【解決手段】砥石とガラス端面との接触部に冷却液を供給しながら、砥石によってガラス基板の端面を加工する端面加工工程を備えるガラス基板の製造方法であって、端面加工工程において、接触部に非イオン系界面活性剤を含む水溶液である冷却液を供給して、接触部を冷却する冷却工程と、冷却液中の非イオン系界面活性剤の濃度を測定し、基準となる濃度と測定値とを比較し、基準となる濃度と測定値とが異なる場合に、基準となる濃度になるよう非イオン系界面活性剤の濃度を管理する制御工程を備える。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のガラス基板の製造方法を、実施形態に基づいて説明する。
(1)ガラス基板の製造工程
最初に、端面加工装置によって加工されるガラス基板10の製造工程について説明する。ガラス基板は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイおよび有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に用いられる。ガラス基板には、平面ガラス基板のみならず、曲面ガラス基板も含まれる。ガラス基板は、例えば、0.2mm〜0.8mmの厚みを有し、かつ、縦680mm〜2200mmおよび横880mm〜2500mmの寸法を有する。
【0016】
ガラス基板の一例として、以下の(a)〜(j)の組成を有するボロアルミノシリケートガラスであるガラス基板が挙げられる。
(a)SiO
2:50質量%〜70質量%、
(b)Al
2O
3:10質量%〜25質量%、
(c)B
2O
3:1質量%〜18質量%、
(d)MgO:0質量%〜10質量%、
(e)CaO:0質量%〜20質量%、
(f)SrO:0質量%〜20質量%、
(g)BaO:0質量%〜10質量%、
(h)RO:5質量%〜20質量%(Rは、Mg、Ca、SrおよびBaから選択される少なくとも1種である。)、
(i)R’
2O:0質量%〜2.0質量%(R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。)、
(j)SnO
2、Fe
2O
3およびCeO
2から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物。
なお、上記の組成を有するガラスは、0.1質量%未満の範囲で、その他の微量成分の存在が許容される。
【0017】
図1は、ガラス基板の製造工程を表すフローチャートの一例である。ガラス基板の製造工程は、主として、成形工程(ステップS1)と、採板工程(ステップS2)と、切断工程(ステップS3)と、粗面化工程(ステップS4)と、端面加工工程(ステップS5)と、洗浄工程(ステップS6)と、検査工程(ステップS7)と、梱包工程(ステップS8)とから構成される。
成形工程S1では、ガラス原料を加熱して得られた熔融ガラスから、オーバーフローダウンドロー法またはフロート法によって、ガラスリボンが連続的に成形される。成形されたガラスリボンは、歪みおよび反りが発生しないように温度制御されながら、ガラス徐冷点以下まで冷却される。
採板工程S2では、成形工程S1で成形されたガラスリボンが切断されて、所定の寸法を有する素板ガラスが得られる。
切断工程S3では、採板工程S2で得られた素板ガラスが切断されて、製品サイズのガラス基板が得られる。
粗面化工程S4では、切断工程S3で得られたガラス基板の表面粗さを増加させる粗面化処理が行われる。ガラス基板の粗面化処理は、例えば、フッ化水素を含むエッチング液を用いるウエットエッチング処理である。
【0018】
端面加工工程S5では、粗面化工程S4で粗面化処理が行われたガラス基板の端面の面取り加工および研磨加工が行われる。端面加工工程S5は、後述する端面加工装置によって行われる。端面の面取り加工は、ガラス基板の一対の主表面と端面との間の角部をR形状に研削する加工である。端面の研磨加工は、面取り加工された端面の表面粗さを低下させる(なめらかにする)加工である。
洗浄工程S6では、端面加工工程S5で端面加工が行われたガラス基板が洗浄される。ガラス基板には、切断工程S3および端面加工工程S5で生じた微小なガラス片や、雰囲気中に存在する有機物等の異物が付着している。ガラス基板の洗浄によって、これらの異物が除去される。
