特開2016-124003(P2016-124003A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-124003(P2016-124003A)
(43)【公開日】2016年7月11日
(54)【発明の名称】点摩擦撹拌接合構造
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20160613BHJP
【FI】
   B23K20/12 362
   B23K20/12 364
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-266274(P2014-266274)
(22)【出願日】2014年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】千足 浩平
(72)【発明者】
【氏名】山田 豊
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167AA22
4E167BG26
4E167BG30
4E167CA17
4E167DA10
(57)【要約】
【課題】本発明は、回転ピンが押し付けられたパネル材に発生する割れ等を抑制することができる点摩擦撹拌接合構造を提供することを目的とする。
【解決手段】点摩擦撹拌接合構造10は、互いに重ね合わされた部位に、厚み方向一方側から回転する回転ピンが押し付けられることにより点摩擦撹拌接合される一対の上側フランジ部16及び下側フランジ部22を備える。上側フランジ部16には、当該上側フランジ部16から下側フランジ部22に向けて突起状に突出する一対の突起部30が形成される。一方、下側フランジ部22には、一対の突起部30が挿入される一対の係合孔32が形成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに重ね合わされた部位に、厚み方向一方側から回転する回転ピンが押し付けられることにより点摩擦撹拌接合される一対のパネル材と、
前記回転ピンの回転軸を中心とした前記一対のパネル材の相対回転を規制する回転規制部と、
を備える点摩擦撹拌接合構造。
【請求項2】
前記回転規制部は、
前記一対のパネル材のうち、一方の前記パネル材に形成され、該パネル材から他方の前記パネル材へ突出する第1係合部と、
前記一対のパネル材のうち、他の前記パネル材に形成され、前記回転ピンの回転方向に前記第1係合部と係合される第2係合部と、
を有する、
請求項1に記載の点摩擦撹拌接合構造。
【請求項3】
前記一対のパネル材のうち、一方の前記パネル材は、パネル本体部と、前記パネル本体部の端部から延出し、他方の前記パネル材に重ね合わされると共に前記回転ピンが押し付けられるフランジ部と、を有し、
前記回転規制部は、前記フランジ部と他方の前記パネル材との接合部の中心よりも該フランジ部の延出方向先端側に配置される、
請求項2に記載の点摩擦撹拌接合構造。
【請求項4】
前記回転規制部は、前記接合部の中心を通り且つ前記フランジ部の延出方向に延びる仮想基準線に対して両側に配置される、
請求項3に記載の点摩擦撹拌接合構造。
【請求項5】
前記回転規制部は、前記接合部の中心を通り且つ前記フランジ部の延出方向に延びる仮想基準線に対し、該中心から前記フランジ部の延出方向先端側の端部に向けて45度で傾斜する仮想傾斜線上に配置される、
請求項3または請求項4に記載の点摩擦撹拌接合構造。
【請求項6】
前記第1係合部は、前記一対のパネル材のうち、一方の前記パネル材に形成され、該パネル材から他方の前記パネル材へ向けて突起状に突出する突起部を含み、
前記第2係合部は、前記一対のパネル材のうち、他方の前記パネル材に形成され、前記突起部が挿入される係合孔を含む、
請求項2〜請求項5の何れか1項に記載の点摩擦撹拌接合構造。
【請求項7】
前記第1係合部は、前記一対のパネル材のうち、一方の前記パネル材の端部に沿って形成され、該端部から他方の前記パネル材へ延出するリブ部を含み、
前記第2係合部は、前記一対のパネル材のうち、他方の前記パネル材の端部に形成され、前記リブ部が挿入される切欠き部を含む、
