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特開2016-113379分子標的薬を用いる腫瘍治療及び予防用併用薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-113379(P2016-113379A)
(43)【公開日】2016年6月23日
(54)【発明の名称】分子標的薬を用いる腫瘍治療及び予防用併用薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20160527BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20160527BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20160527BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20160527BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160527BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160527BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61K35/74 A
   A61K37/66 G
   A61P35/00
   A61K37/02
   A61P43/00 121
   A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-251133(P2014-251133)
(22)【出願日】2014年12月11日
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(71)【出願人】
【識別番号】504366165
【氏名又は名称】オンコリスバイオファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134131
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 知理
(74)【代理人】
【識別番号】100185258
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 宏理
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敏行
(72)【発明者】
【氏名】友杉 真野
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA14
4C084BA26
4C084BA44
4C084DA22
4C084DA24
4C084MA02
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC202
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC63
4C087CA09
4C087MA02
4C087NA05
4C087ZB26
4C087ZC75
(57)【要約】
【課題】腫瘍を治療及び予防するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】OK−432、IFN−αまたはIFN−γと、OBP−801などのHDAC阻害剤とを有効成分として含む、腫瘍の治療及び予防用医薬組成物、OK−432、IFN−α又はIFN−γを有効成分として含む、OBP−801などのHDAC阻害剤と併用するための、腫瘍の治療及び予防用医薬組成物、及び、OBP−801などのHDAC阻害剤を有効成分として含む、OK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するための、腫瘍の治療及び予防用医薬組成物、及び、腫瘍の治療及び予防用医薬及び該医薬のキットが開示される。OK−432、IFN−α又はIFN−γと、OBP−801などのHDAC阻害剤との併用により、高いアポトーシス誘導効果が得られ、腫瘍が治療及び予防される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを有効成分として含有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項2】
OBP−801と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを有効成分として含有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項3】
HDAC阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、OK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項4】
OBP−801を有効成分として含有することを特徴とする、OK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項5】
OK−432、IFN−α又はIFN−γを有効成分として含有することを特徴とする、HDAC阻害剤と併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項6】
OK−432、IFN−α又はIFN−γを有効成分として含有することを特徴とする、OBP−801と併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項7】
前記腫瘍が、悪性中皮腫、腎臓癌又は腎細胞癌であることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物。
【請求項8】
OK−432、IFN−α又はIFN−γを含有する医薬組成物、及び、HDAC阻害剤を含有する医薬組成物とからなる、HDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬、及び、腫瘍治療用及び予防用医薬のキット。
【請求項9】
OK−432、IFN−α又はIFN−γを含有する医薬組成物、及び、OBP−801を含有する医薬組成物とからなる、OBP−801と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬、及び、腫瘍治療用及び予防用医薬のキット。
【請求項10】
前記腫瘍が、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌であることを特徴とする、請求項8又は請求項9に記載の腫瘍治療用及び予防用医薬、及び、腫瘍治療用及び予防用医薬のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子標的薬を用いる腫瘍治療及び予防用併用薬に関するものであって、悪性の腫瘍を治療及び予防の対象とし、特に、悪性中皮腫、腎細胞癌及び腎臓癌を治療及び予防対象とするものである。
【背景技術】
【0002】
癌などの悪性の腫瘍は、疾患を原因とする主要な死因の一つである。
【0003】
たとえば、悪性中皮腫は、胸膜または腹膜に発生する悪性腫瘍であり、胸膜内局所進行例が多く、胸水や腫瘍増殖による呼吸不全症状が生じるとともに、症状の進行が早く死に至ることが知られている。そして、近年、アスベスト曝露歴を有する者において悪性中皮腫が多く発生するなどにより、その患者数が世界中で急増している。また、腎細胞癌は、成人悪性腫瘍の2〜3%を占め、世界中で年間10万人以上の患者が死に至っている。
【0004】
悪性の腫瘍に対しては、現在、手術療法、放射線療法、化学療法、免疫療法を始めとする様々な治療方法が試みられている。中でも化学療法については、様々な化学療法剤が創出され、従来より治療のため、高い薬理活性を有するものが利用されている。しかしながら十分な治療成績を達成するに至っておらず、悪性の腫瘍に起因する死を回避できる効果的な治療方法は、未だ確立されていない。
【0005】
たとえば、悪性中皮腫に対する治療法としては、手術、放射線療法及び化学療法が行われている。しかし、悪性中皮腫は病状の進行が早く、予後も不良であり、上記の治療法を試みるも、十分な治療効果は得られていない。
【0006】
また、悪性中皮腫に対する治療法としては、インターフェロン(IFN)−α、IFN−γ及びOK−432(ピシバニール、Streptococcus pyogenes(A群3型)Su株のペニシリン処理凍結乾燥粉末)を用いた免疫療法も行われている。これらは、悪性中皮腫に対する免疫を惹起する効果を期待するものであるとともに、IFN−αやIFN−γの投与は、IFN−γの腫瘍抑制作用や、中皮腫細胞からのサイトカイン産生抑制を介した全身症状の改善、炎症の抑制や悪性胸水のコントロールにより、悪性中皮腫に起因する症状を緩和する効果を期待するものであり、また、OK−432の胸腔内への注入は、胸膜を癒着させ胸腔を閉鎖することで悪性中皮腫による悪性胸水をコントロールし、悪性中皮腫に起因する各種症状を緩和する効果を期待するものである(非特許文献1、2、3参照)。しかしながら、いずれの療法も、悪性中皮腫を治癒し、死を回避することができる程度に十分な治療手段とはなっていない。このほか、IFN−α及びIFN−γは、免疫療法として腎癌へ適用を試みられるものの、治癒を志向した標準療法に至るまでにはなっておらず、また、OK−432は、その投与により腎臓癌や腎細胞癌の治療をなし得るものであるとする報告はない。
