【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(たとえば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0015】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を記載する。
【0016】
本明細書において「錯体化合物」または「錯体」とは、交換可能に用いられ、当該分野において通常用いられる意味で用いられ、金属元素または金属類似元素の原子またはイオンを中心として、これに配位子(原子・原子団・分子またはイオン)が結合した集団をいう。錯イオン・錯塩のほか、ニッケル‐カルボニル(ニッケル原子に4個の一酸化炭素分
子が配位)のような非電解質をも含まれる。
【0017】
本明細書において「炭化水素」とは、当該分野において使用される通常の意味で用いられ、炭素と水素とが結合した任意の物質またはその誘導体をいう。具体的には、後述のアルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、炭素環基、アリールなどを包含する。置換基が結合している場合は、特に置換(された)炭化水素ということがある。
【0018】
本明細書において「置換」とは、有機化合物のある特定の水素原子をほかの原子あるいは原子団で置き換えることをいう。
【0019】
本明細書において「置換基」とは、化学構造中で,他のものを置換した原子または官能基をいう。
【0020】
本明細書においては、特に言及がない限り、置換は、ある有機化合物または置換基中の1または2以上の水素原子を他の原子または原子団で置き換えるか、または二重結合もしくは三重結合とすることをいう。水素原子を1つ除去して1価の置換基に置換するかまたは単結合と一緒にして二重結合とすることも可能であり、そして水素原子を2つ除去して2価の置換基に置換するか、または単結合と一緒にして三重結合とすることも可能である。
【0021】
本発明における置換基としては、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、シクロアルケニル、アルキニル、シクロアルキニル、アルコキシ、炭素環基、ヘテロ環基、ハロゲン、ヒドロキシ、チオール、シアノ、ニトロ、アミノ、カルボキシ、カルバモイル、アシル、アシルアミノ、チオカルボキシ、アミド、置換されたカルボニル、置換されたチオカルボニル、置換されたスルホニルまたは置換されたスルフィニルが挙げられるがそれらに限定されない。置換基は、すべてが水素以外の置換基を有していても良い。
【0022】
本明細書において、C1、C2、、、Cnは、炭素数を表す(ここで、nは任意の正の整数を示す。)。従って、C1は炭素数1個の置換基を表すために使用される。
【0023】
本明細書において「アルキル」とは、メタン、エタン、プロパンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC
nH
2n+1−で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキルは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換されたアルキル」とは、以下に規定する置換基によってアルキルのHが置換されたアルキルをいう。これらの具体例は、C1〜C2アルキル、C1〜C3アルキル、C1〜C4アルキル、C1〜C5アルキル、C1〜C6アルキル、C1〜C7アルキル、C1〜C8アルキル、C1〜C9アルキル、C1〜C10アルキル、C1〜C11アルキルまたはC1〜C20アルキル、C1〜C2置換されたアルキル、C1〜C3置換されたアルキル、C1〜C4置換されたアルキル、C1〜C5置換されたアルキル、C1〜C6置換されたアルキル、C1〜C7置換されたアルキル、C1〜C8置換されたアルキル、C1〜C9置換されたアルキル、C1〜C10置換されたアルキル、C1〜C11置換されたアルキルまたはC1〜C20置換されたアルキルであり得る。ここで、たとえばC1〜C10アルキルとは、炭素原子を1〜10個有する直鎖または分枝状のアルキルを意味し、メチル(CH
3−)、エチル(C
2H
5−)、n−プロピル(CH
3CH
2CH
2−)、イソプロピル((CH
3)
2CH−)、n−ブチル(CH
3CH
2CH
2CH
2−)、n−ペンチル(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−ヘキシル(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−ヘプチル(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−オクチル(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−ノニル(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−デシル(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、−C(CH
3)
2CH
2CH
2CH(CH
3)
2、−CH
2CH(CH
3)
2などが例示される。また、たとえば、C1〜C10置換されたアルキルとは、C1〜C10アルキルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0024】
本明細書において「置換されていてもよいアルキル」とは、上で定義した「アルキル」または「置換されたアルキル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0025】
本明細書において「アルキレン」とは、メタン、エタン、プロパンのような脂肪族炭化水素(アルカン)から水素原子が二つ失われて生ずる2価の基をいい、一般に−C
nH
2n−で表される(ここで、nは正の整数である)。アルキレンは、直鎖または分枝鎖であり得る。本明細書において「置換されたアルキレン」とは、以下に規定する置換基によってアルキレンのHが置換されたアルキレンをいう。これらの具体例は、C1〜C2アルキレン、C1〜C3アルキレン、C1〜C4アルキレン、C1〜C5アルキレン、C1〜C6アルキレン、C1〜C7アルキレン、C1〜C8アルキレン、C1〜C9アルキレン、C1〜C10アルキレン、C1〜C11アルキレンまたはC1〜C20アルキレン、C1〜C2置換されたアルキレン、C1〜C3置換されたアルキレン、C1〜C4置換されたアルキレン、C1〜C5置換されたアルキレン、C1〜C6置換されたアルキレン、C1〜C7置換されたアルキレン、C1〜C8置換されたアルキレン、C1〜C9置換されたアルキレン、C1〜C10置換されたアルキレン、C1〜C11置換されたアルキレンまたはC1〜C20置換されたアルキレンであり得る。ここで、たとえばC1〜C10アルキレンとは、炭素原子を1〜10個有する直鎖または分枝状のアルキレンを意味し、メチレン(−CH
2−)、エチレン(−C
2H
4−)、n−プロピレン(−CH
2CH
2CH
2−)、イソプロピレン(−(CH
3)
2C−)、n−ブチレン(−CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−ペンチレン(−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−ヘキシレン(−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−ヘプチレン(−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−オクチレン(−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−ノニレン(−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−デシレン(−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、−CH
2C(CH
3)
2−などが例示される。また、たとえば、C1〜C10置換されたアルキレンとは、C1〜C10アルキレンであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。本明細書において「アルキレン」は、酸素原子および硫黄原子から選択される原子を1またはそれ以上含んでいてもよい。
【0026】
本明細書において「置換されていてもよいアルキレン」とは、上で定義した「アルキレン」または「置換されたアルキレン」のいずれであってもよいことを意味する。
【0027】
本明細書において「シクロアルキル」とは、環式構造を有するアルキルをいう。「置換されたシクロアルキル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルキルのHが置換されたシクロアルキルをいう。具体例としては、C3〜C4シクロアルキル、C3〜C5シクロアルキル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C7シクロアルキル、C3〜C8シクロアルキル、C3〜C9シクロアルキル、C3〜C10シクロアルキル、C3〜C11シクロアルキル、C3〜C20シクロアルキル、C3〜C4置換されたシクロアルキル、C3〜C5置換されたシクロアルキル、C3〜C6置換されたシクロアルキル、C3〜C7置換されたシクロアルキル、C3〜C8置換されたシクロアルキル、C3〜C9置換されたシクロアルキル、C3〜C10置換されたシクロアルキル、C3〜C11置換されたシクロアルキルまたはC3〜C20置換されたシクロアルキルであり得る。たとえば、シクロアルキルとしては、シクロプロピル、シクロヘキシルなどが例示される。
【0028】
本明細書において「置換されていてもよいシクロアルキル」とは、上で定義した「シクロアルキル」または「置換されたシクロアルキル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0029】
本明細書において「アルケニル」とは、分子内に二重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC
nH
2n−1−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってアルケニルのHが置換されたアルケニルをいう。具体例としては、C2〜C3アルケニル、C2〜C4アルケニル、C2〜C5アルケニル、C2〜C6アルケニル、C2〜C7アルケニル、C2〜C8アルケニル、C2〜C9アルケニル、C2〜C10アルケニル、C2〜C11アルケニルまたはC2〜C20アルケニル、C2〜C3置換されたアルケニル、C2〜C4置換されたアルケニル、C2〜C5置換されたアルケニル、C2〜C6置換されたアルケニル、C2〜C7置換されたアルケニル、C2〜C8置換されたアルケニル、C2〜C9置換されたアルケニル、C2〜C10置換されたアルケニル、C2〜C11置換されたアルケニルまたはC2〜C20置換されたアルケニルであり得る。ここで、たとえばC2〜C10アルキルとは、炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルケニルを意味し、ビニル(CH
2=CH−)、アリル(CH
2=CHCH
2−)、CH
3CH=CH−などが例示される。また、たとえば、C2〜C10置換されたアルケニルとは、C2〜C10アルケニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0030】
本明細書において「置換されていてもよいアルケニル」とは、上で定義した「アルケニル」または「置換されたアルケニル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0031】
本明細書において「アルケニレン」とは、分子内に二重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が二つ失われて生ずる2価の基をいい、一般に−C
nH
2n−2−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルケニレン」とは、以下に規定する置換基によってアルケニレンのHが置換されたアルケニレンをいう。具体例としては、C2〜C25アルケニレンまたはC2〜C25置換されたアルケニレンが挙げられ、なかでも特にC2〜C3アルケニレン、C2〜C4アルケニレン、C2〜C5アルケニレン、C2〜C6アルケニレン、C2〜C7アルケニレン、C2〜C8アルケニレン、C2〜C9アルケニレン、C2〜C10アルケニレン、C2〜C11アルケニレンまたはC2〜C20アルケニレン、C2〜C3置換されたアルケニレン、C2〜C4置換されたアルケニレン、C2〜C5置換されたアルケニレン、C2〜C6置換されたアルケニレン、C2〜C7置換されたアルケニレン、C2〜C8置換されたアルケニレン、C2〜C9置換されたアルケニレン、C2〜C10置換されたアルケニレン、C2〜C11置換されたアルケニレンまたはC2〜C20置換されたアルケニレンが好ましい。ここで、たとえばC2〜C10アルキルとは、炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルケニレンを意味し、−CH=CH−、−CH=CHCH
2−、−(CH
3)C=CH−などが例示される。また、たとえば、C2〜C10置換されたアルケニレンとは、C2〜C10アルケニレンであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。本明細書において「アルケニレン」は、酸素原子および硫黄原子から選択される原子を1またはそれ以上含んでいてもよい。
【0032】
本明細書において「置換されていてもよいアルケニレン」とは、上で定義した「アルケニレン」または「置換されたアルケニレン」のいずれであってもよいことを意味する。
【0033】
