【課題】イヌの生きた細胞や組織を用いてCD20陽性細胞の解析ができる、モノクローナル抗体又は抗体断片、これらをコードする核酸及びベクター、イヌB細胞性リンパ腫の診断用キット及び診断方法、治療用組成物及び治療方法、上記の抗体の抗原反応ドメインを有するキメラ抗原受容体、当該キメラ抗原受容体をコードする核酸及びベクター、上記キメラ抗原受容体を発現したT細胞並びに当該T細胞を用いたイヌB細胞性リンパ腫の治療方法を提供する。
【解決手段】イヌCD20の細胞外領域に対するモノクローナル抗体又は抗体断片、これらをコードする核酸及びベクター、イヌB細胞性リンパ腫診断用キット及び診断方法、イヌB細胞性リンパ腫の治療用組成物及び治療方法、キメラ抗原受容体、これをコードする核酸及びベクター、上記キメラ抗原受容体を発現したT細胞、イヌB細胞性リンパ腫の治療方法。
CDR1〜3が、それぞれ配列番号1〜3のアミノ酸配列又は配列番号1〜3のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、
CDR1〜3が、それぞれ配列番号4〜6のアミノ酸配列又は配列番号4〜6のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、を有する、請求項1に記載の抗体又は抗体フラグメント。
CDR1〜3が、それぞれ配列番号1〜3のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、CDR1〜3が、それぞれ配列番号4〜6のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、を有する、請求項2に記載の抗体又は抗体フラグメント。
配列番号7の20〜138番目の残基からなるアミノ酸配列又は配列番号7の20〜138番目の残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、
配列番号8の21〜127番目の残基からなるアミノ酸配列又は配列番号8の21〜127番目の残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗体又は抗体フラグメント。
配列番号7の20〜138番目の残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号8の21〜127番目の残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、を有する、請求項4に記載の抗体又は抗体フラグメント。
抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びT細胞受容体シグナル伝達ドメインを有する、キメラ抗原受容体であって、前記抗原結合ドメインが、請求項1〜6のいずれか一項に記載の抗体又は抗体フラグメントの抗原結合ドメインである、キメラ抗原受容体。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[抗イヌCD20モノクローナル抗体又は抗体ラグメント]
1実施形態において、本発明は、イヌCD20の細胞外領域に対するモノクローナル抗体又は抗体フラグメントを提供する。
【0014】
抗体フラグメントとしては、Fab、F(ab’)
2、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを適切なリンカーで連結したsingle−chain Fv(scFv)等が挙げられる。scFvのリンカーとしては、例えば、(GGGGS)
3(配列番号23)等のペプチドが挙げられる。
【0015】
本実施形態の抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、イヌCD20の細胞外領域に良好に結合することができることから、イヌの生きた細胞や組織を用いた、FACS解析、蛍光顕微鏡観察等による、CD20陽性細胞の動態や形態の解析に用いることができる。
【0016】
抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、例えば、相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)1〜3が、それぞれ配列番号1〜3のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、CDR1〜3が、それぞれ配列番号4〜6のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、を有するものであってもよい。
【0017】
抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、イヌCD20の細胞外領域に対する反応性を有している限り、CDR1〜3が、それぞれ配列番号1〜3のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及びCDR1〜3が、それぞれ配列番号4〜6のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、を有するものであってもよい。ここで、重鎖可変領域又は軽可変領域のCDR1〜3における数個とは、5個、4個、3個又は2個を意味する。
【0018】
また、抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、配列番号7の20〜138番目の残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号8の21〜127番目の残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、を有するものであってもよい。
【0019】
抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、イヌCD20の細胞外領域に対する反応性を有している限り、配列番号7の20〜138番目の残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、及び、配列番号8の21〜127番目の残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、を有するものであってもよい。ここで、重鎖可変領域又は軽可変領域における数個とは、15個、14個、13個、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。
【0020】
また、抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、キメラ抗体又はイヌ化抗体であってもよい。ここで、キメラ抗体とは、抗体の定常領域部分が、他の動物由来の抗体の定常領域部分に置き換えられた抗体をいう。ここで、他の動物由来の抗体としては、イヌ抗体が好ましい。また、イヌ化抗体とは、可変領域中の相補性決定領域(CDR)のみがラット等の非イヌ動物抗体由来であり、CDR以外の可変領域中のフレームワーク領域(FR)及び定常領域がイヌ抗体由来であるものをいう。キメラ抗体又はイヌ化抗体のクラスは、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれであってもよいが、例えばIgGであることが好ましい。
【0021】
イヌに非イヌ抗体を投与すると、異種抗原に対する免疫応答が惹起され、アナフィラキシーショック等の重篤な副作用が生じる場合がある。これに対し、抗体の定常領域部分がイヌ抗体に置き換えられたキメラ抗体又はイヌ化抗体であれば、このような副作用が低減されるため、イヌに投与することができる。
【0022】
抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、標識物質で標識されていてもよい。標識物質としては、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アミラーゼ等の酵素;フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)、Cy3、Cy5、R−フィコエリトリン、B−フィコエリトリン、アレクサフルオロ488、アレクサフルオロ647等の蛍光物質;トリチウム、ヨウ素125、ヨウ素131等の放射性核種;ビオチン;ストレプトアビジン等が挙げられる。
【0023】
[イヌB細胞性リンパ腫診断用キット]
1実施形態において、本発明は、上述した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントを含む、イヌB細胞性リンパ腫診断用キットを提供する。
【0024】
上述した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、イヌの生きた細胞の表面に発現したCD20に対して良好な反応性を示す。したがって、本実施形態のキットは、イヌB細胞性リンパ腫の診断に好適に用いられる。
【0025】
本実施形態のキットの抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、非標識であってもよいし、標識されていてもよい。また、溶液状態で提供されてもよいし、凍結乾燥された粉末状態で提供されてもよい。抗体又は抗体フラグメントが非標識である場合には、例えば、標識された2次抗体を使用して、細胞の表面に発現したCD20を検出することができる。
