(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-112375(P2016-112375A)
(43)【公開日】2016年6月23日
(54)【発明の名称】皮膚蛍光測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20160527BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20160527BHJP
【FI】
A61B10/00 E
G01N21/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-267189(P2014-267189)
(22)【出願日】2014年12月16日
(71)【出願人】
【識別番号】304002405
【氏名又は名称】イオム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松橋 久博
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA01
2G043FA06
2G043JA02
(57)【要約】
【課題】皮膚表面からの蛍光を、メラニンなどの色素の影響を可能な限り除外した上で正確に測定することができ、ひいてはAGEsの量を正しく推定する。
【解決手段】測定対象である皮膚1に当接されて皮膚表面に向けて光を照射する測定ヘッド2と、測定ヘッド2が測定した光量情報に基づいて皮膚の最終糖化産物の量を推定する制御回路3を有した操作ボックス6を備える。測定ヘッド2は、各々異なる時間帯に発光する紫外光発光素子11uv及び赤、緑、青色光発光素子11r、11g、11bを備え、各発光素子11r、11g、11bが光を照射したときの皮膚1からの反射光量についての情報に基づいてメラニンの量を算出し、算出したメラニンの量に応じた吸収度の値を、紫外光発光素子11uvが紫外光を照射したときの蛍光量に加算して補正蛍光量とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である皮膚表面に当接されて皮膚表面に向けて光を照射する測定ヘッドと、前記測定ヘッドが測定した光量情報に基づいて皮膚の最終糖化産物の量を推定する電子回路とを備え、
前記測定ヘッドは、各々異なる時間帯に発光する紫外光発光素子及び可視光発光素子を備え、
前記電子回路は、前記可視光発光素子が可視光を照射したときの皮膚からの反射光量についての情報に基づいてメラニンの量を算出し、算出したメラニンの量に応じた吸収度を、前記紫外光発光素子が紫外光を照射したときの皮膚からの蛍光量に加算して補正蛍光量とし、この補正蛍光量に基づいて最終糖化産物の量を推定することを特徴とする皮膚蛍光測定装置。
【請求項2】
前記測定ヘッドは、可視光発光素子が、赤、緑、青色を発光する3種類の発光素子からなると共に、近赤外光発光素子をさらに備え、
前記電子回路は、前記近赤外光発光素子が近赤外光を照射したときの皮膚からの反射光量に応じてヘモグロビンによる影響度を推定し、前記可視光発光素子が可視光を照射したときの反射光量に基づいて算出したメラニン量からヘモグロビンによる影響度を減算することによってメラニンの量を補正することを特徴とする請求項1に記載の皮膚蛍光測定装置。
【請求項3】
前記電子回路は、算出したメラニンの量に応じた吸収度に、測定対象である人の属性に応じた係数を乗じた上で蛍光量に加算することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の皮膚蛍光測定装置。
【請求項4】
前記電子回路は、予め人の属性に応じた複数の係数を記憶した基準テーブルを備えることを特徴とする請求項3に記載の皮膚蛍光測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚表面からの蛍光を、メラニンなどの色素の影響を可能な限り除外した上で正確に測定でき、ひいてはAGEs(最終糖化産物)の量を正しく推定することができる皮膚蛍光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、皮膚に紫外光を照射したときに皮膚から励起される蛍光を測定することによって、皮膚に含まれるAGEsの量を推定し、ひいては皮膚の老化度を判定する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。ところが、蛍光は、皮膚の内部を通過するときにメラニンなどの色素により一部が吸収されることから、単純に蛍光の量を測るだけでは、AGEsの量を正しく推定することができない。具体的には、例えばメラニンを多く含む皮膚を持つ人(色黒の人)は、蛍光が多い割合で吸収されるのでAGEs量が実際よりも少なく推定されて皮膚の老化度が軽く判定される傾向がある。逆に色白の人は実際よりも皮膚の老化度が進んでいるように判定される傾向がある。
【0003】
また、皮膚色の違いによる測定値のばらつきを除くために、皮膚に紫外光を照射すると同時に白色光を照射できるようにして蛍光を測定する装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−248359号公報
