【課題】水分に対して高い耐性を有する有機無機ぺロブスカイト化合物を提供する。また、この化合物を用いることで水に対して高い耐久性を有する発光体及び電子デバイスを提供する。
【解決手段】2価以上の金属カチオンと、金属カチオンとは異なる2種以上のカチオンを構成要素として含む有機無機ペロブスカイト化合物であって、2種以上のカチオンのうちの1種が含窒素複素環化合物カチオンであることを特徴とする、有機無機ペロブスカイト化合物。
2価以上の金属カチオンと、該金属カチオンとは異なる2種以上のカチオンを構成要素として含む有機無機ペロブスカイト化合物であって、前記2種以上のカチオンのうちの1種が含窒素複素環化合物カチオンであることを特徴とする、有機無機ペロブスカイト化合物。
前記2種以上のカチオンのうちの1種が、含窒素複素環化合物カチオン以外のカチオンであることを特徴とする、請求項1乃至3の何れか1項に記載の有機無機ペロブスカイト化合物。
前記2種以上のカチオンのうち1種が、炭素数1以上6以下の、置換基を有していてもよいアルキルアンモニウムイオンであることを特徴とする、請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機無機ペロブスカイト化合物。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下の記載は、本発明の実施形態の一例(代表例)に係る構成要件の説明であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。なお、以下の説明において、同一部分又は同様の機能を有する部分に対しては、異なる図面間で同一の符号が共通して用いられており、このような部分については繰り返しの説明は省略している。
【0013】
<1.有機無機ぺロブスカイト化合物>
以下、一実施形態に係る有機無機ぺロブスカイト化合物について説明する。有機無機ぺロブスカイト化合物とは、非特許文献2,3等に記載されているように、2価以上の金属カチオン及び2価以上の金属カチオン以外のカチオン、並びにハロゲン化物イオンで構成される化合物である。なかでも、本実施形態に係る有機無機ペロブスカイト化合物は、2価の金属カチオンの他に2種以上のカチオンを構成要素として含む有機無機ペロブスカイト化合物であって、2種以上のカチオンのうちの1種が含窒素複素環化合物カチオンである化合物である。
【0014】
有機無機ペロブスカイト化合物の構造としては、一般式AMX
3で表されるものと一般式A
2MX
4で表されるものとが知られている。ここで、Mは2価以上の金属カチオンを、Aは2価以上の金属カチオンとは異なる有機無機ペロブスカイト化合物が含むカチオンを、Xはハロゲン化物イオンを指す。上述の有機無機ペロブスカイト化合物の中でも、本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物は、構造的に安定なAMX
3型の構造を有するペロブスカイト構造であることが好ましい。以下に、2価以上の金属カチオンM、ハロゲン化物イオンX及びカチオンAについて、より詳しく説明する。
【0015】
<1.1.2価以上の金属カチオンM>
金属カチオンMの種類に特に制限ない。また、金属カチオンMの価数は2価以上であれば特に制限はない。一実施形態においては、3次元型のAMX
3構造を形成しやすいように、金属カチオンMの価数は2価以上4価以下であることが好ましい。なお、有機無機ぺロブスカイト化合物は2種以上の金属カチオンを構成要素として含んでいてもよい。
【0016】
2価の金属カチオンとしては、スカンジウム(II)イオン、チタン(II)イオン、バナジウム(II)イオン、クロム(II)イオン、マンガン(II)イオン、鉄(II)イオン、コバルト(II)イオン、ニッケル(II)イオン、銅(II)イオン、パラジウム(II)イオン、ユウロピウム(II)イオン、イッテルビウム(II)イオン等の2価の遷移金属イオン;マグネシウム(II)イオン、カルシウム(II)イオン、ストロンチウム(II)イオン、バリウム(II)イオン、亜鉛(II)イオン、カドミウム(II)イオン、ゲルマニウム(II)イオン、スズ(II)イオン、鉛(II)イオン等の2価の典型金属イオンが挙げられる。
【0017】
3価の金属カチオンとしては、スカンジウム(III)イオン、チタン(III)イオン、バナジウム(III)イオン、クロム(III)イオン、マンガン(III)イオン、鉄(III)イオン、コバルト(III)イオン、ユウロピウム(III)イオン、イッテルビウム(III)イオン等の3価の遷移金属イオン;アンチモン(III)イオン、ビスマス(III)イオン等の3価の典型金属イオンが挙げられる。
【0018】
4価の金属カチオンとしては、チタン(IV)イオン等の4価の遷移金属イオン;スズ(IV)イオン、鉛(IV)イオン等の4価の典型金属イオンが挙げられる。
【0019】
これらの中でも、3次元型のAMX
3構成を形成しやすい点で、金属カチオンMは、2価の金属カチオンであることが好ましく、2価の金属カチオンの中でも、ユウロピウム(II)イオン、スズ(II)イオン及び鉛(II)イオンから選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましく、ユウロピウム(II)イオン、スズ(II)イオン又は鉛(II)イオンであることが特に好ましい。この理由としては、これらのイオン半径は1〜1.2Åであるために、3次元型のAMX
3構成を特に形成しやすいことが挙げられる。
【0020】
なお、本明細書において典型金属原子とは、周期表第1族、第2族、及び第12族〜第18族の金属元素の原子を指す。また遷移金属原子とは、周期表第3族〜第11族の金属元素の原子を指す。なお、本明細書において、周期表とは、IUPAC2005年度推奨版(Recommendations of IUPAC 2005)のことを指す。
【0021】
有機無機ぺロブスカイト化合物が2種以上の異なる金属カチオンを構成要素として含んでいる場合、さらに有していてもよい金属カチオンの例としては、上に列挙した金属カチオンが挙げられる。
【0022】
<1.2.ハロゲン化物イオンX>
ハロゲン化物イオンXは、ハロゲン原子(周期表第17族元素の原子)のアニオンである。具体的には、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンが挙げられる。なかでも、3次元のAMX
3構造を形成しやすい原子として、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンが好ましい。また、2種以上のカチオンAと共に3次元のAMX
3構成をさらに形成しやすい点で、ハロゲン化物イオンXは臭化物イオンであることがより好ましい。なお、有機無機ぺロブスカイト化合物は2種以上のハロゲン化物イオンを構成要素として含んでいてもよい。すなわち、ハロゲン化物イオンXは、2種以上の異なるハロゲン化物イオンで構成されていてもよい。
【0023】
<1.3.カチオンA>
本実施形態に係る有機無機ペロブスカイト化合物は、2価以上の金属カチオンMとは異なる2種以上のカチオンを構成要素として含んでいる。すなわち、カチオンAは、2種以上の異なるカチオンで構成されている。具体的には、本実施形態に係る有機無機ペロブスカイト化合物は、カチオンA
1、カチオンA
2、カチオンA
3、……を含んでいる。これらのカチオンは、2価以上の金属カチオン以外のカチオンである。本実施形態に係る有機無機ペロブスカイト化合物が含むカチオンの種類は、構造的に安定な3次元のAMX
3構成を形成しやすいように、好ましくは2種以上4種以下であり、さらに好ましくは2種以上3種以下であり、特に好ましくは2種である。
【0024】
カチオンA
1,A
2,……の価数に特段の制限はない。3次元型のAMX
3構成を形成しやすい点で、カチオンA
1,A
2,……の価数は1価以上3価以下であることが好ましく、1価であることがより好ましい。
【0025】