【0026】
本実施形態のキットは、抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントの他に、抗体が酵素標識されていた場合の当該酵素の発色基質等を含んでいてもよい。また、抗体や発色基質を希釈するための緩衝液等を含んでいてもよい。
【0027】
[イヌB細胞性リンパ腫の診断方法]
1実施形態において、本発明は、イヌ由来の生体試料に、上記した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントを反応させる工程を含む、イヌB細胞性リンパ腫の診断方法を提供する。
【0028】
本実施形態の診断方法について以下に説明する。まず、例えば、対象のイヌから少量の生体組織を採取する。生体組織としては、例えば血液が挙げられる。続いて、例えば、市販のリンパ球比重分離液を使用して、血液からリンパ球を分離する。続いて、回収したリンパ球(以下、「末梢リンパ球」という場合がある。)に上記抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントを混合し、反応させる。その後、未反応の抗体を洗浄除去し、必要であれば標識された2次抗体を反応させて、更に未反応の2次抗体を洗浄除去する。その後、FACS解析、蛍光顕微鏡観察等を行い、CD20陽性細胞の動態や形態を観察し、イヌB細胞性リンパ腫の診断を行う。
【0029】
本実施形態の診断方法では、イヌの生きた細胞を使用することができ、細胞の固定操作も不要であるため、より正確かつ簡便にイヌB細胞性リンパ腫の診断を行うことができる。
【0030】
[イヌB細胞性リンパ腫の治療用組成物]
1実施形態において、本発明は、上述した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントを有効成分とする、イヌB細胞性リンパ腫の治療用組成物を提供する。抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントは、薬剤と結合されていてもよい。薬剤としては、抗癌剤、放射性核種等が挙げられる。
【0031】
上述したように、多くのB細胞性リンパ腫細胞の表面には、CD20が過剰発現している。そこで、上述した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントをB細胞性リンパ腫に罹患したイヌに投与すると、B細胞性リンパ腫細胞の表面のCD20に結合する。その結果、抗体依存性細胞傷害(Antibody−Dependent−Cellular−Cytotoxicity、ADCC)活性、補体依存性細胞障害(Complement−Dependent Cytotoxicity、CDC)活性、アポトーシス誘導等の機構により、当該B細胞性リンパ腫細胞を殺傷することができる。
【0032】
また、抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントに抗癌剤や放射性核種を結合させたものを、B細胞性リンパ腫に罹患したイヌに投与すると、B細胞性リンパ腫細胞にターゲティングして、抗癌剤や放射線の作用によりB細胞性リンパ腫細胞を殺傷することもできる。
【0033】
したがって、上述した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントを有効成分とする組成物は、B細胞性リンパ腫の治療用組成物として有用である。
【0034】
本実施形態の治療用組成物は、抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントを主成分とする。抗体又は抗体フラグメント以外の成分としては、水等の溶媒、界面活性剤、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、無水クエン酸、pH調整剤等の薬学的に許容可能な添加物が挙げられる。治療用組成物は、静脈注射用又は点滴用であってもよい。治療用組成物は、液体で供給されてもよく、粉末で供給され、使用前に水や緩衝液等で溶解するように構成されていてもよい。
【0035】
[抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントを使用したイヌB細胞性リンパ腫の治療方法]
1実施形態において、本発明は、上述した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントを、イヌに投与する工程を含む、イヌB細胞性リンパ腫の治療方法を提供する。
【0036】
