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特開2016-121055ガラス基板の製造方法及びガラス基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-121055(P2016-121055A)
(43)【公開日】2016年7月7日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法及びガラス基板
(51)【国際特許分類】
   C03B 25/02 20060101AFI20160610BHJP
   C03C 17/23 20060101ALI20160610BHJP
   C03B 32/00 20060101ALI20160610BHJP
【FI】
   C03B25/02
   C03C17/23
   C03B32/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-125385(P2015-125385)
(22)【出願日】2015年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-134651(P2014-134651)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-266873(P2014-266873)
(32)【優先日】2014年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】濱上 耕
(72)【発明者】
【氏名】小山 昭浩
(72)【発明者】
【氏名】岡本 美里
【テーマコード(参考)】
4G015
4G059
【Fターム(参考)】
4G015CA01
4G015CB01
4G059AA08
4G059AC11
4G059EA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、生産効率を高めつつ、ガラス基板の熱収縮率を低減し、また、ガラス基板の熱収縮率のばらつきを低減するガラス基板の製造方法及びガラス基板を提供する。
【解決手段】ガラス基板を製造するときガラス基板の熱処理を行う。この熱処理では、歪点より60℃〜260℃低い温度である熱処理温度でガラス基板全体を熱処理した後、熱処理温度から、熱処理温度より50℃〜300℃低い温度である中間温度になるまで、第1速度でガラス基板全体を冷却した後、中間温度から室温になるまで、第1速度より速い第2速度でガラス基板全体を冷却する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の熱処理工程を含むガラス基板の製造方法であって、
前記熱処理工程は、
歪点より60℃〜260℃低い温度である熱処理温度で前記ガラス基板全体を熱処理する工程と、
前記熱処理温度から、前記熱処理温度より50℃〜300℃低い中間温度になるまで、第1速度で前記ガラス基板全体を冷却する工程と、
前記熱処理工程後、前記中間温度から室温になるまで、前記第1速度より速い第2速度で前記ガラス基板全体を冷却する工程と、を含むことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
ガラス基板の熱処理工程を含むガラス基板の製造方法であって、
前記熱処理工程は、
室温から、歪点より60℃〜260℃低い温度である熱処理温度になるまで熱処理するとき、前記室温から、前記熱処理温度より50℃〜300℃低い中間温度になるまで、第3速度で前記ガラス基板全体を加熱する工程と、
前記中間温度から前記熱処理温度になるまで、前記第3速度より遅い第4速度で前記ガラス基板全体を加熱する工程と、
前記熱処理温度で前記ガラス基板全体を熱処理する工程と、を含む、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、
室温から、歪点より60℃〜260℃低い温度である熱処理温度になるまで熱処理するとき、前記室温から、前記熱処理温度より50℃〜300℃低い中間温度になるまで、第3速度で前記ガラス基板全体を加熱する工程と、
前記中間温度から前記熱処理温度になるまで、前記第3速度より遅い第4速度で前記ガラス基板全体を加熱する工程、を含み、 前記第1速度と前記第2速度との平均速度は、前記第3速度と前記第4速度との平均速度より遅い、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基板の歪点は655℃以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理工程では、前記ガラス基板をシート体の間に挟んだ状態で厚さ方向に複数枚積層したガラス基板の積層体を熱処理する、請求項1から4のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
フラットパネルディスプレイ用の単層のガラス基板の熱処理工程を含むガラス基板の製造方法であって、
前記熱処理工程は、
400℃〜600℃の範囲にある熱処理温度になるまで前記ガラス基板を加熱し、前記熱処理温度を維持する加熱維持工程と、
0.5℃/分以上10℃/分未満の第1降温速度で、前記熱処理温度から前記熱処理温度より50℃〜150℃低い温度である中間温度になるまで前記ガラス基板を冷却した後、10℃/分以上25℃/分未満の第2降温速度で前記ガラス基板を冷却する冷却工程と、を備える、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス基板には、IGZOから構成される半導体層が形成される、請求項6に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記冷却工程では、前記第2降温速度で前記ガラス基板を冷却した後、前記第1降温速度で室温になるまで前記ガラス基板をさらに冷却する、請求項6又は7に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程では、前記ガラス基板を炉内に水平に載置し、前記加熱工程を行う前に、前記炉内の雰囲気温度が前記熱処理温度になるまで加熱する、請求項6から8のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項10】
400℃〜600℃の範囲にある熱処理温度で5分〜30分維持して熱処理した液晶ディスプレイ用のガラス基板であって、
前記ガラス基板を、500℃を第1評価温度、450℃を第2評価温度、550℃を第3評価温度として、それぞれの評価温度で30分維持して再び熱処理したときの熱収縮率を、それぞれ第1熱収縮率C1、第2熱収縮率C2、及び第3熱収縮率C3とした場合に、|C1−C2|/|C3−C1|<0.28
の関係式を満たす、ことを特徴とするガラス基板。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の熱処理工程を含むガラス基板の製造方法及びガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイパネルの分野では、画質の向上のために画素の高精細化が進展している。この高精細化の進展に伴って、ディスプレイパネルに用いるガラス基板にも寸法精度が高いことが望まれている。例えば、ディスプレイパネルの製造工程中に、ガラス基板が高温で熱処理されても寸法が変化しにくいように、熱収縮の小さいガラス基板が求められている。
【0003】
一般に、ガラス基板の熱収縮率は、ガラスの歪点が高いほど小さくなる。このため、熱収縮率を抑制するために、歪点が高くなるようにガラス組成を変更する方法が知られている(特許文献1)。しかし、歪点が高くなるようにガラス組成を変更すると、失透温度が高くなる傾向にあり、ガラス基板の製造が難しくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2014−503465
