【解決手段】熔融ガラスの熔解工程は、複数の電極対間に存在する熔融ガラスに電流を流してジュール熱を発生させる工程と、電極間に流れる電流と電極間にかかる電圧を電極対毎に測定し、その測定値から電極間の比抵抗を電極対毎に算出する工程と、算出した電極間の比抵抗に基づいて、電極対毎に前記熔融ガラスの温度調整を行う工程と、を含む。前記電極間の比抵抗を算出する工程では、電極対間の熔融ガラスの端部領域の比抵抗と中央領域の比抵抗とを別々に求め、この2つの比抵抗を用いて電極対間の熔融ガラスの比抵抗を算出する。前記中央領域の比抵抗を算出するとき、前記中央領域を流れる電流の電流密度の電極対間の差が緩和する程度に基づいて、前記中央領域を流れる電流の補正電流値を電極対毎に求め、この補正電流値を用いて前記中央領域の比抵抗を求める。
前記温度調整を行う工程は、電極対毎に算出した前記電極間の比抵抗と予め電極対毎に設定した目標比抵抗との差を求め、前記差に基づいて、前記電極間の比抵抗が前記目標比抵抗となるように前記熔融ガラスの温度調整を行う、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
前記熔融ガラスの温度調整は、前記ジュール熱による加熱及びガスによる燃焼加熱の少なくとも一方の加熱を調整することにより行われる、請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
前記電極対における前記中央領域を流れる補正電流値は、前記電極対の電流の測定値と、少なくとも前記電極対に隣接する電極対の電流の測定値とに基づいて算出される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
前記中央領域には、前記複数の電極対の前記電流の測定値の大小によらず同じ電流密度で電流が流れるとして、前記中央領域に生じる電圧と前記端部領域に生じる電圧を求めることにより、前記端部領域及び前記中央領域の比抵抗を算出する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
前記端部領域の比抵抗を求めるときに用いる前記電流の流れる端部領域断面積は、前記中央領域の比抵抗を求めるときに用いる前記電流の流れる中央領域断面積に比べて小さい、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について説明する。
本明細書において、熔解槽の内壁とは、熔融ガラスと接する熔解槽の壁であり、内壁には、天井壁、熔解槽中の熔融ガラスを熔解槽の周上で囲む側壁、及び熔融ガラスと鉛直方向上方を向く面で接する熔解槽の底壁を含む。
【0021】
(熔融ガラスの補正温度の算出の概説)
本実施形態のガラス基板の製造方法は、熔解工程における熔融ガラスの比抵抗の算出と算出した比抵抗に基づいて熔融ガラスの温度調整を行なう方法を含む。
熔解工程では、複数設けられた電極対の間に存在する熔融ガラスに電流を流してジュール熱を発生させ熔融ガラスを加熱する。このとき、電極間に流れる電流と電極間に生じる電圧を電極対毎に測定し、電流の測定値及び電圧の測定値から求められる電極間に位置する熔融ガラスの比抵抗(以降、この比抵抗を電極間比抵抗という)を電極対毎に算出する。算出した電極間比抵抗に基づいて、熔融ガラスの温度調整を行う。熔融ガラスの温度調整では、算出した電極対毎の電極間比抵抗と予め設定された目標比抵抗との差を求め、この差に基づいて、電極間比抵抗が目標比抵抗となるように熔融ガラスの温度を調整すことが好ましい。あるいは、算出した電極間比抵抗に基づいて求めた熔融ガラスの温度と予め設定された目標温度との差を求め、この温度差に基づいて、電極対毎に求めた熔融ガラスの温度が目標温度となるように熔融ガラスの温度を調整することも好ましい。この熔融ガラスの温度調整は、ジュール熱による加熱及びガスによる燃焼加熱の少なくとも一方の加熱を調整することにより行われることが好ましい。なお、目標比抵抗又は目標温度は、ガラス原料の未熔解や脈理の発生を抑制するような温度分布となるように、電極対毎に設定されることが好ましい。
【0022】
この熔解工程において、電極間に存在する熔融ガラスの領域を、電極の端部と接する熔融ガラスを含む端部領域と端部領域に挟まれた中央領域とに分け、電極対毎にそれぞれ別に端部領域の比抵抗と中央領域の比抵抗とを求める。ここで、複数の電極対の電極間に位置する熔融ガラスの端部領域及び中央領域を、電極対の端部領域及び電極対の中央領域という。ここで求めた端部領域の比抵抗と中央領域の比抵抗とを用いて電極間比抵抗を電極対毎に算出する。中央領域の比抵抗を算出するとき、電極対毎の中央領域を流れる電流の電流密度の電極対間の差が緩和する程度に基づいて、中央領域を流れる電流の補正電流値を電極対毎に求め、この補正電流値を用いて中央領域の比抵抗を電極対毎に求める。各電極対の端部領域を流れる電流の電流値は、各電極対の電極間を流れる電流の電流値、すなわち各電極対の電流の測定値に一致するとしてもよい。しかし、各電極対の中央領域を流れる電流の電流値は、各電極対の電極間を流れる電流の電流値、すなわち各電極対の電流の測定値に一致しない場合がある。この理由は、各電極対の中央領域を流れる電流には、少なくとも隣接する電極対を流れる電流の一部が流入するからである。また、各電極対の電極を流れる電流の一部は、少なくとも隣接する電極対を流れる電流に流出するからである。言い換えると、電極対毎に電流密度の差があったとしても、中央領域ではこの電流密度の差が緩和されるためである。この結果、例えば、各電極対の中央領域を流れる電流の電流密度は、各電極対の電流の測定値の大小によらず同じ電流密度の電流となる場合がある。すなわち、各電極対の中央領域を流れる電流の電流値は、各電極対の電流の測定値が互いに異なっていても、全電極対の電流の測定値の平均値となる場合がある。このため、中央領域の比抵抗を求めるとき、各電極対の中央領域における電流密度の差の緩和の程度に基づいて、中央領域を流れる電流の補正電流値を電極対毎に求める。