本実施形態の治療用組成物の投与量及び投与間隔としては、例えば、抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントが1〜10mg/kg程度投与される量を、1週間に1回程度の間隔で投与することが挙げられる。投与方法としては、静脈注射、点滴等が挙げられる。
【0037】
[抗イヌCD20モノクローナル抗体又は抗体フラグメントをコードする核酸]
1実施形態において、本発明は、上述した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントをコードする核酸を提供する。このような核酸としては、例えば、上述した抗イヌCD20抗体の重鎖可変領域遺伝子、上述した抗イヌCD20抗体の軽鎖可変領域遺伝子、上述した抗イヌCD20抗体の重鎖可変領域及び定常領域の一部をコードする遺伝子、上述した抗イヌCD20抗体の軽鎖可変領域及び定常領域の一部をコードする遺伝子、上述した抗イヌCD20抗体の重鎖全長をコードする遺伝子、上述した抗イヌCD20抗体の軽鎖全長をコードする遺伝子、上述した抗イヌCD20抗体の重鎖可変領域遺伝子に非ラット抗体重鎖定常領域の一部又は全長が連結された遺伝子、上述した抗イヌCD20抗体の軽鎖可変領域遺伝子に非ラット抗体重鎖定常領域の一部又は全長が連結された遺伝子、上述した抗イヌCD20抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを適切なリンカーで連結したscFvをコードする遺伝子等が挙げられる。
【0038】
上記の重鎖可変領域遺伝子は、配列番号9に記載の塩基配列の97〜453番目の残基からなる重鎖可変領域遺伝子であってもよい。また、上記の軽鎖可変領域遺伝子は、配列番号10に記載の99〜419番目の残基からなる軽鎖可変領域遺伝子であってもよい。
【0039】
また、上記の重鎖可変領域遺伝子は、CDR1〜3が、それぞれ配列番号1〜3に記載のアミノ酸配列からなり、CDR以外のフレームワーク領域が非ラット抗体由来である重鎖可変領域をコードする遺伝子であってもよい。また、上記の軽鎖可変領域遺伝子は、CDR1〜3が、それぞれ配列番号4〜6に記載のアミノ酸配列からなり、CDR以外のフレームワーク領域が、非ラット抗体由来である軽鎖可変領域をコードする遺伝子であってもよい。ここで、非ラット抗体としては、マウス、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ブタ、サル、ヒト等の抗体が挙げられ、特にイヌ抗体であることが好ましい。
【0040】
本実施形態の核酸は、上述した抗イヌCD20抗体の重鎖可変領域遺伝子又はこれに由来する遺伝子と、抗イヌCD20抗体の軽鎖可変領域遺伝子又はこれに由来する遺伝子との組み合わせであることが好ましい。ここで、重鎖可変領域遺伝子に由来する遺伝子としては、例えば、CDR1〜3が、それぞれ配列番号1〜3に記載のアミノ酸配列からなり、CDR以外のフレームワーク領域が非ラット抗体由来である重鎖可変領域をコードする遺伝子が挙げられる。また、同様に、軽鎖可変領域遺伝子に由来する遺伝子としては、例えば、CDR1〜3が、それぞれ配列番号4〜6に記載のアミノ酸配列からなり、CDR以外のフレームワーク領域が非ラット抗体由来である軽鎖可変領域をコードする遺伝子が挙げられる。
【0041】
[抗イヌCD20モノクローナル抗体又は抗体フラグメントの発現ベクター]
1実施形態において、本発明は、上述した抗イヌCD20モノクローナル抗体又は抗体フラグメントをコードする核酸を発現可能に保持するベクターを提供する。本実施形態のベクターにより、上述した核酸を発現させ、上述した抗イヌCD20抗体又は抗体断片を作製することができる。ベクターとしては、各発現系に応じたものを用いることができ、例えば、大腸菌発現用のpET、酵母発現用のpAUR、昆虫細胞発現用のpIEx、動物細胞発現用のpCMV、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられる。
【0042】
[イヌCD20特異的キメラ抗原受容体]
1実施形態において、本発明は、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン及びT細胞受容体シグナル伝達ドメインを有する、キメラ抗原受容体であって、前記抗原結合ドメインが、上述の抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントの抗原結合ドメインである、キメラ抗原受容体を提供する。
【0043】
キメラ抗原受容体とは、腫瘍免疫回避機構に打ち勝つために考案された人工T細胞受容体のことである。癌の治療において、患者のT細胞にキメラ抗原受容体を遺伝子導入し、そのT細胞を体外で増幅培養した後に患者に輸注するという、遺伝子改変T細胞療法が検討されている。
