特開2016-113381(P2016-113381A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2016-113381疎水性物質包接剤およびそれを用いた疎水性物質の可溶化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-113381(P2016-113381A)
(43)【公開日】2016年6月23日
(54)【発明の名称】疎水性物質包接剤およびそれを用いた疎水性物質の可溶化方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20160527BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20160527BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20160527BHJP
   A61K 47/08 20060101ALI20160527BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20160527BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20160527BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20160527BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20160527BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20160527BHJP
【FI】
   A61K47/36
   A61K47/04
   A61K47/10
   A61K47/08
   A61K47/18
   A61K47/12
   A61K47/16
   A61K31/355
   A61K31/122
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2014-251325(P2014-251325)
(22)【出願日】2014年12月11日
(71)【出願人】
【識別番号】511304718
【氏名又は名称】株式会社ファルマクリエ神戸
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】514315768
【氏名又は名称】鈴木 利雄
(71)【出願人】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(74)【代理人】
【識別番号】100134669
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 道彰
(72)【発明者】
【氏名】谷口 泰造
(72)【発明者】
【氏名】宮本 和英
(72)【発明者】
【氏名】炬口 眞理子
(72)【発明者】
【氏名】角山 圭一
(72)【発明者】
【氏名】坂井 和夫
(72)【発明者】
【氏名】福田 勝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利雄
(72)【発明者】
【氏名】甲元 一也
(72)【発明者】
【氏名】山本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 愛未
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076BB01
4C076CC40
4C076CC47
4C076DD30
4C076DD37
4C076DD40
4C076DD41
4C076DD49
4C076DD52
4C076EE30
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA09
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA52
4C086NA02
4C086ZC29
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB28
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA72
4C206NA02
4C206ZB11
(57)【要約】

【課題】 疎水性物質を包含する溶液に対して投入・撹拌という1工程のみで包接を完遂できるβ−1,3−1,6−グルカンを主成分とする疎水性物質包接剤および疎水性物質包含薬剤を提供する。
【解決手段】 三重鎖構造のβ−1,3−グルカンを原材料として、前記三重鎖構造を融解する融解剤によって前記三重鎖構造のβ−1,3−グルカンを一本鎖ランダムコイル構造へと融解させ、前記融解剤を中和する中和剤によって前記一本鎖ランダムコイル構造を一本鎖と二重鎖と三重鎖が混在する不完全螺旋構造のβ−1,3−グルカンへと再構成させて生成した、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを主成分とする疎水性物質包接剤である。水素結合性官能基を有する水素結合性分子を包接添加剤として添加することが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性物質を包接し得る包接剤であって、
三重鎖構造のβ−1,3−グルカンを原材料として、前記三重鎖構造を融解する融解剤によって前記三重鎖構造のβ−1,3−グルカンを一本鎖ランダムコイル構造へと融解させ、前記融解剤を中和する中和剤によって前記一本鎖ランダムコイル構造を一本鎖と二重鎖と三重鎖が混在する不完全螺旋構造のβ−1,3−グルカンへと再構成させて生成した融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを主成分とすることを特徴とする疎水性物質包接剤。
【請求項2】
水素結合性官能基を有する水素結合性分子を包接添加剤として添加した請求項1に記載の疎水性物質包接剤。
【請求項3】
前記水素結合性分子が、前記包接添加剤を添加しても前記不完全螺旋構造のβ−1,3−グルカンの前記不完全螺旋構造を一本鎖ランダムコイル構造へと融解するには至らない化合物である請求項2に記載の疎水性物質包接剤。
【請求項4】
前記包接添加剤が0.316M以下の濃度の水酸化ナトリウムである請求項1から3のいずれか1項に記載の疎水性物質包接剤。
【請求項5】
前記水素結合性官能基を有する水素結合性分子である包接添加剤が、アルコール化合物、アミド化合物、ケトン化合物、アミン化合物、カルボン酸化合物、さらに、複数の水素結合性官能基を分子内に併せ持つ分子、またはその縮合物から選ばれたいずれか、または、それらの組み合わせを主成分とするものである請求項2または3に記載の疎水性物質包接剤。
【請求項6】
前記疎水性物質が疎水性のビタミン及びその誘導体、ポリフェノール及びその誘導体、疎水性の薬剤及びその誘導体、シコニンおよびシコニン誘導体、疎水性の染色剤及びそれらの誘導体、疎水性の炭素素材及びその誘導体、疎水性の導電性高分子及びその誘導体、疎水性のナノ粒子、疎水性の顔料及びその誘導体のいずれか、または、それらの組み合わせである請求項1から5のいずれか1項に記載の疎水性物質包接剤。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の疎水性物質包接剤を用いて包接させ、可溶化した疎水性物質包含薬剤。
【請求項8】
疎水性物質を可溶化する方法であって、
三重鎖構造のβ−1,3−グルカンを原材料として、前記三重鎖構造を融解する融解剤によって前記三重鎖構造のβ−1,3−グルカンを一本鎖ランダムコイル構造へと融解させ、前記融解剤を中和する中和剤によって前記一本鎖ランダムコイル構造を一本鎖と二重鎖と三重鎖が混在する不完全螺旋構造のβ−1,3−グルカンへと再構成させて生成した融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを疎水性物質包接剤として使用し、
前記疎水性物質を包含する溶液に対して、前記融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを疎水性物質包接剤として投入し、包接させて可溶化する疎水性物質の可溶化方法。
【請求項9】
水素結合性官能基を有する水素結合性分子を包接添加剤として添加した請求項8に記載の疎水性物質の可溶化方法。
【請求項10】
前記包接添加剤が0.316M以下の濃度の水酸化ナトリウムである請求項8または9に記載の疎水性物質の可溶化方法。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の疎水性物質の可溶化方法を用いて前記疎水性物質を包接させ、可溶化した疎水性物質包含薬剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−1,3−1,6−グルカンを用いた、疎水性物質を包接し得る包接剤およびそれを用いた疎水性物質の可溶化方法に関する。
水に難溶性の物質や安定性の低い物質などを包接することにより、人体への経口摂取が難しかった物質を包含した健康食品や健康飲料などの製造に資するものである。
【背景技術】
【0002】
生理、薬理機能を持った化合物には、疎水性物質が多数存在する。
例えば、ムラサキ(紫:Lithospermum erythrorhizon)の根に含まれるシコニンやシコニン誘導体(アセチルシコニンなど)は優れた生理、薬理機能を持っており、紫色の染料の原料となるほか、医薬品の原料としても注目されており、アレルギーやアトピーの原因物質となるヒスタミンの抑制作用、抗炎症作用、抗菌作用、創傷に対する治癒促進作用などが知られ、注目されている物質であるが、疎水性、つまり難溶性という性質を持っている。疎水性物質は食品や医薬品の成分として配合したり、経口や経皮で摂取したりするには取り扱いが難しい場合が多く、利用を促進するために水溶液に可溶化することが望まれている。
【0003】
しかし、疎水性物質は、加温や撹拌という手段では、水に対する溶解度が低いままであり、たとえ調製時に一旦溶解しても、その後、経時的に沈澱を生じてしまい、水溶液としての保存安定性を保つことができないことが多い。そのため、有効成分としての配合量が制限されてしまい、生理、薬理機能を十分に発揮できる製品を得ることが困難な場合がある。そこで、疎水性物質を水へ可溶化するための技術開発が望まれている。
【0004】
従来技術における疎水性物質の水への可溶化方法の一つとして包接現象を利用した可溶化技術が有望視されている。包接されたゲスト分子はホスト分子内に入るため化学的性質が変化し、例えば、不安定なゲスト分子の安定性が増したり、水難溶性のゲスト分子の水可溶性が大きくなったり、揮発性のゲスト分子の揮発性が抑制されたりなどの効能が得られる。食品関連の製品においては、香料などの揮散しやすい成分の徐放化、練りわさびなど分解しやすい成分の安定化、高濃度カテキンなどの苦味の改善など、包接により優れた効能を得ることができる。このため、包接機能を持つ化合物は食品工業、医薬品、化粧品、樹脂などの製品に使用されている。
【0005】
包接能力を持つ物質は様々なものが知られているが、特に、シクロデキストリンとβ−1,3−1,6−グルカンの包接能力が注目されている。
【0006】
シクロデキストリン(環状オリゴ糖)は分子の中心に空洞を持つ化学構造を持ち、空洞の大きさに合った大きさの化合物を物理的な引力によって取り込むことにより包接能力を発揮する。シクロデキストリンの空洞の中にはエーテル結合の酸素原子と水素原子があるため疎水性を示し、空洞のサイズに適した疎水性物質を包接する能力を持つ。その一方、シクロデキストリンの空洞の端部には多数のヒドロキシル基があるため、シクロデキストリン自体は水に可溶である。そのためシクロデキストリンは疎水性物質を包接したまま全体として水に可溶である。
シクロデキストリンには、α、β、γタイプがあり、それぞれに空洞の大きさが違うため、包接されやすい疎水性物質が異なっている。例えば、α-シクロデキストリンであればベンゼン等が包接されやすく、例えば、β-シクロデキストリンであればナフタレン等が包接されやすく、例えば、γ-シクロデキストリンであれば、オルニチン、カルニチン、イソフラボン等が包接できることが知られている。
【0007】
次に、β−1,3−1,6−グルカンの包接について説明する。
β−1,3−1,6−グルカンは、βグルカンの一種で、グルコースから構成される多糖体の一つである。β−1,3−1,6−グルカンはキノコ類の多糖成分として知られている。β−1,3−1,6−グルカンの分子構造は、グルコースがβ−1,3−グルコシド結合によってたくさん結合した鎖のような構造をしており、種によって導入率の異なるβ−1,6−グルコシド側鎖が部分的に導入されていると推定されており、天然の状態では水中においては、3本のβ−1,3−グルカン分子主鎖が互いに影響し合って三重螺旋構造を形成し、それが糸まり様の粒子状になっていると推定されている。
