【解決手段】ポリ乳酸樹脂、有機スルホン酸金属塩、エチレンビスカルボン酸アミド及びタルクを含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂はD体含有量が1.0モル%以下、かつ190℃、荷重21.2Nにて測定したメルトフローレートが0.1〜15g/10分であり、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、有機スルホン酸金属塩、エチレンビスカルボン酸アミド及びタルクが合計で8〜20質量部含有されていることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
ポリ乳酸樹脂、有機スルホン酸金属塩、エチレンビスカルボン酸アミド及びタルクを含有する樹脂組成物であって、ポリ乳酸樹脂はD体含有量が1.0モル%以下、かつ190℃、荷重21.2Nにて測定したメルトフローレートが0.1〜15g/10分であり、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、有機スルホン酸金属塩、エチレンビスカルボン酸アミド及びタルクが合計で8〜20質量部含有されていることを特徴とするポリ乳酸系樹脂組成物。
【背景技術】
【0002】
一般に、成形用の原料としては、ポリプロピレン樹脂(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリアミド樹脂(PA6、PA66等)、ポリエステル樹脂(PET、PBT等)、ポリカーボネート樹脂(PC)等が使用されている。このような樹脂から製造された成形物は成形性、機械的強度に優れているが、廃棄する際、ゴミの量を増すうえに、自然環境下で殆ど分解されないために、埋設処理しても半永久的に地中に残留する。
【0003】
そこで、近年、環境保全の見地から、生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。中でもポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどは、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。特に、ポリ乳酸は既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として工業生産が可能となっており、使用後に焼却されても、これらの植物の生育時に吸収した二酸化炭素を考慮すると、炭素の収支として中立であることから、地球環境への負荷の低い樹脂とされている。
【0004】
ポリ乳酸樹脂は、結晶化を充分進行させることにより耐熱性が向上し、広い用途に適用可能となるが、ポリ乳酸樹脂単独ではその結晶化速度は極めて遅いものである。そこで、通常、結晶化速度を向上させることを目的として、ポリ乳酸樹脂に各種結晶核剤を添加する手法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には特定分子構造のカルボン酸アミドまたはエステルを添加することが、また特許文献2にはトリシクロヘキシルトリメシン酸アミドを添加することが、さらに特許文献3にはエチレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドを添加することが開示されている。しかしながら、いずれもポリ乳酸樹脂のD体含有量が多く、また核剤の選定、量ともに適切ではなかったために、結晶化速度を十分に向上させることはできなかった。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物を構成するポリ乳酸樹脂は、D体含有量が1.0モル%以下であることが必要であり、中でも、0.8モル%以下であることが好ましく、さらには0.7モル%以下であることが好ましい。D体含有量がこの範囲内であることにより、結晶性に優れる。つまり、結晶化速度が速く、短い成形サイクルで成形体を得ることが可能となるものである。また、高価な結晶核剤の添加量を抑えることができ、コスト的に有利になる。
【0012】
本発明において、ポリ乳酸樹脂のD体含有量とは、ポリ乳酸樹脂を構成する総乳酸単位のうち、D乳酸単位が占める割合(モル%)である。したがって、例えば、D体含有量が1.0モル%のポリ乳酸樹脂の場合、このポリ乳酸樹脂は、D乳酸単位が占める割合が1.0モル%であり、L乳酸単位が占める割合が99.0モル%である。
【0013】
そして、後述するように、結晶化を促進する添加剤として、有機スルホン酸金属塩、エチレンビスカルボン酸アミド及びタルクの3種を含有することにより、さらに結晶性に優れる樹脂組成物とすることができるが、D体含有量が1.0モル%以下であるポリ乳酸樹脂を用いることにより、これらの結晶化促進添加剤の効果がより顕著となる。
【0014】