【0044】
キメラ抗原受容体は、腫瘍抗原に特異的なモノクローナル抗体の軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを適切なリンカーで連結したscFvをN末端側に有し、T細胞受容体(TCR)ζ鎖をC末端側に有する融合タンパク質を基本構造とする、人工T細胞受容体の総称である。
【0045】
キメラ抗原受容体を発現させたT細胞は、scFv領域で腫瘍抗原を認識した後、その認識シグナルを、C末端側のζ鎖を通じてT細胞内に伝達するため、細胞傷害(CTL)活性及び増殖能が高い。
【0046】
T細胞の活性化を更に増強するために、scFvとζ鎖の間に共刺激分子(CD28、4−1BBの一方又は双方)を組み込んだキメラ抗原受容体も検討されている。
【0047】
本実施形態において、抗原結合ドメインとは、抗原分子と結合する抗体分子上の部位を意味する。抗原結合ドメインとしては、上述した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む部位が挙げられ、例えば、上述した抗イヌCD20抗体のFab、F(ab’)
2、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを適切なリンカーで連結したscFv等が挙げられる。ここで、リンカーとしては、例えば(GGGGS)
3等が挙げられる。
【0048】
本実施形態のキメラ抗原受容体の膜貫通ドメインとしては、T細胞受容体ζ鎖の膜貫通ドメイン等が挙げられる。また、T細胞受容体シグナル伝達ドメインとしては、T細胞受容体ζ鎖のシグナル伝達ドメイン等が挙げられる。キメラ抗原受容体は、更にCD28の一部、又は4−1BBの一部を含んでいてもよい。
【0049】
[イヌCD20特異的キメラ抗原受容体をコードする核酸]
1実施形態において、本発明は、上述したキメラ抗原受容体をコードする核酸を提供する。
【0050】
本実施形態において、上述した抗原結合ドメインを構成する重鎖可変領域をコードする遺伝子は、配列番号9に記載の塩基配列の97〜453番目の残基からなる重鎖可変領域遺伝子であってもよい。また、上述した抗原結合ドメインを構成する軽鎖可変領域をコードする遺伝子は、配列番号10に記載の99〜419番目の残基からなる軽鎖可変領域遺伝子であってもよい。
【0051】
また、重鎖可変領域遺伝子は、CDR1〜3が、それぞれ配列番号1〜3に記載のアミノ酸配列からなり、CDR以外のフレームワーク領域が非ラット抗体由来である重鎖可変領域をコードする遺伝子であってもよい。また、軽鎖可変領域遺伝子は、CDR1〜3が、それぞれ配列番号4〜6に記載のアミノ酸配列からなり、CDR以外のフレームワーク領域が、非ラット抗体由来である軽鎖可変領域をコードする遺伝子であってもよい。ここで、非ラット抗体としては、マウス、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヤギ、ロバ、ウシ、ウマ、ブタ、サル、ヒト等の抗体が挙げられ、特にイヌ抗体であることが好ましい。
【0052】
[イヌCD20特異的キメラ抗原受容体の発現ベクター]
1実施形態において、本発明は、上述したイヌCD20特異的キメラ抗原受容体をコードする核酸を発現可能に保持するベクターを提供する。本実施形態のベクターを、対象のイヌから抽出したT細胞に導入して発現させることにより、CD20発現細胞に対する細胞傷害(CTL)活性が高いT細胞を作製することができる。
【0053】
ベクターとしては、例えば、動物細胞発現用のpCMV、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター等が挙げられる。
【0054】
[イヌCD20特異的キメラ抗原受容体を発現したT細胞]
1実施形態において、本発明は、上述したイヌCD20特異的キメラ抗原受容体を発現したT細胞を提供する。
【0055】
本実施形態のT細胞は、例えば次のようにして作製することができる。まず、対象のイヌから血液を採取する。続いて、例えば、市販のリンパ球比重分離液を使用して、血液からリンパ球を分離する。続いて、回収したリンパ球に上述したイヌCD20特異的キメラ抗原受容体の発現ベクターを導入して発現させる。
【0056】
回収したリンパ球は、イヌCD20特異的キメラ抗原受容体の発現ベクターを導入する前に、例えば、抗CD3抗体及びインターロイキン(IL)−2の存在下で培養し、T細胞を活性化することが好ましい。また、イヌCD20特異的キメラ抗原受容体の発現ベクターは、遺伝子導入効率の観点から、レトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクターであることが好ましい。