本実施形態に係る有機無機ペロブスカイト化合物が含むカチオンのうち1つであるカチオンA
1は、含窒素複素環化合物カチオンである。含窒素複素環化合物とは、複素環骨格を構成するヘテロ原子として窒素原子を有している複素環化合物のことであり、脂肪族複素環化合物と芳香族複素環化合物とを含む。また、含窒素複素環化合物カチオンとは、含窒素複素環化合物に対応するカチオンである。なお、含窒素複素環化合物は、窒素原子に加えて、酸素原子又は硫黄原子のような他のヘテロ原子を複素環骨格に含んでいてもよい。含窒素複素環化合物カチオンは、含窒素複素環化合物と水素イオンとが結合して得られるカチオンの他に、含窒素複素環化合物を構成する窒素原子に置換基を導入する、例えばN−アルキル化を行うことにより得られるカチオンも含む。一実施形態において、カチオンA
1は、含窒素複素環化合物カチオンを構成する窒素原子と水素イオンとが結合して得られるアンモニウムイオンである。カチオンA
1が含窒素複素環化合物カチオンであることは、複素環化合物の立体障害が小さいため、構造的に安定なペロブスカイト構造、例えば3次元のAMX
3構成を形成しやすいために好ましい。
【0026】
含窒素複素環化合物カチオンは、複素環骨格を構成する原子と水素原子のみからなる化合物に対応するカチオンであってもよいし、複素環骨格を構成する原子及び水素原子に加え置換基を有する化合物に対応するカチオンであってもよい。置換基としては、特に限定はないが、例えば、ハロゲン原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、炭素数1以上6以下のアルケニル基、炭素数1以上6以下のアルキニル基、シリル基、ボリル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、アミノ基、水酸基、シアノ基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、スルホニル基、ニトリル基、炭素数6以上10以下の芳香族炭化水素基、又は炭素数2以上10以下の芳香族複素環基等が挙げられる。もっとも、構造的に安定なペロブスカイト構造を形成するために、含窒素複素環化合物カチオンが、複素環骨格を構成する原子と水素原子のみからなる化合物に対応するカチオンであることは好ましい。
【0027】
含窒素複素環化合物カチオンは、含窒素単環化合物カチオンであることが好ましい。含窒素単環化合物カチオンとは、単環骨格を構成するヘテロ原子として窒素原子を有している単環化合物に対応するカチオンのことである。このような含窒素単環化合物カチオンは、サイズが小さいため、有機無機ペロブスカイト化合物が構造的に安定なペロブスカイト構造を形成しやすいために好ましい。特に、よりサイズが小さい点で、含窒素単環化合物カチオンが、3〜6員環の含窒素単環化合物カチオンであることはより好ましい。
【0028】
3〜6員環の含窒素単環化合物カチオンに対応する3〜6員環の含窒素単環化合物の具体例を以下に示す。しかしながら、含窒素複素環化合物カチオンが以下の化合物に対応するカチオンに限定されるわけではない。
【化1】
【化2】
【0029】
含窒素複素環化合物カチオンは、含窒素飽和複素環化合物カチオンであることがさらに好ましく、含窒素飽和単環化合物カチオンであることがより好ましく、3〜6員環の含窒素飽和単環化合物カチオンであることが特に好ましい。理由としては、飽和複素環化合物間には二重結合間の相互作用及びπ電子間の相互作用が働かないため、飽和複素環化合物カチオンを用いる場合には構造的に安定な3次元型のAMX
3構成を得やすいことが挙げられる。含窒素飽和複素環化合物カチオンとしてより好ましくは、アジリジン、アゼチジン又はピロリジンに水素イオンが付加されている、アジリジニウムイオン、アゼチジニウムイオン又はピロリジニウムイオンである。理由としては、構造的に安定な3次元型のAMX
3構成をより形成しやすいためである。
【0030】
これらの含窒素単環化合物カチオン及び含窒素飽和単環化合物カチオンも、上述したように単環骨格を構成する原子及び水素原子に加え置換基を有する化合物に対応するカチオンであってもよい。しかしながら、構造的に安定なペロブスカイト構造を形成するために、含窒素単環化合物カチオン及び含窒素飽和単環化合物カチオンも、単環骨格を構成する原子と水素原子のみからなる化合物に対応するカチオンであることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る有機無機ペロブスカイト化合物が含むカチオンのうち1つであるカチオンA
2は、カチオンA
1とは異なるカチオンである。カチオンA
2は、含窒素複素環化合物カチオンであってもよいし、含窒素複素環化合物カチオン以外のカチオンであってもよい。一実施形態においては、異なるカチオンそれぞれの特性により、発光特性又は半導体特性を向上させながら耐水性を向上させることを目的として、含窒素複素環化合物カチオン以外のカチオンがカチオンA
2として用いられる。
【0032】
なかでも、カチオンA
2が、アンモニウムイオン(NH
4+)、炭素数1以上6以下のアルキルアンモニウムイオン、又は、リチウムイオン(Li
+)、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、及びセシウムイオン(Cs
+)等のアルカリ金属カチオン(周期表第1族元素から選ばれる原子のカチオン)であることが好ましい。理由としては、これらのカチオンは、分子サイズが小さいので、有機無機ペロブスカイト化合物が3次元型のAMX
3構造を形成しやすいことが挙げられる。有機無機ペロブスカイト化合物が3次元型のAMX
3構造をより形成しやすい点で、カチオンA
2が炭素数1以上6以下のアルキルアンモニウムイオンであることはより好ましい。アルキルアンモニウムイオンはさらなる置換基を有していてもよい。置換基の例としては、含窒素複素環化合物カチオンに関して説明した置換基が挙げられる。アルキルアンモニウムイオンの好ましい例としては、メチルアンモニウムイオン(CH
3NH
3+)、エチルアンモニウムイオン(C
2H
5NH
3+)、ホルムアミニジウムイオン(HC(NH
2)
2+)、グアニジウムイオン(C(NH
2)
3+)等の少数の原子団で構成されるアンモニウムイオンが挙げられる。理由としては、これらから選ばれるカチオンは、分子サイズが小さいので、有機無機ペロブスカイト化合物が3次元型のAMX
3構成を形成しやすいことが挙げられる。
【0033】
また、本実施形態に係る有機無機ペロブスカイト化合物はさらなるカチオンA
3,A
4,……を含んでいてもよい。さらなるカチオンは、含窒素複素環化合物カチオンであってもよいし、異なるカチオンであってもよい。その例としては、カチオンA
2の例として挙げたカチオンが挙げられる。構造的に安定な3次元のAMX
3構成を形成しやすい点で、A
1及びA
2以外のさらなるカチオンのモル比は、カチオンA
1,A
2の合計に対して、好ましくは10モル%以下、さらに好ましくは7モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。一方で、本実施形態に係る有機無機ペロブスカイト化合物は2種のカチオンを構成要素として含んでいることが好ましいことからもわかるように、A
1及びA
2以外のさらなるカチオンのモル比の下限は0モル%である。
【0034】
カチオンA
1,A
2間のモル比に関しては、本発明に係る性能を発揮する限りにおいて特段の制限はない。カチオンA
1,A
2の合計に対するA
1のモル比は、好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。一方、下限としては、好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル以上である。また、カチオンA
1,A
2の合計に対するA