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス基板製造の困難性を招くことなく、ガラス基板の熱収縮を低減させる方法として、フュージョン法等により成形したシートガラスを切断することで得たガラス基板をオフラインにおいて熱処理(オフラインアニーリング)する方法がある。しかし、オフラインアニーリングでは、ガラス基板を昇温・降温させる際にガラス基板の面方向で温度差が生じ、ガラス基板の面方向で熱収縮率がばらついてしまうという問題があった。また、オフラインアニーリングでは、ガラス基板の温度を昇温・降温させる際に、昇温速度・降温速度を速くするとガラス基板の熱収縮率が低減せず、昇温速度・降温速度を遅くするとガラス基板の生産効率が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ガラス基板の生産効率を高めつつ、ガラス基板の熱収縮率を低減することができ、また、ガラス基板の面方向での熱収縮率のばらつきを低減することができるガラス基板の製造方法及びガラス基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板は、以下の形態を含む。
【0008】
(形態1)
ガラス基板の熱処理工程を含むガラス基板の製造方法であって、
前記熱処理工程は、
歪点より60℃〜260℃低い温度である熱処理温度で前記ガラス基板全体を熱処理する工程と、
前記熱処理温度から、前記熱処理温度より50℃〜300℃低い中間温度になるまで、第1速度で前記ガラス基板全体を冷却する工程と、
前記熱処理工程後、前記中間温度から室温になるまで、前記第1速度より速い第2速度で前記ガラス基板全体を冷却する工程と、を含むことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0009】
(形態2)
ガラス基板の熱処理工程を含むガラス基板の製造方法であって、
前記熱処理工程は、
室温から、歪点より60℃〜260℃低い温度である熱処理温度になるまで熱処理するとき、前記室温から、前記熱処理温度より50℃〜300℃低い中間温度になるまで、第3速度で前記ガラス基板全体を加熱する工程と、
前記中間温度から前記熱処理温度になるまで、前記第3速度より遅い第4速度で前記ガラス基板全体を加熱する工程と、
前記熱処理温度で前記ガラス基板全体を熱処理する工程と、を含む、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0010】
(形態3)
前記熱処理工程は、
室温から、歪点より60℃〜260℃低い温度である熱処理温度になるまで熱処理するとき、前記室温から、前記熱処理温度より50℃〜300℃低い中間温度になるまで、第3速度で前記ガラス基板全体を加熱する工程と、
前記中間温度から前記熱処理温度になるまで、前記第3速度より遅い第4速度で前記ガラス基板全体を加熱する工程、を含み、
前記第1速度と前記第2速度との平均速度は、前記第3速度と前記第4速度との平均速度より遅い、形態1に記載のガラス基板の製造方法。
【0011】
(形態4)
前記ガラス基板の歪点は655℃以上である、形態1から3のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【0012】
(形態5)
前記熱処理工程では、前記ガラス基板をシート体の間に挟んだ状態で厚さ方向に複数枚積層したガラス基板の積層体を熱処理する、形態1から4のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【0013】
(形態6)
フラットパネルディスプレイ用の単層のガラス基板の熱処理工程を含むガラス基板の製造方法であって、
前記熱処理工程は、
400℃〜600℃の範囲にある熱処理温度になるまで前記ガラス基板を加熱し、前記熱処理温度を維持する加熱維持工程と、
0.5℃/分以上10℃/分未満の第1降温速度で、前記熱処理温度から前記熱処理温度より50℃〜150℃低い温度である中間温度になるまで前記ガラス基板を冷却した後、10℃/分以上25℃/分未満の第2降温速度で前記ガラス基板を冷却する冷却工程と、を備える、ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0014】
(形態7)
前記ガラス基板には、IGZOから構成される半導体層が形成される、形態6に記載のガラス基板の製造方法。
【0015】
(形態8)
前記冷却工程では、前記第2降温速度で前記ガラス基板を冷却した後、前記第1降温速度で室温になるまで前記ガラス基板をさらに冷却する、形態6又は7に記載のガラス基板の製造方法。
【0016】
(形態9)
前記熱処理工程では、前記ガラス基板を炉内に水平に載置し、前記加熱工程を行う前に、前記炉内の雰囲気温度が前記熱処理温度になるまで加熱する、形態6から8のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
前記熱処理工程では、複数の前記ガラス基板を1枚ずつ熱処理する枚葉方式の熱処理でもよい。
【0017】
(形態10)
400℃〜600℃の範囲にある熱処理温度で5分〜30分維持して熱処理した液晶ディスプレイ用のガラス基板であって、
前記ガラス基板を、500℃を第1評価温度、450℃を第2評価温度、550℃を第3評価温度として、それぞれの評価温度で30分維持して再び熱処理したときの熱収縮率を、それぞれ第1熱収縮率C1、第2熱収縮率C2、及び第3熱収縮率C3とした場合に、|C1−C2|/|C3−C1|<0.28
の関係式を満たす、ことを特徴とするガラス基板。
【発明の効果】
【0018】
上述のガラス基板の製造方法及びガラス基板によれば、ガラス基板の生産効率を高めつつ、ガラス基板の熱収縮率を低減することができ、また、ガラス基板の熱収縮率のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のガラス板の製造方法の流れの一例を示すフローチャートである。
図2】本実施形態で行なわれる熱処理においてガラス基板の積層体が載せられたパレットの一例を示す側面図である。
図3】(a)は、ガラス基板上の位置を示した図であり、(b)は、ガラス基板上の各位置における熱履歴の一例を示す図である。
図4】熱履歴の差を示す面積と歪との関係の一例を示すグラフである。
図5】ガラス基板を熱処理する際の温度プロファイルの一例を示す図である。
図6】(a)は、本実施形態で行なわれる熱処理におけるガラス基板の載置状態の一例を示す側面図であり、(b)は、(a)のガラス基板を底面側から見た図である。
図7】ガラス基板の温度履歴の一例を示す図である。
図8】本実施形態で熱処理したガラス基板を評価熱処理方法で熱処理したときのガラス基板の熱収縮率の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明する。
図1は、本実施形態のガラス板の製造方法の流れの一例を示すフローチャートである。製造されるガラス基板は、特に制限されないが、例えば縦寸法及び横寸法のそれぞれが500mm〜3500mmであることが好ましい。ガラス基板の厚さは、0.1〜1.1(mm)、より好ましくは0.75mm以下の極めて薄い矩形形状の板であることが好ましい。
まず、熔融されたガラスが、例えばフュージョン法あるいはフロート法等の公知の方法により、所定の厚さの帯状ガラスであるシートガラスが成形される(ステップS1)。
次に、成形されたシートガラスが所定の長さの素板であるガラス基板に採板される(ステップS2)。採板により得られたガラス基板は、ガラス基板を保護するシート体と交互に積層してガラス基板の積層体を作製する(ステップS3)。次に、このガラス基板の積層体に対して熱処理を行なう(ステップS4)。このステップS3の処理およびステップS4の処理が本実施形態の熱処理であるアニーリング工程である。アニーリング工程の詳細については後述する。
【0021】
熱処理後のガラス基板は切断工程に搬送され、製品のサイズに切断され、ガラス基板が得られる(ステップS5)。得られたガラス基板には、端面の研削、研磨およびコーナカットを含む端面加工が行われた後、ガラス基板は洗浄される(ステップS6)。洗浄されたガラス基板はキズ、塵、汚れあるいは光学欠陥を含む傷が無いか、光学的検査が行われる(ステップS7)。検査により品質の適合したガラス基板は、ガラス基板を保護する紙と交互に積層された積層体としてパレットに積載されて梱包される(ステップS8)。梱包されたガラス基板は納入先業者に出荷される。
【0022】
このようなガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。つまり、以下のガラス組成のガラス基板が製造されるように、熔融ガラスの原料が調合される。
