【解決手段】熔融ガラスの熔解工程は、電極間の熔融ガラスに電流を流してジュール熱を発生させる工程ST11と、電流と電極間にかかる電圧を測定し、電流、電圧の測定値から求められる熔融ガラスの比抵抗に基づいて熔融ガラスの温度を概略温度として算出する工程ST13と、算出した概略温度を補正した補正温度を求める工程ST14と、補正温度に基づいて、熔融ガラスの温度調整を行う工程と、を含むみ、電極間に存在する熔融ガラスの領域を端部領域と中央領域と分けたとき、端部領域に生じる端部領域電圧と中央領域に生じる中央領域電圧とをそれぞれ別に求めST15、それぞれ別に求めた端部領域電圧と中央領域電圧とに基づいて前記補正温度を求めるガラス基板の製造方法。
前記温度調整を行う工程は、前記補正温度と予め設定された目標温度との温度差を求め、前記温度差に基づいて、前記補正温度が前記目標温度となるように前記熔融ガラスの加熱を調整する、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
前記熔融ガラスの温度調整は、前記ジュール熱による加熱及びガスによる燃焼加熱の少なくとも一方の加熱を調整することにより行われる、請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
前記端部領域温度は、算出した前記概略温度と、前記電流の測定値を用いて得られる、前記電流によって生じる前記端部領域の熔融ガラスの温度上昇の情報と、を用いて算出される、請求項4に記載のガラス基板の製造方法。
前記補正温度を求める工程は、前記電圧の測定値から前記端部領域に生じる電圧の値を減算することにより、前記中央領域に生じる電圧の値を求め、前記電流の測定値と前記中央領域に生じる電圧の値から、前記中央領域における比抵抗を求め、前記中央領域における比抵抗から前記中央領域の温度を求めることを含む、請求項4〜7のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
前記端部領域の比抵抗を求めるときに用いる前記端部領域を流れる前記電流の端部領域断面積は、前記中央領域の比抵抗を求めるときに用いる前記中央領域を流れる前記電流の中央領域断面積に比べて小さくする、請求項8に記載のガラス基板の製造方法。
前記補正温度は、前記端部領域と前記中央領域の体積比率により定まる重み付け係数を用いて前記端部領域温度と前記中央領域温度を重み付け平均した値である、請求項4〜9のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
前記電極の対の前記端部領域の前記電流の流れる方向の長さは、前記中央領域の前記電流の流れる方向の長さに比べて短い、請求項1〜10のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について説明する。
本明細書において、熔解槽の内壁とは、熔融ガラスと接する熔解槽の壁であり、内壁には、天井壁、熔解槽中の熔融ガラスを熔解槽の周上で囲む側壁、及び熔融ガラスと鉛直方向上方を向く面で接する熔解槽の底壁を含む。
【0022】
(熔融ガラスの補正温度の算出の概説)
本実施形態のガラス基板の製造方法は、熔解工程における熔融ガラスの温度の算出と算出した温度に基づいて熔融ガラスの加熱を行なう方法を含む。
熔解工程では、少なくとも熔解槽に設けられた一対の電極間に熔融ガラスを配置して熔融ガラスに電流を流してジュール熱を発生させて熔融ガラスを加熱する。このとき、電極間に流れる電流と電極間に生じる電圧を測定し、電流の測定値及び電圧の測定値から求められる熔融ガラスの比抵抗に基づいて熔融ガラスの概略温度を算出する。次に、算出した概略温度を補正した補正温度を求める。この補正温度に基づいて、熔融ガラスの温度を調整する。熔融ガラスの温度の調整は、具体的には、補正温度と予め設定された目標温度との温度差を求め、この温度差に基づいて、補正温度が目標温度となるように熔融ガラスの温度を調整することが好ましい。この熔融ガラスの温度調整には、ジュール熱による加熱及びガスによる燃焼加熱の少なくとも一方の加熱を用い、この少なくとも一方の加熱を調整することにより熔融ガラスの温度調整が行われることが好ましい。なお、目標温度は、ガラス原料の未熔解や脈理の発生を抑制するような温度分布となるように、電極対毎に設定されることが好ましい。
【0023】
この熔解工程において、電極間に存在する熔融ガラスの領域を、電極の端部と接する熔融ガラスを含む端部領域と端部領域に挟まれた中央領域とに分けたとき、熔融ガラスの端部領域の端部領域温度と熔融ガラスの中央領域の中央領域温度は温度差を有する場合がある。この場合、例えば、端部領域に比べて領域の広い中央領域の温度である中央領域温度は、端部領域の端部領域温度に対して温度差を有するが、電極間に生じる電圧の分布において、この温度差に対応した電界の強さ(電圧の勾配)が端部領域及び中央領域に形成されていない場合がある。このため、電極間に生じる電圧と電極間を流れる電流の測定値から求められる熔融ガラスの比抵抗に基づいて算出される上述の概略温度は、例えば端部電極の温度である端部領域温度の寄与が大きく反映する場合がある。この結果、端部領域温度と中央領域温度に温度差があるとき、概略温度は、端部領域に比べて領域の広い中央領域の温度である中央領域温度と乖離してしまう場合がある。例えば、端部領域温度と中央領域温度に大きな温度差がある場合、概略温度と、端部領域に比べて領域の広い中央領域温度の差は大きくなる。このような事実を、発明者は、熔解槽、電極、及び熔融ガラスをモデル化して、熱の伝導シミュレーションと電流の伝導シミュレーションを併用することによって確認した。このため、本実施形態では、予め設定された熔解槽内における熔融ガラスの温度分布を実現し、熔融ガラスの粘度及び流れを実現するために行なう熔融ガラスの温度調整において、この温度調整に用いる熔融ガラスの温度として、熔融ガラスの概略温度を補正した補正温度を採用する。すなわち、算出した概略温度から後述するように、端部領域温度と中央領域温度を求め、この2つの温度を1つに纏めた温度、例えば加重平均を含む平均温度を補正温度として求める。このとき、上述したように、端部領域に生じる電界の強さ(電圧の勾配)は中央領域に比べて高いことから、算出した概略温度から、端部領域に生じる電圧と中央領域に生じる電圧とを別々に求め、求めた2つの電圧に基づいて補正温度を求める。補正温度の求める方法は後述する。
