【実施例】
【0039】
(実施例)
上記ケース用アルミニウム合金板を用いて作製したケースの例について、図を用いて説明する。
図1に示すように、ケース1は本体2と蓋体3とを有しており、両者が接合された状態において略直方体状を呈している。本体2は、JIS A 3003合金板より構成されている。蓋体3は、Si:2.0%以上11.0%以下、Fe:0%超え2.0%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、伸びが8%以上であり、Alマトリクス中にSiまたはFeを含む第二相粒子が存在しており、第二相粒子の円相当径が17μm以下であるアルミニウム板より構成されている。本体2と蓋体3とは、レーザ溶接により接合されており、本体2と蓋体3との当接部(被接合部)にレーザ溶接部11が形成されている。以下、ケース1の詳細な構成について、作製手順と共に説明する。
【0040】
蓋体3を構成するアルミニウム板は、上記特定の化学成分を有する鋳塊を作製した後、常法により鋳塊に均質化処理、熱間圧延及び冷間圧延を行って作製することができる。得られたアルミニウム板にプレス加工を行い、角型カップ状に成形することにより、蓋体3を得ることができる。
【0041】
本体2は、JIS A 3003合金板にプレス加工を行い、角型カップ状に成形することにより作製できる。本例の本体2及び蓋体3は、両者を組み合わせた際に、互いの開口端面21と開口端面31とが当接するように構成されている(
図4参照)。
【0042】
次に、電池や電子機器等の内容物を本体2に収容した状態で、本体2と蓋体3とを組み合わせ、両者の開口端面21、31同士(
図4参照)を突き当てる。この状態で、本体2と蓋体3との当接部に連続発振レーザを照射して本体2と蓋体3とを溶接し、レーザ溶接部11を形成する。以上により、
図1に示すケース1を作製することができる。なお、連続発振レーザに替えてパルスレーザを用いて溶接を行うことも可能である。
【0043】
連続発振レーザを用いて溶接を行った場合のレーザ溶接部11の一例を
図2〜
図4に示す。本例においては、蓋体3を構成するアルミニウム板の融点が本体2を構成するJIS A 3003合金板の融点よりも低いため、レーザを照射した際に、本体2に比べて蓋体3の方がより溶融しやすい。それ故、
図2及び
図4に示すように、本体2側に形成されるレーザ溶接部11aは、蓋体3側に形成されるレーザ溶接部11bに比べて幅が狭くなる。
【0044】
本例のように、蓋体3をレーザ溶接性の高いアルミニウム板から構成することにより、部分溶込みにおける溶込み深さ及びビードの幅が均一なレーザ溶接部11を被接合部、即ち本体2と蓋体3との当接部の全長に亘って形成することができる。
【0045】
(実験例)
本例は、化学成分等を種々変更したアルミニウム板を用いてレーザ溶接性の評価を行った例である。
【0046】
<供試材10の準備及び評価>
表1に示す化学成分を有するアルミニウム合金鋳塊を作製した後、常法により鋳塊に均質化処理、熱間圧延及び冷間圧延を行い、厚さ1.0mmの板材(供試材E1〜E13及びC1〜C13)を作製した。供試材E1〜E4、C1及びC7については、冷間圧延の後、
図5に示すように、略長方形状を呈する供試材10の長辺101に沿って摩擦攪拌処理を行い、長辺101に沿った被溶接部102の晶出物を破砕した。摩擦攪拌処理は、ツールを750rpmで回転させつつ、800mm/minの速度で移動させることにより行った。なお、その他の供試材については、上記の摩擦攪拌処理を行わなかった。
【0047】
次に、各供試材10の伸び及び第二相粒子の円相当径の測定を行った。供試材10の伸びは、JIS Z 2241に規定された試験方法に準じて引張試験を行うことにより測定した。各供試材10の伸びを表1に示す。
【0048】
第二相粒子の円相当径は、以下の方法により測定した。供試材10の表面にペーパー研磨及びバフ研磨を行った後、EPMA(電子プローブマイクロアナライザ)を用いて研磨後の表面を倍率400倍で観察した。表面観察は各供試材10について10箇所ずつ行い、それぞれの観察位置においてAl、Si、Fe及びMgの元素マッピング像を取得した。なお、倍率400倍で観察した際の元素マッピング像の視野サイズは50μm×50μmである。また、供試材E1〜E4、C1及びC7については、摩擦攪拌処理が施された被溶接部102(
図5参照)内から観察位置を選択した。
【0049】
次に、画像解析装置(NIRECO製LuzexIIIU)を用い、SiまたはFeの少なくとも一方を含む第二相粒子を10箇所の元素マッピング像から抽出した。次いで、抽出された全ての第二相粒子を、Siを含む粒子(以下、Si系粒子という。)またはFeを含む粒子(以下、Fe系粒子という。)のいずれかに分類すると共に、個々の粒子の円相当径を算出した。
【0050】