SiO2 55〜80モル%、
Al23 8〜20モル%、
23 0〜12モル%、
RO 0〜17モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)。
【0023】
SiO2は60〜75モル%、さらには、63〜72モル%であることが、熱収縮率を小さくするという観点から好ましい。
ROのうち、MgOが0〜10モル%、CaOが0〜10モル%、SrOが0〜10%、BaOが0〜10%であることが好ましい。
【0024】
また、SiO2、Al23、B23、及びROを少なくとも含み、モル比((2×SiO2)+Al23)/((2×B23)+RO)は4.5以上であるガラスであってもよい。また、MgO、CaO、SrO、及びBaOの少なくともいずれか含み、モル比(BaO+SrO)/ROは0.1以上であることが好ましい。
【0025】
また、モル%表示のB23の含有率の2倍とモル%表示のROの含有率の合計は、30モル%以下、好ましくは10〜30モル%であることが好ましい。
また、上記ガラス組成のガラス基板におけるアルカリ金属酸化物の含有率は、0モル%以上0.4モル%以下であってもよい。
また、ガラス中で価数変動する金属の酸化物(酸化スズ、酸化鉄)を合計で0.05〜1.5モル%含み、As、Sb及びPbOを実質的に含まないということは必須ではなく任意である。
【0026】
本実施形態で製造されるガラス基板は、ディスプレイ用ガラス基板、例えば、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板、液晶ディスプレイ用ガラス基板あるいは、有機ELディスプレイ用のガラス基板として好適である。
さらに、本実施形態で製造されるガラス基板は、高精細ディスプレイに用いるLTPS(Low-temperature poly silicon)・TFTディスプレイ用ガラス基板、あるいは、IGZO(Indium-Gallium-Zinc-Oxide)等の酸化物半導体・TFTディスプレイ用のガラス基板として特に好適である。
【0027】
本実施形態における熔融ガラスからシートガラスを成形する方法として、フロート法やフュージョン法等が用いられるが、本実施形態のガラス基板のオフラインにおける熱処理を含むガラス基板の製造方法では、フュージョン法(オーバーダウンドロー法)において製造ライン上の徐冷装置を長くすることが困難である点から、フュージョン法に適している。本実施形態の熱処理により熱収縮率を低減する前のガラス基板の熱収縮率は、80ppm以下であり、より好ましくは40ppm〜60ppmである。
【0028】
以下、本実施形態のアニーリング工程(第1、第2実施形態)を順番に説明する。本実施形態でいうオフラインアニーリングとは、ガラス基板を製造する製造ラインからはずれて、製造されたガラス基板をアニーリングすることをいう。
【0029】
(第1実施形態のアニーリング工程)
次に、第1実施形態のアニーリング工程について詳細に説明する。
まず、ステップS2で採板された複数のガラス基板11と複数のシート体12とを交互に1枚ずつ積層してガラス基板の積層体10を作製する(ステップS3)。本実施形態では、複数のガラス基板11を積層したガラス基板の積層体10を熱処理する場合を記載するが、ガラス基板11を1枚ずつ搬送しながら熱処理を行う枚葉方式の熱処理でもよい。また、ガラス基板11を積層せずに、複数のガラス基板11同士を所定の距離だけ離間させて、各ガラス基板11を熱処理する方法でもよい。
【0030】
図2は、ガラス基板の積層体10(以下、積層体10という)が載せられたパレット20の一例を示す側面図である。ここで、図2の紙面の左方向をパレット20の前方向、図2の紙面の右方向をパレット20の後方向とする。図2の紙面上方向を上方向、紙面下方向を下方向とする。パレット20には、積層体10が積層方向をほぼ前後方向として載置される。積層体10が載置されたパレット20は、炉40内に搬送されて、炉40内において積層体10を熱処理する。炉40には、炉40の雰囲気(空気)を加熱するための発熱装置41が設けられ、発熱装置41が熱源となって、炉40の雰囲気が温められる。熱処理を行う際、炉40内は閉鎖空間となっており、雰囲気の熱が積層体10に伝わり、積層体10(ガラス基板11)の熱処理が行われる。ここで、積層体10の積層方向は前後方向と完全に一致している必要はない。例えば、図2に示すように、ガラス基板11を斜めに立てかける場合、積層方向と前後方向とのなす角はガラス基板11が上下方向に対して傾く角に対応する。また、積層体10の積層方向が上下方向になるように、積層体10を平置きにして、パレット20に載置してもよい。
パレット20は、基台部21と、載置部22と、背面板23と、等を備える。
基台部21、載置部22および背面板23は、例えば鋼鉄等の金属からなり、溶接等により一体に形成されている。
基台21は略長方形の板状であり、端面にフォークリフトの爪を挿入するための開口21aが設けられている。
載置部22は基台21の上部に固定されており、載置部22の上部にガラス基板の積層体10が載せられる。ここで、載置部22の上面は完全に水平である必要はない。例えば、図2に示すように、ガラス基板11を斜めに立てかける場合、ガラス基板11の立てかけ角度に応じて載置部22の上面を傾斜させておいてもよい。
背面板23は略長方形の板状であり、基台21の上部において、載置部22の後端に載置部22とほぼ垂直に固定されている。背面板23は載置部22の上部に載せられる積層体10の積層方向の後端部を支持する。ここで、背面板23は完全に垂直である必要はない。例えば、図2に示すように、ガラス基板11を斜めに立てかける場合、ガラス基板11の立てかけ角度に応じて背面板23を傾斜させておいてもよい。
【0031】
次に、積層体10について説明する。積層体10は、複数のガラス基板11と、複数のシート体12と、を有する。
【0032】
シート体12は、ガラス基板11同士の間に挟まれる。シート体12は積層されるガラス基板11同士の密着を防ぐ役割を果たす。したがって、ガラス基板11をシート体の間に挟んだ状態で厚さ方向に複数枚積層することによりガラス基板の積層体10が形成される。シート体12には、積層体10を熱処理する際の温度に耐えうる耐熱性を有する材料を用いることができる。シート体12は、ガラス基板11よりも高い熱伝導率を有することが好ましい。
このようなシート体12の材料として、例えば、カーボングラファイト、アルミナ繊維、シリカ繊維、及び、多孔質セラミックスから選ばれた一種、又は、それらの組合せを選択することができる。
シート体12の厚さは、ガラス基板11の面内方向の熱伝導率を高めるために厚いことが好ましい。一方、積層体10の体積を低減するためにシート体12の厚さは薄いことが好ましい。このため、シート体12の厚さは、0.02mm〜2mm程度であることが好ましい。シート体12の面積は、ガラス基板11同士の密着を防ぐ役割から、ガラス基板11と同程度またはそれ以上であることが好ましい。
【0033】
なお、任意の複数のガラス基板11の間に、シート体12に代えて、又はシート体12とともに、積層体10を加熱するための加熱板を介在させてもよい。加熱板として、例えば、電流が流すことで発熱する電極板を用いることができる。この場合、電極板の抵抗値が電極板の温度に応じて変化するため、電極板の温度に応じて電極板を流れる電流量が変化する。このため、電極板を流れる電流量に基づいて加熱板の温度を制御することができる。これにより、複数のガラス基板11間の熱分布を均等に調整することができる。
また、シート体12として、再生紙、パルプ紙を用いることもできる。
【0034】
本実施形態においては、上記の積層体10を、1対の断熱板15a、15bで挟んだ状態で、積層体10に対し熱処理が行われる。
1対の断熱板15a、15bは、積層体10の積層方向の両端部に配置されている。図2では、断熱板15aが後端部に、断熱板15bが前端部に配置されている。断熱材15a、15bは、ガラス基板よりも熱伝導率が低い材料からなる。ガラス基板よりも熱伝導率が低い材料として、例えば、セラミック、アルミナ、シリカ、及び、ロックウールから選ばれた一種、又は、それらの組合せを選択することができる。