このような補正温度は、端部領域に比べて広い中央領域の温度である中央領域温度の情報を反映しているので、従来の概略温度に比べて熔融ガラスの温度をより精度よく求めることができる。さらに、熔解槽中の熔融ガラスに補正温度に基づいて熔融ガラスの温度調整をするので、熔解工程中の熔融ガラスの温度を従来に比べてより精度よく管理することができる。これにより、ガラス原料の未熔解や脈理の発生を抑制するように予め設定された温度分布を精度よく実現し、予め設定した熔融ガラスの粘度及び流れを精度よく実現することができるので、脈理の発生を抑制することができる。このような熔解工程は、以下に示すガラス基板の製造方法に適用される。
【0024】
(ガラス基板の製造方法)
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。
【0025】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解工程では、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの自由表面に、バケットやスクリューフィーダ等を用いてガラス原料を分散させて投入する。熔解槽には、後述するように熔融ガラスを加熱する加熱装置が設けられる。これにより熔解槽では、ガラス原料を熔解した熔融ガラスが作られる。一方、熔解槽の内壁のうち、ガラス原料の投入口と対向する側壁に設けられた流出口から後工程に向けて熔融ガラスが流出する。これにより、熔解槽に一定の量の熔融ガラスが貯留される。熔解工程における熔融ガラスの最高温度は、ディスプレイ用ガラス基板の場合、例えば、1500℃〜1630℃、より好ましくは1570℃〜1620℃である。
【0026】
ガラス原料の投入方法は、制限されず、ガラス原料を収めたバケットを反転して熔融ガラスにガラス原料を分散投入する方式でもよく、ベルトコンベアあるいはスクリューフィーダを用いてガラス原料を搬送して分散投入する方式でもよく、略全面に一時に投入する方式でもよい。
【0027】
熔解槽の側壁には、互いに対向して対を成した電極が複数対設けられている。対を成した電極間に電流を流して熔融ガラスに電流を流すと、熔融ガラスに電流が流れジュール熱を発生する。このジュール熱を増加させれば熔融ガラスの温度は上昇し、減少させれば熔融ガラスの温度は下降し得る。この熔融ガラスの通電による加熱のほかに、バーナーの火焔による熱を補助的に用いてガラス原料を熔解することもできる。熔解槽中の熔融ガラスの温度調整は、この電極対間に電流を流して熔融ガラスに発生させるジュール熱による加熱、あるいは、上記バーナーによるガスの燃焼加熱を、制御することにより行われる。
【0028】
熔解槽中の熔融ガラスには清澄剤が含有されている。清澄剤として、SnO
2,As
2O
3,Sb
2O
3等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤として酸化錫(例えば、SnO
2)を用いることが好ましい。
【0029】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程では、清澄槽内の熔融ガラスが昇温される。この過程で、清澄剤は、還元反応により酸素を放出し、後に還元剤として作用する物質となる。熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡は、清澄剤の還元反応により生じたO
2を吸収して泡の径は拡大し、気相空間と接する熔融ガラスの表面に浮上して破泡して消滅する。清澄工程は、白金族金属製の容器の内部で行われる。
【0030】
その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させる。この過程で、清澄剤の還元反応により得られた還元剤が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡の径が縮小して消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。後述する実施形態では、酸化錫を清澄剤として用いる。
【0031】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。なお、攪拌槽は1つ設けても、2つ設けてもよい。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0032】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法を用いることができる。後述する本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0033】
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。このガラス基板が最終製品とされる。
【0034】
(ガラス基板製造装置)
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス基板製造装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、を主に有する。
