【解決手段】溶接システムA1において、溶接電源装置1と溶接トーチ3とを接続するパワーケーブル41と、溶接電源装置1と被加工物Wとを接続するパワーケーブル42と、ワイヤ送給装置2の電源部21と、溶接電源装置1が備えている、電源部21に電力を供給するための送給装置用電源部12とを接続する電力伝送線51と、送給装置用電源部12とパワーケーブル41とを接続する電力伝送線52と、電源部21とパワーケーブル41とを接続する電力伝送線52’とを備えるようにした。そして、第1通信部14(23)が、電力伝送線51とパワーケーブル41との間に信号を重畳させて通信を行い、第2通信部15(26)が、電力伝送線51とパワーケーブル42との間に信号を重畳させて通信を行うようにした。
溶接電源装置と、ワイヤ送給装置と、溶接トーチと、前記溶接電源装置と前記溶接トーチとを接続する第1のパワーケーブルと、前記溶接電源装置と被加工物とを接続する第2のパワーケーブルと、前記ワイヤ送給装置が備えている第1の電源と、前記溶接電源装置が備えている、前記第1の電源に電力を供給するための第2の電源とを接続する第1の電力伝送線と、前記第2の電源と前記第1のパワーケーブルとを接続する第2の電力伝送線と、前記第1の電源と前記第1のパワーケーブルとを接続する第3の電力伝送線と、を備えている溶接システムの溶接電源装置であって、
前記第1の電力伝送線と第1のパワーケーブルとの間に信号を重畳させて通信を行う第1の通信手段と、
前記第1の電力伝送線と第2のパワーケーブルとの間に信号を重畳させて通信を行う第2の通信手段と、
を備えていることを特徴とする溶接電源装置。
溶接電源装置と、ワイヤ送給装置と、溶接トーチと、前記溶接電源装置と前記溶接トーチとを接続する第1のパワーケーブルと、前記溶接電源装置と被加工物とを接続する第2のパワーケーブルと、前記ワイヤ送給装置が備えている第1の電源と、前記溶接電源装置が備えている、前記第1の電源に電力を供給するための第2の電源とを接続する第1の電力伝送線と、前記第2の電源と前記第1のパワーケーブルとを接続する第2の電力伝送線と、前記第1の電源と前記第1のパワーケーブルとを接続する第3の電力伝送線と、を備えている溶接システムのワイヤ送給装置であって、
前記第1の電力伝送線と第1のパワーケーブルとの間に信号を重畳させて通信を行う第1の通信手段と、
前記第1の電力伝送線と第2のパワーケーブルとの間に信号を重畳させて通信を行う第2の通信手段と、
を備えていることを特徴とするワイヤ送給装置。
溶接電源装置と、ワイヤ送給装置と、溶接トーチと、前記溶接電源装置と前記溶接トーチとを接続する第1のパワーケーブルと、前記溶接電源装置と被加工物とを接続する第2のパワーケーブルと、前記ワイヤ送給装置が備えている第1の電源と、前記溶接電源装置が備えている、前記第1の電源に電力を供給するための第2の電源とを接続する第1の電力伝送線と、前記第2の電源と前記第1のパワーケーブルとを接続する第2の電力伝送線と、前記第1の電源と前記第1のパワーケーブルとを接続する第3の電力伝送線と、を備えている溶接システムの通信方法であって、
前記第1の電力伝送線と第1のパワーケーブルとの間に信号を重畳させる第1の工程と、
前記第1の電力伝送線と第2のパワーケーブルとの間に信号を重畳させる第2の工程と、
前記第1の電力伝送線と第1のパワーケーブルとの間に重畳された信号を検出する第3の工程と、
前記第1の電力伝送線と第2のパワーケーブルとの間に重畳された信号を検出する第4の工程と、
前記第3の工程で検出された信号と、前記第4の工程で検出された信号とを比較する第5の工程と、
前記第5の工程で、2つの信号が同じであると判断された場合にのみ、当該信号に基づいて処理を行う第6の工程と、
を備えていることを特徴とする通信方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
図1〜3は、第1実施形態に係る溶接システムA1を説明するための図である。
図1は、溶接システムA1の全体構成を示すものである。
図2は、ガス配管を説明するための断面図である。
図3は、溶接用電源部および送給装置用電源部の内部構成の一例を示すものである。
【0027】
溶接システムA1は、溶接電源装置1、ワイヤ送給装置2、溶接トーチ3、パワーケーブル41,42、電力伝送線51,52,52’、ガスボンベ6、および、ガス配管7を備えている。溶接システムA1は、実際には、ワイヤ電極が巻回されたワイヤリールなどを備えているが、図への記載や説明を省略している。
【0028】
溶接電源装置1の溶接電力用の一方の出力端子aは、パワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2に接続されている。ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出して、ワイヤ電極の先端を溶接トーチ3の先端から突出させる。溶接トーチ3の先端に配置されているコンタクトチップにおいて、パワーケーブル41とワイヤ電極とは電気的に接続されている。溶接電源装置1の溶接電力用の他方の出力端子bは、パワーケーブル42を介して、被加工物Wに接続される。溶接電源装置1は、溶接トーチ3の先端から突出するワイヤ電極の先端と、被加工物Wとの間にアークを発生させ、アークに電力を供給する。溶接システムA1は、当該アークの熱で被加工物Wの溶接を行う。
【0029】
溶接システムA1は、溶接時にシールドガスを用いる。ガスボンベ6のシールドガスは、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2を通るように設けられているガス配管7によって、溶接トーチ3の先端に供給される。ガス配管7は、ガスボンベ6と溶接電源装置1とを接続する配管、溶接電源装置1の内部に配置されている配管、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する配管、および、ワイヤ送給装置2の内部に配置され溶接トーチ3の先端に接続する配管を備えている。
図2は、ガス配管7のうち、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する配管が、溶接電源装置1の内部に配置されている配管に接続された接続金具1a、および、ワイヤ送給装置2の内部に配置されている配管に接続された接続金具2aに接続されている部分の断面図である。例えばゴム製のガス配管7は、接続金具1a(2a)に嵌め込むようにして、接続されている。なお、ガス配管7の素材は限定されず、各区間によって異なっていてもよいが、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する部分は、ゴムなどの絶縁体としている。
【0030】
ワイヤ電極を送り出すための送給モータ24(後述)などを駆動するための電力は、電力伝送線51およびパワーケーブル41を介して、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に供給される。溶接電源装置1が備える、ワイヤ送給装置2の駆動電力用の電源(後述する送給装置用電源部12)の一方の出力端子は、電力伝送線51を介して、ワイヤ送給装置2の電源(後述する電源部21)の一方の入力端子に接続されている。
【0031】