本明細書において「シクロアルケニル」とは、環式構造を有するアルケニルをいう。「置換されたシクロアルケニル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルケニルのHが置換されたシクロアルケニルをいう。具体例としては、C3〜C4シクロアルケニル、C3〜C5シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C7シクロアルケニル、C3〜C8シクロアルケニル、C3〜C9シクロアルケニル、C3〜C10シクロアルケニル、C3〜C11シクロアルケニル、C3〜C20シクロアルケニル、C3〜C4置換されたシクロアルケニル、C3〜C5置換されたシクロアルケニル、C3〜C6置換されたシクロアルケニル、C3〜C7置換されたシクロアルケニル、C3〜C8置換されたシクロアルケニル、C3〜C9置換されたシクロアルケニル、C3〜C10置換されたシクロアルケニル、C3〜C11置換されたシクロアルケニルまたはC3〜C20置換されたシクロアルケニルであり得る。たとえば、好ましいシクロアルケニルとしては、1−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニルなどが例示される。
【0034】
本明細書において「置換されていてもよいシクロアルケニル」とは、上で定義した「シクロアルケニル」または「置換されたシクロアルケニル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0035】
本明細書において「アルキニル」とは、アセチレンのような、分子内に三重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が一つ失われて生ずる1価の基をいい、一般にC
nH
2n−3−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルキニル」とは、以下に規定する置換基によってアルキニルのHが置換されたアルキニルをいう。具体例としては、C2〜C3アルキニル、C2〜C4アルキニル、C2〜C5アルキニル、C2〜C6アルキニル、C2〜C7アルキニル、C2〜C8アルキニル、C2〜C9アルキニル、C2〜C10アルキニル、C2〜C11アルキニル、C2〜C20アルキニル、C2〜C3置換されたアルキニル、C2〜C4置換されたアルキニル、C2〜C5置換されたアルキニル、C2〜C6置換されたアルキニル、C2〜C7置換されたアルキニル、C2〜C8置換されたアルキニル、C2〜C9置換されたアルキニル、C2〜C10置換されたアルキニル、C2〜C11置換されたアルキニルまたはC2〜C20置換されたアルキニルであり得る。ここで、たとえば、C2〜C10アルキニルとは、たとえば炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルキニルを意味し、エチニル(CH≡C−)、1−プロピニル(CH
3C≡C−)などが例示される。また、たとえば、C2〜C10置換されたアルキニルとは、C2〜C10アルキニルであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。
【0036】
本明細書において「置換されていてもよいアルキニル」とは、上で定義した「アルキニル」または「置換されたアルキニル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0037】
本明細書において「アルキニレン」とは、分子内に二重結合を一つ有する脂肪族炭化水素から水素原子が二つ失われて生ずる2価の基をいい、一般に−C
nH
2n−4−で表される(ここで、nは2以上の正の整数である)。「置換されたアルキニレン」とは、以下に規定する置換基によってアルキニレンのHが置換されたアルキニレンをいう。具体例としては、C2〜C25アルキニレンまたはC2〜C25置換されたアルキニレンが挙げられ、なかでも特にC2〜C3アルキニレン、C2〜C4アルキニレン、C2〜C5アルキニレン、C2〜C6アルキニレン、C2〜C7アルキニレン、C2〜C8アルキニレン、C2〜C9アルキニレン、C2〜C10アルキニレン、C2〜C11アルキニレンまたはC2〜C20アルキニレン、C2〜C3置換されたアルキニレン、C2〜C4置換されたアルキニレン、C2〜C5置換されたアルキニレン、C2〜C6置換されたアルキニレン、C2〜C7置換されたアルキニレン、C2〜C8置換されたアルキニレン、C2〜C9置換されたアルキニレン、C2〜C10置換されたアルキニレン、C2〜C11置換されたアルキニレンまたはC2〜C20置換されたアルキニレンが好ましい。ここで、たとえばC2〜C10アルキルとは、炭素原子を2〜10個含む直鎖または分枝状のアルキニレンを意味し、−CH≡CH−、−CH≡CHCH
2−、−(CH
3)C≡CH−などが例示される。また、たとえば、C2〜C10置換されたアルキニレンとは、C2〜C10アルキニレンであって、そのうち1または複数の水素原子が置換基により置換されているものをいう。本明細書において「アルキニレン」は、酸素原子および硫黄原子から選択される原子を1またはそれ以上含んでいてもよい。
【0038】
本明細書において「置換されていてもよいアルキニレン」とは、上で定義した「アルキニレン」または「置換されたアルキニレン」のいずれであってもよいことを意味する。
【0039】
本明細書において「シクロアルキニル」とは、環式構造を有するアルキニルをいう。「置換されたシクロアルキニル」とは、以下に規定する置換基によってシクロアルキニルのHが置換されたシクロアルキニルをいう。具体例としては、C3〜C4シクロアルキニル、C3〜C5シクロアルキニル、C3〜C6シクロアルキニル、C3〜C7シクロアルキニル、C3〜C8シクロアルキニル、C3〜C9シクロアルキニル、C3〜C10シクロアルキニル、C3〜C11シクロアルキニル、C3〜C20シクロアルキニル、C3〜C4置換されたシクロアルキニル、C3〜C5置換されたシクロアルキニル、C3〜C6置換されたシクロアルキニル、C3〜C7置換されたシクロアルキニル、C3〜C8置換されたシクロアルキニル、C3〜C9置換されたシクロアルキニル、C3〜C10置換されたシクロアルキニル、C3〜C11置換されたシクロアルキニルまたはC3〜C20置換されたシクロアルキニルであり得る。たとえば、好ましいシクロアルキニルとしては、1−シクロペンテニル、2−シクロヘキセニルなどが例示される。
【0040】
本明細書において「置換されていてもよいシクロアルキニル」とは、上で定義した「シクロアルキニル」または「置換されたシクロアルキニル」のいずれであってもよいことを意味する。
【0041】
本明細書において「アルコキシ」とは、アルコール類のヒドロキシ基の水素原子が失われて生ずる1価の基をいい、一般にC
nH
2n+1O−で表される(ここで、nは1以上の整数である)。「置換されたアルコキシ」とは、以下に規定する置換基によってアルコキシのHが置換されたアルコキシをいう。具体例としては、C1〜C2アルコキシ、C1〜C3アルコキシ、C1〜C4アルコキシ、C1〜C5アルコキシ、C1〜C6アルコキシ、C1〜C7アルコキシ、C1〜C8アルコキシ、C1〜C9アルコキシ、C1〜C10アルコキシ、C1〜C11アルコキシ、C1〜C20アルコキシ、C1〜C2置換されたアルコキシ、C1〜C3置換されたアルコキシ、C1〜C4置換されたアルコキシ、C1〜C5置換されたアルコキシ、C1〜C6置換されたアルコキシ、C1〜C7置換されたアルコキシ、C1〜C8置換されたアルコキシ、C1〜C9置換されたアルコキシ、C1〜C10置換されたアルコキシ、C1〜C11置換されたアルコキシまたはC1〜C20置換されたアルコキシであり得る。ここで、たとえば、C1〜C10アルコキシとは、炭素原子を1〜10個含む直鎖または分枝状のアルコキシを意味し、メトキシ(CH
3O−)、エトキシ(C
2H
5O−)、n−プロポキシ(CH
3CH
2CH
2O−)などが例示される。
【0042】
本明細書において「置換されていてもよいアルコキシ」とは、上で定義した「アルコキシ」または「置換されたアルコキシ」のいずれであってもよいことを意味する。
【0043】
本明細書において「ヘテロ環(基)」とは、炭素およびヘテロ原子をも含む環状構造を有する基をいう。ここで、ヘテロ原子は、O、SおよびNからなる群より選択され、同一であっても異なっていてもよく、1つ含まれていても2以上含まれていてもよい。ヘテロ環基は、芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。ヘテロ環基は置換されていてもよい。
【0044】
本明細書において「置換されていてもよいヘテロ環(基)」とは、上で定義した「ヘテロ環(基)」または「置換されたヘテロ環(基)」のいずれであってもよいことを意味する。
【0045】
本明細書において「アルコール」とは、脂肪族炭化水素の1または2以上の水素原子をヒドロキシル基で置換した有機化合物をいう。本明細書においては、ROHとも表記される。ここで、Rは、アルキル基である。アルコールとしては、たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0046】
本明細書において「炭素環基」とは、炭素のみを含む環状構造を含む基であって、前記の「シクロアルキル」、「置換されたシクロアルキル」、「シクロアルケニル」、「置換されたシクロアルケニル」、「シクロアルキニル」、「置換されたシクロアルキニル」以外の基をいう。炭素環基は芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換された炭素環基」とは、以下に規定する置換基によって炭素環基のHが置換された炭素環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C20炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C20置換された炭素環基であり得る。炭素環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基であり得る。炭素環基としては、フェニル基から水素原子が1個欠失したものが例示される。ここで、水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
【0047】
本明細書において「置換されていてもよい炭素環基」とは、上で定義した「炭素環基」または「置換された炭素環基」のいずれであってもよいことを意味する。
【0048】
本明細書において「アリール」とは、芳香族炭化水素の環に結合する水素原子が1個離脱して生ずる基をいい、本明細書において、炭素環基に包含される。ベンゼンからはフェニル基(C
6H
5−)、トルエンからはトリル基(CH
3C
6H
4−)、キシレンからはキシリル基((CH
3)
2C
6H
3−)、ナフタレンからはナフチル基(C
10H
8−)が誘導される。
【0049】
本明細書において「ヘテロ環基」とは、炭素およびヘテロ原子をも含む環状構造を有する基をいう。ここで、ヘテロ原子は、O、SおよびNからなる群より選択され、同一であっても異なっていてもよく、1つ含まれていても2以上含まれていてもよい。ヘテロ環基は、芳香族系または非芳香族系であり得、そして単環式または多環式であり得る。「置換されたヘテロ環基」とは、以下に規定する置換基によってヘテロ環基のHが置換されたヘテロ環基をいう。具体例としては、C3〜C4炭素環基、C3〜C5炭素環基、C3〜C6炭素環基、C3〜C7炭素環基、C3〜C8炭素環基、C3〜C9炭素環基、C3〜C10炭素環基、C3〜C11炭素環基、C3〜C20炭素環基、C3〜C4置換された炭素環基、C3〜C5置換された炭素環基、C3〜C6置換された炭素環基、C3〜C7置換された炭素環基、C3〜C8置換された炭素環基、C3〜C9置換された炭素環基、C3〜C10置換された炭素環基、C3〜C11置換された炭素環基またはC3〜C20置換された炭素環基の1つ以上の炭素原子をヘテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基はまた、C4〜C7炭素環基またはC4〜C7置換された炭素環基の炭素原子を1つ以上へテロ原子で置換したものであり得る。ヘテロ環基としては、チエニル基、ピロリル基、フリル基、イミダゾリル基、ピリジル基などが例示される。水素の欠失位置は、化学的に可能な任意の位置であり得、芳香環上であってもよく、非芳香環上であってもよい。
【0050】
本明細書において、炭素環基またはヘテロ環基は、下記に定義されるように1価の置換基で置換され得ることに加えて、2価の置換基で置換され得る。そのような二価の置換は、オキソ置換(=O)またはチオキソ置換(=S)であり得る。
【0051】
本明細書において「ハロゲン」とは、周期表17族(最近の定義では、17族と呼んでいる)に属する、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などの元素の1価の基をいう。
【0052】
本明細書において「ヒドロキシ」とは、−OHで表される基をいう。「置換されたヒドロキシ」とは、ヒドロキシのHが下記で定義される置換基で置換されているものをいう。
【0053】
本明細書において「チオール」とは、ヒドロキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基(メルカプト基)であり、−SHで表される。「置換されたチオール」とは、メルカプトのHが下記で定義される置換基で置換されている基をいう。
【0054】
本明細書において「シアノ」とは、−CNで表される基をいう。「ニトロ」とは、−NO
2で表される基をいう。「アミノ」とは、−NH
2で表される基をいう。「置換されたアミノ」とは、アミノのHが以下で定義される置換基で置換されたものをいう。
【0055】
本明細書において「カルボキシ」とは、−COOHで表される基をいう。「置換されたカルボキシ」とは、カルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
【0056】
本明細書において「チオカルボキシ」とは、カルボキシ基の酸素原子を硫黄原子で置換した基をいい、−C(=S)OH、−C(=O)SHまたは−CSSHで表され得る。「置換されたチオカルボキシ」とは、チオカルボキシのHが以下に定義される置換基で置換されたものをいう。
【0057】
本明細書において「アシル」とは、カルボン酸からOHを除いてできる1価の基をいう。アシル基の代表例としては、アセチル(CH
3CO−)、ベンゾイル(C
6H
5CO−)などが挙げられる。「置換されたアシル」とは、アシルの水素を以下に定義される置換基で置換したものをいう。
【0058】
本明細書において「アミド」とは、アンモニアまたはアミンの水素を酸基(アシル基)で置換した基である。「置換されたアミド」とは、アミドが置換されたものをいう。
【0059】
本明細書において「カルボニル」とは、アルデヒドおよびケトンの特性基である−(C=O)−を含むものを総称したものをいう。「置換されたカルボニル」は、下記において選択される置換基で置換されているカルボニル基を意味する。