【0035】
図2に示す例の熔解装置101では、ガラス原料の投入がバケット101dを用いて行われる。清澄槽102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。
【0036】
(熔解槽)
図3は、本実施形態で用いる熔解槽101の概略構成を説明する斜視図である。
本実施形態において、ガラス原料は、熔解槽101に蓄えられた熔融ガラスMGの自由表面(以降、単に表面という)101cに投入される。平面視で一方向に長い熔解槽101の長手方向に向く一対の側壁の1つの側壁の、熔融ガラスの表面に比べて底壁に近い部分、好ましくは熔解槽101の底壁近傍の側壁の部分に、流出口104aが設けられている。熔解槽101は、流出口104aから後工程に向けて熔融ガラスMGを流す。
【0037】
熔解槽101は、耐火レンガ等の耐火物により構成された内壁110を有する。熔解槽101は、内壁110で囲まれた内部空間を有する。熔解槽101の内部空間は、熔融ガラスを蓄える貯留槽101aと、上部空間101bとに分けられる。貯留槽101aは、内部空間に投入されたガラス原料が熔解してできた熔融ガラスMGを、加熱しながら収容する。上部空間101bは、熔融ガラスMGの上に形成された気相空間であり、ガラス原料が投入される空間である。
【0038】
熔解槽101の長手方向に平行な上部空間101bと接する内壁110には、燃料と酸素等を混合した燃焼ガスが燃焼して火炎を発するバーナー112が設けられる。バーナー112は火炎によって上部空間101bの耐火物を加熱して内壁110を高温にする。ガラス原料及び熔融ガラスは、高温になった内壁110の輻射熱および高温となった気相の雰囲気によって加熱される。
【0039】
熔解槽101の流出口104aが設けられた内壁110と反対側の内壁110には、上部空間101bに通じる原料投入窓101fが設けられている。コンピュータ118からの指示に従って、この原料投入窓101fを通して、ガラス原料を収めたバケット101dが出入りし、上部空間101bの定められた位置に移動してガラス原料を投入する。
【0040】
熔解槽101内部では、
図2に示されるように、熔融ガラスMGの表面101cの略全面に投入されることが好ましい。すなわち、ガラス原料が常に熔融ガラスMGの表面101cを覆っていることが好ましい。このように、ガラス原料が常時表面101cを覆うようにガラス原料を熔解槽101に投入することにより、熔融ガラスMGの熱が表面101cを通して気相である上部空間101bに放射されないようにすることができる。これにより、例えば、目標となる温度分布の1つである熔融ガラスMGの表面を含む表層の温度差を低減し表層の水平方向の温度分布を平坦化するという温度分布を実現することができる。これによりガラス原料のうち、SiO
2(シリカ)等の熔解性の低い(熔解温度が高い)原料を効率よく熔解させ、SiO
2等の原料の熔け残りを防止することができる。SiO
2等の熔解温度の高い原料は、他の成分、例えばB
2O
3(酸化ホウ素)等の原料と混合された状態では、単独で熔解させた場合の熔解温度よりも低い温度で熔解され得る。このような原料の性質を生かすために、熔融ガラスMGの表面101c上にガラス原料が常に存在して表面101cを覆うように、ガラス原料を間欠的に分散させて投入する。
【0041】
熔解槽101の長手方向に延び、互いに対向する貯留槽101aの側壁である内壁110a,110bに、酸化錫あるいはモリブデン等の耐熱性を有する導電性材料で構成され、互いに対向する一対の電極114が、三対設けられている。本実施形態において、熔解槽101は三対の電極114を備えているが、熔解槽の大きさによっては一対の電極114のみを用いてもよい。複数対の電極114を用いる場合は、二対又は四対以上の電極114を用いてもよい。
【0042】
三対の電極114は、内壁110a,110bのうち、熔融ガラスMGの表層に対して鉛直下方に位置する熔融ガラスMGの下層に対応する領域に設けられている。三対の電極114はいずれも、内壁110a,110bに設けられた貫通孔を貫通するように延びている。
図3において、各対の電極114は、手前側の電極114が図示され、奥側の電極114は図示されていない。各対の電極114は、各対の電極114間に配置された熔融ガラスMGを挟んでお互いに対向するように、内壁110a,110bに設けられている。
【0043】
各対の電極114は、各対の電極114間に配置された熔融ガラスMGに電流を流す。熔融ガラスMGに電流を流すことで、熔融ガラスMGにジュール熱を発生させ、熔融ガラスMGを加熱する。熔解槽101では、熔融ガラスMGは例えば1500℃以上に加熱される。加熱された熔融ガラスMGは、ガラス供給管104を通して清澄槽102へ送られる。
【0044】
図3に示す熔解槽101では、バーナー112が上部空間101bに設けられているが、バーナー112は必須ではない。例えば、1500℃における比抵抗が180Ω・cm以上の、比抵抗が比較的大きい熔融ガラスにおいて、バーナー112を補助的に用いることで、ガラス原料を効率よく熔解させることができる。ガラス原料を連続的に熔解させて熔融ガラスMGを作るときには、バーナー112を用いることなくガラス原料を熔解させることも可能である。
【0045】
各対の電極114は、それぞれ制御ユニット116に接続されている。下層における熔融ガラスMGの温度分布を精度よく制御するために、制御ユニット116は、電極114のそれぞれに供給する電力を、対向する一対の電極114毎に制御できるように構成されている。各対の電極114には、制御ユニット116によって単相の交流電圧が加えられる。
【0046】