このように、本実施形態では、熔融ガラスの温度を調整するために用いる電極対毎の電極間比抵抗は、端部領域の比抵抗と中央領域の比抵抗を用いて算出される。中央領域の比抵抗を算出するとき、中央領域における電流密度の差の緩和の程度に基づいて中央領域を流れる電流の値、すなわち補正電流値を算出し、この補正電流値を用いて中央領域の比抵抗を算出する。このため、従来のように、電流密度の電極対間の差が緩和する程度を考慮せず、電流の測定値と電圧の測定値とから算出した熔融ガラスの比抵抗に基づいて熔融ガラス温度を調整する場合に比べて、より精度よく熔融ガラスの温度を管理することができる。これにより、ガラス原料の未熔解や脈理が発生しないように予め設定された温度分布を精度よく実現し、予め設定した熔融ガラスの温度及び流れを精度よく実現することができるので、脈理の発生を抑制することができる。このような溶解工程は、以下に示すガラス基板の製造方法に適用される。
【0023】
(ガラス基板の製造方法)
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。
【0024】
熔解工程(ST1)は熔解槽で行われる。熔解工程では、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの自由表面に、バケットやスクリューフィーダ等を用いてガラス原料を分散させて投入する。熔解槽には、後述するように熔融ガラスを加熱する加熱装置が設けられる。これにより熔解槽では、ガラス原料を熔解した熔融ガラスが作られる。一方、熔解槽の内壁のうち、ガラス原料の投入口と対向する側壁に設けられた流出口から後工程に向けて熔融ガラスが流出する。これにより、熔解槽に一定の量の熔融ガラスが貯留される。熔解工程における熔融ガラスの最高温度は、ディスプレイ用ガラス基板の場合、例えば、1500℃〜1630℃、より好ましくは1570℃〜1620℃である。
【0025】
ガラス原料の投入方法は、制限されず、ガラス原料を収めたバケットを反転して熔融ガラスにガラス原料を分散投入する方式でもよく、ベルトコンベアあるいはスクリューフィーダを用いてガラス原料を搬送して分散投入する方式でもよく、略全面に一時に投入する方式でもよい。
【0026】
熔解槽の側壁には、互いに対向して対を成した電極が複数対設けられている。対を成した電極間に電流を流して熔融ガラスに電流を流すと、熔融ガラスに電流が流れジュール熱を発生する。このジュール熱を増加させれば熔融ガラスの温度は上昇し、減少させれば熔融ガラスの温度は下降し得る。この熔融ガラスの通電による加熱のほかに、バーナーの火焔による熱を補助的に用いてガラス原料を熔解することもできる。熔解槽中の熔融ガラスの温度調整は、この電極対間に電流を流して熔融ガラスに発生させるジュール熱による加熱、あるいは、上記バーナーによるガスの燃焼加熱を、制御することにより行われる。
【0027】
熔解槽中の熔融ガラスには清澄剤が含有されている。清澄剤として、SnO
2,As
2O
3,Sb
2O
3等が知られているが、特に制限されない。しかし、環境負荷低減の点から、清澄剤として酸化錫(例えば、SnO
2)を用いることが好ましい。
【0028】
清澄工程(ST2)は、少なくとも清澄槽において行われる。清澄工程では、清澄槽内の熔融ガラスが昇温される。この過程で、清澄剤は、還元反応により酸素を放出し、後に還元剤として作用する物質となる。熔融ガラス中に含まれるO
2、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡は、清澄剤の還元反応により生じたO
2を吸収して泡の径は拡大し、気相空間と接する熔融ガラスの表面に浮上して破泡して消滅する。清澄工程は、白金族金属製の容器の内部で行われる。
【0029】
その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させる。この過程で、清澄剤の還元反応により得られた還元剤が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中のO
2等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡の径が縮小して消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。後述する実施形態では、酸化錫を清澄剤として用いる。
【0030】
均質化工程(ST3)では、清澄槽から延びる配管を通って供給された攪拌槽内の熔融ガラスを、スターラを用いて攪拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。なお、攪拌槽は1つ設けても、2つ設けてもよい。
供給工程(ST4)では、攪拌槽から延びる配管を通して熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0031】
成形装置では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形は、オーバーフローダウンドロー法あるいはフロート法を用いることができる。後述する本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
【0032】
切断工程(ST7)では、切断装置において、成形装置から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス板を得る。切断されたガラス板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。このガラス基板が最終製品とされる。
【0033】
(ガラス基板の製造装置)
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST7)を行うガラス基板の製造装置の一例を模式的に示す図である。当該装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄槽102と、攪拌槽103と、ガラス供給管104,105,106と、を主に有する。
【0034】