【0007】
さらに、悪性の腫瘍に対する抗腫瘍効果を期待した様々な分子標的薬の開発が行われ、マルチチロシンキナーゼ阻害薬のソラフェニブ及びスニチニブ、又は、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質 (mTOR)阻害薬のエベロリムス及びテムシロリムスなどの分子標的薬が開発されている。しかし、いずれも薬剤耐性が発生し、その解決が治療上の課題となっている(非特許文献4〜6参照。)。
【0008】
このように、悪性の腫瘍による死を回避するために様々な試みがなされているものの、十分な成果があがっているとはいえず、依然として、臨床成績を改善するための新たな治療・予防戦略の開発と該戦略に基づく新たな治療・予防薬の開発が強く求められている。
【0009】
ところで、悪性腫瘍を有する患者は、体内の免疫が抑制された状態になっており、抗がん剤や放射線などを用いた悪性腫瘍の標準治療の効果を高めるためには、患者体内で起きている免疫抑制状態を解除し、体の中に元々ある悪性腫瘍を攻撃する免疫細胞の機能を回復させる必要があると認識されている。そして、当該認識に基づき、免疫反応を抑制する働きがある分子を標的とした阻害薬を悪性の腫瘍を有する患者に投与することで、患者における免疫抑制状態を解除し、免疫細胞のがんに対する攻撃力を回復させる治療法が開発されており、また、既に臨床において適用されている医薬もある(非特許文献7参照)。
【0010】
一方、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は、p53変異を有する悪性腫瘍細胞に対して、生長阻害、細胞分化及びアポトーシスを誘導するなどの抗腫瘍活性を有することが報告された分子標的薬であり、SAHA/ボリノスタット、ロミデプシン、トリコスタチンAなどが知られている。本発明者らも、上記活性を示す新規なHDAC阻害剤として、OBP−801/YM753(スピルコスタチンA)を見出している(非特許文献8、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0011】
他方、HDAC阻害剤は、免疫抑制効果を有することも知られている(非特許文献9(第945ページ左欄など)参照)。そして、そのようなHDAC阻害剤を免疫抑制剤として使用する試みもあり、その強力な免疫抑制作用により、臓器移植片拒絶や自己免疫疾患の治療剤及び予防剤としての効果を示すことが見出されている(非特許文献10〜13参照)。
【0012】
そのため、上記のように免疫抑制状態を解除する必要性が知られている悪性の腫瘍の治療のために、HDAC阻害剤を医薬として処方することには、困難が生じる。
【0013】
そして、免疫担当細胞の増殖性腫瘍である皮膚T細胞性リンパ腫を対象としたSAHA及びロミデプシンを有効成分とする医薬が承認された一部の例を除き、HDAC阻害剤を有効成分とする医薬が、患者に投与することで悪性中皮腫や腎細胞癌などを含む腫瘍全般への臨床上の治療有効性を示し、腫瘍治療薬として承認されたとの報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第3554707号公報
【特許文献2】特開2001−348340号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Monti G,et al.,Cancer Res.,1994,54(16),p.4419-4423
【非特許文献2】Bielefeldt-Ohmann H,et al.,Cancer Immunol Immunother.,1995, 40(4), p.241-250
【非特許文献3】蝶名林直彦,他.,呼吸, 2000, 19(6), p.587-592
【非特許文献4】Mahalingam D, et al.,Clin Cancer Res.,2010,16(1),p.141-153
【非特許文献5】Carew JS, et al.,PLoS One,2012,7(1),e31120
【非特許文献6】Sosman JA, et al.,Clin Cancer Res.,2007,13(2 Pt 2),p.764s-769s
【非特許文献7】柴田昌彦,ライフライン21 がんの先進医療,2013,10,p.40-43
【非特許文献8】Shindoh N, et al.,Int J Oncol.,2008,32(3),p.545-555
【非特許文献9】Dinarello CA,Cell,140(6),p.935-950
【非特許文献10】Gupta K, et al.,Cancer Treatment Rev.,2008,34(3),p.193-205
【非特許文献11】Marks PA, et al.,J Natl Cancer Inst.,2000,92(15),p.1210-1216
【非特許文献12】Koyama M, et al.,Clin Cancer Res.,2010,16(8),p.2320-2332
【非特許文献13】Hirose T, et al.,Oncogene,2003,22(49),p.7762-7773
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明が解決しようとする課題は、悪性の腫瘍、特に悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌を治療及び予防することができる、新たな治療薬並びに治療戦略を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述したように、本発明者らは、悪性の腫瘍、特に悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌に対する、合理的かつ有効性の高い新規な治療戦略の確立を目指し、新規及び既存の分子標的医薬化合物を用いた評価を進めていた。そして、それら医薬化合物による悪性腫瘍に対する作用効果の検討において、上述の免疫抑制効果を有することが知られるHDAC阻害剤と、HDACとは異なる標的を志向する医薬であって免疫療法に用いられることが知られるIFN−α、IFN−γ及びOK−432を用いたところ、意外にも、上述のような免疫賦活作用において相反することが知られるHDAC阻害剤と、IFN−α、IFN−γ又はOK−432とを併用した群において、悪性の腫瘍である悪性中皮腫に対する想定外の強いアポトーシス誘導効果が生じることを発見した。
【0018】
そこで、上記で発見した想定外の強いアポトーシス誘導効果について詳細な検討を行うことで、免疫抑制効果が知られているHDAC阻害剤と、免疫療法に用いることが知られるIFN−α、IFN−γ又はOK−432は、各々単剤では作用が不十分であるが、それらを併用することで、大変興味深くまた予想外にも、相乗的な悪性中皮腫に対するアポトーシス誘導効果を発揮させることができるという、腫瘍治療に対する大変に興味深い新たな知見を得ることに成功した。
【0019】
さらに、上記で確認された新たな知見である、単剤では効果が不十分な、免疫抑制効果が知られているHDAC阻害剤と、免疫療法に用いることが知られるIFN−α、IFN−γ又はOK−432とを、それぞれ併用することによる相乗的なアポトーシス誘導効果が、腫瘍化の機序が中皮腫とは異なる他の悪性の腫瘍に対しても同様に発揮されるものであるか、その一例として中皮腫とは異なるタイプの腫瘍である腎細胞癌において検討し、上記同様に、相乗的なアポトーシス誘導効果が発揮されるという新たな知見を得ることに成功した。
【0020】
そして、単剤では効果が不十分な、免疫抑制効果が知られているHDAC阻害剤と免疫療法に用いることが知られるIFN−α、IFN−γ又はOK−432との併用は、腫瘍に対して相乗的な、アポトーシス誘導効果を発揮させ、新たな治療戦略に基づく、有効性の高い、悪性腫瘍の治療用薬及び予防用医薬の発明となることを確認した。
【0021】
さらに、HDAC阻害剤として、本発明者らが見出した従来とは骨格が異なるHDAC阻害剤であるOBP−801を用いる場合には、それを免疫療法剤のIFN−α、IFN−γ又はOK−432と併用することにより、他のHDAC阻害剤を用いる場合に比して、より顕著なアポトーシス誘導における相乗的効果を奏するものであることを見出し、有効性の高い、新たな治療戦略に基づく新規な悪性の腫瘍の治療用薬及び予防用医薬の発明となることを確認した。
【0022】
本発明は、腫瘍、特に悪性中皮腫、腎臓癌並びに腎細胞癌の治療及び予防を可能とするため、分子標的薬であるOBP−801などのHDAC阻害剤と、免疫療法剤のOK−432、IFN−αもしくはIFN−γとを医薬の有効成分として併用するものとする点を、最も主要な特徴とする。
【0023】
そして、上記の課題を解決するための本発明の第1の手段は、HDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを有効成分として含有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0024】
