【解決手段】低曇点型温度応答性ポリマー組成物を調製する調製工程と、低曇点型温度応答性ポリマー組成物で細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器を準備する準備工程と、細胞を、200個/mm
以上の細胞密度で、被覆細胞培養器の培養面上に播種する播種工程と、播種した細胞を培養する培養工程とを備える、細胞構造体の製造方法により製造された細胞構造体からなることを特徴とする、移植材料。
前記調製工程では、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体と、核酸と、を混合して低曇点型温度応答性ポリマー組成物を調製することを特徴とする、請求項1に記載の移植材料。
前記準備工程では、前記被覆細胞培養器において、該被覆細胞培養器の培養面が、単位面積当たりに有する2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート及び/又はその誘導体の重合体の量が、5〜200ng/mm2である、請求項1に記載の移植材料。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の移植材料の実施形態について詳細に例示説明する。
【0014】
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(以下、「DMAEMA」ともいう)の重合体は、温度応答性高分子として公知であり、その下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature、以下、「曇点」ともいう。)は32℃程度である。なお、本願明細書中では、組成物の「曇点」とは、必ずしも厳密な意味で、「所定の温度未満では溶解するが、所定の温度以上では不溶化して沈殿する、その温度」を指すものではなく、「不溶化して沈殿した組成物を所定の温度未満の条件下で溶解する際に、溶解に要する時間が10分以上である、その温度」をも指す。
先般、発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、室温(25℃)程度の曇点を有する低曇点型温度応答性ポリマー組成物(以下、単に「温度応答性ポリマー組成物」ともいう)を調製することに成功した。低曇点型温度応答性ポリマー組成物としては、分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーからなるもの、混合型温度応答性ポリマー組成物がある。
分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーは、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の繰り返し単位(後述)、及び該DMAEMAの加水分解物の繰り返し単位(後述)を含む。発明者らは、室温のクリーンベンチ内で操作しても、培養中の細胞を細胞培養器に接着させ続けることができ、培養した細胞構造体をそのままの状態で回収することができる、上記分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーを被覆してなる細胞培養器を調製した。
また、混合型温度応答性ポリマー組成物は、(1)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体と、(2)2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)と、(3)核酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、デキストラン硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリン酸、ポリビニル安息香酸、硫酸化多糖類、カードラン及びポリアルギン酸並びにこれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される一種以上のアニオン性物質とを含む((2)トリスは任意選択的に含む)。発明者らは、室温のクリーンベンチ内で操作しても、培養中の細胞を細胞培養器に接着させ続けることができ、培養した細胞構造体をそのままの状態で回収することができる、上記組成物を被覆してなる細胞培養器を調製した。
【0015】
本発明の実施形態の移植材料は、以下に詳述する本発明の実施形態の細胞構造体の製造方法により製造された細胞構造体からなることを特徴とする。
【0016】
(細胞構造体の製造方法)
本発明の実施形態の細胞構造体の製造方法は、
低曇点型温度応答性ポリマー組成物を調製する調製工程と、
前記低曇点型温度応答性ポリマー組成物で細胞培養器の培養面を被覆して、被覆細胞培養器を準備する準備工程と、
細胞を、200個/mm
2以上の細胞密度で、前記被覆細胞培養器の前記培養面上に播種する播種工程と、
前記播種した細胞を培養する培養工程と
を備える。
【0018】
(調製工程)
本発明の実施形態の細胞構造体の製造方法では、まず、低曇点型温度応答性ポリマー組成物(以下、「温度応答性ポリマー組成物」ともいう)を調製する(調製工程)。
【0019】
−温度応答性ポリマー組成物の製造方法−