なお、Al−Fe−Si系化合物等のSi及びFeの両方を含む第二相粒子については、Siの濃度がFeより高い場合にはSi系粒子に分類し、Feの濃度がSiより高い場合にはFe系粒子に分類した。また、個々の粒子の円相当径は、供試材10の表面に露出した粒子の面積と等しい面積を有する円の直径である。
【0051】
その後、画像解析の結果に基づいて、10箇所の視野に含まれるSi系粒子のうち最大の円相当径を有する粒子を決定した。同様に、10箇所の視野に含まれるFe系粒子のうち最大の円相当径を有する粒子を決定した。以上の解析により得られたSi系粒子の最大円相当径及びFe系粒子の最大円相当径を表1に示す。
【0052】
<相手材12の準備>
供試材10を溶接する相手材12として、JIS A 3003合金よりなる厚さ1.0mmの板材及びJIS A 5052合金よりなる厚さ1.0mmの板材を準備した。相手材の詳細な化学成分は以下の通りであった。
【0053】
・JIS A 3003合金板
Si:0.3%、Fe:0.35%、Cu:0.12%、Mn:1.3%、Zn:0.05%、Al:残部
・JIS A 5052合金板
Si:0.13%、Fe:0.2%、Cu:0.05%、Mn:0.05%、Mg:2.5%、Cr:0.25%、Zn:0.05%、Al:残部
【0054】
なお、供試材10と同様に引張試験を行ったところ、JIS A 3003合金板の伸びは40%であり、JIS A 5052合金板の伸びは30%であった。
【0055】
<レーザ溶接>
表2に示す組み合わせの通り供試材10及び相手材12を選択し、供試材10における被溶接部102の端面と相手材12の端面とを当接させた。次いで、供試材10及び相手材12の片面側から端面同士の当接部に沿って長さ200mmに亘って連続発振レーザを照射し、突合せ溶接を行った。使用したレーザの出力は1.2kWであり、照射スポットの移動速度は2m/minとした。また、本例においては、照射スポットの直径を50μm、100μm、300μm及び500μmの4段階に変更して溶接を行った。なお、表2における実験27及び28は、Al−Si系合金よりなる供試材E1〜E13、C1〜C13との比較のため、JIS A 3003合金板同士及びJIS A 5052合金板同士のレーザ溶接を行った例である。
【0056】
<レーザ溶接性の評価>
表2に示す実験1〜28の各々について、目視観察及び断面観察によりレーザ溶接性の評価を行った。
【0057】
目視観察は、以下の手順により行った。まず、レーザ溶接部11のビード112の幅をレーザ溶接部11の全長に亘って測定し、その平均w1を算出した(
図6参照)。次いで、ビード112の幅の平均w1よりも幅の広い幅広部113のそれぞれについて最大幅w2を測定した。そして、最大幅w2が平均w1に対して30%以上太くなっている幅広部113を1箇所以上有する場合に、レーザ溶接部11に異常溶込みが発生していると判定した。
【0058】
表2に、4段階のスポット直径のそれぞれについて異常溶込みの有無を評価した結果を示す。なお、JIS A 3003合金板同士及びJIS A 5052合金板同士のレーザ溶接を行った実験27及び実験28は、割れの発生により供試材10と相手材12とを接合できなかったため、目視評価を行うことができなかった。
【0059】
断面観察は以下の手順により行った。まず、溶接終了部から30mm以内の範囲において任意に3箇所の切断位置を選択し、レーザ溶接後の供試材10及び相手材12を、各切断位置で溶接方向と直角な方向に切断した。次いで、露出した断面に鏡面研磨を施した後、倍率200倍の金属顕微鏡を用いて観察した。その結果、1箇所以上の断面において割れが確認された場合に、割れが発生していると判定した。表2にその結果を示す。なお、断面観察には、スポット径が100μmのレーザにより溶接された供試材10及び相手材12を供した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
表1及び表2より知られるように、化学成分及び第二相粒子の円相当径が上記特定の範囲である供試材E1〜E13は、JIS A 3003合金板及びA 5052合金板の両方に対して良好なレーザ溶接性を示し、割れの発生を抑制することができた。また、本例のレーザを用いた場合には、供試材E1〜E13は、少なくとも100μm以上のスポット径において異常溶込みの発生を抑制することができ、供試材の化学成分等によっては50μmのスポット径においても異常溶込みの発生を抑制することができた。これらの結果から、供試材E1〜E13は、レーザ溶接における割れや異常溶込みを抑制でき、レーザ溶接に好適であることが理解できる。また、供試材E1〜E13は、将来、レーザ溶接の精密化が要求され、レーザスポット径がより小さくなった場合に、かかる要求に比較的容易に対応可能であることが理解できる。