検査工程S7では、洗浄工程S6で洗浄されたガラス基板が検査される。具体的には、ガラス基板の形状が測定され、ガラス基板の欠陥が光学的に検知される。ガラス基板の欠陥は、例えば、ガラス基板の表面に存在する傷およびクラック、ガラス基板の表面に付着している異物、および、ガラス基板の内部に存在している微小な泡等である。
梱包工程S8では、検査工程S7における検査に合格したガラス基板が、ガラス基板を保護するための合紙と交互にパレット上に積層されて、梱包される。梱包されたガラス基板は、FPDの製造業者等に出荷される。
【0019】
(2)端面加工工程
次に、
図2を用いて、端面加工装置がガラス基板の端面を面取り加工および研磨加工する端面加工工程S5について説明する。
図2は、端面加工装置100が行う端面加工工程S5を説明するための図である。ガラス基板10は、その主表面が水平面と平行になっている状態で、端面加工装置100の内部を所定の経路に沿って搬送される。
【0020】
端面加工装置100によって加工されるガラス基板10は、長方形の形状を有する。ガラス基板10は、一対の第1端面11a,11b、および、一対の第2端面12a,12bを有する。第1端面11a,11bは、ガラス基板10の短辺に平行な端面である。第2端面12a,12bは、ガラス基板10の長辺に平行な端面である。
端面加工装置100は、主として、第1面取り加工装置101と、回転装置102と、第2面取り加工装置103と、コーナーカット装置104とを備える。各装置は、この順番でガラス基板10の搬送経路の上流側から下流側に向かって配置され、この順番にガラス基板10は通過する。
【0021】
最初に、第1面取り加工装置101は、ガラス基板10の搬送経路の両側に設置された一対の第1ダイヤモンドホイール111を用いて、ガラス基板10の第1端面11a,11bの角部を面取りする。その後、第1面取り加工装置101は、ガラス基板10の搬送経路の両側に設置された一対の第1研磨ホイール121を用いて、ガラス基板10の第1端面11a,11bを研磨する。その後、ガラス基板10は、回転装置102に搬送される。
次に、回転装置102は、ガラス基板10を水平面内で90°回転させる。その後、ガラス基板10は、第2面取り加工装置103に搬送される。
次に、第2面取り加工装置103は、ガラス基板10の搬送経路の両側に設置された一対の第2ダイヤモンドホイール112を用いて、ガラス基板10の第2端面12a,12bの角部を面取りする。その後、第2面取り加工装置103は、ガラス基板10の搬送経路の両側に設置された一対の第2研磨ホイール122を用いて、ガラス基板10の第2端面12a,12bを研磨する。その後、ガラス基板10は、コーナーカット装置104に搬送される。
【0022】
次に、コーナーカット装置104は、4つの第3ダイヤモンドホイール113を用いて、ガラス基板10の主表面の4つの角部を面取りする。その後、ガラス基板10は、洗浄工程S6に搬送される。
【0023】
第1ダイヤモンドホイール111、第2ダイヤモンドホイール112および第3ダイヤモンドホイール113は、砥石として、例えば、粒度が♯400であるダイヤモンド砥粒を、鉄を含む金属系の結合剤で固めたものを用いる。第1ダイヤモンドホイール111、第2ダイヤモンドホイール112および第3ダイヤモンドホイール113は、同じ種類のホイールであってもよい。
第1研磨ホイール121および第2研磨ホイール122は、砥石として、例えば、粒度が♯400である炭化ケイ素砥粒を、鉄を含む金属系の結合剤で固めたものを用いる。第1研磨ホイール121および第2研磨ホイール122は、同じ種類のホイールであってもよい。なお、結合剤は、コバルト系や銅系のボンド材であってもよく、樹脂系のボンド材であってもよい。
【0024】
ここで、本発明の実施形態は、端面加工工程において、各端面を研削する際に次の工程を備える。
(i)砥石とガラス基板端面との接触部に非イオン系界面活性剤を含む水溶液である冷却液を供給して、接触部を冷却する冷却工程、
(ii)冷却液中の非イオン系界面活性剤の濃度を測定し、基準となる濃度と測定値とを比較し、基準となる濃度と測定値とが異なる場合に、基準となる濃度になるよう冷却液の非イオン系界面活性剤の濃度を管理する制御工程。
【0025】
さらに、以下から選択される工程を備えていてもよい。
(iii)ガラス基板表面へのガラスパーティクルの付着を防止するように水を供給する供給工程、