図2に示す例の熔解装置101では、ガラス原料の投入がバケット101dを用いて行われる。清澄槽102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスMGの清澄が行われる。さらに、攪拌槽103では、スターラ103aによって熔融ガラスMGが攪拌されて均質化される。成形装置200では、成形体210を用いたオーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスMGからシートガラスSGが成形される。
【0035】
(熔解槽)
図3は、本実施形態で用いる熔解槽101の概略構成を説明する斜視図である。
本実施形態において、ガラス原料は、熔解槽101に蓄えられた熔融ガラスMGの自由表面(以降、単に表面という)101cに投入される。平面視で一方向に長い熔解槽101の長手方向に向く一対の側壁の1つの側壁の、熔融ガラスの表面に比べて底壁に近い部分、好ましくは熔解槽101の底壁近傍の側壁の部分に、流出口104aが設けられている。熔解槽101は、流出口104aから後工程に向けて熔融ガラスMGを流す。
【0036】
熔解槽101は、耐火レンガ等の耐火物により構成された内壁110を有する。熔解槽101は、内壁110で囲まれた内部空間を有する。熔解槽101の内部空間は、熔融ガラスを蓄える貯留槽101aと、上部空間101bとに分けられる。貯留槽101aは、内部空間に投入されたガラス原料が熔解してできた熔融ガラスMGを、加熱しながら収容する。上部空間101bは、熔融ガラスMGの上に形成された気相空間であり、ガラス原料が投入される空間である。
【0037】
熔解槽101の長手方向に平行な上部空間101bと接する内壁110には、燃料と酸素等を混合した燃焼ガスが燃焼して火炎を発するバーナー112が設けられる。バーナー112は火炎によって上部空間101bの耐火物を加熱して内壁110を高温にする。ガラス原料及び熔融ガラスは、高温になった内壁110の輻射熱および高温となった気相の雰囲気によって加熱される。
【0038】
熔解槽101の流出口104aが設けられた内壁110と反対側の内壁110には、上部空間101bに通じる原料投入窓101fが設けられている。コンピュータ118からの指示に従って、この原料投入窓101fを通して、ガラス原料を収めたバケット101dが出入りし、上部空間101bの定められた位置に移動してガラス原料を投入する。
【0039】
熔解槽101内部では、
図2に示されるように、熔融ガラスMGの表面101cの略全面に投入されることが好ましい。すなわち、ガラス原料が常に熔融ガラスMGの表面101cを覆っていることが好ましい。このように、ガラス原料が常時表面101cを覆うようにガラス原料を熔解槽101に投入することにより、熔融ガラスMGの熱が表面101cを通して気相である上部空間101bに放射されないようにすることができる。これにより、例えば、目標となる温度分布の1つである熔融ガラスMGの表面を含む表層の温度差を低減し表層の水平方向の温度差を小さくするという温度分布を実現することができる。これにより、ガラス原料のうち、SiO
2(シリカ)等の熔解性の低い(熔解温度が高い)原料を効率よく熔解させ、SiO
2等の原料の熔け残りを防止することができる。SiO
2等の熔解温度の高い原料は、他の成分、例えばB
2O
3(酸化ホウ素)等の原料と混合された状態では、単独で熔解させた場合の熔解温度よりも低い温度で熔解され得る。このような原料の性質を生かすために、熔融ガラスMGの表面101c上にガラス原料が常に存在して表面101cを覆うように、ガラス原料を間欠的に分散させて投入する。
【0040】
熔解槽101の長手方向に延び、互いに対向する貯留槽101aの側壁である内壁110a,110bに、酸化錫あるいはモリブデン等の耐熱性を有する導電性材料で構成され、互いに対向する一対の電極114が、三対設けられている。本実施形態において、熔解槽101は三対の電極114を備えているが、熔解槽の大きさによっては一対の電極114のみを用いてもよい。複数対の電極114を用いる場合は、二対又は四対以上の電極114を用いてもよい。
【0041】
三対の電極114は、内壁110a,110bのうち、熔融ガラスMGの表層に対して鉛直下方に位置する熔融ガラスMGの下層に対応する領域に設けられている。三対の電極114はいずれも、内壁110a,110bに設けられた貫通孔を貫通するように延びている。
図3において、各対の電極114は、手前側の電極114が図示され、奥側の電極114は図示されていない。各対の電極114は、各対の電極114間に配置された熔融ガラスMGを挟んでお互いに対向するように、内側壁110a,110bに設けられている。
【0042】
各対の電極114は、各対の電極114間に配置された熔融ガラスMGに電流を流す。熔融ガラスMGに電流を流すことで、熔融ガラスMGにジュール熱を発生させ、熔融ガラスMGを加熱する。熔解槽101では、熔融ガラスMGは例えば1500℃以上に加熱される。加熱された熔融ガラスMGは、ガラス供給管104を通して清澄槽102へ送られる。
【0043】
図3に示す熔解槽101では、バーナー112が上部空間101bに設けられているが、バーナー112は必須ではない。例えば、1500℃における比抵抗が180Ω・cm以上の、比抵抗が比較的大きい熔融ガラスにおいて、バーナー112を補助的に用いることで、ガラス原料を効率よく熔解させることができる。ガラス原料を連続的に熔解させて熔融ガラスMGを作るときには、バーナー112を用いることなくガラス原料を熔解させることも可能である。
【0044】
各対の電極114は、それぞれ制御ユニット116に接続されている。下層における熔融ガラスMGの温度分布を精度よく制御するために、制御ユニット116は、電極114のそれぞれに供給する電力を、対向する一対の電極114毎に制御できるように構成されている。各対の電極114には、制御ユニット116によって単相の交流電圧が加えられる。
【0045】