【0057】
遺伝子導入後のT細胞は、イヌCD20特異的キメラ抗原受容体を発現する。イヌCD20特異的キメラ抗原受容体を発現したT細胞は、1〜4週間培養した後に、対象のイヌに導入することができる。イヌCD20特異的キメラ抗原受容体を発現したT細胞は、対象のイヌに導入する前に凍結保存してもよい。
【0058】
本実施形態のT細胞は、上述した抗イヌCD20抗体又は抗体フラグメントの抗原結合特性を有しており、抗原プロセシングと無関係に、非MHC拘束的に、イヌCD20発現細胞を攻撃することができる。したがって、主要な腫瘍免疫回避機構に打ち勝つことができる。したがって、本実施形態のT細胞は、イヌB細胞性リンパ腫の強力な治療剤として有用である。
【0059】
[イヌCD20特異的キメラ抗原受容体を発現したT細胞を使用したイヌB細胞性リンパ腫の治療方法]
1実施形態において、本発明は、上述したイヌCD20特異的キメラ抗原受容体を発現したT細胞を、イヌに投与する工程を含む、イヌB細胞性リンパ腫の治療方法を提供する。
【0060】
T細胞を投与する前に、対象のイヌに予めシクロフォスファミド又はフルダラビンを投与し、イヌ体内のT細胞を減少させておくことが好ましい。これにより、投与したイヌCD20特異的キメラ抗原受容体がイヌの体内で増殖しやすくなる。
【0061】
投与された、イヌCD20特異的キメラ抗原受容体を発現したT細胞は、イヌ体内でCD20発現細胞に遭遇した際に、抗原結合ドメインで細胞表面のCD20を認識し、その認識シグナルを、C末端側のζ鎖を通じてT細胞内に伝達し活性化する。その結果、T細胞の細胞質内に蓄えられていたパーフォリン・グランザイム等の細胞傷害性タンパク質を放出することによって、CD20発現細胞にアポトーシスを誘導する。
【0062】
本実施形態の治療方法によれば、このような機構により、イヌB細胞性リンパ腫を治療することができる。
【実施例】
【0063】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0064】
〔実験例1〕
[抗イヌCD20モノクローナル抗体の作製]
(イヌCD20安定発現NRK細胞株の樹立)
すでに報告されているイヌCD20 cDNAの塩基配列をもとに、健常イヌ浅頸リンパ節由来cDNAを鋳型としたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、イヌCD20 cDNAをクローニングした。
【0065】
続いて、イヌCD20 cDNAを発現ベクターに組み込み、ラット腎臓由来細胞株であるNRK細胞株に遺伝子導入後、ネオマイシン存在下で培養し、イヌCD20安定発現NRK細胞株を樹立した。
【0066】
(ラットの免疫及びハイブリドーマの作製)
従来、遺伝子情報を基に作製した抗原については、大腸菌等を用いて作成した組み換えタンパク質を免疫抗原として主に用いられてきた。しかし、組み換えタンパク質を免疫して得られたほとんどの抗体は、目的の分子の1次構造を認識することができても、細胞表面に発現した場合の3次元構造を認識することができない。
【0067】
そこで、本発明者らはラット腸骨リンパ節法によるラットの免疫を行った。より具体的には、上述したイヌCD20安定発現NRK細胞株を、NRK細胞株と同系のラットに免疫した。これにより、NRK細胞株の細胞表面に発現した非自己のイヌCD20のみを認識する抗体が得られると考えられた。
【0068】
イヌCD20安定発現NRK細胞株を、アジュバントであるTiter Max Gold(CytRx社)と混合し、Wistarラット(日本エスエルシー株式会社)のフットパッドに投与し、初回免疫7日後及び14日後にブーストを行った。続いて、最終免疫から3日後に、膝下リンパ節及び鼡径リンパ節を採取し、リンパ球を回収した。続いて、回収したリンパ球及びマウスミエローマ細胞株であるP3X63−Ag8.653細胞を細胞融合した。得られた細胞を、HAT培養液で培養して、リンパ球とマウスミエローマ細胞とが融合したハイブリドーマを選択した。
【0069】
(ハイブリドーマのスクリーニング)
得られたハイブリドーマの培養上清中の抗体を、イヌCD20安定発現NRK細胞株と反応させ、フローサイトメトリー(FACS)により、反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングした。2次抗体としては、蛍光標識された抗ラットIgG抗体を使用した。
【0070】
更に、候補のハイブリドーマの培養上清中の抗体を、イヌ末梢リンパ球と反応させ、FACSにより、反応性を有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングした。
【0071】