制御ユニット116は、さらにコンピュータ118と接続されている。制御ユニット116は、各対の電極114間に生じる電圧と、各対の電極114間を流れる電流を測定する。制御ユニット116は、コンピュータ118に電圧の測定値と電流の測定値を出力する。コンピュータ118は、
図4に示すフローに従って、熔解工程中の熔融ガラスのジュール熱の制御を行なう。
図4は、熔解工程中の熔融ガラスのジュール熱の制御のフローの一例を説明する図である。以下、熔融ガラスMGのジュール熱の制御を
図4に示すフローに沿って説明する。
【0047】
まず、制御ユニット116は、各対の電極114間に生じる電圧と、各対の電極114間を流れる電流を測定し(ST11)、電流及び電圧の測定値をコンピュータ118に送る。
コンピュータ118は、例えば、下記式(1)に基づいて、各対の電極114間の熔融ガラスMGの比抵抗ρ(Ω・m)を算出する(ST12)。
【0049】
式(1)において、Eは各対の電極114間の熔融ガラスMGにかかる電圧(V)、Iは、各対の電極114間を流れる電流(A)、Sは各対の電極114間において電流が流れる熔融ガラスMGの断面積(m
2)、Lは各対の電極114の間の距離(m)である。断面積S及び長さLは、熔解槽101によって定まる固有の値である。
【0050】
図5(a)および(b)は、各対の電極114間において電流が流れる熔融ガラスMGの断面積Sを求める方法を説明する図である。
図5(a),(b)に示すように、各対の電極114は、熔融ガラスMGの両側に配置された内壁110a,110bに、熔融ガラスMGの流れ方向Fを横切るように、互いに対向して配置されている。また、対向する三対の電極114は、熔融ガラスMGの流れ方向Fに互いに間隔W
1をあけて配置されている。ここで、間隔W
1は隣接する電極114の互いに向かい合う端縁間の距離である。流れ方向Fは、熔解槽101における熔融ガラスMGの全体としての上流から下流へ向かう流れの方向を便宜的に示すものであり、内壁110a、110bと平行で原料投入窓101fから流出口104aに向かう方向である。また、流れ方向Fは熔解槽101の長手方向に沿う方向でもある。
【0051】
ここで、対向する一対の電極114間に電流が流れる領域EAは、
図5(a)に示す境界面m及び貯留槽101aの内壁101a,101bを含む内壁で囲まれる四角柱形状の領域である。境界面mは、内壁110a上で隣接する二つの電極114の間の中間点Cと、内壁110b上で隣接する二つの電極114の中間点Cとを通る鉛直方向に平行な面である。したがって、熔融ガラスMGの通電領域EAの断面積Sは、
図5(b)に示すように、領域EAの流れ方向F及び鉛直方向に平行な寸法で定まる面積である。すなわち、断面積Sは、熔解槽101の底壁110eから液面101cまでの高さ(熔融ガラスMGの深さ)Dと、領域EAの幅W
2との積により求められる。コンピュータ118は、上記断面積Sを用いて上記の式(1)により各対の電極114間の熔融ガラスMGの比抵抗ρを求める。
【0052】
一方、熔融ガラスMGの概略温度は、例えば、比抵抗ρの関数として表すことができる。例えば、熔融ガラスMGの比抵抗ρと熔融ガラスMGの概略温度T(℃)とは、下記の式(2)により表される相関関係を有している。
【0053】
T(℃)=a/(log(ρ)+b)−273.15 (2)
【0054】
式(2)において、aおよびbはガラス組成に依存する定数である。定数aおよびbの値は予め実験等により求めておくことができる。上記定数aおよびbの値は、上記の式(2)と共にコンピュータ118に予め保存される。
コンピュータ118は、電圧及び電流の測定値を用いて式(1)に従って求められた比抵抗ρを用いて、式(2)に従って熔融ガラスの概略温度Tを求める(ST13)。
この概略温度Tは、上述したように電極114と接する熔融ガラスMGの端部領域の温度である端部領域温度の寄与が大きく反映されており、端部領域に比べて広い中央領域の温度である中央領域温度から乖離するおそれがある。すなわち、端部領域に比べて広い中央領域の熔融ガラスMGの温度は、概略温度からずれてしまうおそれがある。このため、以下のフローに沿ってコンピュータは、概略温度を補正した補正温度を求める。
【0055】
コンピュータ118は、算出した概略温度を用いて端部領域の熔融ガラスMGの温度である端部領域温度を算出する(ST14)。ここで、端部領域とは、対を成す電極114の間に位置する熔融ガラスMGの領域のうち、電極114と接する熔融ガラスMGを含む領域である。これに対して、対向して対をなす電極114に接するように設けられた端部領域に挟まれた領域を中央領域という。
図6は、電極114の間に位置する熔融ガラスMGの領域の端部領域R1と中央領域R2を説明する図である。ここで、端部領域R1とは、電極114の端部114aと接する熔融ガラスMGを含む領域であって、一方の電極114の端部114aから所定の距離対向する他方の電極114に向かう方向に離れた位置までの領域をいう。ここで、所定の距離は、200mm〜400mmの範囲内の距離である。あるいは、端部領域R1は、電極114の端部114aと接する熔融ガラスを含む領域であって、一方の電極114の端部114aから、対向する他方の電極114間の距離に所定の比率を乗算した距離、他方の電極114の方向に離れた位置までの領域をいう。ここで、所定の比率は、1/11〜1/5の範囲にある値である。ここで、対向して対を成す電極114それぞれに設定される端部領域R1の大きさは同一とすることが好ましい。
なお、対をなす電極114の端部領域R1の電流の流れる方向の長さL1は、中央領域R2の電流の流れる方向の長さL2に比べて短いことが好ましい。このように領域を設定することにより、熔融ガラスMGの補正温度を精度良く算出することができる。
【0056】
