(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-127180(P2016-127180A)
(43)【公開日】2016年7月11日
(54)【発明の名称】太陽電池、太陽光発電システム及び太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 31/0236 20060101AFI20160613BHJP
H01S 5/065 20060101ALI20160613BHJP
【FI】
H01L31/04 280
H01S5/065
【審査請求】未請求
【請求項の数】42
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-851(P2015-851)
(22)【出願日】2015年1月6日
(71)【出願人】
【識別番号】515006238
【氏名又は名称】米谷 新
(71)【出願人】
【識別番号】515006146
【氏名又は名称】黒田 寛人
(74)【代理人】
【識別番号】100169133
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】米谷 新
(72)【発明者】
【氏名】黒田 寛人
【テーマコード(参考)】
5F151
5F173
【Fターム(参考)】
5F151GA14
5F151HA07
5F173MA10
5F173MC15
5F173MC30
5F173MF10
5F173MF13
5F173MF23
5F173MF40
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡便な方法で、太陽電池の表面反射及び角度依存性を低減し、効率を向上することができる太陽電池を提供する。
【解決手段】太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法において、太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び/又は太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成するためのレーザー光源として、多波長広帯域モードロックレーザーを用い、構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値を400nm以下とし、また構造の形状を、略球状、略ラグビーボール状或いは略針状とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させたことを特徴とする、
太陽電池。
【請求項2】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させたことを特徴とする、
太陽電池。
【請求項3】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させたことを特徴とする、
請求項1又は2記載の太陽電池。
【請求項4】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び/又は太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して効率を向上させた
太陽電池に於いて、
該構造を形成するためのレーザー光源として、
多波長広帯域モードロックレーザーを用いたことを特徴とする、
請求項1乃至3のうちの一請求項に記載の太陽電池。
【請求項5】
該多波長広帯域モードロックレーザーは、
半導体モードロックレーザーであることを特徴とする、
請求項4記載の太陽電池。
【請求項6】
該多波長広帯域モードロックレーザーは、
その帯域を広帯域化するために、モードロックレーザー光をフォトニック結晶ファイバー(PCF)に導入し、これを通過させることによって多波長広帯域化することを特徴とする、
請求項4又は5記載の太陽電池。
【請求項7】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させた
太陽電池に於いて、
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が400nm以下であることを特徴とする、
請求項1、3又は4乃至6のうちの一請求項に記載の太陽電池。
【請求項8】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が200nm以下であることを特徴とする、
請求項7記載の太陽電池。
【請求項9】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が100nm以下であることを特徴とする、
請求項8記載の太陽電池。
【請求項10】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が50nm以下であることを特徴とする、
請求項9記載の太陽電池。
【請求項11】
該微細構造は、
その構造の形状が、略球状、略ラグビーボール状或いは略針状であることを特徴とする、
請求項1、及び請求項3乃至10のうちの一請求項に記載の太陽電池。
【請求項12】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の形状の方位が一定でないことを特徴とする、
請求項1、及び請求項3乃至11のうちの一請求項に記載の太陽電池。
【請求項13】
該構造を形成するためのレーザー光源として用いられる多波長広帯域モードロックレーザーは、
その出射光のスペクトルが400nmから1400nmの範囲にあることを特徴とする、
請求項1乃至12のうちの一請求項に記載の太陽電池。
【請求項14】
該構造を形成するためのレーザー光源として用いられる多波長広帯域モードロックレーザーの出射光は、
その出射光中に複数のピークを有するコヒーレント光であることを特徴とする、
請求項13記載の太陽電池。
【請求項15】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
太陽光発電システム。
【請求項16】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
太陽光発電システム。
【請求項17】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項15又は16記載の太陽光発電システム。
【請求項18】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び/又は太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して効率を向上させた