請求項2〜請求項6の何れか1項に記載の点摩擦撹拌接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点摩擦撹拌接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一対のパネル材を重ね合わされた状態で接合する接合方法としては、摩擦撹拌接合が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、摩擦撹拌接合と同種の接合方法として、点摩擦撹拌接合が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−289976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、点摩擦撹拌接合(SFSW(Spot Friction Stir Welding))では、先ず、互いに重ね合わされた一対のパネル材がクランプによって把持される。次に、一対のパネル材のうち、一方のパネル材に、ツールの先端から突出する回転ピンが回転しながら押し付けられる。これにより、回転ピンとの摩擦に伴う摩擦熱によって一対のパネル材の接合部が軟化されると共に、軟化された接合部が回転ピンによって撹拌(塑性流動)されて一体化される。
【0005】
この際、回転ピンが押し付けられたパネル材が回転ピンの回転に追従すると、当該パネル材に割れや座屈等が発生する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、回転ピンが押し付けられたパネル材に発生する割れ等を抑制することができる点摩擦撹拌接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る点摩擦撹拌接合構造は、互いに重ね合わされた部位に、厚み方向一方側から回転する回転ピンが押し付けられることにより点摩擦撹拌接合される一対のパネル材と、前記回転ピンの回転軸を中心とした前記一対のパネル材の相対回転を規制する回転規制部と、を備える。
【0008】
上記第1態様に係る点摩擦撹拌接合構造によれば、一対のパネル材は、互いに重ね合わされた部位に、厚み方向一方側から回転ピンが押し付けられることにより点摩擦撹拌接合される。この際、回転ピンが押し付けられた一方のパネル材が回転ピンの回転に追従し、他方のパネル材に対して回転すると、当該パネル材に割れや座屈等が発生する可能性がある。
【0009】
これに対して上記第1態様では、一方のパネル材が回転ピンの回転に追従し、他方のパネル材に対して回転しようとすると、回転規制部によって一方のパネル材が他方のパネル材に対して回転することが規制される。つまり、回転規制部によって、回転ピンの回転軸を中心した一対のパネル材の相対回転が規制される。これにより、回転ピンが押し付けられたパネル材が回転ピンの回転に追従することが抑制されるため、当該パネル材に発生する割れや座屈等が抑制される。
【0010】
第2態様に係る点摩擦撹拌接合構造は、上記第1態様に記載の点摩擦撹拌接合構造において、前記回転規制部は、前記一対のパネル材のうち、一方の前記パネル材に形成され、該パネル材から他方の前記パネル材へ突出する第1係合部と、前記一対のパネル材のうち、他の前記パネル材に形成され、前記回転ピンの回転方向に前記第1係合部と係合される第2係合部と、を有する。
【0011】
第2態様に係る点摩擦撹拌接合構造によれば、一対のパネル材のうち、一方のパネル材には、他方のパネル材へ突出する第1係合部が形成される。また、他方のパネル材には、回転ピンの回転方向に第1係合部と係合される第2係合部が形成される。
【0012】
そして、例えば、回転ピンが押し付けられた一方のパネル材が回転ピンの回転に追従し、他方のパネル材に対して回転しようとすると、第1係合部と第2係合部とが回転ピンの回転方向に係合される。これと同様に、回転ピンが押し付けられた他方のパネル材が回転ピンの回転に追従し、一方のパネル材に対して回転しようとすると、第1係合部と第2係合部とが回転ピンの回転方向に係合される。これにより、回転ピンの回転軸を中心とした一対のパネル材の相対回転が規制される。したがって、回転ピンが押し付けられたパネル材が回転ピンの回転に追従することが抑制されるため、当該パネル材に発生する割れや座屈等が抑制される。
【0013】
第3態様に係る点摩擦撹拌接合構造は、上記第2態様に記載の点摩擦撹拌接合構造において、前記一対のパネル材のうち、一方の前記パネル材は、パネル本体部と、前記パネル本体部の端部から延出し、他方の前記パネル材に重ね合わされると共に前記回転ピンが押し付けられるフランジ部と、を有し、前記回転規制部は、前記フランジ部と他方の前記パネル材との接合部の中心よりも該フランジ部の延出方向先端側に配置される。
【0014】
