特開2016-132746(P2016-132746A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-132746(P2016-132746A)
(43)【公開日】2016年7月25日
(54)【発明の名称】遊技機用透明高強度部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20160627BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20160627BHJP
   C08K 5/527 20060101ALI20160627BHJP
   C08K 5/53 20060101ALI20160627BHJP
   A63F 7/02 20060101ALI20160627BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L9/06
   C08K5/527
   C08K5/53
   A63F7/02 311A
   A63F7/02 310C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-9377(P2015-9377)
(22)【出願日】2015年1月21日
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化スタイロンポリカーボネート株式会社
(72)【発明者】
【氏名】温井 紳二
【テーマコード(参考)】
2C088
4J002
【Fターム(参考)】
2C088DA07
2C088EA02
2C088EA33
4J002AC082
4J002CG011
4J002EW066
4J002EW086
4J002EW117
4J002EW127
4J002EW137
4J002FD076
4J002FD077
4J002GC00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【構成】ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、屈折率が1.56〜1.59であるスチレン・ブタジエン共重合樹脂(B)を0.3〜3重量部、および特定のリン系酸化防止剤(C)0.01〜1重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる遊技機用透明高強度部材。
【効果】本発明の遊技機用透明強度部材は、優れた透明性のみならず、高い衝撃性能を有している。このように透明性と衝撃性能を兼備するため、遊技機がリユースされた場合でも当該透明強度部材の鋼鉄製鋼球の衝突による破損を可及的に防止することが出来る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、屈折率が1.56〜1.59であるスチレン・ブタジエン共重合樹脂(B)を0.3〜3重量部、および下記一般式(1)で表されるリン系酸化防止剤(C)0.01〜1重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物を成形してなることを特徴とする、遊技機用透明高強度部材。
一般式(1)
【化1】
(式中、R1、R2、R4およびR5はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基またはフェニル基を表し、R3は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは単結合、硫黄原子もしくは−CHR6基(R6は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す)を表す。Aは炭素数1〜8のアルキレン基または*−COR7基(R7は単結合または炭素数1〜8のアルキレン基を、*は酸素側の結合手であることを示す。)を表す。Y、Zは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基または炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を表し、もう一方が水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、さらに、下記一般式(2)で表されるリン系酸化防止剤(D)を0.1重量部まで含むことを特徴とする、請求項1記載の遊技機用透明高強度部材。
一般式(2)
【化2】
(式において、R8〜11は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を示す。)
【請求項3】
前記リン系酸化防止剤(C)が、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−〔3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンであることを特徴とする、請求項1記載の遊技機用透明高強度部材。
【請求項4】
前記樹脂組成物を成形してなる厚み2mmの成形片を用いてJIS K7361に準拠して測定した光線透過率が70%以上である、請求項1記載の遊技機用透明高強度部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する透明性を保持したまま、衝撃強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる遊技機用透明高強度部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネート樹脂は高い衝撃強度を有する特徴からパチンコ等のアミューズメント分野やOA分野または自動車分野などに幅広く使用されている。近年では軽量化やデザイン性の自由度およびコストダウンなどの理由から無機系材料から樹脂化への流れも進んでいる。
【0003】
軽量化等による無機材料から樹脂化への課題としては落下等による破損を防止する点が挙げられる。ポリカーボネート樹脂の有する高い衝撃強度により適用部品によっては破損を防止できる場合もあるが、更に強度が必要とされる場合にはポリカーボネート樹脂単独では充分な強度が得られない場合がある。