断熱板15a、15bの熱抵抗は、断熱性能を維持するために0.1℃/W以上であることが好ましい。一方、積層体10の端部に配置されるガラス基板11の加熱および冷却を妨げないように、断熱板15a、15bの熱抵抗は10℃/W以下であることが好ましい。断熱板15a、15bの厚さは、断熱性能を維持するために厚いことが好ましい。一方、断熱板15a、15bの厚さは、積層体10の体積を低減するために薄いことが好ましい。このため、断熱板15a、15bの厚さは、10〜50mm程度であることが好ましい。断熱板15a、15bの面積は、積層体の積層方向の外側から端部のガラス基板11への同士の密着を防ぐ役割から、ガラス基板11と同程度またはそれ以上であることが好ましい。
積層体10の積層方向の両端部を断熱板15a、15bで挟み込むと、積層体10の前方の端(前端部)に位置するガラス基板11は、雰囲気からこのガラス基板11の主表面を介してガラス基板11に流れる熱が抑えられ、ガラス基板11の積層方向の中央に位置するガラス基板11の主表面の面方向の外側から流れる熱伝導の形態と同様の形態にすることができる。つまり、積層されたすべてのガラス基板11において、ガラス基板11の縁を含む端部領域から熱が入り、端部領域に囲まれた中央領域に向かって熱が伝わる。この結果、積層された複数のガラス基板11を、厚さ方向で熱分布を等しくすることができる。
【0035】
次に、ステップS4の熱処理について説明する。
ステップS3の処理で作製された積層体10に対して、製造ラインから外れたオフラインで熱処理が行われる。この熱処理では、ガラス基板の積層体を回転させながら所定の温度の雰囲気下に所定時間放置し、ガラス基板の端部領域から端部領域により囲まれた中央領域にかけての熱分布を一様にすることで、端部領域から中央領域にかけての歪分布が一様になるように調整する。
【0036】
具体的には、熱処理を行う炉40に上記の積層体10が載せられたパレット20を搬入し、発熱装置41の動作を制御して炉40内の空気(雰囲気)を加熱することにより、ガラス基板11を熱処理する。
熱処理の温度は、ガラス基板11の歪点−60℃の温度から歪点−260℃の温度の温度範囲であることが、熱収縮率を低減させ、ガラス基板の歪分布を一様とする点から好ましい。ここで、歪点とは、一般的なガラスの歪点を言い、1014.5ポワズの粘度に相当する温度である。熱処理の時間は、例えば0.5〜120時間である。熱処理における雰囲気中の温度の時間履歴は特に制限されず、雰囲気の温度が、歪点−560℃の温度から歪点の温度範囲にある時間が少なくとも0.5時間、好ましくは1時間以上あるとよい。0.5時間1時間未満であると、熱収縮率が十分に低下せず、120時間より長いと、熱収縮率は十分低減するが、ガラス基板11の生産効率が低下する。
なお、歪点はガラスの種類によって異なるが、ガラス基板11は、熱収縮を小さくするために、歪点が高いガラス組成を有することが好ましく、ガラス基板11のガラスの歪点は、600℃以上であることが好ましく、より好ましくは655℃以上であり、例えば661℃である。この場合、熱処理温度は、歪点(661℃)−(60℃〜260℃)=601℃〜401℃である。ガラス基板11の熱収縮を小さくして、高精細ディスプレイ用ガラス基板とするためには、上記の温度範囲に限定されず、例えば、熱処理時の最高温度、すなわち熱処理温度は250℃〜700℃でもよく、また300℃〜600℃でもよく、また350℃〜600℃でもよく、400℃〜550℃であってもよい。
ガラス基板の積層体が晒される高温の雰囲気は、特に制限されず、酸素含有率が5〜50%である雰囲気であってもよく、例えば空気からなる大気雰囲気であってもよい。
【0037】
図3(a)、(b)は、ガラス基板11上の各位置における熱履歴の一例を示す図である。ここで、熱履歴とは、熱処理によって変化するガラス基板11の温度の履歴を示すものである。ガラス基板11の積層体10を、熱処理を行う炉40に搬入し、炉40内の雰囲気の温度を上昇させると、雰囲気の熱が積層体10の積層方向の外側からガラス基板11に伝わる。ガラス基板11の縁を含む縁領域11aは、高温の雰囲気から熱の伝導を受けて、ガラス基板11の縁領域11aに囲まれた中央領域11bに比べて早く昇温する。また、雰囲気を降温し、低温となった雰囲気に高温状態のガラス基板11の縁領域11aは晒されて放熱し、ガラス基板11の中央領域11bに比べて早く降温する。このため、図3(a)、(b)に示すように、ガラス基板11上では、点A周辺は、点B周辺より早く昇温、降温する。このように熱履歴に差が生じると、縁領域11aから中央領域11bにかけて(点A周辺から点B周辺にかけて)、熱収縮率が異なり、引っ張りと圧縮応力が生じるために歪が発生する。ガラス基板11面内での熱収縮率を均一にして、歪の発生を抑制するためには、ガラス基板11の縁領域11aから中央領域11bかけての温度変化の差をなくす、つまり、熱履歴の差を小さくする必要がある。
【0038】
ここで、LTPS、IGZOから構成される半導体層をガラス基板11に形成する温度は、400℃〜600℃(歪点が661℃である場合、歪点より略60℃〜260℃低い温度)であるため、この温度範囲におけるガラス基板11の熱収縮率を低減できればよい。このため本実施形態では、ガラス基板11の点A及び点Bの周辺の最高温度が、400℃〜600℃の温度範囲になるよう熱処理を行う。熱収縮率は、ガラス基板11を熱処理した時の最高温度だけでなく、熱履歴によっても変化する。特に、図3(b)に示すように、熱処理時の最高温度である熱処理温度(例えば、500℃)から、熱処理温度より50℃〜300℃低い温度(例えば、450℃〜200℃)までの熱履歴が、熱収縮率に大きく影響する。熱収縮率は、熱収縮率を評価する温度、ここでは、LTPS、IGZOから構成される半導体層をガラス基板11に形成する温度である例えば400℃〜500℃で熱処理することにより、この温度領域において熱収縮率が低減する。また、この温度領域400℃〜500℃以下の温度領域においても熱収縮が低減する。つまり、熱収縮率を評価する温度に近い温度では、熱収縮率に大きく影響し、温度が離れるほど、熱収縮率への影響は小さくなる。このため本実施形態では、熱処理時の最高温度である熱処理温度から50℃〜300℃低い温度になるまでの温度領域において、ガラス基板11の面方向での熱履歴の差が抑制されるよう熱処理を行う。図3(b)では、300℃〜500℃の温度範囲における熱履歴の差を示している。ガラス基板11の縁領域11a(点A周辺)と中央領域11b(点B周辺)との熱履歴の差(図3(b)における面積D)を小さくすることにより、ガラス基板11面上の熱収縮率のばらつきが抑制され、歪の発生を抑制することができる。
【0039】
点Aの熱履歴と点Bの熱履歴との差によって形成される面積Dが小さいほど、歪の値は小さくなる。図4は、熱履歴の差を示す面積と歪との関係の一例を示すグラフである。同図に示すように、歪を2 kgf/cm2以下にする場合には、面積がD1以下になるように、ガラス基板11を熱処理する。また、歪を4 kgf/cm2以下にする場合には面積をD2以下に、歪を9 kgf/cm2以下にする場合には面積をD3以下になるように、ガラス基板11を熱処理する。面積D1〜D3の値は、時間×温度の単位に対応する。面積D1〜D3の値は、ガラス基板11の大きさ、厚さ、組成等によって任意に変更できる。これにより、高精細ディスプレイのパネル製造時に求められる歪の許容値に応じて、ガラス基板11の熱処理における温度、時間を適宜変更することもできる。
【0040】
また、ガラス基板11の中央領域11b(点B周辺)の温度が、縁領域11a(点A周辺)の温度と同様の最高温度に達するように熱処理する。ガラス基板11の中央領域11b(点B周辺)の温度が最高温度に達することにより、縁領域11a(点A周辺)と中央領域11b(点B周辺)との熱収縮率の差が小さくなり、歪の発生を低減することができる。中央領域11b(点B周辺)の温度が最高温度を継続(保持)する時間は、任意であり、例えば、0.5時間〜4時間であり、より好ましくは、1時間〜2時間である。所定の熱収縮率を達成するために、縁領域11a(点A周辺)から中央領域11b(点B周辺)にかけてのガラス基板11の温度が、最高温度に到達するように熱処理し、歪の発生を抑制するために、ガラス基板11での面方向での熱履歴の差が小さくなるように熱処理する。
【0041】