第3態様に係る点摩擦撹拌接合構造によれば、一対のパネル材のうち、一方のパネル材は、パネル本体部と、パネル本体部の端部から延出するフランジ部とを有する。フランジ部は、一対のパネル材のうち、他方のパネル材に重ね合わされる。このフランジ部には、回転する回転ピンが押し付けられる。これにより、一方のパネル材のフランジ部と他方のパネル材とが点摩擦撹拌接合される。
【0015】
ここで、点摩擦撹拌接合に伴ってフランジ部が回転ピンの回転に追従した場合、フランジ部では、他方のパネル材との接合部の中心に対し、パネル本体部側の部位よりもフランジ部の延出方向先端側の部位で大きなひずみが発生し易くなる。
【0016】
これに対して本態様では、フランジ部と他方のパネル材との接合部の中心よりもフランジ部の延出方向先端側に回転規制部が配置される。これにより、フランジ部において、接合部の中心よりもフランジ部の延出方向先端側に発生するひずみが効率的に低減される。したがって、回転ピンが押し付けられたフランジ部に発生する割れや座屈等が抑制される。
【0017】
第4態様に係る点摩擦撹拌接合構造は、第3態様に記載の点摩擦撹拌接合構造において、前記回転規制部は、前記接合部の中心を通り且つ前記フランジ部の延出方向に延びる仮想基準線に対して両側に配置される。
【0018】
第4態様に係る点摩擦撹拌接合構造によれば、回転規制部は、接合部の中心を通り且つフランジ部の延出方向に延びる仮想基準線に対して両側に配置される。このように仮想基準線に対する両側でフランジ部と他方のパネル材との相対回転を規制することにより、フランジ部において、接合部の中心よりもフランジ部の延出方向先端側に発生するひずみが効率的に低減される。したがって、回転ピンが押し付けられたフランジ部に発生する割れや座屈等がさらに抑制される。
【0019】
第5態様に係る点摩擦撹拌接合構造は、上記第3態様または上記第4態様に記載の点摩擦撹拌接合構造において、前記回転規制部は、前記接合部の中心を通り且つ前記フランジ部の延出方向に延びる仮想基準線に対し、該中心から前記フランジ部の延出方向先端側の端部に向けて45度で傾斜する仮想傾斜線上に配置される。
【0020】
第5態様に係る点摩擦撹拌接合構造によれば、回転規制部は、接合部の中心を通り且つフランジ部の延出方向に延びる仮想基準線に対し、当該接合部の中心からフランジ部の延出方向先端側の端部に向けて45度で傾斜する仮想傾斜線上に配置される。
【0021】
ここで、点摩擦撹拌接合に伴ってフランジ部が回転ピンの回転に追従した場合、フランジ部の延出方向先端側の端部のうち、仮想傾斜線と交差する部位にひずみが集中し、当該部位に割れや座屈等が発生し易くなる。
【0022】
これに対して本態様では、前述した仮想傾斜線上に回転規制部が配置される。これにより、フランジ部の端部のうち、仮想傾斜線と交差する部位に発生するひずみが効率的に低減される。したがって、回転ピンが押し付けられたフランジ部の端部に発生する割れや座屈等がさらに抑制される。
【0023】
第6態様に係る点摩擦撹拌接合構造は、上記第2態様〜上記第5態様の何れか1つに記載の点摩擦撹拌接合構造において、前記第1係合部は、前記一対のパネル材のうち、一方の前記パネル材に形成され、該パネル材から他方の前記パネル材へ向けて突起状に突出する突起部を含み、前記第2係合部は、前記一対のパネル材のうち、他方の前記パネル材に形成され、前記突起部が挿入される係合孔を含む。
【0024】
第6態様に係る点摩擦撹拌接合構造によれば、一対のパネル材のうち、一方のパネル材には突起部が形成される。この突起部は、一方のパネル材から他方のパネル材に向けて突起状に突出し、他方のパネル材に形成された係合孔に挿入される。
【0025】
この状態で、例えば、回転ピンが押し付けられた一方のパネル材が回転ピンの回転に追従し、他方のパネル材に対して回転しようとすると、突起部が係合孔の周縁部に係合される。これと同様に、回転ピンが押し付けられた他方のパネル材が回転ピンの回転に追従し、一方のパネル材に対して回転しようとすると、突起部が係合孔の周縁部に係合される。これにより、回転ピンの回転軸を中心とした一対のパネル材の相対回転が規制される。したがって、回転ピンが押し付けられたパネル材が回転ピンの回転に追従することが抑制されるため、当該パネル材に発生する割れや座屈等が抑制される。
【0026】
第7態様に係る点摩擦撹拌接合構造は、上記第2態様〜上記第6態様の何れか1つに記載の点摩擦撹拌接合構造において、前記第1係合部は、前記一対のパネル材のうち、一方の前記パネル材の端部に沿って設けられ、該端部から他方の前記パネル材へ延出するリブ部を含み、前記第2係合部は、前記一対のパネル材のうち、他方の前記パネル材の端部に形成され、前記リブ部が挿入される切欠き部を含む。
