【解決手段】略直方体からなる車体Sの先頭部SA及び後尾部SBに形成された気流誘導部4、5、6を備えた鉄道車両である。気流誘導部は、先頭部及び後尾部における車体端面1の上頭部11から、それぞれ車体上面2に向けて傾斜状に形成された上面誘導部4と、先頭部及び後尾部における車体隅部SCから、それぞれ車体側面3に向けて凹溝状に形成された側面誘導部5、6とを備えた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された移動体の気流はく離抑制構造では、移動体の上面に第1の誘導部と第2の誘導部とを備える構造であるので、車両高さが第1の誘導部及び第2の誘導部の高さ分だけ増加してしまうことになる。そのため、トンネル等の限られた空間内を走行する場合、空気抵抗が増加しやすくなる問題があった。
また、上記移動体の気流はく離抑制構造は、移動体の先頭部が走行時に後尾部となる場合、移動体の後方に生じる気流のはく離を抑制するものではない。むしろ、移動体の後方では、移動体の側面に流れる気流が、第1の誘導部及び第2の誘導部によって移動体の上方へ向けて誘導され、移動体の後方における気流のはく離が増加する傾向にある。そのため、移動体の後方では、空気抵抗が増加する問題があった。
【0006】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、車両高さを増加させることなく、先頭部及び後尾部の気流はく離を抑制して空気抵抗の低減を図ることが容易な鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄道車両は、以下の構成を備えている。
(1)略直方体からなる車体の先頭部及び後尾部に形成された気流誘導部を備えた鉄道車両であって、
前記気流誘導部は、前記先頭部及び前記後尾部における車体端面の上頭部から、それぞれ車体上面に向けて傾斜状に形成された上面誘導部と、前記先頭部及び前記後尾部における車体隅部から、それぞれ車体側面に向けて凹溝状に形成された側面誘導部とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、気流誘導部は、先頭部及び後尾部における車体端面の上頭部から、それぞれ車体上面に向けて傾斜状に形成された上面誘導部を備えたので、鉄道車両の走行方向にかかわらず、走行前方から車体端面に衝突する気流を上面誘導部に沿って車体上面に誘導し、車体上面における気流のはく離を抑制することができる。
また、上面誘導部は、先頭部及び後尾部における車体端面の上頭部から、それぞれ車体上面に向けて傾斜状に形成されたので、上面誘導部によって車体高さを増加させることはない。
また、気流誘導部は、先頭部及び後尾部における車体隅部から、それぞれ車体側面に向けて凹溝状に形成された側面誘導部を備えたので、鉄道車両の走行方向にかかわらず、走行方向の車体後方へ流れる気流を側面誘導部に沿って車体後方に誘導し、車体後方における気流のはく離を抑制することができる。
よって、車両高さを増加させることなく、先頭部及び後尾部の気流はく離を抑制して空気抵抗の低減を図ることが容易な鉄道車両を提供することができる。
【0009】
(2)(1)に記載された鉄道車両において、
前記側面誘導部は、溝上端部が前記車体側面から前記車体隅部へ向かうにつれて下方へ傾斜するように形成されたことを特徴とする。
【0010】
本発明においては、側面誘導部は、溝上端部が車体側面から車体隅部へ向かうにつれて下方へ傾斜するように形成されたので、走行方向の後方へ車体側面に沿って流れる気流が上面誘導部によって上方へ誘導されるのを低減し、気流の向きを略水平方向へ誘導することによって、走行方向の車体後方における気流のはく離をより一層抑制することができる。
その結果、先頭部及び後尾部の気流はく離を抑制して、空気抵抗を更に低減させることができる。
【0011】
(3)(1)又は(2)に記載された鉄道車両において、