温度応答性ポリマー組成物は、例えば、下記の通り、一例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法、及び別の例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法により製造することができる。
【0020】
以下、一例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法について記載する。この例では、低曇点型温度応答性ポリマー組成物は、分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーからなる。
【0021】
すなわち、この例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法では、まず、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含む混合物を調製する(混合物調製工程)。ここで、混合物は、重合禁止剤及び水を更に含む。
【0022】
2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)としては、市販品を用いることができる。重合禁止剤としては、メチルヒドロキノン(MEHQ)、ヒドロキノン、p−ベンゾキノリン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、N−nitroso−N−phenylhydroxylamine(Cupferron)、t−ブチルハイドロキノン、等が挙げられる。また、市販のDMAEMAに含まれるMEHQ等をそのまま用いてもよい。水としては、超純水が挙げられる。
【0023】
重合禁止剤の混合物に対する重量割合は、0.01%〜1.5%であることが好ましく、0.1%〜0.5%であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、ラジカル重合反応の暴走を抑制して、制御できない架橋を低減することができ、製造される分子内イオン複合体型応答性ポリマーの溶媒に対する溶解性を確保することができる。
水の混合物に対する重量割合は、1.0%〜50%であることが好ましく、9.0%〜33%であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、側鎖の加水分解反応の反応速度と、重合するポリマー鎖の成長反応の反応速度とを、バランスよく調和させることができる。これにより、側鎖が加水分解されたDMAEMAに対する、側鎖が加水分解されていないDMAEMAの割合(共重合割合)が1.0〜20程度の分子内イオン複合体型応答性ポリマーを得ることができる。
【0024】
次いで、この例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法では、混合物に紫外線を照射する(紫外線照射工程)。ここで、紫外線は、不活性雰囲気下において、照射される。DMAEMAは、紫外線の照射により、ラジカル重合して、ポリマーとなる。
この工程では、例えば、透明な密封バイアルに、上記混合物を加え、不活性ガスをバブリングすることによってバイアル内を不活性雰囲気とした後に、バイアルの外部から紫外線照射装置を用いて紫外線を照射する。
【0025】
紫外線の波長としては、210nm〜600nmであることが好ましく、360nm〜380nmであることが更に好ましい。上記範囲とすれば、効率よく重合反応を進行させることができ、所期の共重合割合を有する高分子材料を安定的に得ることができる。また、製造したポリマー材料が着色することを防ぐこともできる。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン等が挙げられる。
【0026】
反応条件に関して、温度条件としては、15℃〜50℃であることが好ましく、20℃〜30℃であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、熱による開始反応を抑制し、光照射による開始反応を優先的に進行させることができる。また、加水分解反応の反応速度をポリマー鎖の成長反応の反応速度に対してバランスのよいものにすることができる。
反応時間としては、7時間〜24時間であることが好ましく、17時間〜21時間であることが更に好ましい。上記範囲とすれば、分子内イオン複合体型応答性ポリマーを高収率で得ることができ、また、光分解反応や不要な架橋反応を抑制しながらラジカル重合を行うことができる。
【0027】
なお、混合物調製工程において混合物が調製され終えてから、紫外線照射工程において紫外線の照射が開始されるまでの時間は、10分〜1時間であることが好ましい。
【0028】
混合物を加えたバイアルの内部の気体を置換して、バイアル内を不活性雰囲気とする際には、10分程度の時間を要する。そのため、上記時間を10分未満とすると、ラジカル重合に必要となる不活性雰囲気が得られない虞がある。また、混合物中では、DMAEMAの加水分解反応が、紫外線の照射が開始される前に開始される。そのため、上記時間を1時間超とすると、ラジカル重合反応に不活性なメタクリル酸が混合物中に多数生じてしまう。
【0029】