【0027】
第7態様に係る点摩擦撹拌接合構造によれば、一対のパネル材のうち、一方のパネル材の端部にはリブ部が形成される。このリブ部は、一方のパネル材の端部に沿って形成されると共に当該端部から他方のパネル材へ延出し、他方のパネル材の端部に形成された切欠き部に挿入される。
【0028】
この状態で、例えば、回転ピンが押し付けられた一方のパネル材が回転ピンの回転に追従し、他方のパネル材に対して回転しようとすると、リブ部が切欠き部の周縁部に係合される。これと同様に、回転ピンが押し付けられた他方のパネル材が回転ピンの回転に追従し、一方のパネル材に対して回転しようとすると、リブ部が切欠き部の周縁部に係合される。これにより、回転ピンの回転軸を中心とした一対のパネル材の相対回転が規制される。したがって、回転ピンが押し付けられたパネル材が回転ピンの回転に追従することが抑制されるため、当該パネル材に発生する割れや座屈等が抑制される。
【0029】
また、リブ部は、一方のパネル材の端部に沿って形成される。このリブ部によって、一方のパネル材の端部が補強される。そのため、回転ピンが押し付けられるパネル材の端部にリブ部が形成されることにより、当該パネル材の端部に発生するひずみが低減される。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明に係る点摩擦撹拌接合構造によれば、回転ピンが押し付けられたパネル材に発生する割れ等を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、一実施形態に係る点摩擦撹拌接合構造が適用されるルーフパネル及びルーフパネルリインフォースメントを示す分解斜視図である。
図2図2は、図1に示されるルーフパネルの上側フランジ部及びルーフパネルリインフォースメントの下側フランジ部を拡大して示す分解斜視図である。
図3図3は、図2に示されるルーフパネルの上側フランジ部を車両上下方向上側から見た平面図である。
図4図3の4−4線断面図である。
図5図2に示されるルーフパネルの上側フランジ部とルーフパネルリインフォースメントの下側フランジ部とを重ね合わせた状態を示す斜視図である。
図6】一実施形態に係る点摩擦撹拌接合構造の変形例が適用されたルーフパネルの上側フランジ部及びルーフパネルリインフォースメントの下側フランジ部を示す図2に対応する分解斜視図である。
図7図6に示される突起部が切欠き部に嵌め込まれた状態を示す断面図である。
図8】一実施形態に係る点摩擦撹拌接合構造の変形例が適用されたルーフパネルの上側フランジ部及びルーフパネルリインフォースメントの下側フランジ部を示す図2に対応する分解斜視図である。
図9図8に示されるリブ部が切欠き部に嵌め込まれた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る点摩擦撹拌接合構造について説明する。なお、各図において適宜示される矢印FRは車両前後方向の前側を示している。また、矢印UPは、車両上下方向の上側を示している。さらに、矢印OUTは、車両幅方向の外側(車体左側)を示している。
【0033】
本実施形態に係る点摩擦撹拌接合構造10は、図1に示されるように、例えば、ルーフパネル12及びルーフパネルリインフォースメント20に適用される。ルーフパネル12は、車両の屋根の外板を構成するアルミニウム等の金属製のパネル部材である。このルーフパネル12は、車両前後方向及び車両幅方向に沿って配置され、図示しない左右一対のルーフサイドレールに掛け渡される。
【0034】
ルーフパネル12は、パネル本体部14と、左右一対のフランジ部16とを有している。パネル本体部14は、下方が開口された扁平の箱状に形成されている。このパネル本体部14は、上壁部14Uと、上壁部14Uの車両幅方向両側の端部から下方へ延出する一対の側壁部14Sとを有している。一対の側壁部14Sの下側の端部14S1には、フランジ部16がそれぞれ設けられている。なお、側壁部14Sの端部14S1は、パネル本体部14の端部の一例である。
【0035】
図2に示されるように、フランジ部16は、側壁部14Sの端部14S1に沿って車両前後方向に延びると共に当該端部14S1から車両幅方向外側へ延出している。このフランジ部16は、側壁部14Sに対して屈曲されている。これにより、フランジ部16と側壁部14S(パネル本体部14)との境界部に稜線18が形成されている。