(iv)冷却液を回収する回収工程、
(v)冷却液をろ過するフィルタリング工程、
(vi)冷却液を循環させる循環工程。
【0026】
上記工程(i)において、冷却液は、砥石とガラス基板端面との接触部に供給すればよく、例えば、後述する端面研削装置に含まれる冷却液供給装置を用いて供給する。
【0027】
非イオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルコールアミン類、グリコール類、エーテル類を用いることができる。アルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アルカノールアミンを用いることができる。グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールを用いることができる。
【0028】
冷却液に用いる水としては、純水、超純水、又は、逆浸透膜によるフィルタ処理を行ったRO水を用いることができる。また、冷却液に用いる水は、イオン交換処理、EDI(Electrodeionization)処理、逆浸透膜によるフィルタ処理、及び脱炭酸ガス装置を通した脱炭酸ガス処理を施した純水であることが、ガラス基板の表面を清浄に保つ点で好ましい。具体的には、フィルタを用いて微粒子等の異物を水から除去し、この後、活性炭を透過させて有機物を除去した後、イオン交換処理、EDI(Electrodeionization)処理、逆浸透膜によるフィルタ処理、及び脱炭酸ガス装置を通した脱炭酸ガス処理を施すことが好ましい。イオン交換処理では、水に含まれるイオン性物質、例えば、塩素イオンやナトリウムイオン等を、イオン交換樹脂膜を用いて水から除去する。EDI処理では、イオン交換樹脂膜を用い、かつ電極に電位を与えて形成された電位勾配を利用して、水からイオン性物質をより精度良く除去する。さらに、逆浸透膜(RO膜)によるフィルタ処理では、イオン性物質、塩類、あるいは有機物を水から除去する。さらに、脱炭酸ガス処理では、脱炭酸ガス装置を用いて炭酸ガスを水から除去する。
【0029】
非イオン系界面活性剤の濃度は、冷却性能を考慮すると、冷却液の表面張力が55mN/m以下となるような濃度が好ましく、50mN/m以下がより好ましい。
また、ガラス基板洗浄後のガラス基板表面へ非イオン系界面活性剤の残存量を考慮すると、冷却液の表面張力が35mN/m以上となる濃度が好ましく、40mN/m以上がより好ましい。非イオン系界面活性剤の濃度が上記の範囲だと、非イオン系界面活性剤のガラス基板表面への残存を減少させる。
有機物がガラス基板表面に残存すると、ガラス基板からブラックマトリクスが剥離するという問題が発生する。有機物には、ガラス基板の積層体に含まれる合紙由来の有機物、搬送及び保管環境下の雰囲気中の有機物だけでなく、ガラス基板表面に残存した冷却液中の非イオン系界面活性剤も含まれる。そこで、非イオン系界面活性剤の濃度の上限を規定することにより、ガラス基板表面に残存する非イオン系界面活剤を減少させ、ブラックマトリクスの剥離を抑制することができる。
【0030】
非イオン系界面活性剤の濃度の調整は、あらかじめ、種々の濃度を有する非イオン系界面活性剤を含む冷却液と、その表面張力との関係について検量線を作成し、作成した検量線を用いて、所望の表面張力が得られるように、水と非イオン系界面活性剤を加えてもよい。
表面張力は、例えば、静的表面張力測定法、リング法、プレート法を用いた市販の表面張力計によって測定する。
【0031】
冷却液は、pHが8〜11になるようにpH調整されることが好ましく、pH8〜10であることがより好ましい。冷却液のpH調整は、薬液に対して、例えば、アルカリ中和剤を添加すること、又は、無機アルカリを使用する際の濃度を調整することによって行われる。アルカリ中和剤としては、例えば、苛性ソーダ、生石灰、消石灰、石灰石、水酸化マグネシウム等を含む中和剤を用いることができる。
冷却液のpHが上記の範囲内だと、ガラス基板は冷却液によっては侵食されないが、ガラス基板の表面に付着している有機物は冷却液により溶解されるため、洗浄時に有機物を容易に除去でき、ガラス基板の洗浄性を高めることができる。
【0032】
冷却液は、冷却液をガラス基板端面と砥石との接触点に供給した後、ガラス基板を純水洗浄したときのガラス基板の表面に残る芳香族化合物が1cm