電力伝送線51は、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間では、ガス配管7の内側に配置されている。
図2に示すように、溶接電源装置1の内部で、電力伝送線51は導電性の接続金具1aに接続しており、ワイヤ送給装置2の内部で、電力伝送線51は導電性の接続金具2aに接続している。そして、ガス配管7の内側に配置された電力伝送線51が、ガス配管7と接続金具1a(2a)との間に挟まれて固定され、接続金具1a(2a)と電気的に接続されている。つまり、接続金具1aが、溶接電源装置1の内部の電力伝送線51と、ガス配管7の内側に配置された電力伝送線51とを接続するコネクタとして機能し、接続金具2aが、ワイヤ送給装置2の内部の電力伝送線51と、ガス配管7の内側に配置された電力伝送線51とを接続するコネクタとして機能している。
【0032】
また、送給装置用電源部12の他方の出力端子とパワーケーブル41とが、溶接電源装置1の内部で、電力伝送線52によって接続されており、電源部21の他方の入力端子とパワーケーブル41とが、ワイヤ送給装置2の内部で、電力伝送線52’によって接続されている。これにより、送給装置用電源部12の他方の出力端子と電源部21の他方の入力端子とが、電気的に接続されている。送給装置用電源部12から出力される電力は、電力伝送線51およびパワーケーブル41によって、電源部21に供給される。また、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とは、電力伝送線51とパワーケーブル41との間に信号を重畳させて通信を行い、また、電力伝送線51とパワーケーブル42との間に信号を重畳させて通信を行う。つまり、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とは、2つの通信経路を備えている。
【0033】
溶接電源装置1は、アーク溶接のための直流電力を溶接トーチ3に供給するものである。溶接電源装置1は、溶接用電源部11、送給装置用電源部12、制御部13、第1通信部14、および、第2通信部15を備えている。
【0034】
溶接用電源部11は、電力系統から入力される三相交流電力をアーク溶接に適した直流電力に変換して出力するものである。
図3(a)に示すように、溶接用電源部11に入力される三相交流電力は、整流回路111によって直流電力に変換され、インバータ回路112によって交流電力に変換される。そして、トランス113によって降圧(または昇圧)され、整流回路114によって直流電力に変換されて出力される。なお、溶接用電源部11の構成は、上記したものに限定されない。
【0035】
送給装置用電源部12は、ワイヤ送給装置2の送給モータ24などを駆動するための電力を出力するものである。送給装置用電源部12は、電力系統から入力される単相交流電力をワイヤ送給装置2での使用に適した直流電力に変換して出力する。送給装置用電源部12は、いわゆるスイッチングレギュレータである。
図3(a)に示すように、送給装置用電源部12に入力される交流電力は、整流回路121によって直流電力に変換され、DC/DCコンバータ回路122によって降圧(または昇圧)されて出力される。送給装置用電源部12は、電圧が例えば48Vに制御された直流電力を、電力伝送線51およびパワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2に供給する。なお、送給装置用電源部12の構成は、上記したものに限定されない。例えば、溶接用電源部11と同様の構成であってもよいし、電力系統から入力される交流電力をトランスで降圧(または昇圧)してから、整流回路121で直流電力に変換して出力するようにしてもよい。
【0036】
溶接用電源部11は、出力端子aが出力端子bより電位が高くなるようにして、パワーケーブル41の電位がパワーケーブル42の電位より高くなるように、電圧を印加する。送給装置用電源部12は、電力伝送線51の電位が電力伝送線52の電位より低くなるように、電圧を印加する。電力伝送線52はパワーケーブル41に接続しているので、電力伝送線51の電位は、パワーケーブル41の電位より低くなる。つまり、電力伝送線51およびパワーケーブル42の電位をどちらもパワーケーブル41より低くすることで、電力伝送線51とパワーケーブル42との電位差があまり大きくならないようにしている。例えば、溶接用電源部11が出力する無負荷電圧が90V、送給装置用電源部12が出力する電圧が48Vの場合、電力伝送線51とパワーケーブル42との電位差は42Vになる。仮に、電力伝送線51の電位を電力伝送線52の電位より高くした場合は、電力伝送線51とパワーケーブル42との電位差は132Vになる。なお、電力伝送線51とパワーケーブル42との電位差を気にしない場合は、送給装置用電源部12が印加する電圧を逆極性(電力伝送線51の電位が電力伝送線52の電位より高くなるように、電圧を印加する)にしてもよい。
【0037】
制御部13は、溶接電源装置1の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部13は、溶接電源装置1から出力される溶接電圧および溶接電流が設定電圧および設定電流になるように、溶接用電源部11のインバータ回路112を制御する。また、送給装置用電源部12から出力される電圧が所定電圧になるように、送給装置用電源部12のDC/DCコンバータ回路122を制御する。制御部13は、図示しない設定ボタンの操作に応じて溶接条件の変更を行ったり、図示しない起動ボタンの操作に応じて溶接用電源部11を起動させたりなどの制御を行う。また、制御部13は、図示しないセンサによって検出された溶接電圧や溶接電流の検出値を図示しない表示部に表示させたり、異常が発生した場合に図示しない報知部に報知させたりする。
【0038】
また、制御部13は、第1通信部14および第2通信部15から入力される信号に基づいても、溶接条件の変更や溶接用電源部11の起動を行い、検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、ワイヤ送給装置2に対するワイヤ送給指令やガス供給指令などのための信号を第1通信部14および第2通信部15に出力する。
【0039】
制御部13は、第1通信部14から入力される信号と、第2通信部15から入力される信号との比較を行い、両者が一致する場合にのみ、当該信号を受け付けて処理を行う。両者が一致する場合は、いずれの通信経路でも通信障害が発生していないと考えることができ、この場合には受信した信号が正しいと判断できるので、制御部13は、当該信号に応じた処理を行う。両者が一致しない場合は、当該信号の再送信を要求する。
【0040】
図4は、溶接電源装置1の制御部13が行う比較処理を説明するためのフローチャートである。当該比較処理は、溶接電源装置1が起動されたときに開始される。
【0041】
まず、第1通信部14および第2通信部15が信号を受信したか否かが判別される(S11)。信号が受信されるまでステップS11の判別は繰り返され、信号が受信された場合(S11:YES)に、第1通信部14が受信した信号S
1が取得され(S12)、第2通信部15が受信した信号S
2が取得される(S13)。
【0042】
次に、信号S
1と信号S
2とが一致するか否かが判別される(S14)。一致する場合(S14:YES)、2つの通信経路のいずれにも通信障害が発生しておらず、受信された信号S
