(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-125071(P2016-125071A)
(43)【公開日】2016年7月11日
(54)【発明の名称】MoO3から99mTcを熱分離精製する方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
C22B 61/00 20060101AFI20160613BHJP
G21G 4/08 20060101ALI20160613BHJP
C22B 4/08 20060101ALI20160613BHJP
C22B 9/02 20060101ALI20160613BHJP
【FI】
C22B61/00
G21G4/08 T
C22B4/08
C22B9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-264756(P2014-264756)
(22)【出願日】2014年12月26日
(71)【出願人】
【識別番号】505374783
【氏名又は名称】国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】591031430
【氏名又は名称】株式会社千代田テクノル
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】特許業務法人 日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 泰樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和幸
(72)【発明者】
【氏名】本石 章司
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 秀也
(72)【発明者】
【氏名】川端 方子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宣博
(72)【発明者】
【氏名】椎名 孝行
(72)【発明者】
【氏名】太田 朗生
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA42
4K001BA05
4K001EA09
4K001GA14
(57)【要約】
【課題】1台の電気炉において99Moを含むMoO3試料を多量に溶融でき、多数回のミルキングで99mTcを高分離効率で且つ安定に回収することができる方法及びその装置を提供すること。
【解決手段】複数個のルツボが縦方向に多層に配置された電気炉を用い、該電気炉内に湿気を帯びた酸素を含むガスを流しつつ、前記ルツボにおいて99Moを含むMoO3試料を溶融し、多数回のミルキングを行って、MoO3から99mTcを熱分離精製する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のルツボが縦方向に多層に配置された電気炉を用い、該電気炉内に酸素を含むガスを流しつつ、前記ルツボにおいて99Moを含むMoO3試料を溶融し、多数回のミルキングを行って、MoO3から99mTcを熱分離精製する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記酸素を含むガスが、湿気を帯びた酸素を含むガスであることを特徴とするMoO3から99mTcを熱分離精製する方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法において、前記電気炉の内部が複数のゾーンに分けられ、それぞれのゾーンの温度をコントロールすることにより、任意の温度分布を得ることを特徴とするMoO3から99mTcを熱分離精製する方法。
【請求項4】
縦方向に設けられた複数個のゾーン毎に温度制御が可能な発熱体を有する電気炉と、該電気炉の内部に縦方向に多層配置された、99Moを含むMoO3試料を溶融するための複数個のルツボと、該ルツボ周囲に酸素を含むガスを導入させる手段と、ミルキングによって得られた99mTcを回収する回収ホルダとを備えた、MoO3から99mTcを熱分離精製する装置。
【請求項5】
請求項4に記載の装置において、前記酸素を含むガスは、水バブラーを通して加湿された酸素を含むガスであることを特徴とするMoO3から99mTcを熱分離精製する装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分離法を用いて、層型試料容器中の三酸化モリブデン(MoO
3)から放射性テクネチウム-99m(
99mTc)を熱分離精製するための方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱分離法は、
100MoO
3試料(融点:795℃)を例えば加速器や原子炉で生成したMo-99(
99Mo)から、
99mTc酸化物(化学形Tc
2O
7等、融点〜400℃)を熱分離する温度差を利用して分離回収する方法である。
【0003】
100MoO
3試料等から熱分離により
99mTcを分離回収する方法は、現在行われている代表的な(n, f)
99Moからの方法と比較して、核分裂による放射性物の生成が無い上に、約300℃以下では物質への付着により固定化されるため、拡散による汚染の拡大の少ない固有の安全性を持っている。
【0004】
さらに、熱分離による
99mTcの分離回収は、例えば特許文献1に記載されているような、(n,f)
99Moからの製造方法である酸溶解及び溶媒抽出による湿式法等と比較して、不純物の混入する恐れが少なくかつ処理が簡単である。それは、
100MoO
3試料等に含まれる不純物としての金属(Cu、Si、W等)は、一般的に900℃以下の温度では熱分離などにより飛散する恐れが少ない物質が多いことに加えて、
99mTc酸化物の固有の回収温度(化学形Tc
2O
7等、融点〜400℃)で同様に凝固する不純物も少ないことによる。また、融点の低い金属(Al、Zn等)についても、加速器や原子炉用の試料作成時に、870℃に加熱することにより試料からの除去が見込まれ、不純物の混入を少なくすることが可能となっている。
【0005】
上述したように、熱分離法は湿式法等よりも有利な点が多いことから、
99Moから
99mTcを分離回収する方法として有望視されている。熱分離法に関しては、電気炉内に置いてある
99Moを含むMoO
3試料を(1)粉末状態のままで行う方法と、(2)溶融して行う方法の二通りの研究開発が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2013-511046号公報
【特許文献2】特開2010-223937号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Tachimori, H. Nakamura, and H. Amano: J. Nucl. Sci. Technolo. 8(1971)295.