この例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法では、混合物に水が含まれるため、DMAEMAのラジカル重合反応と、ポリ2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(PDMAEMA)の側鎖のエステル結合の加水分解反応とを、拮抗させることができる。
この拮抗により、得られる生成物は、式(I)で表される繰り返し単位(A)
【化1】
、及び式(II)で表される繰り返し単位(B)
【化2】
を含むポリマーとなる。
そのため、ポリマーが有するカチオン性官能基、すなわち、ジメチルアミノ基と、ポリマーが有するアニオン性官能基、すなわち、側鎖のエステル結合が加水分解されてできたカルボキシル基の両方を、バランスよく備えることができる。そして、この例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法によれば、カチオン性官能基及びアニオン性官能基を有する、ポリ(2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)由来のポリマーを、少ない工程で簡便に製造することができる。
【0030】
なお、この例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法と同一の製造方法ではなくとも、DMAEMA、重合禁止剤、及び水が、紫外線照射時に反応系中に共存していれば、この例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法の上記効果と同様の効果を得ることができる。
例えば、DMAEMA及び重合禁止剤を含む混合物と、水とを別々に準備し、次いで、混合物と水とに不活性ガスをバブリングし、その後、混合物と水とを不活性雰囲気下で混合すると同時に紫外線を照射するという、温度応答性ポリマー組成物の製造方法も、この例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法に含めることができる。
【0031】
本発明の実施形態の細胞構造体の製造方法において用いられる分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーは、上記例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法により製造される。
【0032】
ここで、分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーとしては、数平均分子量(Mn)が、10kDa〜500kDaである分子が好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜10.0である分子が好ましい。
分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーの分子量は、紫外線の照射時間及び照射強度の条件により、適宜調整することができる。
【0033】
この分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーによれば、曇点を、例えば室温(25℃)以下に、低下させることができる。
【0034】
この分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーでは、曇点以上の温度で形成された分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーの不溶化物が、室温(約25℃)条件下で再溶解するまでの時間が顕著に遅延する。これは、得られた分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーは、分子内にカチオン性官能基とアニオン性官能基とが存在するため、高い自己凝集性を有するためであると推定される。
【0035】
また、この分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーを用いて、後述するように、培養面にこの分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーを被覆してなる細胞培養器(例えば、細胞培養用プレート、細胞培養用シート等を調製することができる。
【0036】
更に、本発明の実施形態の細胞構造体の製造方法において用いられる分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーによれば、後述するように、細胞を適切な培養条件で培養することにより、ペレット構造(凝集体様の構造)を有する細胞構造体を形成させることができる。
【0037】
この分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーが有する、カチオン性官能基(2−N,N−ジメチルアミノ基)の官能基数と、アニオン性官能基(カルボキシル基)の官能基数との比(C/A比)は、0.5〜32であることが好ましく、4〜16であることが更に好ましい。
【0038】
C/A比を上記範囲とすれば、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。上記C/A比を有する分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーでは、上記分子内イオン複合体型温度応答性ポリマー中でカチオン性官能基とアニオン性官能基とが、イオン結合的に分子間及び/又は分子内の凝集に作用して、分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーの凝集力が強くなった結果であると推測される。