太陽電池に於いて、
該構造を形成するためのレーザー光源として、
多波長広帯域モードロックレーザーを用いた、
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項15乃至17のうちの一請求項に記載の太陽光発電システム。
【請求項19】
該多波長広帯域モードロックレーザーは、
半導体モードロックレーザーであることを特徴とする、
請求項18記載の太陽光発電システム。
【請求項20】
該多波長広帯域モードロックレーザーは、
その帯域を広帯域化するために、モードロックレーザー光をフォトニック結晶ファイバー(PCF)に導入し、これを通過させることによって多波長広帯域化することを特徴とする、
請求項17又は18記載の太陽電池。
【請求項21】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させた
太陽電池に於いて、
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が400nm以下である、
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項15、17又は18乃至20のうちの一請求項に記載の太陽光発電システム。
【請求項22】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が200nm以下である、
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項21記載の太陽光発電システム。
【請求項23】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が100nm以下である、
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項22記載の太陽光発電システム。
【請求項24】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が50nm以下である、
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項23記載の太陽光発電システム。
【請求項25】
該微細構造は、
その構造の形状が、略球状、略ラグビーボール状或いは略針状である、
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項15、17又は請求項18乃至24のうちの一請求項に記載の太陽光発電システム。
【請求項26】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の形状の方位が一定でない、
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項15、17又は請求項18乃至25のうちの一請求項に記載の太陽光発電システム。
【請求項27】
該構造を形成するためのレーザー光源として用いられる多波長広帯域モードロックレーザーは、
その出射光のスペクトルが400nmから1400nmの範囲にあることを特徴とする、
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項15乃至26記載の太陽光発電システム。
【請求項28】
該構造を形成するためのレーザー光源として用いられる多波長広帯域モードロックレーザーの出射光は、
その出射光中に複数のピークを有するコヒーレント光であるものを用いた、
効率を向上させた太陽電池を用いたことを特徴とする、
請求項27記載の太陽光発電システム。
【請求項29】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させたことを特徴とする、
太陽電池の製造方法。
【請求項30】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させたことを特徴とする、
太陽電池の製造方法。
【請求項31】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させたことを特徴とする、
請求項29又は30記載の太陽電池の製造方法。
【請求項32】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び/又は太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して効率を向上させた
太陽電池に於いて、
該構造を形成するためのレーザー光源として、
多波長広帯域モードロックレーザーを用いたことを特徴とする、
請求項29乃至31うちの一請求項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項33】
該多波長広帯域モードロックレーザーは、
半導体モードロックレーザーであることを特徴とする、
請求項32記載の太陽電池の製造方法。
【請求項34】
該多波長広帯域モードロックレーザーは、
その帯域を広帯域化するために、モードロックレーザー光をフォトニック結晶ファイバー(PCF)に導入し、これを通過させることによって多波長広帯域化することを特徴とする、
請求項32又は33記載の太陽電池の製造方法。
の
【請求項35】
太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより
太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造を形成し、
紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して
効率を向上させた
太陽電池に於いて、
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が400nm以下であることを特徴とする、
請求項29、30又は31乃至35のうちの一請求項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項36】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が200nm以下であることを特徴とする、
請求項35記載の太陽電池の製造方法。
【請求項37】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が100nm以下であることを特徴とする、