端部領域温度の算出では、例えば、電極114のそれぞれが、熔融ガラスMGを蓄える熔解槽101の壁の外側に位置する外側端部114b(
図6参照)を有し、この外側端部114bが、図示されない冷却装置あるいは大気によって熱が奪われて冷却される場合、端部領域温度は、算出した概略温度と、電極114の冷却により生じる電極114の温度低下の情報とを用いて算出されることが好ましい。この場合、電極114の外側端部から奪われる熱量である冷却量と温度低下の情報との対応関係を予め取得しておき、冷却量を見積もることにより、あるいは測定することにより上記対応関係から電極114の温度低下の情報を求め、この温度低下の情報に基づいて、端部領域温度を算出する。例えば、冷却量に所定の定数を掛け算した値を温度低下の情報とし、この温度低下の情報を概略温度から引き算した値を端部領域温度として算出する。このように電極114の冷却量に基づいて端部領域温度を算出するのは、電極114の熔融ガラスMGと接する端部の温度は上記冷却量に応じて低下し、この温度の低下によって熔融ガラスMGの端部領域の温度も低下するからである。これは、電極114の熱伝導率が熔解槽101の他の領域を構成する内壁110a、110bの熱伝導率よりも高いためである。
【0057】
端部領域温度は、算出した概略温度と、電極114間を流れる電流の測定値を用いて得られる、電流によって生じる端部領域の熔融ガラスの局所的な温度上昇の情報と、を用いて算出されることが好ましい。具体的には、電流の測定値に所定の定数を掛け算した値を端部領域の熔融ガラスの局所的な温度上昇の情報とし、この値を概略温度に加算した値を端部領域温度として算出する。電極114を流れる電流が多いほど、端部領域に集中してジュール熱が生じ易く、端部領域における温度が中央領域に比べて局所的に高くなる傾向がある。特に、この傾向は、電流が所定の基準電流値以上で生じる。したがって、端部領域温度を求める場合、電極114間を流れる電流の測定値から基準電流値を引き算した値に、上記定数を掛け算した値を概略温度に加算することにより、端部領域温度を算出することが好ましい。
また、より精度の高い補正温度を取得するために、端部領域温度は、電極114の外側端部が外側から冷却されることにより生じる電極114の温度低下の情報と、電極114間を流れる電流の測定値を用いて得られる、電流によって局所的に生じる、端部領域の熔融ガラスの温度上昇の情報とを組み合わせて、算出することがより好ましい。
【0058】
次に、コンピュータ118は、端部領域R1に生じる電圧及び中央領域R2に生じる電圧を算出する(ST15)。
具体的には、端部電極R1では、電極114に流れる電流と同じ電流量が電流として流れており、しかも、端部領域温度が算出されているので、これらの情報を用いて、コンピュータ118は、端部領域R1に生じる電圧を算出する。端部領域温度の情報から、式(2)を用いて、すなわち、式(2)のTを端部領域温度として端部領域R1の比抵抗ρを算出する。この比抵抗ρ1(Ω・m)と端部領域R1の長さL1(m)と電流の測定値I(A)と、端部領域R1の電流が流れる断面積S1(m
2)を用いて、下記式(3)に従って算出する。下記式(3)中の左辺のE1(V)は、端部領域R1に生じる電圧である。
【0060】
ここで、断面積S1は、ST12で比抵抗ρを算出するときに、式(1)に用いた断面積Sに比べて小さい値を用いることが好ましい。例えば、断面積S1は、断面積Sに1より小さい所定の比率を乗算した値を用いる。例えば、
図5(b)に示す流れ方向Fに沿った一辺の幅W
2と電極114の流れ方向Fに沿った電極114の端部114aの長さを平均した長さと、熔融ガラスの深さ方向に沿った一辺の高さDと電極114の深さ方向に沿った電極114の端部114aの長さを平均した長さとを掛け算した値を用いることが好ましい。このように、断面積S1を断面積Sより小さくするのは、電流が端部領域R1を流れるとき、電流が電極114から熔融ガラスMG中に広がって進み電流の進行方向に沿って電流密度の負の勾配が形成される初期段階、あるいは熔融ガラスMGを電流が流れるとき広がった(断面積の広がった)電流が電極114に向かって集束することで、電流の進行方向に沿って電流密度の正の勾配が形成される最終段階であり、端部領域R1では、中央領域R2に比べて電流の流れる断面積が小さくなるからである。
さらに、コンピュータ118は、中央領域R2に生じる電圧は、電圧の測定値Eから端部領域に生じる電圧の値E1を減算することにより求める。このようにして中央領域R2に生じる電圧を算出できるのは、端部領域R1と中央領域R2と端部領域R1が電極114間で直列結合しているからである。したがって、中央領域R2に生じる電圧は、電極114間の電圧の測定値から端部領域に生じる電圧E1の2倍を減算した値である。
【0061】
さらに、コンピュータ118は、電極114間を流れる電流の測定値と、中央領域R2に生じる電圧の値から中央領域R2における比抵抗を求め、この中央領域R2における比抵抗から中央領域R2の温度、すなわち中央領域温度を算出する(ST16)。具体的には、式(1)を用い、式(1)中のEを中央領域R2に生じる電圧の値とし、Iを電極114間を流れる電流の測定値とし、Lを中央領域R1の長さL2とする。ここで、断面積Sは、ST12で比抵抗ρを算出するために用いた断面積を用いる。中央領域R2では、電流は
図5(a)に示す領域EA全体に広がって流れるからである。すなわち、中央領域R2の比抵抗を求めるときに用いる中央領域R2を流れる電流の中央領域断面積は、端部領域R1の比抵抗を求めるときに用いる端部領域R1を流れる電流の端部領域断面積に比べて大きいことが好ましい。言い換えると、端部領域R1の比抵抗を求めるときに用いる端部領域R1を流れる電流の端部領域断面積は、中央領域のR2比抵抗を求めるときに用いる中央領域R2を流れる電流の中央領域断面積に比べて小さくすることが好ましい。これにより、精度の良い補正温度を算出することができる。