2当たり例えば5ng以下となるように調整されることが好ましい。ここで、芳香族化合物は、環状不飽和有機化合物の一群であり、ガラス基板の表面へのブラックマトリックス樹脂の密着性の低下の原因となる有機物、疎水性有機物である。ガラス基板の純水洗浄後におけるガラス基板の表面に付着している有機物としては、ガラス基板表面1cm
2当たり10ng以下でもよく、5ng以下であることがより好ましい。
また、ガラス基板のアルカリ系洗浄液洗浄後におけるガラス基板の表面に付着している有機物は、ガラス基板表面1cm
2当たり0.15ng以下であることが好ましい。
水以外の液体を含む冷却液をディスプレイ用のガラス基板の端面加工に用いると、ガラス基板の表面の品質が変化し、洗浄工程によりガラス基板の表面を洗浄しても、パネル製造工程の歩留まり低下をもたらす場合がある。歩留まり低下の1つの要因として、ガラス基板の表面へのブラックマトリックスの密着性が変化してしまい、例えば、ブラックマトリックスがガラス基板の表面から剥離してしまうという問題が生じていたが、このような冷却液を用いることにより、ガラス基板の表面に半導体素子またはカラーフィルタを形成しても、高い密着性を維持できる。
【0033】
上記の工程(ii)の制御工程において、冷却液中の非イオン系界面活性剤の濃度を測定し、基準となる濃度と測定値とを比較し、基準となる濃度と測定値とが異なる場合に、基準となる濃度になるよう冷却液の非イオン系界面活性剤の濃度を管理する。
非イオン系界面活性剤の濃度は、直接測定してもよいし、間接的に測定してもよい。間接的に測定する方法としては、特に限定されないが、例えば、屈折率を利用して濃度を測定する。この場合は、あらかじめ、濃度既知の非イオン系界面活性剤を含む水溶液について屈折率を測定し、非イオン系界面活性剤濃度と屈折率との関係について検量線を作成しておく。そして、冷却液の屈折率を測定し、検量線を用いて、屈折率の測定値から冷却液中の非イオン系界面活性剤の濃度を決定する。
屈折率の測定には、市販の屈折計を用いることができ、JISK 0062に準拠して測定してもよい。
基準となる濃度とは、目的によって決定することができるが、冷却性能を考慮すると、表面張力は、好ましくは55mN/m以下、より好ましくは50mN/m以下となるような濃度から選択される。また、砥石の冷却性能及び非イオン系界面活性剤の残存抑制を考慮すると、冷却液の表面張力は、好ましくは55mN/m以下、より好ましくは50mN/m以上であって、好ましくは35mN/m以上、より好ましくは40mN/m以上となるような濃度から選択される。
濃度、つまり、表面張力の変動があると、冷却能が一定にならず、砥石寿命の短命化につながるため、濃度を一定にする。
基準となる濃度と測定値とを比較して異なる場合に、基準となる濃度になるよう冷却液の非イオン系界面活性剤の濃度を管理する方法としては、基準となる濃度より測定値が低ければ、非イオン系界面活性剤を追加して、濃度を一定に調整する。逆に、基準となる濃度より測定値が高ければ、水を追加して、濃度を一定に調整する。なお、上述のように、非イオン系界面活性剤の濃度を、例えば屈折率を用いて間接的に測定する場合は、基準となる濃度についても屈折率に換算し、屈折率同士を比較してもよい。
【0034】
上記の工程(iii)は、ガラス基板表面に水を供給して、ガラス基板表面を水の膜で覆い、ガラスパーティクルの付着を防止する。ガラス基板表面へのガラスパーティクルの付着を効果的に防止するためには、ガラス基板端面の研削と同時又は直後に本工程を行うことが好ましく、回収する冷却液への水の混入量を減らすためには、研削直後に本工程を行うことが好ましい。
【0035】
上記の工程(iv)において、冷却液の回収は、例えば、後述する端面研削装置に含まれる冷却液回収装置を用いて回収する。冷却液の回収は、上記の工程(i)と(ii)の間に行うことができる。
上記の工程(v)において、冷却液をろ過する。上記の工程(i)を経た冷却液には、ガラス屑等が含まれる。これらが研削ホイールとガラスとの間に挟まると、加工不良を引き起こすので、フィルタで除去することが好ましい。ろ過に使用するフィルタとしては、5μm以上のガラス屑が取り除けるようなフィルタが好ましく、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは0.3μm以上である。上記より細かいガラス屑を取り除けるようなフィルタを使用すると、フィルタ交換サイクルが早くなり、稼働率が落ちる。
