(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-133101(P2016-133101A)
(43)【公開日】2016年7月25日
(54)【発明の名称】フュ―エルレール
(51)【国際特許分類】
F02M 55/02 20060101AFI20160627BHJP
【FI】
F02M55/02 310C
F02M55/02 320W
F02M55/02 330D
F02M55/02 340A
F02M55/02 350A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-9970(P2015-9970)
(22)【出願日】2015年1月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000120249
【氏名又は名称】臼井国際産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000501
【氏名又は名称】特許業務法人 銀座総合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 耕一
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA01
3G066AB02
3G066AD05
3G066BA46
3G066BA48
3G066CB01
3G066CD14
3G066CD29
3G066CD30
(57)【要約】
【課題】素管への成形加工前は低硬度であって良好な成形性を保ち、薄肉のアブゾーブ壁面を容易に成形可能とすることができるとともに、燃料圧力が400kPa以下のみならず、400kPa以上の比較的高圧な燃料圧力下でも使用可能な硬度や耐圧性の高いフュ―エルレールを得る。
【解決手段】燃料圧力が200kPa〜1400kPaで使用されるとともに、燃料圧力のアブゾーブ壁面1を備えたポート噴射用のフュ―エルレールにおいて、C、Si、Mn、P、S、Nb、Moの化学成分を含む鉄合金から成り、内容積を60cc以上、圧力付加時の内容積変化量を0.5cc/MPa以上とし、製造時に炉中ろう付け加工を施すことにより、ベイナイト組織を析出可能とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料圧力が200kPa〜1400kPaで使用されるとともに燃料圧力のアブゾーブ壁面を備えたポート噴射用のフュ―エルレールにおいて、C、Si、Mn、P、S、Nb、Moの化学成分を含む鉄合金から成り、内容積を60cc以上、圧力付加時の内容積変化量を0.5cc/MPa以上とし、製造時に炉中ろう付け加工を施すことにより、ベイナイト組織を析出可能としたこと特徴とするフュ―エルレール。
【請求項2】
内容積は、60cc〜150ccとするとともに、圧力付加時の内容積変化量は、0.5cc/MPa〜2.5cc/MPaであることを特徴とする請求項1のフュ―エルレール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈動吸収性能を有するアブゾーブ壁面を備えたポート噴射用のフュ―エルレールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より一般的に使用されているガソリンポート噴射用のシステムは、噴射による脈動やポンプの脈動を吸収するためにパルゼーションダンパーをフュ―エルレールに付加していた。しかしながら、パルセーションダンパーは高価なものであるとともに、部品点数が増えてコスト高となり、更には設置スペースの確保にも新たな問題を生じるものとなっていた。そこで、パルゼーションダンパーを用いることなく脈動低減効果を得るために、特許文献1、2に示す如くアブゾーブ壁面を備えたフュ―エルレールが既に公知となっている。
【0003】
このアブゾーブ壁面を形成するためには、フュ―エルレールの断面形状を扁平断面あるいは内屈断面とする必要があることから、このような断面形状に加工するためには良好な成形性を確保しなければならず、比較的に低硬度の材料を使用する必要があった。また、近年では燃費改善や排出ガスの規制強化のため、燃料圧力を上昇させたり燃料圧力を可変として、噴射率を向上させる事が要求されるようになった。しかし、特許文献1、2に示す如き従来のポート噴射用のフュ―エルレールは、燃料圧力が400kPa以下の比較的低い燃料圧力を対象とするものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−329030号公報
【特許文献2】特開2000−329031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため特許文献1、2に示す如き従来のフュ―エルレールは、良好な成形性を確保するため比較的低硬度の材料を用いており、軽量化のために肉厚を薄くしたアブゾーブ壁面を形成した場合には、400kPa以上の比較的高圧な燃料圧力下で使用した際に、内圧によってアブゾーブ壁面が大きく撓むことにより、永久変形を生じて性能の確保が困難となったり、フュ―エルレールが破壊して燃料漏れを起こしたりするおそれがあった。
【0006】
その一方で、従来より知られている高強度材にてフュ―エルレールを形成した場合には、製造時に薄肉化を図ろうとしても材料の硬度が高いため、断面形状が扁平断面や内屈断面である形状に成形加工することが困難となっていた。また、このような従来の高強度材を使用しても、フュ―エルレールは炉中ろう付けによって組み立てられるものであるため、この炉中ろう付けによって材料が焼き鈍されることで強度が低下し、結果的に高強度な製品を得ることは困難であった。
【0007】