1および信号S
2は正しく通信されたものであると考えられるので、信号S
1(または信号S
2)に応じた処理が行われて(S15)、ステップS11に戻る。一方、一致しない場合(S14:NO)、2つの通信経路のいずれか一方または両方で通信障害が発生していると考えられるので、ワイヤ送給装置2に対して信号の再送信が要求されて(S16)、ステップS11に戻る。
【0043】
信号が受信された場合(S11:YES)に、信号S
1と信号S
2とが一致すれば(S14:YES)、処理が行われて(S15)、次の信号の受信待ち状態(S11)になる。信号S
1と信号S
2とが一致しなければ(S14:NO)、再送信が要求されて(S16)、再送信される信号を待つ(S11)。
【0044】
当該比較処理により、溶接電源装置1は2つの通信経路で受信された信号が一致する場合にのみ処理を行うので、通信障害が発生して正しく通信できていない状態で受信した信号に基づいて処理をしてしまうことを防止することができる。
【0045】
また、制御部13は、ワイヤ送給装置2に信号を送信する場合、第1通信部14および第2通信部15に同じ信号を出力する。後述するワイヤ送給装置2の制御部22も、制御部13が行う上記比較処理を行って、2つの通信経路で受信された信号が一致する場合にのみ処理を行う。
【0046】
図1に戻って、第1通信部14は、電力伝送線51およびパワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2との間で通信を行うためのものである。第1通信部14は、ワイヤ送給装置2から受信した信号を復調して、制御部13に出力する。ワイヤ送給装置2から受信する信号には、例えば、溶接条件を設定するための信号や、溶接用電源部11の起動を指示する起動信号などがある。また、第1通信部14は、制御部13から入力される信号を変調して、通信信号としてワイヤ送給装置2に送信する。ワイヤ送給装置2に送信する信号には、例えば、検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、ワイヤ送給指令やガス供給指令などのための信号などがある。なお、ワイヤ送給装置2との間で送受信される信号は、上記したものに限定されない。
【0047】
第1通信部14は、直接スペクトル拡散(Direct Sequence Spread Spectrum:DSSS)通信方式を用いて通信を行う。直接スペクトル拡散通信方式では、送信側は、送信する信号に対して拡散符号による演算を行い、元の信号のスペクトルをより広い帯域に拡散して送信する。受信側は、受信した信号を共通する拡散符号を用いて逆拡散することで、元の信号に戻す。通信信号にノイズが重畳された場合でも、逆拡散によってノイズのスペクトルが拡散されるので、フィルタリングによって元の通信信号を抽出することができる。また、溶接システムA1毎に異なる拡散符号を用いていれば、別の溶接システムA1で送受信される通信信号を誤って受信したとしても、当該通信信号は異なる拡散符号で逆拡散されて、ノイズとして除去される。したがって、高い通信品質で通信を行うことができる。
【0048】
第1通信部14は、結合回路を備えている。当該結合回路は、第1通信部14の入出力端に接続されたコイルと、電力伝送線51,52に並列接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、第1通信部14が出力する通信信号を電力伝送線51,52に重畳し、また、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出する。電力伝送線52は、溶接電源装置1の内部で、パワーケーブル41に接続しているので、通信信号は、電力伝送線51とパワーケーブル41との間に重畳される。第1通信部14は、制御部13より入力される信号に応じてキャリア信号をBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調し、変調信号にスペクトル拡散を行い、アナログ信号に変換して送信する。なお、変調方法はBPSK変調に限られず、ASK変調やFSK変調を行うようにしてもよい。また、スペクトル拡散は直接拡散方式に限られず、周波数ホッピング方式を用いてもよい。なお、本実施形態では、スペクトル拡散を行っているが、これに限定されず、スペクトル拡散を行わないようにしてもよい。また、第1通信部14は、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出し、デジタル信号に変換して、逆拡散およびフィルタリングを行い、復調を行って、制御部13に出力する。溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に送信する信号と、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1に送信する信号とでは、時間をずらして送受信を行う。なお、異なる周波数帯域を利用するようにしてもよい。
【0049】
第2通信部15は、電力伝送線51およびパワーケーブル42を介して、ワイヤ送給装置2との間で通信を行うためのものである。第2通信部15は、ワイヤ送給装置2から受信した信号を復調して、制御部13に出力する。また、第2通信部15は、制御部13から入力される信号を変調して、通信信号としてワイヤ送給装置2に送信する。第2通信部15も、第1通信部14と同様に、直接スペクトル拡散通信方式を用いて通信を行う。
【0050】
第2通信部15は、結合回路を備えている。当該結合回路は、第2通信部15の入出力端に接続されたコイルと、電力伝送線51およびパワーケーブル42に並列接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、第2通信部15が出力する通信信号を電力伝送線51とパワーケーブル42との間に重畳し、また、電力伝送線51とパワーケーブル42との間に重畳された通信信号を検出する。
【0051】
ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出すものである。また、ワイヤ送給装置2は、ガスボンベ6のシールドガスを溶接トーチ3の先端に供給する。ワイヤ送給装置2は、電源部21、制御部22、第1通信部23、第2通信部26、送給モータ24、および、ガス電磁弁25を備えている。
【0052】
電源部21は、制御部22、送給モータ24およびガス電磁弁25に電力を供給するものである。電源部21は、電力伝送線51,52’を介して溶接電源装置1から電力を供給され、制御部22、送給モータ24およびガス電磁弁25のそれぞれに適した電圧に変換を行って出力する。電源部21は、溶接電源装置1から供給される電力を蓄積するコンデンサ、コンデンサから電力伝送線51,52’に電流が逆流するのを防ぐためのダイオード、制御部22、送給モータ24およびガス電磁弁25に出力する電圧を調整するためのDC/DCコンバータを備えている。なお、電源部21の構成は、上記したものに限定されない。
【0053】