【特許文献2】特開2014−68950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献2に記載の装置は、単に、対象者が色黒(メラニンを多く含む皮膚)の場合に白色光源のスイッチをオンにして皮膚表面に白色光を照射し、色白の場合には白色光源のスイッチをオフにするだけのものであるので、メラニンの量に応じて蛍光の量を補正するようにはなっていない。従って、皮膚に含まれるAGEsの量を正しく推定することができない。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するものであり、皮膚表面からの蛍光を、メラニンなどの色素の影響を可能な限り除外した上で正確に測定することができ、ひいてはAGEsの量を正しく推定することができる皮膚蛍光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、測定対象である皮膚表面に当接されて皮膚表面に向けて光を照射する測定ヘッドと、前記測定ヘッドが測定した光量情報に基づいて皮膚の最終糖化産物の量を推定する電子回路とを備え、前記測定ヘッドは、各々異なる時間帯に発光する紫外光発光素子及び可視光発光素子を備え、前記電子回路は、前記可視光発光素子が可視光を照射したときの皮膚からの反射光量についての情報に基づいてメラニンの量を算出し、算出したメラニンの量に応じた吸収度を、前記紫外光発光素子が紫外光を照射したときの皮膚からの蛍光量に加算して補正蛍光量とし、この補正蛍光量に基づいて最終糖化産物の量を推定することを特徴とする皮膚蛍光測定装置である。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の皮膚蛍光測定装置において、前記測定ヘッドは、可視光発光素子が、赤、緑、青色を発光する3種類の発光素子からなると共に、近赤外光発光素子をさらに備え、前記電子回路は、前記近赤外光発光素子が近赤外光を照射したときの皮膚からの反射光量に応じてヘモグロビンによる影響度を推定し、前記可視光発光素子が可視光を照射したときの反射光量に基づいて算出したメラニン量からヘモグロビンによる影響度を減算することによってメラニンの量を補正することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の皮膚蛍光測定装置において、前記電子回路は、算出したメラニンの量に応じた吸収度に、測定対象である人の属性に応じた係数を乗じた上で蛍光量に加算することを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3に記載の皮膚蛍光測定装置において、前記電子回路は、予め人の属性に応じた複数の係数を記憶した基準テーブルを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、皮膚表面からの蛍光を、メラニンなどの色素の影響を可能な限り除外した上で正確に測定することができ、ひいてはAGEsの量を正しく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る皮膚蛍光測定装置の測定ヘッドの正面図。
【
図2】同皮膚蛍光測定装置の測定ヘッドの側面断面図。
【
図3】同皮膚蛍光測定装置の電子回路の構成を示すブロック図。
【
図4】同皮膚蛍光測定装置の電子回路の測定動作の手順を示すフローチャート。
【
図5】同皮膚蛍光測定装置において照射する光の波長と、各光が皮膚内の各物質により励起又は吸収される範囲を示す図。
【
図6】同皮膚蛍光測定装置の電子回路が備える基準テーブルの一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る皮膚蛍光測定装置について、
図1乃至
図6を参照して説明する。皮膚蛍光測定装置は、
図1、2に示すように、測定対象である皮膚1に当接される測定ヘッド2と、測定ヘッド2に電気的に接続され内部に制御回路(電子回路)3、表示部4、操作部5などを備えた操作ボックス6とから構成される。
【0014】
測定ヘッド2は、皮膚1に当接するフード状部分7aを有する筺体7内に回路基板8が配置されており、この回路基板8上にフォトダイオードからなる受光素子9と、受光素子9を中心とした同一円周上に15個のLEDからなる発光素子11が実装されている。発光素子11は、
図1に示されるように、950nmの近赤外光を発光するLED11urと、660nmの赤色光を発光するLED11rと、520nmの緑色光を発光するLED11gと、450nmの青色光を発光するLED11bと、350nmの紫外光を発光するLED11uvとが5個ずつの3つの発光素子グループを構成するように配置されている。これにより、各LED11ur〜11uvが照射した光Lrが皮膚1に到達し、受光素子9へと反射してくる光Lfの光路長が、各LED11ur〜11uvについて同じになっている。
【0015】
回路基板8の前方には発光素子11の支持板を兼ねた遮光板12が設けられており、この遮光板12の中央の窓孔には円筒状の壁部12aが形成されていて、各LED11ur〜11uvが照射した光Lrが直接受光素子9に入射しないようになっている。受光素子9の前方には紫外線領域の光をカットする受光フィルタ13が設けられている。
【0016】
