【実施例】
【0063】
腫瘍治療及び予防における、OK−432、IFN−α又はIFN−γと、HDAC阻害剤との併用による顕著な腫瘍治療・予防効果を明らかにした。本実施例においては、本発明が治療対象とする腫瘍の例として、発症機序の異なるヒト悪性中皮腫及びヒト腎細胞癌を用いた。また、本実施例においては、OK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するHDAC阻害剤の例として、OBP−801及びSAHAを用いた。
【0064】
<材料と方法>
〔1.細胞〕
ヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞、及び、ヒト腎細胞癌細胞株の786−O細胞は、American Type Culture Collection(ATCC),(マナサス,バージニア州,米国)より入手されたものを使用した。
【0065】
211H細胞は、10% FBS(Gibco(登録商標),ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社)及び100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Gibco(登録商標),ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社)を添加したRPMI1640(シグマアルドリッチ,セントルイス,ミズーリ州,米国)培地中で、37℃、5%CO
2条件下で培養した。786−O細胞は、10%FBS、2mMグルタミン、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを添加したRPMI1640培地中で、37℃、5%CO
2条件下で培養し維持した。
【0066】
〔2.試薬〕
OBP−801は、オンコリスバイオファーマ株式会社(東京、日本)から供給された。SAHAは、バイオモル リサーチ ラボラトリーズ(プリマス ミーティング,ペンシルベニア州,米国)より購入した。OK−432は、中外製薬株式会社(東京、日本)から供与された。IFN−αは、大日本住友製薬(日本)よりスミフェロンを購入した。IFN−γは、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(マンハイム、ドイツ)よりhIFN−γ(product no.11040596001)を購入した。N−アセチル−L−システイン(NAC)は、ナカライテスク(日本)から購入した。パンカスパーゼ阻害剤 zVAD−fmkは、R&D システムズ(ミネアポリス,ミネソタ州,米国)から購入した。
【0067】
〔3.共培養試験〕
実験前日に、211H細胞は4×10
4cells/ml/well、786−O細胞は1×10
4cells/ml/wellにて、Falcon(登録商標)12ウェルプレート(コーニングインターナショナル株式会社)に播種した。
【0068】
翌日、ヒト血液を60ml採血し、血球分離溶液Lymphoprep
TM(AXIS−SHIELD PoC AS,オスロ,ノルウェー)を用いることによりPBMC(末梢血単核球)を分離し、採取した。採取したPBMCは、40mlのRPMI培地に再懸濁した。
【0069】
細胞を播種した上記の12ウェルプレートにBD Falcon 0.4μm セルカルチャーインサート(コーニングインターナショナル株式会社)を挿入し、211H細胞のウェル上のセルカルチャーインサート上層には、PBMCを4×10
6cells/ml/wellとなるように、786−O細胞のウェル上のセルカルチャーインサート上層には、PBMCを2×10
6cells/ml/wellとなるように添加して、共培養した。さらに、抗酸化剤のN−アセチル−L-システイン(NAC)を5mM、パンカスパーゼ阻害剤zVAD−fmk(zVAD)を100μMにて、添加したものも用意した。
【0070】
共培養開始1時間後、
図10のように、セルカルチャーインサート下層(細胞側)にOBP−801を10、20又は30nM添加し、セルカルチャーインサート上層(PBMC側)には、OK-432を0.1KE/ml、IFN−αを10000U/ml、又は、IFN−γを250U/ml(786−O細胞の実験系の場合)又は1000U/ml(211H細胞の実験系の場合)添加し、さらに共培養した。そして24時間後又は48時間後にセルカルチャーインサート及び培養上清を取り除き、211H細胞又は786−O細胞を回収した。
【0071】
〔4.細胞周期及びアポトーシスの解析〕
回収した211H細胞又は786−O細胞は、0.1%TritonX−100で固定し透過処理した後、細胞の核をヨウ化プロピジウム(PI)にて染色した。染色処理した細胞のDNA量をFACSCalibur
TMフローサイトメーター(ベクトン−ディッキンソン,フランクリン レイクス,ニュージャージー州,米国)にて測定した。そして、測定結果をModFit LT
TM(ベリティー ソフトウェア ハウス,トップシャム、メイン州,米国)及びCell Quest
TM software package(ベクトン−ディッキンソン)により解析し、Sub−G1期の細胞の割合を算出し、211H細胞又は786−O細胞の細胞周期、及び、211H細胞又は786−O細胞に対するアポトーシスの誘導状況を検証した。
【0072】
〔5.細胞生存率試験〕
細胞生存率は、Cell Counting Kit−8(株式会社同仁化学研究所、日本)を用い、マルチウェルスペクトロフォトメーター Viento(DSファーマバイオメディカル、日本)で波長450nmにて測定し、決定した。さらに、生存細胞数及び細胞生存率を、Guava PCAシリーズ(Merck Millipore,Merck KGaA,ドイツ)にて測定し、解析ソフトウェアのViaCountにて処理し、決定した。いずれも、211H細胞を96ウェルプレートに1×10
3cells/0.1ml/wellにて播種し、翌日、所定の各濃度のOBP−801及びSAHAを添加し、72時間後に測定を行った。
【0073】
<結果>
〔実施例1:OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である悪性中皮腫細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0074】
OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞としてヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、OK−432とOBP−801とを併用処理し、回収した211H細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合を解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、OK−432は0.1KE/mlの濃度にて処理した。
【0075】
その結果、211H細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてOK−432を単剤で24時間にわたり処理しても十分なアポトーシス誘導は確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とOK−432とを24時間併用処理すると、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されることを見出した(
図1(a))。OBP−801とOK−432の併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0076】
