(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-132450(P2016-132450A)
(43)【公開日】2016年7月25日
(54)【発明の名称】貨物船における船体構造
(51)【国際特許分類】
B63B 3/18 20060101AFI20160627BHJP
【FI】
B63B3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】書面
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-23644(P2015-23644)
(22)【出願日】2015年1月21日
(71)【出願人】
【識別番号】595034835
【氏名又は名称】山中造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071892
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆一
(72)【発明者】
【氏名】浅海 真一
(57)【要約】 (修正有)
【課題】内部貨物倉の内側空間を直方体にし内部貨物倉の前端左右角部に対応する船体外板には四角錐体状膨出部を設け、スリム型船体の積載貨物容量の最大化、積荷作業性の向上、荷崩れ防止、剰余抵抗の低下及び製造作業の効率化を図る。
【解決手段】船体外板9のうち内部貨物倉3の前端角部に対応する部分を膨出して四角錐体状膨出部を設けている。四角錐体状膨出部は4枚の3角形鋼板よりなる斜面を連設してなる。斜辺は頭頂部を介して側視が直線を呈し、内底板2と平行に配設されている。斜辺は頭頂部を介して側視が直線を呈し、貨物倉前端壁4と平行に配設されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体外板のうち船首側における内部貨物倉前端の内底板付近角部に対応する部分が外方に膨出する四角錐体状膨出部に形成され、該四角錐体状膨出部の内側に内部貨物倉前端角部を配設し、
前記四角錐体状膨出部は、4枚の3角形斜面の頂点を一致させて船体の最外側に位置する頭頂部とし、3角形斜面のうち頭頂部となる頂点で交わる2辺を、別の3角形斜面の頭頂部となる頂点で交わる2辺と連接して4枚の斜面を連設して4本の斜辺と4枚の斜面により形成され、
前記4枚の斜面の境界となる4本の斜辺は、船体の側面側から視ると、前記頭頂部を交点として直交して交差する2本の直線を呈し、該2本の直線のうち1本の直線を呈する対向する2本の斜辺は前記船体の内底板と平行な位置関係となるように配設され、もう一本の直線を呈する2本の斜辺は前記内底板と直交する位置関係に配設されてなることを特徴とする貨物船における船体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、内部貨物倉の容積最大化、積荷作業性及び荷崩れ防止を確保しつつ、推進の障害となる剰余抵抗を小さくし、且つ製造が簡単で工期の短期間化及び低コスト化を図った貨物船における船体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
貨物船における船体構造は、船舶関連法で規制される総トン数枠内で積載貨物容量を可能な限り大にし、且つ貨物の積荷作業性の向上及び荷崩れの防止を図る必要性がある。可能な限り容量が大なる内部貨物倉を確保するには船体前半部の船幅を大にすることが好適である。又、積荷作業の向上を図るには、内底板形状がテーパ部や切欠き部の無い四角形のボックス形にすることが好適である。船幅を船体前半部である船首側も船体後半部である船尾側と同じように広くし、ボリュームのある肥満型船体にすると剰余抵抗が大となり、推進力が低下し燃費が高くなる。船体形状は、剰余抵抗を小さくし推進力を増大させるために、船幅を船体前半部を船体後半部と比較して狭くしたスリムな形状にすることが好ましい。積載貨物容量を可能な限り大にすること、積荷作業の向上、荷崩れ防止、及び剰余抵抗を小さくすることの総てを満足するには、船体前半部の船幅を狭くしたスリムな船体にし、且つ内部貨物倉内底板を可能な限り横幅の広い四角形にし、内底板のうち船体外板より外方に突き出す部分は、貨物倉左右前端角部に対応する船体外板のみを外方に突き出す、所謂エラ部分を設けることが考えられる。