本発明においては、ポリ乳酸樹脂のD体含有量は、実施例にて後述するように、ポリ乳酸樹脂を分解して得られるL乳酸とD乳酸を全てメチルエステル化し、L乳酸のメチルエステルとD乳酸のメチルエステルとをガスクロマトグラフィー分析機で分析する方法により算出するものである。
【0015】
さらに、ポリ乳酸樹脂は、190℃、荷重21.2Nにて測定したメルトフローレート〔MFRと略することがある。JIS K−7210(試験条件4)による値〕が0.1〜15g/10分であり、中でも0.2〜13g/10分であることが好ましく、さらには0.5〜10g/分であることが好ましい。
MFRが上記の範囲を満足することによって、後述する結晶化を促進する添加剤やその他の各種添加剤の分散性が向上し、得られる成形体の機械的特性も向上する。
【0016】
MFRが上記範囲のものであれば、MFRが異なる2種類以上のポリ乳酸樹脂を使用してもよい。中でも、MFRが5g/10分以下のものがポリ乳酸樹脂全体の20質量%以上存在することが好ましい。
【0017】
本発明に用いるポリ乳酸樹脂としては、市販の各種ポリ乳酸樹脂のうち、D体含有量が本発明で規定する範囲のポリ乳酸樹脂を用いることができる。また、乳酸の環状2量体であるラクチドのうち、D体含有量が十分に低いL-ラクチド、または、L体含有量が十分に低いD-ラクチドを原料に用い、公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造したものを用いることができる。
【0018】
本発明においては、結晶化を促進する添加剤(核剤)として、有機スルホン酸金属塩とエチレンビスカルボン酸アミドを併用する。具体的物質としては、例えば、5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩とエチレンビスヒドロキシステアリン酸アミドの組み合わせが好ましい。これらは、それぞれ単独で核剤として使用されるものであるが、これらを併用し、かつ後述するタルクとともに用いることによって、ポリ乳酸樹脂の結晶化促進効果が顕著となる。
【0019】
有機スルホン酸金属塩とエチレンビスカルボン酸アミドの合計量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して0.5〜3質量部であることが好ましく、中でも0.8〜2.5質量部であることが好ましい。そして、有機スルホン酸金属塩とエチレンビスカルボン酸アミドの割合は、両者の質量比で、80/20〜20/80であることが好ましく、中でも75/25〜25/75であることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する添加剤(核剤)としてタルクを含有するものである。タルクを添加することにより、ポリ乳酸樹脂の結晶化促進効果が向上することはもちろんのこと、高温の金型内で結晶化が進行した成形体を、充分な剛性をもって取り出すことが可能となり、成形性が向上する。
【0021】
有機スルホン酸金属塩、エチレンビスカルボン酸アミド及びタルクの合計量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して8〜20質量部であることが必要であり、中でも10〜18質量部であることが好ましい。
【0022】
上記したポリ乳酸樹脂の結晶化を促進する各種添加剤の含有量が上記の値よりも少ない場合は、結晶化促進効果に乏しいものとなる。一方、含有量が上記の値よりも多い場合は、結晶化促進効果は飽和し、コスト的に不利になると同時に、機械的特性に劣るものとなったり、表面外観に劣るものとなる。
【0023】
タルクとしては種々のものを用いることができる。上記のような目的を達成し、かつ得られる成形体の外観の点を考慮すると、平均粒子径が0.5〜20μmのものを用いることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、耐衝撃改良剤が含有されていることが好ましい。耐衝撃改良剤としては、コア層とシェル層を有する多層構造重合体を用いることが好ましい。多層構造重合体は、コア層とそれを覆うシェル層から構成され、隣接し合う層は異種の重合体から構成される、いわゆるコアシェル型と呼ばれる構造を有する重合体である。そして、コア層、シェル層ともに層の数は1以上であり、2以上の複数の層を有するものであってもよい。そして、コア層成分の存在下に、シェル層成分がグラフト重合されることにより得られるものであることが好ましい。
【0025】
具体的には、三菱レイヨン社製の『メタブレンS−2006』、『メタブレンS−2200』、『メタブレンW−450A』、『メタブレンW−600A』や、ロームアンドハース社製の『パラロイドBPM−500』、『パラロイドBPM−515』などが挙げられる。
【0026】