制御部22は、ワイヤ送給装置2の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部22は、溶接トーチ3に設けられている図示しないトーチスイッチより入力される起動のための操作信号に応じて、溶接電源装置1の溶接用電源部11を起動するための起動信号を第1通信部23および第2通信部26に出力する。また、図示しない操作部より入力される溶接条件を変更するための操作信号に応じて、図示しない記憶部に記憶されている溶接条件を変更する。また、制御部22は、第1通信部23および第2通信部26より入力される溶接電圧または溶接電流の検出値を、図示しない表示部に出力して表示させたり、第1通信部23および第2通信部26より入力される異常発生を示す信号に基づいて、図示しない報知部に異常の報知(例えば、スピーカによる警告音や振動による報知)をさせたりする。また、制御部22は、第1通信部23および第2通信部26からワイヤ送給指令を入力されると、送給モータ24にワイヤ電極の送給を行わせて、溶接トーチ3にワイヤ電極を送り出す。また、第1通信部23および第2通信部26からガス供給指令を入力されると、ガス電磁弁25を開放して、ガスボンベ6のシールドガスを溶接トーチ3の先端から放出させる。
【0054】
制御部22は、第1通信部23から入力される信号と、第2通信部26から入力される信号との比較を行い、両者が一致する場合にのみ、当該信号を受け付けて処理を行う。両者が一致しない場合は、当該信号の再送信を要求する。制御部22が行う比較処理は、上述した制御部13の比較処理(
図4参照)と同様なので、説明を省略する。
【0055】
また、制御部22は、溶接電源装置1に信号を送信する場合、第1通信部23および第2通信部26に同じ信号を出力する。
【0056】
第1通信部23は、電力伝送線51およびパワーケーブル41を介して、溶接電源装置1との間で通信を行うためのものである。第1通信部23は、溶接電源装置1から受信した信号を復調して、制御部22に出力する。溶接電源装置1から受信する信号には、例えば、溶接電源装置1においてセンサで検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、ワイヤ送給指令やガス供給指令などのための信号などがある。また、第1通信部23は、制御部22から入力される信号を変調して、通信信号として溶接電源装置1に送信する。溶接電源装置1に送信する信号には、例えば、溶接条件を設定するための信号や、溶接用電源部11の起動を指示する起動信号などがある。なお、溶接電源装置1との間で送受信される信号は、上記したものに限定されない。第1通信部23も、第1通信部14と同様に、直接スペクトル拡散通信方式を用いて通信を行う。
【0057】
第1通信部23は、結合回路を備えている。当該結合回路は、電力伝送線51,52’に並列接続されたコイルと第1通信部23の入出力端に接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、第1通信部23が出力する通信信号を電力伝送線51,52’に重畳し、また、電力伝送線51,52’に重畳された通信信号を検出する。電力伝送線52’は、ワイヤ送給装置2の内部で、パワーケーブル41に接続しているので、通信信号は、電力伝送線51とパワーケーブル41との間に重畳される。
【0058】
第2通信部26は、電力伝送線51およびパワーケーブル42を介して、溶接電源装置1との間で通信を行うためのものである。第2通信部26は、溶接電源装置1から受信した信号を復調して、制御部22に出力する。また、第2通信部26は、制御部22から入力される信号を変調して、通信信号として溶接電源装置1に送信する。第2通信部26も、第1通信部23と同様に、直接スペクトル拡散通信方式を用いて通信を行う。
【0059】
第2通信部26は、結合回路を備えている。当該結合回路は、第2通信部26の入出力端に接続されたコイルと、電力伝送線51および被加工物Wに接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えている。被加工物Wはパワーケーブル42に接続しているので、第2通信部26の結合回路は、第2通信部26が出力する通信信号を電力伝送線51とパワーケーブル42との間に重畳し、また、電力伝送線51とパワーケーブル42との間に重畳された通信信号を検出する。なお、第2通信部26の結合回路が、被加工物Wではなく、パワーケーブル42に直接接続するようにしてもよい。
【0060】
送給モータ24は、溶接トーチ3にワイヤ電極の送給を行うものである。送給モータ24は、制御部22からのワイヤ送給指令に基づいて回転し、送給ローラを回転させて、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出す。
【0061】
ガス電磁弁25は、ガスボンベ6と溶接トーチ3とを接続するガス配管7に設けられており、制御部22からのガス供給指令に基づいて開閉される。制御部22からガス供給指令が入力されている間、ガス電磁弁25は開放され、溶接トーチ3へシールドガスの供給が行われる。一方、制御部22からガス供給指令が入力されていないときは、ガス電磁弁25は閉鎖され、溶接トーチ3へのシールドガスの供給が停止される。
【0062】
本実施形態によると、第1通信部14(23)は電力伝送線51とパワーケーブル41との間に信号を重畳させて通信を行い、第2通信部15(26)は電力伝送線51とパワーケーブル42との間に信号を重畳させて通信を行う。したがって、パワーケーブル41とパワーケーブル42との間に信号を重畳させる場合より、正確に通信を行うことができる。
【0063】
また、制御部13(22)は、第1通信部14(23)から入力される信号と、第2通信部15(26)から入力される信号との比較を行い、両者が一致する場合にのみ、当該信号を受け付けて処理を行う。これにより、通信障害が発生して正しく通信できていない状態で受信した信号に基づいて処理をしてしまうことを防止することができる。
【0064】
さらに、電力伝送線51は、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間では、ガス配管7の内側に配置されている。したがって、電力伝送線51がガス配管7とは別に配置される場合と比べて、ワイヤ送給装置2を移動させる際の邪魔にならない。また、電力伝送線51は、ガス配管7に囲まれているので、外部からの衝撃を受けにくく、電力伝送線51が断線することを抑制することができる。また、ガス配管7を接続するための接続金具1a、2aを、電力伝送線51を接続するためのコネクタとして利用しているので、電力伝送線51の接続が容易であり、ガス配管7に電力伝送線51を通すための孔を設ける必要がない。
【0065】
なお、本実施形態においては、第1通信部14(23)および第2通信部15(26)が、コイルによる磁気結合を利用して通信信号を重畳し、重畳された通信信号を検出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、コンデンサによる電界結合を利用するようにしてもよい。
【0066】
本実施形態においては、送給装置用電源部12が電源部21に直流電力を供給する場合、について説明したが、交流電力を供給するようにしてもよい。この場合、送給装置用電源部12は、整流回路121およびDC/DCコンバータ回路122に代えてトランスを備えるようにし、電力系統から入力される交流電力をトランスで降圧して出力するようにすればよい。一方、電源部21には、交流電力を直流電力に変換するための整流回路を設ける必要がある。また、溶接電源装置1に送給装置用電源部12を設けずに、電力系統からの交流電力を直接、電源部21に供給するようにしてもよい。