【0036】
さらに、フィルタで除去できないガラスパーティクルについては、冷却液中のガラス粒子の量を一定以下に制御する工程によって除去してもよい。端面加工において影響とならない程小さいガラスパーティクルであっても、LCD用ガラス基板においては、ガラス表面への付着が問題となる場合がある。ガラス基板の表面に数μmの凸を形成すると、TFTパネルの製造における配線不良や、液晶パネルとしたときの液晶のギャップ変動、これによる表示ムラが生じる可能性があるが、数μm程度のガラスパーティクルのフィルタによる除去は困難であるか、高コストである。しかし、冷却液中の細かいパーティクルの量が少なければ、ガラス基板の表面に付着する可能性が低い。そこで、細かいパーティクルの含有量を管理することにより、ガラス基板表面へのパーティクルの付着を防ぐことができる。
細かいパーティクルの含有量を管理としては、例えば、冷却液中のガラス粒子の量を測定し、測定値と基準値とを比較し、測定値が基準値以上となったら、冷却液を交換する。
ガラス粒子の量の測定は、例えば、電気伝導率を用いて間接的に測定することができる。電気伝導率を用いて測定する場合は、水溶液中のガラス粒子が増えると電気伝導率が上昇することを利用することができる。具体的には、既知のガラス粒子量と電気伝導率との関係について検量線をあらかじめ作成しておき、冷却液中の電気伝導率を測定し、検量線を用いて電気伝導率の測定値からガラス粒子の量を算出することができる。
基準値は、例えば、ガラス基板の表面清浄性を保つ程度のガラス粒子量を含む冷却液を準備し、あらかじめガラス量を測定し、基準値として設定する。基準値は、必要とするガラス基板の表面清浄性を考慮して適宜決定する。
測定値と基準値との比較は、ガラス粒子量を電気伝導率により測定した場合は、電気伝導率同士を比較してもよい。
【0037】
さらに、上記の工程(vi)において、冷却液を循環させる。循環させる際の冷却液の温度を20℃以下として、砥石とガラス基板端面との接触部に冷却液を供給してもよい。
【0038】
(3)端面研削装置
以下に、本実施形態に用いることのできる端面研削装置の一例を、
図3を用いて説明する。
端面研削装置200は、主として、ハウジング202と、面取り砥石203と、モータ(図示せず)と、冷却液供給装置204と、冷却液回収装置205と、ろ過装置206と、濃度制御装置207とを備える。
ハウジング202は金属板で組み立てられた直方体の容器である。
面取り砥石203は、ハウジング202の内部空間に備えられ、ハウジング202の外表面に設けられたスリットから挿入されたガラス基板201の端面を、面取り加工する。
モータは、ハウジング202の上面に取り付けられて、シャフトを介して面取り砥石203と連結されている。モータは、シャフトを軸回転させて、面取り砥石203を回転軸周りに回転させるための動力源である。
冷却液供給装置204は、ハウジング外部空間に貯留した冷却液を、ハウジングを貫通した配管を介して、ハウジング内部空間の面取り砥石203の側面に冷却液を供給する。
冷却液回収装置205は、吸引管を介してハウジングに接続され、ハウジング202の内部空間の気体を吸引して、ハウジングの内部空間をハウジングの外部空間に対して負圧にし、液体および気体を吸引することができる。
ろ過装置206は、冷却液回収装置205により回収した冷却液を、フィルタでろ過してガラス片を取り除く。
濃度制御装置207は、冷却液中の非イオン系界面活性剤濃度を測定する測定部と、基準値と測定値を比較する比較部と、基準値と測定値とが異なる場合に濃度調整の指令を濃度調整部に送る司令部と、司令部からの指令を受けて冷却液の濃度が目標とする濃度となるよう調整する濃度調整部とを備える。濃度調整部を経た冷却液は、冷却液供給装置204に供給される。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
砥石とガラス基板の端面との接触部に、非イオン系界面活性剤を含む水溶液である冷却液を供給しながら、接触部を冷却し、ガラス基板の端面を加工した。
【0041】
砥石として、砥粒#600のダイヤモンドホイールを用いた。ダイヤモンドホイールは、33m/秒の周速度で回転させ、ガラス基板を送り速度7m/分で搬送した。
【0042】