【非特許文献2】M. Tomicic: RISO-M-1943, Riso National Laboratory(1977).
【非特許文献3】R.E. Boyd, Int. J. APPI. Radiat. Isot. 33(1982) 801-809.
【非特許文献4】R. G. Bennett, J. D. Chrostian, D. A. petti, W. K. Terry, S. B. Grover: Nucl. Technol. 126(1999) 102-121.
【非特許文献5】A, Dash, F.F.(Russ) Knap Jr., M.R.A. Pillai: Nucl. Med. Biology. 40(2013) 167.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述の方法は、いずれも以下の大きな欠点を有するために、未だ多量のMoO
3試料を用いて、
99mTcを効率よく分離精製する技術が確立していない。
a)
99Mo を含む多量のMoO
3試料に対しては、
99mTcの回収率が25〜50%と低いこと。
b) 分籬(ミルキング)回数が増えると回収率が激減すること。
c) 放射性同位体
99Tc(基底状態)を含む21gのMoO
3試料に対し、64%〜99%の
99Tc回収率を得ている事例では、ルツボ(MoO
3試料を入れる容器)中の溶融MoO
3厚は1mm程度以下(例えば0.8mm)に抑える必要がある。この厚さでは、100g程度以上の放射性同位体
99Moを含む多量のMoO
3試料の使用には、10×5cm
2 程度の大きなルツボを持つ電気炉を5台以上用いる必要があり、経費と操作の負担が大きいこと。
【0009】
したがって、本発明の目的は、1台の電気炉において
99Moを含むMoO
3試料を多量に溶融でき、多数回のミルキングで
99mTcを高分離効率で且つ安定に回収することができるMoO
3から
99mTcを熱分離精製する方法及びその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本発明では、基本的に電気炉中に、複数個のルツボを縦方向に多層配置し、酸素を含むガスを流しつつ、ルツボにおいて
99Moを含むMoO
3試料を溶融し、多数回のミルキングを行って、MoO
3から
99mTcを熱分離精製する。
【0011】
より具体的には、本発明の一つの観点に係るMoO
3から
99mTcを熱分離精製する方法は、複数個のルツボが縦方向に多層に配置された電気炉を用い、該電気炉内に酸素を含むガスを流しつつ、前記ルツボにおいて
99Moを含むMoO
3試料を溶融し、多数回のミルキングを行って、
99mTcを回収する段階を有する。なお、上述の酸素を含むガスは、湿気を帯びた酸素を含むガスであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の他の観点に係るMoO
3から
99mTcを熱分離精製する装置は、縦方向に設けられた複数個のゾーン毎に温度制御が可能な発熱体を有する電気炉と、該電気炉の内部に縦方向に多層配置された、
99Moを含むMoO
3試料を溶融するための複数個のルツボと、該ルツボ周囲に酸素を含むガスを導入させる手段と、ミルキングによって得られた
99mTcを回収する回収ホルダとを備えている。
【0013】
なお、本願明細書において、電気炉は1台であっても、複数台であっても良い。台数は電気炉の大きさや、処理量に応じて適宜選択可能である。また、多量のMoO
3試料とは、好ましくは100g以上のMoO
3試料を意味し、多数回のミルキングとは、好ましくは5回以上のミルキングを意味し、さらに
99mTcの高分離効率とは、50%を超える
99mTc分離効率を意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例え1台の電気炉でも多量の