上記の課題を解決するための本発明の第2の手段は、OBP−801と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを有効成分として含有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0025】
上記の課題を解決するための本発明の第3の手段は、HDAC阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、OK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0026】
上記の課題を解決するための本発明の第4の手段は、OBP−801を有効成分として含有することを特徴とする、OK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0027】
上記の課題を解決するための本発明の第5の手段は、OK−432、IFN−α又はIFN−γを有効成分として含有することを特徴とする、HDAC阻害剤と併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0028】
上記の課題を解決するための本発明の第6の手段は、OK−432、IFN−α又はIFN−γを有効成分として含有することを特徴とする、OBP−801と併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0029】
上記の課題を解決するための本発明の第7の手段は、前記腫瘍が、悪性中皮腫、腎臓癌又は腎細胞癌であることを特徴とする、上記第1〜第6のいずれか1に記載の手段の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物である。
【0030】
上記の課題を解決するための本発明の第8の手段は、OK−432、IFN−α又はIFN−γを含有する医薬組成物、及び、HDAC阻害剤を含有する医薬組成物とからなる、HDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬、及び、腫瘍治療用及び予防用医薬のキットである。
【0031】
上記の課題を解決するための本発明の第9の手段は、OK−432、IFN−α又はIFN−γを含有する医薬組成物、及び、OBP−801を含有する医薬組成物とからなる、OBP−801と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬、及び、腫瘍治療用及び予防用医薬のキットである。
【0032】
上記の課題を解決するための本発明の第10の手段は、前記腫瘍が、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌であることを特徴とする、上記第8又は第9の手段の腫瘍治療用及び予防用医薬、及び、腫瘍治療用及び予防用医薬のキットである。
【0033】
上記の課題を解決するための本発明の更なる手段は、OK−432、IFN−α又はIFN−γと、OBP−801などのHDAC阻害剤とを、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の有効成分として含有させる工程を有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法、OBP−801などのHDAC阻害剤を、OK−432、IFN−αまたはIFN−γと併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の有効成分として含有させる工程を有することを特徴とする、OK−432、IFN−αまたはIFN−γと併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法、及び、OK−432、IFN−α又はIFN−γを、OBP−801などのHDAC阻害剤と併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の有効成分として含有させる工程を有することを特徴とする、HDAC阻害剤と併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法である。そして、上記の課題を解決するための本発明の更なるの手段は、前記腫瘍治療及び/又は予防方法における腫瘍が、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌であることを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物の製造方法である。
【0034】
上記の課題を解決するための本発明の更なる手段は、ヒトなどの哺乳動物にOK−432、IFN−α又はIFN−γと、OBP−801などのHDAC阻害剤とを有効成分として投与することを特徴とする、腫瘍治療及び/又は予防方法である。そして、上記の課題を解決するための本発明の更なるの手段は、前記腫瘍治療及び/又は予防方法における腫瘍が、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌であることを特徴とする、前記腫瘍治療及び/又は予防方法である。
【発明の効果】
【0035】
本発明の上記記載の各手段によって、腫瘍治療患者に対して、特に、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌の治療及び予防を要する患者に対して、有効成分であるOK−432、IFN−α又はIFN−γと、HDAC阻害剤、好ましくは、HDAC阻害剤のOBP−801とを併用することで、腫瘍、特に、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌に対する優れた高いアポトーシス誘導効果が得られ、腫瘍、特に、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌を治療し、かつ、予防することができるようになる。また、腫瘍、特に、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌の治療・予防における上記各有効成分の必要量を減らし、副作用の低減や治療に係るコストの削減を図ることが可能となるという優れた効果も得られる。
【0036】
また、本願発明のものは、単剤では十分なアポトーシス誘導効果を奏しない程度にて併用することにより、極めて顕著なアポトーシス誘導効果が得られる。そのため、将来の腫瘍、特に、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌などの腫瘍発生リスクを抱えている人、例えば、アスベスト曝露歴があるものの現時点では中皮腫の発生が確認されていない、中皮腫発症リスクを有する状態にある人などにおいても、上記有効成分として見出したHDAC阻害剤、好ましくは、HDAC阻害剤のOBP−801と、免疫療法剤のIFN−α、IFN−γ又はOK−432とを、中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌などの腫瘍の発生前に予防的に併用するよう投与することで、すなわち、腫瘍サイズが小さい、もしくは、腫瘍を構成する腫瘍細胞の数が少なく腫瘍組織としては十分に認識出来ない程度の状態の間に投与することで、当該腫瘍細胞に対するアポトーシスを効果的に誘導し、早期かつその細胞数が少ないうちに、効果的に体内から除去する効果が得られ、将来の腫瘍、特に、悪性中皮腫、腎臓癌及び腎細胞癌などの腫瘍に起因する疾患の発生リスク及び死のリスクを低減するという、優れた効果が得られるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】ヒト悪性中皮腫細胞株MSTO−211H細胞(以下、「211H細胞」という。)に対するOK−432とOBP−801との併用処理によるアポトーシスを生じた細胞の割合の解析結果である(実施例1)。
図2】ヒト悪性中皮腫細胞株211H細胞に対するIFN−αとOBP−801との併用処理によるアポトーシスを生じた細胞の割合の解析結果である(実施例2)。
図3】ヒト悪性中皮腫細胞株211H細胞に対するIFN−γとOBP−801との併用処理によるアポトーシスを生じた細胞の割合の解析結果である(実施例3)。
図4】ヒト腎細胞癌細胞株786−O細胞に対するOK−432とOBP−801との併用処理によるアポトーシスを生じた細胞の割合の解析結果である(実施例4)。
図5】ヒト腎細胞癌細胞株786−O細胞に対するIFN−αとOBP−801との併用処理によるアポトーシスを生じた細胞の割合の解析結果である(実施例5)。
図6】ヒト腎細胞癌細胞株786−O細胞に対するIFN−γとOBP−801との併用処理によるアポトーシスを生じた細胞の割合の解析結果である(実施例6)。
図7】ヒト悪性中皮腫細胞株211H細胞に対するOBP−801及びSAHA単剤処理による細胞生存率の濃度依存性試験の結果である(実施例7)。
図8】ヒト悪性中皮腫細胞株211H細胞に対するOBP−801又はSAHAの各単剤処理による生存細胞数及び細胞生存率の濃度依存性試験の結果である(実施例7)。