2のモル比としては、好ましくは90モル%以下であり、さらに好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下である。一方、下限としては、好ましくは10モル%以上であり、さらに好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル以上である。モル比が上記の範囲内であることにより、構造的に安定な3次元のAMX
3構成を形成しやすくなる。
【0035】
<1.4.好ましい組み合わせ>
以下では、価数及びイオン半径の観点から、AMX
3で表せる3次元型有機無機ペロブスカイト化合物を得るために好ましい金属カチオンM、ハロゲン化物イオンX、及びカチオンAの組み合わせについて説明する。
【0036】
価数の観点では、有機無機ペロブスカイト化合物が全体として0価となるようにするには、ハロゲン化物イオンXは1価のアニオンであるから、カチオンAの価数と金属カチオンMの価数との和は+3価である必要がある。このため、カチオンAの価数が+1価であり、金属カチオンMの価数は+2価であることが好ましい。このようなカチオンA及び金属カチオンMの具体例は、既に示された通りである。このような組み合わせにより、水分に対する高い耐性を確保しながら、全体として0価である有機無機ペロブスカイト化合物を得ることができる。
【0037】
また、イオン半径の観点からは、国際公開第2013/171517号等に記載されている、経験則に従うことが好ましい。
経験則 (R
A+R
X)=t・√2(R
M+R
X)
R
A:Aサイトのイオン半径
R
M:Mサイトのイオン半径
R
X:Xサイトのイオン半径
t:許容係数 (0.8<t<1.1)
【0038】
カチオンAの平均イオン半径、すなわち2種以上のカチオンA
1,A
2,……の平均イオン半径と、金属カチオンMのイオン半径と、ハロゲン化物イオンXのイオン半径とから求められるtが0.8より大きく1.1より小さいことは、経験則によればAMX
3で表される3次元型有機無機ペロブスカイト化合物が安定な構造となるものと考えられるため、好ましい。このような金属カチオンM、ハロゲン化物イオンX、及びカチオンAの組み合わせの具体例は、既に示された通りである。このような組み合わせにより、水分に対する高い耐性を確保しながら、安定な3次元型有機無機ペロブスカイト化合物を得ることができる。
【0039】
<1.5.本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物の特徴>
通常の有機無機ペロブスカイト化合物は、水分に対して耐性が低い。この理由としては、水に由来するH
3O
+と有機無機ペロブスカイト化合物中のカチオンとが置き換わること、及び金属カチオンが水に由来するH
3O
+又はOH
−等の存在下で酸化又は還元されることで価数が変化することが挙げられる。
【0040】
一方、一実施形態に係る有機無機ぺロブスカイト化合物は、水分に高い耐性を有するという特徴を有する。この理由としては、詳細な理由は分かってはいないが、含窒素複素環化合物カチオンの存在により、化合物中の他方のカチオンが、水に由来するH
3O
+カチオンにより置き換わりにくくなることが考えらえる。また、金属カチオンを含窒素複素環化合物カチオンが保護するために、金属カチオンの酸化又は還元を防げることが考えられる。以上の理由から、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物は、水分に対する高い耐性が期待できる。また、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を用いた発光体及び電子デバイスの耐久性向上が期待できる。
【0041】
なお、有機無機ぺロブスカイト化合物の水分に対する耐性は、有機無機ぺロブスカイト化合物を湯気に暴露したときの有機無機ぺロブスカイト化合物の変化を観察することにより調べることができる。観察には、目視又は分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U−4100)を用いることができる。3次元型の有機無機ペロブスカイト化合物の構造変化は色の変化として表れやすいので、簡易でありながら感度のよい目視での判断を用いることが好ましい。有機無機ペロブスカイト化合物の色が変わることは化合物が劣化したことを示唆している。
【0042】
<2.発光体>
一実施形態に係る有機無機ぺロブスカイト化合物は、発光体材料として用いることができる。なお、本明細書において発光体とは、エネルギーを光に変換する(発光する)材料のことである。以下では、一実施形態に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する発光体について説明する。
【0043】
発光体の発光形態には、光照射による励起での発光(フォトルミネッセンス)、電子線照射による励起での発光(カソードルミネッセンス)、電圧による励起での発光(エレクトロルミネッセンス(電界発光))等がある。本発明に係る性能を発揮する限り、有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する発光体の発光形態に特段の制限はない。一方、有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する発光体は、安定した性能を継続的に発揮するために、励起一重項状態を用いる蛍光体又は励起三重項状態を用いる燐光体であることが好ましい。
【0044】
有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する発光体の用途は特に限定はされないが、例えば電灯、表示装置、標識、シンチレータ、アクセサリー、顕微鏡、後述する電界発光素子等が挙げられる。
【0045】
<3.電子デバイス>
一実施形態に係る有機無機ぺロブスカイト化合物は、電子デバイスの材料として用いることができる。以下では、一実施形態に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する構成要素を有する電子デバイスについて説明する。一実施形態に係る有機無機ぺロブスカイト化合物は、特に、電子デバイスに用いられる半導体のための半導体材料として用いることができる。すなわち、一実施形態において、電子デバイスは、有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する半導体材料を含む半導体を有している。
【0046】
本明細書において電子デバイスとは、2個以上の電極を有し、その電極間に流れる電流若しくは生じる電圧を、電気、光、磁気若しくは化学物質等により制御するデバイス、又は、その電極間に印加した電圧若しくは電流により、光、電場若しくは磁場等を発生させるデバイスのことを指す。具体例としては、電圧若しくは電流の印加により電流若しくは電圧を制御する素子、磁場の印加により電圧若しくは電流を制御する素子、又は化学物質を作用させて電圧若しくは電流を制御する素子等が挙げられる。制御の具体例としては、整流、スイッチング、増幅又は発振等が挙げられる。
【0047】
電子デバイスの例としては、抵抗器、整流器(ダイオード)、スイッチング素子(トランジスタ、サイリスタ)、増幅素子(トランジスタ)、メモリー素子若しくは化学センサー等、又はこれらの素子を組み合わせ若しくは集積化して得られたデバイスが挙げられる。また、電子デバイスのさらなる例としては光素子が挙げられ、光素子には光電流を生じるフォトダイオード若しくはフォトトランジスタ、電界を印加することにより発光する電界発光素子、又は光により起電力を生じる光電変換素子若しくは太陽電池等が含まれる。
【0048】
電子デバイスのより具体的な例としては、S.M.Sze著、Physics of Semiconductor Devices、2nd Edition(Wiley Interscience 1981)に記載されているものを挙げることができる。なかでも、一実施形態に係る電子デバイスの好ましい例としては、電界効果トランジスタ素子(FET)、電界発光素子(LED)、光電変換素子又は太陽電池が挙げられる。これらのデバイスにおいては一実施形態に係る有機無機ぺロブスカイト化合物の高い電気的特性を有効活用することができる。