【0004】
また、近年パチンコ等のアミューズメント分野では、例えば、特許文献1にて開示されるような遊技機(パチンコ機)のリユースの検討が進んでおり、一度ホールで使用された遊技機の構成部材(例えば、遊技盤ベース、入賞部品、レール、可動役物、アタッカー、センター飾り、回転体およびクレーン等の装飾部材)が洗浄等の工程を経て再度使用されるケースが増えている。遊技機の使用過程では鋼鉄製の鋼球による衝撃が当該構成部品に対して加わるため、一般のポリカーボネート樹脂製の構成部品では、遊技機がリユースされ長期使用されている間に破損するおそれがあり、耐久性が改善された遊技機用透明高強度部材が求められている。
【0005】
他方、従来、ポリカーボネート樹脂の衝撃強度を高める方法としては、PC組成物に耐衝撃性改良材を添加する技術がある。例えば、少量のメチルアクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)ゴム成分またはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)ゴム成分を添加する技術が知られている(特許文献2及び3を参照)。しかし、これらの従来技術では、上記ゴム成分をわずか1%でも添加すると、得られる樹脂組成物の透過率が低下して、ポリカーボネート樹脂の重要な特性の1つである透明性が失われるという課題があり、ポリカーボネートが本来有する高い透明性を維持したまま、衝撃特性をさらに向上させたポリカーボネート樹脂組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−152284号公報
【特許文献2】特開平5―179096号公報
【特許文献3】特開平7―207136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリカーボネート樹脂が本来有する透明性を保持したまま、衝撃強度に優れたポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる遊技機用透明高強度部材に関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、かかる課題に鑑み鋭意研究を行った結果、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、屈折率が1.56〜1.59であるスチレン・ブタジエン共重合樹脂(B)を0.3〜3重量部、および特定のリン系酸化防止剤(C)0.01〜1重量部を併用して含有させることにより、透明性を維持したまま衝撃強度に優れた遊技機用透明高強度部材が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、屈折率が1.56〜1.59であるスチレン・ブタジエン共重合樹脂(B)を0.3〜3重量部、および下記一般式(1)で表されるリン系酸化防止剤(C)0.01〜1重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる遊技機用透明高強度部材を提供するものである。
一般式(1)
【0010】
【化1】
(式中、R1、R2、R4およびR5はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基またはフェニル基を表し、R3は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは単結合、硫黄原子もしくは−CHR6基(R6は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す)を表す。Aは炭素数1〜8のアルキレン基または*−COR7基(R7は単結合または炭素数1〜8のアルキレン基を、*は酸素側の結合手であることを示す。)を表す。Y、Zは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基または炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を表し、もう一方が水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の遊技機用透明強度部材は、優れた透明性のみならず、高い衝撃性能を有している。このように透明性と衝撃性能を兼備するため、遊技機がリユースされた場合でも当該透明強度部材の鋼鉄製鋼球の衝突による破損を可及的に防止することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0013】
なお、発明者らは当業者が本発明を充分に理解するために以下の説明を提供するのであって、これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0014】
本発明における遊技機用透明高強度部材とは、遊技機用の各種構成部材(例えば、遊技盤ベース、入賞部品、レール、可動役物、アタッカー、センター飾り、回転体およびクレーン等の装飾部品)等を意味する。
【0015】
本発明にて使用されるポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0016】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのような、ジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
【0017】
これらは単独または2種類以上混合して使用されるが、これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0018】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−〔4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル〕−プロパンなどが挙げられる。
【0019】
ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、特に制限はないが、成形加工性、強度の面より通常10000〜100000、より好ましくは16000〜30000、さらに好ましくは18000〜24000の範囲である。また、かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調整剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0020】
本発明にて使用されるスチレン・ブタジエン共重合樹脂(B)は、透明で屈折率が1.56〜1.59の範囲のスチレン・ブタジン共重合樹脂である。特にブタジエンゴム成分が、可視光の波長よりも網の目状に微細に分散したミクロ相分離構造を形成しているスチレン・ブタジエン共重合樹脂が好適に用いられる。
【0021】
本発明にて使用されるスチレン・ブタジエン共重合樹脂は、スチレン樹脂としての衝撃等に対する強度を有するのに加え、ブタジエン樹脂としての可撓性を有した特性を備えるものである。スチレン樹脂及びブタジエン樹脂の重合度は、用途に応じて要求される特性を考慮して設定されるものであり、例えば、スチレン樹脂50〜90重量%、ブタジエン樹脂50〜10重量%の範囲、より好ましくは、スチレン樹脂60〜80重量%、ブタジエン樹脂40〜20重量%の範囲で適宜変更することができる。スチレン樹脂が50重量%未満の場合には、ブタジエン樹脂が相対的に多くなって耐衝撃性を十分に備えることができず、スチレン樹脂が90重量%を超える場合には、可撓性が必要以上に低下するため好ましくない。
【0022】
また、スチレン・ブタジエン共重合樹脂のポリスチレン換算数平均分子量は特に限定されないが、数平均分子量は0.5〜100万、好ましくは1万〜50万、更に好ましくは3万〜30万の範囲である。スチレン・ブタジエン共重合樹脂(B)は、アニオンリビング重合法等によって製造することができ、製造条件は、従来公知の如何なる条件であってもよい。市販品としては、旭化成ケミカルズ社製アサフレックスシリーズ(830、840)等が入手可能である。
【0023】
スチレン・ブタジエン共重合樹脂(B)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり0.3〜3重量部である。0.3重量部未満では衝撃性能が劣り、3重量部を越えると透明性が得られなくなることから好ましくない。
【0024】
本発明にて使用されるリン系酸化防止剤(C)は、下記一般式(1)で表される化合物(亜リン酸エステル化合物)である。
一般式(1):
【0025】
【化2】
(式中、R1、R2、R4およびR5はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基またはフェニル基を表し、R3は水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。Xは単結合、硫黄原子もしくは−CHR6基(R6は水素原子、炭素数1〜8のアルキル基または炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す)を表す。Aは炭素数1〜8のアルキレン基または*−COR7基(R7は単結合または炭素数1〜8のアルキレン基を、*は酸素側の結合手であることを示す。)を表す。Y、Zは、いずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基または炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を表し、もう一方が水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す。)
【0026】
一般式(1)において、R1、R2、R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基、炭素数7〜12のアラルキル基又はフェニル基を示す。
【0027】
ここで、炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基、i−オクチル基、t−オクチル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数5〜8のシクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基としては、例えば、1−メチルシクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、1−メチル−4−i−プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数7〜12のアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、α−メチルベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基等が挙げられる。
【0028】
前記R1、R2及びR4は、それぞれ独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基又は炭素数6〜12のアルキルシクロアルキル基であることが好ましい。特に、R1及びR4は、それぞれ独立して、t−ブチル基、t−ペンチル基、t−オクチル基等のt−アルキル基、シクロヘキシル基又は1−メチルシクロヘキシル基であることが好ましい。特に、R3は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、メチル基、t−ブチル基又はt−ペンチル基であることがさらに好ましい。
【0029】
前記R5は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、t−ペンチル基等の炭素数1〜5のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0030】