【0067】
本実施形態においては、溶接用電源部11および送給装置用電源部12が、電力系統から入力される交流電力を、それぞれ直流電力に変換して出力する場合について説明したが、これに限られない。溶接用電源部11と送給装置用電源部12とで、構成の一部を共有するようにしてもよい。例えば、
図3(b)に示すように、送給装置用電源部12に整流回路121を設けずに、溶接用電源部11の整流回路111の出力をDC/DCコンバータ回路122に入力するようにしてもよい。また、溶接用電源部11のトランス113の二次側に巻線を追加して電力を取り出し、整流して出力するようにしてもよいし、送給装置用電源部12を設けずに、溶接用電源部11の出力の一部を、ワイヤ送給装置2に供給するようにしてもよい。
【0068】
本実施形態においては、溶接電源装置1がアークに直流電力を供給する直流電源である場合について説明したが、これに限られない。例えばアルミなどの溶接を行うために、溶接電源装置1を、交流電力を供給する交流電源としてもよい。この場合、溶接用電源部11にさらにインバータ回路を追加し、整流回路114から出力される直流電力を交流電力に変換して出力するようにすればよい。
【0069】
本実施形態においては、溶接システムA1が消耗電極式の溶接システムである場合について説明した。非消耗電極式の溶接システムの場合、ワイヤ電極を送給するためのワイヤ送給装置は必要ないが、溶加ワイヤを自動送給するためのワイヤ送給装置を用いる場合がある。この場合は、溶接システムA1と同様の構成になり、本発明を適用することができる。
【0070】
本実施形態においては、送給装置用電源部12が、電力伝送線51およびパワーケーブル41を介して、電源部21に電力を供給する場合について説明したが、これに限られない。パワーケーブル41に代えてパワーケーブル42を用いるようにしてもよい。
図5は、送給装置用電源部12が、電力伝送線51およびパワーケーブル42を介して、電源部21に電力を供給するようにした場合を示している。
【0071】
図5(a)に示す溶接システムA1は、パワーケーブル42がワイヤ送給装置2の内部を通っており、電力伝送線52および52’が、パワーケーブル41ではなくパワーケーブル42に接続している点で、
図1に示す溶接システムA1と異なる。なお、
図5(a)においては、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2の内部構成の一部の記載を省略している(
図5(b)も同様)。また、
図5(b)に示すように、パワーケーブル42をワイヤ送給装置2の内部に通さない場合は、電力伝送線52’を被加工物Wに接続するようにしてもよい。なお、
図5においては、第1通信部14,23が電力伝送線51およびパワーケーブル42を介して通信を行い、第2通信部15,26が電力伝送線51およびパワーケーブル41を介して通信を行うようにしているが、逆であってもよい。すなわち、第1通信部14,23が電力伝送線51およびパワーケーブル41を介して通信を行い、第2通信部15,26が電力伝送線51およびパワーケーブル42を介して通信を行うようにしてもよい。
【0072】
送給装置用電源部12から電源部21への電力供給にパワーケーブル42を用いる場合(
図5参照)、パワーケーブル41を用いる場合(
図1参照)とは逆に、電力伝送線51の電位が電力伝送線52の電位より高くなるように、送給装置用電源部12が電圧を印加する。これにより、電力伝送線51およびパワーケーブル41の電位をどちらもパワーケーブル42より高くして、電力伝送線51とパワーケーブル41との電位差があまり大きくならないようにしている。なお、電力伝送線51とパワーケーブル41との電位差を気にしない場合は、送給装置用電源部12が印加する電圧を逆極性にしてもよい。
【0073】
本実施形態においては、第1通信部14から入力される信号S
1と、第2通信部15から入力される信号S
2とが一致するときにのみ処理を行う場合について説明したが、これに限られない。比較処理が、
図4に示すフローチャートの場合、信号S
1と信号S
2とが一致するまで再送信が要求されるので、処理が行われるまでに時間がかかる場合がある。信号S
1と信号S
2とが一致しない場合でも、いずれか一方の通信経路では通信障害が発生していない場合がある。したがって、信号S
1と信号S
2との比較が所定回数行われても一致しない場合には、通信障害が発生していない可能性が高い通信経路の信号に基づいて処理を行うようにしてもよい。
【0074】
図6は、溶接電源装置1の制御部13が行う比較処理の別の実施例を説明するためのフローチャートである。
図6に示すフローチャートは、
図4に示すフローチャートに対して、ステップS21〜S24が追加され、ステップS15がS15’に変更されている。具体的には、比較回数Nをカウントして(ステップS23)、所定回数N
0を超えたか否かを判別し(S22)、超えた場合(S22:YES)には、信号S
1に応じた処理が行われる(S15’)。ステップS21およびS24は、比較回数Nを「1」に初期化するステップである。
【0075】
受信された信号S
1と信号S
2とが一致しなければ(S14:NO)、ステップS22,S16,S23,S11〜S14が繰り返され、比較回数Nがカウントされる。比較回数Nが所定回数N
0を超えた場合(S22:YES)、信号S
1に応じた処理が行われ(S15’)、比較回数Nが「1」に初期化されて(S24)、次の信号の受信待ち状態(S11)になる。
【0076】
第1通信部14がパワーケーブル41を利用するのに対して、第2通信部15はパワーケーブル42を利用する。同じ被加工物Wに対して他の溶接システムA1も溶接を行っている場合などには、パワーケーブル42に当該他の溶接システムA1からのノイズが重畳する場合がある。したがって、一般的には、パワーケーブル42の方がパワーケーブル41よりノイズが多く、第2通信部15が受信した信号S
2の方が、第1通信部14が受信した信号S
1より信頼性が低い。したがって、本実施例では、信号S
1と信号S
2とが一致しない場合に、信頼性が高い信号S
1に応じた処理が行われる(ステップS15’参照)。なお、信号S
2の方が信頼性が高いのであれば、信号S
2に応じた処理を行うようにすればいい。
【0077】
本実施例の場合、信号S
1と信号S
2とが一致するまで再送信要求をする場合より信頼性は低くなるが、処理が行われるまでの時間を短縮することができる。なお、比較回数Nが所定回数N
0を超えた場合(S22:YES)に、ワイヤ送給装置2に注意を促すための信号を送信するようにしてもよい。当該信号を受信したワイヤ送給装置2が注意を報知するようにすれば、溶接作業者に通信障害の可能性があることの注意を促すことができる。
【0078】
さらに別の実施例として、信号S
1と信号S
2とが一致しない場合に、再送信要求をせずに、信号S
1に応じた処理を行うようにしてもよい。この場合のフローチャートは、
図4に示すフローチャートにおいて、ステップS16をステップS15’に置き換えたものになる。この実施例の場合、さらに信頼性は低くなるが、処理が行われるまでの時間をさらに短縮することができる。