図9】ヒト悪性中皮腫細胞株211H細胞に対するOBP−801又はSAHAと、OK−432との併用処理によるアポトーシスを生じた細胞の割合の解析結果である(実施例7)。
図10】12ウェルプレートとセルカルチャーインサートを用いた、ヒト悪性中皮腫細胞株211H細胞又はヒト腎細胞癌細胞株786−O細胞と、PBMC(末梢血単核球)との共培養による薬剤評価系の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、OK−432、IFN−α又はIFN−γと、OBP−801などのHDAC阻害剤とを組み合わせてなる、腫瘍、特に悪性中皮腫、腎臓癌並びに腎細胞癌の治療及び予防用医薬組成物並びにキット、該医薬組成物の製造方法を提供する。
【0039】
本明細書において、「HDAC阻害剤」とは、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)を分子標的とし、阻害する分子標的剤を指す。
【0040】
本発明の組成物に含まれるHDAC阻害剤のOBP−801は、オンコリスバイオファーマ株式会社(東京、日本)から入手し、使用することができる。
【0041】
HDAC阻害剤のSAHA/ボリノスタット、ロミデプシン、パノビノスタット/LBH589、ベリノスタット/PXD101、モセチノスタット/MGCD0103、アベキシノスタット/PCI−24781、エンチノスタット/SNDX−275/MS−275、SB939、CS055/HBI−8000、レスミノスタット/4SC−201/BYK408740、givinostat/ITF2357、quisinostat/JNJ−26481585、CHR−2845、CHR−3996、CUDC−101、AR−42、DAC−060、EVP−0334、MGCD−290、CXD−101/AZD−9468、CG200745、arginine butyrate、4SC−202、rocilinostat/ACY−1215又はSHP−141は、本発明の組成物に含まれるOBP−801と同様にして用いてもよい。SAHAは、バイオモル リサーチ ラボラトリーズ(プリマス ミーティング,ペンシルベニア州,米国)のものを入手し、使用することができる。
【0042】
本明細書における「IFN−α」には、IFN−α−2a、IFN−α−2b、IFN−α−5などを含む全てのIFN−α型サブタイプ、及び、それらに1または複数のアミノ酸を付加、欠失、置換、および/または挿入するか、その主鎖または側鎖をPEGなどで修飾した、IFN−α様活性を示す誘導体が含まれる。IFN−αは、生体から分離精製または修飾するか、遺伝子組み換え技術により産生されたものを分離精製または修飾することで入手することができる。また、市場において流通しているものを入手することができ、スミフェロン(大日本住友製薬、日本)、オーアイエフ(大塚製薬株式会社、日本)、イントロンA(MSD株式会社)、アドバフェロン(アステラス製薬株式会社、日本)、ペガシス(中外製薬株式会社、日本)、ペグイントロン(MSD株式会社)などや、研究用試薬として販売されているものを利用することができる。
【0043】
本明細書における「IFN−γ」には、IFN−γ−1a、IFN−γ−1bなどを含む全てのIFN−γ型サブタイプ、及び、それらに1または複数のアミノ酸を付加、欠失、置換、および/または挿入するか、その主鎖または側鎖を修飾した、IFN−γ様活性を示す誘導体が含まれる。IFN−γは、生体から分離精製または修飾するか、遺伝子組み換え技術により産生されたものを分離精製または修飾することで入手することができる。また、市場において流通しているものを入手することができ、hIFN−γ(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社、マンハイム、ドイツ)やイムノマックス-γ注(塩野義製薬株式会社、日本)などを利用することができる。
【0044】
本発明において、「腫瘍」とは、癌などの上皮性悪性腫瘍や肉腫などの非上皮性悪性腫瘍である悪性腫瘍並びに良性腫瘍を包含する。悪性腫瘍としては、好ましくは、肺癌、気管支癌、咽頭癌、甲状腺癌、黒色腫、乳癌、骨腫瘍、骨軟部腫瘍、骨肉腫、胃癌、肝臓癌、食道癌、膵臓癌、胆道癌、腎細胞癌、腎臓癌、副腎癌、子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、膀胱癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、皮膚癌、中皮腫、リンパ腫、神経系腫瘍、又は、神経組織腫瘍腫が包含され、さらに好ましくは、中皮腫、腎細胞癌及び、腎臓癌が包含される。
【0045】
本発明において、「HDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを有効成分として含有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物」とは、腫瘍の治療及び予防において、当該治療及び予防をする患者に対して、有効成分としてのHDAC阻害剤とOK−432、IFN−α又はIFN−γとを投与し、当該有効成分を同時に、別々に、または、順次に、作用させるために組み合わせた医薬組成物を意味する。
【0046】
本発明において、「OBP−801と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを有効成分として含有することを特徴とする、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物」とは、腫瘍の治療及び予防において、当該治療及び予防をする患者に対して、有効成分としてのOBP−801とOK−432、IFN−α又はIFN−γとを投与し、当該有効成分を同時に、別々に、または、順次に、作用させるために組み合わせた医薬組成物を意味する。
【0047】
本発明において、「HDAC阻害剤を有効成分として含有することを特徴とする、OK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物」とは、腫瘍の治療及び予防において、有効成分として患者に投与されるOK−432、IFN−α又はIFN−γと併用されるように、当該治療及び予防をする患者に対して、当該有効成分を投与し作用させるための医薬組成物を意味する。
【0048】
本発明において、「OBP−801を有効成分として含有することを特徴とする、OK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物」とは、腫瘍の治療及び予防において、有効成分として患者に投与されるOK−432、IFN−α又はIFN−γと併用されるように、当該治療及び予防をする患者に対して、当該有効成分を投与し作用させるための医薬組成物を意味する。
【0049】
本発明において、「OK−432、IFN−α又はIFN−γを有効成分として含有することを特徴とする、HDAC阻害剤と併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物」とは、腫瘍の治療及び予防において、有効成分として患者に投与されるHDAC阻害剤と併用されるように、当該治療及び予防をする患者に対して、当該有効成分を投与し作用させるための医薬組成物を意味する。
【0050】
本発明において、「OK−432、IFN−α又はIFN−γを有効成分として含有することを特徴とする、OBP−801と併用するための、腫瘍治療用及び予防用医薬組成物」とは、腫瘍の治療及び予防において、有効成分として患者に投与されるOBP−801と併用されるように、当該治療及び予防をする患者に対して、当該有効成分を投与し作用させるための医薬組成物を意味する。
【0051】
本発明の医薬組成物は、OBP−801などのHDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとが、共に含有された配合剤の形で提供することができる。また、本発明は、OBP−801などのHDAC阻害剤を含有する医薬組成物と、OK−432、IFN−α又はIFN−γを含有する医薬組成物とが、別々に腫瘍の治療用及び予防用の医薬として製剤化し腫瘍の治療及び予防において併用できるように提供され、これらの医薬組成物が、患者に対して同時に、別々に、または順次に使用されてもよい。さらに、本発明は、OBP−801などのHDAC阻害剤を含有する医薬組成物から製剤化される医薬とOK−432、IFN−α又はIFN−γを含有する医薬組成物から製剤化される医薬から構成される腫瘍の治療用及び予防用の医薬のキットとし、提供してもよい。
【0052】
さらに、本発明にしたがって、OBP−801などのHDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとが、腫瘍治療及び予防において併用される場合には、 双方、もしくは、そのいずれか一方が、単独で用いられる投与量よりも各々が少ない投与量で投与され得る。
【0053】
