(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-120735(P2016-120735A)
(43)【公開日】2016年7月7日
(54)【発明の名称】空調用ダクト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20160610BHJP
【FI】
B60H1/00 102L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-260101(P2014-260101)
(22)【出願日】2014年12月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100098752
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 吏規夫
(72)【発明者】
【氏名】白石 輝男
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA26
3L211DA14
(57)【要約】
【課題】外面に結露を生じ難く、またダクト表面に結露を生じた場合には水滴が滴下し難く、かつリサイクルの容易な材質からなる自動車の空調用ダクトの提供を目的とする。
【解決手段】樋状のダクト半体11同士を接合した自動車の空調用ダクト10であって、樋状のダクト半体11を、内面側の独立気泡構造の発泡体13と外面側の連続気泡構造の発泡体15との二層構造の発泡体で構成すると共に、内面側の独立気泡構造の発泡体13と外面側の連続気泡構造の発泡体15を同一樹脂の発泡体で構成し、外面側の連続気泡構造の発泡体15については圧縮により密度が増大しているものとした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樋状のダクト半体を筒状に接合した空調用ダクトにおいて、
前記ダクト半体は、内面側の独立気泡構造の発泡体と外面側の連続気泡構造の発泡体との二層構造の発泡体からなり、
前記内面側の独立気泡構造の発泡体と前記外面側の連続気泡構造の発泡体が同一樹脂の発泡体からなることを特徴とする空調用ダクト。
【請求項2】
前記外面側の連続気泡構造の発泡体は、圧縮により密度が増大していることを特徴とする請求項1に記載のダクト。
【請求項3】
樋状のダクト半体を筒状に接合した空調用ダクトの製造方法において、
同一樹脂からなる独立気泡構造の発泡体と連続気泡構造の発泡体とが積層された二層構造の発泡体シートを加熱し、
前記ダクト半体形状の型面を有する吸引型の型面に、前記二層構造の発泡体シートを、前記連続気泡構造の発泡体が前記型面を向くように吸引して前記型面形状に賦形することにより前記ダクト半体を形成し、
前記ダクト半体同士を筒状に接合することを特徴とする空調用ダクトの製造方法。
【請求項4】
前記加熱した二層構造の発泡体シートを吸引型の型面に吸引することにより、前記連続気泡構造の発泡体を前記独立気泡構造の発泡体と前記型面間で圧縮し、該圧縮した状態で賦形することを特徴とする請求項3に記載の空調用ダクトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の空調用ダクトとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車においては、車内の空調のためにエアコン等の空調装置が設けられ、前記空調装置に接続された空調用ダクトがインストルメントパネルの裏側等に配置されている。前記空調用ダクトの車内側端部は車内への吹き出し口に接続される。
【0003】
前記空調用ダクトとして、ダクトの内面側を連続気泡層で構成する一方、外面側を独立気泡層で構成した二層構造のダクトが提案されている。
しかしながら、内面側を連続気泡層、外面側を独立気泡層としたダクトにあっては、湿気により結露が外面に発生した場合、外面側の独立気泡層は気泡が閉じているため、結露による水滴が独立気泡層の内部に進入することなくダクトの表面を伝って滴下する問題があった(特許文献1)。
【0004】
また、ダクトを上下二分割体で構成し、少なくとも下側のダクト半体については、内面側を独立気泡の発泡シートとする一方、外面側を不織布とした二層構造で構成することにより、外面側の不織布によって結露の滴下を防止するものがある(特許文献2)。
しかしながら、内面側を独立気泡の発泡シート、外面側を不織布としたダクトにあっては、内面側と外面側で材質が異なるため、廃車時にダクトをリサイクルするのが困難な問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−280155号公報