【0049】
以下、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する構成要素を有する電子デバイスの例として、電界効果トランジスタ素子、電界発光素子、光電変換素子、及び太陽電池について詳細に説明する。
【0050】
<4.電界効果トランジスタ(FET)>
本発明に係る電界効果トランジスタ(FET)素子は、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する構成要素を有している。一実施形態に係る電界効果トランジスタ(FET)素子は、半導体層と、絶縁体層と、ソース電極と、ゲート電極と、ドレイン電極とを有する。また、一実施形態に係るFET素子が有する半導体層は、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有している。
【0051】
以下、一実施形態に係るFET素子について詳細に説明する。
図1は、本発明に係るFET素子の構造例を模式的に表す図である。
図1において、51が半導体層、52が絶縁体層、53及び54がソース電極及びドレイン電極、55がゲート電極、56が基材をそれぞれ示す。
図1(A)〜(D)にはそれぞれ異なる構造のFET素子が記載されているが、どれも本発明に係るFET素子の構造例を示している。FET素子を構成するこれらの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等の公知文献に記載の技術を使用することができる。
【0052】
なかでも、一実施形態に係るFET素子において、半導体層51は、基材56上に直接又は他の層を介して半導体を膜状に形成することにより作製される。また、一実施形態に係るFET素子において、半導体層51は本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する。一方で、半導体層51には、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物以外に、他の化合物(他の半導体等)が添加されていてもよい。また半導体層51は、異なる材料を含み又は異なる成分を有する複数の層で形成される積層構造を有してもよい。
【0053】
半導体層51の膜厚に制限は無く、例えば横型の電界効果トランジスタ素子の場合、所定の膜厚以上であれば素子の特性は半導体層51の膜厚には依存しない。ただし、膜厚が厚くなりすぎると漏れ電流が増加してくることが多いため、半導体層の膜厚は、通常0.5nm以上、好ましくは10nm以上であり、コストの観点からは通常1μm以下、好ましくは200nm以下である。
【0054】
なお、本明細書において「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷(電子又は正孔)がどれだけ速く(又は多く)移動されうるかを示す指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」は、室温におけるキャリア移動度が通常1.0x10
−6cm
2/V・s以上、好ましくは1.0x10
−5cm
2/V・s以上、より好ましくは5.0x10
−5cm
2/V・s以上、さらに好ましくは1.0x10
−4cm
2/V・s以上であることが望ましい。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性の測定、又はタイムオブフライト法等により測定できる。
【0055】
半導体層51の特性としては、室温におけるキャリア移動度が1.0x10
−6cm
2/V・s以上、好ましくは1.0x10
−5cm
2/V・s以上、より好ましくは5.0x10
−5cm
2/V・s以上、さらに好ましくは1.0x10
−4cm
2/V・s以上であることが望ましい。
【0056】
<5.電界発光素子(LED)>
本発明に係る電界発光素子(LED)は、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する構成要素を有している。電界発光素子は、電界を印加することにより、陽極より注入された正孔と陰極より注入された電子との再結合エネルギーによって蛍光性物質が発光する原理を利用した自発光素子である。
【0057】
以下に、本発明に係る電界発光素子について、図面を参照しながら説明する。
図2は、本発明に係る電界発光素子の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2において、符号31は基材、32は陽極、33は正孔注入層、34は正孔輸送層、35は発光層、36は電子輸送層、37は電子注入層、38は陰極、39は電界発光素子を示している。なお、電界発光素子がこれらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。例えば、必ずしも、正孔注入層33、正孔輸送層34、電子輸送層36、及び電子注入層37を設ける必要はない。電界発光素子を構成するこれらの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等の公知文献に記載の技術を使用することができる。
【0058】
一実施形態において、発光層35は本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有している。一実施形態に係る有機無機ぺロブスカイト化合物は蛍光スペクトルの形状が鋭いため、発光層35の材料として好ましく用いられる。
【0059】
発光層35の形成方法に制限はない。例えば、湿式成膜法又は乾式成膜法を用いることができる。また、素子の発光効率を向上させる目的、発光色を変える目的、及び素子の駆動寿命を改善する目的等で、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物をホスト材料として用い、ホスト材料に蛍光色素や燐光性金属錯体等の別の化合物をドープしてもよい。例えば、蛍光色素をドープすることで、
1)高効率の蛍光色素による発光効率の向上
2)蛍光色素の選択による発光波長の可変化
3)濃度消光を起こす蛍光色素が使用可能となる
4)薄膜性の悪い蛍光色素も使用可能となる
5)電荷トラップ解消により駆動安定性が向上する、等の効果が期待される。
【0060】
また、発光層35中に正孔輸送材料を混合することも、特に素子の駆動安定性を向上させる目的のために有効である。発光層35中に混合される正孔輸送材料の量は、5〜50質量%の範囲であることが好ましい。
【0061】
発光層35の膜厚に制限はなく、発光層35に望まれる条件を満たしながら発光量を確保できるように、通常3nm以上、好ましくは10nm以上であり、通常300nm以下、好ましくは100nm以下である。
【0062】
なお、
図2は本発明に係る電界発光素子の一実施形態を示すものにすぎず、本発明に係る電界発光素子が図示された構成に限定されるわけではない。例えば、
図2とは逆の積層構造とすること、すなわち、基板31上に陰極38、電子注入層37、電子輸送層36、発光層35、正孔輸送層34、正孔注入層33及び陽極32をこの順に積層することも可能である。
【0063】
本発明に係る電界発光素子の構成は特に限定されず、単一の素子であっても、アレイ状に配置された構造からなる素子であっても、陽極と陰極とがX−Yマトリックス状に配置された構造の素子であってもよい。
【0064】
<6.光電変換素子>
本発明に係る光電変換素子は、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有する構成要素を有している。一実施形態に係る光電変換素子は、少なくとも一対の電極と、該電極間に存在する活性層と、を有する。また、一実施形態に係る光電変換素子は、基材、電子取り出し層、及び正孔取り出し層を含むその他の構成要素を有していてもよい。