前記側面誘導部には、前記車体側面の上下方向中央部に形成された第1側面誘導部と、前記上面誘導部の左右端に隣接して形成された第2側面誘導部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明においては、側面誘導部には、車体側面の上下方向中央部に形成された第1側面誘導部と、上面誘導部の左右端に隣接して形成された第2側面誘導部とを備えたので、走行方向の後方へ車体側面に沿って流れる気流が第2側面誘導部によって上面誘導部へ誘導されるのを低減し、かつ、第1側面誘導部によって気流の向きを略水平方向へより多く誘導することによって、走行方向の車体後方における気流のはく離をより一層抑制することができる。
その結果、先頭部及び後尾部の気流はく離を抑制して、空気抵抗を更に一層低減させることができる。
【0013】
(4)(3)に記載された鉄道車両において、
前記第1側面誘導部は、車体側面に対して前後方向及び上下方向で略同一の溝深さに形成されたことを特徴とする。
【0014】
本発明においては、第1側面誘導部は、車体側面に対して前後方向及び上下方向で略同一の溝深さに形成されたので、第1側面誘導部によって誘導される気流の前後方向へ流れる流量を上下方向で均一化して、車体後方における気流のはく離を上下方向で略均一に抑制することができる。
その結果、先頭部及び後尾部の気流はく離を上下方向で略均一に抑制して、空気抵抗を更に一層低減させることができる。
【0015】
(5)(4)に記載された鉄道車両において、
前記先頭部及び前記後尾部の前記車体側面には、運転者用又は乗務員用の確認窓を備え、前記第1側面誘導部は、前記車体隅部から前記確認窓の間に形成されたことを特徴とする。
【0016】
本発明においては、先頭部及び後尾部の車体側面には、運転者用又は乗務員用の確認窓を備え、第1側面誘導部は、車体隅部から確認窓の間に形成されたので、第1側面誘導部のために運転者用又は乗務員用の確認窓の位置を後方へ変更する必要がなく、車両定員が減少することもない。
その結果、所定の車両定員を確保しつつ、先頭部及び後尾部の気流はく離を抑制して、空気抵抗を低減することができる。
【0017】
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載された鉄道車両において、
前記鉄道車両は、地下鉄トンネル内を走行する地下鉄車両であることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、鉄道車両は、地下鉄トンネル内を走行する地下鉄車両であるので、地下鉄トンネル内の高さ制約や、幅制約を満足させつつ、地下鉄トンネル内の走行時における先頭部及び後尾部の気流はく離を抑制して、空気抵抗を低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、車両高さを増加させることなく、先頭部及び後尾部の気流はく離を抑制して空気抵抗の低減を図ることが容易な鉄道車両を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態に係る鉄道車両について、図面を参照しながら詳細に説明する。はじめに、本実施形態に係る鉄道車両の先頭部及び後尾部における気流誘導部の外形形状について説明し、その後、本鉄道車両の走行時における気流の流れ状態と、走行方向後方における気流の速度ベクトルと、後尾部における気流の圧力分布とを説明する。また、本鉄道車両の空気抵抗係数の評価結果を説明する。
【0022】
<先頭部及び後尾部における気流誘導部の外形形状>
まず、本実施形態に係る鉄道車両の先頭部及び後尾部における気流誘導部の外形形状について、
図1〜
図5を用いて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る鉄道車両の模式的斜視図を示す。
図2に、
図1に示す先頭部の斜視外形線図を示す。
図3に、
図1に示す先頭部の正面外形線図を示す。
図4に、
図1に示す先頭部の部分側面図を示す。
図5に、