【0060】
本明細書において「チオカルボニル」とは、カルボニルにおける酸素原子を硫黄原子に置換した基であり、特性基−(C=S)−を含む。チオカルボニルには、チオケトンおよびチオアルデヒドが含まれる。「置換されたチオカルボニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたチオカルボニルを意味する。
【0061】
本明細書において「スルホニル」とは、特性基である−SO
2−を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルホニル」とは、下記において選択される置換基で置換されたスルホニルを意味する。
【0062】
本明細書において「スルフィニル」とは、特性基である−SO−を含むものを総称したものをいう。「置換されたスルフィニル」とは、下記において選択される置換基で置換されているスルフィニルを意味する。
【0063】
本明細書において「アルケニルホスホン酸エステル化合物」とは、
(R
a1O)(R
a2O)P(O)−R
b
(ここで、R
a1およびR
a2は、それぞれ独立して置換されたか置換されていない炭化水素基であるか一緒になって環状の炭化水素基を形成し、R
bは置換されたか置換されていないアルケニル基である。)をいう。
【0064】
本明細書において「アルケニルスルフィド化合物」とは、
R
cS−R
b
(ここで、R
cは置換されたか置換されていない炭化水素基であり、R
bは置換されたか置換されていないアルケニル基である。)をいう。アルケニルスルフィド化合物は、各種求核剤やラジカル種と容易に反応し、医薬品・天然化合物の合成などに広く用いられ、精密化学品の合成の面で有用性が高い化合物である。
【0065】
本明細書において「ペルフルオロアルキル」とはアルキル基の炭素に結合する水素のすべてまたは一部がフッ素で置換されたアルキル基をいう。
【0066】
本明細書において「フッ素含有溶媒」とはその構造中にフッ素を含有する溶媒であり、例としては、FC−72(ペルフルオロヘキサン)、ペルフルオロノナン、ヘキサフルオロベンゼン、オクタデカフルオロオクタン、ペルフルオロデカリン、スリーエムジャパン株式会社のNovecシリーズ、たとえばNovec(商標) 7000(C
3F
7OCH
3)、Novec(商標) 7100(C
4F
9OCH
3)、Novec(商標) 7200(C
2F
5CF(OCH
3)C
3F
7)、およびNovec(商標) 71IPA(Novec(商標) 7100 95%、イソプロピルアルコール 5%未満)ならびにスリーエムジャパン株式会社のFC−770が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書において「フルオラス溶媒」とはフッ素含有溶媒と同義である。
【0068】
本明細書において「フルオラス層」とはフッ素含有溶媒層と同義である。
【0069】
本明細書において「フッ素非含有溶媒」とはその構造中にフッ素を含有していない溶媒であり、例としては、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジオキサン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、石油エーテル、石油ベンジン、キシレン、メシチレン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル酢酸エステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アニソール、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、アルコール全般、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
本明細書において「脱離基」とは脱離反応あるいは置換反応で、反応を受ける有機化合物から遊離していく原子または原子団(電荷を帯びたものものも中性のものもある)であり、LGで表される。脱離基の例としては、ハロゲン基、トリフラート基、メシラート基、およびトシラート基が挙げられるが、これらに限定されない。脱離基としてのハロゲン基は、好ましくはクロリド基、ブロミド基、またはヨージド基である。好ましくは、脱離基は、フルオリド基を含まない。
【0071】
本明細書において「ホスフィン」とはリンの水素化物PH
3およびその水素原子をアリール基Arまたはアルキル基Rで置換した化合物の総称であり、第一級ホスフィンRPH
2、第二級ホスフィンR
2PH、第三級ホスフィンR
3P、に分類される。
【0072】
本明細書において「ホスフィン配位金属」とは、ホスフィンと配位結合を形成する金属であり、例としては、ニッケル、ロジウム、白金、ルテニウム、イリジウム、コバルト、または鉄が挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
本明細書において「ラジカル開始剤」とはラジカル反応を開始させる化合物であり、例としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0074】
本明細書において「グリニャール試薬」とは、RMgX(Rは炭化水素基、Xはハロゲン基)型有機マグネシウム化合物の総称である。
【0075】
(好ましい実施形態の説明)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0076】
1つの局面において、本発明は、一般式R
f−PR
1R
2で示されるホスフィン化合物であって、式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して置換または非置換の炭化水素基であり、R
fは、ペルフルオロ化された炭化水素基である、ホスフィン化合物を提供する。
【0077】
1つの好ましい実施形態では、R
fは、ペルフルオロアルキル基またはペルフルオロアルケニル基である。これは、ペルフルオロアルキル基は、フッ素含有溶媒との親和性が高いため、フッ素含有溶媒を用いて、容易に分離、精製ができるためである。
【0078】
さらなる実施形態では、R
fは、分岐を有し炭素数が4以上であるかもしくは直鎖であり炭素数が13以上のペルフルオロアルキル基であるか、炭素数が3以上の直鎖もしくは分岐を有するペルフルオロアルケニル基であるか、または炭素数が5以下もしくは7以上であるペルフルオロシクロアルキル基である。
【0079】
さらなる実施形態では、R
fは、炭素数が13以上のペルフルオロ化された炭化水素基である。フッ素含有率が高い化合物ほど、フッ素含有溶媒との親和性が高いため、R
fの炭素原子の数が多いほど、本発明のホスフィン化合物はフッ素含有溶媒を用いて、容易に分離、精製が可能である。
【0080】
さらに別の実施形態では、R
1およびR
2は、それぞれ独立して置換または非置換のアルキル基、シクロアルキル基、およびアリール基からなる群から選択される基である。
【0081】
1つの局面において、本発明は、前記ホスフィン化合物と、金属との錯体を提供する。
【0082】
1つの好ましい実施形態では、前記金属は、ホスフィン配位金属である。
【0083】
さらなる実施形態では、前記金属は、ニッケル、ロジウム、白金、ルテニウム、イリジウム、コバルト、または鉄などを含む遷移金属である。
【0084】
さらなる好ましい実施形態では、前記金属は、ニッケル、ロジウム、白金、ルテニウム、パラジウムまたはイリジウムである。
【0085】
1つの実施形態において、本発明のホスフィン化合物は、R
f−PR
1R
2で示されるホスフィン化合物を製造する方法であって、式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して置換または非置換の炭化水素基であり、R
fは、ペルフルオロ化された炭化水素基であり、該方法は、(A)PR
1R
2R
3R
4R
5と、R
f−LG(LGは脱離基である)とを反応させる工程であって、R
3は置換または非置換の炭化水素基から選択され、かつ、R
1およびR
2とR
f−LGに対する反応性が同じか、またはR
1およびR
2よりもR
f−LGと反応し得る基であり、R
4およびR
5は、それぞれ存在しないか、O、N、およびSなどからなる群から選択されるヘテロ原子を含み得る置換もしくは非置換の炭化水素基であるか、または一緒になって=O、=S、もしくは=Seなどである、工程、および(B)得られた生成物から、該ホスフィン化合物を取り出す工程、を包含する、方法により作製される。
【0086】
1つの好ましい実施形態では、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ独立してアルキル、ハロゲン基、ハロアルキル、アルコキシまたはアルケニルにより置換された炭化水素基または非置換の炭化水素基である。
【0087】
1つの実施形態では、前記ハロゲン基は、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)である。
【0088】
1つの実施形態では、前記アルキルは、C1〜C2アルキル、C1〜C3アルキル、C1〜C4アルキル、C1〜C5アルキル、C1〜C6アルキルなどであり、具体的には、メチル(CH
3−)、エチル(C
2H
5−)、n−プロピル(CH
3CH
2CH
2−)、イソプロピル((CH
3)
2CH−)、n−ブチル(CH
3CH
2CH
2CH
2−)、n−ペンチル(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2−)、n−ヘキシル(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)などである。
【0089】
1つの実施形態では、前記ハロアルキルは、前記ハロゲン基とアルキルの組み合わせた基である。
【0090】
1つの実施形態では、前記アルコキシは、C1〜C2アルコキシ、C1〜C3アルコキシ、C1〜C4アルコキシ、C1〜C5アルコキシ、C1〜C6アルコキシであり、具体的には、メトキシ(CH
3O−)、エトキシ(C
2H
5O−)、n−プロポキシ(CH
3CH
2CH
2O−)、n−ブトキシ(CH
3CH
2CH
2CH
2O−)、n−ペントキシ(CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2O−)、CH
3CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2O−などである。
【0091】
1つの実施形態では、前記アルケニルは、C2〜C3アルケニル、C2〜C4アルケニル、C2〜C5アルケニル、C2〜C6アルケニルであり、具体的には、ビニル(CH
2=CH−)、アリル(CH
2=CHCH
2−)、CH
3CH=CH−などである。
【0092】
さらなる好ましい実施形態では、R
1、R
2およびR
3は、いずれもフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、4−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、または4−メチルフェニル基であり、R
4およびR
5は存在しない。
【0093】
1つの実施形態では、R
1およびR
2は、いずれもフェニル基などのアリール基であり、R
3は2,4,6−トリメチルベンゾイル基、2,3−ジメチルベンゾイル基、2,4−ジメチルベンゾイル基、2,5−ジメチルベンゾイル基、2,6−ジメチルベンゾイル基、3,4−ジメチルベンゾイル基、3,5−ジメチルベンゾイル基、2−メチルベンゾイル基、3−メチルベンゾイル基、4−メチルベンゾイル基、またはベンゾイル基などであり、R
4およびR
5は一緒になって=O、=S、もしくは=Seなどである。
【0094】
さらなる好ましい実施形態では、R
1およびR
2は、いずれもフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、または4−メトキシフェニル基であり、R
3は2,4,6−トリメチルベンゾイル基であり、R
4およびR
5は一緒になって=Oである。
【0095】
1つの実施形態では、LGは、ハロゲン基、トリフラート基、メシラート基、およびトシラート基などからなる群から選択される脱離基である。
【0096】
さらなる好ましい実施形態では、LGは、ハロゲン基から選択される脱離基である。さらに好ましくは、LGは、ヨージド基である。これは、ハロゲン基の中でヨージド基が最も脱離能が大きいためである。
【0097】
1つの好ましい実施形態では、前記工程(B)は、ラジカルと反応しないフッ素非含有溶媒層の存在下で行われる。その理論的説明としては、これに束縛されることを望まないが、工程(A)において行われる反応の反応機構がラジカル機構であるからである。ラジカルと反応しないフッ素非含有溶媒層の例としては、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジオキサン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、石油エーテル、石油ベンジン、キシレン、メシチレン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル酢酸エステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アニソール、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、アルコール全般、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンなどである。
【0098】
さらなる好ましい実施形態では、前記ラジカルと反応しないフッ素非含有溶媒層は、クロロホルム、ベンゼン、ピリジン、メタノール、アセトン、酢酸エチル、塩化メチレン、エタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、およびテトラヒドロフランである。
【0099】
1つの実施形態では、前記工程(A)は、260nm以上の波長のもとでなされる。しかし、この値に限定されるものではない。
【0100】
別の実施形態では、前記工程(A)は、300nmより大きい波長のもとでなされる。しかし、この値に限定されるものではない。
【0101】
1つの実施形態では、前記工程(A)は、キセノンランプ、タングステンランプ、太陽光、LEDランプ、または水銀ランプなどの波長のもとでなされる。
【0102】