【0036】
ルーフパネルリインフォースメント(以下、単に「リインフォースメント」という)20は、ルーフパネル12に接合され、当該ルーフパネル12を補強するアルミニウム等の金属製のパネル部材である。このリインフォースメント20は、例えば、ルーフパネル12における車両前後方向の前部に車両幅方向を長手方向として配置され、ルーフパネル12の一対のフランジ部16に掛け渡される。
【0037】
リインフォースメント20の長手方向の端部は、ルーフパネル12のフランジ部16と接合されるフランジ部22とされる。具体的には、リインフォースメント20のフランジ部22は、ルーフパネル12のフランジ部16の下面に重ね合われた状態で当該フランジ部16に点摩擦撹拌接合によって接合される。
【0038】
以下、ルーフパネル12のフランジ部16とリインフォースメント20のフランジ部22との接合構造について具体的に説明する。なお、以下の説明では、便宜上、ルーフパネル12のフランジ部16を上側フランジ部16とし、リインフォースメント20のフランジ部22を下側フランジ部22とする。
【0039】
上側フランジ部16における下側フランジ部22との接合部J1の周囲には、第1係合部(回転規制部)の一例としての一対の突起部30に形成されている。なお、ここでいう上側フランジ部16の接合部J1とは、点摩擦撹拌接合によって下側フランジ部22と接合される上側フランジ部16の円形状の部位を意味する。そして、図2には、下側フランジ部22と接合される前の接合部(接合予定部)J1の外形が二点鎖線で示されている。また、図2には、下側フランジ部22における上側フランジ部16との接合部(接合予定部)J2の外形が二点鎖線で示されている。
【0040】
一対の突起部30は、上側フランジ部16から下側フランジ部22へ向けて突起状に突出している。各突起部30は、上側フランジ部16の厚み方向(矢印T方向)から見て円形状に形成されている。この一対の突起部30は、例えば、プレス成形(エンボス加工)によって上側フランジ部16に形成される。
【0041】
図3に示されるように、一対の突起部30は、接合部J1の中心Cよりも上側フランジ部16の延出方向先端側(矢印OUT側)に配置されている。具体的には、上側フランジ部16のうち、接合部J1の中心Cよりもパネル本体部14側の部位(領域)をL1とし、接合部J1の中心Cよりも上側フランジ部16の延出方向先端側の部位(領域)をL2とすると、一対の突起部30は、上側フランジ部16の部位L2に形成されている。なお、上側フランジ部16の延出方向は、上側フランジ部16の幅方向(矢印W方向)と一致している。また、図3には、下側フランジ部22と接合された後の接合部J1の外形が実線で示されている。
【0042】
さらに、一対の突起部30は、接合部J1の中心Cを通り且つ上側フランジ部16の延出方向(幅方向)に延びる仮想基準線Kの両側に配置されている。より詳細には、一対の突起部30は、仮想基準線Kに対し、接合部J1の中心Cから上側フランジ部16の延出方向先端側の端部16Eに向けて傾斜角度θ(θ=45度)でそれぞれ傾斜する仮想傾斜線V1,V2上に配置されている。なお、本実施形態では、仮想基準線Kは、上側フランジ部16の端部16Eの先端と垂直または略垂直に交差している。
【0043】
図2に示されるように、一対の突起部30は、下側フランジ部22に形成された一対の係合孔32にそれぞれ挿入される。第2係合部(回転規制部)の一例としての一対の係合孔32は、下側フランジ部22を厚み方向(矢印T方向)に貫通する円形状の貫通孔とされている。この一対の係合孔32は、下側フランジ部22における一対の突起部30と対向する部位に形成されている。各係合孔32の直径は、突起部30の外形よりも僅かに大きくされている。これにより、図4に示されるように、上側フランジ部16の表面(下面)16Aと下側フランジ部22の表面(上面)22Aとを密着させた状態で、突起部30が係合孔32に嵌め込まれる。
【0044】
次に、上側フランジ部16と下側フランジ部22との接合方法の一例を説明しながら、本実施形態の効果について説明する。
【0045】
先ず、図4に示されるように、上側フランジ部16と下側フランジ部22とが重ね合わされる。この際、上側フランジ部16の一対の突起部30が下側フランジ部22の一対の係合孔32にそれぞれ嵌め込まれる。これにより、上側フランジ部16と下側フランジ部22とが位置決められる。また、一対の突起部30が一対の係合孔32にそれぞれ嵌め込まれることにより、後述する回転ピン46の回転軸Oを中心とした上側フランジ部16と下側フランジ部22との相対回転が規制される。なお、図4には、一対の突起部30のうち、一方の突起部30のみが図示されている。