図1に示す側面誘導部の溝断面図を示す。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係る鉄道車両10は、車体端面1と車体上面2と車体側面3とを有する略直方体からなる車体Sを備えている。当該車体の先頭部SA及び後尾部SBには、車体端面1の上頭部11から、それぞれ車体上面2に向けて傾斜状に形成された上面誘導部4と、車体端面1と車体側面3とが交差する位置の車体隅部SCから、それぞれ車体側面3に向けて凹溝状に形成された側面誘導部5、6とを備えている。車体隅部SCは、断面円弧状に形成されている。側面誘導部5、6には、車体側面3の上下方向中央部に形成された第1側面誘導部5と、上面誘導部4の左右端に隣接して形成された第2側面誘導部6とを備えている。先頭部SAにおける上面誘導部4及び側面誘導部5、6と、後尾部SBにおける上面誘導部4及び側面誘導部5、6とは、それぞれ前後左右で対称に形成されている。ここでは、車体Sにおける基本的な外形形状を表すために、例えば、通常備えている窓枠等の形状を省略している。また、第1側面誘導部5、第2側面誘導部6には、その範囲を明確化するために、ドット表示している。また、車両の長手方向
をX軸で表示し、車両の幅方向をY軸で表示し、車両の高さ方向をZ軸で表示する。な
お、本図の鉄道車両10は、便宜上、1両編成の状態で示しているが、複数の車体Sを連
結した編成を含む。
【0024】
図2、
図3に示すように、車体Sの先頭部SAの外形形状を詳細に表示するため、等間隔に描いた番線が車体表面に表示されている。
図2には、X軸、Z軸に沿って等間隔に描いた番線が車体表面に表示され、
図3には、X軸に沿って等間隔に描いた番線が車体表面に表示されている。ここでは、車体Sの高さをZとし、高さZを、Z軸方向で20等分して下端から車体上面2に向けて番線を1/20Z、2/20Z、3/20Z・・・と順に表示している。また、車体端面1から所定位置(例えば、運転室後端)までの距離をXとし、距離XをX軸方向で10等分して車体端面1から後方に向けて番線を1/10X、2/10X、3/10X・・・と順に表示している。なお、第1側面誘導部5、第2側面誘導部6には、その範囲を明確化するために、ドット表示されている。
【0025】
第1側面誘導部5は、番線が約1/10X〜4/10Xかつ約3/20Z〜13/20Zの範囲内に形成されている。第1側面誘導部5の溝上端部51は、車体側面3の番線13/20Z付近から始まり、車体隅部SCへ向かうにつれて下方へ傾斜するように形成されている。また、第1側面誘導部5の溝下端部52は、車体側面3の番線4/20Z付近から始まり、溝上端部51と同程度の角度で車体側面3から車体隅部SCへ向かうにつれて下方へ傾斜するように形成されている。
【0026】
第2側面誘導部6は、番線が約1/10X〜Xかつ約17/20Z〜19/20Zの範囲内に形成されている。第2側面誘導部6の上端部61は、車体側面3の番線19/20Z付近から始まり、隅部SCへ向かうにつれて下方へ傾斜するように形成されている。また、第2側面誘導部6の下端部62は、水平状に形成されている。
【0027】
上面誘導部4は、車体端面1の番線17/20Z付近に位置する上頭部11から始まり、車体上面2へ向かうにつれて上方へ傾斜するように形成されている。上面誘導部4は、番線6/10X付近で車体上面2と交差するように形成されている。
【0028】
図4、
図5に示すように、上面誘導部4は、水平面に対して約25〜35度程度の傾斜角を有する平坦な傾斜面で形成され、車体Sの先頭部SA及び後尾部SBにおける運転者用又は乗務員用スペースの頭上に形成されている。そのため、上面誘導部4は、客室の天井スペースを狭めることなく形成することができる。また、先頭部SA及び後尾部SBの車体側面3には、運転者用又は乗務員用の確認窓34を備え、第1側面誘導部5は、車体端面1の両隅部SCから確認窓34の間に形成されている。そのため、第1側面誘導部5は、客室の側壁スペースを狭めることなく形成することができる。
【0029】
第1側面誘導部5の溝上端部51は、水平面に対して約20度程度の傾斜角を有し、第
2側面誘導部6の溝上端部61は、水平面に対して約17度程度の傾斜角を有して形成さ
れている。第2側面誘導部6は、車体端面1に近づくにつれて溝上端部61と溝下端部
62との距離が徐々に小さくなるように形成されている。
第1側面誘導部5の溝深さm1は、第2側面誘導部6の溝深さm2より大きく形成されている。第1側面誘導部5の溝深さm1は、前後方向及び上下方向で略同一の深さに形成されている。