【0039】
また、C/A比を上記範囲とすれば、上記分子内イオン複合体型温度応答性ポリマー中の正電荷と負電荷とのバランスを特に好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができ、また、上記分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーの親水性と疎水性とのバランスを特に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができるものと推定される。
【0040】
以下、別の例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法について記載する。この例では、低曇点型温度応答性ポリマー組成物は、DMAEMAの重合体である温度応答性ポリマーを含む混合型温度応答性ポリマー組成物である。
【0041】
すなわち、この例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法では、まず、混合型温度応答性ポリマー組成物を調製する(混合物調製工程)。具体的には、(1)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体と、(2)2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)と、(3)核酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、デキストラン硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリリン酸、ポリビニル安息香酸、硫酸化多糖類、カードラン及びポリアルギン酸並びにこれらのアルカリ金属塩からなる群から選択される一種以上のアニオン性物質とを混合する((2)トリスに関しては任意選択的とすることもできる)。
【0042】
(1)のDMAEMA及び/又はその誘導体の重合体は、温度応答性ポリマーであり、その曇点は32℃である。(2)のトリスは、曇点の若干の低下、及び/又は曇点よりも高温で形成されたポリマーが、曇点以下に冷却された際に再溶解する速度を低減させる役割を果たし、また、疎水化されたポリマー層中でも親水性を維持しながら、アミノ基に由来する陽電荷により細胞に刺激を与える役割を果たすと推定される。(3)のアニオン性物質は、培養する細胞の遊走や配向を可能にする役割や細胞傷害性を抑制する役割を果たすと推定される。
【0043】
この混合型温度応答性ポリマー組成物によれば、曇点を室温(25℃)以下に低減させることができる。
上記組成物では、DMAEMA及び/又はその誘導体の重合体の側鎖とトリスとが、互いに相互作用(例えば、架橋する作用)して、上記重合体が凝集しやすくなっていると推定される。
【0044】
ここで、上記(1)について、DMAEMA及び/又はその誘導体の重合体としては、数平均分子量(Mn)が、10kDa〜500kDaである分子が好ましい。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.1〜6.0である分子が好ましい。
【0045】
また、(1)のDMAEMAの誘導体としては、例えば、メタクリレートのメチル基の水素原子をハロゲン置換した誘導体、メタクリレートのメチル基を低級アルキル基で置換した誘導体、ジメチルアミノ基のメチル基の水素原子をハロゲン置換した誘導体、ジメチルアミノ基のメチル基を低級アルキル基で置換した誘導体が挙げられる。
【0046】
上記(2)について、トリスは、純度99.9%以上の純物質であるか、又は、トリス水溶液を、アルカリ性物質の添加などにより、使用時に中性又は塩基性とすることが好ましい。トリスは、塩酸塩の状態で市販されているところ、これを用いた場合には、トリス水溶液のpHが下がるため、組成物の曇点が70℃程度にまで上昇してしまう。そのため、トリス塩酸塩は好ましくない。
【0047】
上記(3)に列挙したアニオン性物質のうち、核酸は、DNA、RNA、その他1本鎖、2本鎖、オリゴ体、ヘアピン等の人工核酸等が挙げられる。ここで、使用する核酸は、その遺伝子を発現する目的のものの他、siRNA、アンチセンス、デコイ等、特定の遺伝子の発現を抑制する目的のものとしてもよく、例えば、腫瘍組織において発現されるVEGFをノックダウンする目的の核酸等が挙げられる。
【0048】
また、上記(3)に列挙したアニオン性物質は、ある程度の大きさ、例えば1kDa〜5,000kDaの分子量(M)を有していることが好ましい。
分子量を上記範囲とすれば、アニオン性物質は、カチオン性物質とイオン結合して、カチオン性物質を、長時間捕捉する役割を果たすことができ、安定したイオン複合体微粒子を形成させることがでる。また、一般的にカチオン性物質が有する、細胞の細胞膜表面に対する静電的相互作用に起因する細胞傷害性を緩和することもできる。
【0049】
