(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-124752(P2016-124752A)
(43)【公開日】2016年7月11日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 17/06 20060101AFI20160613BHJP
C03B 5/225 20060101ALI20160613BHJP
C03B 5/26 20060101ALI20160613BHJP
【FI】
C03B17/06
C03B5/225
C03B5/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-266965(P2014-266965)
(22)【出願日】2014年12月29日
(71)【出願人】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508271425
【氏名又は名称】安瀚視特股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】AvanStrate Taiwan Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】杉野 雅弥
(72)【発明者】
【氏名】月向 仁志
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シートガラスに生成される表面凹凸の原因を特定し、この原因を解消することで表面凹凸の生成を軽減するガラス基板の製造方法を提供する。
【解決手段】熔融ガラスの処理装置101から供給される熔融ガラスMGを成形装置200により成形してシートガラスSGを生成する成形工程と、シートガラスSGの搬送方向に発生する表面凹凸の凹凸量を検出する検出工程と、所定の基準値よりも大きい凹凸量が検出された場合、シートガラスSGの組成を分析する分析工程と、分析された組成に基づいて、処理装置101又は成形装置200における、表面凹凸の原因の発生位置を特定する特定工程と、発生位置において原因を解消し表面凹凸の生成を軽減する解消工程と、を有する、ガラス基板の製造方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の製造方法であって、
熔融ガラスの処理装置から供給される熔融ガラスを成形装置により成形してシートガラスを生成する成形工程と、
前記シートガラスの搬送方向に発生する表面凹凸の凹凸量を検出する検出工程と、
所定の基準値よりも大きい凹凸量が検出された場合、前記シートガラスの組成を分析する分析工程と、
分析された組成に基づいて、前記処理装置又は前記成形装置における、前記表面凹凸の原因の発生位置を特定する特定工程と、
前記発生位置において前記原因を解消し前記表面凹凸の生成を軽減する解消工程と、を有する、ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記特定工程において、表面凹凸の原因となる、前記熔融ガラス中の周囲と組成の異なる異質素地の発生位置を特定し、
前記解消工程において、前記発生位置の熔融ガラスを前記処理装置から排出する、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記処理装置は、内部に熔融ガラスが収容される空間、および、熔融ガラスの上部に気相空間を有するとともに、気相空間と面する熔融ガラスを排出する上部排出口を有し、
前記分析工程において、前記シートガラス中のシリカの含有量を分析し、
前記表面凹凸の領域におけるシリカの含有量が他の領域におけるシリカの含有量よりも大きい場合、前記特定工程において前記気相空間と面する箇所を前記異質素地の発生位置として特定し、前記解消工程において、前記上部排出口から気相空間と面する熔融ガラスを排出する、請求項2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記上部排出口から排出される熔融ガラス中のシリカの含有量が所定の基準値以下になったときに前記上部排出口からの熔融ガラスの排出を停止する、請求項3に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記処理装置は、熔融ガラスが収容される空間を内部に有するとともに、熔融ガラスを排出する下部排出口を底部に有し、
前記分析工程において、前記シートガラス中のジルコニアの含有量を分析し、
前記表面凹凸の領域におけるジルコニアの含有量が他の領域におけるジルコニアの含有量が所定の基準値よりも大きい場合、前記特定工程において前記処理装置の底部を前記異質素地の発生位置として特定し、前記解消工程において、前記下部排出口から前記処理装置の底部と面する熔融ガラスを排出する、請求項2〜4のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記下部排出口から排出される熔融ガラス中のジルコニアの含有量が所定の基準値以下になったときに前記下部排出口からの熔融ガラスの排出を停止する、請求項5に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記分析工程において、前記シートガラス中のシリカおよびジルコニアの含有量を分析し、