コンピュータ118は、こうして算出された中央領域R2の比抵抗ρから、式(2)に従って、中央領域温度として式(2)の左辺のTを算出する。算出した中央領域温度と端部領域温度は、温度差を有する。
【0062】
コンピュータ118は、さらに、算出した端部領域温度と中央領域温度を用いて補正温度を算出する(ST17)。補正温度は、端部領域温度と中央領域温度とに基づいて求められる値であり、例えば、端部領域温度と中央領域温度とを平均した値である。端部領域温度と中央領域温度の平均した値は、単純平均であってもよいが、好ましくは、体積比率により定まる重み付け係数を用いて端部領域温度と中央領域温度を重み付け平均した値である。このようにして補正温度を算出することで、端部領域R1に生じる熔融ガラスの温度の寄与を小さくして、中央領域R2の熔融ガラスの温度からの乖離を抑えることができる。
なお、重み付け平均に用いる体積比率は、端部領域R1の体積と中央領域R2の体積の比率であって、断面積S1と長さL1を乗算した値の2倍と、断面積S2と長さL2を乗算した値との比率である。例えば体積比率が3対8である場合、補正温度は、端部領域温度と中央領域温度を3対8で重み付け平均した値、すなわち、端部領域温度に重み付け係数3/11を乗算した値と、中央領域温度に重み付け係数8/11を乗算した値を加算した値となる。
【0063】
次に、コンピュータ118は、算出した補正温度に基づいて熔融ガラスの加熱のための制御量を決定する(ST18)。具体的には、熔融ガラスが発生するジュール熱が制御される。すなわち、コンピュータ118は、予め熔解槽101の熔融ガラスMGが所望の熔解状態にあるときの温度を算出しておき、その値を目標値としてコンピュータ118に保存しておく。コンピュータ118は、算出した補正温度と目標温度とを比較し、比較の結果(補正温度と目標温度との差)に基づいて、補正温度が目標温度になるように、制御ユニット116に送るジュール熱の制御量を決定する。
【0064】
算出した補正温度が目標温度よりも高いか又は許容できる範囲よりも高い場合には、コンピュータ118は熔融ガラスに発生させるジュール熱を、所定量、増加させる指示を出す。また、算出した補正温度が目標温度と等しいか又は許容できる範囲内である場合には、コンピュータ118は熔融ガラスに発生させるジュール熱を維持する指示を出す。また、算出した補正温度が目標温度よりも低いか又は許容できる範囲よりも低い場合には、コンピュータ118は熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を、所定量、減少させる指示を出す。
【0065】
さらに、制御ユニット116は、コンピュータ118から送られた制御量の指示に基づいて、ジュール熱の制御を行なう(ST19)。具体的には、制御ユニット116は、熔融ガラスに発生させるジュール熱を減少させる指示を受けた場合には、電極114間の熔融ガラスに流れる電流の値が元の値よりも所定の値だけ小さい一定の値を、目標電流値として設定する。制御ユニット116は、熔融ガラスに発生させるジュール熱を維持する指示を受けた場合には、電極114間の熔融ガラスに流れる電流の値または元の目標値を、目標電流値に設定する。制御ユニット116は、熔融ガラスに発生させるジュール熱を増加させる指示を受けた場合には、電極114間の熔融ガラスに流れる電流の値が元の値よりも所定の値だけ大きい一定の値を、目標電流値として設定する。制御ユニット116は、さらに、熔融ガラスに流れる電流の値を目標電流値に維持するように、電極114間の電圧を制御する。
【0066】
コンピュータ118及び制御ユニット116は、上述したフローによる動作を、熔融ガラスの熔解工程を行なう期間中、継続して行なう。また、上述したフローは、
図3に示す三対の電極114のそれぞれを対象としてジュール熱の制御を行なう。三対の電極114の大きさは、同じ大きさに統一されていなくてもよい。このため、電極114の大きさによって定まる電流の流れる断面積S1は、電極114の対毎に別々に設定されてもよい。
【0067】
このように、本実施形態では、従来と同様の方法で算出した熔融ガラスMGの概略温度から、端部領域R1に生じる電圧と中央領域R2に生じる電圧とを別々に求め、求めた2つの電圧に基づいて補正温度を求める。この補正温度は、端部領域R1に比べて広い中央領域R2の温度である中央領域温度の情報を含んでいるので、従来の概略温度に比べて熔融ガラスMGの温度をより精度よく求めることができる。さらに、熔解槽中の熔融ガラスMGに補正温度に基づいて制御したジュール熱を与えるので、熔解工程中の熔融ガラスMGの温度を従来に比べてより精度よく管理することができる。
【0068】
本実施形態の熔解槽101における熔融ガラスMGの温度調整は、熔融ガラスMGを通電加熱して発生するジュール熱を用いた加熱によるが、この加熱に代えて、あるいは、この加熱とともに、バーナー等を用いたガスによる燃焼加熱で調整することも好ましい。
また、本実施形態では、電極114間に位置する熔融ガラスMGの領域を2つの端部領域R1と1つの中央領域R2に分けてそれぞれの領域に生じる電圧を用いて補正温度を算出したが、端部領域R1を電極114の端部114aからの距離に応じて複数を設けてもよいし、中央領域R2を電極114の端部114aからの距離に応じて複数設けてもよい。この場合、複数の端部領域では、端部領域温度をST14と同様の方法により算出してもよい。この場合、電流の測定値を用いて得られる、電流によって生じる端部領域の熔融ガラスの温度上昇の情報は、電極114の端部114aからの距離に応じて変化させる(端部114aから遠くほど温度上昇の程度を低くする)ことが好ましい。また、電極114の冷却により生じる電極114の温度低下の情報は、電極114の端部114aからの距離に応じて変化させる(端部114aから遠くなるほど温度低下の程度を低くする)ことが好ましい。また、複数の端部領域では、電極114の端部114aからの距離に応じて比抵抗ρを算出するときの断面積Sを、電流の流れ方向の電流密度が緩和する程度に応じて変化させてもよい。電流密度が緩和する程度とは、電極114から電流が熔融ガラスMGに向かって流れはじめるとき、電流の流れ方向に沿って電流の流れる断面が熔解槽101の長手方向に徐々に広がることにより電流密度が変化するが、そのときの電流の流れ方向における電流密度の変化の程度をいう。