制御ユニット116は、さらにコンピュータ118と接続されている。制御ユニット116は、各対の電極114間に生じる電圧と、各対の電極114間を流れる電流を測定する。制御ユニット116は、コンピュータ118に電圧の測定値と電流の測定値を出力する。コンピュータ118は、
図4に示すフローに従って、熔解工程中の熔融ガラスのジュール熱の制御を行なう。
図4は、熔解工程中の熔融ガラスのジュール熱の制御のフローの一例を説明する図である。以下、熔融ガラスMGのジュール熱の制御を
図4に示すフローに沿って説明する。
【0046】
まず、制御ユニット116は、各電極対の電極114間に生じる電圧と、各電極対の電極114間を流れる電流を電極対毎に測定し(ST11)、電流及び電圧の測定値をコンピュータ118に送る。
コンピュータ118は、電極114間に存在する熔融ガラスMGの領域を、電極114と接する熔融ガラスMGを含む端部領域と端部領域に挟まれた中央領域とに少なくとも分け、端部領域を流れる電流の電流値を設定するとともに、中央領域を流れる電流の電流値を算出する(ST12)。中央領域を流れる電流の電流値は、端部領域を流れる電流の電流値とは異なるので、以降、補正電流値と区別して説明する。
図5は、電極114間に位置する熔融ガラスMGの領域の端部領域と中央領域を説明する図である。
図5に示すように、端部領域R1は、電極114の端部114aと接する熔融ガラスMGを含む領域であって、一方の電極114の端部114aから所定の距離対向する他方の電極114に向かう方向に離れた位置までの熔融ガラスMGの領域をいう。ここで、所定の距離は、200mm〜400mmの範囲内の距離である。あるいは、端部領域R1は、電極114の端部114aと接する熔融ガラスを含む領域であって、一方の電極114の端部114aから、対向する他方の電極114間の距離に所定の比率を乗算した距離、他方の電極114の方向に向かう方向に離れた位置までの熔融ガラスMGの領域をいう。ここで、所定の比率は、1/11〜1/5の範囲にある値である。ここで、対向して電極対を成す電極114それぞれに設定される端部領域R1の長さは同一とすることが好ましい。
なお、
図5に示すように、端部領域R1の電流の流れる方向の長さL1は、中央領域R2の電流の流れる方向の長さL2に比べて短いことが好ましい。このように領域を設定することにより、熔融ガラスMGの比抵抗を精度良く算出することができる。
【0047】
ここで、端部領域R1を流れる電流の電流値は、電極114間を流れる電流の電流値、すなわち電流の測定値に設定してもよい。端部領域R1は、電極114の端部114aの近傍に位置するので、電流密度の緩和は小さく、電流が隣接する電極対の端部領域に流出しがたく、隣接する電極対の電極間を流れる電流の一部が流入することも生じにくいためである。ここで、電流密度の緩和とは、電流の流れ方向に沿って電流の流れる断面が熔解槽101の長手方向に徐々に広がることにより電流密度が変化するが、そのときの電流の流れ方向における電流密度の変化の程度をいう。
これに対して、中央領域R2は、電極114の端部114aから離れた位置にあるので、電極対間の電流密度の差は大きく緩和し、すなわち、電流密度の差は小さくなり、電流が隣接する電極対の端部領域に流出しやすく、また、隣接する電極対の電極間を流れる電流の一部が流入しやすい。
図6(a)は、電極対間の電流密度の差の緩和を説明する図である。
図6(a)に示すように、熔融ガラスMG中の電流は、電極114から離れるにつれて電流の流れる断面積を広げるように流れる。そして中央領域R2では略熔融ガラスMGの領域全体に電流は広がる。この場合、各電極対の電極114間を流れる電流の一部が、それ以外の他の電極対の中央領域R2に流出し、他の電極対の電極114間を流れる電流のうちの一部の電流が流入する。このため、各電極対の中央領域R2の比抵抗を算出するために用いる中央領域R2を流れる電流の電流値は、上述した電流密度の差の緩和の程度に基づいて算出される。ここで、緩和の程度は、各電極対の電極114間を流れる電流の流れる断面が広がって、この電流のうちどの程度の割合の電流が、それ以外の電極対の中央領域R2に流出するか、を示す情報である。電流密度の差の緩和の程度は、少なくとも隣接する電極対の電極114間を流れる電流によって変化し、場合によっては、全ての電極対の電極114間を流れる電流によって変化する。したがって、このような電流密度の差の緩和の程度は、コンピュータシミュレーションを利用して予め求めることが好ましい。コンピュータシミュレーションは、熔解槽中に貯留された熔融ガラスMGと複数の電極対の電極114をモデル化して電流の流れのシミュレーションである。この場合、コンピュータシミュレーションにより、各電極対の電極114間を流れる電流の電流値と、各電極対の中央領域R2を流れる電流密度の差の緩和の程度との対応関係を求めておくことが好ましい。この場合、コンピュータ118は、この対応関係を事前に記憶しておく。コンピュータ118は、各電極対の電流の測定値から、記憶した対応関係を用いて、各電極対の中央領域R2の電流密度の差の緩和の程度を求めることが好ましい。したがって、この場合、コンピュータ118は、各電極対の電流密度の差の緩和の程度の情報から、注目する電極対の電極114間を流れる電流のうちどの程度の割合の電流が、それ以外の他の電極対の中央領域R2に流出し、他の電極対の電極114間を流れる電流のうちどの程度の割合の電流が、注目する電極対の中央領域R2に流入するか、の情報を得ることができる。したがって、各電極対の中央領域R2を流れる電流の電流値、すなわち補正電流値は、電極114間を流れる電流の電流値、すなわち電流の測定値から他の電極対の電極114の中央領域R2に流出する電流の電流値を引き算し、さらに、他の電極対の電極114間を流れる電流の一部が流入する電流の電流値を加算することにより、算出される。
【0048】