請求項36記載の太陽電池の製造方法。
【請求項38】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が50nm以下であることを特徴とする、
請求項37記載の太陽電池の製造方法。
【請求項39】
該微細構造は、
その構造の形状が、略球状、略ラグビーボール状或いは略針状であることを特徴とする、
請求項29、30又は31乃至38のうちの一請求項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項40】
該微細構造は、
その構造の個々の領域の占める範囲の形状の方位が一定でないことを特徴とする、
請求項29、30又は31乃至39のうちの一請求項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項41】
該構造を形成するためのレーザー光源として用いられる多波長広帯域モードロックレーザーは、
その出射光のスペクトルが400nmから1400nmの範囲にあることを特徴とする、
請求項29乃至40記載の太陽電池の製造方法。
【請求項42】
該構造を形成するためのレーザー光源として用いられる多波長広帯域モードロックレーザーの出射光は、
その出射光中に複数のピークを有するコヒーレント光であることを特徴とする、
請求項41記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面反射を低減し光電変換効率を向上させた太陽電池、太陽光発電システム及び太陽電池の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国のエネルギー政策の中で自然エネルギーはその重要性をいや増しており、太陽光発電はその中核となる技術である。故に、太陽光発電の高効率化及びコストダウンは、喫緊の課題であると言える。ここで、太陽光発電の効率に非常に大きな影響を与えるのは光電変換効率であり、その大きな要素は入射光の利用効率である。
【0003】
太陽電池パネルに入射する太陽光の光電変換効率を低下させる大きな要因の一つとして表面反射が挙げられる。特に一般的に用いられるシリコン系太陽電池のシリコンは屈折率が高く、表面反射が大きくなって入射光の利用効率が低下するとともに、入射角依存性も大きくなり、一般の固定設置の太陽電池に於いては太陽の運行によって効率的な入射が得られる時間が極く限られ、結果的に光の利用効率が大きく損なわれるという課題があった。
【0004】
これに対しての対策として従来、シリコンの入射側表面に反射防止膜を設けることが行われているが、誘電体の単層膜では反射率を低減する波長域は極く限られるとともに、入射角依存性に対応することは出来なかった。また、多層膜の形成はコストアップに繋がるだけでなく、その効果も限定されたものであり、有効な対策とはなっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−83449号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Masayuki Suzuki, Motoyoshi Baba, Shin Yoneya, and Hiroto Kuroda: “Efficient spectral broadening of supercontinuum in photonic crystal fiber with self-phase modulation induced by femtosecond laser pulse,” Appl. Phys. Lett. 101, 191110 (2012)
【非特許文献2】Tianqing Jia, Motoyoshi Baba, Masayuki Suzuki, Rashid A.Ganeev, Hiroto Kuroda, Jianrong Qiu, Xinshun Wang, Ruxin Li, and Zhizhan Xu., “Fabrication of two-dimensional periodic nanostructures by two-beam interference of femtosecond pulses,” Opt. Express Vol. 16, No. 3, PP1874-1878 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、簡便な方法で以って太陽電池の表面反射及び角度依存性を低減し、効率を向上せしめることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造を形成し、紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して効率を向上させたことを特徴とする、太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法である。
【0009】
また本発明は、太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して効率を向上させたことを特徴とする、太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法である。
【0010】
また本発明は、太陽電池の太陽光入射側表面及びその近傍に於いてレーザー光を干渉させることにより太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成し、紫外域、可視域及び赤外域に於いて反射率及び入射角依存性を低減して効率を向上させたことを特徴とする、太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法である。
【0011】
また本発明にかかる太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法は、太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び/又は太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成するためのレーザー光源として、多波長広帯域モードロックレーザーを用いたことを特徴とする。さらに本発明は多波長広帯域モードロックレーザーとして半導体モードロックレーザーを用いることを特徴とし、多波長広帯域モードロックレーザーの帯域を広帯域化するためにモードロックレーザー光をフォトニック結晶ファイバー(PCF)に導入し、これを通過させることによって多波長広帯域化することを特徴とする。
【0012】