【0008】
β−1,3−1,6−グルカンは、強アルカリ性の溶液中やジメチルスルホキシド(DMSO)などの非プロトン性極性溶媒中では、三重螺旋構造が解け、一本鎖のランダムコイル構造に解離することが知られている。この強アルカリ性やDMSOによる一本鎖のランダムコイル構造に解いた状態から溶液を中和や、希釈/透析すると、再度、元の三重螺旋状態に戻ることが知られている。この一本鎖ランダムコイル構造に解いた状態から元の三重螺旋状態に戻る過程において、他の分子を共存させると三重螺旋の中に他の分子を取り込むことができる。つまり、β−1,3−1,6−グルカンは包接ホストとして働き、他の分子を包接ゲストとして包接することができる。
【0009】
【特許文献1】特開2007−238734
【非特許文献1】Biomacromolecules,914−921頁、第4巻、2003
【非特許文献2】Carbohydrate Polymers、113−121頁、第44巻、2001
【非特許文献3】A. Hawe, M. Sutter, W. Jiskoot, Pharmaceutical Res.、1487−1499頁、第25巻、2008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記従来のシクロデキストリン類による包接処理は、内部の空洞のサイズに適した疎水性物質を包接する能力を利用するため、空洞の大きさによって包接しやすい分子が決まり包接できる分子が限定される傾向がある。また、シクロデキストリンはその空洞とゲスト分子の間の物理的な引力により包接するため、ゲスト分子の包接が十分に進むためには撹拌などの作業や時間を要する場合があり、また、長時間の保存によってゲスト分子の徐放が進むことがあり、ときには臭気や着色が増加するなどの問題がある。
【0011】
次に、上記従来のβ−1,3−1,6−グルカンによる包接処理は、三重螺旋構造から一本鎖ランダムコイル構造への解きと、その逆の一本鎖ランダムコイル構造から三重螺旋構造への巻き直しの過程でゲスト分子を包接するため、シクロデキストリン類による包接処理よりも疎水性物質のサイズの影響は少なく、幅広く包接することができる。さらに、pHの調整で包接が制御できるため、包接が十分に進むためにはシクロデキストリン類に比較して撹拌などの作業や時間が少なくて済むというメリットがある。
【0012】
しかし、上記従来のβ−1,3−1,6−グルカンによる包接処理は、“三重螺旋構造から一本鎖ランダムコイル構造への解き”という第1の工程と、“一本鎖ランダムコイル構造から三重螺旋構造への巻き直し”という第2の工程の2工程が必要であり、それぞれの工程が完遂させるために相当な手間と時間を必要としていた。つまり、包接処理したい疎水性物質を包含する溶液に対して、かならず、強アルカリ溶液やDMSOなどの非プロトン性極性溶媒を投入して撹拌する第1の工程と、次に、中和処理するための酸性溶液の投入などによる第2の工程が必要となっていた。また、第1の工程においては強アルカリや非プロトン性極性溶媒に不安定な分子に対しては適用が難しいことも問題であった。
【0013】
上記問題を解決するために、本発明は、β−1,3−1,6−グルカンによる包接処理をベースとするもので、従来のように第1の工程と第2の工程という2工程を必要とはせず、包接処理したい疎水性物質を包含する溶液に対して投入して撹拌するという1工程のみで完遂できるβ−1,3−1,6−グルカンを主成分とする疎水性物質包接剤および当該疎水性物質包接剤を用いて可溶化した疎水性物質包含薬剤を提供することを目的とする。投入するだけであるため、上記のようなアルカリや非プロトン性極性溶媒に不安定な物質に対しても適用することができる疎水性物質包含薬剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の疎水性物質包接剤は、β−1,3−1,6−グルカンを主原料とし、融解後の再構成という手順を経て生成する。
主原料となるβ−1,3−1,6−グルカンの分子構造は、グルコースがたくさん結合した鎖のような構造をしていると推定されており、自然状態では3本の分子鎖が互いに影響し合って三重螺旋構造を形成して粒子状になっていると推定されている。
【0015】
ここで、β−1,3−1,6−グルカンに対して0.316M以上の濃度の水酸化ナトリウム水溶液に溶解させると、三重鎖構造が融解し、一本鎖ランダムコイル構造へと転移することが知られている。
逆に、その溶液を中和すると、一本鎖ランダムコイル構造は三重鎖構造へと部分的に巻き戻り、一本鎖構造や二本鎖構造や三重鎖構造が混在する状態で再構成される。
【0016】
本発明では、この融解後に部分的に不完全な構造を残しつつ、再構成されるβ−1,3−グルカンの性質を利用し、疎水性分子を包接するのに適した分子構造を持つ包接剤を生成する。この一度三重鎖構造を一本鎖ランダムコイル構造に融解した後に再度、一本鎖と二重鎖と三重鎖が混在する不完全螺旋構造に再構成したものを「融解後再構成β−1,3−1,6−グルカン」と定義する。
【0017】
本発明の疎水性物質包接剤は、この融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを主成分とするものを疎水性物質包接剤として利用する。
本発明の疎水性物質包接剤は包接ホストとなり、この包接ホストに対して包接ゲストを一括投入して撹拌するのみという1工程処理で包接処理を行うことができるものである。従来のβ−1,3−1,6−グルカンは、包接ホストとして一旦、アルカリ溶液などの融解処理を通じて三重螺旋構造を一本鎖のランダムコイル構造に融解する工程と、その後、アルカリ条件のまま包接ゲストを投入したのち、酸などの中和剤の投入・撹拌処理という包接する工程の2工程処理が必要であるところ、本発明の疎水性物質包接剤では、一括投入の1工程処理のみで完了できる。
【0018】
後述するように実験の結果、疎水性物質を包接する包接力があることが実証され、包接ゲストの溶液に対して、投入して撹拌するだけで包接させることができることが実証されており、いわゆる1つの工程で包接処理を行うことができるという優れた性質を持つものである。従来の2つの工程を必要としたβ−1,3−1,6−グルカンの包接処理に比べて工程を簡素化することができ、全体の包接処理時間も短縮することができる。
【0019】
ここで、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの持つ包接の原理としては、一本鎖と二重鎖と三重鎖が混在する不完全螺旋構造となっているため、分子構造のいわゆる“隙間”から疎水性分子が入り込み、内部に捉えられるという包接モデルとして説明することができる。
【0020】
なお、分子構造のいわゆる“隙間”に対する疎水性物質の取り込みを促進するため、上記の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを主成分とする疎水性物質包接剤に対して、水素結合性官能基を有する水素結合性分子を包接添加剤として配合することが好ましい。
後述するように実験の結果、水素結合性分子を包接添加剤として配合すると包接が促進されることが実証されたが、包接が促進される原理としては、水素結合性分子が提供する水素結合性官能基の働きにより一本鎖と二重鎖と三重鎖が混在する不完全螺旋構造の“隙間”が拡張され、疎水性物質が取り込まれやすくなっているものとして説明することができる。
【0021】
なお、包接添加剤を添加しても不完全螺旋構造のβ−1,3−1,6−グルカンの不完全螺旋構造の隙間が拡がるものの、一本鎖ランダムコイル構造へと融解してしまうと再度、酸などで中和する必要が生じるため、本発明の包接ゲスト−包接ホスト−包接添加剤の一括投入による1工程処理というメリットがなくなるので、水素結合性分子としては、不完全螺旋構造のβ−1,3−1,6−グルカンの不完全螺旋構造の隙間を拡げるものの、一本鎖ランダムコイル構造には融解しない化合物を選択すべきである。
【0022】
包接添加剤として0.316M以下の濃度の水酸化ナトリウムがある。この濃度の水酸化ナトリウムであれば、不完全螺旋構造のβ−1,3−1,6−グルカンの不完全螺旋構造の隙間を拡げるものの、一本鎖ランダムコイル構造には融解しない。
次に、包接添加剤として水素結合性官能基をもつアルコール化合物がある。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、エチレングリコール、グリセロール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、ラクトース、トレハロース、フェノール、ベンジルアルコール、トリフルオロエタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノールのようなアルコール化合物がある。
また、包接添加剤として水素結合性官能基をもつアミド化合物がある。例えば、尿素、アセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドのようなアミド化合物がある。
また、包接添加剤として水素結合性官能基をもつケトン化合物がある。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンのようなケトン化合物がある。
また、包接添加剤として水素結合性官能基をもつアミン化合物がある。例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、N,N−ジイソプロピル−N−エチルアミン、エチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’ −テトラメチルエチレンジアミン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピペラジン、スペルミン、スペルミジン、アニリンのようなアミン化合物がある。
また、包接添加剤として水素結合性官能基をもつカルボン酸化合物がある。例えば、酢酸、プロピオン酸、吉草酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、マレイン酸、ピルビン酸、安息香酸のようなカルボン酸化合物がある。
また、複数の水素結合性官能基を分子内に併せ持つものがある。例えば、アミノエタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルピペラジン、カテコールアミン、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、アミノ酸(アルギニン、リジン、グリシン、アラニン、ロイシン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸など)がある。
さらに、上記したものの縮合物もあり得る。
上記したものの組み合わせも可能である。
【0023】
これら物質であれば、後述するように実験において、包接添加剤である水素結合性分子が提供する水素結合性官能基における極性の強さが適度であり、一本鎖ランダムコイル構造までに融解しないことが実証されている。
【0024】
次に、包接ゲストとなる疎水性物質としては多様なものがある。
包接され得る疎水性物質として、疎水性のビタミン及びその誘導体がある。例えば、ビタミンA、β−カロテン、レチナール、レチノール、トコフェロール(ビタミンE)、ビタミンB12、ビタミンD、ビタミンK、DHA、EPAのようなビタミンがある。
また、包接され得る疎水性物質として、ポリフェノール及びその誘導体がある。例えば、カテキン、アントシアニン、タンニン、セサミン、クルクミンのようなものがある。
また、包接され得る疎水性物質として、疎水性の薬剤及びその誘導体がある。例えば、プロトポルフィリンIX、サフィリンのような疎水性の薬剤及びその誘導体がある。他にも疎水性の薬剤や誘導体として該当するものは多数ある。
また、包接され得る疎水性物質として、シコニン、シコニン誘導体のような疎水性の生薬・外用薬や染色剤及びその誘導体がある。
また、包接され得る疎水性物質として、フラーレン、グラフェン、カーボンナノチューブのような疎水性の炭素素材及びその誘導体がある。
また、包接され得る疎水性物質として、オリゴ・ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性高分子及びその誘導体がある。
また、包接され得る疎水性物質として、疎水性のナノ粒子がある。ナノ粒子化された金、銀、白金、セレン化カドミウム、セレン化亜鉛、酸化亜鉛、酸化チタン及びその誘導体がある。これらは触媒や顔料や発光材料として有用なものが多く知られている。
上記したもののいずれか、または、それらの組み合わせとすることができる。
【0025】