【特許文献2】特開2014−65382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、外面に結露を生じ難く、また結露を生じた場合に水滴が滴下し難く、かつリサイクルが容易な材質からなる空調用ダクト及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、樋状のダクト半体を筒状に接合した空調用ダクトにおいて、前記ダクト半体は、内面側の独立気泡構造の発泡体と外面側の連続気泡構造の発泡体との二層構造の発泡体からなり、前記内面側の独立気泡構造の発泡体と前記外面側の連続気泡構造の発泡体が同一樹脂の発泡体からなることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記外面側の連続気泡構造の発泡体は、圧縮により密度が増大していることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、樋状のダクト半体を筒状に接合した空調用ダクトの製造方法において、同一樹脂からなる独立気泡構造の発泡体と連続気泡構造の発泡体とが積層された二層構造の発泡体シートを加熱し、前記ダクト半体形状の型面を有する吸引型の型面に、前記二層構造の発泡体シートを、前記連続気泡構造の発泡体が前記型面を向くように吸引して前記型面形状に賦形することにより前記ダクト半体を形成し、前記ダクト半体同士を筒状に接合することを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項3において、前記加熱した二層構造の発泡体シートを吸引型の型面に吸引することにより、前記連続気泡構造の発泡体を前記独立気泡構造の発泡体と前記型面間で圧縮し、該圧縮した状態で賦形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、ダクトは管壁が独立気泡構造の発泡体と連続気泡構造の発泡体との二層構造の発泡体からなるため、発泡体による断熱性を有し、結露を生じ難くできる。
また、結露を生じた場合には、ダクトの外面側が連続気泡構造の発泡体で構成され、該連続気泡構造の発泡体を構成する気泡が開口して連通しているため、結露による水滴がダクトの外面から連続気泡構造の発泡体内に進入して発泡体内に取り込まれることになり、水滴がダクトの外面を伝って滴下するのが防止される。
さらに、前記内面側の独立気泡構造の発泡体と外面側の連続気泡構造の発泡体が同一樹脂の発泡体であるため、ダクトのリサイクル時に外面側と内面側の分別が不要であり、リサイクルのための処理が容易になる。
なお、エアコンユニットのファンによる騒音は、ファンモータ等を静音仕様とすることで改良されており、ダクトの吸音性能は発泡体の吸遮音性能であれば問題なくなっている。
【0012】
請求項2の発明によれば、外面側の連続気泡構造の発泡体は、圧縮により密度が増大しているため、ダクト外面の剛性が増大し、ダクトの形状維持や、ダクトの組み付け時に他の部品と接触した場合などにおける外面保護等に対する効果が得られる。
【0013】
請求項3の発明によれば、結露を生じ難く、結露を生じた場合に水滴の低下を防止でき、かつリサイクルが容易なダクトを容易に製造することができる。
【0014】
請求項4の発明によれば、ダクト外面の剛性が増大し、ダクトの形状維持や、ダクトの組み付け時に他の部品と接触した場合などにおける外面保護等に対する効果が高いダクトを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明における一実施形態の空調用ダクトの斜視図である。
【
図3】二層構造の発泡体シートの加熱を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る空調用ダクトについて、図面を用いて説明する。
図1に示す空調用ダクト(単にダクトとも記す)10は、
図2に示すダクト半体11同士を重ね合わせてフランジ状の縁12で接合したものである。前記ダクト10は、本実施例では角管形状からなるが、円管形状あるいは他の管形状、さらには屈曲した管形状であってもよい。
【0017】
前記ダクト半体11は、ダクト内面側が独立気泡構造の発泡体13で構成される一方、ダクト外面側が連続気泡構造の発泡体15で構成されている。前記ダクト半体11は、前記独立気泡構造の発泡体13と前記連続気泡構造の発泡体15からなる二層構造の発泡体シートを加熱し、前記連続気泡構造の発泡体13を吸引型の型面に、前記連続気泡構造の発泡体15が型面を向くようにして吸引することにより賦形されたものである。前記ダクト10の製造方法については後述する。
【0018】
前記独立気泡構造の発泡体13と前記連続気泡構造の発泡体15は、接着層14を介して積層、接着されている。前記独立気泡構造の発泡体13と前記連続気泡構造の発泡体15は同一の樹脂の発泡体からなる。例えば、前記独立気泡構造の発泡体13と前記連続気泡構造の発泡体15を構成する樹脂として、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン等の発泡ポリオレフィン、あるいは架橋発泡ポリプロピレン、架橋発泡ポリエチレン等の架橋ポリオレフィン等を挙げることができる。