100MoO
3試料を利用できると共に、高分離効率で試料中の
99Moから
99Tcを多数回のミルキング操作に対し、安定に高分離効率で回収できる。そして、極めて高価な濃縮
100MoO
3試料を熱分離後に高回収率で回収できるため、試料の再利用が叶い、試料経費が大幅に節減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るMoO
3から
99mTcを熱分離精製する装置の全体構成図。
【
図2】熱分離精製装置の電気炉部分の構造及び試料装着動作の説明図。
【
図3】熱分離精製装置の電気炉部分の構造及び
99mTc抽出動作の説明図。
【
図4】熱分離精製装置の電気炉部分の構造及び
99mTc回収動作の説明図
【
図5】試験装置におけるMoO
3針状結晶回収部の全体写真。
【
図6】試験装置におけるMoO
3針状結晶回収部の分解写真。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る装置とその周辺装置を含む全体構成図を
図1に示す。また、本装置の断面図を、
99Moを含むMoO
3試料の装着を示す部分、
99mTcの抽出を示す部分、
99mTcの回収を示す部分に分けて、それぞれ
図2乃至
図4に示す。
【0017】
図1乃至
図4において、符号1は酸素ガス導入口、2は水冷ジャケット付3ゾーン電気炉、3は石英製外筒管、4は石英製内筒管、5は試料ホルダ、6は白金ルツボとMoO
3試料、7はMoO
3針状結晶捕集用トラップ(以下単に針状結晶捕集用トラップという。)、8はMoO
3針状結晶捕集用コルツウールトラップ(以下単にコルツウールトラップという。)、9はカンタル発熱体、10は断熱材、11は試料支持台、12は
99mTcを回収する回収ホルダ、13は金ワイヤー、14は酸素ガス排出口、そして15及び16は
99mTc回収ホルダ用上下駆動装置(以下単に上下駆動装置という。)を示す。
【0018】
本発明に係る装置は、気密保持とフィルターを装備した換気装置の設置された放射線しゃへいセル(主たる部分の材質が鉄若しくは鉛)内で用いられることから、
図1の酸素ボンベのバルブ以降の機器は放射線遮蔽セル内に設置される。また、電気炉の外面を水冷できる構造となっている(図示せず)。また、
図1乃至
図4のカンタル発熱体9の構造から明らかなように、電気炉内は3ゾーンに分割してあり、独自に温度制御できる構造である。各ゾーンについては、ゾーン両端を石英装置の直径方向に約10mmまで狭め、かつ断熱用のフェルトを張ることによりゾーン毎の温度制御を容易にできる構造となっている。
【0019】
次に、
図2乃至
図4を参照して、電気炉の構造についてさらに詳細に説明する。電気炉の内部に設置する石英製外筒管3は、電気炉本体2に固定され、上部からボールジョイントにより酸素ガス導入管1が接続されている。試料を保持した、石英製内筒管4、試料ホルダ5、白金ルツボ6、トラップ7、およびコルツウール8から成る石英装置が、石英製外筒管3内の試料支持台11上に設置されている。すなわち、石英装置全体が石英製外筒管3に挿入される構造となっている。石英装置は 2重構造となっており、この装置は、内筒管4の中に試料の入った白金ルツボ3個が保持できる試料ホルダ5と、昇華した
100MoO
3試料を針状結晶として回収する石英製のトラップ7及び
100MoO
3試料を完全に捕集するためのコルツウールトラップ8を備えている。
【0020】
また、内筒管4と各容器の分離部を段違いとすることにより、構造体として組み立てられる構造となっている。この内筒管下部のボールジョイント部に、
99mTc 捕集するための金線(0.2mmφ×2M ≒ 1.3g)13を挿入した
99mTc 回収ホルダ12を設置した架台を上下することにより接続できる構造となっている。また、いずれの架台もOリングにより気密を取る構造となっている。
【0021】