上記の疎水性物質を可溶化することは有用な技術である。ごく一例であるが、疎水性であるシコニンやシコニン誘導体(アセチルシコニンなど)は優れた生理、薬理機能を持っており、アレルギーやアトピーの原因物質となるヒスタミンの抑制作用、抗炎症作用、抗菌作用、創傷に対する治癒促進作用などが知られた有用物質であり、このシコニンを包接により可溶化することにより、優れた生理・薬理機能を持つ食品や医薬品を提供することが可能となる。
【0026】
本発明は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを主成分とする疎水性物質包接剤の提供のみならず、当該疎水性物質包接剤を包接ホストとし、シコニンやシコニン誘導体などの有用物質を包接ゲストとして可溶化して製造した疎水性物質包含薬剤も発明の範囲となる。
【0027】
次に、本発明にかかる疎水性物質を可溶化する方法は、三重鎖構造のβ−1,3−1,6−グルカンを原材料として、前記三重鎖構造を融解する融解剤によって前記三重鎖構造のβ−1,3−1,6−グルカンを一本鎖ランダムコイル構造へと融解させ、前記融解剤を中和する中和剤によって前記一本鎖ランダムコイル構造を一本鎖と二重鎖と三重鎖が混在する不完全螺旋構造のβ−1,3−1,6−グルカンへと再構成させて生成した融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを包接剤として用いる。疎水性物質を包含する溶液中に当該融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを投入し、疎水性物質を包接させて可溶化する方法である。
なお、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを包含する溶液中に、疎水性物質を投入するとともに、水素結合性官能基を有する水素結合性分子を包接添加剤として添加することも好ましい。水素結合性分子により融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの包接力を向上させることができ、可溶化を促進することができるからである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの包接機能比較実験の結果を示す図である。
図2】水酸化ナトリウム、AMPを添加剤に用いた場合のコンゴレッドの極大吸収波長変化を示す図である。
図3】本発明の包接添加剤である水素結合性分子の化学構造を示した図である。
図4】融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに対する水素結合性分子の包接添加剤の添加による包接機能向上実験結果を示す図である。
図5】従来の非融解β−1,3−1,6−グルカンに対する水素結合性分子の包接添加剤の添加による包接機能向上実験結果を示す図である。
図6】水酸化物イオンを包接添加剤とした場合の包接実験結果を示す図である。
図7】溶液のpHと融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの疎水性物質の包接機能との関係を検証した実験を示す図である。
図8】融解後再構成、非融解β−1,3−1,6−グルカンを包接ホストとした場合の疎水性分子包接体の40℃における安定性の実験結果を示す図である。
図9】β-カロテン、ビタミンE、カテキン、タンニン酸、シコニン、プロトポルフィリンIX、ターチオフェンの構造式を示す図である。
図10】融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるβカロテンの包接実験結果を示す図である。
図11】融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるビタミンEの包接実験結果を示す図である。
図12】融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるタンニン酸の包接実験結果を示す図である。
図13】AMPの非存在下、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるシコニンの包接実験結果を示す図である。
図14】AMPの存在下(1wt%)、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるシコニンの包接実験結果を示す図である。
図15】融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるターチオフェンの包接実験結果を示す図である。
図16】融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるカテキンの包接実験結果を示す図である。
図17】融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるプロトポルフィリンIXの包接実験結果を示す図である。
図18】酸化チタン溶液を撹拌して24時間後の粒子分散の様子を写した図である。
図19】口腔内細胞モデルに対するWST-8法を用いた測定結果を示す図である。
図20】ヒト頬粘膜扁平上皮癌由来HO-1-N-1細胞を用いたIL-6の生成量の変化から融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカン包接シコニンによる炎症抑制効果の評価結果を示す図である。
図21】ヒト頬粘膜扁平上皮癌由来HO-1-N-1細胞を用いたp38 MAPK活性化の変化から融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカン包接シコニンによる炎症抑制効果の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の疎水性物質包接剤の実施形態を説明する。なお、以下の実施形態、実施例は、一例に過ぎず、本発明の疎水性物質包接剤の調製法、効果の実証を提示するものであって本特許の権利を制限するものではない。
【実施例1】
【0030】
[本発明の疎水性物質包接剤の調製]
以下、本発明の疎水性物質包接剤の生成について述べる。
本発明の疎水性物質包接剤は、β−1,3−1,6−グルカンを主原料とし、融解後の再構成という手順を経て生成する。
融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの具体的な調製方法としては、β−1,3−1,6−グルカンに対してアルカリ融解、DMSOなどの有機溶媒を添加することで、三重鎖構造を融解させ、その後、塩酸、クエン酸、酢酸等の酸、もしくは蒸留水による透析操作等によって中和し、三重鎖を再構成させる。
【0031】
[主原料]
主原料となるβ−1,3−1,6−グルカンの分子構造は、グルコースがたくさん結合した分子鎖が影響し合って三重螺旋構造を形成している。例えば、主鎖となるβ−1,3−グルカンの結合量の違い(分子量の違い)やβ−1,3−グルカンに部分的に導入されるβ−1,6−グルコシド側鎖の導入率などによって、さまざまなバリエーションがある。
一例として、β−1,3−グルカン主鎖にβ−1,6−グルコシドの分岐鎖を73%もつβ−1,3−1,6−グルカンを原料として用いた例を示す。原料として用いたβ−1,3−1,6−グルカンの分子量を、サイズ排除クロマトグラフィー(担体:トヨパール(HW-65F)30mmφ×920mm、溶離液:0.7M水酸化ナトリウム水溶液、分子量スタンダード:プルラン(Shodex社製、P−82))にて確認したところ、多糖主鎖一本あたりの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、分子量分散(Mw/Mn)は、それぞれ3,180,000、115,000、27.7であることが見積もられた。
【0032】
[三重鎖構造の融解処理]
まず、原料の三重鎖螺旋構造を融解させ、一本鎖のランダムコイル状にする必要がある。融解処理は2種類あり、その一つは水酸化ナトリウム水溶液のようなアルカリ水溶液に溶解させるものである。β−1,3−1,6−グルカンに対して0.316M以上の濃度のアルカリ溶液に溶解させると、三重鎖構造が融解し、一本鎖ランダムコイル構造へと融解することが知られている。
もう一つはジメチルスルホキシド(DMSO)のような非プロトン性極性溶剤に溶解させることである(水は17vol%以下である)。
ここでは、前者の処理方法を用い、β−1,3−1,6−グルカン50mgを0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液500μLに溶解させた(10wt%)。
【0033】
[三重鎖構造への再構成]
一本鎖ランダムコイル状になったβ−1,3−1,6−グルカンを、融解条件を排除することにより、分子鎖の螺旋構造への再構成を行う。アルカリ水溶液を用いた場合には系内を塩酸、クエン酸、酢酸等の酸の添加により中性に戻せばβ−1,3−1,6−グルカンは分子鎖の螺旋構造に戻る。非プロトン性極性溶媒を用いた場合は透析や希釈することによりβ−1,3−1,6−グルカンは分子鎖の螺旋構造に戻る。この操作では、融解前の完全な三重鎖構造に戻らず、部分的に巻き戻って一本鎖構造や二本鎖構造や三重鎖構造が混在する不完全螺旋構造に再構成した“融解後再構成β−1,3−1,6−グルカン”を得ることが可能である。
【0034】
ここでは、上記の融解液に対して、500μLの0.5Mの塩酸水溶液を加え、中和して融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを調製した。
グルカン濃度はβ−1,3−1,6−グルカンの溶解度(分子量や側鎖分岐度による水溶性)によって変わる。融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンとして、下記の表1に記載したサンプル1からサンプル5の0.025wt%〜2.5wt%の5つの濃度のものを試作した。
【0035】
【表1】
【0036】
ここで、試作した融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンが、三重鎖構造に再構成されていることを確認した。β−1,3−1,6−グルカンの構造変化を確認するには、色素分子であるコンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長のシフトの有無を調べることが有効である。
【0037】
ここで、色素分子であるコンドレッドの会合の仕方にはH型会合体とJ型会合体の2通りが知られている。H型会合体は、各分子が互いに向きを反対にして並列的に重なることで形成される会合体であり、一方、J型会合体は、各分子の向きは同じであるが、斜めにずれて重なることにより形成される会合体である。単一分散している場合に比べてH型会合が起これば紫外−可視領域の吸収スペクトルが低波長側にシフトし、J型会合が起これば逆に長波長側へシフトすることで評価できる。ここでは、水酸化ナトリウム水溶液を用いてアルカリ融解して融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを調製しているので、コンゴレッドはJ型会合を起こす。そこで、紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長の長波長シフトの有無を観察した。
試作した各々の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンのサンプルに対してコンゴレッド水溶液を混合し、測定試料を調製した。各成分の最終濃度は、β−1,3−1,6−グルカンは1.0mM、コンゴレッドは2.0×103mg/mLに合わせた。測定試料は、UVセルに移し、吸収スペクトルでコンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長を調べた。
【0038】
【表2】
【0039】
一本鎖ランダムコイル状のβ−1,3−1,6−グルカン、完全な三重螺旋状態の非融解β−1,3−1,6−グルカンにおけるコンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長はそれぞれ、490−495nmおよび510.5nmである。
【0040】
表2に示すコンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長の測定結果から、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの数値は、非融解β−1,3−1,6−グルカンの数値よりも長波長側へシフトしていることが分かる。また、コンゴレッドが会合している範囲であることから、一本鎖のランダムコイル構造へは融解していないことも確認できる。導かれる結論としては、試作した融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは一本鎖構造や二本鎖構造や三重鎖構造が混在する不完全螺旋構造に再構成されていることが確認できた。
【0041】