また、複数の中央領域では、複数の端部領域に生じる電圧の合計値を電圧の測定値から引き算した電圧の値を、電極114の端部114aからの距離に応じて予め定めた分布で各領域に生じる電圧に振り分けてもよい。また、複数の中央領域では、電極114の端部114aからの距離に応じて比抵抗ρを用いるときの断面積Sを、電流密度の緩和の程度に応じて変化させてもよい。
【0069】
このような熔融ガラスMGの補正温度に基づいた温度調整は、ガラス原料の未熔解や脈理の発生を抑制するように予め設定された温度分布を精度よく実現し、予め設定した熔融ガラスMGの流れを精度よく形成する上で有効である。
図7は、予め設定される熔解槽内部の熔融ガラスMGの温度分布及び熔融ガラスMGの流れの例を説明するための模式的な断面図である。なお、予め設定される温度分布及び熔融ガラスMGの流れは、熔解槽101の構成、製造するガラス基板の組成及びガラス原料等の情報を用いたコンピュータシミュレーションにより決定することができ、
図7に示す熔融ガラスMGの流れに限定されない。
【0070】
図7で示す例では、熔融ガラスを流出口104aから後工程に向けて流すとき、下層の熔融ガラスMGにおいて、
図3における熔解槽104aの長手方向に沿った温度分布に起因する対流が生じないようにする。すなわち、下層の熔融ガラスMGの長手方向に沿った温度差が生じることを抑制するように、熔融ガラスMGを加熱する。具体的には、熔解槽101の長手方向の両端部において熔融ガラスMGを加熱するための熱量を、熔解槽101の長手方向の中央部において熔融ガラスMGを加熱するための熱量よりも多くするように調整する。
【0071】
熔解槽101の長手方向において、両端部の熔融ガラスMGの加熱量を中央部のそれよりも多くするのは、長手方向に向いてお互いに対向する側壁から外部に熱が放出され易いためである。このような加熱量の調整を行わないと、上記両端部における熔融ガラスMGの温度は中央部に比べて低くなる傾向がある。このため、三対の電極114に供給する電力は、熔解槽101の長手方向の中央部の電極114に比べて、熔解槽101の長手方向の両端部に近い電極114の方が多くなるように設定することが好ましい。これは、熔解槽に4対以上の電極114が設けられている場合も同様である。
【0072】
上述したように、本実施形態では、
図3に示す各領域EAの熔融ガラスMGの比抵抗ρに基づいて、各領域EAの熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を制御する。そのため、各領域EAにおいて外部に放出される熱量が異なる場合であっても、熔融ガラスの補正温度が目標温度を維持するように、各領域EAの熔融ガラスMGに発生させるジュール熱の量が制御される。
【0073】
このような熔解工程における熔融ガラスの温度調整では、ガラス組成のムラの発生を抑制するように、熔解槽の熔融ガラスの温度を精度よく管理するが、特に、熔解しにくく、ガラス粘度が高い無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスを用いる場合に、本実施形態の効果、すなわち、熔解槽中の熔融ガラスに与えるジュール熱の制御をより精度良く行える。無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスでは、ガラス組成のムラができないようにアルカリガラスに比べて熔融ガラスの温度を高くすることが必要である。この場合、端部領域R1の温度と中央領域R2の温度との温度差が顕著に広がり、概略温度と中央領域R2の温度の乖離が顕著になる。したがって、概略温度を補正した補正温度を算出し、この補正温度に基づいて熔融ガラスの温度調整をする本実施形態では、熔融ガラスに与えるジュール熱の制御をより精度良く行える。
【0074】
したがって、本実施形態では、酸化錫を含む無アルカリガラス、又は、酸化錫を含む微アルカリガラスのガラス基板であると、本実施形態の効果は顕著となる。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ金属酸化物(Li
2O、K
2O、及びNa
2O)を実質的に含有しないガラスである。また、アルカリ微量含有ガラスとは、アルカリ金属酸化物の含有量(Li
2O、K
2O、及びNa
2Oの合量)が0超0.8モル%以下のガラスである。
【0075】
(ガラス組成)
本実施形態で製造されるディスプレイ用ガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。したがって、以下のガラス組成をガラス基板が有するようにガラス原料は調合される。本実施形態で製造されるガラス基板は、例えば、SiO
2 55〜75モル%、Al
2O
3 5〜20モル%、B
2O
3 0〜15モル%、RO 5〜20モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)、 R’
2O 0〜0.4モル%(R’はLi
2O、K
2O、及びNa
2Oの合量)、SnO
2 0.01〜0.4モル%、含有する。