【0030】
<走行時における気流の流れ状態>
次に、本鉄道車両における走行時における気流の流れ状態を、比較例1、2と対比しつつ、
図6〜
図8を用いて説明する。
図6に、
図1に示す鉄道車両に対する比較例1の模式的斜視図を示す。
図7に、
図1に示す鉄道車両に対する比較例2の模式的斜視図を示す。
図8に、
図1に示す鉄道車両の走行時における気流の流れ状態を、比較例1、2との対比で表す模式的側面図を示す。
【0031】
図6に示すように、比較例1の鉄道車両30は、車体端面31と車体上面32と車体側面33とを有する略直方体からなる車体S1を備えている。車体S1の先頭部SA及び後尾部SBは、車体端面31を垂直状に切り落として形成する切妻型の車体形状である。なお、車両の長手方向をX軸で表示し、車両の幅方向をY軸で表示し、車両の高さ方向をZ軸で表示し、比較例1の鉄道車両30における車体長さ、車体幅、及び車体高さは、本鉄道車両10における車体長さ、車体幅、及び車体高さと、それぞれ同一である。
【0032】
図7に示すように、比較例2の鉄道車両20は、車体端面21と車体上面22と車体側面23とを有する略直方体からなる車体S2を備えている。車体S2の先頭部SA及び後尾部SBには、車体端面21の上頭部211から、それぞれ車体上面22に向けて傾斜状に形成された上面誘導部24を備えている。上面誘導部24は、本鉄道車両10の上面誘導部4と同一形状に形成されている。なお、車両の長手方向をX軸で表示し、車両の幅方向をY軸で表示し、車両の高さ方向をZ軸で表示し、比較例2の鉄道車両20における車体長さ、車体幅、及び車体高さは、本鉄道車両10における車体長さ、車体幅、及び車体高さと、それぞれ同一である。
【0033】
図8(a)は、比較例1の鉄道車両30が矢印Fの方向へ走行したときの気流の流れを概念的に表示している。
図8(a)に示すように、車体端面31に衝突した気流K31は、車体端面31に沿って上方へ流れた後に、車体上面32の上方を円弧状に湾曲した先頭部湾曲気流K32を形成する。先頭部湾曲気流K32の後半では、先頭部湾曲気流K32からはく離する先頭部はく離気流K331が発生する。先頭部湾曲気流K32は、先頭部を通過すると、車体上面32に沿って流れる上面定常気流K33を形成する。上面定常気流K33が後尾部を通過すると、逆S字状に僅かに下方へ湾曲する後尾部湾曲気流K34、K35を形成する。この場合、後尾部湾曲気流K34、K35は、車体端面31の後方に引きずられる後尾部はく離気流K351を大きく形成する。
【0034】
また、
図8(b)は、比較例2の鉄道車両20が矢印Fの方向へ走行したときの気流の流れを概念的に表示している。
図8(b)に示すように、車体端面21に衝突した気流K21は、車体端面21に沿って上方へ流れた後に、先頭部に形成された上面誘導部24に沿って車体上面22へ流れる先頭部傾斜気流K22を形成する。先頭部傾斜気流K22は、上面誘導部24及び車体上面22に沿って流れるので、先頭部傾斜気流K22からはく離する先頭部はく離気流K221は、比較例1に比べて大きく減少する。先頭部傾斜気流K22は、先頭部を通過すると、車体上面22に沿って流れる上面定常気流K23を形成する。上面定常気流K23が後尾部を通過すると、後尾部に形成された上面誘導部24に沿って逆S字状に大きく下方へ湾曲する後尾部湾曲気流K24、K25を形成する。
【0035】
この場合、後尾部湾曲気流K24、K25は、逆S字状に大きく下方へ湾曲するので、車体端面31の後方に引きずられる後尾部はく離気流K251が、比較例1に比べて大きく減少する。ただし、車体側面23に沿って後方へ流れる側面気流K241が、後尾部において上面誘導部24に誘導されて上方へ湾曲して流れるので、後尾部はく離気流K251の減少を阻害する傾向がある。
【0036】
また、
図8(c)は、本鉄道車両10が矢印Fの方向へ走行したときの気流の流れを概念的に表示している。