次に、生成した本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを主成分とする疎水性物質包接剤が包接機能を発揮することを検証した。
疎水性物質として難溶性アゾ色素(4−(4−ニトロフェニルアゾ)アニソール)を用いて包接機能を検証した。
【0042】
本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの最終濃度がβ−1,3−グルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように溶解させた水溶液を調製した。そこに、アゾ色素の最終濃度が100μMになるようアゾ色素のメタノール溶液を入れ(メタノールの添加量は1vol%)、25℃で24時間撹拌した。つまり、本発明の包接剤の施用手順である、包接ゲストと包接ホストの一括投入・撹拌という1工程手法を試した。なお、この際、溶解・分散されなかったアゾ色素は沈殿した。撹拌溶液を小型遠心分離で2分間処理した後、上澄みの吸光度(360nm)を測定した。上澄みの吸光度(360nm)の測定値は包接されて溶液中に存在するアゾ色素の量に比例している。
比較のため、“包接剤なし”と包接剤として“非融解β−1,3−1,6−グルカン”を用いたケースについても同様の方法でアゾ色素の吸光度を測定した。なお、これら比較実験も、本発明の目指す包接ゲストと包接ホストの一括投入・撹拌という1工程手法で行うこととし、従来手法のように包接ホストをアルカリ溶液で一度溶解してから、包接ゲストを投入して酸で中和するという2工程で行う包接手順とはしなかった。
【0043】
【表3】
【0044】
それぞれの吸光度360nmの測定結果を図1にまとめた。
図1に示すように、溶液中のアゾ色素の分散量は、試験番号1(包接剤なし)<試験番号2(非融解β−1,3−1,6−グルカン)<試験番号3(融解後再構成β−1,3−1,6−グルカン)の順に多くなることが分かった。
試験番号1(包接剤なし)の結果より、アゾ色素は難溶性であるが、包接ホストなしでもある程度は水に分散して存在することが分かる。
また、試験番号2(非融解β−1,3−1,6−グルカン)の結果より、非融解β−1,3−1,6−グルカンは三重螺旋構造を融解しなくても疎水性物質がある程度は直接内部に入り込む性質があることが確認できる。
試験番号3(融解後再構成β−1,3−1,6−グルカン)の結果より、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは、もっとも包接量が多く、自然状態の従来の非融解β−1,3−1,6−グルカンに比べて、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは疎水性物質の包接量が向上していることが検証できた。
【0045】
上記の実験は、アゾ色素を用いた検証であるが、アゾ色素は疎水性物質として汎用的に包接の確認に用いられるものであり、アゾ色素を用いた包接の検証実験により、自然状態の従来の非融解β−1,3−1,6−グルカンに比べて、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの持つ疎水性物質の包接機能の向上が検証できたと言える。
【実施例2】
【0046】
次に、実施例2として、包接を促進させる添加剤を添加した疎水性物質包接剤について述べる。
実施例1で確認できたように、本発明の疎水性物質包接剤は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンが一本鎖構造や二本鎖構造や三重鎖構造が混在する不完全螺旋構造を持つものであり、疎水性物質の包接は、不完全螺旋構造のいわゆる“隙間”から疎水性物質が融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの内部に入り込むものである。ここで、不完全螺旋構造のいわゆる“隙間”の拡張を制御できれば包接が促進すると考えられる。そこで、本発明者らは、本発明の疎水性物質包接剤の不完全螺旋構造をさらに解きほぐして構造の隙間を拡げつつ、かつ、一本鎖のランダムコイル構造には融解しないような添加剤について研究した。
【0047】
研究の結果、0.316M以上の水酸化ナトリウムを添加するアルカリ水溶液などは、β−1,3−1,6−グルカンの螺旋構造を融解していくが、[0023]で示す水素結合性分子は、β−1,3−1,6−グルカンの螺旋構造を融解しないことがわかった。水酸化ナトリウムと同様に溶液のpHをアルカリ性へと変化させる2−アミノ−2−メチルプロパノール(AMP)などのアミン系水素結合性分子溶液では、不完全螺旋構造β−1,3−1,6−グルカンの螺旋構造の隙間を拡張し、かつ、一本鎖のランダムコイル構造には融解しないようコントロールできることが分かった。
【0048】
本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに対する包接添加剤として、水素結合性分子溶液であるAMP水溶液を用いて、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの螺旋構造の変化について調べた。なお、比較の対象として、包接添加剤としてアルカリ水溶液である水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合も調べた。
融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの螺旋構造の変化は実施例1と同様、コンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長のシフトにより確認した。
【0049】
各成分の最終濃度は、β−1,3−1,6−グルカンは、グルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mM、水酸化ナトリウムおよびAMPは0〜5wt%、コンゴレッドは2.0×103mg/mLに合わせた。測定試料は、UVセルに移し、吸収スペクトルでコンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長を調べた。
【0050】
図2は、水酸化ナトリウム、AMPを添加剤に用いた場合のコンゴレッドの極大吸収波長変化を示す図である。
【0051】
図2の結果から以下のことが導かれる。
まず、図2の●印で示す融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンにAMPを添加剤としたものは、AMPの添加量を増やしても、pHが11.6程度で頭打ちとなり、コンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長も530付近でほとんど変動しなかった。つまり、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの不完全螺旋構造が維持された状態であり、一本鎖ランダムコイル構造へ融解することはなかった。つまり、AMPを添加剤とした場合、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは包接剤としての機能を失わないことが確認できた。
【0052】
次に、図2の○印で示す非融解β−1,3−1,6−グルカンにAMPを添加剤としたものは、AMPの添加量を増やしても、やはりpHが11.6程度で頭打ちとなり、コンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長も510付近のままほとんど変動しなかった。つまり、非融解β−1,3−1,6−グルカンの螺旋構造は完全な三重螺旋構造が維持された状態であり、一本鎖ランダムコイル構造へ融解することはなかった。
【0053】
一方、図2の▲印で示す融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに水酸化ナトリウムを添加剤として加えたものは、水酸化ナトリウムの量を増やすと、pH12.5以上になると、一本鎖ランダムコイル構造への融解を示すコンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長の大きなシフトが見られた。
【0054】
また、図2の◇印で示す非融解β−1,3−1,6−グルカンに水酸化ナトリウムを添加剤として加えたものは、水酸化ナトリウムの量を増やすと、pH12.5以上になると、一本鎖ランダムコイル構造への融解を示すコンゴレッドの紫外−可視領域の吸収スペクトルの極大吸収波長の大きなシフトが見られた。
【0055】
結論として、AMPなどの水素結合性分子は、添加剤として加えても、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの不完全螺旋構造が維持された状態であり、一本鎖ランダムコイル構造へ融解しないことが明らかとなった。一方、水酸化ナトリウム水溶液では濃度が上昇しすぎると一本鎖ランダムコイル構造へ融解してしまうおそれがあることが分かる。
つまり、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに対する包接添加剤として、AMPなどの水素結合性分子が適していると結論づけることができる。
【0056】
[水素結合性分子を包接添加剤とした場合の包接機能向上の検証]
次に、本発明の包接添加剤の添加により、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに対する包接機能が向上できることを検証する。
疎水性物質として、実施例1と同様、難溶性アゾ色素を用いて包接機能を検証した。
【0057】
本発明の包接添加剤である水素結合性分子として、下記の図3に示すアルコール化合物からトリフルオロエタノール(TFE)、アミド化合物から尿素、アセトアミド、ケトン化合物からアセトン、アミン化合物からトリエチルアミン、カルボン酸化合物から酢酸、複数の水素結合性官能基を分子内に併せ持つ化合物から2−アミノ−2−メチルプロパノール(AMP)、グリシン、アルギニンの9種類の試験区分(番号4〜12)を用意して検証した。比較のために、添加剤も包接剤もない試験区分(番号1)と添加剤なしで本発明の包接剤のみの試験区分(番号3)も用意した。
【0058】
図3は、本発明の包接添加剤である水素結合性分子の化学構造を示した図である。
本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように溶解させ、さらに包接添加剤を1wt%の濃度で加えた水溶液を調製した。そこにアゾ色素の最終濃度が100μMになるようアゾ色素のメタノール溶液を投入し、25℃で24時間撹拌した。つまり、本発明の包接剤の施用手順である、包接ゲストと包接ホストと包接添加剤の一括投入・撹拌という1工程手法を試した。なお、この際、溶解・分散されなかったものは沈殿した。撹拌溶液を小型遠心分離で2分間処理した後、上澄みの吸光度(360nm)を測定した。上澄みの吸光度(360nm)の測定値は包接されて溶液中に存在するアゾ色素の量に比例している。
【0059】
【表4】
【0060】
それぞれの吸光度360nmの測定結果を図4にまとめた。
図4は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに対する水素結合性分子の包接添加剤の添加による包接機能向上実験結果を示す図である。
図4の実験結果から以下のことが導かれる。
本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに対して包接添加剤を添加していない番号3の試験区分の結果に比べ、融解後再構成したβ−1,3−1,6−グルカンに水素結合性化合物を包括添加剤として共存させたすべての試験区分(番号4−12)でアゾ色素の分散度が大きく向上した。
【0061】
以上の結果から、水素結合性分子を包接添加剤として加えることにより明らかに包接処理能力が向上していることが検証できた。
【0062】
次に、比較のため、従来型の天然状態の三重螺旋構造の非融解β−1,3−1,6−グルカンを包接剤とした用いた試験区分(番号2、10〜15)も用意してアゾ色素の分散を調べた(表5)。
【0063】
【表5】
【0064】
それぞれの吸光度360nmの測定結果を図5にまとめた。
図5は、従来の非融解β−1,3−1,6−グルカンに対する水素結合性分子の包接添加剤の添加による包接機能向上実験結果を示す図である。
図5に示すように、従来の非融解β−1,3−1,6−グルカンを用いた場合、包接添加剤を添加していない番号2の試験区分の結果に比べ、従来の非融解β−1,3−1,6−グルカンに水素結合性化合物を包括添加剤として共存させた番号13、17、19、20、21の試験区分ではアゾ色素の分散度が少し向上したが、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンで見られたような大幅な包接処理能力の向上効果は確認されなかった。また、番号14、15、16、18ではかえって包接処理能力が低下していることがわかる。