【0046】
次に、図5に示されるように、上側フランジ部16と下側フランジ部22との接合部J1,J2(図2参照)が裏当て材(裏当て金)40の上に載置される。次に、上側フランジ部16の接合部J1の両側(上側フランジ部16の長手方向の両側)に、一対のクランプ42が押し当てられる。これにより、一対のクランプ42と裏当て材40との間で上側フランジ部16及び下側フランジ部22が把持されて固定される。
【0047】
なお、図5には、上側フランジ部16における一対のクランプ42との接触部が二点鎖線で示されている。また、図5には、一対のクランプ42の押圧力(プランプ荷重)が矢印F1で示され、一対のクランプ42の押圧力に対する裏当て材40の反力が矢印F2で示されている。
【0048】
この状態で、上側フランジ部16の接合部J1に、円柱状のツール44の先端から突出すると共に回転する回転ピン(プローブ)46が略垂直に押し付けられる。これにより、回転ピン46との摩擦に伴う摩擦熱によって上側フランジ部16及び下側フランジ部22の接合部J1,J2(図2参照)が軟化されると共に、軟化された接合部J1,J2が回転ピン46によって撹拌(塑性流動)されて一体化される。この状態で、接合部J1,J2が硬化することにより、上側フランジ部16と下側フランジ部22とが接合される。
【0049】
ここで、回転ピン46は、接合部J1,J2に略垂直な回転軸Oを中心として矢印R方向に回転する。この回転ピン46が上側フランジ部16の接合部J1に押し付けられると、回転ピン46の回転力(矢印R方向の力)が上側フランジ部16に伝達される。この回転力が、一対のクランプ42の押圧力(矢印F1,F2)に起因して上側フランジ部16及び下側フランジ部22の表面16A,22A(図4参照)間に発生する摩擦力を越えると、上側フランジ部16が下側フランジ部22に対して回転ピン46の回転方向にずれ(滑り)、上側フランジ部16が回転ピン46の回転に追従しようとする。そして、上側フランジ部16が回転ピン46の回転に追従すると、上側フランジ部16の端部16Eに発生するひずみが大きくなり、当該端部16Eに割れや座屈等が発生する可能性がある。
【0050】
これに対して本実施形態では、上側フランジ部16の一対の突起部30が、下側フランジ部22の一対の係合孔32にそれぞれ嵌め込まれている。これにより、上側フランジ部16が回転ピン46の回転に追従し、下側フランジ部22に対して回転ピン46の回転方向に回転しようとすると、一対の突起部30が一対の係合孔32の周縁部にそれぞれ係合される。これにより、回転ピン46の回転軸Oを中心とした一対の上側フランジ部16と下側フランジ部22との相対回転が規制される。したがって、上側フランジ部16が回転ピン46の回転に追従することが抑制されるため、上側フランジ部16の端部16Eに発生する割れや座屈等が抑制される。
【0051】
また、上側フランジ部16が回転ピン46の回転に追従した場合、上側フランジ部16では、図3に示されるように、接合部J1の中心Cに対し、パネル本体部14側の部位L1よりも上側フランジ部16の延出方向先端側の部位L2に大きなひずみが発生し易くなる。
【0052】
これに対して実施形態では、上一対の突起部30が、接合部J1の中心Cよりも上側フランジ部16の延出方向先端側に配置されている。より具体的には、一対の突起部30は、上側フランジ部16の部位L2に形成されている。さらに、一対の突起部30は、仮想基準線Kの両側に配置されている。これにより、上側フランジ部16の部位L2に発生するひずみが効率的に低減される。したがって、上側フランジ部16の端部16Eに発生する割れや座屈等がさらに抑制される。
【0053】
さらに、上側フランジ部16が回転ピン46の回転(矢印R方向)に追従した場合、上側フランジ部16の端部16Eのうち、仮想傾斜線V1と交差する部位E1には引張力Sに起因する引張ひずみが発生する。一方、上側フランジ部16の端部16Eのうち、仮想傾斜線V2と交差する部位E2には圧縮力Pに起因する圧縮ひずみが発生する。これらの引張ひずみ及び圧縮ひずみは、仮想基準線Kに対する一対の仮想傾斜線V1,V2の傾斜角度θがそれぞれ45度の場合に大きくなり易い。そのため、本実施形態では、上側フランジ部16が回転ピン46の回転に追従すると、上側フランジ部16の端部16Eにおける部位E1,E2に割れや座屈等が発生し易くなる。