図8(c)に示すように、車体端面1に衝突した気流K1は、車体端面1に沿って上方へ流れた後に、先頭部に形成された上面誘導部4に沿って車体上面2へ流れる先頭部傾斜気流K2を形成する。先頭部傾斜気流K2は、上面誘導部4及び車体上面2に沿って流れるので、先頭部傾斜気流K2からはく離する先頭部はく離気流K21は、比較例1に比べて大きく減少する。先頭部傾斜気流K2は、先頭部を通過すると、車体上面2に沿って流れる上面定常気流K3を形成する。上面定常気流K3が後尾部を通過すると、後尾部に形成された上面誘導部4に沿って逆S字状に大きく下方へ湾曲する後尾部湾曲気流K4、K5を形成する。
【0037】
この場合、後尾部湾曲気流K4、K5は、逆S字状に大きく下方へ湾曲するので、車体端面1の後方に引きずられる後尾部はく離気流K51が、比較例1に比べて大きく減少する。また、車体端面1に衝突した気流K1は、先頭部に形成された第1側面誘導部5、第2側面誘導部6によって水平方向へ整流される側面気流K11、K12を形成する。水平方向へ整流される側面気流K11、K12が、後尾部に形成された第1側面誘導部5、第2側面誘導部6によって更に水平方向の流れに整流されるので、上面誘導部4に誘導されて上方へ湾曲する気流の流れを低減させる。そのため、後尾部はく離気流K51を比較例2より更に減少させることができる。
【0038】
<走行方向後方における気流の速度ベクトル>
次に、本鉄道車両の走行方向後方における気流の速度ベクトルを、比較例2と対比しつつ、
図9、
図10を用いて説明する。
図9に、
図1に示す鉄道車両の走行方向後方における気流の速度ベクトル図を示す。
図10に、
図7に示す比較例2の走行方向後方における気流の速度ベクトル図を示す。
図9、
図10は、便宜上、いずれも車体の右半分を表示している。
【0039】
図9、
図10では、後尾部の車体端面1、21から後方へ所定距離だけ離間した地点のYZ面における気流の流れ(方向及び流速)を可視化するため、速度ベクトルを用いて表示している。ここで、実線の矢印で表示するV1、V3は、気流の流れが安定していて、気流がはく離していない領域を示している。一方、破線の矢印で表示するV2、V4は、気流の流れが不安定で、気流がはく離している領域を示している。
【0040】
図9に示すように、本鉄道車両10においては、後尾部の車体端面1から後方へ流れる気流の速度ベクトルV1が、車体隅部の上下方向中央部Qにおいて略水平方向を向き、車体の中心側へ均等に回り込む傾向がみられる。
これに対して、
図10に示すように、比較例2の鉄道車両20においては、後尾部の車体端面1から後方へ流れる気流の速度ベクトルV3が、車体隅部の上下方向中央部Qにおいて斜め上方向と斜め下方向とに分離して向き、特に車体隅部の上下方向中央部Qにおいて、車体の中心側へ回り込む傾向が少ない。
【0041】
その結果、本鉄道車両10においては、車体の中心側に存在する気流のはく離領域(速度ベクトルV2の領域)が、比較例2の鉄道車両20において車体の中心側に存在する気流のはく離領域(速度ベクトルV4の領域)より、小さく形成されていることを確認できる。これは、本鉄道車両10の先頭部SA及び後尾部SBに形成した側面誘導部5、6による気流の整流効果が大きいと推定できる。
【0042】
<後尾部における気流の圧力分布>
次に、本鉄道車両の後尾部における気流の圧力分布を、比較例2との対比しつつ、
図11、
図12を用いて説明する。
図11に、
図1に示す鉄道車両の後尾部における圧力分布図を示す。
図12に、
図7に示す比較例2の後尾部における圧力分布図を示す。
図11、
図12では、気流の圧力をP1〜P6まで、6段階に層別して表示している。圧力の高さは、P1>P2>P3>P4>P5>P6の順に層別されている。
【0043】
図11に示すように、本鉄道車両10においては、後尾部における高さ方向(Z方向)及び幅方向(Y方向)の中心付近に最も高い圧力P1の領域が高さ方向に長径を有する略長円状に形成され、圧力P1の領域の周囲に次に高い圧力P2の領域が略一定の幅で形成されている。また、圧力P2の領域は、車体隅部付近にも縦長に形成されている。また、圧力P3の領域は、車体端面の上頭部から下方で中心部(圧力P1、P2の領域)を除く車体隅部の圧力P2の領域に挟まれた範囲に形成されている。また、圧力P4、P5の領域は、主に車体端面の上頭部から上方の範囲に形成され、圧力P4の領域の方が、圧力P5の領域より大きく形成されている。また、最も低い圧力P6の領域が、車体側面に沿って幅狭く形成されている。