さらなる好ましい実施形態では、キセノンランプまたはタングステンランプの波長のもとでなされる。
【0103】
1つの好ましい実施形態では、本発明のホスフィン化合物は、前記工程(A)は、(A−1)必要に応じて添加剤を用いてPR
1R
2R
3R
4R
5と該添加剤とを反応させて、中間体を得る工程および/または(A−2)得られた中間体をR
f−LGと反応させる工程を包含する、方法により製造される。
【0104】
1つの好ましい実施形態では、前記工程(A)は、(A−3)グリニャール試薬R
1MgXとホスフィン(LG)
2PYR
Aとを反応させて、ホスフィン化合物(R
1)
2PYR
Aを得る工程(式中、Yは、O、SまたはSeから選択され、R
Aは、炭化水素基である)および/または(A−4)(R
1)
2PYR
Aを
【0108】
を得る工程(式中、Zは、O、SまたはSeから選択され、R
Bは、炭化水素基である)
を包含する、方法を提供する。
【0109】
さらなる好ましい実施形態では、前記グリニャール試薬R
1MgXは、フェニルマグネシウムブロミド、4−tertブチルフェニルマグネシウムブロミド、4−メトキシフェニルマグネシウムブロミド、4−フルオロフェニルマグネシウムブロミド、および2−メチルフェニルマグネシウムブロミドから選択される。
【0110】
さらなる好ましい実施形態では、前記ホスフィン(LG)
2PYR
Aは、Cl
2POMeである。
【0113】
は、2,4,6−トリメチルベンゾイルクロリドである。
【0114】
さらなる好ましい実施形態では、前記グリニャール試薬R
1MgXは、フェニルマグネシウムブロミド、4−tertブチルフェニルマグネシウムブロミド、4−メトキシフェニルマグネシウムブロミド、4−フルオロフェニルマグネシウムブロミド、および2−メチルフェニルマグネシウムブロミドから選択される。
【0115】
さらなる好ましい実施形態では、前記ホスフィン(LG)
2PYR
Aは、Cl
2POMeである。
【0118】
は、2,4,6−トリメチルベンゾイルクロリドである。
【0119】
1つの好ましい実施形態では、前記工程(B)は、フッ素非含有溶媒層およびフッ素含有溶媒の存在下でなされる。その理論的説明としては、これに束縛されることを望まないが、フッ素含有溶媒に本発明のホスフィン化合物を溶解させ、フッ素非含有溶媒層に同ホスフィン化合物以外の試薬を溶解させることにより、同ホスフィン化合物を容易に分離、精製するためである。
【0120】
1つの実施形態では、前記フッ素非含有溶媒層は、メタノール、アセトン、酢酸エチル、塩化メチレン、ベンゼン、エタノール、イソプロピルアルコール、フェノール、トルエン、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、およびテトラヒドロフランなどからなる群から選択される。
【0121】
さらなる好ましい実施形態では、前記フッ素非含有溶媒層は、メタノールである。
【0122】
1つの好ましい実施形態では、前記フッ素含有溶媒は、FC−72(ペルフルオロヘキサン)、ペルフルオロノナン、ヘキサフルオロベンゼン、オクタデカフルオロオクタン、ペルフルオロデカリン、スリーエムジャパン株式会社のNovecシリーズ、たとえばNovec(商標) 7000(C
3F
7OCH
3)、Novec(商標) 7100(C
4F
9OCH
3)、Novec(商標) 7200(C
2F
5CF(OCH
3)C
3F
7)、およびNovec(商標) 71IPA(Novec(商標) 7100 95%、イソプロピルアルコール 5%未満)ならびにスリーエムジャパン株式会社のFC−770などからなる群から選択される。フッ素含有率が高いフッ素含有溶媒ほど、本発明のホスフィン化合物を、容易に分離、精製ができると考えられる。
【0123】
さらなる好ましい実施形態では、前記フッ素含有溶媒は、FC−72(ペルフルオロヘキサン)である。
【0124】
1つの実施形態では、前記工程(B)は、前記得られた生成物を還元し、前記ホスフィン化合物を得る工程をさらに含む。
【0125】
1つの実施形態において、本発明のホスフィン化合物は、前述の方法を反復する方法であって、該方法において、前記ホスフィン化合物を取り出した後、残留出発原料を回収し、前記工程(A)に再度用いることを特徴とする方法を提供する。
【0126】
1つの局面において、前述の方法を実施するための装置は、
(a)前記工程(A)の反応を行うための手段と、
(b)前記工程(B)の前記ホスフィン化合物を取り出すための手段と、
(c)前記残留出発原料の回収のための手段と
を備える。
【0127】
1つの好ましい実施形態では、(a)前記工程(A)の反応を行うための手段は、加熱や光照射などを含む。
【0128】
1つの好ましい実施形態では、(b)前記工程(B)の反応を行うための手段は、ろ過、結晶化、遠心分離や再結晶などを含む。
【0129】
1つの好ましい実施形態では、(c)前記残留出発原料の回収のための手段は、ろ過、分留、抽出などを含む。
【0130】
別の実施形態では、前記装置は、(d)PR
1R
2R
3R
4R
5を格納する容器および/またはR
f−LGを格納する容器をさらに備える。
【0131】
別の局面において、本発明は、前述の方法を実施するための装置は、
(a)前記工程(A)の反応を行うための手段と、
(b)前記工程(B)の前記錯体を取り出すための手段と、
(c)前記残留出発原料の回収のための手段と
を備える。
【0132】
別の実施形態では、前記装置は、(d)PR
1R
2R
3R
4R
5を格納する容器および/またはR
f−LGを格納する容器をさらに備える。
【0133】
さらに別の局面において、本発明は、前述の方法を実施するための装置は、
(a)前記工程(A)の反応を行うための手段と、
(b)前記工程(B)の前記ホスフィンおよび/または前記錯体を取り出すための手段と、
(c)前記残留出発原料の回収のための手段と
を備える。
【0134】
別の実施形態では、前記装置は、(d)PR
1R
2R
3R
4R
5を格納する容器および/またはR
f−LGを格納する容器をさらに備える。
【0135】
1つの実施形態では、本発明は、反応において再利用する方法であって、該錯体を用いて反応を行う工程、該反応が終了して回収した残留物にフッ素含有溶媒とフッ素非含有溶媒を加える工程;および、該フッ素含有溶媒を取り出して、該錯体を回収する工程を提供する。
【0136】
1つの好ましい実施形態では、前記フッ素含有溶媒は、FC−72(ペルフルオロヘキサン)、ペルフルオロノナン、ヘキサフルオロベンゼン、オクタデカフルオロオクタン、ペルフルオロデカリン、スリーエムジャパン株式会社のNovecシリーズ、たとえばNovec(商標) 7000(C
3F
7OCH
3)、Novec(商標) 7100(C
4F
9OCH
3)、Novec(商標) 7200(C
2F
5CF(OCH
3)C
3F
7)、およびNovec(商標) 71IPA(Novec(商標) 7100 95%、イソプロピルアルコール 5%未満)ならびにスリーエムジャパン株式会社のFC−770などからなる群から選択される。フッ素含有率が高いフッ素含有溶媒ほど、本発明の錯体を、容易に分離、精製ができると考えられる。本方法により従来反応後破棄していた錯体を回収し、再利用可能である。
【0137】
さらなる好ましい実施形態では、前記フッ素含有溶媒は、FC−72(ペルフルオロヘキサン)である。
【0138】
1つの好ましい実施形態では、前記フッ素非含有溶媒層は、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジオキサン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、石油エーテル、石油ベンジン、キシレン、メシチレン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル酢酸エステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アニソール、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、アルコール全般、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンなどである。
【0139】
さらなる好ましい実施形態では、前記フッ素非含有溶媒はメタノールである。
【0140】
さらなる好ましい実施形態では、該フッ素含有溶媒を取り出す手段は、抽出である。
【0141】
さらなる好ましい実施形態では、該錯体を回収する工程は、減圧留去である。
【0142】
さらなる好ましい実施形態では、前記カップリング反応は、鈴木−宮浦カップリング反応、薗頭カップリング反応、ヘック反応、酸ハライドと末端アルキンとの薗頭クロスカップリング反応である。
【0143】
1つの実施形態では、本発明は、錯体のリサイクルを実施するためのキットであって、該錯体を用いて反応を行うための手段と、2)該カップリング反応が終了して回収した残留物にフッ素含有溶媒とフッ素非含有溶媒を加えるための手段と、該フッ素含有溶媒を取り出して、該錯体を回収するための手段とを備えるキットを提供する。
【0144】
1つの好ましい実施形態では、前記フッ素含有溶媒は、FC−72(ペルフルオロヘキサン)、ペルフルオロノナン、ヘキサフルオロベンゼン、オクタデカフルオロオクタン、ペルフルオロデカリン、スリーエムジャパン株式会社のNovecシリーズ、たとえばNovec(商標) 7000(C
3F
7OCH
3)、Novec(商標) 7100(C
4F
9OCH
3)、Novec(商標) 7200(C
2F
5CF(OCH
3)C
3F
7)、およびNovec(商標) 71IPA(Novec(商標) 7100 95%、イソプロピルアルコール 5%未満)ならびにスリーエムジャパン株式会社のFC−770などからなる群から選択される。フッ素含有率が高いフッ素含有溶媒ほど、本発明の錯体を、容易に分離、精製ができると考えられる。
【0145】
さらなる好ましい実施形態では、前記フッ素含有溶媒は、FC−72(ペルフルオロヘキサン)である。
【0146】
1つの好ましい実施形態では、前記フッ素非含有溶媒層は、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジオキサン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、石油エーテル、石油ベンジン、キシレン、メシチレン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル酢酸エステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル酢酸エステル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、アニソール、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、アルコール全般、エチレングリコール、N−メチル−2−ピロリドンなどである。
【0147】
さらなる好ましい実施形態では、前記フッ素非含有溶媒はメタノールである。
【0148】
(ペルフルオロホスフィン化合物R
fPR
2の製造例)
本発明のペルフルオロホスフィン化合物を製造する方法を一般化すると以下のとおりとなる。
【0149】
(出発原料としてホスフィンを用いる場合)
【0151】
ホスフィンPR
3(式中Rは置換または非置換の炭化水素基であり、たとえばトリフェニルホスフィン0.1mmol)、ペルフルオロアルキル化合物R
f−LG(たとえば
nC
10F
21I、0.2mmol)、および溶媒(たとえばベンゾトリフルオライド(BTF)(1mL))を不活性ガス雰囲気下(たとえばアルゴン雰囲気下)反応容器(たとえばパイレックス(登録商標)ガラスのNMRチューブ)に入れる。この混合物を適切な時間(たとえば30秒間)撹拌し、次いでこの混合物を適切な反応温度(たとえば室温(たとえば15℃〜25℃))で適切な時間(たとえば30時間)光を(たとえばキセノンランプ(500W)を用いて)照射する。粗製混合物を、適切な容器(たとえば30mLのシュレンク管)に注ぎ、エバポレートする。フッ素非含有溶媒層(たとえばMeOH(2mL))を添加し、生成物をフッ素含有溶媒(たとえばFC−72(3mL×5))で抽出する。得られる生成物はさらなる精製をせずとも十分に純粋である。
【0154】
ホスフィン(式中Rは置換または非置換の炭化水素基であり、LGは脱離基である。たとえばPh
2PCl(0.1mmol))、ペルフルオロアルキル化合物R
f−LG(たとえば
nC
10F
21I(0.1mmol))、ラジカル開始剤(たとえばAIBN(0.11mmol))、および溶媒(たとえばベンゾトリフルオライド(BTF)(3mL))を不活性ガス雰囲気下(たとえばアルゴン雰囲気下)、反応容器(たとえばシュレンク管)に加える。この混合物をマグネチックスターラーで撹拌しながら(たとえば80℃に)加熱する。反応後室温まで冷却し目的のホスフィン化合物(たとえば
nC
10F
21PPh
2)を得る(たとえば12%収率(NMR収率))。
【0155】
(出発原料として化合物Aを用いた場合)
テトラフェニルジホスフィンに変わる扱いやすいリン試薬を模索していたところスキーム1の反応でペルフルオロホスフィン化合物R
fPR
1R
2が合成できることが判明した。この条件では、酸化物であるR
fP(O)R
1R
2が生成しないことが特徴である。また、化合物Aの具体例の1つであるTMDPOはもともと光ラジカル開始剤として用いられるため、反応時間が短いことが利点である。
【0157】
化合物A(式中R
1およびR
2は前記と同義であり、YおよびZは、O、S、またはSeなどの周期表16族の元素であり、互いに同じであっても異なっていてもよく、そしてR
Aは、炭化水素基である。たとえば化合物Aは、TMDPO(0.5mmol)である。)、ペルフルオロアルキル化合物R
f−LG(たとえば
nC
10F
21I(0.1mmol))、必要に応じて添加剤として第2級ホスフィンB1(R
6R
7PH)またはそのオキシドB2(R
6R
7P(O)H)(式中R
6およびR
7は置換または非置換の炭化水素基であり、たとえばPh