【0019】
前記接着層14は、前記独立気泡構造の発泡体13及び前記連続気泡構造の発泡体15の接着面を加熱溶融した熱によるラミネーション層、あるいは前記独立気泡構造の発泡体13及び前記連続気泡構造の発泡体15と同一樹脂のフィルム等で構成される。前記接着層14を、前記独立気泡構造の発泡体13及び前記連続気泡構造の発泡体15と同一の樹脂のフィルムとする場合、前記接着層14を構成する樹脂フィルムを前記独立気泡構造の発泡体13及び前記連続気泡構造の発泡体15よりも低融点の樹脂とし、前記接着層14の樹脂フィルムを加熱して前記独立気泡構造の発泡体13及び前記連続気泡構造の発泡体15に融着させることにより行う。
【0020】
また、前記連続気泡構造の発泡体15は、前記独立気泡構造の発泡体13を圧縮して気泡を破壊したものであってもよい。さらに、前記連続気泡構造の発泡体15は、ダクト10の製造時の圧縮により密度が増大しており、前記ダクト10の外面の剛性が高められている。
前記独立気泡構造の発泡体13は、前記ダクト10製造後の密度及び厚みの例として、密度が0.03〜0.2g/cm
3、厚みが0.5〜3.0mmを挙げる。また、前記連続気泡構造の発泡体15は、前記ダクト10製造後の密度及び厚みの例として、密度が0.03〜0.3g/m
3、厚みが0.5〜3.0mmを挙げる。
【0021】
前記ダクト半体11同士のフランジ状の縁12の接合は、接着剤、ホットメルト樹脂、熱溶融などによって行われる。
【0022】
前記ダクト10の製造方法について説明する。前記ダクト10の製造は、発泡体シートの加熱工程、吸引賦形工程、接着工程を有する。
発泡シートの加熱工程では、
図3に示すように、前記独立気泡構造の発泡体13と前記連続気泡構造の発泡体15が前記接着層14により接着された二層構造の発泡体シート16を、加熱ヒータ等の加熱手段51で加熱する。加熱温度は、前記発泡シート16を熱成形可能な温度であり、具体的には110〜200℃、好ましくは120〜170℃である。
【0023】
吸引賦形工程では、
図4の(4−1)及び(4−2)に示すように、前記ダクト半体形状の型面63を有する吸引型61を用い、前記型面63に、加熱した前記発泡体シート16を、前記連続気泡構造の発泡体15が前記型面63を向くように吸引して型面63に密着させる。前記吸引型61には型面63に通じる吸引孔65が形成されており、図示しない真空吸引装置と前記吸引孔65が接続されて型面63に前記発泡体シート16を吸引可能に構成されている。
【0024】
前記発泡体シート16は、前記型面63への吸引時に、吸引力が前記連続気泡構造の発泡体15を通って前記独立気泡構造の発泡体13に加わるため、前記独立気泡構造の発泡体13が前記型面63に向かって吸引され、それによって前記連続気泡構造の発泡体15が型面63と前記独立気泡構造の発泡体13間で圧縮され、該圧縮状態で型面形状に賦形されて密度が増大し、得られるダクト10の外面の剛性が増大する。なお、前記発泡体シート16を前記型面63へ吸引して行う賦形は、真空成形に限られず、圧空成形であってもよい。その後の冷却によって、前記発泡体シート16は型面形状に固定され、脱型後あるいは脱型時に成形品外周の余剰部分が切除されて、前記ダクト半体11を得る。
【0025】
前記接着工程では、前記ダクト半体11同士を向かい合わせて重ね、フランジ状の縁12を、接着剤、ホットメルト樹脂、熱溶融などによって接合し、前記ダクト10を得る。
【実施例】
【0026】
前記発泡体シートとして、独立気泡構造の発泡体を軟化点100℃、密度0.03g/cm
3、厚み5mmの独立気泡ポリエチレン発泡体、前記接着層を融点135℃、密度0.9g/cm
3、厚み0.05mmのポリエチレンフィルム、前記連続気泡構造の発泡体を密度0.03g/cm
3、厚み5mmの連続気泡ポリエチレン発泡体で構成し、前記独立気泡構造の発泡体と前記連続気泡構造の発泡体が前記接着層で融着された二層構造の発泡体シートを用い、真空成形を行った。
【0027】
真空成形時、前記発泡体シートを、加熱ヒータで160℃に加熱し、ダクト半体形状の型面を有する吸引型の型面に、連続気泡構造の発泡体が型面を向くようにして吸引し、型面に密着させた状態で冷却させ、発泡体シートを型面形状に固定した。その後、成形体を脱型し、周囲の余剰部分を切除してダクト半体を形成した。同様にして相手方となるダクト半体も形成し、ダクト半体同士を向かい合わせ、フランジ状の縁をホットメルトポリエチレン接着剤によって接合して実施例のダクトを得た。実施例のダクトは、外面側の連続気泡構造の発泡体が圧縮されて密度が増大しており、剛性が増大していた。
【符号の説明】
【0028】
10 ダクト
11 ダクト半体
12 ダクト半体の縁
13 独立気泡構造の発泡体
14 接着層
15 連続気泡構造の発泡体
16 発泡体シート
51 加熱手段
61 吸引型
63 型面