図5は、ガラス基板を熱処理する際の温度プロファイルの一例を示す図である。上述したように、熱処理時の最高温度である熱処理温度(例えば、歪点より60℃〜260℃低い温度)から、上記熱処理温度より50℃〜300℃低い中間温度までの熱履歴が、熱収縮率に大きく影響する。積層されたガラス基板11において、この温度範囲における熱履歴の差を抑制するためには、中間温度から最高温度までの速度(温度勾配)を、室温〜中間温度までの速度(温度勾配)より遅く(緩やかに)する必要がある。図5において、熱収縮に影響の小さい温度領域Tm1〜Tm2における昇温速度S1は、(Tm2−Tm1)/(t1−t0)、熱収縮に影響の大きい温度領域Tm2〜Tm3における昇温速度S2は、(Tm3−Tm2)/(t2−t1)、最高温度領域Tm3における速度S3は、(Tm3−Tm3)/(t3−t2)=0、熱収縮に影響の大きい温度領域Tm3〜Tm2における降温速度S4は、(Tm2−Tm3)/(t4−t3)、熱収縮に影響の小さい温度領域Tm2〜Tm1における降温速度S5は、(Tm1−Tm2)/(t5−t4)である。ここで、温度はTm1<Tm2<Tm3であり、Tm1=室温(例えば、25℃)、Tm2=中間温度(例えば、300℃)、Tm3=最高温度(例えば、500℃)である。ここで、室温は、25℃に限定されず、例えば、1℃〜30℃である。また、最高温度は、500℃に限定されず、歪点−(60℃〜260℃)の任意の温度であり、中間温度は、300℃に限定されず、最高温度−(50℃〜300℃)の任意の温度である。中間温度は、最高温度によって変化するが、最高温度を歪点−(60℃〜260℃)の範囲の温度とし、中間温度を300℃と固定してもよい。この場合、最高温度から300℃までの昇温・冷却速度は、300℃から25℃までの昇温・冷却速度より遅い。また、昇温速度・降温速度は、ガラス基板11全体を昇温・降温する平均速度である。
【0042】
昇温時間t0〜t2において、熱収縮に影響が大きい温度領域Tm2〜Tm3での昇温速度S2が、昇温速度S1>昇温速度S2となるように、積層体10を加熱処理する。熱収縮に対する影響が小さい温度領域での昇温速度S1は、例えば、60℃/時間〜300℃/時間であり、より好ましくは、80℃/時間〜250℃/時間であり、熱収縮に対する影響が大きい温度領域での昇温速度S2は、例えば、20℃/時間〜60℃/時間であり、より好ましくは、20℃/時間〜40℃/時間である。最高温度Tm3を維持する時間t3−t2は、例えば、0.5時間〜4時間、好ましくは1〜4時間であり、より好ましくは、1時間〜2時間である。また、降温時間t3〜t5において、熱収縮に影響が大きい温度領域Tm2〜Tm3での降温速度S4が、降温速度の絶対値で降温速度S5>降温速度S4となるように、積層体10を冷却(放熱)処理する。熱収縮に対する影響が大きい温度領域での降温速度S4は、例えば、−20℃/時間〜−60℃/時間であり、より好ましくは、−20℃/時間〜−40℃/時間であり、熱収縮に対する影響が小さい温度領域での降温速度S5は、例えば、−60℃/時間〜−300℃/時間であり、より好ましくは、−80℃/時間〜−250℃/時間である。また、熱収縮は、昇温時より降温時の方が影響が大きいため、速度の絶対値をS2>S4として、降温速度S4を昇温速度S2より遅くすることもできる。また、昇温速度S1と昇温速度S2との平均速度AS1が、降温速度S3と降温速度S4との平均速度AS2より速くなるように、つまり、平均速度AS1>平均速度AS2となるように、降温速度を遅くすることもできる。熱収縮に対する影響が小さいために歪が発生しにくいTm2からTm1(室温)までの温度領域では昇温速度、降温速度を速くして、昇温時間、降温時間を短くすることにより、積層体10を熱処理、冷却処理する時間を短縮する。これにより、熱収縮率の低減に影響の小さい温度領域Tm1〜Tm2では、熱処理時間を短縮し、ガラス基板11の生産効率を高めることができる。一方、熱収縮に対する影響が大きいために歪が発生しやすい中間温度から熱処理時の最高温度である熱処理温度までの温度領域Tm2〜Tm3では、昇温速度、降温速度を遅くして、昇温時間、降温時間を長くすることにより、歪の発生を抑制する。これにより、ガラス基板11の熱収縮率のばらつきを低減しつつ歪の発生を抑制し、さらに、ガラス基板11の生産効率を高めることができる。
【0043】
炉40内に設けられた熱源からガラス基板11の縁領域11a(点A周辺)に熱が伝わる時間と、熱源から中央領域11b(点B周辺)に熱が伝わるまでの時間とでは、図3(b)に示すように、熱源から縁領域11a(点A周辺)を介して中央領域11b(点B周辺)に熱が伝わるまでの時間の方がより時間がかかる。このため、縁領域11a(点A周辺)に熱が伝わった時間の後、つまり、縁領域11a(点A周辺)が中間温度300℃になった後では、縁領域11a(点A周辺)が室温から中間温度300℃になるまでの昇温速度より、昇温速度を遅くする(温度勾配を緩やかにする)。昇温速度を遅くすることにより、縁領域11a(点A周辺)が熱源から加熱される速度を抑制し、縁領域11a(点A周辺)から中央領域11b(点B周辺)までに熱が伝わる時間を確保することによって、点Aの熱履歴と点Bの熱履歴との差が小さくなる。また、放熱についても、領域11a(点A周辺)から放熱する時間より、中央領域11b(点B周辺)から縁領域11a(点A周辺)を介して放熱する放熱時間の方が長い。このため、縁領域11a(点A周辺)が中間温度300℃まで冷却(放熱)した後、縁領域11a(点A周辺)が最高温度から中間温度300℃になるまでの降温速度より、降温速度を遅くする。このような加熱処理・冷却処理をすることにより、縁領域11a(点A周辺)から中央領域11b(点B周辺)まで熱が伝わる時間を確保し、また、中央領域11b(点B周辺)を冷却する時間を確保することができ、熱収縮に与える影響が大きい中間温度から最高温度(300℃〜500℃)の温度領域における熱履歴の差を抑制することができる。
【0044】
このような熱処理により、ガラス基板11の熱収縮率を0〜15ppmとすることができる。ガラス基板11の熱収縮率は、0〜12ppmとすることが好ましく、0〜6ppmとすることがより好ましい。このような熱収縮率が、ガラス基板のガラス組成と、熱処理の温度と熱処理時間を調整することにより達成することができる。
【0045】
本実施形態では、ガラス基板11よりも熱伝導率が低い1対の断熱板15a、15bでガラス基板11の積層体10を積層方向に挟んだ状態で、積層体10を熱処理を行う炉40に搬入し、炉40内の雰囲気の温度を上昇させる。炉40内の雰囲気の温度勾配において、300℃〜500℃までの温度勾配を、室温〜300℃までの温度勾配より緩やかにすることにより、複数のガラス基板11間の熱分布を一様にすることができる。したがって、熱処理後の各ガラス基板11の熱収縮率のばらつきを低減することができる。
ここで、積層体10の積層方向の任意の位置に加熱板を配置し、複数のガラス基板11間の熱分布が一様となるように加熱板により積層体10を加熱してもよい。
さらに、シート体12としてガラス基板11よりも高い熱伝導率を有する材料を用いることで、ガラス基板11の面内方向の伝熱を促進し、ガラス基板11の端部領域と中央領域との熱分布を一様にすることができる。このため、ガラス基板11の面方向での熱収縮率のばらつきが抑制され、熱収縮率の差によって発生する歪の発生も抑制され、ガラス基板の歪分布を一様にすることができる。
【0046】
また、ガラス基板11を1枚ずつ熱処理する枚葉方式の場合では、ガラス基板11を積層した積層体10を熱処理する場合と比べて、昇温速度、降温速度を速めることができる。枚葉方式では熱処理時間を短くできるため、例えば、昇温速度S1=120℃/時間〜400℃/時間、昇温速度S2=40℃/時間〜120℃/時間、最高温度Tm3を維持する時間t3−t2=0.5時間〜2時間、降温速度S4=−40℃/時間〜−120℃/時間、降温速度S5=−120℃/時間〜−400℃/時間とすることもできる。
また、積層体10の積層方向における厚さに応じて、昇温速度、降温速度を変更することもできる。例えば、積層体10の積層方向における厚さが50cm以下の場合には、積層方向に熱が早く伝わるため、昇温速度S1=90℃/時間〜300℃/時間、昇温速度S2=30℃/時間〜90℃/時間、最高温度Tm3を維持する時間t3−t2=0.5時間〜3時間、降温速度S4=−30℃/時間〜−90℃/時間、降温速度S5=−90℃/時間〜−300℃/時間とすることもできる。積層体10の積層方向における厚さが薄いほど、昇温速度、降温速度を速め、積層方向に積層したガラス基板11が1枚、つまり、枚葉方式の場合には、上述した昇温速度、降温速度で熱処理することもできる。積層体10の積層方向における厚さが薄くなっても、昇温速度、降温速度の大小関係を変えずに、熱処理することができる。