【0044】
これに対して、
図12に示すように、比較例2の鉄道車両20においては、後尾部における高さ方向(Z方向)及び幅方向(Y方向)の中心付近に最も高い圧力P1の領域が略真円状に形成され、圧力P1の領域の周囲に次に高い圧力P2の領域と圧力P3の領域とがそれぞれ略一定の幅で形成されている。また、圧力P3の領域は、車体隅部付近にも縦長に形成されている。また、圧力P4の領域は、車体端面の上頭部から下方で中心部(圧力P1、P2、P3の領域)を除く車体隅部の圧力P3の領域に挟まれた範囲に形成されている。また、圧力P4、P5の領域は、主に車体端面の上頭部から上方の範囲に形成され、圧力P5の領域の方が、圧力P4の領域より大きく形成されている。また、最も低い圧力P6の領域が、車体側面に沿って幅狭く形成されている。
【0045】
以上の圧力分布結果から、本鉄道車両10の後尾部における圧力は、比較例2の鉄道車両20の後尾部における圧力より全体的に高く形成されていることが明らかである。このように、本鉄道車両10の後尾部で全体的に圧力が高くなり、圧力回復が促進された理由は、
図9、
図10において説明したように、側面誘導部5、6によって気流の整流が促進され、後尾部における気流のはく離現象が低減されたことによる。後尾部において気流の圧力が回復したことは、すなわち進行方向に押す力が増加したことになるので、空気抵抗の低減に結びついている。
【0046】
<空気抵抗係数の評価結果>
次に、本鉄道車両における空気抵抗係数の評価結果を、
図13、
図14を用いて説明する。
図13に、
図1に示す鉄道車両及び比較例1、比較例2の空気抵抗係数の評価結果グラフを示す。
図14に、
図1に示す鉄道車両の地下鉄トンネル内における模式的正面図を示す。ここで、
図13に示す空気抵抗係数Tは、
図14に示す地下鉄トンネル8内を時速65kmで走行したときの計算結果である。
【0047】
図13に示すように、先頭部SA及び後尾部SBに上面誘導部24、4を備えた比較例2の鉄道車両20及び本鉄道車両10の空気抵抗係数T2、T3は、先頭部SA及び後尾部SBに上面誘導部を備えない比較例1の鉄道車両30の空気抵抗係数T1の半分以下に低減されている。また、先頭部SA及び後尾部SBに側面誘導部5、6を備えた本鉄道車両10の空気抵抗係数T3は、先頭部SA及び後尾部SBに側面誘導部を備えない比較例2の鉄道車両20の空気抵抗係数T2より更に低減されている。
【0048】
図14に示すように、地下鉄トンネル8は、トンネル中心TCに対してレール81が対称に2組配置された複線トンネルである。本鉄道車両10の下端から突出する車輪7が、レール81上を走行する。この地下鉄トンネル8は、本鉄道車両10の車体高さh、車体幅0.9hに対して、トンネル高さ1.4h、トンネル幅2.6hの矩形断面に形成されている。また、本鉄道車両10は、トンネル中心TCから0.6h離れた位置を走行する。そのため、車体上面2と地下鉄トンネル8の天井壁との隙間が、0.2hとなり、車体側面3と地下鉄トンネル8の側壁との隙間が、0.25hとなる。また、地下鉄トンネル8の横断面積に対する車体の横断面積比は、0.25程度である。
【0049】
このように、先頭部SA及び後尾部SBに上面誘導部4及び側面誘導部5、6を備えた本鉄道車両10は、地下鉄トンネル8の天井壁及び側壁と車体との隙間が、車体高さの20〜25%程度の狭い空間を走行する場合においても、先頭部SA及び後尾部SBにおける気流の流れを上面誘導部4及び側面誘導部5、6が整流することによって、気流のはく離を抑制して、空気抵抗の低減を図ることができた。
【0050】
<作用効果>
以上、詳細に説明した本実施形態に係る鉄道車両10によれば、気流誘導部は、先頭部SA及び後尾部SBにおける車体端面1の上頭部11から、それぞれ車体上面2に向けて傾斜状に形成された上面誘導部4を備えたので、鉄道車両10の走行方向にかかわらず、走行前方から車体端面1に衝突する気流K1を上面誘導部4に沿って車体上面2に誘導し、車体上面2における気流のはく離を抑制することができる。