(3)に列挙したアニオン性物質の他にも、例えば、カチオン性ポリマーであるポリ(4−アミノスチレン)の4−位のアミノ基に対してシュウ酸などのジカルボン酸を脱水縮合させることによって、アニオン性官能基を導入した、実質的にアニオン性物質として機能するポリマー誘導体も、用いることができる。
【0050】
なお、上記(3)に列挙したアニオン性物質は、二種以上含まれていてもよい。
【0051】
ここで、(1)2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体に対する、(2)2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)の割合((2)/(1))が、1.0以下とした混合型温度応答性ポリマー組成物を用いることが好ましい。
なお、割合((2)/(1))は、重量割合であるものとする。
【0052】
上記割合の混合型温度応答性ポリマー組成物を用いた場合、後述の培養工程で、細胞構造体を形成しやすくすることができる。この組成物によれば、上記組成物の親水性と疎水性とのバランスを更に好適にすることができる。そして、この好適なバランスが、培養面への細胞の接着性を好適に調整し、細胞の遊走や配向を活性化していると推定される。
【0053】
また、上記割合は、0.1以上あることが好ましい。上記割合を0.1以上とすることにより、曇点を低減させるという上記効果が得られやすい。また、細胞構造体を形成しやすくするという上記効果が得られやすい。
【0054】
上記と同様の理由により、上記割合((2)/(1))は、0.1〜0.5であることが更に好ましい。
【0055】
ここで、混合型温度応答性ポリマー組成物中のC/A比(正電荷/負電荷)が、0.5〜16であることが好ましい。
なお、混合型温度応答性ポリマー組成物において、C/A比とは、組成物中に含まれる物質が有する正電荷の、組成物中に含まれる物質が有する負電荷に対する割合を指す。具体的には、C/A比は、(1)DMAEMA及び/又はその誘導体の重合体のモル数をN1、(3)アニオン性物質のモル数をN3としたときに、{(重合体1分子当たりの正電荷)×N1}/{(アニオン性物質1分子当たりの負電荷)×N3}という式で表される。
またなお、本願明細書では、アニオン性物質をDNAとした場合、アニオン性物質1分子当たりの負電荷数は、DNAの塩基対の数(bp数)×2で計算し、分子量(Da)は、bp数×660(ATペア及びCGペアの平均分子量)で計算するものとする。
【0056】
C/A比を0.5〜16とすることにより、細胞構造体を形成させやすくするという上記効果が得られやすくなる。上記組成物中の正電荷と負電荷とのバランスを好適にして、正電荷による細胞傷害性を抑制することができると推定される。また、上記組成物の親水性と疎水性とのバランスを更に好適にして、細胞の遊走や配向を生じやすくすることができると推定される。
【0057】
上記と同様の理由により、上記C/A比は、2〜10とすることが更に好ましく、特にC/A比は8付近であることが最も好ましい。
【0058】
なお、上記の別の例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法では、(2)2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(トリス)を必ずしも用いなくてもよく、この例による低曇点型温度応答性ポリマー組成物は、(2)トリスを含まなくてもよい。
【0059】
本発明では、上記の別の例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法により製造される、DMAEMAの重合体である温度応答性ポリマーを含む混合型温度応答性ポリマー組成物である、低曇点型温度応答性ポリマー組成物であることが好ましい。そして、本発明の移植材料の生体組織の治療における治癒効果を高める観点から、混合型温度応答性ポリマー組成物に含まれる(3)アニオン性物質として、核酸を用いることが好ましい。
【0060】
なお、本発明における低曇点型温度応答性ポリマー組成物には、前述の分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーと、前述のアニオン性物質とを含むものも含まれる。この場合、前述のC/A比は、カチオン性官能基(2−N,N−ジメチルアミノ基)を有する式(I)で表される繰り返し単位(A)のモル数をX1、前述のアニオン性官能基(カルボキシル基)を有する式(II)で表される繰り返し単位(B)のモル数をX2、アニオン性物質のモル数をX3としたときに、X1/{(X2+(アニオン性物質1分子当たりの負電荷)×X3)}という式で表される。
【0061】
(準備工程)
次いで、調製した低曇点型温度応答性ポリマー組成物を細胞培養器の培養面に被覆して、被覆細胞培養器を準備する(準備工程)。
【0062】
この被覆細胞培養器によれば、細胞を培養した場合に、例えば、室温のクリーンベンチ内で操作する際においても、上記組成物はある程度の時間、具体的には5分〜40分間、固化したままであるため、上記組成物、ひいては培養中の細胞を細胞培養器に接着させ続けることができる。
【0063】
特に、低曇点型温度応答性ポリマー組成物として、(2)トリスを含む混合型温度応答性ポリマー組成物を用いた場合、下記の作用効果を奏する。
上記被覆細胞培養器では、培養工程で、上記組成物に含まれるDMAEMA及び/又はその誘導体の重合体の疎水性側鎖と、トリスのアミノ基とが、何らかの相互作用をしながら、細胞に刺激を与えるものと推定される。