ガラス基板として、以下の組成を有する、1100mm×1300mm×0.7mmのサイズのガラス基板を用いた。
SiO
2: 60質量%、
B
2O
3: 10質量%、
Al
2O
3: 19.8質量%、
CaO: 5質量%、
SrO: 5質量%、
SnO
2: 0.2質量%。
【0043】
非イオン系界面活性剤を含む水溶液としては、表面張力が53mN/mになるよう濃度を調整した。ここで、冷却液中の非イオン系界面活性剤濃度の調整は、濃度既知の非イオン系界面活性剤を含む冷却液について、静的表面張力測定法を用いた市販の表面張力計により表面張力を測定して、非イオン系界面活性剤濃度と表面張力との関係についてあらかじめ検量線を作成し、作成した検量線を用いて冷却液を調整した。
【0044】
ガラス基板の端面の加工は、複数枚のガラス基板が連続的処理され、加工距離が1000mを超えるまで、連続的に行った。この際に、飛散したガラスパーティクルの基板表面への付着を防ぐため、ガラス基板表面に対して上部からシャワーを当てた。冷却液の供給及び回収は
図3に示す端面研削装置により行った。さらに、回収した冷却液を、フィルタを用いてろ過した。
【0045】
次に、回収した冷却液中の非イオン系界面活性剤の濃度を、屈折率を用いて間接的に測定した。
ここで、屈折率の測定は、20℃における濃度既知の非イオン系界面活性剤を含む冷却液について、JISK 0062に準拠して屈折率を測定して、屈折率と非イオン系界面活性剤濃度との関係についてあらかじめ検量線を作成し、作成した検量線を用いて、冷却液の屈折率の測定値から、非イオン系界面活性剤の濃度を決定した。
【0046】
得られた非イオン系界面活性剤の濃度は、研削熱による蒸発量よりシャワー水の混入量が多かったため、目標値(表面張力が53mN/mになるような濃度)と比較して低かった。
そこで、上記で作成した非イオン系界面活性剤濃度と表面張力との関係を示す検量線を用いて、目標値とするために必要な非イオン系界面活性剤の添加量を算出し、ポンプAを押して、算出した量の非イオン系界面活性剤を冷却液に添加し、冷却液の濃度が目標値となるよう調整した。
【0047】
次に、得られた冷却液を循環させて、上記と同様の条件にて端面加工し、カラーフィルタ用のガラス基板を作製した。
その結果、加工枚数が増えても(加工距離が長くても)、ダイヤモンドホイールの駆動に要する加工電流値の上昇が少なく、安定していた。また、ガラス基板端面に加工欠陥は生じなかった。
【0048】
次に、加工されたガラス基板の表面品質の確認を行うために、ガラス基板上にブラックマトリックス樹脂のパターンを形成し、冷却液に水を用いた場合におけるガラス基板と比較し、ブラックマトリックスの密着性を判定した。具体的には、各ガラス基板の表面に、膜厚1μm、かつ、線幅1μm〜15μmとなるようにブラックマトリックス樹脂を塗布してパターンを形成し、ガラス表面へのブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の確認を行った。
その結果、実施例1のガラス基板と、冷却液に水を用いた場合におけるガラス基板とでは、ブラックマトリックスの密着性に変化は見られないことを確認した。
【0049】
次に、加工されたガラス基板を、上記の洗浄工程S6に投入し、ガラス基板の表面の洗浄を行い、その後、ガラス基板上にブラックマトリックス樹脂のパターンを形成し、冷却液に水を用いた場合におけるガラス基板と比較し、ブラックマトリックスの密着性を判定した。具体的には、各ガラス基板の表面に、膜厚1μm、かつ、線幅1μm〜15μmとなるようにブラックマトリックス樹脂を塗布してパターンを形成し、ガラス表面へのブラックマトリックス樹脂の剥離および残渣の確認を行った。
その結果、洗浄後においても、実施例1のガラス基板と、冷却液に水を用いた場合におけるガラス基板とでは、ブラックマトリックスの密着性に変化は見られないことを確認した。
【0050】
(実施例2)
実施例1において、非イオン系界面活性剤の濃度を、表面張力が53mN/mになるような濃度から、表面張力が50mN/mになるような濃度に変更し、目標値として表面張力が53mN/mになるような濃度から、表面張力が50mN/mになるような濃度に変更した以外は、実施例1と同一条件にて、冷却液を循環させて端面加工し、カラーフィルタ用のガラス基板を作製した。
その結果、実施例1と比較して、加工枚数が増えても(加工距離が長くても)加工電流値の上昇が少なく、安定していた。また、ガラス基板端面に加工欠陥は生じなかった。