【0047】
(第2実施形態のアニーリング工程)
次に、第2実施形態のアニーリング工程について詳細に説明する。第2実施形態は、ガラス基板を1枚ずつ熱処理する枚葉方式の熱処理の形態である。第2実施形態におけるガラス基板の製造方法も、図1に示す流れで行なわれる。この場合、ステップS3のガラス基板の積載では、後述する図6(a)に示すガラス基板を支持する支持部材に支持されるようにガラス基板11は載置される。
【0048】
図6(a)は、炉内におけるガラス基板11の載置状態の一例を示す側面図であり、図6(b)は、図6(a)のガラス基板11を底面側から見た図である。ガラス基板11は、炉140内に設けられた支持部材112の上に水平になるよう載置され、炉140内において熱処理される。まず、図1に示すステップS2で採板されたガラス基板11を支持部材112により支持されるように支持部材112の上に載置し(ステップS3)、ガラス基板11が支持部材112の上に載置した状態で、熱処理(アニーリング処理)を行う(ステップS4)。本実施形態では、複数のガラス基板11を積層せずに、一枚の(単層の)ガラス基板11を支持部材112の上に載置した状態で熱処理する。なお、支持部材112上に載置したガラス基板11を1枚ずつ搬送しながら熱処理を行う枚葉方式の熱処理を行なってもよい。また、支持部材112上に載置したガラス基板11を炉内に複数設けて、各ガラス基板11を熱処理してもよく、また、ガラス基板11と支持部材112とを交互に積層し、支持部材112によりガラス基板11同士を所定の距離だけ離間させて、各ガラス基板11を熱処理してもよい。
【0049】
支持部材112は、例えば、耐熱性を有する繊維部材、カーボン繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、多孔質セラミックス、カーボングラファイト、カーボンフェルト、金属部材、レンガ部材から構成され、炉140内に複数設けられる。支持部材112は、ガラス基板11がほぼ水平になるように、ガラス基板11の下面(底面)を支持する。
なお、ガラス基板11を支持する支持部材112の数、各支持部材112の間隔、ガラス基板11を支持する位置は、任意である。また、ガラス基板11を熱処理すると、ガラス基板11が膨張して変形するため、支持部材112は柔軟性を有することが好ましい。
【0050】
炉140には、炉140の雰囲気(空気)を加熱するための発熱装置141が複数設けられ、発熱装置141が熱源となって、炉140の雰囲気が温められる。発熱装置141は、例えば、セラミックヒーター、遠赤外線ヒーター、ハロゲンヒーターから構成され、ガラス基板11の温度が後述する熱履歴になるように、ガラス基板11及び炉140の雰囲気を温める。雰囲気の熱がガラス基板11に伝わり、また、遠赤外線、赤外線によりガラス基板11を加熱して、ガラス基板11の温度が400℃〜600℃の範囲の温度になるよう熱処理が行われる。熱処理を行う際、炉140内は閉鎖空間となっており、炉140外の影響を受けにくくなっている。発熱装置141は、炉140内の温度分布はほぼ一様となるように、発熱量、発熱時間を制御する。炉140内の温度分布がほぼ一様になればよく、発熱装置141が炉140内に設けられる位置、数は任意である。ガラス基板11は、支持部材112により支持され、ガラス基板11の下面に所定の空間が設けられている。炉140内の温度分布はほぼ一様であるため、ガラス基板11の上面と、支持部材112により支持されたガラス基板11の下面では、熱履歴は等しくなる。ガラス基板11の上面と下面の間で熱履歴に差が生じると、上面と下面で熱収縮率が異なり、引っ張りと圧縮応力が生じるために反りが発生する。このため、ガラス基板11の上面と下面の温度変化の差をなくす、つまり、熱履歴の差を小さくする。
【0051】
次に、ステップS4の熱処理について説明する。
まず、発熱装置141を制御して、炉140内の雰囲気温度が、熱処理温度になるよう処理する。ここで、熱処理温度とは、高精細ディスプレイに用いるLTPS、IGZOから構成される半導体層をガラス基板11に形成する形成温度であり、具体的には400℃〜600℃の範囲の温度である。高精細ディスプレイを製造する際のガラス基板11の加工処理温度は、ガラスの歪点(1014.5ポワズの粘度に相当する温度、例えば661℃)より低い温度である。この加工処理温度より低い温度領域において、ガラス基板の熱収縮率が大きいと、ガラス基板は高精細ディスプレイを製造するためのガラス基板として適さない。このため、高精細ディスプレイを製造するガラス基板の加工処理温度と略等しい温度領域である400℃〜600℃の範囲の熱処理温度において、ガラス基板11を熱処理し、熱処理温度以下の温度領域において、熱収縮率が0〜15ppm、好ましくは0〜10ppm、より好ましくは0〜6ppm、さらに好ましくは0〜3ppmとなるようにする。
【0052】
次に、炉140内の雰囲気温度が熱処理温度となった後、ガラス基板11を炉140内の支持部材112上にほぼ水平になるよう載置し、炉140におけるガラス基板11の投入口を閉鎖し、炉140内が閉鎖空間となるようにする。炉140内の雰囲気温度を熱処理温度にした状態で、ガラス基板11を炉140内に投入することにより、ガラス基板11を短時間で加熱することができる。
なお、ガラス基板11の温度と炉140内の雰囲気温度との差があり、ガラス基板11を炉140内に載置した際にガラス基板11が急激に熱変形(熱膨張)する場合には、ガラス基板11を予め加熱してから、炉140内に載置することもできる。ガラス基板11を予め加熱することにより、ガラス基板11が急激に熱変形することを抑制でき、ガラス基板11に発生する歪、反り、窪み等を低減することができる。また、ガラス基板11と支持部材112とがこすれることにより、ガラス基板11に発生する傷を抑制することもできる。
【0053】
次に、発熱装置141を制御して、20℃/分以上〜120℃/分未満の昇温速度で、400℃〜600℃の範囲にある熱処理時の最高温度である熱処理温度になるまで、ガラス基板11を加熱する。ガラス基板11の温度を熱処理温度になるまで加熱する工程が、加熱工程である。加熱工程を経た後、ガラス基板11の温度を熱処理温度で5分〜120分、維持する。ガラス基板11の温度を熱処理温度のまま維持し続ける工程が、維持工程である。維持工程では、ガラス基板11の温度が400℃〜600℃の範囲で変化してもよく、ガラス基板11の温度が一定でなくてもよい。例えば、20℃/分〜120℃/分の昇温速度より遅い速度、又は、0.5℃/分〜10℃/分の第1降温速度より遅い速度で、ガラス基板11の温度が400℃〜600℃の範囲になるように維持することもできる。維持工程を経た後、0.5℃/分以上〜10℃/分未満の第1降温速度で、熱処理温度から熱処理温度より50℃〜150℃低い第1中間温度になるまで、ガラス基板11を冷却する。第1降温速度でガラス基板11を冷却した後、10℃/分以上〜25℃/分未満の第2降温速度で、第1中間温度から第2中間温度になるまで、ガラス基板11を冷却する。第2降温速度でガラス基板11を冷却した後、第1降温速度で、第2中間温度から室温になるまでガラス基板11をさらに冷却する。ガラス基板11の温度を熱処理温度から室温になるまで冷却する工程が、冷却工程であり、熱処理温度から第1中間温度までの冷却が第1冷却工程、第1中間温度から第2中間温度までの冷却が第2冷却工程、第2中間温度から室温までの冷却が第3冷却工程である。
【0054】
図7は、ガラス基板11の熱履歴を示す図である。ここで、熱履歴とは、炉140内における熱処理によって変化するガラス基板11の温度の履歴を示すものである。図中に示す温度はTm1<Tm2<Tm3<Tm4であり、Tm1=室温(例えば、25℃)、Tm2=第2中間温度(例えば、200℃)、Tm3=第1中間温度(例えば、400℃)、Tm4=熱処理温度(例えば、500℃)である。
加熱工程、維持工程、各冷却工程における速度、時間の範囲を以下に示す。
(1)加熱工程:t1−t0=5分〜20分、Tm4−Tm1=400℃〜600℃、昇温速度S1=(Tm4−Tm1)/(t1−t0)=20℃/分〜120℃/分、
(2)維持工程:t2−t1=5分〜120分、Tm4−Tm4=0、速度S2=(Tm4−Tm4)/(t2−t1)=0℃/分、