また、上記組成物に含まれる(3)アニオン性物質は、培養工程で、上記組成物中の正電荷と負電荷とのバランスを好適にして、細胞傷害性を抑制し(哺乳類細胞の細胞膜の表面は負電荷を帯びているため、カチオン性物質は細胞傷害性を有することが多い)、且つ、上記組成物の親水性と疎水性とのバランスを好適にして、細胞の遊走や配向を可能にするものと推定される。
なお、上記被覆細胞培養器は、培養面に上記(1)及び上記(2)のみからなる組成物を被覆してなる被覆細胞培養器と比較して、細胞毒性、細胞傷害性が抑制され、細胞培養に適した表面状態を有していると推定される。
【0064】
ここで、上記の低曇点型温度応答性ポリマー組成物で培養面が被覆された被覆細胞培養器では、該細胞培養器の培養面が単位面積当たりに有する、組成物中に含まれる、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体の量が、5〜200ng/mm
2であることが好ましい。
なお、「組成物中に含まれる、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び/又はその誘導体の重合体の量」とは、低曇点型温度応答性ポリマー組成物が分子内イオン複合体型温度応答性ポリマーからなる場合には、前述の混合物調製工程に供される、2−N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)の量を指す。
【0065】
上記重合体の単位面積当たりの量を、5〜200ng/mm
2とすれば、細胞構造体を形成しやすくするという上記細胞培養用組成物の効果が得られやすい。
【0066】
上記と同様の理由及びコスト上の理由により、上記重合体の単位面積当たりの量は、5〜50ng/mm
2であることが更に好ましい。
【0067】
ここで、上記被覆細胞培養器は、例えば、曇点以下の温度まで冷却した低曇点型温度応答性ポリマー組成物の水溶液を、被覆細胞培養器のウェルの底面に流延させて、その後、37℃のインキュベーター中で静置し、低曇点型温度応答性ポリマー組成物を培養皿の底面へ沈降させることにより調製することができる。
なお、上記培養皿は、上記組成物を被覆するために使用した水(上澄液)を除去した後に使用することも可能であり、また、水を除去した後に上記組成物を乾燥させてから使用することも可能である。
【0068】
(播種工程)
そして、準備した被覆細胞培養器に、細胞を、200個/mm
2以上の細胞密度で、被覆細胞培養器の培養面上に播種する(播種工程)。
この工程は、例えば、37℃のインキュベーター中に静置しておいた被覆細胞培養器を、室温のクリーンベンチに取り出して、行うことができる。
【0069】
上記細胞密度に関して、例えば、200mm
2の培養面の面積及び1mLの培地容量を有する24ウェルプレートに、播種する場合に、200個/mm
2以上の細胞密度で(好ましくは1,000個/mm
2以上の細胞密度)播種を行うためには、4×10
4個/mL以上(好ましくは20×10
4個/mL以上)の細胞密度を有する細胞浮遊液を用いる必要がある。
【0070】
一例の細胞構造体の製造方法は、軟骨細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、心筋細胞等の間葉系細胞に対して、特に好適に適用することができる。初代細胞の場合は、コロニーを形成する接着性細胞を選択すれば良く、当業者によって適宜選択可能である。
【0071】
上記細胞密度で細胞を播種すれば、詳細なメカニズムは不明であるが、下記の培養工程で、ペレット状の構造を有する細胞構造体を形成させることができる。この細胞構造体は、そのペレット状の構造内に生存している細胞を有する。
【0072】
また、上記細胞密度は、細胞の栄養不足、細胞の酸欠による壊死を防ぐ観点から、3000個/mm
2以下とすることが好ましい。
【0073】
そして、上記細胞密度は、400個/mm
2以上とすることが更に好ましく、1000個/mm
2〜2000個/mm
2とすることが更に好ましい。上記細胞密度を上記範囲とすれば、下記の培養工程で、細胞が培養皿に接着・伸展しながら増殖する細胞に対して、十分な量の核酸を送達することが可能となり、また、ペレット状の構造を有する細胞構造体を形成しやすくするという上記効果が得られやすい。
【0074】
(培養工程)
最後に、播種された細胞を培養する(培養工程)。
この工程は、例えば、一般的な37℃の細胞インキュベーターを用いて行うことができる。
【0075】
また、培養時間、使用される培地等の培養条件は、細胞種や実験目的に基づいて、当業者は適切に定めることができる。
【0076】
本発明において、低曇点型温度応答性ポリマー組成物として、別の例の温度応答性ポリマー組成物の製造方法により製造される、混合型温度応答性ポリマー組成物を用い、混合型温度応答性ポリマー組成物に含まれる(3)アニオン性物質として、核酸を用いた場合、培養工程では、混合型温度応答性ポリマー組成物から播種された細胞に、遺伝子を高効率で導入する観点から、培養温度として、35℃〜38℃であることが好ましく、37℃であることが特に好ましい。また、培養時間としては、細胞種により増殖速度が異なり、同種の細胞でもその状態や継代回数により増殖速度は変動するため、特に限定されないが、細胞群が当業者により判断されるコンフルエントの状態を超えない程度の時間であることが好ましく、例えば、皮下脂肪由来の間葉系幹細胞の場合には、通常1〜10日間程度である。