【0065】
図3は、本発明に係る光電変換素子の一実施形態を模式的に表す断面図である。
図3に示される光電変換素子は、一般的な薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子であるが、本発明に係る光電変換素子が
図3に示されるものに限られるわけではない。本発明の一実施形態に係る光電変換素子107は、基材106、カソード(電極)101、電子取り出し層(バッファ層)102、活性層103、正孔取り出し層(バッファ層)104及びアノード(電極)105がこの順に形成された層構造を有する。なお、必ずしも電子取り出し層102及び正孔取り出し層104を設ける必要はない。
【0066】
一実施形態に係る光電変換素子においては、活性層103が本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有している。また、一実施形態に係る光電変換素子においては、バッファ層(102,104)が本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を含有している。
【0067】
<6.1.活性層(103)>
活性層103は光電変換が行われる層を指し、活性層103において発生した電気が電極101,105から取り出される。活性層103の材料としては無機化合物、有機化合物、又は有機無機複合化合物のいずれを用いてもよい。活性層103の材料は簡易な塗布プロセスにより層を形成しうる材料であることが好ましく、例えば本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物を用いることができる。活性層103は、p型半導体化合物及びn型半導体化合物の双方を含む層でもあってもよい。一方で、両極性を示す半導体化合物は、一種の半導体化合物で光電変換を起こせるため、活性層103の材料として好ましい。このような両極性を示す半導体化合物としては、シリコン等の無機化合物の他に、有機無機ぺロブスカイト化合物が挙げられる。
【0068】
有機無機ぺロブスカイト化合物の構成材料は、溶解性、結晶性、成膜性、HOMOエネルギー準位及びLUMOエネルギー準位等を制御するために適宜選択することができる。また、有機無機ぺロブスカイト化合物が有機溶媒に可溶であることは、塗布法により活性層103を形成しうる点で好ましい。
【0069】
有機無機ぺロブスカイト化合物としては、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物が挙げられる。特に、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物は、水に対する耐性が高いので好ましい。
【0070】
活性層103の膜厚は特に限定されないが、通常10nm以上、好ましくは50nm以上であり、一方通常1μm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下である。活性層103の膜厚が10nm以上であることは、膜の均一性が保たれ、短絡を起こしにくくなるため、好ましい。また、活性層103の厚さが1μm以下であることは、内部抵抗が小さくなる点、及び電極間(カソード101−アノード105間)が離れすぎず電荷の拡散が良好となる点で、好ましい。
【0071】
活性層103の作成方法としては、特段に制限はないが、活性層材料を溶媒に溶解させて得た塗布液を塗布することにより活性層103を作製する塗布法が好ましい。塗布法としては、任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0072】
塗布法で用いる溶媒の種類としては、活性層材料を均一に溶解あるいは分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン又はデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン又はオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール又はプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン又はシクロヘキサノン等のケトン類;γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル又は乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン又はトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)又はジオキサン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン(NMP)又はN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド類;エタノールアミン、ジエチルアミン又はトリエチルアミン等のアミン類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類等が挙げられる。なかでも好ましくは、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン又はオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン又はシクロヘキサノン等のケトン類;γ−ブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸ブチル又は乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン又はトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)又はジオキサン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン(NMP)又はN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類である。より好ましくは、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン又はシクロヘキサノン等のケトン類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)又はジオキサン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン(NMP)又はN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類である。特に好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン(NMP)又はN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド類である。なお、1種の溶媒を単独で用いてもよく、2種以上の溶媒を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0073】
活性層103は、2種以上の半導体化合物を含んでいてもよいし、半導体化合物以外に他の化合物を含んでもよい。例えば、一実施形態において、活性層103は、本発明に係る有機無機ぺロブスカイト化合物の他に、例えば、電荷移動度を向上させる目的で、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)等のp型半導体化合物及びフラーレン化合物等のn型半導体化合物を含んでもよい。具体例としては、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等の公知文献に記載の化合物を、活性層103がさらに含んでいてもよい。
【0074】
<6.2.バッファ層(102,104)>