(3)第1冷却工程:t3−t2=15分〜100分、Tm4−Tm3=50℃〜150℃、降温速度S3(第1降温速度)=(Tm4−Tm3)/(t3−t2)=0.5℃/分〜10℃/分
(4)第2冷却工程:t4−t3=10分〜15分、Tm3−Tm2=150℃〜250℃、降温速度S4(第2降温速度)は、(Tm3−Tm2)/(t4−t3)=10℃/分〜25℃/分、
(5)第3冷却工程:t5−t4=15分〜100分、Tm2−Tm1=50℃〜150℃、降温速度S5(第1降温速度)=(Tm2−Tm1)/(t5−t4)=0.5℃/分〜10℃/分。
ここで、室温は、25℃に限定されず、例えば、0℃〜30℃である。また、熱処理温度は、500℃に限定されず、400℃〜600℃の任意の温度であり、第1中間温度は、400℃に限定されず、熱処理温度−(50℃〜150℃)の任意の温度である。第2中間温度は、150℃〜250℃の範囲の温度であり、200℃と固定してもよい。また、昇温速度・降温速度は、ガラス基板11全体を昇温・降温する平均速度である。
【0055】
加熱工程は、維持工程、冷却工程と比較すると、ガラス基板11の熱収縮に対する影響が小さく、熱収縮率のばらつきにより発生する歪が生じにくいため、処理時間(=Tm4−Tm1)が短くてもよく、昇温速度も速くすることができる。加熱工程では、処理時間を短くして、昇温速度を速めることにより、ガラス基板11の生産効率を高めることができる。
【0056】
維持工程は、冷却工程と同様にガラス基板11の熱収縮に対する影響が大きいが、冷却工程の処理時間(=t5−t2)を維持工程の処理時間(=t2−t1)より長くすることにより、熱収縮率を低減できる。このため、冷却工程の処理時間より、維持工程の処理時間を短くすることにより、ガラス基板11の生産効率を高めることができる。維持工程の処理時間を長くすることにより、ガラス基板11の低熱収縮率を実現できるため、ガラス基板11に対して求められる熱収縮率に応じて、維持工程の処理時間を任意に変更することにより、ガラス基板11の生産効率の向上、熱収縮率の低減を実現することができる。また、ガラス基板11の板厚が薄いほど、ガラス基板11の内部まで熱が早く伝わるため、ガラス基板11の板厚の薄さに応じて、維持工程の処理時間を短くすることができる。また、維持工程の温度、つまり、熱処理温度は、高精細ディスプレイに用いるLTPS、IGZOから構成される半導体層をガラス基板11に形成する形成温度に基づいて設定される温度であるため、形成温度と同等の温度範囲であればよく、ガラスの歪点より低い温度でよい。炉40内の温度をガラスの歪点まで上昇させる必要がないため加熱コストが安価となり、低コストでガラス基板11の熱収縮率を低減することができる。
なお、歪点はガラスの種類によって異なるが、ガラス基板11は、熱収縮を小さくするために、歪点が高いガラス組成を有することが好ましく、ガラス基板11のガラスの歪点は、600℃以上であることが好ましく、より好ましくは655℃以上であり、例えば661℃である。
【0057】
第1冷却工程は、ガラス基板11の熱収縮に対する影響が大きいため、第2冷却工程の処理時間(=t4−t3)より処理時間(=t3−t2)が長く、第2冷却工程の降温速度S4より降温速度S3が遅くなっている。ガラス基板11の熱収縮に影響の大きい、熱処理温度から第1中間温度(例えば、400℃)までの熱処理において、他の工程より処理時間を長くし、降温速度を遅くすることにより、ガラス基板11の熱収縮率のばらつきを低減でき、歪の発生を抑制することができる。
【0058】
第2冷却工程は、ガラス基板11の熱収縮に対する影響が小さいため、第1冷却工程の処理時間(=t3−t2)より処理時間(=t4−t3)が短く、第1冷却工程の降温速度S3より降温速度S4が速くなっている。熱処理温度から第1中間温度までの温度領域と比較して、第1中間温度から第2中間温度までの領域は、ガラス基板11の熱収縮に対する影響が小さく、熱収縮率のばらつきにより発生する歪が生じにくい。このため、第2冷却工程では、第1冷却工程より処理時間を短くして、降温速度を速めることにより、ガラス基板11の生産効率を高めることができる。
【0059】
第3冷却工程は、ガラス基板11の熱収縮に対する影響が小さいため、任意の降温速度によりガラス基板11を冷却することができる。第3冷却工程の降温速度S5を、第2冷却工程の降温速度S4より遅くすることにより、ガラス基板11の熱変形を抑制して、ガラス基板11と支持部材12とがこすれることにより、ガラス基板11に発生する傷を抑制することができる。
なお、第3冷却工程は、ガラス基板11の熱収縮に対する影響が小さいため、第2冷却工程の降温速度S4でガラス基板11を冷却することもできる。第3冷却工程において、降温速度S4で冷却することにより、ガラス基板11の生産効率を高めることができる。
【0060】
このような熱処理により、ガラス基板11の熱収縮率を0〜15ppmとすることができる。ガラス基板11の熱収縮率は、0〜10ppmとすることが好ましく、0〜6ppmとすることがより好ましい。このような熱収縮率が、ガラス基板のガラス組成と、熱処理の温度と熱処理時間を調整することにより達成することができる。また、ガラス基板の熱収縮に対して影響が小さい温度領域においては、処理時間を短くし、昇温速度・降温速度を速めることにより、ガラス基板11の生産効率を高めることができる。また、枚葉のガラス基板11の場合、ガラス基板11の面方向に均等に熱が伝わりやすいため、本実施形態にかかるアニーリング工程でガラス基板11を処理することにより、ガラス基板11の生産効率を高めつつ、熱収縮率を低減することができる。
【0061】
次に、上述の第1実施形態あるいは第2実施形態の熱処理(オフラインアニーリング)したガラス基板11の評価及び評価結果を説明する。このときのガラス基板11は、400℃〜600℃の範囲にある熱処理温度で5分〜30分維持して熱処理した液晶ディスプレイ用のガラス基板を対象とする。
熱処理が完了したガラス基板11の評価では、熱処理炉に投入して再び熱処理を行う。評価する温度は、(1)500℃である第1評価温度、(2)第1評価温度より50℃低い第2評価温度(450℃)、(3)第1評価温度より50℃高い第3評価温度(550℃)、である。オフラインアニーリング後における熱収縮率は、場合によっては、高精細ディスプレイに用いるLTPS、IGZOから構成される半導体層をガラス基板11に形成するのに適さない場合がある。特に、高精細ディスプレイを製造するガラス基板11の半導体層形成時の温度(この温度を加工処理温度という)と略等しい温度領域である400℃〜600℃の範囲近傍におけるガラス基板11の熱収縮率を抑制することは重要である。このため、高精細ディスプレイを製造するガラス基板11における半導体層形成時の温度と等しい温度領域において、ガラス基板11の熱収縮率を評価する。
【0062】
ガラス基板11を評価するための評価熱処理方法は、熱処理炉内の温度が、第1評価温度、第2評価温度、第3評価温度になるように設定し、ガラス基板11を、それぞれの評価温度に設定された熱処理炉に投入し、熱処理炉で30分熱処理した後、熱処理炉から取り出して自然冷却する。この方法により評価熱処理したときのガラス基板11の熱収縮率を、それぞれ第1熱収縮率C1、第2熱収縮率C2、第3熱収縮率C3とする。このとき、高精細ディスプレイの製造に好適なガラス基板11は以下の関係式を満たすガラス基板である。
関係式:|C1−C2|/|C3−C1|<0.28
ただし、C1=第1評価温度で30分維持したときの第1熱収縮率、C2=第2評価温度で30分維持したときの第2熱収縮率、C3=第3評価温度で30分維持したときの第3熱収縮率。
【0063】