シリカの含有量およびジルコニアの含有量が所定の基準値以下である場合、前記特定工程において、熔融ガラスからシートガラスを成形する成形体に付着したガラスが表面凹凸の原因であると特定し、
前記解消工程において、前記成形体の温度を上昇させる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板(以下、「ディスプレイ用ガラス基板」という)を製造するのに、オーバーフローダウンドロー法が使用される場合がある(例えば特許文献1参照)。オーバーフローダウンドロー法は、成形炉において熔融ガラスを成形体の上部から溢れ(オーバーフロー)させることにより成形体の下方において板状のシートガラスを成形する工程と、シートガラスを徐冷炉において徐冷する冷却工程とを含む。徐冷炉では、対になったローラ間にシートガラスを引き込み、ローラによりシートガラスを下方に搬送しながら所望の厚さに引き伸ばした後、シートガラスを徐冷する。この後、シートガラスを所定の寸法に切断することでガラス板が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5246568号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オーバーフローダウンドロー法により製造されたシートガラスに、周囲とは屈折率や比重が異なる筋状の領域(脈理)が生じる場合がある。脈理の一因としては、熔融ガラスの組成ムラがある。成形体よりも上流の工程において、熔融ガラス中で周囲と組成が異なる異質素地が生成されることがある。異質素地が生成される要因として、ガラス原料を熔融する熔融槽の壁面、底面からジルコニア等の不純物が熔融ガラス中に溶出して組成が変化することや、熔融ガラスから気泡を除去する清澄槽、熔融ガラスを撹拌する撹拌槽等の処理装置において、熔融ガラス中のホウ素等の揮発成分が気相空間に揮発することで組成が変化することが考えられる。
【0005】
また、熔融ガラス中で周囲よりも高粘性のガラスが生じ、この高粘性のガラスが成形体に付着することで、シートガラスの幅方向に幅の広い脈理(表面凹凸)が形成される場合もある。
【0006】
本発明は、シートガラスに生成される表面凹凸の原因を特定し、この原因を解消することで表面凹凸の生成を軽減することができるガラス基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様は、ガラス基板の製造方法であって、
熔融ガラスの処理装置から供給される熔融ガラスを成形装置により成形してシートガラスを生成する成形工程と、
前記シートガラスの搬送方向に発生する表面凹凸の凹凸量を検出する検出工程と、
所定の基準値よりも大きい凹凸量が検出された場合、前記シートガラスの組成を分析する分析工程と、
分析された組成に基づいて、前記処理装置又は前記成形装置における、前記表面凹凸の原因の発生位置を特定する特定工程と、
前記発生位置において前記原因を解消し前記表面凹凸の生成を軽減する解消工程と、を有する、ことを特徴とする。
【0008】
前記特定工程において、表面凹凸の原因となる、前記熔融ガラス中の周囲と組成の異なる異質素地の発生位置を特定し、
前記解消工程において、前記発生位置の熔融ガラスを前記処理装置から排出する、ことが好ましい。
【0009】
前記処理装置は、内部に熔融ガラスが収容される空間、および、熔融ガラスの上部に気相空間を有するとともに、気相空間と面する熔融ガラスを排出する上部排出口を有し、
前記分析工程において、前記シートガラス中のシリカの含有量を分析し、
前記表面凹凸の領域におけるシリカの含有量が他の領域におけるシリカの含有量よりも大きい場合、前記特定工程において前記気相空間と面する箇所を前記異質素地の発生位置として特定し、前記解消工程において、前記上部排出口から気相空間と面する熔融ガラスを排出する、ことが好ましい。
【0010】
前記上部排出口から排出される熔融ガラス中のシリカの含有量が所定の基準値以下になったときに前記上部排出口からの熔融ガラスの排出を停止する、ことが好ましい。
【0011】
前記処理装置は、熔融ガラスが収容される空間を内部に有するとともに、熔融ガラスを排出する下部排出口を底部に有し、
前記分析工程において、前記シートガラス中のジルコニアの含有量を分析し、
前記表面凹凸の領域におけるジルコニアの含有量が他の領域におけるジルコニアの含有量が所定の基準値よりも大きい場合、前記特定工程において前記処理装置の底部を前記異質素地の発生位置として特定し、前記解消工程において、前記下部排出口から前記処理装置の底部と面する熔融ガラスを排出する、ことが好ましい。
【0012】
前記下部排出口から排出される熔融ガラス中のジルコニアの含有量が所定の基準値以下になったときに前記下部排出口からの熔融ガラスの排出を停止する、ことが好ましい。
【0013】
前記分析工程において、前記シートガラス中のシリカおよびジルコニアの含有量を分析し、
シリカの含有量およびジルコニアの含有量が所定の基準値以下である場合、前記特定工程において、熔融ガラスからシートガラスを成形する成形体に付着したガラスが表面凹凸の原因であると特定し、
