大トルクまで100%出力可能な状態になっている。尿素残量がタンク容量の7.5%未満、5%以上の範囲では、出力可能なエンジントルクが最大トルクに対して75%に低下させた状態に制御され、尿素残量がタンク容量の5%未満、2.5%以上の範囲では、50%に低下させた状態、尿素残量がタンク容量の2.5%未満になると、出力可能なエンジントルクは20%に低下させた状態にそれぞれ制御される。
【0016】
エンジン制御手段14による前記エンジントルクの制御状態は、CANなどの通信手段21aを介して前記可変容量型油圧ポンプ11の押しのけ容積を調節する容積制御手段21に送信される。容積制御手段21は、尿素タンク19内の尿素残量が減少してエンジン制御手段14がディーゼルエンジン13の出力を低下させたときに、該出力の低下状態に応じて可変容量型油圧ポンプ11の押しのけ容積を減少させる制御を行う。
【0017】
容積制御手段21は、制御信号21b,21bによって2台の可変容量型油圧ポンプ11の押しのけ容積を調節するものであって、
図3に示すように、尿素残量が7.5%以上で、ディーゼルエンジン13が出力可能なエンジントルクが100%の場合、可変容量型油圧ポンプ11の吐出圧力があらかじめ設定された圧力B1に上昇したときに、可変容量型油圧ポンプ11の吐出量(押しのけ容積)を実線A1で示すように減少させ、ポンプ軸トルクC1がエンジントルクの100%を超えないように制御する。これにより、ポンプ軸トルクC1に対してエンジントルクが下回ることがなくなり、85%程度のエンジントルクで可変容量型油圧ポンプ11を駆動し、最大圧力まで作動油を昇圧して作業機器に供給できるようにしている。
【0018】
そして、尿素残量が7.5%未満、5%以上の範囲では、出力可能なエンジントルクが75%に低下するので、容積制御手段21は、吐出圧力B2以上で破線A2で示すように可変容量型油圧ポンプ11の押しのけ容積を減少させる(矢印Y1)。これにより、最大圧力に必要なポンプ軸トルクも、矢印Z1によって破線C2に示す70%程度に低下し、エンジントルクの75%を超えないように制御される。
【0019】
さらに、尿素残量が5%未満、2.5%以上の範囲では、出力可能なエンジントルクが50%に低下するので、容積制御手段21は、吐出圧力B3以上で破線A3で示すように可変容量型油圧ポンプ11の押しのけ容積を減少させる(矢印Y2)。これにより、最大圧力に必要なポンプ軸トルクも、矢印Z2によって破線C3に示す45%程度に低下し、エンジントルクの50%を超えないように制御される。
【0020】
また、尿素残量が2.5%未満になり、出力可能なエンジントルクが20%に低下すると、容積制御手段21は、吐出圧力B4以上で破線A4で示すように可変容量型油圧ポンプ11の押しのけ容積を減少させる(矢印Y3)。これにより、最大圧力に必要なポンプ軸トルクも、矢印Z3によって破線C4に示す10%程度に低下し、エンジントルクが20%を超えないように制御される。
【0021】
あるいは、尿素残量7.5%以上でエンジン13が出力可能なエンジントルクが100%の場合、可変容量型油圧ポンプ11自身が備える一定出力制御(一定馬力制御)によって可変容量型油圧ポンプ11の吐出圧力がフィードバックされ、可変容量型油圧ポンプ11の吐出量を
図3の実線A1で示すように減少させ、ポンプ軸トルクC1がエンジントルクの100%を超えないようにする。そして、尿素残量が7.5%未満でエンジン制御手段14がエンジン出力を制限する場合には、容積制御手段21により、エンジン出力制限の各段階に応じて可変容量型油圧ポンプ11の吐出量を減少させる。
【0022】
このように、尿素タンク19内の尿素残量の減少に伴ってディーゼルエンジン13が出力可能なエンジントルクを低下させたときに、可変容量型油圧ポンプ11の押しのけ容積を減少させてポンプ軸トルクを低下させるように制御することにより、可変容量型油圧ポンプ11が必要とするトルク(ポンプ軸トルク)がディーゼルエンジン13が出力可能なエンジントルクを超えることがなくなり、作業中にディーゼルエンジン13が停止することがなくなる。
【0023】
したがって、尿素タンク19内の尿素残量が減少しても、ディーゼルエンジン13が停止することはなくなり、可変容量型油圧ポンプ11から作業機器に十分な圧力の作動油を供給することができ、作業機器の作業速度は低下するものの、作業途中で停止することがなくなり、停止可能な状態まで作業を継続することができる。
【0024】
なお、パイロット用の固定容量型油圧ポンプは、小型で、吐出圧力も低いので、ディーゼルエンジンが出力可能なトルクが低下しても十分に駆動できるので、制御の必要はない。また、ディーゼルエンジンの出力制御や可変容量型油圧ポンプの押しのけ容積調節は、周知の各種手段で行うことができる。さらに、可変容量型油圧ポンプの台数も任意であり、作業機械の種類も限定されるものではなく、作業機器の種類や作業内容も限定されるものではない。
【符号の説明】
【0025】
11…可変容量型油圧ポンプ、12…固定容量型油圧ポンプ、13…ディーゼルエンジン、14…エンジン制御手段、15…排気系、16…尿素噴射部、16a…尿素噴射量制御配線、17…排ガス後処理装置、17a…センサ配線、18…尿素配管、19…尿素タンク、19a…センサ配線、20…排ガス後処理制御手段、20a…通信手段、21…容積制御手段、21a…通信手段、21b…制御信号