さらに、211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とOK−432とを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合が70%近くと、相乗的なアポトーシス誘導効果がさらに高いものとなり、より顕著な抗腫瘍効果が発揮されることを見出した(
図1(b))。
【0077】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、悪性中皮腫に対抗するため、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、OK−432(免疫を惹起する薬剤)とを併用すると、悪性中皮腫に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られることが理解できる。
【0078】
さらに、OBP−801とOK−432とを、単剤では十分な効果が発揮されないような濃度において併用することで、併用処理後24時間という短時間であっても、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じることから、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、OBP−801とOK−432との併用は、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な、新たな治療・予防手段を提供することが可能となったことが理解できる。
【0079】
さらに、上記211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とOK−432との併用処理する試験系に、さらに、パンカスパーゼ阻害剤zVAD又は抗酸化剤NACを併用処理してみたところ、上記で確認されたアポトーシス誘導効果は、共にほぼ抑制された。OBP−801とOK−432との併用処理による相乗的なアポトーシス誘導効果は、活性酸素種によって活性化するカスパーゼ・カスケードを介した経路が関連する可能性が示唆された。
【0080】
〔実施例2:IFN−αを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である悪性中皮腫細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0081】
IFN−αを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞としてヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、IFN−αとOBP−801とを併用処理し、回収した211H細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合を解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、IFN−αは10000U/mlの濃度にて処理した。
【0082】
その結果、211H細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてIFN−αを単剤で24時間にわたり処理しても有意なアポトーシス誘導は確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とIFN−αとを24時間併用処理すると、アポトーシス誘導効果が有意に高まるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(
図2(a))。さらに、211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とIFN−αとを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合が45%近くと、アポトーシス誘導効果がさらに有意に高いものとなり、顕著な抗腫瘍効果が発揮されることを見出した(
図2(b))。
【0083】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、悪性中皮腫に対抗するため、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、IFN−α(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理すると、予想外の、悪性中皮腫に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。OBP−801とIFN−αの併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0084】
さらに、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、OBP−801とIFN−αとを、単剤では効果が発揮されないような濃度において併用することで、併用処理後24時間という短時間であっても、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じることは、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な、新たな治療・予防手段を提供することが可能となったことが理解できる。
【0085】
さらに、上記211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とIFN−αとの併用処理する試験系に、さらに、パンカスパーゼ阻害剤zVAD又は抗酸化剤NACを併用処理してみたところ、上記で確認されたアポトーシス誘導効果は、共にほぼ抑制された。OBP−801とIFN−αとの併用処理による相乗的なアポトーシス誘導効果は、活性酸素種によって活性化するカスパーゼ・カスケードを介した経路が関連し、OBP−801とOK−432との併用処理の場合と同様の、共通した作用機序によるものである可能性が示唆された。
【0086】
〔実施例3:IFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である悪性中皮腫細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0087】
IFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞としてヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、IFN−γとOBP−801とを併用処理し、回収した211H細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合を解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、IFN−γは1000U/mlの濃度にて処理した。
【0088】
その結果、211H細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてIFN−γを単剤で24時間にわたり処理しても有意なアポトーシス誘導は確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とIFN−γとを24時間併用処理すると、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(
図3(a))。OBP−801とIFN−γの併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0089】
さらに、211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とIFN−γとを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合が60%近くと、アポトーシス誘導効果がさらに高いものとなり、より顕著な抗腫瘍効果が発揮されることを見出した(