【0065】
番号13、17、19、20、21の試験区分では包接処理能力の向上は小さいながらも包接処理能力の向上が確認されており、水素結合性分子の包接処理能力向上効果は非融解、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの間で共通に働くもの(β−1,3−1,6−グルカンの高次構造をほぐし、疎水性物質を包接するのを補助するもの)と考えられるが、番号14、15、16、18での包接処理能力の低下により、従来の完全な三重鎖構造の状態では、水素結合性分子は包接添加剤としてかならずしも機能するとは言えないことが分かる。
【0066】
以上の検証結果から、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに対して、水素結合性分子の包接添加剤は包接処理能力を向上させることが検証できた。
また、上記の実験は、アゾ色素を用いた検証であるが、アゾ色素は疎水性物質として汎用的に包接の確認に用いられるものであり、アゾ色素を用いた包接処理能力向上の検証実験により、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに対する包接添加剤による包接機能の向上が検証できたと言える。
【実施例3】
【0067】
[0.316M以下の濃度の水酸化ナトリウムを包接添加剤とした場合の包接機能向上の検証]
実施例3として、0.316M以下の濃度の水酸化ナトリウム(水酸化物イオン)を包接添加剤として用いる実施例について述べる。
疎水性物質として、実施例1、実施例2と同様、難溶性アゾ色素を用いて包接機能を検証した。
【0068】
包接添加剤に用いる水酸化ナトリウムの濃度として、0.2Mの濃度で検証した(試験区分番号22)。比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号1)と、包接剤のみで包接添加剤が無い試験区分(番号3)も用意してアゾ色素の分散を調べた。(表6)
【0069】
【表6】
【0070】
それぞれの吸光度360nmの測定結果を図6にまとめた。
図6は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに対して水酸化物イオンを包接添加剤とした場合の包接機能向上実験の測定結果を示す図である。
図6の実験結果から以下のことが導かれる。
図6に示すように、0.2Mの水酸化ナトリウムを包接添加剤として添加した番号22は、包接添加剤を添加していない番号3の試験区分の結果に比べ、包接処理能力の向上が確認された。ここで、実施例1の図2に示しているように、0.316M以下の水酸化ナトリウム濃度では、β‐1,3‐1,6‐グルカンの螺旋構造は融解しない。このことから、図6の実験で用いた0.2Mの水酸化ナトリウム濃度では融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンは完全には融解せず一本鎖構造や二本鎖構造や三重鎖構造が混在する構造をとっていると考えられる。水酸化ナトリウムが電離した水酸化物イオンは水素結合のアクセプターとなり得、本実験結果から水酸化物イオンも水素結合性分子と同様に包接添加剤として機能することが示された。
【実施例4】
【0071】
[包接添加剤存在下における溶液のpHと融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの包接特性との関係の検証]
実施例4として、本発明の包接剤である融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの包接特性とpHの関係について検証しておく。
包接添加剤としてAMPを1wt%の濃度で加えて水溶液を調製し、pHの影響を調べるため、pH1からpH11.6程度の範囲で、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接量の違いについて調べた。
疎水性物質として、実施例1から実施例3と同様、疎水性アゾ色素を用いて包接機能を検証した。
【0072】
包接添加剤をAMPとし、塩酸100mL添加によりpHを1に調整した試験区分を用意して検証した(番号23)。塩酸を添加せずにAMPのみの添加でpH11.6の試験区分(番号10)を用意した。また、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号1)と、本発明の包接剤のみで包接添加剤が無い試験区分(番号3)も用意してアゾ色素の分散を調べた。(表7)
【0073】
【表7】
【0074】
それぞれの吸光度360nmの測定結果を図7にまとめた。
図7は、包接添加剤存在下における溶液のpHと融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの疎水性物質の包接機能との関係を検証した実験結果を示す図である。
図7の実験結果から以下のことが導かれる。
図7に示すように、pH1の試験区分(番号23)もpH11.6の試験区分(番号10)もコントロールの試験区分(番号1、3)に比べて包接処理能力の向上が見られ、かつ、両者には大きな差がないことが分かる。つまり、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる疎水性物質の包接において、包接添加剤(ここではAMPを使用)が存在すれば、その溶液のpH自体は包接特性に影響を及ぼさないことが示された。
【実施例5】
【0075】
[融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの包接特性の安定性の検証]
実施例5として、本発明の包接剤である融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの包接特性の安定性について検証した。
ここ言う安定性とは、本発明の包接剤がホストとして、ゲストである疎水性物質を包接した後も取り込んだ疎水性物質を安定に保持することができる能力のことである。
【0076】
本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1mMになるように溶解させ、さらに本発明の包接添加剤の一つであるAMPを1wt%の濃度で加えた水溶液を調製した。そこにアゾ色素の最終濃度が100μMになるようアゾ色素のメタノール溶液を投入、25℃で20秒間撹拌した。つまり、本発明の包接剤の施用手順である、包接ゲストと包接ホストと包接添加剤の一括投入・撹拌という1行程手法を用いて包接処理を行った。このように包接処理を行った後、撹拌溶液を小型遠心分離器で2分間処理した後、上澄みの吸光度(360nm)を40℃で20時間測定し、その安定性を検証した。なお、この際、溶解・分散されなかったものは沈殿した。上澄みの吸光度(360nm)の測定値は包接されて溶液中に存在するアゾ色素の量に比例している。
【0077】
包接添加剤をAMPとした試験区分(番号19)、比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号1)と、従来型の非融解グルカンの包接剤のみで包接添加剤が無い試験区分(番号2)と、本発明の包接剤のみで包接添加剤が無い試験区分(番号3)と、従来型の非融解グルカンの包接剤と包接添加剤を用いた試験区分(番号10)も用意してアゾ色素の分散を調べた。(表8)
【0078】
【表8】
【0079】
測定時間に対する吸光度360nmの測定結果をそれぞれ図8にまとめた。
図8は、融解後再構成、非融解β−1,3−1,6−グルカンを包接ホストとした場合の疎水性分子包接体の40℃における安定性の実験結果を示す図である。
【0080】
図8の実験結果から以下のことが導かれる。
本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは疎水性分子と混合後、その大半を包接する。その包接が完了するのは疎水性物質添加後、8時間程度である。本実験では、包接されなかった分子は時間経過と共に沈殿する。また同時に、包接された疎水性分子は、ホストとなるβ−1,3−1,6−グルカンの熱運動によってホストから除放されていく場合もある。図8において、アゾ色素のみでは20時間後も360nmの吸光度は低下していっている。同様に非融解β−1,3−1,6−グルカンを共存させた場合もアゾ色素のみと比較して緩やかであるが、吸光度の低下が見られる。一方、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは水素結合性分子を添加してもしなくても吸光度の低下は抑制されており、包接された疎水性分子は安定にホストである融解後再構成β−1,3−1,6−グルカン内に保持されていることがわかる。すなわち、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは疎水性物質の包接量が高いだけでなく、包接後も取り込んだ疎水性物質を安定に保持する特徴ももつことが示された。
【実施例6】
【0081】
[融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンが包接特性を発揮し得るゲスト分子の多様性に関する検証]
上記実施例1から5においては、疎水性物質として、アゾ色素を用いて本発明の包接剤である融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンが示す包接特性を検証してきた。ここでは、本発明がアゾ色素以外の種々の疎水性物質に対しても効果を発揮することを検証する。
【0082】
一般に、アゾ色素を包接できれば、特別に阻害要因がない限り汎用的に包接特性を持つと考えて良いが、実際にアゾ色素以外の種々の疎水性の栄養素、薬剤、染料等をゲスト分子として用いて、包接特性を評価した。
【0083】
実験に使用した疎水性物質は、栄養素およびその誘導体として“β-カロテン”、ビタミン及びその誘導体の一例として“ビタミンE”、ポリフェノール及びその誘導体の一例として“カテキン”および“タンニン酸”、疎水性の薬剤及びその誘導体の一例として“プロトポルフィリンIX”、疎水性の生薬・外用薬や染色剤及びそれらの誘導体の一例として“シコニン”、疎水性の導電性高分子及びその誘導体の一例として“ターチオフェン”、疎水性のナノ粒子として“酸化チタンナノ粒子”の8種類である。
図9にβ-カロテン、ビタミンE、カテキン、タンニン酸、シコニン、プロトポルフィリンIX、ターチオフェンの構造式を示す。
【0084】
以下、順に、β−カロテンに対する包接特性、ビタミンEに対する包接特性、タンニン酸に対する包接特性、シコニンに対する包接特性、ターチオフェンに対する包接特性、カテキンに対する包接特性、プロトポルフィリンIXに対する包接特性、酸化チタンナノ粒子に対する包接特性を説明する。
なお、以下の実証では、本発明の包接添加剤を用いる試験区分については、1wt%濃度AMPを用いた。
【0085】
[(6−1)融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる栄養素およびその誘導体の一例としてのβ-カロテンに対する包接特性]
実施例6−1として、栄養素およびその誘導体の一例としてのβ−カロテンに対する融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接特性に関する実験結果を述べる。
【0086】
以下のように試験区分を調製して測定を行った。
本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように容積0.5μLのプラスチックチューブに溶解させ、さらに包接添加剤であるAMPを1wt%の濃度で加えた水溶液を調製した(溶液の総量200μL)。そこにβ−カロテンのアセトン溶液を投入し、25℃で10秒間激しく撹拌(ボルテックス)した(β−カロテンの最終濃度は2μM、アセトンの体積分率は1%)。なお、この際、溶解・分散されなかったβ−カロテンは沈殿した。撹拌溶液を小型遠心分離機で2分間処理した後、上澄みの吸光度(424nm)を測定した(番号27)。ここで、上澄みの吸光度(424nm)の測定値は包接されて溶液中に存在するβ−カロテンの量に比例する。
【0087】
比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号24)と、本発明の包接剤のみで包接添加剤が無い試験区分(番号25)、包接添加剤のみで包接剤が無い試験区分(番号26)も用意してβ−カロテンの分散を調べた(表9)。
【0088】
【表9】
【0089】
それぞれの吸光度424nmの測定結果を図10にまとめた。
図10は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるβカロテンの包接実験結果を示す図である。