2PH(0.2mmol))および溶媒(たとえばベンゾトリフルオライド(BTF)(0.6mL))を不活性ガス雰囲気下(たとえばアルゴン雰囲気下)適切な反応容器(たとえば密閉されたパイレックス(登録商標)ガラス管)に入れる。この混合物を適切な時間(たとえば30秒間)撹拌し、次いでこの混合物を適切な光源(たとえばキセノンランプ(500W))を用いて室温(たとえば15℃〜25℃)で適切な時間(たとえば1.5時間)照射する。粗製混合物を適切な容器(たとえば30mLのシュレンク管)に注ぎ、エバポレートする。フッ素非含有溶媒層(たとえばMeOH(2mL))を前記容器に添加し、生成物をフッ素含有溶媒(たとえばFC−72(3mL×5))で抽出する。得られた生成物(フッ素含有溶媒層)はさらなる精製をせずとも十分に純粋である。
【0158】
化合物AのR
1およびR
2は同じであっても、異なっていてもよい。また第2級ホスフィンB1またはそのオキシドB2のR
6およびR
7も同じであっても、異なっていてもよい。R
1およびR
2が第2級ホスフィンB1またはそのオキシドB2のR
6およびR
7と同じである場合、ペルフルオロホスフィン化合物R
fPR
1R
2の収率が高くなる。
【0159】
第二級ホスフィンR
6R
7PHを添加する理由について式2−1、2−2、3−1、3−2に示す。TMDPO誘導体(A)(R
1およびR
Bは、炭化水素基であり、YおよびZはO、S、またはSeなどの周期表16族の元素である。たとえばTMDPO誘導体(A)は、TMDPOである。)はR
6R
7PH(R
6およびR
7は、炭化水素基である。たとえば第二級ホスフィンはPh
2PHである)と光照射下反応し、化合物B(たとえばテトラフェニルジホスフィンモノオキシド)を形成する。
【0162】
形成した化合物B(たとえばテトラフェニルジホスフィンモノオキシド)はR
f−LG(LGは脱離基である。たとえばR
f−LGは、ペルフルオロデシルヨージドである。)と反応し目的生成物を与える。
【0165】
TMDPOを原料とする方法では、反応の進行しやすさと、原料が安価な点から大量合成に応用することが可能である(式4)。
【0167】
TMDPOの光極大吸収は350nmである。そのため、この周辺の波長をもつ光源であれば用いることが可能である。使用光源としては、キセノンランプ、タングステンランプ、蛍光灯、LEDランプ、水銀ランプなどがある。
【0168】
典型的なTMDPOの合成法を式5に載せる。この方法では中間化合物のPh
2POMe(Ph
2P−(OMe))も購入可能である。同様の合成法は、US4,324,744およびUS4,710,523にも開示されている。
【0170】
また代替法として式6の出発原料から、TMDPOの誘導体を合成することが可能である。
【0172】
別の代替法として、DE4230555および特開平6−192281公報に記載の方法からTMDPOの誘導体を合成することができる。
【0173】
(化合物Aの製造例)
本発明のペルフルオロホスフィン化合物の原料となるTMDPOの誘導体である化合物Aを製造する方法を一般化すると以下のとおりとなる。
【0175】
不活性ガス雰囲気下、フッ素非含有溶媒層中のマグネシウムを適切な反応容器内のフッ素非含有溶媒層(たとえばTHF)中マグネシウム溶液にR
1X(たとえば4−CH
3C
6H
4BrのTHF溶液)を添加して、適切な反応温度で適切な反応時間撹拌することにより、グリニャール試薬R
1−MgX(たとえば4−CH
3C
6H
4MgBr)を調製した後で、(LG)
2PYR
A(LGは脱離基であり、YはO、S、またはSeなどの周期表16族の元素であり、そしてR
Aは炭化水素基である。たとえば(LG)
2PYR
Aは、Cl
2POMeである。)を添加して適切な反応温度で適切な反応時間静置することによりホスフィンC((R
1)
2PYR
A)を合成する。
【0177】
不活性ガス雰囲気下、ホスフィンCに化合物D(Zは、O、S、またはSeなどの周期表16族の元素であり、そしてR
Bは、炭化水素基である。たとえば化合物Dは、2,4,6−トリメチルベンゾイルクロリドである。)を適切な反応温度(たとえば0℃〜室温(たとえば15℃〜25℃))で添加し、その後適切な反応温度(たとえば80℃)で適切な反応時間(たとえば3時間)静置することで化合物Aを合成する。
【0178】
(ホスフィンPR
3の製造例)
本発明のペルフルオロホスフィン化合物の原料となるPR
3を製造する方法を一般化すると以下のとおりとなる。
【0180】
不活性ガス雰囲気下、フッ素非含有溶媒層中のマグネシウムを適切な反応容器内のフッ素非含有溶媒層(たとえばTHF)中マグネシウム溶液にRX(たとえば4−CH
3C
6H
4BrのTHF溶液)を添加して、適切な反応温度で適切な反応時間撹拌することにより、グリニャール試薬R−MgX(たとえば4−CH
3C
6H
4MgBr)を調製した後で、三ハロゲン化リンを添加して適切な反応温度で適切な反応時間静置することによりホスフィンPR
3を合成する。
【0181】
(錯体の製造例)
本発明の錯体を製造する方法を一般化すると以下のとおりとなる。
【0182】
(単核錯体ML
4を出発原料として用いた場合)
【0184】
不活性ガス雰囲気下、反応容器(たとえば密閉NMRチューブ)にML
4(Mは遷移金属であり、Lは遷移金属に配位し得る配位子であり、互いに異なっていても、同じであってもよい。たとえばML
4は、PtCl
2(CH
3CN)
2(0.015mmol)である)、R
fPR
2(たとえば
nC
10F
21PPh
2(0.03mmol))、溶媒(たとえば脱気したCDCl
3(0.6mL))を加え、適切な反応温度(たとえば室温(たとえば15℃〜25℃))で適切な反応時間(たとえば2日)静置する。その結果、沈殿が形成する。得られた粉末の再結晶を行い、ペルフルオロアルキルホスフィンと金属との錯体M(L)
(4−n)(R
fPR
2)
n(nは1〜4の整数である。たとえばPtCl
2(
nC
10F
21PPh
2)
2である)を得ることができる。
【0185】
(二核錯体[ML
3]
2を出発原料として用いた場合)
【0187】
適切な反応容器(たとえば20mLの二口丸底フラスコ内)に、R
fPR
2(たとえば、
nC
10F
21PPh
2(0.0446mmol))、[ML
3]
2(Mは遷移金属であり、Lは遷移金属に配位し得る配位子であり、互いに異なっていても、同じであってもよい。たとえば[ML
3]
2は、[RhCl(CO)
2]
2(4.3mg、0.011mmol)である。)、および溶媒(たとえばジクロロメタン(1.0mL))を不活性ガス雰囲気下(たとえばアルゴン雰囲気下)で加える。この溶液を適切な反応温度(たとえば室温(たとえば15℃〜25℃))で適切な反応時間(たとえば1時間)撹拌する。この溶液を濾過し、減圧下で濃縮する。生じた固体を再結晶(たとえば溶媒はCHCl
3である。)により精製することによりペルフルオロアルキルホスフィンと金属との錯体M(L)
(4−n)(R
fPAr
2)
n(nは1〜4の整数である。たとえばRhCl(CO)(Ph
2P
nC
10F
21)
2である)を得ることができる。
【0188】
(本発明の錯体を触媒として用いた反応例)
(アルキンのヒドロホスホリル化反応)
【0190】
以下の反応操作はすべて不活性ガス雰囲気下(たとえば窒素雰囲気下)で行うものとする。本発明の錯体および任意の配位子([M]/配位子)(たとえば、Ni(
nC
10F
21PPh
2)
4)を含む溶液に、ホスフィンオキシド(たとえばジフェニルホスフィンオキシド(片山化学工業株式会社製:商品コード133−05397)35.9mg)とアルキン(たとえば1−オクチン(東京化成製:商品コードO0050)26μL)を加え、撹拌を行い溶解する。この溶液を適切な反応温度(たとえば60℃)で、適切な反応時間(たとえば20時間)撹拌することにより、生成物EおよびFを得ることができる。
【0193】
不活性ガス雰囲気下、適切な反応容器(たとえば30mLシュレンクフラスコ)に、パラジウム錯体(たとえばPdCl
2(PhCN)
2(0.020mmol、7.8mg))、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンR
fPR
1R
2(たとえば
nC
10F
21PPh
2(0.040mmol、28.2mg))、塩基(たとえばEt
3N(1.0mL))、ハロゲン化アリールArX(たとえばヨードベンゼン(1.0mmol、204mg))、アルキン(たとえば1−オクチン(1.2mmol、140mg))、必要に応じて銅塩(たとえばCuI(0.040mmol、7.6mg))を入れる。混合物を適切な反応温度(たとえば室温(たとえば15℃〜25℃))で適切な反応時間(たとえば16時間)撹拌する。反応後、脱気したフッ素非含有溶媒層(たとえばMeOH(1mL))を添加し、フッ素非含有溶媒層(たとえばMeOH層)をフッ素含有溶媒(たとえばFC−72(3mL×3))で抽出する。フッ素非含有溶媒層をエバポレートした後、結果として生じる混合物を(たとえばシリカゲルクロマトグラフィー(溶離剤:ヘキサン100%)により)精製して目的生成物を得る。一方、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンR
fPR
1R
2を含んでいるフッ素含有溶媒層を(たとえば30mLシュレンクフラスコを用いて)エバポレートし、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンを除く試薬を2回目の反応のために再び反応容器に入れる。本方法は繰り返すことができる(たとえば4回)。本発明のホスフィン化合物が配位したパラジウム錯体を触媒として用いた薗頭カップリング反応は、銅塩なしで進行する。
【0194】
(酸ハライドと末端アルキンとの薗頭型カップリング反応)
【0196】
不活性ガス雰囲気下、適切な反応容器(たとえば二口ナスフラスコ)にパラジウム錯体(たとえばPdCl
2(PhCN)
2(0.010mmol))、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンR
fPR
1R
2(たとえば
nC
10F
21PPh
2(0.020mmol))、酸ハライド(たとえば塩化ベンゾイル(1.2mmol))、アルキン(たとえば1−オクチン(1.0mmol))、塩基(たとえばトリエチルアミン(0.2mL))、溶媒(トルエン(0.5mL))、必要に応じて銅塩(たとえばCuI(0.020mmol))を加え、適切な反応温度(たとえば室温(たとえば15℃〜25℃))で適切な反応時間(たとえば1時間)撹拌する。反応終了後、溶媒を減圧留去する。その後フッ素非含有溶媒層(たとえばメタノール)を加え、フッ素含有溶媒(たとえばフロリナート(FC−72、4mL×3))で適切な回数(たとえば3回)分液抽出する。フッ素非含有溶媒層層(たとえばメタノール層)を減圧留去した後、反応混合物を(たとえばPTLCにより)単離精製することで、目的生成物を得る(たとえば(1−オクチル)フェニルケトン(99%収率))。一方、フッ素含有溶媒層を(たとえばシュレンク管で)減圧留去することで、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンR
fPR
1R
2(たとえば
nC
10F
21PPh
2)を含むパラジウム錯体が得る。
【0197】
本方法は、抽出回収した錯体を用いることによって、本方法を繰り返すことができ(たとえば2回)、同等の収率で生成物を得ることができる。
【0198】
本発明のホスフィン化合物が配位したパラジウム錯体を触媒として用いた薗頭カップリング反応は、銅塩なしで進行する。
【0201】
不活性ガス雰囲気下、適切な反応容器(たとえば30mLシュレンクフラスコ)に、パラジウム錯体(たとえばPd(OAc)
2(0.010mmol、2.2mg)、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンR
fPR
1R
2(たとえば
nC
10F
21PPh
2(0.022mmol、15.5mg)、塩基(たとえばEt
3N(1.0mL))、アルケン(たとえばスチレン(1.2mmol、125mg))、ハロゲン化アリール(たとえばヨードベンゼン(1.0mmol、204mg))を入れる。混合物を適切な反応温度(たとえば80℃))で適切な反応時間(たとえば8時間)撹拌する。反応後、脱気したフッ素非含有溶媒層(たとえばMeOH(1mL))を添加し、フッ素非含有溶媒層(たとえばMeOH層)をフッ素含有溶媒(たとえばFC−72(3mL×3))で抽出する。フッ素非含有溶媒層をエバポレートした後、結果として生じる混合物を精製し、目的生成物である生成物Gおよび生成物Hを得る。(たとえば十分な量のヘキサンによりシリカゲルのパッドに通して濾過し、次いで濃縮することで精製をおこなう)一方、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンR
fPR
1R
2を含んでいるフッ素含有溶媒層を(たとえば30mLシュレンクフラスコを用いて)エバポレートし、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンを除く試薬を2回目の反応のために再び反応容器に入れる。本方法は繰り返すことができる(たとえば4回)。
【0204】
不活性ガス雰囲気下、適切な反応容器(たとえば30mLシュレンクフラスコ)に、パラジウム錯体(たとえばPd
2(dba)
3/CHCl
3(0.005mmol、5.2mg))、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンR
fPR
1R
2(たとえば
nC
10F
21PPh
2(0.022mmol、15.5mg))、溶媒(THF(1.0mL))、塩基(Cs
2CO
3(1.2mmol、391.0mg))、ボロン酸誘導体RB(OR
c)
2(R
cは、水素または炭化水素基である。たとえばボロン酸誘導体RB(OR
c)
2は(p−メチルフェニル)ボロン酸(1.1mmol、150mg)である。)、ハロゲン化アリール(たとえばヨードベンゼン(1.0mmol、204mg))を入れる。混合物を室温で6時間撹拌する。反応後、脱気したフッ素非含有溶媒層(たとえばMeOH(1mL))を添加し、フッ素非含有溶媒層(たとえばMeOH層)をフッ素含有溶媒(たとえばFC−72(3mL×3))で抽出する。フッ素非含有溶媒層をエバポレートした後、水(たとえば3mL)を結果として生じる混合物に添加し、フッ素非含有溶媒層(たとえば酢酸エチル(3mL×3))で抽出する。合わせたフッ素非含有溶媒層を(たとえば飽和食塩水で)洗浄し、(たとえば無水硫酸マグネシウムにより)乾燥し、次いで濃縮することで、目的生成物を得る。一方、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンを含んでいるフッ素含有溶媒層を(たとえば30mLシュレンクフラスコを用いて)エバポレートし、本発明のペルフルオロアルキルホスフィンR