コンピュータ118は、各電極対の中央領域R2を流れる補正電流値を、各電極対の電極114間を流れる電流の測定値と、少なくとも隣接する電極対の電極114間を流れる電流の測定値とに基づいて算出することが好ましい。すなわち、コンピュータ118は、予め、各電極対の電極114間を流れる電流の測定値に基づいて、各電極対の中央領域R2に流れる電流の補正電流値を算出することが好ましい。例えば、各電極対の中央領域R2を流れる電流の補正電流値は、各電極対の電極114間を流れる電流の測定値の単純平均値あるいは重み付け平均した加重平均値として算出することが好ましい。この場合、重み付け平均に用いる重み付け係数が電流密度の差の緩和の程度を表す情報になる。このような重み付け係数は、各電極対の電極114間を流れる電流の測定値の組み合わせ毎に事前に求めて記憶しておき、各電極対の電極114間を流れる電流の測定値に基づいて重み付け係数を決定して、電極対毎に補正電流値を算出してもよい。
また、各電極対の中央領域R2には、各電極対の電極114間を流れる電流の測定値の大小によらず同じ電流密度で電流が流れるとして補正電流を求めてもよい。この場合、電極114の大きさが同じ大きさに揃っており、後述する中央領域R2における電流の流れる領域の断面積が同じである場合、各電極対の中央領域R2を流れる電流の電流値は同じであり、各対の電流の測定値の単純平均値となる。そして、後述するように、中央領域R2に生じる電圧と端部領域R1に生じる電圧を求めることにより、端部領域R1及び中央領域R2の比抵抗を算出することが好ましい。
いずれの場合であっても、各電極対の中央領域R2の補正電流値の合計は、各電極対の電極114間を流れる電流の測定値の合計に一致する。
【0049】
次に、コンピュータ118は、各電極対の端部領域R1に生じる電圧の電圧値及び中央領域R2に生じる電圧の電圧値を別々に算出する(ST13)。
ここで、各電極対の端部領域R1と中央領域R2は直列結合しているので、コンピュータ118は、各電極対の端部領域R1に生じる電圧の電圧値を各電極対の電極114間の電圧の測定値に所定の比率を乗算した値として算出してもよい。ここで、所定の比率は、端部領域R1の長さL1の2倍と端部領域R1を流れる電流の電流値の積と、中央領域R2の長さL2と中央領域R2を流れる電流の補正電流値の積の和に対する端部領域R1の抵抗と端部領域R1を流れる電流の積の比率であることが好ましい。この場合、熔融ガラスMGの比抵抗の値は端部領域R1及び中央領域R2において略一定とみなして定められている。式で表すと下記式(1)のように表される。
【0050】
E1=L1×I1/(2×L1×I1+L2×I2)×(電圧の測定値) (1)
I1は、端部領域R1を流れる電流の電流値であり、I2は、中央領域R2を流れる電流の補正電流値であり、E1は、端部領域R1に生じる電圧である。
【0051】
同様に、コンピュータ118は、各電極対の端部領域R1と中央領域R2は直列結合しているので、各電極対の中央領域R2に生じる電圧の電圧値を、各電極対の電極114間の電圧の測定値に所定の比率を乗算した値として算出してもよい。ここで、所定の比率は、端部領域R1の長さL1の2倍と端部領域R1を流れる電流の電流値の積と、中央領域R2の長さL2と中央領域R2を流れる電流の補正電流値の積の和に対する中央領域R2の長さL2と中央領域R2を流れる電流の補正電流値の積の比率であることが好ましい。この場合、熔融ガラスMGの比抵抗の値は端部領域R1及び中央領域R2において略一定とみなして定められている。式で表すと下記式(2)のように表される。
【0052】
E2=L1×I1/(2×L1×I1+L2×I2)×(電圧の測定値) (2)
I1は、端部領域R1を流れる電流の電流値であり、I2は、中央領域R2を流れる電流の補正電流値であり、E2は、中央領域R2に生じる電圧である。
【0053】
次に、コンピュータ118は、電極対毎に端部領域R1及び中央領域R2の比抵抗を算出する(ST14)。具体的には、各電極対の端部電極R1の電流値は、各電極対の電極114間を流れる電流の測定値としてST12で定まっているので、コンピュータ118は、この電流値をI(A)とし、各電極対の端部領域R1に生じる電圧E1をE(V)とし、端部領域R1の長さL1をL(m)とし、電流の断面積をS(m
2)として、下記式(3)に従って端部領域R1の比抵抗ρ(Ω・m)を算出する。
【0055】
ここで、端部領域R1の比抵抗の算出に用いる断面積Sは、
図6(a)に示す境界面m及び貯留槽101aの内壁101a,101bを含む側壁で囲まれる四角柱形状の領域の断面の面積、すなわち、
図6(b)に示す斜線領域の面積よりも小さいことが好ましい。
図6(b)に示す斜線領域は、電流密度が熔融ガラスMG全体で緩和した時の断面の領域に相当する。
図6(b)は、電極114の配置を説明する図である。境界面mは、内壁110a上で隣接する二つの電極114の間の中間点Cと、内壁110b上で隣接する二つの電極114の中間点Cとを通る鉛直方向に平行な面である。
図6(b)に示す斜線の領域の面積は、熔解槽101の底面110eから液面101cまでの高さ(熔融ガラスMGの深さ)Dと、四角柱形状の領域の幅Wとの積により求められる。このように、端部領域R1の比抵抗の算出に用いる断面積Sを
図6(b)に示す斜線の領域の面積よりも小さくするのは、以下の理由による。電流が端部領域R1を流れるとき、電流が電極114から熔融ガラスMG中に広がるように流れ始める初期段階、あるいは熔融ガラスMGを電流が流れるとき広がった(断面積の広がった)電流が電極114に向かって集束する最終段階であり、端部領域R1では、電流の流れる断面積が小さい。
【0056】
さらに、コンピュータ118は、算出した各電極対の中央電極R2の補正電流値をI(A)とし、各電極対の中央領域R2に生じる電圧E2をE(V)とし、中央領域R2の長さL2をL(m)とし、電流の断面積をS(m
2)として、上記式(2)に従って中央領域R2の比抵抗ρ(Ω・m)を算出する。
ここで、中央領域R2の比抵抗の算出に用いる断面積Sは、
図6(a)に示す境界面m及び貯留槽101aの内壁101a,101bを含む側壁で囲まれる四角柱形状の領域の断面の面積を用いることが好ましい。中央領域R2の電流は、上記四角形形状の断面一杯に広がっているため、