一般式(1)において、R3は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、前記R1、R2、R4及びR5の説明にて例示したアルキル基が挙げられる。特に、R3は、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましく、水素原子又はメチル基であることがさらに好ましい。
【0031】
一般式(1)において、Xは、単結合、硫黄原子又は式:−CHR6−で表される基を示す。ここで、式:−CHR6−中のR6は、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基又は炭素数5〜8のシクロアルキル基を示す。炭素数1〜8のアルキル基及び炭素数5〜8のシクロアルキル基としては、例えば、それぞれ前記R1、R2、R4及びR5の説明にて例示したアルキル基及びシクロアルキル基が挙げられる。特に、Xは、単結合、メチレン基、又はメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等で置換されたメチレン基であることが好ましく、単結合であることがさらに好ましい。
【0032】
一般式(1)において、Aは、炭素数1〜8のアルキレン基又は式:*−COR7−で表される基を示す。炭素数1〜8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基等が挙げられ、好ましくはプロピレン基である。また、式:*−COR7−におけるR7は、単結合又は炭素数1〜8のアルキレン基を示す。R7を示す炭素数1〜8のアルキレン基としては、例えば、前記Aの説明にて例示したアルキレン基が挙げられる。R7は、単結合又はエチレン基であることが好ましい。また、式:*−COR7−における*は、酸素側の結合手であり、カルボニル基がフォスファイト基の酸素原子と結合していることを示す。
【0033】
一般式(1)において、Y及びZはいずれか一方がヒドロキシル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数7〜12のアラルキルオキシ基を示し、もう一方が水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。炭素数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられる。炭素数7〜12のアラルキルオキシ基としては、例えば、ベンジルオキシ基、α−メチルベンジルオキシ基、α,α−ジメチルベンジルオキシ基等が挙げられる。炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、前記R1、R2、R4及びR5の説明にて例示したアルキル基が挙げられる。
【0034】
一般式(1)で表される化合物としては、例えば、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−〔3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ]−4,8−ジ−t−ブチル−2,10−ジメチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン、6−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−4,8−ジ−t−ブチル−2,10−ジメチル−12H−ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン等が挙げられる。これらの中でも、2,4,8,10−テトラ−t−ブチル−6−〔3−(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)プロポキシ〕ジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピンが好適であり、例えば、住友化学(株)製のスミライザーGP(「スミライザー」は登録商標)として商業的に入手可能である。
【0035】
本発明にて使用されるリン系酸化防止剤(C)の配合量としては、透明な熱可塑性樹脂(A)100重量部あたり0.01〜1重量部である。配合量が0.01重量部未満では滞留後の輝度の低下が大きく、また1重量部を超えると樹脂の劣化を促進するので好ましくない。
【0036】
本発明にて使用されるリン系酸化防止材(C)としては、一般式(2)または一般式(3)で表される化合物(亜リン酸エステル化合物)を添加することもできる。
一般式(2)
【0037】
【化3】
(式において、R8〜11は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で
置換されてもよいアリール基を示す。)
一般式(3)
【0038】
【化4】
(式において、R12、R13は炭素数1〜20のアルキル基、またはアルキル基で置換されてもよいアリール基を、a、bは整数0〜3を示す。)
【0039】
一般式(2)の化合物としてはクラリアントジャパン社製サンドスタブP−EPQが、一般式(3)の化合物としてはアデカ社製アデカスタブPEP−36が商業的に入手可能なものとして挙げられる。
【0040】
リン系酸化防止剤(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部あたり、0.1重量部までである。0.1重量部を超えると色相の向上効果が十分ではないため好ましくない。好ましくは、0.02〜0.1重量部の範囲である。
【0041】
また、本発明に用いられる、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して、スチレン・ブタジエン共重合樹脂(B)を0.3〜3重量部、およびリン系酸化防止剤(C)0.01〜1重量部を含有するポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる厚み2mmの成形片を用いて、JIS K7361に準拠して測定した光線透過率は、70%以上であることが好ましく、当該光線透過率が80%であるとより好ましい。光線透過率が70%を下回ると、当該ポリカーボネート樹脂組成物からなる透明部材の視認性が阻害するため悪影響を及ぼす虞がある。
【0042】