再度、
図1を参照する。系内に流すガスは、リザーバータンクの次段に設置された水バブラーを通して加湿した酸素を含むガスで、50〜200ml/minの流量を下部からポンプにより吸引し、マスフローメータにより流量をコントロールすることで、熱分離した
99mTcが内筒管4及び回収ホルダ12外に漏れることを防ぐことができ、安全性の高い構造となっている。より詳細には、水バブラーによって加湿された酸素を含むガスは、石英製外筒管上部→石英製内筒管→ルツボ(MoO
3)→針状結晶回収トラップ→針状結晶回収フィルター(コルツウール)→
99mTc回収ホルダ→マスフローメータ→減圧計付きリザーバータンク→ポンプ→水バブラーの経路を経て、放射線遮蔽セル内に放出される。
【0022】
99mTcの分離率は、加湿酸素ガスを使用することにより少なくとも約10%上げることができる。その分離率は、
100MoO
3試料の溶融時の厚さにより異なるが、4〜5回の分離試験の平均で6mmでは約90%、12mmでは約80%、18mmでは約70%である。
【0023】
試料に使用する
100MoO
3は、安定濃縮同位体であり非常に高価なものである。そのため、熱分離した後に残る
100MoO
3試料以外の例えば
100MoO
3針状結晶を効率よく回収できることが課題となっているが、本装置を使用した場合熱分離により針状結晶として飛散する割合は約2%/回である。
【0024】
次に、ミルキングについてさらに詳細に説明する。まず、加速器や原子炉で生成された
99Moを含む
100MoO
3試料等を白金製等のルツボに入れる。電気炉内温度を800℃から870℃程度の範囲で徐々に上げて試料を溶融する。前記温度の保持時間は試料の量等によるが15分から45分である。その後、電気炉温度を室温まで下げ、
99mTcを回収して1回目のミルキングは終了する。そして、6時間から24時間後に、再度電気炉内温度を800℃から870℃程度の範囲で徐々に上げて試料を溶融し2回目のミルキングを行う。以下同様の繰り返しでミルキングを5日間程度行う。
【0025】
なお、各ミルキングの終了時に、
100MoO
3等の針状結晶を回収する場合は、
100MoO
3等針状部の温度を800度から870度程度の範囲で徐々に上げて針状
100MoO
3等を溶融し、ルツボ部に移動させて、次のミルキングを行うことも可能である。
【0026】
上述のようにして、照射された試料から5回のミルキングを行うことによって約10%が捕集トラップ7に移動するが、その93%以上が回収容器に回収される。さらに、この回収容器を超音波洗浄により洗浄すると、99%が回収可能であり再利用することができる。
【0027】
熱分離用電気炉として、本発明の縦型は横型と比較して、試料容器(白金ルツボ等)の電気炉内充填率を高く保持して(コンパクトにしつつ)多段に設置でき多量の試料が収容可能である。内径30mmφまでの白金ルツボを使用することが可能であり、この場合
100MoO
3試料溶融時に高さ 20mmでは 40gで3段では120gの処理が可能である。
【0028】
前述したように、縦型電気炉は、内部をゾーン分けしてそれぞれを温度コントロールすることにより、任意の内温度分布を得ることができる。その結果、
99mTc を回収するポイントを特定しやすい装置とすることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1は酸素ガス導入口、
2は水冷ジャケット付3ゾーン電気炉、
3は石英製外筒管、
4は石英製内筒管、
5は試料ホルダ、
6は白金ルツボとMoO
3試料、
7はMoO
3針状結晶捕集用トラップ、
8はMoO
3針状結晶捕集用コルツウールトラップ、
9はカンタル発熱体、
10は断熱材、
11は試料支持台、
12は
99mTcを回収する回収ホルダ、
13は金ワイヤー、
14は酸素ガス排出口、
15及び16は
99mTc回収ホルダ用上下駆動装置