図6(b)に示す深さDと幅Wで定まる斜線領域の面積を断面積Sとして用いる。このように、中央領域R2の比抵抗を求めるときに用いる電流の流れる領域の断面積は、各電極対の端部領域R2の比抵抗を求めるときに用いる電流の流れる領域の断面積に比べて大きいことが好ましい。言い換えると、端部領域R1の比抵抗を求めるときに用いる電流の流れる端部領域R1の断面積は、中央領域R2の比抵抗を求めるときに用いる電流の流れる中央領域R2の断面積に比べて小さいことが好ましい。
【0057】
次に、コンピュータ118は、各電極対の端部領域R1と中央領域R2の比抵抗を用いて、各電極対の電極114間の電極間比抵抗を算出する(ST15)。
具体的には、熔融ガラスMGの温度は、比抵抗ρの関数として表すことができる。例えば、熔融ガラスMGの比抵抗ρと熔融ガラスMGの温度T(℃)とは、下記の式(4)により表される相関関係を有している。
【0058】
T(℃)=a/(log(ρ)+b)−273.15 (4)
【0059】
式(4)において、aおよびbはガラス組成に依存する定数である。定数aおよびbの値は予め実験等により求めておくことができる。上記定数aおよびbの値は、上記の式(4)と共にコンピュータ118に予め保存される。
コンピュータ118は、各電極対の端部領域R1の比抵抗と中央領域R2の比抵抗のそれぞれを用いて、式(4)に従って端部領域R1の温度及び中央領域R2の温度を算出する。端部領域R1の温度は温度T1とし、中央領域R2の温度は温度T2とする。
コンピュータ118は、算出した温度T1及び温度T2を用いて、各電極対の電極114間の熔融ガラスMGの温度を算出する。この温度をT
aveとする。具体的には、算出した温度T
aveは、温度T1と温度T2の平均した値である。平均した値は、単純平均であってもよいが、好ましくは、端部領域R1と中央領域R2の体積比率により定まる重み付け係数を用いて温度T1と温度T2を重み付け平均した値である。なお、重み付け平均に用いる体積比率は、端部領域R1の体積と中央領域R2の体積の比率であって、端部領域R1の比抵抗を算出するときに式(3)で用いた断面積と端部領域R1の長さL1(
図5参照)を乗算した値の2倍と、中央領域R2の比抵抗を算出するときに式(3)で用いた断面積と長さL2(
図5参照)を乗算した値との比率である。例えば体積比率が3対8である場合、温度T
aveは、温度T1と温度T2を3対8で重み付け平均した値、すなわち、温度T1に重み付け係数3/11を乗算した値と、温度T2に重み付け係数8/11を乗算した値を加算した値となる。
このように、端部領域R1に生じる熔融ガラスの温度T1と、中央領域R2の熔融ガラスの温度T2を、それぞれの体積比率に応じて平均して温度T
aveを算出するので、電極114間に温度分布のある熔融ガラスMGの温度であっても、均した熔融ガラスMGの温度を算出することができる。コンピュータ118は、算出した温度T
aveから、式(4)を用いて熔融ガラスMGの比抵抗ρ、すなわち、各電極対の電極間比抵抗を算出する。
【0060】
次に、コンピュータ118は、算出した各電極対の電極間比抵抗に基づいて熔融ガラスMGの加熱のための制御量を決定する(ST16)。具体的には、熔融ガラスが発生するジュール熱が制御される。すなわち、コンピュータ118は、予め熔解槽101の熔融ガラスMGが所望の熔解状態にあるときの比抵抗を算出しておき、その値を目標比抵抗としてコンピュータ118に保存しておく。コンピュータ118は、算出した電極間比抵抗と目標比抵抗とを比較し、比較の結果(電極間比抵抗と目標比抵抗の差)に基づいて、電極間比抵抗が目標比抵抗になるように、制御ユニット116に送るジュール熱の制御量を決定する。
【0061】
算出した電極間比抵抗が目標比抵抗よりも高いか又は許容できる範囲よりも高い場合には、コンピュータ118は熔融ガラスに発生させるジュール熱を、所定量、増加させる指示を出す。また、算出した電極間比抵抗が目標比抵抗と等しいか又は許容できる範囲内である場合には、コンピュータ118は熔融ガラスに発生させるジュール熱を維持する指示を出す。また、算出した電極間比抵抗が目標比抵抗よりも低いか又は許容できる範囲よりも低い場合には、コンピュータ118は熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を、所定量、減少させる指示を出す。
【0062】
さらに、制御ユニット116は、コンピュータ118から送られた制御量の指示に基づいて、ジュール熱の制御を行なう(ST19)。具体的には、制御ユニット116は、熔融ガラスに発生させるジュール熱を減少させる指示を受けた場合には、電極114間の熔融ガラスに流れる電流の値が元の値よりも所定の値だけ小さい一定の値を、目標電流値として設定する。制御ユニット116は、熔融ガラスに発生させるジュール熱を維持する指示を受けた場合には、電極114間の熔融ガラスに流れる電流の値または元の目標値を、目標電流値に設定する。制御ユニット116は、熔融ガラスに発生させるジュール熱を増加させる指示を受けた場合には、電極114間の熔融ガラスに流れる電流の値が元の値よりも所定の値だけ大きい一定の値を、目標電流値として設定する。制御ユニット116は、さらに、熔融ガラスに流れる電流の値を目標電流値に維持するように、電極114間の電圧を制御する。
【0063】
コンピュータ118及び制御ユニット116は、上述したフローによる動作を、熔融ガラスの熔解工程を行なう期間中、継続して行なう。また、上述したフローは、
図3に示す三対の電極114のそれぞれを対象としてジュール熱の制御を行なう。三対の電極114の大きさは、同じ大きさに統一されていなくてもよい。このため、電極114の大きさによって定まる電流の流れる断面積は、電極114の対毎に別々に設定されてもよい。
【0064】
このように、本実施形態では、熔融ガラスMGに制御したジュール熱を与えるために用いる各電極対の電極間比抵抗は、端部領域R1の比抵抗と中央領域R2の比抵抗を用いて算出される。中央領域R2の比抵抗を算出するとき、中央領域R2における電極対間の電流密度の差の緩和の程度に基づいて中央領域R2を流れる電流の値、すなわち補正電流値を算出し、この補正電流値を用いて中央領域R2の比抵抗を算出する。このため、従来のように、電流密度の差の緩和の程度を考慮せず、電流の測定値と電圧の測定値とから算出した熔融ガラスの比抵抗に基づいてジュール熱を制御する場合に比べて、より精度よく熔融ガラスの温度調整をすることができる。