fPR
1R
2を除く試薬を2回目の反応のために再び反応容器に入れる。本方法は繰り返すことができる(たとえば2回)。
【0205】
本発明のホスフィン化合物は、金属錯体を形成するための原料である。同化合物は、ペルフルオロアルキル基を持つため、リン原子上に電子が不足している。そのため、ホスフィン化合物を有する金属錯体は、還元的脱離を促進され、これまで進行しなかった反応が可能となる。たとえば、同化合物が配位したパラジウム錯体を触媒として用いた薗頭カップリング反応は、銅塩なしで進行する。本発明のホスフィン化合物は、光を用いることで簡単に製造を行うことができ、フッ素含有溶媒で容易に抽出され得るため、精製が容易である。また、同化合物は、他のホスフィン化合物と比較して酸化されにくく、長期間の保管が可能であり、更に、Wittig反応に用いることで副生成物のホスフィンオキシド化合物をフッ素含有溶媒で容易に除去することができるなど、精密化学品の合成の面でも有用性が高い一群の化合物である。
【0206】
本発明のホスフィン化合物が配位した錯体は、金属原子上に電子が不足した錯体である。そのため還元的脱離が促進され、これまで進行しなかった反応が可能となる。たとえば、同化合物が配位したパラジウム錯体を触媒として用いた薗頭カップリング反応は、銅塩なしで進行する。また、同錯体は、高性能な反応触媒であり、反応液をフッ素含有溶媒で抽出することで回収でき、再利用可能である。同様に、配位子として使用した本発明のホスフィン化合物も反応液をフッ素含有溶媒で抽出することで回収できる。
【0207】
本発明のホスフィン化合物の製造法により、出発原料として用いられるジホスフィンは、空気中で簡単に酸化され、悪臭があるなど取り扱いが困難であり、工業原料としての流通もないジホスフィンの代わりに入手容易なTMDPO、トリフェニルホスフィンを用いたペルフルオロアルキルホスフィンの合成が可能となった。従来の製造法と比較した本合成法の利点として、(1)リンの元素収率が高くなり、(2)添加剤を使用することで化学収率を向上させることも可能となり、(3)さらに今までに非常に困難であったリン上のアリール基の修飾が容易に可能となったことが挙げられる。
【0208】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0209】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したものではない。したがって、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0210】
以下の実施例・比較例に従って本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定解釈されるものではなく、各実施例に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施例も、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0211】
また、本明細書中で用いる略語は以下の意味を表す。
AIBN:2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)
Ar:置換または非置換のアリール基
BTF:ベンゾトリフルオライド
Bu:ブチル
cod:シクロオクタジエン
Cy:シクロヘキシル
Et:エチル
HRMS(FAB):高分解能質量分析スペクトル(高速原子衝突法)
IR:赤外分光法
L:配位子
LG:脱離基
Me:メチル
mp:融点
NMR:核磁気共鳴
Ph:フェニル
PTLC:分取薄層クロマトグラフィー
R:置換または非置換のアルキル基
R
f:ペルフルオロアルキル基
rt:室温(たとえば15℃〜25℃)
tBu:tert−ブチル
TIPS:トリイソプロピルシリル
THF:テトラヒドロフラン
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルホスフィンオキシド
X:ハロゲン基
【0212】
本発明の化合物およびその合成を、以下の実施例によってさらに説明する。本発明をさらに定義するために以下の実施例を提供するが、本発明はこれらの実施例の特徴に制限されない。特定の例では、一般名を使用し、これらの一般名が当業者に認識されると理解される。
【0213】
プロトン核磁気共鳴(
1H NMR)スペクトルを、JEOL JNM−ECX400(400MHz)で記録した。(たとえば重クロロホルム中で、内部標準はテトラメチルシランを使用した。)炭素の核磁気共鳴(
13C NMR)スペクトルを、JEOL JNM−ECX400(100MHz)で記録した。(たとえば重クロロホルム中)リンの核磁気共鳴(
31P NMR)スペクトルを、JEOL JNM−ECX400(162MHz)で記録した。(たとえば重クロロホルム中で、内部標準は85%リン酸溶液を使用した。)フッ素の核磁気共鳴(
19F NMR)スペクトルを、JEOL JNM−ECX400(376MHz)で記録した。(たとえば重クロロホルム中で、内部標準はトリクロロフルオロメタンを使用した。)化学シフトを百万分率(ppm)で示し、基準として残留溶媒シグナルを使用した。NMRの略語を以下のとおり使用する:s=シングレット、d=ダブレット、dd=ダブルダブレット、ddd=ダブルダブルダブレット、dt=ダブルトリプレット、t=トリプレット、td=トリプルダブレット、tt=トリプルトリプレット、q=カルテット、m=マルチプレット、br=ブロード、bs=ブロードシングレット、bt=ブロードトリプレット。
【0214】
IRスペクトルをPerkin Elmer Model 1600分光計により、室温下、NaClセルを用いて測定した。
【0215】
融点を柳本微量融点測定装置により決定した。
【0216】
高分解能質量スペクトルをJEOL JMS−DX303により測定し、質量を得た。
【0217】
元素分析をYANACO CHNコーダー MT−6により測定した。
【0218】
X線をリガク社製単結晶X線回折装置ValiMax RAPID RA−Micro7により、−150℃で測定した。
【0219】
カラムクロマトグラフィを、wakogel C−200を使用したシリカゲルカラムにて行った。
【0220】
(実施例1)
ペルフルオロ化された炭化水素基を有するホスフィンの合成
(実施例1−1)ペルフルオロアルキル基を有するホスフィンの合成
原料としてトリアリールホスフィン(PAr
3)を用いて、ホスフィン化合物を合成した。
【0221】
PAr
3(0.1mmol)、ペルフルオロアルキルヨージド(R
f−I、0.2mmol)、およびベンゾトリフルオライド(BTF)(1mL)をアルゴン雰囲気下密閉されたパイレックス(登録商標)ガラスのNMRチューブに入れた。この混合物を30秒間撹拌し、次いでこの混合物を室温(たとえば15℃〜25℃)で30時間キセノンランプ(500W)で照射した。R
fPAr
2の生成を
19F NMR分析により確認した。粗製混合物を30mLのシュレンク管に注ぎ、エバポレートした。MeOH(2mL)(和光純薬工業特級、蒸留後使用)をこのフラスコに添加し、生成物をFC−72(3mL×5)(スリーエムジャパン株式会社)で抽出した。得られた生成物はさらなる精製をせずとも十分に純粋であった。1aのスペクトルおよび分析データは、既に文献に示されている(Kawaguchi et al.Angew.Chem.Int.Ed.2013,52,1748〜1752.)。表1に基質の適応範囲を示す。
【0222】
【表1】
【0223】
(ペルフルオロデシル)ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)ホスフィン(1b): 白色固体;
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.70 (d, J
H−H = 7.9 Hz, 4H), 7.78 (t, J
H−H = J
H−P = 8.2 Hz, 4H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ 123.6 (d, J
C−P = 272.8 Hz), 125.7 (dq, J
C−F = J
C−P = 3.8 Hz), 132.8 (q, J
C−F = 15.3 Hz), 133.1 (q, J
C−F = 33.4 Hz), 135.3 (d, J
C−P = 22.9 Hz);
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 0.351〜1.205 (m) ;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ−126.2 (2F), −122.7 (2F), −121.9 (2F), −121.7 (6F), −121.3 (2F), −117.3 (d, J
F−P = 28.3 Hz, 2F), −108.2 (dt, J
F−P = 57.0 Hz, J = 14.3 Hz, 2F), −80.7 (t, J
F−P = 9.9 Hz, 3F), −63.3 (6F).
ビス(4−フルオロフェニル)(ペルフルオロデシル)ホスフィン(1c):白色固体;
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.44 (d, J
H−H = 7.9 Hz, 4H), 7.71 (t, J
H−H = J
H−P = 8.4 Hz, 4H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ ;
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 1.602〜2.228 (m) ;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ−126.1 (2F), −122.7 (2F), −121.7 (6F), −121,3 (2F), −117.5 (2F), −108.8〜 −108.4 (m, 4F), −80.7 (t, J
F−P = 11.3 Hz, 3F).
ビス(4−クロロフェニル)(ペルフルオロデシル)ホスフィン(1d):白色固体;
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.41 (d, J
H−H = 8.8 Hz, 4H), 7.58 (t, J
H−H = J
H−P = 8.4 Hz, 4H) ;
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ −0.687〜 −0.137 (m) ;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ−126.1 (2F), −123.6 (2F), −121.17 (6F), −120.8 (2F), −117.8 (d, J
F−P = 21.3 Hz, 2F), −108.8 (dt, J
F−P = 51.5 Hz, J = 14.3 Hz, 2F), −80.6 (t, J
F−P = 11.2 Hz, 3F).
ビス(4−メチルフェニル)(ペルフルオロデシル)ホスフィン(1e):白色固体;
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 2.38 (s, 9H), 7.22 (d, J
H−H = 7.6 Hz, 4H), 7.57 (t, J
H−H = J
H−P = 8.4 Hz, 4H);
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ−0.107〜0.168 (m) ;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ −126.0 (2F), −122.6 (2F), −121.6 (6F), −121.2 (2F), −117.6 (d, J
F−P = 21.3 Hz, 2F), −109.0 (dt, J
F−P = 57.9 Hz, J = 13.3 Hz, 2F), −80.6 (t, J
F−P = 28.9 Hz, 3F).
(ペルフルオロドデシル)ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)ホスフィン(1f):白色固体;
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.86 (d, J
H−H = 7.6 Hz, 4H), 8.13 (t, J
H−H = J
H−P = 8.4 Hz, 4H);
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 0.427〜1.20 (m) ;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ −126.0 (2F), −122.6 (2F), −121.7 (2F), −121.6 (8F), −121.3 (2F), −117.5 (d, J
F−P = 29.5 Hz, 2F), −108.1 (dt, J
F−P = 57.5 Hz, J = 14.3 Hz, 2F), −80.6 (t, J
F−P = 9.9 Hz, 3F), −63.5 (6F).
(ペルフルオロオクチル)ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)ホスフィン (1g): 白色固体;
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.87 (d, J
H−H = 8.2 Hz, 4H), 8.14 (t, J
H−H = J
H−P = 10.2 Hz, 4H);
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 0.362−1.305 (m) ;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ −126.0 (2F), −121.8 (2F), −121.8 (2F), −121.6 (4F), −121.3 (2F), −117.6 (d, J
F−P = 57.9 Hz, 2F), −108.1 (dt, J
F−P = 28.9 Hz, J = 14.3 Hz, 2F), −80.7 (t, J
F−P = 11.2 Hz, 3F), −63.5 (6F).