図3(b))。
【0090】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、IFN−γ(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理すると、悪性中皮腫細胞に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。
【0091】
さらに、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、OBP−801とIFN−γとを、単剤では十分な効果が発揮されないような濃度において併用することで、併用処理後24時間という短時間であっても、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じることは、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な治療・予防手段を提供することができることが理解される。
【0092】
さらに、上記211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とIFN−γとの併用処理する試験系に、さらに、パンカスパーゼ阻害剤zVAD又は抗酸化剤NACを併用処理してみたところ、上記で確認されたアポトーシス誘導効果は、共にほぼ抑制された。OBP−801とIFN−γとの併用処理による相乗的なアポトーシス誘導効果は、活性酸素種によって活性化するカスパーゼ・カスケードを介した経路が関連し、OBP−801とOK−432との併用処理、及び、OBP−801とIFN−αの場合と同様の、共通した作用機序によるものである可能性が示唆された。
【0093】
〔実施例4:OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である腎細胞癌細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0094】
OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞として、ヒト中皮腫とは発症機序が異なる、ヒト腎細胞癌細胞株の786−O細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、OK−432とOBP−801とを併用処理し、回収した786−O細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合の解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、20nM又は30nM、OK−432は0.1KE/mlの濃度にて処理した。
【0095】
その結果、786−O細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてOK−432を単剤処理してもアポトーシス誘導は僅かしか確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とOK−432とを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合がOBP−801が10nMで50%強、20nMで85%近く、30nMで90%近くと、相乗的な、大変顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(
図4(a)、
図4(b)及び
図4(c))。OBP−801とOK−432との併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い抗腫瘍効果による治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0096】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、OK−432(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理することで、腎細胞癌に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。そして、OBP−801とOK−432とを、単剤では十分な効果が発揮されないような濃度において併用することで、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じさせることは、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な治療・予防手段を提供することができることが理解される。
【0097】
〔実施例5:IFN−αを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である腎細胞癌細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0098】
IFN−αを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞として、ヒト中皮腫とは発症機序が異なる、ヒト腎細胞癌細胞株の786−O細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、IFN−αとOBP−801とを併用処理し、回収した786−O細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合の解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、20nM又は30nM、IFN−αは10000U/mlの濃度にて処理した。
【0099】
その結果、786−O細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてIFN−αを単剤処理してもアポトーシス誘導は僅かしか確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とIFN−αとを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合がOBP−801が10nMで40%近く、20nM及び30nMで70%近くと、相乗的な、大変顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(
図5(a)、
図5(b)及び
図5(c))。OBP−801とIFN−αとの併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い抗腫瘍効果による治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0100】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、IFN−α(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理することで、腎細胞癌に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。そして、OBP−801とIFN−αとを、単剤では効果が発揮されないような濃度において併用することで、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じさせることは、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な治療・予防手段を提供することができることが理解される。
【0101】