【0077】
一例の細胞構造体の製造方法によれば、軟骨細胞などが分化したときに見られるペレット状の構造と同様な構造を有する、ペレット状の細胞構造体を細胞培養器内に再現することを可能にし、分化した細胞中で発現しているDNA、mRNA、タンパク質等の情報を得ることができる。具体的には、細胞内におけるタンパク質間の相互作用や、細胞の生理活性物質に対する応答性の解析などが可能になる。そのため、一例の細胞構造体の製造方法は、医薬品の研究や分子生物学の基礎研究のための有用なツールを提供することができる。
【0078】
(細胞構造体)
本発明の移植材料に用いられる一例の細胞構造体は、上記一例の細胞構造体の製造方法により製造することができる。
【0079】
発明者らは、ペレット状の細胞構造体の製造方法、及び該方法により製造されたペレット状の細胞構造体に関する前述の発見に加えて、ペレット状の細胞構造体は、生体内の所定の部位におく、又は生体内の所定の部位の環境に似た環境中におくことによって、その部位の組織に適合した細胞(その部位におけるあるべき型の細胞)に分化する機能を有することを見出した。本発明の移植材料の製造方法は、これらの発見に基づくものである。
【0080】
(移植材料)
本発明の移植材料は、本発明の実施形態の細胞構造体の製造方法により製造された細胞構造体からなる。
本発明の移植材料によれば、生体組織の治療において極めて高い治癒効果を有する移植材料を提供することができる。
凝集体の形態を有する細胞構造体は、細胞間マトリックスで被覆され、成熟したあらゆる生体組織に頑強に接着する性質がある。調製した細胞構造体を、生体組織の治療部位に付着させることによって、細胞構造体を早期に、治療部位周辺に伸展・生着させることができ、治療部位を早期に治癒することが可能となる。
生体組織の治療としては、例えば、吻合、病巣部位の治癒、欠損組織の補綴、ホルモン増殖因子の徐放DDS療法等が挙げられる。
生体組織としては、例えば、血管、皮膚、気管、軟骨、歯根、骨、皮下組織等が挙げられる。
【0081】
調製した細胞構造体は、コラーゲンやフィブロネクチンに対して頑強に接着する性質がある。
特に、移植材料において、低曇点型温度応答性ポリマー組成物が、混合型温度応答性ポリマー組成物であり、該混合型温度応答性ポリマー組成物が、(3)アニオン性物質として、核酸を含み、該核酸が、抗凝固性タンパク質をコードする遺伝子であり、血管の吻合術において移植材料を吻合部位に貼り付けた場合、細胞構造体が、物理的に針孔を塞いで、血液の漏れを防ぎつつ、細胞構造体で発現された抗凝固性タンパク質が、吻合部を通過する血液の凝固を抑制する、という効果が得られる。この場合、細胞構造体は、血栓溶解剤として用いることができる。
抗凝固性タンパク質としては、納豆キナーゼ、トロンボプラスチン、VEGF等が挙げられる。
【0082】
また、調製した細胞構造体は、癌病巣に対して頑強に接着する性質がある。
特に、移植材料において、低曇点型温度応答性ポリマー組成物が、混合型温度応答性ポリマー組成物であり、該混合型温度応答性ポリマー組成物が、(3)アニオン性物質として、核酸を含み、該核酸が、抗腫瘍性タンパク質をコードする遺伝子であり、癌病巣の治癒において移植材料を癌病巣に注入した場合、細胞構造体内で発現された抗腫瘍性タンパク質を、所定期間、癌病巣に分泌し続ける、という効果が得られる。この場合、細胞構造体は、プロドラッグ徐放剤として用いることができる。
抗腫瘍性タンパク質としては、TNF−α、マイタケフラクションIV等が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
下記の試験において、市販の試薬は、特に断りのない限り更に精製することなく用いた。
【0085】
(試験A)低曇点型温度応答性ポリマー組成物(混合型温度応答性ポリマー組成物)の調製
(試験A1)温度応答性ポリマーの調製
容量50mLの軟質ガラス製の透明なバイアル瓶に、2−(N,N−ジメチルアミノエチル)メタクリレート7.0gを加えて、磁気撹拌器を用いて撹拌した。そして、この混合物(液体)に対してG1グレードの高純度(純度:99.99995%)の窒素ガスを10分間パージ(流速:2.0L/分)することにより、この混合物を脱酸素した。
その後、この反応物に対して、丸型ブラック蛍光灯(NEC社製、型番FCL20BL、18W)を用いて、21時間紫外線照射することにより、上記反応物を、溶媒を用いることなく(すなわち、ニート条件下で)、重合させた。反応物は、5時間後に粘性を帯び、15時間後に固化して、重合体が、反応生成物として得られた。この反応生成物を、クロロホルムに溶解させ、その後、n−ヘキサンを用いて再沈殿させた。クロロホルム/n−ヘキサンを用いた上記再沈殿を、計6回繰り返すことにより、反応生成物を精製した。
精製した重合体をエバポレーションすることにより、その中に残留する溶媒を除去した。その後、重合体を150mLのベンゼンに溶解させ、PTFE製の0.45μmフィルター(ポール社製、型番:Ekicrodisk 25CR)で濾過し、得られた濾液を凍結乾燥させることにより、カチオン性の温度応答性(ホモ)ポリマーが得られた(収量4.3g、転化率:61.4%)。このポリマーの数平均分子量(Mn)を、GPC(島津社製、型番:LC−10vpシリーズ)を用いて、ポリエチレングリコール(Shodex社製、TSKシリーズ)を標準物質として測定し、Mn=97,000(Mw/Mn=4.1)と決定した。