そこで、本願特許出願人は、内部貨物倉の底面形状は可能な限り幅広な四角形状を保持し、且つ、内部貨物倉前端左右角部に対応する船体外板部分のみを外方に向けて滑らかに膨出させ、船体前半部のスリム化、積荷作業の効率化、荷崩れ防止及び内部貨物倉の容積の最大化の総てを満足する船体構造を創案し、特許出願及び意匠登録出願をし、権利化した(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。
上記特許文献1若しくは特許文献2に開示の貨物船の船体は、鋼板よりなる船体外板を外方に向けて滑らかに膨出させて製造している。この膨出部は、多数枚の平坦な鋼板を溶接して理想的な彎曲面に作成するのであるが、鋼板を用いて彎曲面を作成する作業は、誰もが簡単にできる作業ではない。彎曲面膨出部の作成は、熟練した高度な技能を有する職人の手作業に頼る高度且つ困難な作業であり、そのため手間及び多くの作業日数を要し、高コスト化していた。又、平坦な鋼板を用いて理想的な彎曲膨出部を製造する技術者の育成に時間を要し職人の高齢化や後継者不足により技術者は減少の一途をたどっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2841171号の特許公報
【特許文献2】第1473020号の意匠公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みて創案されたものであって、内部貨物倉の容積を可能な限り大にするために内部貨物倉の内底板の形状を四角形にし、船幅を船体後半部と比較して船体前半部をスリム化し、内底板形状が四角形の直方体状内部貨物倉の前端左右角部に対応する船体外板部分のみを4枚の三角板の縁部を連設するという簡単な溶接作業で外方に四角錐体状に膨出させ、可能な限りの最大容量で安定的な積荷ができ、航行速度がアップし低燃費で、しかも簡単な作業で製造可能な船体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本願発明のうち請求項1に記載の発明は、船体外板のうち船首側における内部貨物倉前端の内底板付近の角部に対応する部分が外方に膨出する四角錐体状膨出部に形成されて、四角錐体状膨出部の内側に内部貨物倉前端角部を配設し、四角錐体状膨出部は、4枚の3角形斜面の頂点を一致させて船体の最外側に位置する頭頂部とし、3角形斜面のうち頭頂部となる頂点で交わる2辺を、別の3角形斜面の頭頂部となる頂点で交わる2辺と連接して4枚の斜面を連設して4本の斜辺と4枚の斜面により形成され、前記4枚の斜面の境界となる4本の斜辺は、船体の側面側から視ると頭頂部を交点として直交して交差する2本の直線を呈し、該2本の直線のうち1本の直線を呈する対向する2本の斜辺は船体の内底板と平行な位置関係となるように配設され、もう一本の直線を呈する2本の斜辺は内底板と直交する位置関係に配設されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本願発明は内部貨物倉の内部空間を直方体となるボックス形状にし、内部貨物倉の前端左右角部に対応する船体外板部分を外方に四角錐体状に膨出させているので、優秀な技能を有する熟練技能者でなくても4枚の平板の頂点を囲む2辺を連接するという溶接作業で内部貨物倉前端角部を覆う船体外板膨出部を製造でき、船の推進力の低下を招来することがなく、工期の短縮及び製造コストの低減化を図ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】貨物船における船体の概略を示す側面図である。(実施例1)
【
図2】
図1のA−A部分拡大図である。(実施例1)
【
図3】
図2のB−B断面説明図である。(実施例1)
【
図4】
図2のC−C断面説明図である。(実施例1)
【
図5】四角錐体状膨出部の斜視説明図である。(実施例1)
【
図6】内底板と船体外板の位置的関係を説明する平面説明図である。(実施例1)
【
図7】従来型貨物船における面積曲線と、本願発明貨物船における面積曲線とを対比したグラフ説明図である。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本願発明は、内部貨物倉の前端左右角部に対応する船体外板を4枚の3角形状鋼板の縁部を連接させて4枚の斜面よりなる四角錐体状の膨出部にすることで、直方体状内部貨物倉の左右両端角部を欠くことなく内部貨物倉前端左右角部を船体外板膨出部の内側に配設し、貨物倉の容量の最大化の実現、貨物船の推進力の増加、及び低燃費化のための船体前半部のスリム化の総てを実現可能にした。