また本発明にかかる太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法は、太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び/又は太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が400nm以下であることを特徴とし、さらにその構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が200nm以下であることを特徴とし、さらにその構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が100nm以下であることを特徴とし、さらにその構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値が50nm以下であることを特徴とする。
【0013】
また本発明にかかる太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法は、太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び/又は太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造の形状が、略球状、略ラグビーボール状或いは略針状であることを特徴とし、またその構造の個々の領域の占める範囲の形状の方位が一定でないことを特徴とする。
【0014】
また本発明にかかる太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法は、太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び/又は太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成するためのレーザー光源として用いられる多波長広帯域モードロックレーザーは、その出射光のスペクトルが400nmから1400nmの範囲にあることを特徴とする。
【0015】
また本発明にかかる太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法は、太陽光入射側表面及びその近傍に微細構造及び/又は太陽光入射側表面から深さ方向に屈折率が漸増する構造を形成するためのレーザー光源として用いられる多波長広帯域モードロックレーザーの出射光は、その出射光中に複数のピークを有するコヒーレント光であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法は、シリコン系太陽電池表面の反射率を低減し、また入射角依存性を低減して、太陽電池の光電変換効率を格段に向上させることが出来、もって産業及び社会に貢献すること大であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は本発明にかかる多波長広帯域モードロックレーザー光をビームスプリッター或いはミラーで空間的に分割して、シリコン系等の太陽電池の表面近傍に於いて干渉させて微細加工するために用いた、多波長広帯域モードロックレーザーのスペクトルの一例を示すグラフである。(非特許文献1より引用)
【
図2】
図2は本発明にかかるモードロックレーザー光をフォトニック結晶ファイバー(PCF)に導入し、これを通過させることによって多波長広帯域化するにあたり、ゼロ拡散波長(ZDW)835nmのフォトニック結晶ファイバー(PCF)により帯域拡張を行う場合に入力レーザーの強度を変化させた場合の出力を示すグラフである。(非特許文献1より引用)
【
図3】
図3はモードロックレーザー光をビームスプリッター或いはミラーで空間的に分割して、酸化亜鉛の結晶表面の近傍に於いて干渉させて形成された微細構造の一例を示す電子顕微鏡写真である。(非特許文献2より引用)
【発明を実施するための形態】
【0018】
今般、筆者らは安定に動作する紫外から可視、赤外域に至る非常に広帯域な多波長広帯域モードロックレーザーを開発し、これを用いて太陽電池の表面改質を行い、太陽電池の表面反射及び角度依存性を低減し、効率を向上せしめることに成功し、本発明を完成させたのである。
【0019】
本発明にかかる広帯域に亘って同期励起させたレーザーは凡そ400nmの紫外域から凡そ1400nmの赤外域に至る範囲で位相の揃ったフェムト秒超短パルスを発生する。
【0020】
レーザー照射により誘起される対象物表面の融解、アブレーションなどは微細加工技術、表面改質技術として重要であり、光誘起相転移に伴う表面形状変化として知られている。ここで、本発明にかかる多波長広帯域モードロックレーザーの太陽電池の表面改質技術への応用により、これまでになかった高効率な太陽電池の作製が可能となった。
【0021】
シリコンなどを用いた太陽電池に於いて、光の波長よりも微細なナノスケール構造を作れば、入射光は表面反射等の相互作用を惹起せずに内部へ入射する。シリコンは可視域での屈折率が3.6乃至5程度と大きく、空気から太陽光が入射すると表面での反射率が非常に大きくなるが、本発明にかかる方法によって光の波長よりも微細なナノスケール構造が形成された場合、空気層から母材に至る領域で屈折率が徐々に変化するのと同等な効果を発揮するから、反射率はほぼ零に近くなる。
【0022】
太陽光のスペクトルのピークである波長500nm近傍でのシリコンの屈折率は概ね4程度であり、通常の場合反射率が60%にも達するが、本発明の方法によってこれをほぼ零にすることが出来、その高効率に資すること大である。単純計算で、従前の太陽電池の効率を2.5倍程度向上させることができる可能性が有る。
【0023】
また、本発明にかかる方法は、以下に詳述するように多波長広帯域モードロックレーザー光を太陽電池の表面近傍に於いて干渉させて表面近傍を微細加工する。この時、多波長広帯域モードロックレーザーは広範な波長範囲に於いて多くのピークを有し、それぞれの波長のピークに於いてコヒーレント干渉するのであるから、干渉ピークは表面の平面方向のみならず深度方向に於いても分布を有する。このため、本発明にかかる加工により生ずる構造は深度方向にも一定ではなく、空気層から母材に至る領域で屈折率が徐々に変化する構造をも生成することができる。
【0024】
本発明に於いては、多波長広帯域モードロックレーザー光をビームスプリッター或いはミラーで空間的に分割して、シリコン系等の太陽電池の表面近傍に於いて干渉させて微細加工する。この時、マルチバンドの各波長で光干渉が生じるから、波長よりも屈折率分の1だけ微小な加工がなされる。よって、本発明に用いる多波長広帯域モードロックレーザーの最短波長である波長約400nmよりも5分の1乃至10分の1以下の微細な構造体となる。