本発明の、OBP−801などのHDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを含有する組成物は、OBP−801などのHDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを必須の成分として含有し、所望により、製剤化のための添加物を含有していてもよい。好適には、OBP−801などのHDAC阻害剤、及び、OK−432、IFN−α又はIFN−γのみを有効成分として含有し、更に製剤化のための添加物を含有する医薬組成物である。
【0054】
本発明において、HDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを有効成分として含有するとは、HDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを主要な活性成分として含むという意味であり、OBP−801と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを有効成分として含有するとは、OBP−801と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを主要な活性成分として含むという意味であって、上記各成分の含有率を制限するものではない。
【0055】
本発明において、「治療」という用語は、本発明に係る医薬組成物が被験者に投与されることにより、腫瘍細胞が死滅またはその細胞数が減少すること、腫瘍の増殖が抑制されること、腫瘍に起因する様々な症状が改善されることを意味するものである。また、本発明において、「予防」という語は、本発明に係る医薬組成物が被験者に投与されることにより、初期の腫瘍細胞が死滅し、もしくはその増殖が抑制されることによる腫瘍形成の防止、腫瘍治療処置により減少した腫瘍細胞が再度増殖することによりその数が増加することの防止、及び、増殖が抑制された腫瘍細胞の再増殖の防止を意味する。
【0056】
本発明の腫瘍治療用及び予防用医薬組成物は、OBP−801などのHDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとを、有効成分として含有させる工程を経ることにより製造することができる。本発明のOK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物は、OBP−801などのHDAC阻害剤を有効成分として含有させる工程を経ることにより製造することができる。本発明のOBP−801などのHDAC阻害剤と併用するための腫瘍治療用及び予防用医薬組成物は、OK−432、IFN−α又はIFN−γを有効成分として含有させる工程を経ることにより製造することができる。さらに、上記各工程にくわえ、所望により、製剤化のための添加物を含有させる工程を加えたものとしてもよい。
【0057】
本発明の医薬組成物において、OBP−801などのHDAC阻害剤と、OK−432、IFN−α又はIFN−γとが別々の医薬組成物に含有され提供される場合には、これらの医薬組成物の剤型は、同じ剤型であっても異なる剤型であってもよい。例えば、双方が経口製剤、非経口製剤、注射剤、点滴剤、静脈内点滴剤のうちの一つであって互いに異なる剤型であってもよく、双方が経口製剤、非経口製剤、注射剤、点滴剤、静脈内点滴剤のうちの一つであって同種の剤型であってもよい。また、上記の医薬組成物には、さらに異なる一種以上の製剤を組み合わせてもよい。
【0058】
本発明の医薬組成物は、バルク液体溶液若しくは懸濁液などの液体組成物、又は、バルク粉末、錠剤などの固形組成物の形態をとることができる。例えば、液体組成物の予め充填・測定したアンプル又は注射器、或いは固体組成物の場合には丸薬、錠剤、カプセルなどとする。これら製剤における有効成分量は腫瘍の治療及び/又は予防効果が得られるように設定される。
【0059】
上記液体組成物としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウムが例示され、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80、HCO−50などと適宜併用され得る。油性液としてはゴマ油、大豆油が例示され、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、緩衝剤、例えばリン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液、無痛化剤、例えば、塩酸プロカイン、安定剤、例えばベンジルアルコール、フェノール、酸化防止剤と好適に配合され得る。
【0060】
また、上記固形組成物としては、結合剤、例えば微結晶性セルロース、トラガカント・ガム又はゼラチン;賦形剤、例えばデンプン又はラクトース、崩壊剤、例えばアルギン酸、プリモゲル(Primogel)、又はトウモロコシデンプン;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;流動促進剤、例えばコロイド二酸化シリコン;甘味剤、例えばショ糖又はサッカリン;又は、香料、例えばペパーミント、サリチル酸メチル、又はオレンジ香味料などの、任意の成分、又は類似の性質の化合物を含むことができる。
【0061】
本発明の医薬組成物は、経口、直腸、経皮、皮下、静脈内、筋肉内及び鼻腔内を含む様々な経路により、経口投与もしくは非経口投与することができる。非経口投与の場合には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが例示される。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本発明の医薬が全身または局部的に投与され得る。また、投与方法及び投与用量は、患者の年齢、症状により適宜選択され得る。
【0062】
以下、本発明を実施例の記載によって具体的に説明するが、本発明は当該記載によって限定して解釈されるものではない。
【実施例】
【0063】
腫瘍治療及び予防における、OK−432、IFN−α又はIFN−γと、HDAC阻害剤との併用による顕著な腫瘍治療・予防効果を明らかにした。本実施例においては、本発明が治療対象とする腫瘍の例として、発症機序の異なるヒト悪性中皮腫及びヒト腎細胞癌を用いた。また、本実施例においては、OK−432、IFN−α又はIFN−γと併用するHDAC阻害剤の例として、OBP−801及びSAHAを用いた。
【0064】
<材料と方法>
〔1.細胞〕
ヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞、及び、ヒト腎細胞癌細胞株の786−O細胞は、American Type Culture Collection(ATCC),(マナサス,バージニア州,米国)より入手されたものを使用した。
【0065】
211H細胞は、10% FBS(Gibco(登録商標),ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社)及び100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(Gibco(登録商標),ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社)を添加したRPMI1640(シグマアルドリッチ,セントルイス,ミズーリ州,米国)培地中で、37℃、5%CO条件下で培養した。786−O細胞は、10%FBS、2mMグルタミン、100U/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを添加したRPMI1640培地中で、37℃、5%CO条件下で培養し維持した。
【0066】
〔2.試薬〕
OBP−801は、オンコリスバイオファーマ株式会社(東京、日本)から供給された。SAHAは、バイオモル リサーチ ラボラトリーズ(プリマス ミーティング,ペンシルベニア州,米国)より購入した。OK−432は、中外製薬株式会社(東京、日本)から供与された。IFN−αは、大日本住友製薬(日本)よりスミフェロンを購入した。IFN−γは、ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(マンハイム、ドイツ)よりhIFN−γ(product no.11040596001)を購入した。N−アセチル−L−システイン(NAC)は、ナカライテスク(日本)から購入した。パンカスパーゼ阻害剤 zVAD−fmkは、R&D システムズ(ミネアポリス,ミネソタ州,米国)から購入した。
【0067】
〔3.共培養試験〕
実験前日に、211H細胞は4×10cells/ml/well、786−O細胞は1×10cells/ml/wellにて、Falcon(登録商標)12ウェルプレート(コーニングインターナショナル株式会社)に播種した。
【0068】
翌日、ヒト血液を60ml採血し、血球分離溶液LymphoprepTM(AXIS−SHIELD PoC AS,オスロ,ノルウェー)を用いることによりPBMC(末梢血単核球)を分離し、採取した。採取したPBMCは、40mlのRPMI培地に再懸濁した。
【0069】
細胞を播種した上記の12ウェルプレートにBD Falcon 0.4μm セルカルチャーインサート(コーニングインターナショナル株式会社)を挿入し、211H細胞のウェル上のセルカルチャーインサート上層には、PBMCを4×10cells/ml/wellとなるように、786−O細胞のウェル上のセルカルチャーインサート上層には、PBMCを2×10cells/ml/wellとなるように添加して、共培養した。さらに、抗酸化剤のN−アセチル−L-システイン(NAC)を5mM、パンカスパーゼ阻害剤zVAD−fmk(zVAD)を100μMにて、添加したものも用意した。