【0054】
この対策として本実施形態では、一対の突起部30が、一対の仮想傾斜線V1,V2上に配置されている。これにより、上側フランジ部16の端部16Eの部位E1,E2に発生する引張ひずみ及び圧縮ひずみが効率的に低減される。したがって、上側フランジ部16の端部16Eに発生する割れや座屈等がさらに抑制される。
【0055】
しかも、本実施形態では、上側フランジ部16と下側フランジ部22とが重ね合わされる際に、一対の突起部30が一対の係合孔32にそれぞれ嵌め込まれる。これにより、上側フランジ部16と下側フランジ部22とが位置決められる。したがって、上側フランジ部16と下側フランジ部22とを点摩擦撹拌接合する際に、上側フランジ部16と下側フランジ部22との位置決めが容易となる。
【0056】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0057】
上記実施形態では、回転規制部が一対の突起部30及び一対の係合孔32とされるが、回転規制部はこれに限らない。
【0058】
例えば、図6に示される変形例では、上側フランジ部16の端部16Eに、一対の突起部50が形成されている。一対の突起部50は、例えば、プレス成形によって上側フランジ部16に形成されており、上側フランジ部16から下側フランジ部22へ向けて突起状に突出している。各突起部50は、上側フランジ部16の厚み方向(矢印T方向)から見て矩形状に形成されている。また、各突起部50は、上側フランジ部16の端部16Eの先端に達している。この一対の突起部50は、下側フランジ部22に形成された一対の切欠き部52にそれぞれ挿入される。
【0059】
一対の切欠き部52は、下側フランジ部22における一対の突起部50と対向する部位に形成されている。各切欠き部52は、下側フランジ部22の端部22Eを矩形状に切り欠いて形成されている。この切欠き部52には、図7に示されるように、上側フランジ部16の表面16Aと下側フランジ部22の表面22Aとを密着させた状態で、突起部50が嵌め込まれる。この状態で、上側フランジ部16と下側フランジ部22とが点摩擦撹拌接合によって接合される。なお、一対の突起部50は第1係合部(回転規制部)の一例であり、一対の切欠き部52は第2係合部(回転規制部)の一例である。
【0060】
ここで、点摩擦撹拌接合に伴って上側フランジ部16が回転ピン46(図5参照)の回転に追従し、下側フランジ部22に対して回転ピン46の回転方向に回転しようとすると、突起部50が切欠き部52の周縁部に係合される。これにより、回転ピン46の回転軸Oを中心とした上側フランジ部16と下側フランジ部22との相対回転が規制される。したがって、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
次に、図8に示される変形例では、上側フランジ部16の端部16Eにリブ部(補強リブ部)60が形成されている。リブ部60は、上側フランジ部16の端部16Eに沿って形成されている。また、リブ部60は、上側フランジ部16の端部16Eを下側フランジ部22側へ切り起こす(切り起こし加工)ことにより形成されている。さらに、リブ部60は、一対の仮想傾斜線V1,V2の両方を横切っている。このリブ部60によって、上側フランジ部16の端部16Eのうち、一対の仮想傾斜線V1,V2と交差する部位16E1,16E2が補強されている。このリブ部60は、下側フランジ部22の端部22Eに形成された切欠き部62に挿入されている。
【0062】
切欠き部62は、下側フランジ部22におけるリブ部60と対向する部位に形成されている。この切欠き部62は、下側フランジ部22の端部22Eに沿って形成されている。また、切欠き部62は、下側フランジ部22の端部22Eを矩形状に切り欠いて形成されている。この切欠き部62には、図9に示されるように、上側フランジ部16の表面16Aと下側フランジ部22の表面22Aとを密着させた状態で、リブ部60が嵌め込まれる。この状態で、上側フランジ部16と下側フランジ部22とが点摩擦撹拌接合によって接合される。なお、リブ部60は第1係合部(回転規制部)の一例であり、切欠き部62は第2係合部(回転規制部)の一例である。
【0063】
ここで、点摩擦撹拌接合に伴って上側フランジ部16が下側フランジ部22に対して回転ピン46(図5参照)の回転方向に回転しようとすると、リブ部60が切欠き部62の周縁部に係合される。これにより、回転ピン46の回転軸Oを中心とした上側フランジ部16と下側フランジ部22との相対回転が規制される。したがって、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0064】