本発明の各種配合成分(A)、(B)、(C)および必要用に応じて(D)の配合方法は特に制限はなく、任意の混合機、例えばタンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等によりこれらを混合し、通常の単軸または二軸押出機等で溶融混練することができる。また、これら配合成分の配合順序や一括混合、分割混合を採用することについても特に制限はない。また、混合時、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば離型剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、リン系酸化防止剤以外の酸化防止剤(フェノール系など)、熱安定剤、染顔料、展着剤(エポキシ大豆油、流動パラフィン等)や強化材(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、マイカ等)等、又、他の樹脂を配合することができる。
【0043】
本発明の樹脂組成物の成形方法については、主として射出成形方法が用いられる。数個若しくは十数個等複数の成形体が同時に成形できるような金型と100〜200Tクラスの射出成形機が用いられる。射出成形温度は、成形加工性の面から260〜290℃が望ましい。
【0044】
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本発明における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特にことわりがない限り、「部」及び「%」はそれぞれ重量基準である。
【0046】
使用した配合成分は、以下のとおりである。
ポリカーボネート樹脂(A):
ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂
カリバー200−13
(住化スタイロンポリカーボネート(株)製、「カリバー」はスタイロン ユーロップ ゲーエムベーハーの登録商標、粘度平均分子量:21000、以下「PC」と略記)
スチレン・ブタジエン共重合樹脂(B):
旭化成ケミカルズ社製 アサフレックス840 屈折率1.577
(以下、「840」と略記)
旭化成ケミカルズ社製 アサフレックス830 屈折率1.572
(以下、「830」と略記)
リン系酸化防止剤(C):亜リン酸エステル化合物
住友化学社製 スミライザーGP(以下、「AO1」と略記)
リン系酸化防止材(D):亜リン酸エステル化合物
クラリアントジャパン社製サンドスタブPEP−Q(以下、「AO2」と略記)
【0047】
実施態様
実施例1〜10及び比較例1〜9
前述の各種配合成分を表1〜4に示す配合比率にて一括してタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(神戸製鋼所製KTX37)を用いて、溶融温度260℃にて混練し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0048】
(透明性の評価)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100EII−P)を用いて設定温度290℃、射出圧力1600kg/cmにて試験片(2mm厚)を作成した。得られた各種樹脂組成物の試験片を用いてJIS K7361に準じ、試験片厚み2mmの光線透過率を測定し、光線透過率が70%以上を良好とした。
【0049】
(イエローネスインデックス(YI)の評価):(YI)
得られた2mm厚みの試験片を用いて、ASTM D−1925に準拠してイエローネスインデックス(YI)を測定した。5以下を合格とした。
【0050】
(ノッチ付きアイゾッド衝撃強度の評価):(衝撃強度)
上記で得られた各種樹脂組成物のペレットをそれぞれ120℃で4時間乾燥した後に、射出成型機(日本製鋼所製J−100II−P)を用いて設定温度290℃、射出圧力1600kg/cmにてASTM規格D−256試験法に準じた試験片を作成し、得られた試験片を用いてノッチ付きアイゾッド衝撃強さをマイナス20℃にて測定した。ノッチ付きアイゾッド衝撃強度がマイナス20℃の条件において50Kgf・cm/cm以上を良好とした。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足する場合(実施例1〜10)にあっては、透明性、YIおよび衝撃強度のそれぞれに亘って良好な結果を示した。
【0056】
一方、ポリカーボネート樹脂組成物が本発明の構成要件を満足しない場合(比較例1〜9)においては、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
比較例1および比較例3は、スチレン・ブタジエン共重合樹脂が、本発明の定める範囲よりも少ない場合であり、何れも衝撃強度が劣っていた。
比較例2および比較例4は、スチレン・ブタジエン共重合樹脂が、本発明の定める範囲よりも多い場合であり、何れも透明性が劣っていた。
比較例5および比較例7は、リン系酸化防止剤(C)が本発明の定める範囲よりも少ない場合であり、何れも黄身が強くYI(イエローネス・インデックス)が劣っていた。
比較例6および比較例8は、リン系酸化防止剤(C)が本発明の定める範囲よりも多い場合であり、何れも衝撃強度が劣っていた。
比較例9は、リン系酸化防止剤(D)が本発明の定める範囲よりも多い場合であり、衝撃強度が劣っていた。
【0057】
以上のように、本発明における技術の例示として実施の形態を説明した。そのために、詳細な説明を提供した。
【0058】
したがって、詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0059】
また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の遊技機用透明強度部材は、優れた透明性のみならず、高い衝撃性能を有している。このように透明性と衝撃性能を兼備するため、遊技機がリユースされた場合でも当該透明強度部材の鋼鉄製鋼球の衝突による破損を可及的に防止することが出来、工業的利用価値が極めて高い。