【0070】
共培養開始1時間後、図10のように、セルカルチャーインサート下層(細胞側)にOBP−801を10、20又は30nM添加し、セルカルチャーインサート上層(PBMC側)には、OK-432を0.1KE/ml、IFN−αを10000U/ml、又は、IFN−γを250U/ml(786−O細胞の実験系の場合)又は1000U/ml(211H細胞の実験系の場合)添加し、さらに共培養した。そして24時間後又は48時間後にセルカルチャーインサート及び培養上清を取り除き、211H細胞又は786−O細胞を回収した。
【0071】
〔4.細胞周期及びアポトーシスの解析〕
回収した211H細胞又は786−O細胞は、0.1%TritonX−100で固定し透過処理した後、細胞の核をヨウ化プロピジウム(PI)にて染色した。染色処理した細胞のDNA量をFACSCaliburTMフローサイトメーター(ベクトン−ディッキンソン,フランクリン レイクス,ニュージャージー州,米国)にて測定した。そして、測定結果をModFit LTTM(ベリティー ソフトウェア ハウス,トップシャム、メイン州,米国)及びCell QuestTM software package(ベクトン−ディッキンソン)により解析し、Sub−G1期の細胞の割合を算出し、211H細胞又は786−O細胞の細胞周期、及び、211H細胞又は786−O細胞に対するアポトーシスの誘導状況を検証した。
【0072】
〔5.細胞生存率試験〕
細胞生存率は、Cell Counting Kit−8(株式会社同仁化学研究所、日本)を用い、マルチウェルスペクトロフォトメーター Viento(DSファーマバイオメディカル、日本)で波長450nmにて測定し、決定した。さらに、生存細胞数及び細胞生存率を、Guava PCAシリーズ(Merck Millipore,Merck KGaA,ドイツ)にて測定し、解析ソフトウェアのViaCountにて処理し、決定した。いずれも、211H細胞を96ウェルプレートに1×10cells/0.1ml/wellにて播種し、翌日、所定の各濃度のOBP−801及びSAHAを添加し、72時間後に測定を行った。
【0073】
<結果>
〔実施例1:OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である悪性中皮腫細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0074】
OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞としてヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、OK−432とOBP−801とを併用処理し、回収した211H細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合を解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、OK−432は0.1KE/mlの濃度にて処理した。
【0075】
その結果、211H細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてOK−432を単剤で24時間にわたり処理しても十分なアポトーシス誘導は確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とOK−432とを24時間併用処理すると、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されることを見出した(図1(a))。OBP−801とOK−432の併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0076】
さらに、211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とOK−432とを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合が70%近くと、相乗的なアポトーシス誘導効果がさらに高いものとなり、より顕著な抗腫瘍効果が発揮されることを見出した(図1(b))。
【0077】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、悪性中皮腫に対抗するため、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、OK−432(免疫を惹起する薬剤)とを併用すると、悪性中皮腫に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られることが理解できる。
【0078】
さらに、OBP−801とOK−432とを、単剤では十分な効果が発揮されないような濃度において併用することで、併用処理後24時間という短時間であっても、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じることから、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、OBP−801とOK−432との併用は、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な、新たな治療・予防手段を提供することが可能となったことが理解できる。
【0079】
さらに、上記211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とOK−432との併用処理する試験系に、さらに、パンカスパーゼ阻害剤zVAD又は抗酸化剤NACを併用処理してみたところ、上記で確認されたアポトーシス誘導効果は、共にほぼ抑制された。OBP−801とOK−432との併用処理による相乗的なアポトーシス誘導効果は、活性酸素種によって活性化するカスパーゼ・カスケードを介した経路が関連する可能性が示唆された。
【0080】
〔実施例2:IFN−αを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である悪性中皮腫細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0081】
IFN−αを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞としてヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、IFN−αとOBP−801とを併用処理し、回収した211H細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合を解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、IFN−αは10000U/mlの濃度にて処理した。
【0082】
その結果、211H細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてIFN−αを単剤で24時間にわたり処理しても有意なアポトーシス誘導は確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とIFN−αとを24時間併用処理すると、アポトーシス誘導効果が有意に高まるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(図2(a))。さらに、211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とIFN−αとを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合が45%近くと、アポトーシス誘導効果がさらに有意に高いものとなり、顕著な抗腫瘍効果が発揮されることを見出した(図2(b))。
【0083】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、悪性中皮腫に対抗するため、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、IFN−α(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理すると、予想外の、悪性中皮腫に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。OBP−801とIFN−αの併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0084】
さらに、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、OBP−801とIFN−αとを、単剤では効果が発揮されないような濃度において併用することで、併用処理後24時間という短時間であっても、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じることは、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な、新たな治療・予防手段を提供することが可能となったことが理解できる。