【0079】
なお、ワイヤ送給装置2の制御部22が行う比較処理は、制御部13が行う比較処理と同じ処理としてもよいし、異なる処理としてもよい。
【0080】
本実施形態においては、第1通信部14から入力される信号S
1と、第2通信部15から入力される信号S
2とを比較する場合について説明したが、これに限られない。制御部13(22)が、第1通信部14(23)および第2通信部15(26)に出力する信号を、パリティチェックなどの誤り検出符号を付したフォーマットで出力する場合、受信側では、誤り検出符号に基づいて、通信信号が正しく受信されたか否かを判断することができる。この場合、信号S
1と信号S
2とを比較する必要がなく、制御部13(22)は、正しく受信された信号に基づいて処理を行えばよい。
【0081】
本実施例の場合、第1通信部14(23)または第2通信部15(26)のいずれかが信号を正しく受信できればよいので、両方の信号の一致により通信状態を確認する場合と比べて、処理が行われるまでの時間を短縮することができる。
【0082】
上記第1実施形態においては、電力伝送線51が、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間で、ガス配管7の内側に配置されている場合について説明したが、これに限られない。例えば、溶接時にシールドガスを用いない場合などには、ガス配管7が設けられていない。電力伝送線51がガス配管7の内側に配置されない場合について、第2実施形態として、以下に説明する。
【0083】
図7は、第2実施形態に係る溶接システムA2の全体構成を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0084】
図7に示す溶接システムA2は、ガスボンベ6およびガス配管7が設けられておらず、電力伝送線51が、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間でむき出しになっている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0085】
第2実施形態においても、電力伝送線51とパワーケーブル41(42)との間に信号を重畳させて通信を行うので、より正確に通信を行うという効果を奏することができる。また、2つの通信経路でそれぞれ受信した2つの信号が一致する場合にのみ処理を行うので、通信障害による誤った内容の信号に基づいて処理をしてしまうことを防止することができる。第2実施形態の場合、ガス配管7によって保護されないので、電力伝送線51の被覆を厚くするなどして、断線しにくいように補強する必要がある。
【0086】
なお、ガス配管7が設けられていても、電力伝送線51をガス配管7の内側に配置しないようにしてもよい。
【0087】
次に、ワイヤ送給装置2を操作するための遠隔操作装置を設けた場合について説明する。まず、ワイヤ送給装置2と遠隔操作装置とが有線通信を行う場合を、第3実施形態として、以下に説明する。
【0088】
図8は、第3実施形態に係る溶接システムA3の全体構成を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。なお、
図8においては、溶接電源装置1の記載を省略している。
【0089】
図8に示す溶接システムA3は、ワイヤ送給装置2を操作するための遠隔操作装置9を備えている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0090】
遠隔操作装置9は、ワイヤ送給装置2を操作するためのものであり、ワイヤ送給装置2とケーブルで接続されている。また、遠隔操作装置9は、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1に通信信号を送信させることで、溶接電源装置1の操作も行うことができる。遠隔操作装置9は、制御部91、操作部92、表示部93および報知部94を備えている。操作部92、表示部93および報知部94は、それぞれ、ワイヤ送給装置2に設けられている操作部、表示部および報知部と同様の機能を備えている。
【0091】
制御部91は、遠隔操作装置9を制御するものである。制御部91は、操作部92より入力された操作信号をデジタル信号にして、ワイヤ送給装置2の制御部22に出力する。また、制御部22より入力されるデジタル信号に基づいて、表示部93に表示をさせたり、報知部94に異常の報知をさせたりする。
【0092】
第3実施形態によると、作業者は、遠隔操作装置9の操作部92の操作によって、溶接条件などを変更することが可能であり、溶接電圧や溶接電流の検出値を表示部93で確認することができる。したがって、遠隔操作装置9を身に着けておけば、ワイヤ送給装置2まで移動する必要がない。また、第3実施形態においても、電力伝送線51とパワーケーブル41(42)との間に信号を重畳させて通信を行うので、より正確に通信を行うという効果を奏することができる。また、2つの通信経路でそれぞれ受信した2つの信号が一致する場合にのみ処理を行うので、通信障害による誤った内容の信号に基づいて処理をしてしまうことを防止することができる。
【0093】
なお、第3実施形態では、遠隔操作装置9とワイヤ送給装置2とがデジタル信号を送受信する場合について説明したが、これに限られない。操作部92での入力をアナログ入力とし、遠隔操作装置9とワイヤ送給装置2とを制御線で接続するようにしてもよい。ただし、この場合、ワイヤ送給装置2に、遠隔操作装置9から受信したアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路を設ける必要があり、ワイヤ送給装置2の大きさや重量が増加して可搬性が悪くなる。また、溶接パラメータが増加すると、遠隔操作装置9とワイヤ送給装置2とを接続する制御線が増加する。したがって、デジタル信号で通信する方が望ましい。
【0094】
次に、ワイヤ送給装置2と遠隔操作装置とが無線通信を行う場合を、第4実施形態として、以下に説明する。
【0095】
図9は、第4実施形態に係る溶接システムA4の全体構成を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。なお、
図9においては、溶接電源装置1の記載を省略している。
【0096】
図9に示す溶接システムA4は、ワイヤ送給装置2を操作するための遠隔操作装置9’を備え、遠隔操作装置9’がワイヤ送給装置2に設けられた無線通信部27との間で無線通信を行う点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0097】
無線通信部27は、遠隔操作装置9’との間で無線通信を行うためのものであり、アンテナ27aを介して通信信号の送受信を行う。無線通信部27は、制御部22より入力される信号を変調し、アンテナ27aによって電磁波として遠隔操作装置9’に送信する。また、無線通信部27は、遠隔操作装置9’が出力する電磁波をアンテナ27aで受信し、受信した通信信号を復調して、制御部22に送信する。
【0098】