また、リブ部60は、上側フランジ部16の端部16Eに沿って設けられる。このリブ部60によって上側フランジ部16の端部16Eを補強することにより、当該端部16Eに発生する割れや座屈等がさらに抑制される。
【0065】
しかも、本変形例のリブ部60は、一対の仮想傾斜線V1,V2の両方を横切っている。このリブ部60によって、上側フランジ部16の端部16Eの部位16E1,16E2を補強することにより、当該部位16E1,16E2に発生する割れや座屈等が抑制される。
【0066】
なお、本変形例では、リブ部60が一対の仮想傾斜線V1,V2の両方を横切っているが、リブ部60は一対の仮想傾斜線V1,V2の一方のみを横切っても良い。また、リブ部60は、一対の仮想傾斜線V1,V2を横切らずに、一対の仮想傾斜線V1,V2の間に配置されても良い。
【0067】
次に、上記実施形態では、接合部J1の中心Cよりも上側フランジ部16の端部16E側(部位L2)に一対の突起部30が配置されるが、一対の突起部30の配置はこれに限らない。突起部は、例えば、接合部J1の中心Cよりもパネル本体部14側(部位L1)に配置されても良い。また、突起部は、接合部J1の中心Cに対し、上側フランジ部16の延出方向先端側(部位L2)及びパネル本体部14側(部位L1)の両側に配置されていても良い。
【0068】
また、上記実施形態では、上側フランジ部16に一対の突起部30が形成され、下側フランジ部22に一対の係合孔32が形成されるが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、上側フランジ部16に一対の係合孔が形成され、下側フランジ部22に一対の突起部が形成されても良い。また、例えば、上側フランジ部16に突起部及び係合孔が形成され、下側フランジ部22に上側フランジ部16の突起部及び係合孔に対応する係合孔及び突起部が形成されても良い。
【0069】
また、一対の突起部30のうち、一方の突起部30と他方の突起部30の大きさが異なっていても良い。さらに、上側フランジ部16には、一対の突起部30に限らず、少なくとも1つの突起部を形成することができる。
【0070】
また、上記実施形態では、上側フランジ部16の接合部J1に回転ピン46が押し付けられるが、回転ピン46は下側フランジ部22の接合部J2に押し付けられても良い。つまり、回転ピン46は、互いに重ね合わされた上側フランジ部16と下側フランジ部22との部位に、上側フランジ部16及び下側フランジ部22の厚み方向一方側から押し付けることができる。なお、下側フランジ部22に回転ピン46が押し付けられる場合には、一対の突起部30及び一対の係合孔32によって下側フランジ部22が回転ピン46の回転に追従することが抑制される。
【0071】
また、上記実施形態に係る点摩擦撹拌接合構造は、ルーフパネル12及びルーフパネルリインフォースメント20に限らず、例えば、フード及び当該フードに接合される部材(例えば、フードリインフォースメント)に適用されても良い。また、上記実施形態に係る点摩擦撹拌接合構造は、フェンダ及び当該フェンダに接合される部材や、ドアパネル(ドアアウタパネル)及び当該ドアパネルに接合される部材にも適宜適用可能である。
【0072】
さらに、上記実施形態に係る点摩擦撹拌接合構造は、アルミニウムや鉄、鋼等の金属製の部材や樹脂製の部材に適宜適用可能である。
【0073】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0074】
10 点摩擦撹拌接合構造
12 ルーフパネル(パネル材)
14 パネル本体部
14S1 端部(パネル本体部の端部)
16 上側フランジ部(フランジ部)
16E 端部(フランジ部の延出方向先端側の端部)
20 ルーフパネルリインフォースメント(パネル材)
30 突起部(回転規制部、第1係合部)
32 係合孔(回転規制部、第2係合部)
46 回転ピン
50 突起部(回転規制部、第1係合部)
52 切欠き部(回転規制部、第2係合部)
60 リブ部(回転規制部、第1係合部)
62 切欠き部(回転規制部、第2係合部)
J1 接合部
J2 接合部
C 中心(接合部の中心)
K 仮想基準線
O 回転軸(回転ピンの回転軸)
V1 仮想傾斜線
V2 仮想傾斜線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9