【0065】
このような熔融ガラスMGの補正温度に基づいた温度調整は、ガラス原料の未熔解や脈理の発生を抑制するように予め設定された温度分布を精度よく実現し、予め設定した熔融ガラスMGの流れを精度よく形成する上で有効である。
図7は、予め設定される熔解槽内部の熔融ガラスMGの温度分布及び熔融ガラスMGの流れの例を説明するための模式的な断面図である。なお、予め設定される温度分布及び熔融ガラスMGの流れは、熔解槽101の構成、製造するガラス基板の組成及びガラス原料等の情報を用いたコンピュータシミュレーションにより決定することができ、
図7に示す熔融ガラスMGの流れに限定されない。
【0066】
図7で示す例では、熔融ガラスを流出口104aから後工程に向けて流すとき、下層の熔融ガラスMGにおいて、
図3における熔解槽104aの長手方向に沿った温度分布に起因する対流が生じないようにする。すなわち、下層の熔融ガラスMGの長手方向に沿った温度差が生じることを抑制するように、熔融ガラスMGを加熱する。具体的には、熔解槽101の長手方向の両端部において熔融ガラスMGを加熱するための熱量を、熔解槽101の長手方向の中央部において熔融ガラスMGを加熱するための熱量よりも多くするように調整する。
【0067】
熔解槽101の長手方向において、両端部の熔融ガラスMGの加熱量を中央部のそれよりも多くするのは、長手方向に向いてお互いに対向する内壁から外部に熱が放出され易いためである。このような加熱量の調整を行わないと、上記両端部における熔融ガラスMGの温度は中央部に比べて低くなる傾向がある。このため、三対の電極114に供給する電力は、熔解槽101の長手方向の中央部の電極114に比べて、熔解槽101の長手方向の両端部に近い電極114の方が多くなるように設定することが好ましい。これは、熔解槽に4対以上の電極114が設けられている場合も同様である。
【0068】
上述したように、本実施形態では、熔解槽110の長手方向に配列した複数の電極対毎に算出した電極間比抵抗に基づいて、熔融ガラスMGに発生させるジュール熱を制御する。そのため、各領域において外部に放出される熱量が異なる場合であっても、熔融ガラスの温度を精度良く管理することができる。
【0069】
本実施形態の熔解槽101における熔融ガラスMGの温度調整は、熔融ガラスMGを通電加熱して発生するジュール熱を用いた加熱によるが、この加熱に代えて、あるいは、この加熱とともに、バーナー等を用いたガスによる燃焼加熱で調整することも好ましい。
また、本実施形態では、電極114間に位置する熔融ガラスMGの領域を2つの端部領域R1と1つの中央領域R2に分けてそれぞれの領域の熔融ガラスMGの比抵抗を用いて電極間比抵抗を算出したが、端部領域R1を電極114の端部114aからの距離に応じて複数を設けてもよいし、中央領域R2を電極114の端部114aからの距離に応じて複数設けてもよい。この場合、各中央領域の電流密度の差の緩和の程度は、それ別々に定められるとよい。複数の端部領域では、電極114の端部114aからの距離に応じて比抵抗ρを算出するときに用いる断面積を、各中央領域の電流密度の差の緩和の程度に応じて変化させてもよい。
【0070】
また、本実施形態では、各電極対の電極間比抵抗に基づいて熔融ガラスMGに与えるジュール熱を制御するが、電極間比抵抗に代えて温度T
aveに基づいて熔融ガラスMGに与えるジュール熱を制御してもよい。この場合、ST16の制御量の決定では、目標比抵抗に代えて目標温度を用いるとよい。
【0071】
このような溶解工程における温度調整では、ガラス組成のムラが存在しないように、熔解槽の熔融ガラスの温度を精度よく管理するが、特に、熔解しにくく、ガラス粘度が高い無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスを用いる場合に、本実施形態の効果、すなわち、熔解槽中の熔融ガラスに与えるジュール熱の制御をより精度良く行える。無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスでは、ガラス組成のムラができないようにアルカリガラスに比べて熔融ガラスの温度を高くすることが必要である。この場合、電極114間に流す電流は大きくなるので、中央領域R1における電流密度の差の緩和の程度は大きくなり易い。本実施形態では、中央領域R2を流れる電流密度の差の緩和の程度に基づいて中央領域R2を流れる電流の補正電流値を算出し、この補正電流値を用いて中央領域R2の比抵抗を算出し、中央領域R2の比抵抗を用いて電極間比抵抗を算出するので、無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスを用いる場合、アルカリガラスを用いる場合に比べて、熔融ガラスの温度調整を精度良く行え、予め設定された温度分布を精度よく再現できる効果は顕著になる。
【0072】
したがって、酸化錫を含む無アルカリガラス、又は、酸化錫を含む微アルカリガラスのガラス基板を製造するとき、本実施形態の効果は顕著となる。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ金属酸化物(Li
2O、K
2O、及びNa
2O)を実質的に含有しないガラスである。また、アルカリ微量含有ガラスとは、アルカリ金属酸化物の含有量(Li
2O、K
2O、及びNa
2Oの合量)が0超0.8モル%以下のガラスである。
【0073】
(ガラス組成)
本実施形態で製造されるディスプレイ用ガラス基板として、以下のガラス組成のガラス基板が例示される。したがって、以下のガラス組成をガラス基板が有するようにガラス原料は調合される。本実施形態で製造されるガラス基板は、例えば、SiO
2 55〜75モル%、Al
2O
3 5〜20モル%、B
2O