有望なハイブリドーマについて、限界希釈法によりクローニングを行い、ハイブリドーマ細胞株Clone12を得た。
【0072】
〔実験例2〕
[FACS及びRT−PCRによる抗イヌCD20モノクローナル抗体の解析]
ハイブリドーマ細胞株Clone12が産生するモノクローナル抗体mAb−Clone12を、イヌ末梢リンパ球と反応させ、FACSによりCD20の発現を解析した。
【0073】
図1(a)は、FACS解析の結果を示すグラフである。26.5%のリンパ球がCD20陽性(
図1(a)中、「CD20
+」と示す。)であった。
【0074】
続いて、CD20陰性細胞(
図1(a)中、「CD20
−」と示す。)及びCD20陽性細胞をFACSのソーティング機能により分取した。それぞれの細胞画分について、RT−PCRにより、CD20のmRNAの発現を検討した。陽性対象として、アクチンのmRNAの発現を検討した。CD20遺伝子の増幅用プライマーには、P−CD20F(配列番号11)及びP−CD20R(配列番号12)を使用した。また、アクチン遺伝子の増幅用プライマーには、P−actinF(配列番号13)及びP−actinR(配列番号14)を使用した。
【0075】
図1(b)は、RT−PCRの結果を示す写真である。CD20陰性細胞では、CD20のmRNAの発現が認められなかったのに対し、CD20陽性細胞では、CD20のmRNAの発現が認められた。この結果は、モノクローナル抗体mAb−Clone12が、イヌの生きた細胞表面のCD20を認識することを示す。
【0076】
また、
図1(a)のFACSの結果において、CD20陰性細胞とCD20陽性細胞のピークが明確に分かれていることから、モノクローナル抗体mAb−Clone12は非常に良好な反応性を示すことが明らかとなった。
【0077】
〔実験例3〕
[イヌCD20安定発現NRK細胞株を用いた免疫沈降及びウエスタンブロットによる抗イヌCD20モノクローナル抗体の解析]
上述したイヌCD20安定発現NRK細胞株に導入されたイヌCD20遺伝子には、T7タグが連結されている。したがって、イヌCD20安定発現NRK細胞株が発現するCD20タンパク質は、抗T7抗体を用いて検出することができる。
【0078】
イヌCD20安定発現NRK細胞株の破砕物500μgを、モノクローナル抗体mAb−Clone12 3μg/mLと反応させた後、プロテインGセファロースビーズで免疫沈降した。続いて、遠心した沈殿をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離後、PVDF膜に転写し、ウサギ抗T7抗体を用いたウエスタンブロット解析により検出した。
【0079】
図2(a)は、免疫沈降及びウエスタンブロット解析の結果を示す写真である。その結果、CD20の分子量に匹敵する35kDa付近に陽性のバンドを見出した(
図2(a)、レーン4)。また、陰性対照として、以下の3つのサンプルを同様に解析した。
(陰性対照1)モノクローナル抗体mAb−Clone12の代わりにアイソタイプコントロール(ラットIgG2b)3μg/mLを使用したもの(
図2(a)、レーン3)。
(陰性対照2)イヌCD20を導入していないNRK細胞株の破砕物500μgを、モノクローナル抗体mAb−Clone12 3μg/mLと反応させた後、プロテインGセファロースビーズで免疫沈降し、続いて、遠心した沈殿をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離後、PVDF膜に転写し、ウサギ抗T7抗体を用いたウエスタンブロット解析により検出したもの(
図2(a)、レーン2)。
(陰性対照3)モノクローナル抗体mAb−Clone12の代わりにアイソタイプコントロール(ラットIgG2b)3μg/mLを使用した点以外は、陰性対照2と同様の検討を行ったもの(
図2(a)、レーン1)。
【0080】
また、陽性対照として、
図2(a)のレーン1〜4でサンプルとして用いた各NRK細胞株の破砕物を、免疫沈降せずにウサギ抗T7抗体を用いたウエスタンブロット解析により検出した。結果を
図2(b)に示す。
【0081】
その結果、陰性対照1〜3においては、イヌCD20のバンドは検出されなかった。以上の結果は、モノクローナル抗体mAb−Clone12が、イヌのCD20を認識することを更に補強するものである。
【0082】
〔実験例4〕
[イヌ末梢リンパ球を用いた免疫沈降及びウエスタンブロットによる抗イヌCD20モノクローナル抗体の解析]
イヌ末梢リンパ球の破砕物500μgを、モノクローナル抗体mAb−Clone12 3μg/mLと反応させた後、プロテインGセファロースビーズで免疫沈降した。続いて、遠心した沈殿をポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離後、PVDF膜に転写し、ウサギ抗ヒトCD20ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット解析により検出した。