また、上面誘導部4は、先頭部SA及び後尾部SBにおける車体端面1の上頭部11から、それぞれ車体上面2に向けて傾斜状に形成されたので、上面誘導部4によって車体高さhを増加させることはない。
また、気流誘導部は、先頭部SA及び後尾部SBにおける車体隅部SCから、それぞれ車体側面3に向けて凹溝状に形成された側面誘導部5、6を備えたので、鉄道車両10の走行方向にかかわらず、走行方向の車体後方へ流れる気流を側面誘導部5、6に沿って車体後方に誘導し、車体後方における気流のはく離を抑制することができる。
よって、車両高さhを増加させることなく、先頭部SA及び後尾部SBの気流はく離を抑制して空気抵抗の低減を図ることが容易な鉄道車両10を提供することができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、側面誘導部5、6は、溝上端部51、61が車体側面3から車体隅部SCへ向かうにつれて下方へ傾斜するように形成されたので、走行方向の後方へ車体側面3に沿って流れる気流が上面誘導部4によって上方へ誘導されるのを低減し、気流の向きを略水平方向へ誘導することによって、走行方向の車体後方における気流のはく離をより一層抑制することができる。
その結果、先頭部SA及び後尾部SBの気流はく離を抑制して、空気抵抗を更に低減させることができる。
【0052】
また、本実施形態によれば、側面誘導部には、車体側面3の上下方向中央部に形成された第1側面誘導部5と、上面誘導部4の左右端に隣接して形成された第2側面誘導部6とを備えたので、走行方向の後方へ車体側面3に沿って流れる気流が第2側面誘導部6によって上面誘導部4へ誘導されるのを低減し、かつ、第1側面誘導部5によって気流の向きを略水平方向へより多く誘導することによって、走行方向の車体後方における気流のはく離をより一層抑制することができる。
その結果、先頭部SA及び後尾部SBの気流はく離を抑制して、空気抵抗を更に一層低減させることができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、第1側面誘導部5は、車体側面3に対して前後方向及び上下方向で略同一の溝深さに形成されたので、第1側面誘導部5によって誘導される気流の前後方向へ流れる流量を上下方向で均一化して、車体後方における気流のはく離を上下方向で略均一に抑制することができる。
その結果、先頭部SA及び後尾部SBの気流はく離を上下方向で略均一に抑制して、空気抵抗を更に一層低減させることができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、先頭部SA及び後尾部SBの車体側面3には、運転者用又は乗務員用の確認窓34を備え、第1側面誘導部5は、車体隅部SCから確認窓34の間に形成されたので、第1側面誘導部5のために運転者用又は乗務員用の確認窓34の位置を後方へ変更する必要がなく、車両定員が減少することもない。
その結果、所定の車両定員を確保しつつ、先頭部SA及び後尾部SBの気流はく離を抑制して、空気抵抗を低減することができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、鉄道車両10は、地下鉄トンネル8内を走行する地下鉄車両であるので、地下鉄トンネル8内の高さ制約や、幅制約を満足させつつ、地下鉄トンネル内の走行時における先頭部SA及び後尾部SBの気流はく離を抑制して、空気抵抗を低減することができる。
【0056】
以上、本発明の鉄道車両に係る実施形態を詳細に説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、本実施形態では、側面誘導部5、6が第1側面誘導部5と第2側面誘導部6とに分離して別々に形成されているが、一体に形成してもよい。
(1)略直方体からなる車体の先頭部及び後尾部に形成された気流誘導部を備えた鉄道車両であって、 前記気流誘導部は、前記先頭部及び前記後尾部における車体端面の上頭部から、それぞれ車体上面に向けて傾斜状に形成された上面誘導部と、前記先頭部及び前記後尾部における車体隅部から、それぞれ車体側面に向けて凹溝状に形成された側面誘導部とを備えたこと