前記解消工程において、前記成形体の温度を上昇させる、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上述の態様のガラス板の製造方法によれば、所定の基準値よりも大きい凹凸量が検出された場合、シートガラスの組成を分析し、分析された組成に基づいて、処理装置又は成形装置における、表面凹凸の原因の発生位置を特定し、発生位置においてこの原因を解消することで、表面凹凸の生成を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の製造方法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のガラス基板の製造方法について説明する。
(ガラス基板の製造方法の全体概要)
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)、清澄工程(ST2)、均質化工程(ST3)、供給工程(ST4)、成形工程(ST5)、徐冷工程(ST6)、検出工程(ST7)、および、切断工程(ST8)を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有してもよい。製造されたガラス基板は、必要に応じて梱包工程で積層され、納入先の業者に搬送される。
【0017】
熔解工程(ST1)では、ガラス原料を加熱することにより熔融ガラスを作る。
清澄工程(ST2)では、熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれる酸素、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡が発生する。この泡が熔融ガラス中に含まれる清澄剤(酸化スズ等)の還元反応により生じた酸素を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に浮上して放出される。その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中の酸素等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。
【0018】
均質化工程(ST3)では、スターラを用いて熔融ガラスを撹拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。均質化工程は、後述する撹拌槽において行われる。
供給工程(ST4)では、撹拌された熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0019】
成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)は、成形装置で行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形には、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
検出工程(ST7)では、徐冷後のシートガラスの表面凹凸の有無、表面凹凸の幅方向の位置、表面凹凸の凹凸量(基準面からの凹み量又は突出量)を検出する。
切断工程(ST8)では、徐冷後のシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス基板を得る。切断されたガラス基板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0020】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST8)を行うガラス基板の製造装置の概略図である。ガラス基板の製造装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置200と、切断装置300と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄管102と、撹拌装置130と、移送管104、105と、ガラス供給管106と、を有する。
【0021】
図2に示す熔解槽101には、図示されないバーナー等の加熱手段が設けられている。熔解槽には清澄剤が添加されたガラス原料が投入され、熔解工程(ST1)が行われる。熔解槽101で熔融した熔融ガラスは、移送管104を介して清澄管102に供給される。
清澄管102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスの清澄工程(ST2)が行われる。具体的には、清澄管102内の熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれる酸素、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡が、清澄剤の還元反応により生じた酸素を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に浮上して気相空間に放出される。その後、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中の酸素等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄後の熔融ガラスは、移送管105を介して撹拌装置130に供給される。
【0022】
撹拌装置130では、熔融ガラスが撹拌されて均質化工程(ST3)が行われる。撹拌装置130は、第1撹拌槽130Aと、第2撹拌槽130Bと、第1撹拌子131Aと、第2撹拌子131Bと、下部排出口132Aと、上部排出口132Bと、移送管133と、を有する。第1撹拌槽130Aおよび第2撹拌槽130B内で撹拌されることにより、熔融ガラスは均質化される。