制御部22は、第1通信部23および第2通信部26より入力された信号に基づいて比較処理を行う。そして、2つの信号が一致し、かつ、当該信号がワイヤ送給指令などのための信号の場合、当該信号に応じた処理を行う。また、2つの信号が一致し、かつ、当該信号が溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号などの場合、無線通信部27に出力する。また、制御部22は、無線通信部27より入力される信号を第1通信部23および第2通信部26に出力する。
【0099】
遠隔操作装置9’は、ワイヤ送給装置2を操作するためのものであり、また、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1に通信信号を送信させることで、溶接電源装置1の操作も行うことができる。遠隔操作装置9’は、溶接電源装置1の溶接条件の変更を行う。また、溶接電源装置1で検出された溶接電圧または溶接電流の検出値を表示したり、溶接電源装置1で発生した異常を報知したりする。遠隔操作装置9’は、制御部91、操作部92、表示部93、報知部94、通信部95、および記憶部96を備えている。
【0100】
操作部92は、溶接作業者による操作ボタンの操作を操作信号として制御部91に出力するものである。
【0101】
記憶部96は、操作部92の操作ボタンの操作によって設定される溶接条件Wrを記憶するものである。
【0102】
表示部93は、各種表示を行うものであり、例えば液晶表示装置によって実現されている。表示部93は、制御部91によって制御されており、記憶部96に記憶されている溶接条件Wrを表示する。また、溶接電源装置1で検出された溶接電圧や溶接電流の検出値の表示も行う。なお、表示部93は、7セグメントディスプレイ等の簡易な表示装置であってもよい。
【0103】
報知部94は、所定の報知を行うものであり、例えばスピーカによって実現されている。報知部94は、制御部91によって制御されており、溶接電源装置1の異常を警告音で報知する。なお、報知部94は、音で報知を行うものに限定されない。例えば、振動で報知を行うようにしてもよいし、表示部93に文字や画像で報知するようにしてもよい。
【0104】
制御部91は、遠隔操作装置9’の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部91は、操作部92より入力される表示モードを切り替えるための操作信号に応じて、表示部93の表示内容を、記憶部96に記憶されている溶接条件Wrを表示するモードと、溶接電源装置1で検出された溶接電圧や溶接電流の検出値を表示するモードとで切り替える。また、操作部92より入力される溶接条件Wrを変更するための操作信号に応じて、記憶部96に記憶されている溶接条件Wrを変更する。
【0105】
また、制御部91は、あらかじめ設定された送信周期ごとに、記憶部96に記憶されている溶接条件Wrを読み出して、通信部95および表示部93に出力する。なお、本実施形態では、送信周期は、10〜500ms程度の範囲で設定されている。また、送信周期に係わらず、記憶部96に記憶されている溶接条件Wrが変更された時に、変更後の溶接条件Wrを出力するようにしてもよい。また、溶接電源装置1の溶接用電源部11が起動したときに、溶接条件Wrを出力するようにしてもよい。
【0106】
また、制御部91は、通信部95より入力される溶接電圧または溶接電流の検出値を、表示部93に出力したり、通信部95より入力される異常発生を示す信号に基づいて、報知部94に異常の報知をさせたりする。
【0107】
通信部95は、ワイヤ送給装置2との間で無線通信を行うためのものである。通信部95は、アンテナ95aが電磁波としてワイヤ送給装置2より受信した通信信号を復調して、制御部91に出力する。ワイヤ送給装置2から受信する信号には、例えば、溶接電源装置1においてセンサで検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号などがある。また、通信部95は、制御部91より入力される信号を変調して、電磁波としてワイヤ送給装置2に送信する。ワイヤ送給装置2に送信する信号には、例えば、記憶部96に記憶された溶接条件Wrを送信するための信号などがある。なお、ワイヤ送給装置2との間で送受信される信号は、上記したものに限定されない。また、通信部95とワイヤ送給装置2の無線通信部27との間の通信の通信方式は限定されない。また、遠隔操作装置9’からワイヤ送給装置2に送信する信号と、ワイヤ送給装置2から遠隔操作装置9’に送信する信号とでは、時間をずらして送受信を行う。なお、異なる周波数帯域を利用するようにしてもよい。
【0108】
第4実施形態によると、作業者は、遠隔操作装置9’の操作部92の操作によって、溶接条件などを変更することが可能であり、溶接電圧や溶接電流の検出値を表示部93で確認することができる。したがって、遠隔操作装置9’を身に着けておけば、ワイヤ送給装置2まで移動する必要がない。また、第4実施形態においても、電力伝送線51とパワーケーブル41(42)との間に信号を重畳させて通信を行うので、より正確に通信を行うという効果を奏することができる。また、2つの通信経路でそれぞれ受信した2つの信号が一致する場合にのみ処理を行うので、通信障害による誤った内容の信号に基づいて処理をしてしまうことを防止することができる。
【0109】
第4実施形態においては、専用の遠隔操作装置9’を用いる場合について説明したが、これに限られない。例えば、遠隔操作装置9’に代えて、タブレット端末やスマートフォンなどの携帯型端末を用いるようにしてもよい。携帯型端末に、遠隔操作装置9’が有する機能を備えさせるためのアプリケーションをインストールする。携帯型端末はもともと、遠隔操作装置9’の操作部92、表示部93、報知部94、通信部95、記憶部96に相当する機能を有している。アプリケーションをインストールして、携帯型端末の制御部を遠隔操作装置9’の制御部91として機能させることで、携帯型端末を遠隔操作装置9’の代わりに用いることができる。この場合、遠隔操作装置9’を別途用意する必要がない。
【0110】
一般的に、携帯型端末には複数の通信方法(例えば、WiFi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、LTE(Long Term Evolution)、3G、赤外線通信など)が備えられている。ワイヤ送給装置2の無線通信部27にも複数の通信方法を持たせて、最も通信状態のいい通信方法に切り替えて、通信を行うようにしてもよい。この場合、通信方法の種類を気にすることなく、最適な方法で通信を行うことができる。
【0111】
上記第1ないし第4実施形態においては、第1通信部14(23)および第2通信部15(26)が同じ信号を送受信する(2つの通信経路が同じ通信信号の送受信に用いられる)場合について説明したが、これに限られない。第1通信部14(23)と第2通信部15(26)とが異なる信号を送受信するようにしてもよい。
【0112】
例えば、溶接電源装置1の第1通信部14が通信信号の送信のみを行い、ワイヤ送給装置2の第1通信部23が当該通信信号の受信のみを行い、ワイヤ送給装置2の第2通信部26が通信信号の送信のみを行い、溶接電源装置1の第2通信部15が当該通信信号の受信のみを行うようにしてもよい。つまり、2つの通信経路を、それぞれ一方通行の通信経路としてもよい。この場合を第5実施形態として、以下に説明する。
【0113】
図10は、第5実施形態に係る溶接システムA5の全体構成を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0114】