【0083】
図3は、免疫沈降及びウエスタンブロット解析の結果を示す写真である。その結果、CD20の分子量に匹敵する35kDa付近に陽性のバンドを見出した(
図3、レーン2)。また、陰性対照として、モノクローナル抗体mAb−Clone12の代わりにアイソタイプコントロール(ラットIgG2b)3μg/mLを使用して同様の検討を行った(
図3、レーン1)。その結果、陰性対照においては、イヌCD20のバンドは検出されなかった。
【0084】
以上の結果は、モノクローナル抗体mAb−Clone12が、イヌのCD20を認識することを更に補強するものである。
【0085】
〔実験例5〕
[mAb−Clone12陽性細胞とB細胞との関連の検討]
(FACS及びRT−PCR)
ハイブリドーマ細胞株Clone12が産生するモノクローナル抗体mAb−Clone12を、イヌ末梢リンパ球と反応させ、FACSによりCD20及びB細胞マーカーであるCD21の発現を解析した。
【0086】
図4(a)は、FACS解析の結果を示すグラフである。CD20陽性CD21陽性細胞が7.4%、CD20陽性CD21陰性細胞が15.8%、CD20陰性CD21陽性細胞が22.6%存在していた。
【0087】
続いて、CD20陽性CD21陽性細胞(
図4(a)中、「A」と示す。)、CD20陽性CD21陰性細胞(
図4(a)中、「B」と示す。)及びCD20陰性CD21陽性細胞(
図4(a)中、「C」と示す。)をFACSのソーティング機能により分取した。それぞれの細胞画分について、RT−PCRにより、CD20及びCD21のmRNAの発現を検討した。陽性対象として、アクチンのmRNAの発現を検討した。CD20遺伝子の増幅用プライマーには、P−CD20F(配列番号11)及びP−CD20R(配列番号12)を使用した。また、CD21遺伝子の増幅用プライマーには、P−CD21F(配列番号15)及びP−CD21R(配列番号16)を使用した。また、アクチン遺伝子の増幅用プライマーには、P−actinF(配列番号13)及びP−actinR(配列番号14)を使用した。
【0088】
図4(b)は、RT−PCRの結果を示す写真である。画分A及びBの細胞では、CD20のmRNAの発現が認められたのに対し、画分Cの細胞では、CD20のmRNAの発現が認められなかった。また、画分A及びCの細胞では、CD21のmRNAの発現が認められたのに対し、画分Bの細胞では、CD21のmRNAの発現が認められなかった。以上の結果は、モノクローナル抗体mAb−Clone12が、イヌの生きた細胞表面のCD20を認識することを更に補強するものである。また、モノクローナル抗体mAb−Clone12は、イヌ末梢リンパ球中のB細胞の一部と反応し、リンパ球細胞表面上のCD20分子を認識することが明らかとなった。
【0089】
〔実験例6〕
[モノクローナル抗体mAb−Clone12をコードする遺伝子の塩基配列解析]
ハイブリドーマClone12から調製したcDNAを鋳型として、PCRにより抗体重鎖可変領域遺伝子を増幅し、シークエンス用ベクターpGEM−easy T vector(プロメガ社)にクローン化し、塩基配列を解析した。抗体重鎖可変領域遺伝子増幅用プライマーには、P−H
VF1(配列番号17)、P−H
VF2(配列番号18)及びP−H
VR(配列番号19)を使用した。モノクローナル抗体mAb−Clone12の重鎖可変領域遺伝子の塩基配列を配列番号9に示す。また、重鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号7に示す。また、重鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1〜3に示す。
【0090】
同様に、ハイブリドーマClone12から調製したcDNAを鋳型として、PCRにより抗体軽鎖可変領域遺伝子を増幅し、シークエンス用ベクターpGEM−easy T vector(プロメガ社)にクローン化し、塩基配列を解析した。抗体軽鎖可変領域遺伝子増幅用プライマーには、P−L
VF1(配列番号20)、P−L
VF2(配列番号21)及びP−L
VR(配列番号22)を使用した。モノクローナル抗体mAb−Clone12の軽鎖可変領域遺伝子の塩基配列を配列番号10に示す。また、軽鎖可変領域のアミノ酸配列を配列番号8に示す。また、軽鎖可変領域のCDR1〜3のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号4〜6に示す。