【0023】
第1撹拌槽130Aには、移送管105によって下部から熔融ガラスが供給される。熔融ガラスは第1撹拌子131Aによって撹拌されながら第1撹拌槽130A内を上昇する。第1撹拌槽130Aの上部に到達した熔融ガラスは移送管133によって第2撹拌槽の上部に移送される。
なお、熔解槽101、清澄管102等の処理装置において、処理装置の壁面からジルコニア等の比重が大きい不純物が熔融ガラス中に溶出して組成が変化し、熔融ガラス中で周囲と組成の異なる異質素地が生成される場合がある。このような異質素地は比重が大きいため、第1撹拌槽130Aの底部に溜まる傾向がある。第1撹拌槽130Aの底部には、下部排出口132Aが設けられており、下部排出口132Aを開くことで、第1撹拌槽130Aの底部に溜まった比重が大きい異質素地を含む熔融ガラスを外部へ排出することができる。
【0024】
第2撹拌槽130Bには、移送管133によって上部から熔融ガラスが供給される。熔融ガラスは第2撹拌子131Bによって撹拌されながら第2撹拌槽130B内を下降する。第2撹拌槽130Bの下部に到達した熔融ガラスはガラス供給管106によって成形装置200の成形体210に移送される。
なお、熔解槽101、清澄管102、撹拌装置130等の処理装置において、熔融ガラスの気相空間と面する表面からホウ素等の揮発成分が揮発することで、熔融ガラスの組成が変化し、相対的にシリカの比率が高く比重が小さい異質素地が生成される場合がある。このような比重が小さい異質素地は、第2撹拌槽130Bの気相空間と面する上部に溜まる傾向がある。第2撹拌槽130Bの上部には、上部排出口132Bが設けられており、上部排出口132Bを開くことで、第2撹拌槽130Bの上部に溜まった比重が小さい異質素地を含む熔融ガラスを外部へ排出することができる。
【0025】
撹拌装置130で均質化された熔融ガラスは、ガラス供給管106を介して成形装置200に供給される(供給工程ST4)。
成形装置200では、オーバーフローダウンドロー法により、成形体210から流下される熔融ガラスからシートガラスSGが成形され(成形工程ST5)、徐冷される(徐冷工程ST6)。
なお、熔融ガラス中に、周囲よりも高粘性のガラスが含まれている場合、この高粘性のガラスが成形体210に付着すると、シートガラスの幅方向に幅の広い脈理(表面凹凸)が形成されるおそれがある。成形体210の温度を上昇させると、成形体210に付着した熔融ガラスの粘性を低下させることができ、成形体210に付着した高粘性のガラスを除去することができる。ここで、成形体210の温度が高すぎると、成形体210や成形装置200への負担が大きくなるという問題がある。このため、成形体210の最高温度は1400℃以下とすることが好ましい。
【0026】
成形装置200内の検出装置290では、徐冷後のシートガラスSGに対して、表面凹凸の検出を行う(検出工程ST7)。
検出装置290は、例えば、光学式の表面検査装置であり、徐冷炉202の下部から搬出されるシートガラスSGに発生する表面凹凸の幅方向の位置、表面凹凸の凹凸量(基準面からの凹み量又は突出量)を検出する。なお、この凹部および凸部は、シートガラスSGの厚み(高さ)が変動したものであり、シートガラスSGの搬送方向に筋状に連続的に発生する。
【0027】
成形装置200内の分析装置291は、シートガラスSGの組成を分析する。分析装置291には、例えば、電子線マイクロアナライザ(Electron Probe MicroAnalyzer;EPMA)又は飛行時間二次イオン質量分析計(Time-of-Flight secondary ion mass spectrometer;TOF-SIMS)を用いることができる。
【0028】
切断装置300では、シートガラスSGから切り出された板状のガラス基板が形成される(切断工程ST8)。
【0029】
本実施形態においては、検出工程において、所定の基準値よりも大きい凹凸量が検出された場合、分析装置291を用いてシートガラスの組成を分析し、分析された組成に基づいて、処理装置又は成形装置における、表面凹凸の原因の発生位置を特定し、発生位置において原因を解消することで、表面凹凸の生成を軽減する処理が行われる。
具体的には、表面凹凸が形成されている領域と、表面凹凸が形成されていない領域とで組成の差や偏析を比較することで、表面凹凸の原因となる異質素地に多く含まれる成分を特定する。
【0030】
例えば、表面凹凸が形成されていない領域において、表面凹凸が形成されていない領域よりもジルコニアの含有量が多いと分析された場合、熔解槽101、清澄管102等の処理装置において、処理装置の壁面からジルコニアが熔融ガラス中に溶出し、ジルコニアの含有量が多い異質素地が生成されたと判断することができる。この場合、ジルコニアの含有量が多い異質素地は熔融ガラスの他の部分と比較して比重が大きいため、第1撹拌槽130Aの底部に多く溜まると考えられる。そこで、表面凹凸の生成を軽減する処理として、撹拌装置130の下部排出口132Aを開くことで、第1撹拌槽130Aの底部に溜まった比重が大きい異質素地を含む熔融ガラスを外部へ排出する。これにより、比重が大きい異質素地に起因して生じる表面凹凸を軽減することができる。
【0031】