図10に示す溶接システムA5は、第1通信部14および第2通信部26が送信のみを行い、第2通信部15およびと第1通信部23が受信のみを行う点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0115】
制御部13は、ワイヤ送給装置2に送信するための信号を第1通信部14のみに出力する。第1通信部14は、制御部13より入力された信号を変調して、通信信号として電力伝送線51とパワーケーブル41との間に重畳する。当該重畳された通信信号は、第1通信部23で受信されて復調され、制御部22に出力される。また、制御部22は、溶接電源装置1に送信するための信号を第2通信部26のみに出力する。第2通信部26は、制御部22より入力された信号を変調して、通信信号として電力伝送線51とパワーケーブル42との間に重畳する。当該重畳された通信信号は、第2通信部15で受信されて復調され、制御部13に出力される。つまり、電力伝送線51とパワーケーブル41とからなる通信経路は、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2へ送られる通信信号のための一方通行の通信経路であり、電力伝送線51とパワーケーブル42とからなる通信経路は、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1へ送られる通信信号のための一方通行の通信経路である。なお、制御部13,22は、第1実施形態に係る制御部13,22とは異なり、比較処理を行わない。
【0116】
第5実施形態においても、電力伝送線51とパワーケーブル41(42)との間に信号を重畳させて通信を行うので、より正確に通信を行うという効果を奏することができる。また、2つの通信経路が、それぞれ、一方通行の通信経路になるので、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に送信する信号と、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1に送信する信号とで時間をずらして送受信を行ったり、異なる周波数帯域を利用する必要がない。
【0117】
また、送受信する信号の種類によって、第1通信部14(23)で送受信するか、第2通信部15(26)で送受信するかを切り替えるようにしてもよい。この場合を第6実施形態として、以下に説明する。
【0118】
図11は、第6実施形態に係る溶接システムA6の全体構成を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。なお、
図11においては、溶接電源装置1の記載を省略している。
【0119】
図11に示す溶接システムA6は、溶接電圧検出部28がワイヤ送給装置2に設けられており、溶接電圧検出部28で検出された検出値を溶接電源装置1に送信する点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0120】
溶接電圧は、例えば、出力端子aと出力端子bとの間など、溶接電源装置1の内部で検出するのが一般的である。しかし、実際にアークに印加される電圧とは誤差があり、検出精度を良くするためには、アーク近傍で検出するのが望ましい。例えば、溶接トーチ3の先端に配置されているコンタクトチップと被加工物Wとの間で電圧を検出すれば、アークに印加される電圧に近い電圧を検出することができる。本実施形態では、ワイヤ送給装置2の内部に溶接電圧検出部28を設け、溶接電圧をできるだけアーク近傍で検出するようにしている。また、溶接電圧検出部28が検出した検出値が溶接電源装置1の制御部13に入力されるまでに時間がかかると、制御が遅れて、精密な溶接を行う場合などに溶接の仕上がりが悪くなることがある。したがって、本実施形態では、当該検出値の送信において、通信経路を専用にして、データ量を小さくしたフォーマットで、スペクトル拡散を行わないようにして、通信を高速化している。
【0121】
溶接電圧検出部28は、溶接電圧をアーク近傍で検出するためのものである。溶接電圧検出部28は、電圧信号線28aによってコンタクトチップに接続され、電圧信号線28bによって被加工物Wに接続されており、コンタクトチップと被加工物Wとの間の電圧を検出する。溶接電圧検出部28は、検出値を溶接電圧の検出値として、制御部22に出力する。
【0122】
制御部22は、溶接電圧検出部28より入力される溶接電圧の検出値を、第2通信部26に出力する。なお、制御部22は、溶接電圧の検出値以外の情報(例えば、溶接条件を設定するための信号や、溶接用電源部11の起動を指示する起動信号など)を、第1通信部23に出力する。溶接電圧の検出値は、通信信号を高速で送信できるように、他の情報よりデータ量の小さいフォーマットで出力される。一方、他の情報は、通信速度より通信信号の信頼性の方が優先されるので、データ量の大きいフォーマットで出力される。なお、制御部22は、第1実施形態に係る制御部22とは異なり、比較処理を行わない。
【0123】
第2通信部26は、溶接電圧の検出値の信号を変調した通信信号を、電力伝送線51とパワーケーブル42との間に重畳することで、溶接電源装置1に送信する。第2通信部26は、通信信号を高速で送信するために、スペクトル拡散を行わない。スペクトル拡散を行う場合と比べて、通信信号の信頼性が劣るが、スペクトル拡散にかかる時間を短縮することができる。一方、第1通信部23が送信する通信信号は、通信速度より通信信号の信頼性の方が優先されるので、第1通信部23は、スペクトル拡散を行う。第2通信部26は送信専用であるが、第1通信部23は、第1実施形態と同様、受信も行う。
【0124】
図11においては図示していない溶接電源装置1の第2通信部14は、受信専用であり、ワイヤ送給装置2より送信される、溶接電圧の検出値に基づく通信信号を復調して、制御部13に出力する。第2通信部26がスペクトル拡散を行わないので、第2通信部14は、逆拡散を行わない。したがって、逆拡散にかかる時間を短縮することができる。
【0125】
第6実施形態によると、第2通信部26を溶接電圧の検出値の送信専用にしているので、通信を高速化することができ、溶接電源装置1の制御部13の制御の遅れを抑制することができる。また、溶接電圧をアーク近傍で検出するので、より精度の高い溶接電圧を検出することができる。また、第6実施形態においても、電力伝送線51とパワーケーブル41(42)との間に信号を重畳させて通信を行うので、より正確に通信を行うという効果を奏することができる。
【0126】
なお、第6実施形態においては、第2通信部26が溶接電圧の検出値のみを送信し、第1通信部23がその他の情報を送受信する場合について説明したが、これに限られない。どの情報を第1通信部14(23)で送受信し、どの情報を第2通信部15(26)で送受信するかは、適宜設計すればよい。
【0127】
本発明に係る溶接システム、溶接電源装置、ワイヤ送給装置および溶接システムの通信方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接システム、溶接電源装置、ワイヤ送給装置および溶接システムの通信方法の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。