【0051】
次に、実施例1のガラス基板から実施例2のガラス基板に変更した以外は、実施例1と同一条件にて、ブラックマトリックスの密着性を判定した。
洗浄工程S6の前後のいずれにおいても、実施例2のガラス基板と、冷却液に水を用いた場合におけるガラス基板とでは、ブラックマトリックスの密着性に変化は見られないことを確認した。
【0052】
(実施例3)
実施例1において、非イオン系界面活性剤の濃度を、表面張力が53mN/mになるような濃度から、表面張力が38N/mになるような濃度に変更し、目標値として表面張力が53mN/mになるような濃度から、表面張力が38mN/mになるような濃度に変更した以外は、実施例1と同一条件にて、冷却液を循環させて端面加工し、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板を作製した。
その結果、実施例2と比較して、加工枚数が増えても(加工距離が長くなる)加工電流値の上昇が少なく、安定していた。また、ガラス基板端面に加工欠陥は生じなかった。
【0053】
(実施例4)
実施例1において、端面加工の際にガラス基板表面に対してシャワーを当てなかったこと以外、実施例1と同一条件にて試験を行い、回収した冷却液中の非イオン系界面活性剤の濃度を、屈折率を用いて測定した。
得られた測定値は、研削熱による水の蒸発があったがシャワー水の混入がないことから、目標値(表面張力が55mN/mになるような濃度)と比較して高かった。そこで、上記で作成した非イオン系界面活性剤濃度と表面張力の関係を示す検量線を用いて、目標値とするために必要な水の添加量を算出した。
次に、ポンプBを押して、算出した量の水を冷却液に添加し、冷却液の濃度が目標値となるよう調整した。
次に、得られた冷却液を、循環させて、上記と同様の条件にて端面加工に用い、カラーフィルタ用のガラス基板を作製した。
その結果、実施例1と同様に、加工枚数が増えても(加工距離が長くても)、加工電流値の上昇が少なく、安定していた。また、ガラス基板端面に加工欠陥は生じなかった。
【0054】
次に、実施例1のガラス基板を実施例5のガラス基板に変更した以外は、実施例1と同一条件にて、ブラックマトリックスの密着性を判定した。
洗浄工程S6の前後のいずれにおいても、実施例5のガラス基板と、冷却液に水を用いた場合におけるガラス基板とでは、ブラックマトリックスの密着性に変化は見られないことを確認した。
【0055】
(比較例1)
回収した冷却液の濃度を調整しなかったこと以外、実施例1と同一条件にてカラーフィルタ用のガラス基板を作製した。
その結果、実施例1と同様に、冷却液を循環させて端面加工を行った際、加工距離が1000mに達するまでに、加工されたガラス基板の端面において、加工欠陥が連続的または散発的に発生した。
また、加工負荷を示す加工電流値も、加工スタート時から上昇することが確認された。
端面の研削加工において、加工ホイールとガラス基板との加工点まで冷却液の浸透が不足し、その結果、連続加工を行うと、加工欠陥の発生、更には加工負荷電流値の上昇が生じた。この場合、加工ホイールの加工溝のドレッシング作業が必要になる。
【0056】
次に、実施例1のガラス基板を比較例1のガラス基板に変更した以外は、実施例1と同一条件にて、ブラックマトリックスの密着性を判定した。
洗浄工程S6の前後のいずれにおいても、比較例1のガラス基板と、冷却液に水を用いた場合におけるガラス基板とでは、ブラックマトリックスの密着性に変化が見られないことを確認した。
【0057】
以上の結果から、本願発明による実施例1〜4のガラス基板の製造方法によると、砥石を安定して冷却することができ、砥石の熱による摩耗が少なくなり、砥石寿命を延ばすことが期待できる。さらに、冷却液中の非イオン系界面活性剤の上限濃度を規定することにより、ガラス基板表面への非イオン系界面活性剤の残留を減少させて、ブラックマトリクス密着性を非常に優れたものとすることが可能である。
これに対して、冷却液の濃度管理をしなかった比較例1のガラス基板の製造方法によると、加工溝のドレッシング作業が必要になるため、砥石寿命の短命化につながる。
【0058】
以上、本発明のガラス基板の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。