比重が大きい異質素地を含む熔融ガラスが第1撹拌槽130Aの底部から排出されたら、下部排出口132Aからの熔融ガラスの排出を停止する。例えば、下部排出口132Aから排出される熔融ガラスの成分を分析し、下部排出口132Aから排出される熔融ガラス中のジルコニアの含有量が所定の基準値以下になったときに下部排出口132Aからの熔融ガラスの排出を停止すればよい。あるいは、下部排出口132Aを一定時間開き、所定量の溶融ガラスが排出された後、下部排出口132Aを閉じてもよい。
【0032】
また、例えば、表面凹凸が形成されていない領域において、表面凹凸が形成されていない領域よりもシリカの含有量が多いと分析された場合、熔解槽101、清澄管102、撹拌装置130等の処理装置において、熔融ガラスの表面から気相空間にホウ素等の揮発成分が揮発することで熔融ガラスの組成が変化し、シリカの含有量が多い異質素地が生成されたと判断することができる。この場合、シリカの含有量が多い異質素地は熔融ガラスの他の部分と比較して比重が小さいため、第2撹拌槽130Bの上部に多く溜まると考えられる。そこで、表面凹凸の生成を軽減する処理として、撹拌装置130の上部排出口132Bを開くことで、第2撹拌槽130Bの上部に溜まった比重が小さい異質素地を含む熔融ガラスを外部へ排出する。これにより、比重が小さい異質素地に起因して生じる表面凹凸を軽減することができる。
【0033】
比重が小さい異質素地を含む熔融ガラスが第2撹拌槽130Bの上部から排出されたら、上部排出口132Bからの熔融ガラスの排出を停止する。例えば、上部排出口132Bから排出される熔融ガラスの成分を分析し、上部排出口132Bから排出される熔融ガラス中のシリカの含有量が所定の基準値以下になったときに上部排出口132Bからの熔融ガラスの排出を停止すればよい。あるいは、上部排出口132Bを一定時間開き、所定量の溶融ガラスが排出された後、上部排出口132Bを閉じてもよい。
【0034】
また、例えば表面凹凸が形成されていない領域と、表面凹凸が形成されていない領域とで、(例えばシリカやジルコニウム等の)組成に差異がない場合、表面凹凸は異質素地ではなく、成形体210に付着した高粘性のガラスに起因すると判断することができる。この場合、成形体210の温度を上昇させることで、成形体210に付着した熔融ガラスの粘性を低下させ、成形体210に付着した高粘性のガラスを除去することができる。
【0035】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、所定の基準値よりも大きい凹凸量が検出された場合、シートガラスの組成を分析し、分析された組成に基づいて、処理装置又は成形装置における、表面凹凸の原因の発生位置を特定し、発生位置においてこの原因を解消することで、表面凹凸の生成を軽減することができる。
【0036】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。上記実施形態においては、熔融ガラス中のシリカやジルコニウムの含有量に基づいて表面凹凸の原因の発生位置を特定する例について説明したが、本発明はこれに限らず、熔融ガラス中の他の成分の含有量に基づいて表面凹凸の原因の発生位置を特定してもよい。
【0037】
上記実施形態においては、撹拌装置130に下部排出口132Aおよび上部排出口132Bを設けた場合について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、熔融槽101に下部排出口および上部排出口を設けてもよいし、清澄槽102に下部排出口および上部排出口を設けてもよい。
【0038】
本実施形態のガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板には、歪点や徐冷点が高く良好な寸法安定性を有する無アルカリのボロアルミノシリケートガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスが用いられる。
【0039】
本実施形態が適用されるガラス基板は、例えば以下の組成を含む無アルカリガラスからなる。
SiO
2:56−65質量%
Al
2O
3:15−19質量%
B
2O
3:8−13質量%
MgO:1−3質量%
CaO:4−7質量%
SrO:1−4質量%
BaO:0−2質量%
Na
2O:0−1質量%
K
2O:0−1質量%
As
2O
3:0−1質量%
Sb
2O
3:0−1質量%
SnO
2:0−1質量%
Fe
2O
3:0−1質量%
ZrO
2:0−1質量%
【0040】
本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板を含むディスプレイ用ガラス基板に好適である。IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS(低温度ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、有機ELディスプレイ用ガラス基板にも好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法は、ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
100 熔解装置
101 熔解槽
102 清澄槽
104、105 移送管
106 ガラス供給管
130 攪拌装置
130A、130B 撹拌槽
131A、131B 撹拌子
132A 下部排出口
132B 上部排出口
133 移送管
200 成形装置
210 成形体
290 検出装置
291 分析装置
300 切断装置