図10に示すように、試験区分26と試験区分27との比較より、本発明の包接剤である融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは、本発明の包接添加剤であるAMPの存在下で424nmの吸光度が上昇している。すなわち、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンはβ−カロテンに対しても、本発明の包接添加剤の存在下において、包接、分散させる能力をもつことが示された。
上記実験に用いたβ-カロテンは栄養素およびその誘導体の一例である。大きな阻害要因がない限り、β-カロテンと同様に、本発明の包接剤および包接添加剤は、栄養素およびその誘導体に対して汎用的に使用できるものである。
【0090】
[(6−2)融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによるビタミン及びその誘導体の一例としてのビタミンEに対する包接特性]
実施例6−2として、ビタミン及びその誘導体の一例として、ビタミンEに対する融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接特性に関する実験結果を述べる。
【0091】
以下のように試験区分を調製して測定を行った。
本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように容積が0.5μLのプラスチックチューブに溶解させ、さらに包接添加剤であるAMPを1wt%の濃度で加えた水溶液、加えない水溶液をそれぞれ調製した(溶液の総量200μL)。そこにビタミンEのアセトン溶液を投入し、25℃で10秒間激しく撹拌(ボルテックス)した(ビタミンEの最終濃度は10μM、アセトンの体積分率は1%)。なお、この際、溶解・分散されなかったビタミンEは液状化して浮遊した。撹拌溶液を小型遠心分離機で2分間処理した後、浮遊したビタミンEを除く上澄みの吸光度(265nm)を測定した(番号31)。ここで、上澄みの吸光度(265nm)の測定値は包接されて溶液中に存在するビタミンEの量に比例する。
【0092】
比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号28)と、本発明の包接剤のみで包接添加剤が無い試験区分(番号29)、包接添加剤のみで包接剤が無い試験区分(番号30)も用意してビタミンEの分散を調べた(表10)。
【0093】
【表10】
【0094】
それぞれの吸光度265nmの測定結果を図11にまとめた。
図11は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるビタミンEの包接実験結果を示す図である。
図11に示すように、試験区分28と試験区分29との比較より、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは、包接添加剤であるAMPの非存在下であっても265nmの吸光度が上昇している。また、試験区分30と試験区分31との比較より、包接添加剤であるAMPの存在下でも、265nmの吸光度が上昇している。すなわち、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンはビタミンEに対しても包接、分散させる能力をもつことが示された。
上記実験に用いたビタミンEはビタミンおよびその誘導体の一例である。大きな阻害要因がない限り、ビタミンEと同様に、本発明の包接剤および包接添加剤は、ビタミンおよびその誘導体に対して汎用的に使用できるものである。
【0095】
[(6−3)融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる疎水性の薬剤及びその誘導体の一例としてのタンニン酸に対する包接特性]
実施例6−3として、疎水性のポリフェノール及びその誘導体の一例としてタンニン酸に対する融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接特性に関する実験結果を述べる。
【0096】
以下のように試験区分を調製して測定を行った。
本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように容積0.5μLのプラスチックチューブに溶解させ、さらに包接添加剤であるAMPを1wt%の濃度で加えた水溶液、加えない水溶液をそれぞれ調製した(溶液の総量500μL)。そこにタンニン酸の水溶液を投入し、25℃で10秒間激しく撹拌(ボルテックス)した(タンニン酸の最終濃度は10μM)。なお、この際、溶解・分散されなかったタンニン酸は沈殿しなかった。
【0097】
そこで溶液を限外濾過膜付きスピンカラム(コーニング社製、Spin-X50k、濾過分子量50,000以上)に入れ、15,000Gで30分間遠心分離した。その濾液の吸光度(282nm)を測定した(番号35)。ここで、濾液の吸光度(282nm)の測定値は包接されなかったタンニン酸の量に比例している。
比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号32)と、本発明の包接剤のみで包接添加剤が無い試験区分(番号33)、包接添加剤のみで包接剤が無い試験区分(番号34)も用意してタンニン酸の分散を調べた(表11)。
【0098】
【表11】
【0099】
それぞれの吸光度282nmの測定結果を図12にまとめた。
図12は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるタンニン酸の包接実験結果を示す図である。
なお、タンニン酸は、包接添加剤であるAMPを添加するとハロクロミズムにより吸収スペクトルが変化してしまう。そのため、両者ともに包接添加剤であるAMPの非存在下で測定した試験区分32と試験区分33の比較や、両者ともに包接添加剤であるAMPの存在下の試験区分34と試験区分35の比較はそれぞれ可能であるが、包接添加剤であるAMPの存在下/非存在下の条件が異なってしまう試験区分32と試験区分34の比較や、試験区分33と試験区分35の比較をすることは適当ではない。
上記したように、濾液の吸光度(282nm)の測定値は、包接されなかったタンニン酸の量に比例している。つまり、測定値が低下していれば、包接特性が示されたこととなる。
【0100】
図12に示すように、AMPの非存在下の試験区分32と試験区分33の比較結果、AMPの存在下の試験区分34と試験区分35の比較より、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを用いた場合、包接添加剤であるAMPの非存在下、存在下を問わず、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンはタンニン酸に対しても包接、分散させる能力をもつことが示された。
上記実験に用いたタンニン酸は栄養素およびその誘導体の一例である。大きな阻害要因がない限り、タンニン酸と同様に、本発明の包接剤および包接添加剤は、疎水性のポリフェノール及びその誘導体に対して汎用的に使用できるものである。
【0101】
[(6−4)融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによるシコニンに対する包接特性]
実施例6−4として、シコニンに対する融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接特性に関する実験結果を述べる。
シコニンはAMP非存在下では水溶性が低く溶液に沈殿するが、AMP存在下では水溶液にも溶解する。そこで、包接特性の評価については、AMP存在下の場合とAMP非存在下の場合で分けて検証する必要がある。
つまり、AMP非存在下では実施例5−1(沈殿)、実施例5−2(沈殿)と同様に沈殿を沈降させた上澄みの吸光度測定から融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる分散効果を評価した。
また、AMP存在下では実施例5−3(限外濾過)と同様に限外濾過膜付きスピンカラムで濾過した濾液の吸光度測定から融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる分散効果を評価した。
以下、順に述べる。
【0102】
[(6−4−1)AMP非存在下における融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによるシコニンに対する包接特性]
以下のように試験区分を調製して測定を行った。
本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように容積0.5μLのプラスチックチューブに溶解させた水溶液を調製した(溶液の総量200μL)。そこにシコニンのメタノール溶液を投入し、25℃で10秒間激しく撹拌(ボルテックス)した(シコニンの最終濃度は100μM、メタノールの体積分率は1%)。なお、この際、溶解・分散されなかったシコニンは沈殿した。撹拌溶液を小型遠心分離機で2分間処理した後、上澄みの吸光度(517nm)を測定した(番号37)。
【0103】
上記実験では、上澄みの吸光度(517nm)の測定値は包接されて溶液中に存在するシコニンの量に比例しており、測定値が大きくなれば包接特性が検証できる。
比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号36)も用意してAMP非存在下におけるシコニンの分散を調べた(表12)。
【0104】
【表12】
【0105】
それぞれの吸光度517nmの測定結果を図13にまとめた。
図13は、AMPの非存在下、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるシコニンの包接実験結果を示す図である。
【0106】
図13に示すように、試験区分36と試験区分37との比較より、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを用いた場合、AMPの非存在下にて517nmの吸光度が上昇している。すなわち、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンはAMP非存在下、シコニンに対しても包接、分散させる能力をもつことが示された。
【0107】
[(6−4−2)AMP存在下(1wt%)における融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによるシコニンの包接特性]
以下のように試験区分を調製して測定を行った。
本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように容積0.5μLのプラスチックチューブに溶解させ、さらに包接添加剤であるAMPを1wt%の濃度で加えた水溶液を調製した(溶液の総量500μL)。そこにシコニンのメタノール溶液を投入し、25℃で10秒間激しく撹拌(ボルテックス)した(シコニンの最終濃度は100μM、メタノールの体積分率は1%)。その溶液を限外濾過膜付きスピンカラム(コーニング社製、Spin-X50k、濾過分子量50,000以上)に入れ、15,000Gで30分間遠心分離した。その濾液の吸光度(612nm)を測定した(番号39)。
【0108】
上記実験では、濾液の吸光度(612nm)の測定値は包接されなかったシコニンの量に比例しており、測定値が小さくなれば包接特性が検証できる。
比較のため、コントロールの試験区分として、包接添加剤のみで本発明の包接剤が無い試験区分(番号38)も用意してAMP存在下におけるシコニンの分散を調べた(表13)。
【0109】
【表13】
【0110】
それぞれの吸光度612nmの測定結果を図14にまとめた。
図14は、AMPの存在下(1wt%)、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるシコニンの包接実験結果を示す図である。
図14に示すように、試験区分38と試験区分39との比較より、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを用いた場合、AMPの存在下にて612nmの吸光度が低下している。上記したように、この実験では濾液の吸光度(612nm)の測定値は包接されなかったシコニンの量に比例しており、測定値が小さくなれば包接特性が検証できる。すなわち、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンはAMP非存在下、シコニンに対しても包接、分散させる能力をもつことが示された。
【0111】
[(6−5)融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる疎水性の導電性高分子及びその誘導体の一例としてのターチオフェンに対する包接特性]
実施例6−5として、疎水性の導電性高分子及びその誘導体の一例としてターチオフェンに対する融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接特性に関する実験結果を述べる。