【0025】
モード同期したレーザービームは各モード間の位相が揃っていることから競合してオーバートーンが発生し、微細構造体上にさらに小さな構造も形成される。このため、太陽光の有するエネルギー領域のうち、そのほとんどを占める凡そ波長200nm以上のすべての範囲の光に対して有効な微細加工が可能となった。これにより、太陽電池の効率は格段に改善される。
【0026】
また、かかるナノ構造はそれを構成する微細構造が多方向を向いた構造であり、太陽光の入射角度に依らず表面反射を低減し、太陽光のエネルギーを取り込み発電することができるようになった。従来の太陽電池パネルは日中の太陽光が法線方向に近い位置に設置されるのであるが、1日の日照時間に於いて入射光が有効な方位に太陽がある時間は限られ、さらに季節的な変化もあるから、その太陽光の利用効率は非常に低いものになっていた。しかし本発明によれば入射光の角度依存性は非常に小さく抑えられているから、この点からも高効率化の効果も多大である。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明にかかる多波長広帯域モードロックレーザー光をビームスプリッター或いはミラーで空間的に分割して、シリコン系等の太陽電池の表面近傍に於いて干渉させて微細加工するために用いた、多波長広帯域モードロックレーザーのスペクトルの一例を示すグラフである。(非特許文献1より引用)
【0028】
本発明にかかる多波長広帯域モードロックレーザー光は、400nmから1400nmまでの広帯域を有する。このため、本発明に於いてはモードロックレーザー光をフォトニック結晶ファイバー(PCF)に導入し、これを通過させることによって多波長広帯域化して用いる。これによって、
図1に示すように特に短波長側を400nm近傍まで範囲拡大することに成功し、これによって太陽光の全範囲をカバーする微小構造を構成することが可能になった。なお、グラフ中で1、2及び3はフォトニック結晶ファイバー(PCF)のゼロ拡散波長(ZDW)による出力スペクトルの差異を示しており、1はZDWが853nm、2はZDWが1039nm、3はZDWが1606nmの場合であり、これらにより出力スペクトルを制御することが出来ることがわかる。
【0029】
図2は、同様に本発明にかかるモードロックレーザー光をフォトニック結晶ファイバー(PCF)に導入し、これを通過させることによって多波長広帯域化するにあたり、ゼロ拡散波長(ZDW)835nmのフォトニック結晶ファイバー(PCF)により帯域拡張を行う場合に入力レーザーの強度を変化させた場合の出力を示している。(非特許文献1より引用)このように、入力強度を変調することにより、出力スペクトルを制御することが出来る。
【0030】
図3は、本発明にかかる多波長広帯域モードロックレーザー光をビームスプリッター或いはミラーで空間的に分割して、シリコン系等の太陽電池の表面近傍に於いて干渉させて微細加工する方法によって生成される構造に関して説明するため、モードロックレーザー光をビームスプリッター或いはミラーで空間的に分割して、酸化亜鉛の結晶表面の近傍に於いて干渉させて形成された微細構造の一例を示す電子顕微鏡写真である。(非特許文献2より引用)
【0031】
図3では、微細構造はほぼ規則的な略ラグビーボール状となったことがわかる。ここで、本発明の方法によって生成する微細構造は略ラグビーボール状構造だけではなく、略球状、略針状など様々な形状の微細構造が得られ、また方向は規則性を持った形状からランダムな方向性を有する形状まで、波長分布、ピーク強度等を制御することにより様々なものが得られる。
【0032】
また、微細構造の個々の領域の占める範囲の径の平均値は400nm以下、200nm以下、100nm以下、50nm以下のレベルで構成することが可能であり、さらに、本発明にかかる方法で、用いる波長域を特に短波長側に拡大することによって、微細構造を20nm以下まで微細化することが出来、紫外域を含む太陽光の有するエネルギー領域のほとんどに対して有効な、反射率及び入射角依存性を低減する構造が形成される。
【0033】
以下、本発明にかかる太陽電池、太陽光発電システム及び太陽電池の製造方法の一実施例について記載する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、多波長広帯域モードロックレーザー光をシリコン系等の太陽電池の表面近傍に於いて干渉させて微細加工する技術全般に亘るものである。
【0034】
まず、本実施例に於いてはモードロックレーザー光源として自作の半導体モードロックレーザー装置を用いた。出力する照射光は、コヒーレントな光であるフェムト秒パルスレーザー光である。照射光の所望とする波長範囲を含む波長範囲を有するフェムト秒パルスレーザー光がレーザーユニットによって生成され、これををフォトニック結晶ファイバー(PCF)に導入し、これを通過させることによって多波長広帯域化した。これにより照射光の有効なバンド幅を拡大でき、より効果的な微細構造を形成することが出来る。
【0035】
かかる多波長広帯域モードロックレーザー光をビームスプリッター或いはミラーで空間的に分割して、シリコン系等の太陽電池の表面近傍に於いて干渉させて微細加工するために用いた。ここで、干渉光学系は特に限定はなく、太陽電池の表面近傍に於いて干渉させることが出来るものであれば差し支えない。
【0036】
ここで、太陽電池の表面加工に於いては、そのスループットを上げるために干渉部位が太陽電池の表面をスキャンするように構成することが望ましい。スキャンの方法としては光学系を移動する、太陽電池基板を移動する、或いは双方を移動する方法を何れも用いることが出来るが、工業的な観点からは太陽電池基板を載置したステージをXY方向にスキャンして順次加工することが望ましいと言える。
【0037】
本発明の方法によって得られた太陽電池及び太陽光発電システムは、従前に比べてその光電変換効率が格段に向上し、産業上の貢献は大なるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明にかかる太陽電池、太陽電池システム及び太陽電池の製造方法は、シリコン系太陽電池表面の反射率を低減し、また入射角依存性を低減して、太陽電池の光電変換効率を格段に向上させることが出来、もって産業及び社会に貢献するものである。
【符号の説明】
【0039】
1 ZDWが853nmの場合
2 ZDWが1039nmの場合
3 ZDWが1606nmの場合
4 入力が820mWの場合
5 入力が400mWの場合
6 入力が200mWの場合