このとき、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、及びRO(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaのうち前記ガラス基板に含有される全元素)の少なくともいずれかを含み、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であってもよい。モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であるガラスは、高温粘性の高いガラスの一例である。上述したように、高温粘性の高いガラスは、ガラス原料の熔解がしがたく、脈理等の問題が発生しやすい。そのため、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)が4.0以上であるガラスの製造において、脈理等の発生を抑制できる本実施形態は有効である。高温粘性とは、熔融ガラスが高温になるときのガラスの粘性を示し、ここでいう高温とは、例えば、1300℃以上を示す。
【0076】
本実施形態で用いる熔融ガラスは、粘度が10
2.5ポアズであるときの温度は1500〜1700℃であるガラス組成であってもよい。このように、高温粘性の高いガラスは、一般的に熔解工程における熔融ガラスの温度を高くする必要があるので、本実施形態の上記効果は顕著になる。粘度が10
2.5ポアズであるときの温度は、熔解温度の指標となる。
【0077】
本実施形態で用いる熔融ガラスの歪点は650℃以上であってもよく、660℃以上であることがより好ましく、690℃以上であることがさらに好ましく、730℃以上が特に好ましい。また、歪点が高いガラスは、粘度が10
2.5ポアズにおける熔融ガラスの温度が高くなる傾向にある。つまり、歪点が高いガラス基板を製造する場合ほど、本実施形態の上記効果は顕著になる。また、歪点が高いガラスほど、酸化物半導体ディスプレイ及びLTPS(Low-Temperature Poly Silicon)ディスプレイに代表される高精細ディスプレイに使用されるため、脈理等の問題に対する要求が厳しい。そのため、高歪点のガラス基板ほど、脈理等の発生を抑制できる本実施形態が好適となる。
【0078】
また、酸化錫を含み、粘度が10
2.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度が1500℃以上となるガラスになるようにガラス原料を熔解した場合、本実施形態の上記効果は顕著になり、粘度が10
2.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度は、例えば1500℃〜1700℃であり、1550℃〜1650℃であってもよい。
【0079】
(ガラス基板の適用)
ガラス基板に脈理、未熔解物、未熔解物に起因する泡が存在すると、形成画面の表示欠陥を引き起こすという問題がある。そのため、本実施形態は、画面の表示欠陥に対する要求の厳しいディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。特に、本実施形態は、画面の表示欠陥に対する要求がさらに厳しい、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板等の高精細ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
以上のことから、本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板及び曲面ディスプレイ用ガラス基板を含むディスプレイ用ガラス基板に好適である。IGZO等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、有機ELディスプレイ用ガラス基板にも好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法は、ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【0080】
上述したようなディスプレイ用ガラス基板はガラス基板表面の微細な凹凸に対する要求が厳しいため、微細な凹凸の原因となる脈理が少ないことが求められる。ディスプレイ用ガラス基板では、脈理の発生を抑制することで、表面粗さのピーク高さを抑制することができる。表面粗さ測定機により測定したピーク高さは、0〜0.008μmであることが好ましく、0〜0.006μmであることがより好ましい。
【0081】
(実験例)
本実施形態の効果を確認するために、熔解工程中の熔融ガラスのジュール熱を補正温度に基づいて制御した方法(実施例)と、熔解工程中の熔融ガラスのジュール熱を概略温度に基づいて制御した方法(比較例)とを用いて熔融ガラスを作製してガラス基板を作製した。作製したガラス基板において、ガラス組成のムラに起因した脈理の発生頻度を調べた。ガラス基板のサイズは2270mm×2000mmであり、厚さは0.5mmであり、100枚のガラス基板を作製した。脈理の検査は、ガラス基板の表面の表面粗さを測定することにより行った。この測定には、東京精密社製の表面粗さ測定機(サーフコム1400−D)を用い、ピーク高さを測定した。
上記検査の結果、補正温度に基づいてジュール熱を制御した実施例では、100枚のガラス基板のピーク高さの平均が0.006μmであった。一方、概略温度に基づいてジュール熱を制御した比較例では、100枚のガラス基板のピーク高さの平均が0.01μmであった。つまり、比較例と比較して実施例では、脈理の発生を抑制できていることがわかる。
これより、本実施形態の効果は明らかである。
【0082】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。