バッファ層は通常、電子取り出し層と正孔取り出し層とに分類することができる。一実施形態において、光電変換素子107は、カソード101と活性層103との間に電子取り出し層102を有し、活性層103とアノード105との間に正孔取り出し層104を有する。もっとも、光電変換素子107は、電子取り出し層102と正孔取り出し層104との一方のみを有していてもよいし、電子取り出し層102と正孔取り出し層104とのどちらも有さなくてもよい。
【0075】
電子取り出し層102と正孔取り出し層104とは、一対の電極(101,105)間に、活性層103を挟むように配置されることが好ましい。すなわち、光電変換素子107が電子取り出し層102と正孔取り出し層104の両者を含む場合、アノード(電極)105、正孔取り出し層104、活性層103、電子取り出し層102、及びカソード(電極)101をこの順に配置することができる。光電変換素子107が電子取り出し層102を含み正孔取り出し層104を含まない場合は、アノード(電極)105、活性層103、電子取り出し層102、及びカソード(電極)101をこの順に配置することができる。電子取り出し層102と正孔取り出し層104とは積層順序が逆であってもよい。また、電子取り出し層102と正孔取り出し層104の少なくとも一方が異なる複数の膜により構成されていてもよい。
【0076】
<6.2.1.電子取り出し層(102)>
電子取り出し層102の材料に特に限定は無く、活性層103からカソード101への電子の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0077】
電子取り出し層102の形成方法に特に制限はない。昇華性を有する化合物を材料として用いる場合は、真空蒸着法等の乾式成膜法により形成することができる。また、溶媒に可溶な化合物を材料として用いる場合は、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法により形成することができる。なお、溶媒としては、活性層103の形成方法の説明において挙げた溶媒を用いることができる。湿式成膜法を用いる場合の、電子取り出し層102の材料を含有する塗布液の塗布方法としては、任意の方法を用いることができる。例えば、スピンコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法及びカーテンコート法が挙げられる。また、塗布法として1種の方法のみを用いてもよいし、2種以上の方法を組み合わせて用いることもできる。
【0078】
電子取り出し層102の全体の膜厚に特に限定はないが、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上、特に好ましくは10nm以上である。一方、通常1μm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは400nm以下、特に好ましくは200nm以下である。電子取り出し層102の膜厚が上記の範囲内にあることで、均一な塗布が容易となり、電子取り出し機能もよく発揮されうる。
【0079】
<6.2.2.正孔取り出し層(104)>
正孔取り出し層104の材料に特に限定は無く、活性層103からアノード105への正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物が挙げられる。また、有機化合物としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等に、スルホン酸及びヨウ素等がドーピングされた導電性ポリマー(例えば、PEDOT:PSS又はドーピングされたP3HT)、スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物、ナフィオン、又はリチウムドーピングされたspiro−OMeTADが挙げられる。
【0080】
正孔取り出し層104の全体の膜厚に特に限定はないが、通常0.5nm以上である。一方、通常400nm以下、好ましくは200nm以下である。正孔取り出し層104の膜厚が0.5nm以上であることでバッファ材料としての機能をよく果たすことになり、正孔取り出し層104の膜厚が400nm以下であることで、正孔が取り出し易くなり、光電変換効率が向上しうる。
【0081】
正孔取り出し層104の形成方法に制限はない。昇華性を有する化合物を用いる場合は真空蒸着法等の乾式成膜法により形成することができる。また、溶媒に可溶な化合物を用いる場合は、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法により形成することができる。なお、溶媒としては、活性層103の形成方法の説明において挙げた溶媒を用いることができる。
【0082】
<6.3.基材(106)>
光電変換素子107は、通常は支持体となる基材106を有する。もっとも、本発明に係る光電変換素子は基材106を有さなくてもよい。基材106の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0083】
<6.4.電極(101,105)>
電極101,105は、光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。したがって、一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノード105と、電子の捕集に適したカソード101とを用いることが好ましい。一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の太陽光線透過率は70%以上であることが、より多くの光が透明電極を透過して活性層103に到達するために好ましい。光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U−4100)で測定できる。
【0084】
カソード101及びアノード105の構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0085】
<6.5.光電変換素子の作製方法>
上述の方法に従って、光電変換素子107を構成する各層を形成することにより、光電変換素子107を作製することができる。光電変換素子107を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(万葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することができる。
【0086】
なお、ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。一方、ロールツゥーロール方式で各層を成膜しようとすると、その構造上、成膜面とロールとが接触することにより膜に傷がついたり、部分的に剥がれてしまったりする場合がある。
【0087】
ロールツゥーロール方式に用いることのできるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されないが、外径の上限は、通常5m以下、好ましくは3m以下、より好ましくは1m以下である。一方、下限は通常10cm以上、好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。ロール芯の外径の上限は、通常4m以下、好ましくは3m以下、より好ましくは0.5m以下である。一方、下限は通常1cm以上、好ましくは3cm以上、より好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、特に好ましくは20cm以上である。これらの径が上記上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは各工程で成膜される層が曲げ応力により破壊される可能性が低くなる点で好ましい。ロールの幅の下限は、通常5cm以上、好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上である。一方、上限は、通常5m以下、好ましくは3m以下、より好ましくは2m以下である。幅が上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは光電変換素子107の大きさの自由度が高くなるため好ましい。