【0224】
(実施例1−2)ペルフルオロアルケニル基または分岐を有するペルフルオロアルキル基を有するホスフィンの合成
式7に従い下記のペルフルオロ化合物2a〜2cを用いて反応を行った。結果、目的の化合物1h〜1jが中程度の収率で得られた。1h:62%、1i:54%、1j:44%(いずれも
31P NMRより収率を算出)これより、ペルフルオロアルキル鎖に分岐や2重結合を含んでいても反応は進行することが言える。
【0225】
【化26】
【0226】
P(4−CF
3C
6H
4)
3(0.3mmol)、ペルフルオロアルキルヨージド(R
f−I、0.1mmol)、およびベンゾトリフルオライド(BTF)(1mL)をアルゴン雰囲気下密閉されたパイレックス(登録商標)ガラスのNMRチューブに入れた。この混合物を30秒間撹拌し、次いでこの混合物を室温(たとえば15℃〜25℃)で30時間キセノンランプ(500W)で照射した。R
fP(4−CF
3C
6H
4)
2の生成を
31P NMR分析により確認した。
(ペルフルオロアリル)ビス(4−(トリフルオロメチル)フェニル)ホスフィン(1h):
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 0.78(m)
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ −185.7 (s, 1F), −107.7 (dt, J
F−P = 45.9 Hz, J = 17.1 Hz 2F), −105.5 (s, 2F), −72.5 (s, 6F), −63.3 (s, 6F)
(E)−(1,1,2,3,4,5,5,5−オクタフルオロ−4−(トリフルオロメチル)ペンタ−2−エン−1−イル)ビス(4−((トリフルオロメチル))フェニル)ホスフィン(1i):
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 8.158 (m)
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ−187.1 (m, 2F), −155.3 (dm, J
F−F = 127.1 Hz, 1F), −149.5 (dq, J
F−F = 134.9 Hz, J = 19.2 Hz 1F), −100.7 (dt, J
F−P = 80.8 Hz, J = 28.9 Hz 2F), −75.1 (s, 6F), −63.0 (s, 6F)
(1,1,2,2,3,4,4,4−オクタフルオロ−3−((トリフルオロメチル)ブチル)ビス(4−((トリフルオロメチル))フェニル)ホスフィン(1j):
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 2.167 (m)
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ −177.2 (m, 1F), −123.0 (dt, J
F−P = 51.9 Hz, J = 11.7 Hz 2F), −106.2 (m, 1F), −99.440 (t, J
F−F = 46.2 Hz, 1F), −63.1 (s, 6F)
【0227】
(実施例1−3)
原料として、TMDPOを用いて、ペルフルオロホスフィン化合物を合成した。
【0228】
【化27】
【0229】
本反応の問題点として化合物4のようなペルフルオロアルキル化された芳香環化合物が得られることが挙げられる。溶媒、反応時間、基質の割合を検討した結果、表2のエントリー13の条件で最も効率よく
nC
10F
21PPh
2(1a)が得られることが明らかとなっている。
【0230】
【表2】
【0231】
また、添加物としてジフェニルホスフィン(Ph
2PH、5)の検討を行った。当量比および反応時間の検討の結果、表3のエントリー4の条件のとき最も効率よく化合物1aが得られることを見いだしている。また、Ph
2PHの代わりにPh
2P(O)Hを用いた場合も良好に化合物1が得られることを見いだしている(表3のエントリー11)。
【0232】
【表3】
【0233】
TMDPO(0.5mmol)、ペルフルオロアルキルヨージド(
nC
10F
21I、0.1mmol)、Ph
2PH(0.2mmol)およびベンゾトリフルオライド(BTF)(0.6mL)をアルゴン雰囲気下密閉されたパイレックス(登録商標)ガラス管に入れた。この混合物を30秒間撹拌し、次いでこの混合物をキセノンランプ(500W)で室温(たとえば15℃〜25℃)で1.5時間照射した。R
fPAr
2の生成を
19F NMR分析により確認した。粗製混合物を30mLのシュレンク管に注ぎ、エバポレートした。MeOH(2mL)をこのシュレンク管に添加し、生成物をFC−72(3mL×5)で抽出した。得られた生成物(フッ素含有溶媒層)はさらなる精製をせずとも十分に純粋であった。
【0234】
(実施例1−4)
実施例1−3と同様の手法を用いて、さらに添加剤としてEt
2PH(STREM CHEMICALS、和光輸入代理)を用いたところ、
nC
10F
21PEt
2を得た。
【0235】
【化28】
【0236】
ジエチル(ペルフルオロデシル)ホスフィン(1k):
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 1.16 (dt, J
H−P= 16.0 Hz, J
H−H= 7.8 Hz, 6H), 1.75 (dq, J
H−P= 64.1 Hz, J
H−H= 7.8 Hz, 4H);
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 4.15〜5.06 (m) ;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ −126.1 (2F), −122.6 (2F), −121.8 (2F), −121.7 (2F), −121.4 (2F), −119.3 (2F), −114.4 (dt, J
F−P= 34.7 Hz, J= 11.5 Hz, 2F), −80.7 (3F).
【0237】
(実施例1−5)
式8に従い反応を行うとリン側にシクロヘキシル基が導入されたホスフィン化合物1lを良好な収率で合成することが可能である。このようなホスフィンオキシドを用いることで、リンの置換基にアルキル基が導入されたホスフィン化合物が合成可能であると考えられる。
【0238】
【化29】
【0239】
TMDPO(0.2mmol)、ペルフルオロアルキルヨージド(
nC
10F
21I、0.1mmol)、Cy
2P(O)H(0.2mmol)およびベンゾトリフルオライド(BTF)(0.6mL)をアルゴン雰囲気下密閉されたパイレックス(登録商標)ガラス管に入れた。この混合物を30秒間撹拌し、次いでこの混合物をキセノンランプ(500W)で室温(たとえば15℃〜25℃)で1.5時間照射した。化合物1lの生成を
19F NMR分析により確認した。粗製混合物を30mLのシュレンク管に注ぎ、エバポレートした。MeOH(2mL)をこのシュレンク管に添加し、生成物をFC−72(3mL×5)で抽出した。得られた生成物(フッ素含有溶媒層)はさらなる精製をせずとも十分に純粋であった。
ジシクロヘキシル(ペルフルオロデシル)ホスフィン(1l):
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 1.19−1.46 (m, 12H), 1.65−1.97 (m, 8H), 1.99〜2.08 (m, 2H);
31P NMR (162 MHz, CDCl
3) δ 23.4 (tt, J
P−F= 8.6 Hz, 30.1 Hz);
19F NMR (376 MHz, CDCl
3) δ −126.0 (2F), −122.6 (2F), −121.8 (2F), −121.6 (6F), −121.2 (2F), −118.5 (d, J
P−F= 28.5 Hz, 2F), −106.8 (dt, J
P−F= 11.4 Hz, 39.8 Hz, 2F), −80.8 (3F).
【0240】
(実施例1−6)
原料として、TMDPOの誘導体を用いて、実施例1−5と同様の手法を用いて、ペルフルオロホスフィン化合物を合成した。結果を表4に示す。
【0241】
【表4】
【0242】
(ペルフルオロデシル)ビス(4−(メトキシ)フェニル)ホスフィン(1m):白色固体;
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 3.83 (s, 6H), 6.95 (dd, J
H−H= 8.2 Hz, J
H−P= 0.9 Hz, 4H), 7.63 (t, J
H−H= 8.7 Hz, J
H−P= 8.7 Hz, 4H);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ 55.2, 114.4 (d, J
C−P= 9.5 Hz), 136.8 (d, J
C−P= 24.8 Hz);
13C NMR (100 MHz, CDCl
3):
13C NMR (100 MHz, CDCl
3): δ 55.2, 114.4 (d, J
C−P= 9.5 Hz), 136.8 (d, J
C−P= 24.8 Hz);
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ −0.91〜−2.06 (m) ;
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ −126.0 (2F), −122.6 (2F), −121.8 (2F), −121.6 (6F), −121.3 (2F), −117.7 (d, J
F−P= 28.9 Hz, 2F), −109.5 (dt, J
F−P= 57.8 Hz, J= 11.7 Hz, 2F), −80.7 (3F).
【0243】
(実施例1−7)
原料として、テトラフェニルジホスフィンモノオキシドを用いて、ペルフルオロホスフィン化合物を合成した。
【0244】
【化30】
【0245】
Ph
2P(O)PPh
2(0.2mmol)、ペルフルオロアルキルヨージド(R
f−I、0.2mmol)、およびベンゾトリフルオライド(BTF)(1mL)をアルゴン雰囲気下密閉されたパイレックス(登録商標)ガラスのNMRチューブに入れた。この混合物を30秒間撹拌し、次いでこの混合物を室温(たとえば15℃〜25℃)で1.5時間キセノンランプ(500W)で照射した。R
fPPh
2の生成を
19F、
31P NMR分析により確認した。
【0246】
(実施例1−8)
光源として、タングステンランプを用いて、ペルフルオロホスフィン化合物を合成した。
【0247】
【化31】
【0248】
TMDPO(0.4mmol)、ペルフルオロアルキルヨージド(
nC
10F
21I、0.1mmol)、およびベンゾトリフルオライド(BTF)(0.6mL)をアルゴン雰囲気下密閉されたパイレックス(登録商標)ガラス管に入れた。この混合物を30秒間撹拌し、次いでこの混合物をタングステンランプ(450W、コーナン商事株式会社製)で室温(たとえば15℃〜25℃)で24時間照射した。
nC
10F
21PPh
2の生成を
19Fおよび
31P NMR分析により確認した。粗製混合物を30mLのシュレンク管に注ぎ、エバポレートした。MeOH(2mL)をこのシュレンク管に添加し、生成物をFC−72(3mL×5)で抽出した。得られた生成物(フッ素含有溶媒層)はさらなる精製をせずとも十分に純粋であった。
【0249】
(実施例1−9)
開始剤として、AIBNを用いて、ペルフルオロホスフィン化合物を合成した。
【0250】
【化32】
【0251】
Ph
2PCl(0.1mmol)、ペルフルオロアルキルヨージド(
nC
10F
21I、0.1mmol)、AIBN(0.11mmol)、およびベンゾトリフルオライド(BTF)(3mL)をアルゴン雰囲気下、シュレンク管に加えた。この混合物をマグネチックスターラーで撹拌しながら80℃に加熱した。反応後室温まで冷却し
nC
10F
21PPh
2の生成を
19Fおよび
31P NMR分析により確認した。
19F NMR分析の結果、12%の収率で目的のホスフィンが生成していることを確認した。
【0252】
(実施例2)
(ペルフルオロ化された炭化水素基を有するホスフィンと金属との錯体の合成)
(実施例2−1)
(白金錯体PtCl
2(
nC
10F
21PPh
2)
2(6a)の合成)
【0253】
【化33】
【0254】
不活性ガス雰囲気下、10mLナスフラスコにK
2PtCl
4(0.05mmol)(田中貴金属工業)、水(1.0mL)、CH
3CN(0.1mL)(和光純薬工業製、試薬特級)を加えた。75℃で3時間加熱攪拌し、溶媒を減圧留去すると黄色粉末(PtCl
2(CH
3CN)
2)が94%の収率で得られた。次に不活性ガス雰囲気下、密閉NMRチューブにPtCl
2(CH
3CN)
2(0.015mmol)、
nC
10F
21PPh
2(0.03mmol)、脱気したCDCl
3(0.6mL)(和光純薬工業製)を加え、室温(たとえば15℃〜25℃)で2日静置した。その結果、沈殿が形成した。得られた粉末の再結晶を行い、X線結晶構造解析からPtCl
2(
nC
10F
21PPh
2)
2(6a)の形成を確認した(
図1)。PtCl
2(Ph
2P
nC
10F
21)
2(6a):白色固体;mp188−190
℃;
1H NMR (396 MHz, CD
2Cl
2): δ 7.52〜7.55 (m, 8H), 7.59〜7.62 (m, 4H), 7.94 (dd, J
H−H = 7.3, J
H−P = 12.7 Hz, 8H);
31P NMR (160 MHz, CD
2Cl
2): δ 25.8 (t with satellites, J
P−F = 55.8 Hz, J
P−Pt = 3878 Hz) ;
19F NMR (373 MHz, CD
2Cl
2): δ −126.2, −122.8, −122.0 (4F), −121.8 (4F), −121.2, −114.3, −101.8 (d, J
F−P = 57.0 Hz), −81.0.