さらに、各LED11ur〜11uvには、
図3に示すように、それぞれをオンオフ又は発光輝度を可変する駆動回路14が接続され、受光素子9には制御回路3からの指令により一定時間毎の受光量を記憶する記憶素子15が接続されている。駆動回路14、及び記憶素子15は回路基板8上に実装されているが、制御回路3内に内蔵されてもよい。
【0017】
次に、測定動作について
図4のフローチャートを参照して説明する。ユーザが測定ヘッド2を測定対象の皮膚1に押し当てた後、操作部5のスタートボタン(不図示)を押すと、制御回路3は、駆動回路14に対して各LED11ur〜11uvを順次所定の時間ずつ点灯させる指令を出力し、各発光素子11が順に点灯する(S1)。点灯間隔は、受光素子9の受光量データのサンプリング間隔でもあり、30〜200msで調整する。点灯順序は、
図1において時計方向回りでもよいし、逆時計方向回りでもよい。具体的には、時計方向回りの場合には、発光素子グループごとに、近赤外光LED11ur→赤色光LED11r→緑色光LED11g→青色光LEDb→紫外光LED11uvの順に点灯する。
【0018】
制御回路3は、次に各LED11ur〜11uvが点灯しているときの受光素子9の受光量を、各記憶素子15からの光量データとして収集し、記憶する(S2)。具体的には、近赤外光LED11urが発光しているときに受光素子9が受光する光量データを近赤外光についての反射光量データとして収集記憶する。同様に赤色光、緑色光、青色光についての反射光量データを収集記憶する。紫外光については皮膚1内のAGEsが励起発光する蛍光の量をデータとして収集記憶する。
【0019】
ここで、各光について収集した光量データを近赤外光、赤色光、緑色光、青色光、紫外光の順に、Qur、Qr、Qg、Qb、Quvとする。また、近赤外光から紫外光までの各光の波長領域と、皮膚1内のAGEsにより励起発光する蛍光の領域、又は各色素の領域について
図5を参照して説明する。紫外光(350nm)が照射されたときに皮膚1内のAGEs量に応じた可視光領域の蛍光が励起発光される。また、青、緑、赤色光(450nm、520nm、660nm)が照射されたときに各光はそれぞれ皮膚1内のメラニンによって一部が吸収される。特に赤色光(660nm)は、メラニン以外に、酸素との結合が外れたヘモグロビンDOHbによっても吸収される。他方、近赤外光(950nm)は主に酸素と結合したヘモグロビンOHbによって吸収される。従って、近赤外光を照射したときの反射光量はヘモグロビン量を反映した値になる。
【0020】
再び
図4に戻って説明する。制御回路3は、赤、緑、青色光についての反射光量Qr、Qg、Qbの合計を算出する(Qm=Qr+Qg+Qb)。赤、緑、青色についての反射光量は、上述のようにメラニンの量に応じて増減するので、この合計値Qmをメラニン量に応じた吸収度とする(S3)。その上で、この吸収度Qmは、ヘモグロビンによる影響も含むものであるので、ヘモグロビンによる影響を除くために、近赤外光についての光量データQurを、そのまま、又は一定の係数を乗じた上で減算してメラニンのみによる吸収度(Qmp=Qm−Qur)を算出する(S4)。
【0021】
さらに、制御回路3は、S4で求めた吸収度Qmpに、測定対象の人物の属性(性別、年齢、人種)に応じた係数を、予め制御回路3のメモリ内に記憶してある基準テーブル16から読み出して乗じ、補正する(S5)。具体的には、
図6に示すような基準テーブル16が記憶してある場合には、ユーザが操作部5を操作して入力した性別、年齢に適合した係数が決定される。例えば、「男性」、「35歳」を入力した場合、係数1.3が決定され、(1.3×吸収度Qmp)を補正後の吸収度とする。
【0022】
制御回路3は、次に紫外光を照射したときの反射光量(蛍光量)QuvにS5で算出した補正後の吸収度((係数)×吸収度Qmp)を加算し、最終的な蛍光量Qf=(Quv+(係数)×吸収度Qmp)とする(S6)。これによって、メラニンによる影響を除外した蛍光量を測定できたことになり、制御回路3は、対応するAGEs量を表示部4に表示する(S7)。蛍光量とAGEs量との関係は、AGEs量が既知の標準プレートを用いて判明しているので、蛍光量に一義的に対応するAGEs量を表示する。
【0023】
以上のように、本皮膚蛍光測定装置を用いれば、メラニンによる影響を除外した上で正確に蛍光量を測定することができ、ひいてはAGEsの量を正しく推定することができる。
【0024】
なお、上記実施形態では、測定ヘッド2に近赤外光の発光素子11urを設け、近赤外光についての反射光量Qurを合計の反射光量Qmから減算することによってヘモグロビンによる影響を除外するようにしたが、ヘモグロビンによる影響は比較的小さいので、ヘモグロビンによる影響を除外しないようにしてもよい。具体的には、測定ヘッド2は紫外光の発光素子11uvと赤、緑、青色光の発光素子11r、11g、11bだけを有し、ヘモグロビンによる影響を含んだ反射光量Qmを用いてAGEs量を推定する。この場合には、測定ヘッド2の構造簡単にできる。
【符号の説明】
【0025】
1 皮膚
2 測定ヘッド
3 制御回路(電子回路)
9 受光素子
11 発光素子
11ur 近赤外光発光素子
11r 赤色発光素子
11g 緑色発光素子
11b 青色発光素子
11uv 紫外光発光素子