このような耐衝撃改良剤を含有することにより、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐衝撃性が向上するが、ポリ乳酸樹脂として、上記したようなD体含有量を満足するものを用いると、耐衝撃性が大幅に向上する。つまり、D体含有量が通常のポリ乳酸樹脂に耐衝撃改良剤を添加すると、耐衝撃性を付与することはできるが、結晶性が悪くなる。しかしながら、上記したD体含有量が特定範囲のポリ乳酸樹脂と特定の核剤により結晶性が向上したポリ乳酸樹脂組成物においては、結晶性が良好なまま、耐衝撃性を付与することが可能となる。しかも、このように結晶性が向上した樹脂組成物中においては、耐衝撃改良剤の効果が十分に発揮され、耐衝撃性も大幅に向上する。
【0027】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、樹脂組成物の耐久性を向上させることを目的として、カルボジイミド化合物を含有することが好ましい。カルボジイミド化合物としては、種々のものを用いることができ、分子中に1個以上のカルボジイミド基を持つものであれば特に限定されず、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族モノカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、あるいは、芳香族ポリカルボジイミドなどを用いることができる。さらに、分子内に各種複素環、あるいは、各種官能基を持つものであっても構わない。
【0028】
カルボジイミド化合物の具体的な商品としては、例えば、モノカルボジイミドとして、ラインケミー社製の『スタバクゾールI』、『スタバクゾールIP』、松本油脂製薬社製『EN−160』、ポリカルボジイミドとして、日清紡社製の『HMV-15CA』、『HMV‐8CA』、ラインケミー社製の『スタバクゾールP』、分子内にイソシアネート基を持つポリカルボジイミドとして、日清紡社製の『LA−1』などが挙げられる。
【0029】
また、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、高温金型中で剛性の低下している状態の成形体を金型面からスムーズに離脱させることを目的として、離型剤を配合してもよい。離型剤としては種々のものを用いることができる。具体的には、エルカ酸アミドなどのカルボン酸アミドが好ましい。
【0030】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、結晶化速度や耐衝撃性の向上効果を促進するものとして、可塑剤を配合させることが好ましい。可塑剤としては、例えば、脂肪酸エステル系、高脂肪酸エステル系、アルコールエステル系、多価アルコールエステル系、グリセリンエステル系、ポリグリセリンエステル系などが例示される。
【0031】
さらに、本発明のポリ乳酸系樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤等を添加することができる。熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが例示される。なお、本発明の樹脂組成物にこれらを混合する方法は特に限定されない。
【0032】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物は、射出成形に好ましく適用できる。本発明のポリ乳酸系樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは170〜250℃とし、また、金型温度はポリ乳酸樹脂の結晶化が進行しやすい80〜120℃近辺とするのが好ましい。成形温度が低すぎると成形体にショートが発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に、成形温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生しやすく、ともに好ましくない場合がある。
【0033】
本発明のポリ乳酸系樹脂組成物からなる成形体の具体例としては、例えば、各種の耐熱を有する日用品、食器、工芸品、自動車内インテリア、玩具、の他、電子機器筐体や各種電子部品などが挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例および比較例の樹脂組成物(成形体)の評価に用いた測定法は次のとおりである。
【0035】
(1)耐熱性
得られた試験片を用い、ISO75に従って、荷重0.45MPaにおける荷重たわみ温度(DTUL)を測定した。
荷重たわみ温度は120℃以上であることが好ましい。
(2)耐衝撃性
得られた試験片を用い、ISO179に従って、シャルピー衝撃値を測定した。
シャルピー衝撃値は9kJ/m
2以上であることが好ましい。
(3)成形サイクル