図8は、第1実施形態で熱処理したガラス基板11を評価熱処理方法で熱処理したときのガラス基板11の熱収縮率の結果の一例を示す図である。高精細ディスプレイの製造に好適なガラス基板では、高精細ディスプレイの加工処理温度以下において熱収縮率が小さい。このため、第1評価温度から第2評価温度までの温度領域における熱収縮率(C1〜C2)を、第1評価温度から第3評価温度までの温度領域における熱収縮率(C1〜C3)より小さくすることで、高精細ディスプレイの製造に好適なガラス基板を実現できる。ガラス基板11は、第1実施形態の熱処理において、熱処理温度Tm3(400℃〜600℃)で処理するため、図8に示すように、第1評価温度から第2評価温度までの熱処理温度以下の温度領域における熱収縮率は15ppm以下に低減される。しかし、第1評価温度から第3評価温度までの熱処理温度以上の温度領域における熱収縮率の低下が小さく、熱処理前の熱収縮率(例えば、80ppm)に近い熱収縮率となっている。ガラス基板11は、高精細ディスプレイの製造に影響する温度領域における熱収縮率が、高精細ディスプレイの製造に影響しない温度領域に比べて極めて低くなっているため、高精細ディスプレイの製造に好適である。また、熱処理温度を超える温度領域においては、ガラス基板11の熱収縮率の低下を抑制することにより、熱収縮のばらつき、ガラス基板11内の歪を抑制することができる。
【0064】
(第1実施形態の実験例)
第1実施形態の効果を確認するために、下記ガラス組成を有するガラス基板をフュージョン法の1つであるオーバーフローダウンドロー法により複数作製した。ガラス基板の歪点は660℃であった。
【0065】
・ガラス組成
SiO2 67.0モル%、
Al23 10.6モル%、
23 11.0モル%、
RO 11.4モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)。
【0066】
・アニーリング
このガラス基板に対し、第1実施形態の方法で熱処理(アニーリング)を行った。実施例では、ガラス基板を積層し、300℃から熱処理温度の最高温度500℃までの温度領域では、300℃から室温までの温度領域に比べて、昇温速度、降温速度を遅くして、昇温時間、降温時間が長くなるよう熱処理を行なった。比較例では、ガラス基板の積層体を形成し、温度領域によって、昇温速度、降温速度を変化させずに、すなわち、昇温速度及び降温速度のそれぞれを一定の速度に固定して熱処理を行った(従来例)。
【0067】
・熱収縮率の測定
熱処理前に所定のサイズの長方形にガラス基板を切りだし、長辺両端部にケガキ線を入れ、短辺中央部で半分に切断し、2つのガラスサンプルを得る。このうちの一方のガラスサンプルを、熱処理(昇温速度が10℃/分、450℃で1時間放置)する。熱処理をしない他方のガラスサンプルの長さを計測する。さらに、熱処理したガラスサンプルと未処理のガラスサンプルとをつき合わせてケガキ線のずれ量を、レーザ顕微鏡等で測定して、ガラスサンプルの長さの差分を求めることでサンプルの熱収縮量を求めることができる。この熱収縮量である差分と、熱処理前のガラスサンプルの長さを用いて、以下の式により熱収縮率が求められる。このガラスサンプルの熱収縮率をガラス基板の熱収縮率とした。
熱収縮率(ppm)=(差分)/(熱処理前のガラスサンプルの長さ)×10
【0068】
アニーリング前のガラス基板について熱収縮率を調べたところ、50ppmであった。
アニーリング後のガラス基板について熱収縮率を調べたところ、実施例では、積層方向の端部のガラス基板の熱収縮率は2ppm、積層方向の中央部のガラス基板の熱収縮率は3ppmであった。一方、従来例では、積層方向の端部のガラス基板の熱収縮率は10ppm、積層方向の中央部のガラス基板の熱収縮率は18ppmであった。
また、実施例では、ガラス基の縁領域と中央領域との熱履歴の差が低減されて、縁領域の熱収縮率は2ppm、中央領域の熱収縮率は3ppmであった。一方、従来例では、縁領域の熱収縮率は11ppm、中央領域の熱収縮率は18ppmであった。
このように、温度領域によって昇温速度、降温速度を変化させることにより、熱処理工程において複数のガラス基板間の熱分布を均等に調整することで、熱処理後のガラス基板の熱収縮率のばらつきを低減することができる。
【0069】
(第2実施形態の実験例)
第2実施形態の効果を確認するために、第1実施形態の実験例と同じガラス組成を有するガラス基板をオーバダウンドロー法により複数作製した。ガラス基板の板厚は、0.5mmであり、ガラス基板の歪点は660℃であった。
【0070】
・アニーリング
このガラス基板に対し、第2の実施形態による熱処理の方法で熱処理を行った。実施例では、ガラス基板一枚を支持部材上に載置し、第1中間温度から第2中間温度までの温度領域に比べて、熱処理温度500℃から第1中間温度までの温度領域の降温速度が遅くなるよう熱処理を行なった。比較例では、実施例と同様に、ガラス基板一枚を支持部材上に載置し、第1中間温度から第2中間温度までの温度領域に比べて、熱処理温度500℃から第1中間温度までの温度領域の降温速度が速くなるように熱処理を行った。
熱収縮率の測定は、第1実施形態における熱収縮率の測定と同じ方法で行なった。熱処理前のガラスサンプルの熱収縮率は、40〜50ppmであった。
【0071】
熱処理温度=500℃、第1中間温度=400℃、第2中間温度=200℃、維持時間=10分とし、昇温速度、第1降温速度、第2降温速度を変化させて、ガラスサンプルの熱収縮率を比較した。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の実施例1、2に示すように、第1降温速度が第2降温速度より遅く昇温速度が20℃/分以上〜120℃/分未満の範囲において、ガラス基板の熱収縮率を低減でき、熱収縮率のばらつきも小さかった。また、実施例1〜6に示すように、第1降温速度が0.5℃/分以上〜10℃/分未満、第2降温速度が10℃/分以上〜25℃/分未満の範囲内において、ガラス基板の熱収縮率を15ppm以下に低減でき、熱収縮率のばらつきも小さかった。そして、熱収縮率に影響の大きい第1降温速度をより遅くすることにより、熱収縮率をより低減できた。また、比較例1〜3に示すように、本実施形態にかかる速度範囲外であり、第1降温速度>第2降温速度である場合には、ガラス基板の熱収縮率は低減したものの、15ppmを超えるため、有効な熱処理ではないことが判明した。
【0074】
次に、第2実施形態の熱処理における維持時間を、0分、2分、5分、30分、60分、120分、150分と設定した場合におけるガラスサンプルの熱収縮率を比較した。なお、熱処理温度=500℃、第1中間温度=400℃、第2中間温度=200℃、昇温速度=50℃/分、第1降温速度=3℃/分、第2降温速度=13℃/分とした。その結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2の実施例1〜6に示すように、維持時間を設けることにより、ガラス基板の熱収縮率を10ppm以下にすることができ、熱収縮率のばらつきも小さかった。維持時間を、5〜150分とすることにより、熱収縮率を10ppm以下に低下できる。特に維持時間が20〜120分である実施例3〜5の熱収縮率は7±1(ppm)以下であり、優れた効果を示す。
【0077】
次に、第2実施形態の熱処理における熱処理温度を、350℃、400℃、500℃、600℃、650℃と設定した場合におけるガラスサンプルの熱収縮率を比較した。なお、維持時間=10分、第1中間温度=400℃、第2中間温度=200℃、昇温速度=50℃、第1降温速度=3℃/分、第2降温速度=13℃/分とした。その結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
表3の実施例1〜3に示すように、熱処理温度を400℃以上から600℃以下にすることにより、ガラス基板の熱収縮率を略10ppm以下にすることができ、熱収縮率のばらつきも小さかった。一方、比較例1に示すように、熱処理温度が350℃の場合、ガラス基板の熱収縮率が15ppmを超えたため、有効な熱処理ではないことが判明した。また、比較例2に示すように、熱処理温度が650℃の場合、ガラス基板の熱収縮率を15ppm以下にすることができたが、熱効率の観点から有効な熱処理ではないと考えられる。
【0080】
以上に示すように、温度領域によって降温速度を変化させることにより、熱処理後のガラス基板の熱収縮率を低減することができる。
【0081】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例等に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0082】
10 積層体
11 ガラス基板
12 シート体
15a、15b 断熱板
20 パレット
21 基台部
22 載置部
23 背面板
40,140 炉
41,141 発熱装置
112 支持部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8