【0085】
さらに、上記211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とIFN−αとの併用処理する試験系に、さらに、パンカスパーゼ阻害剤zVAD又は抗酸化剤NACを併用処理してみたところ、上記で確認されたアポトーシス誘導効果は、共にほぼ抑制された。OBP−801とIFN−αとの併用処理による相乗的なアポトーシス誘導効果は、活性酸素種によって活性化するカスパーゼ・カスケードを介した経路が関連し、OBP−801とOK−432との併用処理の場合と同様の、共通した作用機序によるものである可能性が示唆された。
【0086】
〔実施例3:IFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である悪性中皮腫細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0087】
IFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞としてヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、IFN−γとOBP−801とを併用処理し、回収した211H細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合を解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、IFN−γは1000U/mlの濃度にて処理した。
【0088】
その結果、211H細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてIFN−γを単剤で24時間にわたり処理しても有意なアポトーシス誘導は確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とIFN−γとを24時間併用処理すると、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(図3(a))。OBP−801とIFN−γの併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0089】
さらに、211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とIFN−γとを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合が60%近くと、アポトーシス誘導効果がさらに高いものとなり、より顕著な抗腫瘍効果が発揮されることを見出した(図3(b))。
【0090】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、IFN−γ(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理すると、悪性中皮腫細胞に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。
【0091】
さらに、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、OBP−801とIFN−γとを、単剤では十分な効果が発揮されないような濃度において併用することで、併用処理後24時間という短時間であっても、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じることは、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な治療・予防手段を提供することができることが理解される。
【0092】
さらに、上記211H細胞とPBMCとの共培養系において、OBP−801とIFN−γとの併用処理する試験系に、さらに、パンカスパーゼ阻害剤zVAD又は抗酸化剤NACを併用処理してみたところ、上記で確認されたアポトーシス誘導効果は、共にほぼ抑制された。OBP−801とIFN−γとの併用処理による相乗的なアポトーシス誘導効果は、活性酸素種によって活性化するカスパーゼ・カスケードを介した経路が関連し、OBP−801とOK−432との併用処理、及び、OBP−801とIFN−αの場合と同様の、共通した作用機序によるものである可能性が示唆された。
【0093】
〔実施例4:OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である腎細胞癌細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0094】
OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞として、ヒト中皮腫とは発症機序が異なる、ヒト腎細胞癌細胞株の786−O細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、OK−432とOBP−801とを併用処理し、回収した786−O細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合の解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、20nM又は30nM、OK−432は0.1KE/mlの濃度にて処理した。
【0095】
その結果、786−O細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてOK−432を単剤処理してもアポトーシス誘導は僅かしか確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とOK−432とを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合がOBP−801が10nMで50%強、20nMで85%近く、30nMで90%近くと、相乗的な、大変顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(図4(a)、図4(b)及び図4(c))。OBP−801とOK−432との併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い抗腫瘍効果による治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0096】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、OK−432(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理することで、腎細胞癌に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。そして、OBP−801とOK−432とを、単剤では十分な効果が発揮されないような濃度において併用することで、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じさせることは、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な治療・予防手段を提供することができることが理解される。
【0097】
〔実施例5:IFN−αを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である腎細胞癌細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0098】
IFN−αを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞として、ヒト中皮腫とは発症機序が異なる、ヒト腎細胞癌細胞株の786−O細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、IFN−αとOBP−801とを併用処理し、回収した786−O細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合の解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、20nM又は30nM、IFN−αは10000U/mlの濃度にて処理した。
【0099】