【0088】
また、カソード101又はアノード105を積層した後に、光電変換素子107を通常50℃以上、好ましくは80℃以上、一方、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下の温度範囲において、加熱することが好ましい(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことにより、光電変換素子107の各層間の密着性、例えば電子取り出し層102とカソード101、電子取り出し層102と活性層103等の層間の密着性が向上する効果が得られるため、好ましい。各層間の密着性が向上することにより、光電変換素子の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、光電変換素子107に含まれる有機化合物が熱分解する可能性が低くなるため、好ましい。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0089】
加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは3分以上、一方、通常180分以下、好ましくは60分以下である。アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0090】
<6.6.光電変換特性>
光電変換素子107の光電変換特性は次のようにして求めることができる。光電変換素子107にソーラシュミレーターでAM1.5G条件の光を照射強度100mW/cm
2で照射して、電流−電圧特性を測定する。得られた電流−電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。光電変換素子107の光電変換効率は、特段の制限はないが、通常1%以上、好ましくは1.5%以上、より好ましくは2%以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
【0091】
また、光電変換素子を実用化するには、製造が簡便かつ安価であること以外に、高い光電変換効率及び高い耐久性を有することが重要である。この観点から、光電変換素子107を1週間大気暴露する前後での光電変換効率の維持率は、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、高ければ高いほどよい。光電変換効率の維持率は、光電変換素子107を大気暴露する前後での光電変換効率に基づいて、以下のように算出することができる。
(維持率)=(大気暴露N時間後の光電変換効率)/(大気暴露直前の光電変換効率)
【0092】
<7.太陽電池>
本発明に係る光電変換素子107は、太陽電池、なかでも薄膜太陽電池の太陽電池素子として使用されることが好ましい。
図4は本発明の一実施形態に係る太陽電池の構成を模式的に表す断面図であり、
図4には本発明の一実施形態に係る太陽電池である薄膜太陽電池が示されている。
図4に表すように、本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、太陽電池素子6として、本発明に係る光電変換素子を有している。そして、耐候性保護フィルム1が形成された側(
図4中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、薄膜太陽電池14は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。
【0093】
薄膜太陽電池を構成するこれらの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等の公知文献に記載の技術を使用することができる。
【0094】
本発明に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、一実施形態に係る太陽電池は、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池として用いることができる。
【0095】
本発明に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14はそのまま用いてもよいし、太陽電池モジュールの構成要素として用いられてもよい。例えば、
図5に示すように、本発明に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14を基材12上に備える太陽電池モジュール13を作製し、この太陽電池モジュール13を使用場所に設置して用いることができる。基材12としては周知技術を用いることができ、例えば、基材12の材料としては国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012−191194号公報等に記載の材料を用いることができる。例えば、基材12として建材用板材を使用する場合、この板材の表面に薄膜太陽電池14を設けることにより、太陽電池モジュール13として、建物の外壁用太陽電池パネルを作製することができる。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例により本発明の実施形態を説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
【0097】
[合成例]
窒素雰囲気下で、臭化鉛(II)(367mg,1.0mmol,高純度化学社製)をナスフラスコに入れ、さらに臭化水素酸水溶液(48%,5mL,シグマ−アルドリッチ社製)を加えて、100℃で5分間加熱撹拌することで臭化鉛(II)を溶解させた。さらに、メチルアミン(33質量%エタノール溶液,シグマ−アルドリッチ社製)とアゼチジン(メルク社製)とを0.5:0.5のモル比となるように混合して得た混合物を加え、100℃でさらに30分間加熱撹拌した。その後、撹拌を止め、5時間かけてゆっくり室温まで冷却した。析出した固体を濾過し、ジエチルエーテル(ナカライテスク社製)とアセトン(ナカライテスク社製)で洗浄することにより、サンプル3を得た。
【0098】
また、メチルアミン(33質量%エタノール溶液,シグマ−アルドリッチ社製)とアゼチジン(メルク社製)とのモル比を1:0、0.7:0.3、0.3:0.7、又は0:1として同様の処理を行うことにより、サンプル1、2、4、5をそれぞれ得た。得られた各サンプルの外観を以下に示す。
【0099】
組成 外観
サンプル1 MAPbBr
3 橙色粉末
サンプル2 MA
0.7AZ
0.3PbBr
3 橙色結晶
サンプル3 MA
0.5AZ
0.5PbBr
3 橙色結晶
サンプル4 MA
0.3AZ
0.7PbBr
3 橙色微結晶
サンプル5 AZPbBr
3 白色粉末
(MA=メチルアンモニウム,AZ=アゼチジニウム)
【0100】
上に示すように、サンプル1(MAPbBr
3)及びサンプル5(AZPbBr
3)は粉末状であった。一方で、サンプル2〜4は結晶状であった。
【0101】
[実施例1 粉末試料の拡散反射スペクトル]
合成例で作製したサンプル1〜5(MA
βAZ
1−βPbBr
3)のそれぞれについて、積分球を用いて拡散反射スペクトルを200〜2000nmの波長範囲で測定した。
図6に測定結果を示す。
【0102】
拡散反射スペクトルの測定条件は以下の通りであった。
機種名: 紫外可視分光光度計V−670(日本分光社製)
積分球: ISN−723
測光モード: Abs
データタイプ: 等間隔データ
開始波長: 2000nm
終了波長: 200nm
スキャンスピード: 400nm/min