〔実施例6:IFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である腎細胞癌細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0102】
IFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞として、ヒト中皮腫とは発症機序が異なる、ヒト腎細胞癌細胞株の786−O細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、IFN−γとOBP−801とを併用処理し、回収した786−O細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合の解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、20nM又は30nM、IFN−γは250U/mlの濃度にて処理した。
【0103】
その結果、786−O細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてIFN−γを単剤処理してもアポトーシス誘導は僅かしか確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とIFN−γとを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合がOBP−801が10nMで30%強、20nMで55%近く及び30nMで70%近くと、相乗的な、大変顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(
図6(a)、
図6(b)及び
図6(c))。OBP−801とIFN−γとの併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い抗腫瘍効果による治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0104】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、IFN−γ(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理することで、腎細胞癌に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。そして、OBP−801とIFN−γとを、単剤では十分な効果が発揮されないような濃度において併用することで、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じさせることは、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な治療・予防手段を提供することができることが理解される。
【0105】
〔実施例7:OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801又はSAHAと併用処理することによる、腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0106】
OK−432、IFN−α又はIFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用することで、腫瘍細胞に対する相乗的な顕著なアポトーシス誘導効果すなわち抗腫瘍効果を発揮することが明らかとなった。そこで、上記の併用によるアポトーシス誘導効果すなわち抗腫瘍効果が、OBP−801とは基本的な構造が異なる他のHDAC阻害剤を用いることによっても、同様に得られるものであるのか、OBP−801を置き換えるHDAC阻害剤として、SAHAを用いて検討を行った。
【0107】
まず、211H細胞を用いて、OBP−801とSAHAの各薬剤の単独処理により、細胞増殖に与える影響を確認するための細胞生存率試験を行い、同等の細胞傷害性を発揮する薬効濃度を算出した。
【0108】
211H細胞を96ウェルプレートに1×10
3cells/0.1ml/wellにて播種し、翌日、所定の各濃度のOBP−801及びSAHAを添加し、72時間後に測定を行った。細胞生存率は、Cell Counting Kit−8を用い、マルチウェルスペクトロフォトメーター Vientoで波長450nmにて測定し、算出した。さらに、生存細胞数及び細胞生存率を、Guava PCAシリーズにて測定し、解析ソフトウェアのViaCountにて処理し、算出した。
【0109】
その結果、211H細胞の増殖に対して、OBP−801は12.5nM、SAHAは1.25μMの濃度で処理することで、同等の影響を及ぼすことが示された(
図7(a)、
図7(b)、
図8(a)、
図8(b)、
図8(c)及び
図8(d))。
【0110】
次に、腫瘍細胞としてヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、OK−432又はSAHAと、OBP−801とを併用処理し、回収した211H細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合の解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、12.5nM及び30nM、SAHAは、0.75μM、1.00μM及び1.25μM、OK−432は0.1KE/mlの濃度にて処理した。
【0111】
その結果、211H細胞に対し、SAHAは単剤で24時間にわたり単剤処理してもアポトーシス誘導は僅かしか確認されなかった。しかし、SAHAを、単独では十分な薬効を生じさせない各濃度にてOK−432とを併用処理すると、予想外にも、相乗的なアポトーシス誘導が生じ、さらに、それがSAHA単独では十分な薬効を生じさせない各濃度において、濃度依存的に高まるという、予想外の効果が発揮されることを見出した(
図9)。
【0112】
さらに、OBP−801とSAHAとが同等の細胞傷害性を発揮する薬効濃度で検討すると、すなわち、OBP−801が12.5nM、SAHAが1.25μMで検討すると、OBP−801は、SAHAに比べ、OK−432と併用処理することにより、アポトーシスを生じた細胞の割合が1.5倍近くに増加し、相乗的なアポトーシス誘導の程度がより顕著に高くなることを見出した(
図9)。
【0113】
上記の結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、悪性中皮腫などの腫瘍に対抗するため、HDAC阻害剤であるOBP−801のみならず、OBP−801とは基本的な構造が異なるSAHAのような他のHDAC阻害剤を、OK−432、IFN−α及びIFN−γなどの免疫を惹起する薬剤と併用しても、OBP−801での場合と同様に、悪性中皮腫に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られることが理解できる。
【0114】
また、HDAC阻害剤が低濃度であってもOK−432、IFN−α及びIFN−γとの併用による相乗的な抗腫瘍効果により薬効を発揮させることが可能となったことから、HDAC阻害剤の濃度を高めることにより生じる免疫抑制を含む腫瘍治療における望ましくない作用を生じさせることなく、患者の腫瘍治療・予防の処置を進めることが可能となる新たな治療・予防手段を提供することが可能になった。
【0115】
そして、HDAC阻害剤とOK−432、IFN−α又はIFN−γという免疫を惹起する薬剤との併用により得られる相乗的な、顕著な抗腫瘍効果は、HDAC阻害剤としてSAHAを用いる場合よりもOBP−801を用いる場合の方がより高く、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、OBP−801とOK−432、IFN−α又はIFN−γの併用は、より有用な、新たな腫瘍の治療・予防手段を提供するものであることが理解できる。