その結果、786−O細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてIFN−αを単剤処理してもアポトーシス誘導は僅かしか確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とIFN−αとを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合がOBP−801が10nMで40%近く、20nM及び30nMで70%近くと、相乗的な、大変顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(図5(a)、図5(b)及び図5(c))。OBP−801とIFN−αとの併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い抗腫瘍効果による治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0100】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、IFN−α(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理することで、腎細胞癌に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。そして、OBP−801とIFN−αとを、単剤では効果が発揮されないような濃度において併用することで、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じさせることは、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な治療・予防手段を提供することができることが理解される。
【0101】
〔実施例6:IFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することによる、腫瘍細胞である腎細胞癌細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0102】
IFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用処理することが、腫瘍細胞の細胞周期進行に如何なる影響を与えるものであるのか検討した。腫瘍細胞として、ヒト中皮腫とは発症機序が異なる、ヒト腎細胞癌細胞株の786−O細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、IFN−γとOBP−801とを併用処理し、回収した786−O細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合の解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、20nM又は30nM、IFN−γは250U/mlの濃度にて処理した。
【0103】
その結果、786−O細胞に対し、OBP−801単剤、もしくはPBMCとの共培養系においてIFN−γを単剤処理してもアポトーシス誘導は僅かしか確認されなかったが、それら単剤処理時と同濃度にてOBP−801とIFN−γとを48時間併用処理すると、アポトーシスを生じた細胞の割合がOBP−801が10nMで30%強、20nMで55%近く及び30nMで70%近くと、相乗的な、大変顕著なアポトーシス誘導が生じるという、予想外の効果が発揮されるものであることを見出した(図6(a)、図6(b)及び図6(c))。OBP−801とIFN−γとの併用は、各薬剤の投与濃度を高めることによる副作用の発生を未然に防止するとともに、高い抗腫瘍効果による治療・予防効果が得られるものであることが判明した。
【0104】
上記結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、HDAC阻害剤(免疫を抑制する分子標的薬)のOBP−801と、IFN−γ(免疫を惹起する薬剤)とを併用処理することで、腎細胞癌に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られるものであることが理解できる。そして、OBP−801とIFN−γとを、単剤では十分な効果が発揮されないような濃度において併用することで、相乗的な、顕著なアポトーシス誘導が生じさせることは、腫瘍細胞の細胞周期に要する時間が一般に短いものであるという点を考慮すると、腫瘍細胞数の指数関数的な増加を効率的に抑制することに繋がり、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、大変に有用な治療・予防手段を提供することができることが理解される。
【0105】
〔実施例7:OK−432を、HDAC阻害剤のOBP−801又はSAHAと併用処理することによる、腫瘍細胞に対する抗腫瘍効果の相乗的増強〕
【0106】
OK−432、IFN−α又はIFN−γを、HDAC阻害剤のOBP−801と併用することで、腫瘍細胞に対する相乗的な顕著なアポトーシス誘導効果すなわち抗腫瘍効果を発揮することが明らかとなった。そこで、上記の併用によるアポトーシス誘導効果すなわち抗腫瘍効果が、OBP−801とは基本的な構造が異なる他のHDAC阻害剤を用いることによっても、同様に得られるものであるのか、OBP−801を置き換えるHDAC阻害剤として、SAHAを用いて検討を行った。
【0107】
まず、211H細胞を用いて、OBP−801とSAHAの各薬剤の単独処理により、細胞増殖に与える影響を確認するための細胞生存率試験を行い、同等の細胞傷害性を発揮する薬効濃度を算出した。
【0108】
211H細胞を96ウェルプレートに1×10cells/0.1ml/wellにて播種し、翌日、所定の各濃度のOBP−801及びSAHAを添加し、72時間後に測定を行った。細胞生存率は、Cell Counting Kit−8を用い、マルチウェルスペクトロフォトメーター Vientoで波長450nmにて測定し、算出した。さらに、生存細胞数及び細胞生存率を、Guava PCAシリーズにて測定し、解析ソフトウェアのViaCountにて処理し、算出した。
【0109】
その結果、211H細胞の増殖に対して、OBP−801は12.5nM、SAHAは1.25μMの濃度で処理することで、同等の影響を及ぼすことが示された(図7(a)、図7(b)、図8(a)、図8(b)、図8(c)及び図8(d))。
【0110】
次に、腫瘍細胞としてヒト悪性中皮腫細胞株の211H細胞を用い、PBMCとの共培養系にて、OK−432又はSAHAと、OBP−801とを併用処理し、回収した211H細胞をフローサイトメトリー分析によりSub−G1期細胞の割合の解析することで、各試薬による腫瘍細胞へのアポトーシス誘導効果を検討した。OBP−801は10nM、12.5nM及び30nM、SAHAは、0.75μM、1.00μM及び1.25μM、OK−432は0.1KE/mlの濃度にて処理した。
【0111】
その結果、211H細胞に対し、SAHAは単剤で24時間にわたり単剤処理してもアポトーシス誘導は僅かしか確認されなかった。しかし、SAHAを、単独では十分な薬効を生じさせない各濃度にてOK−432とを併用処理すると、予想外にも、相乗的なアポトーシス誘導が生じ、さらに、それがSAHA単独では十分な薬効を生じさせない各濃度において、濃度依存的に高まるという、予想外の効果が発揮されることを見出した(図9)。
【0112】
さらに、OBP−801とSAHAとが同等の細胞傷害性を発揮する薬効濃度で検討すると、すなわち、OBP−801が12.5nM、SAHAが1.25μMで検討すると、OBP−801は、SAHAに比べ、OK−432と併用処理することにより、アポトーシスを生じた細胞の割合が1.5倍近くに増加し、相乗的なアポトーシス誘導の程度がより顕著に高くなることを見出した(図9)。
【0113】
上記の結果から、PBMCが存在するヒト体内においても同様に、悪性中皮腫などの腫瘍に対抗するため、HDAC阻害剤であるOBP−801のみならず、OBP−801とは基本的な構造が異なるSAHAのような他のHDAC阻害剤を、OK−432、IFN−α及びIFN−γなどの免疫を惹起する薬剤と併用しても、OBP−801での場合と同様に、悪性中皮腫に対する相乗的な、顕著なアポトーシス誘導効果、すなわち、相乗的な、顕著な抗腫瘍効果が得られることが理解できる。
【0114】
また、HDAC阻害剤が低濃度であってもOK−432、IFN−α及びIFN−γとの併用による相乗的な抗腫瘍効果により薬効を発揮させることが可能となったことから、HDAC阻害剤の濃度を高めることにより生じる免疫抑制を含む腫瘍治療における望ましくない作用を生じさせることなく、患者の腫瘍治療・予防の処置を進めることが可能となる新たな治療・予防手段を提供することが可能になった。
【0115】
そして、HDAC阻害剤とOK−432、IFN−α又はIFN−γという免疫を惹起する薬剤との併用により得られる相乗的な、顕著な抗腫瘍効果は、HDAC阻害剤としてSAHAを用いる場合よりもOBP−801を用いる場合の方がより高く、増殖速度が速い腫瘍細胞を治療・予防対象としなければならない患者及び治療にあたる医師に対して、OBP−801とOK−432、IFN−α又はIFN−γの併用は、より有用な、新たな腫瘍の治療・予防手段を提供するものであることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、腫瘍、特に、悪性中皮腫、腎臓癌又は腎細胞癌に羅患した患者を治療及び予防するために、医療業、薬業等において使用される新たな治療剤、治療方法、治療剤の製造方法及び治療剤の使用方法を提供する。
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