【0112】
以下のように試験区分を調製して測定を行った。
本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように容積が0.5μLのプラスチックチューブに溶解させた水溶液を調製した(溶液の総量500μL)。そこにターチオフェンのアセトン溶液を投入し、25℃で10秒間激しく撹拌(ボルテックス)した(ターチオフェンの最終濃度は100μM、アセトンの体積分率は1%)。その溶液を限外濾過膜付きスピンカラム(コーニング社製、Spin-X50k、濾過分子量50,000以上)に入れ、15,000Gで30分間遠心分離した。その濾液の吸光度(264nm)を測定した(番号41)。
【0113】
上記実験では、濾液の吸光度(264nm)の測定値は包接されなかったターチオフェンの量に比例しており、測定値が小さくなれば包接特性が検証できる。
比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号40)も用意してAMP非存在下におけるターチオフェンの分散を調べた(表14)。
【0114】
【表14】
【0115】
それぞれの吸光度264nmの測定結果を図15にまとめた。
図15は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるターチオフェンの包接実験結果を示す図である。
図15に示すように、試験区分40と試験区分41との比較より、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを用いた場合、AMPの非存在下にて264nmの吸光度が低下している。上記したように、この実験では濾液の吸光度(264nm)の測定値は包接されなかったターチオフェンの量に比例しており、測定値が小さくなれば包接特性が検証できる。すなわち、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンはAMP非存在下、ターチオフェンに対しても包接、分散させる能力をもつことが示された。
上記実験に用いたターチオフェンは疎水性の導電性高分子及びその誘導体の一例である。大きな阻害要因がない限り、ターチオフェンと同様に、本発明の包接剤および包接添加剤は、疎水性の導電性高分子及びその誘導体に対して汎用的に使用できるものである。
【0116】
[(6−6)融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによるポリフェノール及びその誘導体の一例としてのカテキンに対する包接特性]
実施例6−6として、ポリフェノール及びその誘導体の一例としてカテキンに対する融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接に関する実験結果を述べる。
【0117】
以下のように試験区分を調製して測定を行った。
本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように容積が0.5μLプラスチックチューブに溶解させた水溶液を調製した(溶液の総量500μL)。そこにカテキンの水溶液を投入し、25℃で10秒間激しく撹拌(ボルテックス)した(カテキンの最終濃度は50μM)。その溶液を限外濾過膜付きスピンカラム(コーニング社製、Spin-X50k、濾過分子量50,000以上)に入れ、15,000Gで30分間遠心分離した。その濾液の吸光度(271nm)を測定した(番号43)。
【0118】
濾液の吸光度(271nm)の測定値は包接されなかったカテキンの量に比例している。上記実験では、濾液の吸光度(271nm)の測定値は包接されなかったカテキンの量に比例しており、測定値が小さくなれば包接特性が検証できる。
比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号42)も用意してAMP非存在下におけるカテキンの分散を調べた(表15)。
【0119】
【表15】
【0120】
それぞれの吸光度271nmの測定結果を図16にまとめた。
図16は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるカテキンの包接実験結果を示す図である。
図16に示すように、試験区分42と試験区分43との比較より、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを用いた場合、AMPの非存在下にて271nmの吸光度が低下している。上記したように、この実験では濾液の吸光度(271nm)の測定値は包接されなかったカテキンの量に比例しており、測定値が小さくなれば包接特性が検証できる。すなわち、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンはAMP非存在下、カテキンに対しても包接、分散させる能力をもつことが示された。
上記実験に用いたカテキンはポリフェノール及びその誘導体の一例である。大きな阻害要因がない限り、カテキンと同様に、本発明の包接剤および包接添加剤は、ポリフェノール及びその誘導体に対して汎用的に使用できるものである。
【0121】
[(6−7)融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる疎水性の薬剤及びそれらの誘導体の一例としてのプロトポルフィリンIXに対する包接特性]
実施例6−7として、疎水性の薬剤及びそれらの誘導体の一例としてプロトポルフィリンIXに対する融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接に関する実験結果を述べる。
【0122】
以下のように試験区分を調製して測定を行った。
本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように容積が0.5μLのプラスチックチューブに溶解させた水溶液を調製した(溶液の総量500μL)。そこにプロトポルフィリンIXのメタノール溶液を投入し、25℃で10秒間激しく撹拌(ボルテックス)した(プロトポルフィリンIXの最終濃度は20μM)。その溶液を限外濾過膜付きスピンカラム(コーニング社製、Spin-X50k、濾過分子量50,000以上)に入れ、15,000Gで30分間遠心分離した。その濾液の吸光度(398nm)を測定した(番号45)。
【0123】
上記実験では、濾液の吸光度(398nm)の測定値は包接されなかったプロトポルフィリンIXの量に比例しており、測定値が小さくなれば包接特性が検証できる。
比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号44)も用意してAMP非存在下におけるプロトポルフィリンIXの分散を調べた(表16)。
【0124】
【表16】
【0125】
それぞれの吸光度398nmの測定結果を図17にまとめた。
図17は、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンによるプロトポルフィリンIXの包接実験結果を示す図である。
図17に示すように、試験区分44と試験区分45との比較より、融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを用いた場合、AMPの非存在下にて398nmの吸光度が低下している。上記したように、この実験では濾液の吸光度(398nm)の測定値は包接されなかったプロトポルフィリンIXの量に比例しており、測定値が小さくなれば包接特性が検証できる。すなわち、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンはAMP非存在下、プロトポルフィリンIXに対しても包接、分散させる能力をもつことが示された。
上記実験に用いたプロトポルフィリンIXは疎水性の薬剤及びそれらの誘導体の一例である。大きな阻害要因がない限り、プロトポルフィリンIXと同様に、本発明の包接剤および包接添加剤は、疎水性の薬剤及びそれらの誘導体に対して汎用的に使用できるものである。
【0126】
[(6−8)融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる疎水性のナノ粒子の一例としての酸化チタンナノ粒子に対する包接特性]
実施例5−8として、疎水性のナノ粒子の一例として酸化チタンナノ粒子に対する本発明の包接剤である融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接に関する実験結果を述べる。
【0127】
以下のように試験区分を調製して測定を行った。
本発明の包接剤である融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンの最終濃度がグルカン主鎖におけるグルコース濃度で1.0mMになるように溶解させ、さらに包接添加剤であるAMPを1wt%の濃度で加えた水溶液を調製した。そこに酸化チタンナノ粒子(石原産業株式会社製TTO-55(A)、アルミナコート、粒径約100nm)の最終濃度が0.05wt%になるように酸化チタンナノ粒子を投入し、25℃で24時間静置した。24時間後、ボルテックスミキサーで酸化チタンナノ粒子を溶液に分散し、沈降する様子を写真撮影した(撹拌後、24時間の溶液の様子を図18に示す)。
【0128】
上記実験では、酸化チタンナノ粒子が包接されれば分散した状態が保たれて白濁し、包接されなかったものは沈降する。溶液の状態を観察すれば包接特性が検証できる。
比較のため、コントロールの試験区分として、本発明の包接剤も包接添加剤とも無い試験区分(番号46)、本発明の包接剤のみで包接添加剤が無い試験区分(番号47)、本発明の包接剤も包接添加剤とも用いた試験区分(番号48)を用意して酸化チタンナノ粒子の分散を調べた。さらに、比較として、従来型の非融解のグルカンも用いた試験区分も用意した。従来型の非融解のグルカンのみで包接添加剤が無い試験区分(番号49)、従来型の非融解のグルカンと包接添加剤を用いた試験区分(番号50)を用意して酸化チタンナノ粒子の分散を調べた(表17)。
【0129】
【表17】
【0130】
それぞれの沈降する様子を図18にまとめた。
図18は、酸化チタン溶液を撹拌して24時間後の粒子分散の様子を示す図である。
図18の実験結果から以下のことが導かれる。
包接剤も包接添加剤も用いない酸化チタンナノ粒子は、ボルテックスミキサーにて撹拌後、24時間で完全に沈殿した(試験区分46)。一方で、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンを添加すると分散する粒子が確認できた(試験区分47)。さらに、本発明の融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンに加えて1wt%のAMPを添加したものでは明らかに白濁が多くなり、上澄みに多くの酸化チタンナノ粒子が確認できた(試験区分48)。
しかし、従来型の非融解β−1,3−1,6−グルカンではAMPの存在下(試験区分49)でも非存在下(試験区分50)でも上澄み液に白濁は見られず、分散は確認できなかった。
【0131】
以上の結果から、100nmという巨大なナノ粒子に関しても、本発明の包接剤である融解後再構成β−1,3−1,6−グルカンは分散性を示し包接特性が発揮できることが検証できた。さらに、AMPなど水素結合性分子を包接添加剤として加えることにより明らかに包接処理能力が向上していることが検証できた。
上記実験に用いた酸化チタンナノ粒子は疎水性のナノ粒子としての一例である。大きな阻害要因がない限り、酸化チタンナノ粒子と同様に、本発明の包接剤および包接添加剤は、疎水性のナノ粒子に対して汎用的に使用できるものである。
【実施例7】
【0132】
[融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されることにより発揮されるゲスト分子の特性の検証]
上記実施例6においては、本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンが包接し得るゲスト分子は阻害要因がない限り制限されることはなく、多様なものを包接し得ることを検証した。この実施例7では、疎水性物質であるゲスト分子が包接されることにより特異な効能が発現し得ることを示す。
【0133】
一例として、包接ゲストとしてシコニンを例に検証した。シコニンは、疎水性物質であり、シコニン単体ではほとんど分散しないものである。そのため、水溶液中ではシコニンが本来持つ効能も発揮できない状態にあると言える。ここではシコニンが本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されることよってシコニン単体では見られない特異な効能が発現されることを実験した。特に、抗炎症作用の発現という特異効果と、シコニン単体が有する不利な特性である細胞への毒性の抑制という特異効果を調べた。
【0134】