【実施例1】
【0009】
図面を参照にして実施例1について説明する。貨物船の船体1の内側には、船体1の満載時喫水線LWLより下方で内底板2を満載時喫水線LWLと平行な位置関係に設けている。内底板2は、その横幅を可能な限り船幅に近付け、内部貨物倉3を可能な限り大容量にするようにしている。内底板2の前端には貨物倉前端壁4を、後端には貨物倉後端壁5を夫々満載時喫水線に対して垂直な位置関係に設け、内底板2の横幅が前端部から後端部に亘り、均一幅、或は均一幅に近い略直方体状の貨物倉3を形成している。6は貨物倉3の天井板、7、7は貨物倉の左右内側壁である。四角錐体状膨出部8は、貨物倉前端壁4の左右角部を回避するように、貨物倉前端壁4の前端左右角部に対応する船体外板9を外方に向けて四角錐体状に膨出させて形成している。
【0010】
四角錐体状膨出部8は最も外方に位置する頭頂部10から延びる4本の斜辺111、112、113、114を稜線として囲まれる4枚の斜面121、122、123、124により形成されている。船体1の側面から視て、斜辺111と斜辺113は頭頂部10を介して一直線上に配設されている。
図2に示すように、船体1の側面から視て、頭頂部10を介して斜辺111と斜辺113を結ぶ線は、内底板2の上面より僅かばかり下方位置にて内底板2と平行な位置関係となるように配設されている。船体1の側面から視て、頭頂部10を介して斜辺112と斜辺114を結ぶ線は一直線上に配設されており、内底板2と90度の角度を有し、貨物倉前端壁4に平行な位置関係を有して配設されている。13は第2甲板である。
【0010】
本願スリム型貨物船に於いて、内部貨物倉3の左右角部を欠くか或はテーパにした場合を想定し、この想定する貨物倉形状に沿わせて船首から船体1の長さ方向中央部に亘る船体外板9を自然なテーパにした仮想線14を
図6中に一点鎖線で示した。
船体1の長さ方向中央位置の断面積を1.0とし、船体長さ方向の任意位置に於ける断面積を中央部断面積で除した値をポイントにとり、これを曲線で結んだ面積曲線となる。
図7に、本願発明の船体前半部をスリム化し貨物倉3の内底板2の前端左右角部に対応する船体外板のみを外方に四角錐体状に膨出させた四角錐体膨出部を有するスリム化貨物船の面積曲線Yを示す。本願発明の船体1の面積曲線Yと比較のために、
図7中に貨物倉を完全な直方体にし、船体外板を船首から船体長さ方向中央にかけて貨物倉形状に対応させた従来の肥満型貨物船の面積曲線をXで表す。
図7中に斜線で示される四角錐体状膨出部8は外方に膨出しているが、船体1の全体からみると局所的であり、貨物倉前端壁4に於ける内底板の角部付近を最大とし、その前後は四角錐体状膨出部を有さない従来型のスリム型貨物船に接近、合流している。そのため、四角錐体状膨出部8を面積曲線Yに加算しても局所的に膨らむ程度で剰余抵抗の増加は極めて小さい。しかし、面積曲線Xで表現される肥満型貨物船と比較すると剰余抵抗に関しては、大きな差がある。又、特許第2841171号の特許発明の緩やかな膨出部15は
図7中に点状で表現しているが、特許第2841171号の特許発明の膨出部15と比較して膨らみが小さい。このことより、本願発明は、特許第2841171号に係る特許発明と比較して剰余抵抗が小さいことが判る。
本願発明は、船体1のスリム化及び貨物倉3の直方体形状の双方を満足しているので、貨物船の剰余抵抗を小さくして低燃費で航行速度をスピード化し、しかも貨物倉3への積荷作業性の向上及び積荷の荷崩れの防止を図ることができる。又、4枚の三角形鋼板を用いて4枚の斜面121、122、123、124で四角錐体状膨出部8を船体外板9の内底板2の前端角部対応位置に形成しているので、第2841171号に係る特許発明の緩やかな膨出部を有する貨物船と比較して剰余抵抗が小さくなり、航行速度のスピード性が向上する。
【符号の説明】
【0011】
1 船体
2 内底板
3 貨物倉
8 四角錐体状膨出部
9 船体外板
10 頭頂部
111、112、113、114 斜辺
121、122、123、124 斜面