データ取込間隔: 1nm
測定回数: 1
バンド幅: 2.0nm
レスポンス: Fast
光源切換モード: 自動切替
光源切換波長: 340nm
バックグラウンド: スペクトラロン
正反射光: 含まない
【0103】
メチルアンモニウムを含まないサンプル5(AZPbBr
3)とは異なり、メチルアンモニウムを含むサンプル1〜4においては、長波長領域、すなわち560nm付近に鋭い吸収端が観測された。また、その吸収端の波長は、アゼチジニウムの含有量が増加するにつれてわずかに短波長シフトする傾向を示したが、そのシフト量は小さかった。
【0104】
[実施例2 薄膜試料の発光スペクトル測定]
合成例で作製したサンプル1〜4(MA
βAZ
1−βPbBr
3)のそれぞれを用いてキャスト法により薄膜試料を作成し、375nmの励起光を照射した際の発光スペクトルを測定した。薄膜試料は、サンプル1〜4のそれぞれ(1mg)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF,1mL,和光純薬工業社製,分光分析用)に溶解させることにより作製したDMF溶液を、ITO堆積ガラス(シグマ−アルドリッチ社製,カタログナンバー576352)上に滴下し、真空下でDMFを蒸発させることにより作製した。
図7に測定結果を示す。
【0105】
発光スペクトルの測定条件は以下の通りであった。
機種名: 蛍光光度計FP−6200(日本分光社製)
測定モード: 蛍光スペクトル
データタイプ: 等間隔データ
励起側バンド幅: 5nm
蛍光側バンド幅: 5nm
励起波長: 375nm
測定開始波長: 420nm
測定終了波長: 650nm
スキャンスピード: 250nm/min
データ取込間隔: 1nm
測定回数: 1
レスポンス: Medium
感度: High
【0106】
アゼチジニウムを含まないサンプル1(MAPbBr
3)では、542nmに発光ピークが観測された。メチルアンモニウムとアゼチジニウムとの双方を含有するサンプル2〜4においても同様に発光ピークが観測されたことから、サンプル2〜4も蛍光体材料として利用可能であることが示された。また、アゼチジニウムの含有量が増加するにつれて、拡散反射スペクトルの場合と同様に、発光ピークはわずかに短波長シフトする傾向を示した。
【0107】
[実施例3 X線単結晶構造解析]
サンプル1(MAPbBr
3)の単結晶を得ることは困難であったが、サンプル2(MA
0.7AZ
0.3PbBr
3)及びサンプル3(MA
0.5AZ
0.5PbBr
3)については、単結晶構造解析に適した良質の大きな単結晶が得ることができた。サンプル2及び3の単結晶について単結晶構造解析を行った。
【0108】
単結晶構造解析に用いた装置及び測定条件は以下の通りであった。
測定装置名:AFC−7R Mercury CCD単結晶X線回折装置(リガク社製)
光学系: 4軸型回折計
検出器: CCD型検出器
X線出力: 46kV,150mA
X線波長: 0.7107Å(MoKα)
走査軸: ω−2θ
測定温度: 25℃
【0109】
単結晶構造解析により得られた結晶学データを以下に示す。
サンプル2 サンプル3
MA
0.7AZ
0.3PbBr
3 MA
0.5AZ
0.5PbBr
3
結晶外形 橙色プリズム状 橙色プリズム状
結晶サイズ 0.35 x 0.30 x 0.27 mm
3 0.35 x 0.30 x 0.30 mm
3
結晶系 立方晶 立方晶
格子長a(Å) 5.9387(6) 5.9373(7)
体積V(Å
3) 209.4470 209.2989
走査範囲(θ) 3.43〜30.04 3.43〜29.81
R
int 0.058 0.104
回折データ数 82 90
【0110】
サンプル1(MAPbBr
3)の結晶は、a=5.901(1)Åの立方晶であり、その空間群はPm3mであることが知られている(J.Chem.Phys.1987,87,6373)。一方、サンプル2(MA
0.7AZ
0.3PbBr
3)及びサンプル3(MA
0.5AZ
0.5PbBr
3)の結晶においては、それぞれ5.9387(6)Å及び5.9373(7)Åという、サンプル1(MAPbBr
3)よりも若干長い格子定数に対応する、立方晶に由来する強いブラッグ回折ピークが観測された。また、これらの強いブラッグ回折ピークの他に、2倍の長さの格子周期構造に由来する弱い回折ピークが観測された。
【0111】
[実施例4 粉末X線回析]
サンプル3(MA
0.5AZ
0.5PbBr
3)及びサンプル4(MA
0.3AZ
0.7PbBr
3)の粉末試料を用いて粉末X線回折(XRD)測定を室温で行った。サンプル3及びサンプル4の測定結果をそれぞれ
図8及び9に示す。
図8において、挿入拡大図の矢印は2倍周期構造を示す弱い回折ピークを表す。
【0112】
粉末X線回折の測定条件は以下の通りであった。
測定装置名: RINT−2000粉末X線回折装置(リガク社製)
光学系: ブラッグ−ブレンターノ集中光学系
測定条件: 2θ/θステップスキャン法
X線出力: 40kV,200mA
X線波長: 1.5418Å(CuKα)
走査軸: 2θ
走査範囲(2θ): 10°〜90°
走査速度: ステップ0.02°/固定時間0.5秒
【0113】
アゼチジニウムのモル比が50%であるサンプル3(MA
0.5AZ
0.5PbBr
3)においては、
図8に示すように、立方晶で5.951Åの格子定数に対応したMAPbBr
3由来の強い回折ピークの他に、2倍周期構造を示唆する弱い回折ピークが観測された。一方、アゼチジニウムのモル比が70%であるサンプル4(MA
0.3AZ
0.7PbBr
3)では、30%であるサンプル2(MA
0.7AZ
0.3PbBr
3)及び50%であるサンプル3(MA
0.5AZ
0.5PbBr
3)で観測されたような2倍の長さの格子周期構造に対応する回折ピークは観測されず、
図9に示すように立方晶で5.968Åの格子定数に対応する回折ピークのみが観測された。
【0114】
実施例3及び4の結果から、メチルアンモニウムとアゼチジニウムとの双方を含む混晶系のサンプル2〜4は、サンプル1(MAPbBr
3)と同様にペロブスカイト構造を保持していることが明らかとなった。また、アゼチジニウムの含有量が30%〜50%であるサンプル2,3においては、長周期構造が形成されていることが明らかになった。
【0115】
[実施例5 膜の暴露試験]
サンプル1〜4(MA
βAZ
1−βPbBr
3)のそれぞれを用いて実施例2と同様の方法で作製した薄膜試料を、80℃に加熱した湯浴から発生させた湯気に3分間暴露した際の変化を観測した。観測結果を以下に示す。
【0116】
組成 暴露前の色 暴露後の色
サンプル1 MAPbBr
3 橙色 白色
サンプル2 MA
0.7AZ
0.3PbBr
3 橙色 橙色
サンプル3 MA
0.5AZ
0.5PbBr
3 橙色 橙色
サンプル4 MA
0.3AZ
0.7PbBr
3 橙色 橙色
【0117】
アゼチジニウムを含まないサンプル1(MAPbBr
3)は、湯気に暴露すると白色に変化することが目視で確認された。このことは、サンプル1の構造が湯気に暴露することにより変化したことを示唆している。一方、アゼチジニウムを含有するサンプル2〜4は、湯気に暴露しても変化が確認されなかった。以上の結果より、メチルアンモニウムとアゼチジニウムとの双方を含有するサンプル2〜4の方が、アゼチジニウムを含有しないサンプル1よりも、水分に対して高い耐性を有していることがわかる。
【0118】
以上の実施例1〜5より、アゼチジニウム及びメチルアンモニウムの2種のアンモニウムイオンを含有するペロブスカイト化合物は、メチルアンモニウムのみを含有するペロブスカイト化合物と同様の構造特性を有する一方で、メチルアンモニウムのみを含有するペロブスカイト化合物よりも水分に対しては高い耐性を有していることがわかる。このように、アゼチジニウム及びメチルアンモニウムの2種のアンモニウムイオンを含有するペロブスカイト化合物は、良好な特性を有する新たな半導体材料として使用可能である。