まず、細胞に対する毒性の抑制効果の検証について述べる。
口腔内粘膜モデルとしてヒト頬粘膜扁平上皮癌由来HO-1-N-1細胞を用いた。それらHO-1-N-1細胞に対してシコニン単体および本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニン処置して試験区分を用意した。処置濃度は9.8nMから10μMまでから適宜選んだ。
【0135】
【表18】
口腔内細胞モデルに対する細胞毒性の評価は、WST-8法にて評価した。WST-8法は比色定量法であり、培養細胞の生存率を見ることができ、生存率が低くなるほど細胞毒性が高いと評価できる。
WST-8法は細胞内脱水素酵素の働きを利用して細胞増殖の活性を測定する方法である。WST-8はテトラゾリウム塩であり、WST-8は細胞内の脱水素酵素により還元され、水溶性のWST-8ホルマザンが生成される。ホルマザンの生成量は細胞内脱水素酵素活性に依存することとなり、培養細胞の数に比例する。したがって、検体におけるホルマザンの生成量を吸光度(450nm)により測定すれば細胞増殖活性を評価することができる。
【0136】
口腔内細胞モデルに対するWST-8法を用いた測定結果が図19である。
図19において、“シコニン”はシコニン単体の試験区分、“β-GA包接シコニン”は、融解後再構成β-1,3-1,6-グルカンに包接されたシコニンの試験区分を示している。
【0137】
図19に示すように、シコニン単体の試験区分、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンの試験区分ともに、濃度依存的な細胞毒性が認められるが、両者には明確な差異があることが分かる。特に横軸で示される濃度が312.5nMから5μM程度の濃度範囲になるとβ‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンはシコニン単体処置と比較して、縦軸で示される細胞生存率が明らかに高く、毒性が低いことが分かった。この細胞毒性抑制効果の差異は、シコニンが融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されることにより出現した特異効果であると言える。
【0138】
次に、抗炎症作用の発現という特異効果の検証について述べる。
上記細胞毒性評価の実験と同じく口腔内粘膜モデルとしてヒト頬粘膜扁平上皮癌由来HO-1-N-1細胞を用い、それらHO-1-N-1細胞に対してシコニン単体および本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンを処置して試験区分を用意した。処置濃度は1nM、20nMのものを用意した。
【表19】
【0139】
口内炎の炎症モデルとしては、ヒト頬粘膜扁平上皮癌由来HO-1-N-1細胞に対してLipopolysaccharide(LPS)による刺激を行うというモデルを用いた。炎症抑制効果の確認は、LPS刺激によりヒト頬粘膜扁平上皮癌由来HO-1-N-1細胞から放出される炎症性サイトカインであるIL-6の生成量の変化により評価した。IL-6の生成量はEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay (ELISA)法により測定した。
ELISA法は、ターゲットに対する反応について特異性の高い抗原抗体反応を利用してその量を測定する方法である。検体であるHO-1-N-1細胞の試料中には、多種多様なタンパク質が存在するが、実験で放出されるIL-6の量が他のタンパク質の量に比べて非常に少ないためそのままでは検出が難しい。そこで、ここではELISA法を用いてIL-6に反応する特異性の高い抗原抗体反応を利用し、出現した抗原抗体反応の過多を酵素反応に基づく発色を捉えて測定した。
【0140】
評価結果を図20に示す。
なお、図20において、“シコニン”はシコニン単体の試験区分、“β-GA包接シコニン”は、融解後再構成β-1,3-1,6-グルカンに包接されたシコニンの試験区分を示している。
【0141】
図20(a)に示すように、シコニン単体を処置した試験区分では、HO-1-N-1細胞にLPSの刺激を加えると、炎症性サイトカインであるIL-6の分泌が顕著に亢進していることが確認できる。これは、シコニンを処置しない状態でHO-1-N-1細胞にLPSの刺激を加えた場合に見られる炎症性サイトカインであるIL-6の分泌の亢進と同じ傾向を示しており、抗炎症作用が顕著に発現されているとまでは言えない。
【0142】
しかし、図20(b)に示すように、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンを処置した試験区分では、逆に、炎症性サイトカインであるIL-6分泌の顕著な低下が認められた。図20(a)と図20(b)を比較すると、シコニン単体を処置した場合に比べ、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンには、炎症性サイトカインであるIL-6分泌の顕著な低下、つまり、抗炎症作用の発現という明らかに特異な効果が見られる。これは、図20(a)に示したようにDMSOの介在があっても見られない特異な効果であるため、本現象はシコニンが融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接することによりその抗炎症作用が特異的に発現したことを示しているものと言える。
【0143】
本発明では、シコニンが融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接することによりその抗炎症作用が特異的に発現したことをもって、その効果の確認は十分に完遂できたものとするが、考察としては、疎水性であるシコニン単体が融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されることで溶解度が高くなり、細胞内に取り込まれてシコニンの抗炎症作用を示すことができた可能性が考えられる。また、シコニンは酸化を受けやすい化合物であるところ、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接作用が酸化反応に対して保護的に作用した可能性も考えられる。
【0144】
次に、別の観点から、シコニンの融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンの包接により発現する抗炎症作用の発現について検証を試みてみる。
p38 Mitogen-Activated Protein Kinase (MAPK)はストレス感受性シグナルとして知られており、細胞外からのストレスに反応して活性化し、アポトーシス関連因子の発現や炎症性サイトカインの分泌を活性化している。多くの細胞株において、IL-6の分泌はp38 MAPKの活性化により亢進することが知られている。
【0145】
LPSに起因するIL-6の分泌について融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンにより抑制される現象がp38 MAPKの活性化変動により生じていることを確認した(図21)。
上記細胞毒性評価の実験と同じく、口腔内粘膜モデルとしてヒト頬粘膜扁平上皮癌由来HO-1-N-1細胞を用い、それらHO-1-N-1細胞に対してシコニン単体および本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンを処置して試験区分を用意した。処置濃度は1nM、5nM、20nM、50nMのものを用意した。
【0146】
口内炎の炎症モデルとしてLPSによる刺激を行い、ヒト頬粘膜扁平上皮癌由来HO-1-N-1細胞におけるp38 MAPK活性化を評価した。p38 MAPK活性化の評価はWestern blot法により行った。Western blot法は電気泳動によって分離したタンパク質を膜に転写し、任意のタンパク質に対する抗体でそのタンパク質の存在を検出する手法であり、ここではストレスシグナル関連因子のリン酸化レベルを調べた。
測定結果を図21に示す。
図21は、ヒト頬粘膜扁平上皮癌由来HO-1-N-1細胞を用いたp38 MAPK活性化の変化から融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカン包接シコニンによる炎症抑制効果の評価結果を示す図である。
【0147】
それぞれの図において、上段はリン酸化P38 MAPKのバンド、中段はP38 MAPKのバンド、下段はβアクチンのバンドを示している。
また、図21において、左側の“shikonin”はシコニン単体の試験区分、右側の“β-GA-shikonin”は、融解後再構成β-1,3-1,6-グルカンに包接されたシコニンの試験区分を示している。
【0148】
図21の左側に示すように、LPSにシコニン単体を処置した試験区分では、シコニン濃度が大きくなるほど上段のリン酸化P38 MAPKバンドが濃くなり、p38 MAPKがシコニン濃度依存的な活性化亢進を示していることが分かる。一方、図21の右側に示すように、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンが処置された試験区分では、シコニン濃度が大きくなるほどリン酸化P38 MAPKバンドが薄くなり、p38 MAPKがシコニン濃度依存的な活性化減少を示していることが分かる。尚、中段はP38 MAPK、下段はβアクチンのバンドであり、Western blotにアプライされたサンプル量が等しいことを示している。
【0149】
図21左側と図21右側を比較すると、明らかにLPSによる刺激に対して、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンはp38 MAPKの活性化が抑制されており、それに伴いIL-6の分泌の抑制効果が発現、つまり抗炎症作用が発現したことが結論づけられる。このp38の活性化抑制作用は、シコニン単体の試験区分では見られないため、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されたシコニンに出現する特異作用であると言える。
【0150】
以上の結果から、シコニンが本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接されることよってシコニン単体では見られない特異効果、特に細胞への毒性の抑制効果と、抗炎症作用の効果が発現されることが検証できた。
上記実験に用いたシコニンは疎水性物質としての一例である。他のゲスト分子であっても本発明の包接剤および包接添加剤による包接作用によって、ゲスト分子単体では見られない特異効果が出現する可能性があることが示唆される。
【実施例8】
【0151】
[融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンに包接された光感受性物質の光分解に及ぼすβ‐1,3‐1,6‐グルカンの効果]
本実施例では、本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンによる包接された光感受性物質(ここでは、シコニンを例に用いた)の光分解速度を、非融解β‐1,3‐1,6‐グルカンの光分解速度と比較した。
サンプルの調製は、[0107]−[0110]に記載の試験区分と同様に行い、試験区分57と58は融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンを非融解β‐1,3‐1,6‐グルカンに変えて調製した。光分解速度は、光路長1cmのUVセル中、循環型恒温槽で25℃に温度管理した条件で行い、一定時間毎の吸光度の変化を測定し、見積もった。
【0152】
【表20】
【0153】
測定結果を表21に示す。
【表21】
表21に示すように、包接添加剤の存在下、非存在下ともに、融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンで包接されたシコニンの光分解速度の方が、非融解β‐1,3‐1,6‐グルカンで包接されたシコニンよりも遅いことが示された。すなわち、本発明の融解後再構成β‐1,3‐1,6‐グルカンで光感受性物質を包接すると、光感受性物質の光分解速度が明確に抑制されることが明らかとなった。
【0154】
以上、本発明の疎水性物質包接剤の好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の疎水性物質包接剤は、難溶性を示す疎水性物質、一例として、β-カロテン、ビタミンE、カテキン、タンニン酸、プロトポルフィリンIX、フラーレン、シコニン、ジチオフェンターチオフェン、酸化チタンナノ粒子、シコニン、シコニン誘導体、アゾ色素など多様な疎水性物質に対して広く汎用的に可溶化処理に適用することができる。
図19
図20
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図21