【0255】
(実施例2−2)
(ロジウム錯体RhCl(CO)(
nC
10F
21PPh
2)
2(6b)の合成)
【0256】
【化34】
【0257】
20mLの二口丸底フラスコ内に、ホスフィン(0.0446mmol)、[RhCl(CO)
2]
2(4.3mg、0.011mmol)、およびジクロロメタン(1.0mL)をアルゴン下で加えた。この溶液を室温(たとえば15℃〜25℃)で1時間撹拌した。この溶液を濾過し、減圧下で濃縮した。生じた固体を再結晶(溶媒:CHCl
3)により精製した。配位を
1Hおよび
31PNMRにより確認した。またX線結晶構造解析からRhCl(CO)(
nC
10F
21PPh
2)
2(6b)の形成を確認した(
図2)。RhCl(CO)(
nC
10F
21PPh
2)
2(6b):黄色固体;mp 190−192
℃(分解)
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.44 (dd, J
H−H = 7.3 Hz, J
H−P = 8.0 Hz, 8H), 7.52 (t, J
H−H = 7.3 Hz, 4H), 7.93 (q, J
H−H = 6.3 Hz, 8H);
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 52.1 (dquint, J
P−Rh = 143.8 Hz, J
P−F = 33.0 Hz);
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ−125.9 (2F), −122.5 (2F), −121.7 (2F), −121.5 (6F), −121.4 (2F), −113.7 (2F), −104.8 (m, 2F), −80.7 (3F); IR (KBr) 3067, 2010, 1481, 1439, 1373, 1339, 1246, 1207, 1153, 1099, 745, 691, 648 cm
−1; Anal. Calcd for C
45H
20ClF
42OP
2Rh: C, 34.09; H, 1.55%, Found: C, 34.32; H, 1.28%.
【0258】
(実施例2−3)
(ニッケル錯体Ni(
nC
10F
21PPh
2)
4(6c)の合成)
反応式
Ni(cod)
2 + 4
nC
10F
21PPh
2 → Ni(
nC
10F
21PPh
2)
4 + 2cod
※cod:シクロオクタジエン Ni(cod)
2:ビス(ジシクロオクタジエン)ニッケル(0)
反応はすべて窒素雰囲気下で行った。NMRチューブにNi(cod)
2(関東化学社製:商品コード04875−65)2.45mgとPh
2P
nC
10F
2125mgをはかり取り、トルエン−d8(和光純薬製:商品コード200−14271)を1mL加えた。室温(たとえば15℃〜25℃)で5分撹拌を行い、NMR分析を行ったところ生成物ピークを確認した。
Ni(
nC
10F
21PPh
2)
4(6c):
1H NMR (400MHz, toluene−d
8): δ 1.0 〜 2.9 (m, 25H), 4.0 〜 4.4 (m, 1H), 5.2 〜 5.8 (m, 2H), 6.5 〜 8.0 (m, 12H);
31P NMR (162 MHz, toluene−d
8): δ 2.0, 40.9;
19F NMR (376 MHz, toluene−d
8): δ −81.1 (9F), −106.2 (2F), −108.4 (4F), −114.9 (2F), −117.1(4F), −119.7 〜 −123.0(m, 42F)
【0259】
(実施例2−4)
(イリジウム錯体IrCl(CO)(
nC
10F
21PPh
2)
2(6d)の合成)
【0260】
【化35】
【0261】
不活性ガス雰囲気下、30mL2口ナスフラスコにIrCl
3・3H
2O(0.5mmol)(和光純薬工業製)、
nC
10F
21PPh
2(2.5mmol)、Me
2NCHO(7.5mL)(和光純薬工業製)を加え、150℃で12時間、加熱攪拌した。反応後、熱時濾過し、不溶物を取り除き、メタノール(15mL)(和光純薬工業製)を加え、−20℃に冷却し静置した。その結果、黄色結晶trans−IrCl(CO)(Ph
2P
nC
10F
21)
2(6d)が沈殿するのでこれをろ過することで目的のイリジウム錯体が64%の収率で得られた。
trans−IrCl(CO)(Ph
2P
nC
10F
21)
2(6d):黄色固体;mp181〜183
℃; IR (NaCl) −1635 cm
−1 (CO);
1H NMR (400 MHz, CDCl
3): δ 7.44〜7.56 (m, 12H), 7.93 (dd, J
H−H = 6.4, J
P−H = 6.4 Hz, 8H);
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 45.0 (t, J
P−F = 34.6 Hz);
19F NMR (376 MHz, CDCl
3): δ−126.0, −122.6, −121.8 (4F), −121.6 (4F), −121.2, −113.9, −104.5 (d, J
F−P = 34.6 Hz), −80.7.
【0262】
(実施例2−5)
(パラジウム錯体PdCl
2(
nC
12F
25P(4−CF
3C
6H
4)
2)
2(6e)の合成)
【0263】
【化36】
【0264】
不活性ガス雰囲気下、密閉可能なNMRチューブにPdCl
2(PhCN)
2(0.05mmol)、
nC
12F
25P(4−CF
3C
6H
4)
2(0.1mmol)、脱気したCDCl
3(0.6mL)(和光純薬工業製)を加え、室温(たとえば15℃〜25℃)で2時間静置した。その後、
31PNMRを行うことで目的の錯体が形成したことを確認した。
PdCl
2(
nC
12F
25P(4−CF
3C
6H
4)
2)
2(6e)
【0265】
【化37】
【0266】
化合物データ:褐色固体;
31P NMR (162 MHz, CDCl
3): δ 38.6 (t, J = 58.7 Hz)
「Olaf Kuehl; Phosphorus−31 NMR Spectroscopy; Springer−Verlag;Berlin Heideberg;2008のChapter 7 Transition Metal Complexes」の83〜87ページによると、PdCl
2P
2タイプの
31P NMRのシフト値はδ38.6ppmを中心にホスフィンの置換基により多少のシフトがあると記されている。今回もδ38.6ppmだったのでシフト値は一致している。
【0267】
また、本反応は、第4版実験化学講座18有機金属錯体393ページ(日本化学会編、平成3年)のPdCl
2(PR
3)
2の合成の項を参考に行った。PdCl
2(PhCN)
2から出発し、配位力の弱いPhCNが外れ、ホスフィン2座配位の錯体が合成可能である。錯体はcis体およびtrans体と2つの形が考えられるが、今回は
31P NMRのシフト値からcis体と推測できる。以前の論文(Angew. Chem. Int. Ed. 2013, 52, 1748 −1752)でX線構造解析から同様の錯体を示し、その構造もcis体であったことから2座のシス体であると推測できる。
【0268】
カップリング定数に関しては、トリプレットというのはP−Fのカップリング定数でより詳しく書くと
2J
P−F =
58.7 Hzである。これはR
f基を有するリンがパラジウムに配位している証拠となる。
【0269】
【化38】
【0270】
三価のリン化合物ではカップリング定数が大きいため2つめの元素だけでなく3つ4つも影響する。そこで三価の化合物ではマルチプレット(正確にはt,t,t,3の3乗なので解析が難しい)になる。一方五価の(金属に配位した)リン化合物はカップリング定数が小さいためカップリングの影響をおよぼすのは2つめの原子までであり、すなわちトリプレットに見える。つまり、今回の結果でトリプレットが観測されたのは遊離のホスフィンではなく錯形成したホスフィンだと確実に言える。
【0271】
(実施例3)
(本発明の錯体を用いた反応例)
(実施例3−1)
(Ni錯体を用いた反応例:アルキンのヒドロホスホリル化反応)
【0272】
【化39】
【0273】
反応操作はすべて窒素雰囲気下で行った。
【0274】
上記実施例2−3で合成したニッケル錯体を含む反応液に、ジフェニルホスフィンオキシド(片山化学工業株式会社製:商品コード133−05397)35.9mgと1−オクチン(東京化成製:商品コードO0050)26μLを加え、撹拌を行い溶解した。この溶液を60℃、20時間加熱し、
1H,
31P−NMR分析を行った結果、反応率95.9%(
1H−NMRから算出)で生成物を得ることができた。この時の生成物E/生成物Fの比率は、1/0.964(
1H−NMRから算出)であった。
【0275】
(実施例3−2)
(Pd錯体を用いた反応例:酸ハライドと末端アルキンとの薗頭クロスカップリング反応)
本発明のホスフィン化合物の電子供与性の低さを活かした反応の例として、酸ハライドと末端アルキンとの薗頭クロスカップリング反応においてCu−フリーの条件で反応が進行することを見出した(式9)。酸ハライドと末端アルキンとの薗頭クロスカップリング反応は1977年に薗頭、萩原らによって報告されている(式10)(Synthesis,1977,11,777〜778.)。
【0276】
【化40】
【0277】
【化41】
【0278】
上記反応において、本発明のホスフィン化合物を配位子として用いて、条件検討を行った。
【0279】
【表5】
【0280】
条件検討の結果、判明した最適条件を用いて、本反応の基質の適用範囲を調べた。
【0281】
【表6】
【0282】
【表7】
【0283】
リサイクルの検討を表8に示す。反応後、錯体をフルオラス溶媒で回収することにより2回、錯体のリサイクルによる反応に成功している。
【0284】
【表8】
【0285】
不活性ガス雰囲気下、二口ナスフラスコにPdCl
2(PhCN)
2(0.010mmol)、
nC
10F
21PPh
2(0.020mmol)、CuI(0.020mmol)、酸ハライド(1.2mmol)、末端アセチレン(1.0mmol)、トリエチルアミン(0.2mL、トルエン(0.5mL)を加え、室温で1時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧留去した。その後メタノールを加え、フロリナート(FC−72、4mL×3)で3回分液抽出した。メタノール層のメタノールを減圧留去した後、反応混合物をPTLC(分取TLC)により単離精製することで、各種イノン化合物をテーブルに表記している収率で得た。一方、フッ素含有溶媒層はフロリナートを30mLシュレンク管で減圧留去することで、ペルフルオロアルキルホスフィン(
nC
10F
21PPh
2)を含むパラジウム錯体が得られた。抽出回収した錯体は続いて次の薗頭型クロスカップリング反応に再度利用した。2回のリサイクルにおいて、同等の高収率で目的生成物が得られた。
【0286】
(実施例4)
(PtCl
2(Ph
2P
nC
10F
21)
2、RhCl(CO)(Ph
2P
nC
10F
21)
2、IrCl(CO)(Ph
2P
nC
10F
21)
2のフッ素含有溶媒への溶解度)
合成したペルフルオロアルキルホスフィンを有する錯体を3 mg量り取り、フラスコに入れた。次にフッ素含有溶媒(FC−72、スリーエムジャパン株式会社)を数mL、加え撹拌した。これを固体が全て見えなくなるまで繰り返した。溶解時に加えた溶液の量から溶解度を計算した。
フッ素含有溶媒(FC−72、スリーエムジャパン株式会社)への溶解度
PtCl
2(Ph
2P
nC
10F
21)
2:0.32 g/L
RhCl(CO)(Ph
2P
nC
10F
21)
2:0.40 g/L
IrCl(CO)(Ph
2P
nC
10F
21)
2:0.13 g/L
FC−72と適切な貧溶媒を用いることでフッ素含有溶媒による回収が可能であると考えられる。
【0287】
(実施例5)
(PAr
3の合成)
【0288】
【化42】
【0289】
不活性ガス雰囲気下、THF溶媒(10mL)、マグネシウム(607.5mg、25mmol)を100mL3つ口フラスコに加え、ゆっくりと4−CH
3OC
6H
4BrのTHF溶液、25mmol、THF20mL)を添加した。しばらく撹拌すると4−CH
3OC
6H
4MgBが調製できた。その後、ジクロロメトキシホスフィン(11mmol)を添加して一晩加熱還流することによりジアリールメトキシホスフィン(MeOC
6H
4)
2POMeを合成した。
【0290】
(実施例6)
(TMDPOの誘導体の合成について)
【0291】
【化43】
【0292】
不活性ガス雰囲気下、0℃でトルエン(10mL)、Ph
2POMe(5mmol)、2,4,6−トリメチルベンゾイルクロライド(5mmol)を30mL2つ口フラスコに加え撹拌し、徐々に室温に戻した。続いて80℃で3時間加熱した。溶媒を留去することでTMDPOが得られた。
【0293】
(実施例7)
(
nC
10F
21PPh
2の硫化しやすさについて)
不活性ガス雰囲気下、対応するホスフィン(0.1mmol)、硫黄(96mg、3mmol)、CDCl
3を密封可能なNMRチューブに加え、よく振った後、12時間静置した。12時間後
31PNMRを測定することにより生成物を同定し、収率を計算した。
【0294】
【化44】
【0295】
硫化しやすさについて検討した結果を式11〜13に示す。PPh
3では室温(たとえば15℃〜25℃)ですみやかに硫化されるのに対し、R
fPPh
2では加熱が必要となる。このことからR
fPPh
2はPPh
3より硫化しにくいといえる。一般的に同族の元素の反応性は似るので周期表で上に位置する酸素による酸化も同傾向を示すと予想される。
【0296】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。