3 0〜15モル%、RO 5〜20モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)、 R’
2O 0〜0.4モル%(R’はLi
2O、K
2O、及びNa
2Oの合量)、SnO
2 0.01〜0.4モル%、含有する。
このとき、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3、及びRO(Rは、Mg、Ca、Sr及びBaのうち前記ガラス基板に含有される全元素)の少なくともいずれかを含み、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であってもよい。モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であるガラスは、高温粘性の高いガラスの一例である。上述したように、高温粘性の高いガラスは、ガラス原料の熔解がしがたく、脈理等の問題が発生しやすい。そのため、モル比((2×SiO
2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.0以上であるガラスの製造に本実施形態は有効である。高温粘性とは、熔融ガラスが高温になるときのガラスの粘性を示し、ここでいう高温とは、例えば、1300℃以上を示す。
【0074】
本実施形態で用いる熔融ガラスは、粘度が10
2.5ポアズであるときの温度は1500〜1700℃であるガラス組成であってもよい。このように、高温粘性の高いガラスは、一般的に熔解工程における熔融ガラスの温度を高くする必要があるので、本実施形態の上記効果は顕著になる。粘度が10
2.5ポアズであるときの温度は、熔解温度の指標となる。
【0075】
本実施形態で用いる熔融ガラスの歪点は650℃以上であってもよく、660℃以上であることがより好ましく、690℃以上であることがさらに好ましく、730℃以上が特に好ましい。また、歪点が高いガラスは、粘度が10
2.5ポアズにおける熔融ガラスの温度が高くなる傾向にある。つまり、歪点が高いガラス基板を製造する場合ほど、本実施形態の上記効果は顕著になる。また、歪点が高いガラスほど、酸化物半導体ディスプレイ及びLTPS(Low-Temperature Poly Silicon)ディスプレイに代表される高精細ディスプレイに使用されるため、脈理等の問題に対する要求が厳しい。そのため、高歪点のガラス基板ほど、脈理等の発生を抑制できる本実施形態が好適となる。
【0076】
また、酸化錫を含み、粘度が10
2.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度が1500℃以上となるガラスになるようにガラス原料を熔解した場合、本実施形態の上記効果は顕著になり、粘度が10
2.5ポアズであるときの熔融ガラスの温度は、例えば1500℃〜1700℃であり、1550℃〜1650℃であってもよい。
【0077】
(ガラス基板の適用)
ガラス基板に脈理、未熔解物、未熔解物に起因する泡が存在すると、形成画面の表示欠陥を引き起こすという問題がある。そのため、本実施形態は、画面の表示欠陥に対する要求の厳しいディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。特に、本実施形態は、画面の表示欠陥に対する要求がさらに厳しい、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板等の高精細ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
以上のことから、本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板及び曲面ディスプレイ用ガラス基板を含むディスプレイ用ガラス基板に好適である。IGZO等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、有機ELディスプレイ用ガラス基板にも好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法は、ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【0078】
上述したようなディスプレイ用ガラス基板はガラス基板表面の微細な凹凸に対する要求が厳しいため、微細な凹凸の原因となる脈理が少ないことが求められる。ディスプレイ用ガラス基板では、脈理の発生を抑制することで、表面粗さのピーク高さを抑制することができる。表面粗さ測定機により測定したピーク高さは、0〜0.008μmであることが好ましく、0〜0.006μmであることがより好ましい。
【0079】
(実験例)
本実施形態の効果を確認するために、溶解工程中の熔融ガラスのジュール熱を電極間比抵抗に基づいて制御した方法(実施例)と、溶解工程中の熔融ガラスのジュール熱を、中央領域R2の電流密度の差の緩和を考慮することなく算出した熔融ガラスの比抵抗に基づいて制御した方法(比較例)とを用いて熔融ガラスを作製してガラス基板を作製した。作製したガラス基板において、ガラス組成のムラに起因した脈理の発生頻度を調べた。ガラス基板のサイズは2270mm×2000mmであり、厚さは0.5mmであり、100枚のガラス基板を作製した。脈理の検査は、ガラス基板表面の表面粗さを測定することにより行った。この測定には、東京精密社製の表面粗さ測定機(サーフコム1400−D)を用い、ピーク高さを測定した。
上記検査の結果、補正温度に基づいて熔融ガラス温度を調整した実施例では、100枚のガラス基板のピーク高さの平均が0.006μmであった。一方、概略温度に基づいて熔融ガラス温度を調整した比較例では、100枚のガラス基板のピーク高さの平均が0.01μmであった。つまり、比較例と比較して実施例では、脈理の発生を抑制できていることがわかる。
これより、本実施形態の効果は明らかである。
【0080】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。