また、このポリマーの核磁気共鳴スペクトル(NMR)を、核磁気共鳴装置(Varian社製、型番:Gemini300)を用いて、重水(D
2O)中で測定した。結果は下記の通りである。
1H-NMR (in D
2O) δ 0.8-1.2 (br, 3H, -CH
2-C(CH
3)-), 1.6-2.0 (br, 2H, -CH
2-C(CH
3)-), 2.2-2.4 (br, 6H, -N(CH
3)
2), 2.5-2.7 (br, 2H, -CH
2-N(CH
3)
2), 4.0-4.2 (br, 2H, -O-CH
2-)
【0086】
(試験A2)ポリマー/アニオン性物質混合物の調製
以下、PBS(Gibco社製、DPBS(1×))を用いた。
核酸として、RFPをコードするDNA(pTurbo604−N1)を用いて、このDNAをPBSに溶解させ、DNA溶液を調製した(最終濃度:500μg/mL)。
(試験A1)で合成した温度応答性ポリマーをPBSに溶解させることによってポリマー溶液を調製し、この溶液を4℃まで冷却することにより、グロビュール相転移による疎水凝集性のクラスターを形成させない均質な溶液とした(最終濃度は、ポリマー:400μg/mL)。
このDNA溶液8μLに、上記ポリマー溶液40μLを少しずつ滴下して混合した。この混合物に832μLのPBSを加えて希釈して、混合型温度応答性ポリマー組成物(最終濃度、ポリマー:16μg/mL、DNA:4μg/mL)を得た。
なお、上記混合型温度応答性ポリマー組成物におけるN/P比は、8であった。
【0087】
(試験B)細胞培養器に対する細胞培養用組成物の被覆
(試験A)で調整した、4℃に冷却された低曇点型温度応答性ポリマー組成物のPBS溶液を、ポリスチレン製の24ウェル細胞培養プレート(イワキ社製、マイクロプレート、型番:3815−024、1ウェル当たりの底面積:200mm
2)の各ウェルに、この溶液を200μLずつ、室温下で加えて、素早く穴の底面の全面に流延させた。そして、この細胞培養皿を、細胞培養インキュベーター(37℃、5%CO
2)中で3時間インキュベートした。
こうして、培養面であるウェルに低曇点型温度応答性ポリマー組成物を被覆してなる24ウェル細胞培養プレート(細胞培養器)が得られた。
【0088】
(試験C)細胞の播種、培養
続いて上記被覆細胞培養器の各ウェルに、ビーグル犬皮下脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)を、完全培地(ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%ウシ胎児血清(FCS)溶液)(DMEM:ギブコ社製、型番:11965)、(FCS:インビトロジェン社製、ロット番号:852546)中に浮遊させ、細胞密度を10×10
4個/mLに調整し、この細胞液を1mLずつ加えた(500個/mm
2)。
なお、細胞は、播種した直後で概ね100%コンフルエントの状態であった。
培養開始と共に、細胞は培養皿の底面に接着し、伸展した。培養開始から6時間後に、細胞が互いに一箇所に凝集する現象が生じた。上記現象は、肉眼で十分に視認可能であった。互いに集まった細胞を、位相差顕微鏡により観察したところ、細胞は立体的なペレット状の構造を形成していることがわかった(
図1)。
【0089】
こうして得られたペレット状の構造を有する細胞構造体を、そのまま移植材料として、下記の(試験D)において用いた。
【0090】
(試験D)移植材料を用いた血管吻合術
培養開始から24時間後に、形成したペレット状の細胞構造体をピンセットで回収したところ、細胞構造体は、弾力性及び粘着性に富み、引き伸ばしても千切れることなく1つの細胞の塊であることが確認された。このことから、細胞構造体は、細胞間マトリックスを豊富に有するものと考察した。
ビーグル犬の大腿動脈の50mm長の一部を切除し、切除部位と大腿動脈に平行して走る大腿静脈とを側側縫合して、バイパスを作製した。止血クランプを開放すると、縫合針の針孔から僅かに血液が漏れる様子が確認された。この吻合部の針孔に、(試験C)で調製した移植材料を載せると、移植材料は吻合部に速やかに貼り付いた。移植材料をピンセットで吻合部から剥離することは困難であった。
図2に、血管吻合部に移植材料を貼り付ける手術における術野を撮影した写真を示す。
【0091】
移植材料の貼り付けと同時に、針孔からの血液の漏れは視認困難となり、止血及び針孔の閉塞が達成されたことが示唆された。
手術から1週間後、吻合部の観察を行ったところ、組織学的所見から、吻合部の全周にRFP陽性の細胞が存在していることがわかった。このことから、吻合部に貼り付けられたペレット状の構造を有する細胞凝集体からブリードした細胞が、宿主の血管の吻合部に浸潤・生着していること、及び、(試験C)において用いられたRFP遺伝子が、細胞内に導入され(送達され)、生体内で発現している事実が確認された。
【0092】
本実施例より、治療用の遺伝子を導入した細胞からなるペレット状の構造を有する細胞凝集体を、生体内に移植することによって、移植部位において治療用の遺伝子を発現させ、治療効果を得ることができる可能性が示唆された。