一般物性測定用試験片(ISO型)を作製する際に、樹脂組成物が金型内に射出(充填、保圧)、冷却された後、成形体が金型に固着、または、抵抗なく取り出すことができ、突き出しピンによる変形がなく、良好に離型できるまでの最短の所要時間(秒)を成形サイクルとした。試験片10個の最短の所要時間を測定し、その平均値とした。
なお、成形サイクルが29秒を超えるものは成形性に劣るものと判断した。
【0036】
また、実施例、比較例に用いた各種原料は次の通りである。
〔ポリ乳酸樹脂〕
・PLA−1:NatureWorks社製『3100HP』(D体含有量0.6モル%、MFR10g/10分)
・PLA−2:NatureWorks社製『2500HP』(D体含有量0.6モル%、MFR3g/10分)
・PLA−3:NatureWorks社製『3001D』(D体含有量1.4モル%、MFR10g/10分)
・PLA−4:NatureWorks社製『4032D』(D体含有量1.4モル%、MFR3g/10分)
【0037】
〔結晶核剤〕
・S−1:竹本油脂社製『LAK−403』(5−スルホイソフタル酸ジメチル金属塩)
・S−2:伊藤製油社製『ASA T−530SF』(エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド)
〔タルク〕
・T−1:日本タルク社製『MS』(平均粒径14μm)
・T−2:林化成社製『MWHST』(平均粒径5μm)
【0038】
〔耐衝撃改良剤〕
・M−1:三菱レイヨン社製『メタブレンS−2006』
〔その他添加剤〕
・EN160:カルボジイミド化合物:松本油脂社製モノカルボジイミド『EN160』
・P−10:離型剤:日本油脂社製エルカ酸アミド『アルフローP−10(EA-P10)』
・VR−01:可塑剤:太陽化学社製グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤『VR−01』
・TG−1:可塑剤:理研ビタミン社製トリグリセライド(C8〜10)『M−1』
【0039】
実施例1
ポリ乳酸系樹脂として、PLA−1を69質量部およびPLA−2を31質量部、有機スルホン酸金属塩としてS−1を0.9質量部、エチレンビスカルボン酸アミドとしてS−2を0.3質量部、タルクとしてT−1を11質量部、耐衝撃改良剤としてM−1を6質量部、その他の添加剤として、EN-160を1.8質量部、P−10を0.24質量部、TG−1を1.2質量部、VR−01を0.6質量部用い、ドライブレンドして二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)の根元供給口から供給した。バレル温度180℃、スクリュー回転数150rpm、吐出20kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを80℃×8時間熱風乾燥したのち、東芝機械社製IS−80G型射出成形機を用いて、金型表面温度を105℃に調整しながら、一般物性測定用試験片(ISO型)を作製し、各種測定に供した。
【0040】
実施例2〜3、比較例1〜4
ポリ乳酸系樹脂、有機スルホン酸金属塩、エチレンビスカルボン酸アミド、タルク、耐衝撃改良剤及びその他の添加剤の種類や添加量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に行い、ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを得た。
そして、実施例1と同様にして射出成形を行い、一般物性測定用試験片(ISO型)を作製し、各種測定に供した。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から明らかなように、実施例1〜3で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、成形に要する所要時間(成形サイクル)が短く、成形性に優れるものであった。また、得られた成形体は耐熱性、耐衝撃性ともに優れていた。
【0043】
一方、比較例1で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、D体含有量が1.0モル%を超えるポリ乳酸系樹脂を用い、また、エチレンビスカルボン酸アミドを配合しなかったため、成形サイクルが長く、成形性に劣る結果となった。比較例2で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、有機スルホン酸金属塩を配合しなかったため、成形サイクルが長く、成形性に劣る結果となった。比較例3で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、タルクを配合しなかったため、成形サイクルが長く、成形性に劣る結果となった。比較例4で得られたポリ乳酸系樹脂組成物は、D体含有量が1.0モル%を超えるポリ乳酸系樹脂を用いたため、成形サイクルが長く、成形性に劣る結果となった。