その他上記の如き問題を解決するためには、フュ―エルレールの剛性を上げるべく肉厚化を図ることが考えられるが、フュ―エルレールの肉厚化を図った場合には、耐圧性は向上するもののアブゾーブ壁面を撓ませることが難しくなり、脈動吸収性能が低下してしまうおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は上記の如き課題を解決しようとするものであって、素管への成形加工前は低硬度であって良好な成形性を保ち、薄肉のアブゾーブ壁面を容易に成形可能とすることができるとともに、燃料圧力が400kPa以下のみならず、400kPa以上の比較的高圧な燃料圧力下でも使用可能な、硬度や耐圧性の高いフュ―エルレールを得ようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の如き課題を解決したものであって、燃料圧力が200kPa〜1400kPaで使用されるとともに燃料圧力のアブゾーブ壁面を備えたポート噴射用のフュ―エルレールにおいて、C、Si、Mn、P、S、Nb、Moの化学成分を含む鉄合金から成り、内容積を60cc以上、圧力付加時の内容積変化量を0.5cc/MPa以上とし、製造時に炉中ろう付け加工を施すことにより、ベイナイト組織を析出可能としたものである。尚、本発明の炉中ろう付け加工とは、炉中で1000℃以上に昇温するとともに、この温度から室温まで徐冷を行う加工を意味するものである。
【0010】
また、内容積は、60cc〜150ccとするとともに、圧力付加時の内容積変化量は、0.5cc/MPa〜2.5cc/MPaとしたものであっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上述の如く、C、Si、Mn、P、S、Nb、Moの成分から成る化学成分を含む鉄合金から成るものであって、素管への成形加工前の状態ではフェライト組織、又はフェライト―パーライト組織を形成する。そのため、このような状態では低硬度を保持することができ、素管の断面形状を扁平形状や内屈形状に加工することが容易となり、アブゾーブ壁面を容易に形成することができる。
【0012】
更に、この状態から炉中ろう付け加工を施すことにより、ベイナイト組織が析出される。そのため、このベイナイト組織の存在によって材質が従来のものと比較して高強度となり、高耐圧性を確保することが可能となる。従って、他に特別な製造工程を付加することなく、全体形状を薄肉に形成して軽量なものとすることができるとともに、高強度及び高耐圧という性質により燃料圧力による変形や破損を引き起こしにくく、400kPa以下の燃料圧力に対してのみならず、従来では使用困難であった400kPa以上の比較的高圧な燃料圧力に対しても使用可能な製品を得ることができる。
【実施例】
【0014】
本発明の実施例であるポート噴射用のフュ―エルレールについて、以下に説明する。まず、本実施例を構成する鉄合金材料のうち、鉄と不純物以外の化学成分、及び全成分に対する配合割合を下記表1に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
上記の如く本発明の実施例1、2は、C、Si、Mn、P、S、Nb、Moを含むものである。ここで実施例1、2の製造方法について以下に説明すると、実施例1、2は、上記表1に示す材料及び鉄、その他不純物から成る鉄合金であって、素管に加工した後、プレス成形によって
図1の(a)に示す如く断面形状が扁平形状の管に加工する。尚、実施例1、2では
図1(a)に示す如く断面形状を扁平形状としているが、他の異なる実施例ではこれに限らず、
図1(b)〜(e)に示す如き扁平又は異形管に形成したものであっても良い。また、実施例1、2ではプレス成形によって扁平形状の管に加工しているが、他の異なる実施例ではこれに限らず、プレス成形以外の加工方法によって扁平形状の管に加工することも可能である。
【0017】
そして、上記の如く形成した扁平管を所望の長さに切断する。その後、ソケットの取り付け位置に複数の穴をあけるとともに、これらの穴にそれぞれソケットを接続する。そして、管の両端をエンドキャップにて塞ぐとともに、ブラケット及びインレットパイプをそれぞれ組み付ける。そして、組み付けが完成したものに1000℃以上の炉中にて炉中銅ろう付け加工を施す。その後徐冷を行い、リークチェック、表面処理、型合わせの工程を経て製品として出荷される。
【0018】
上記の如く形成した実施例1、2の材料にて形成したフュ―エルレールは、200〜1400kPaの燃料圧力下で使用可能なものであって、内容積を60cc〜150ccとするとともに、内容積変化量を0.5cc/MPa〜2.5cc/MPaとしている。また、200〜400kPaの燃料圧力下で使用する場合は板厚を0.6mm〜1.0mmとするとともに、400kPa〜1400kPaの燃料圧力下で使用する場合は板厚を1.1mm〜1.6mmとしている。
【0019】
実施例1、2のフュ―エルレールは上記の如く、炉中銅ろう付け加工を行うものであり、この炉中銅ろう付け加工は、炉中にて1000℃以上に昇温した後、徐冷を行うものである。この炉中銅ろう付け加工を行うことにより、上記材料にて形成した実施例1、2の鉄合金の物性が変化するものとなる。ここで、この炉中銅ろう付け加工の前後の物性の変化を検証するためJIS規格に基づいて物性試験を行った。
【0020】
具体的には、実施例1、2の材料にてJIS5試験片(板厚1.6mm、形成幅25mm、形成長さ350mm)を形成し、この試験片を用いて引張試験、及び組織観察を行った。この引張試験及び組織観察の結果を以下の表2に示す。尚、表2の「炉通前」は素管に成形加工する前を、「炉通後」は炉中銅ろう付け加工した後を、それぞれ意味するものである。
【0021】
【表2】
【0022】
表2に示す如く、引張強度、0.2%耐力、硬度については、素管への成形加工前よりも炉中銅ろう付け加工後の方が数値が高いものとなった。また、各試料の組織を観察したところ、実施例1、2ともに、炉中銅ろう付け加工後のものはベイナイトの析出が見られた。一方、素管への成形加工前のものはフェライト又はフェライト-パーライト組織のみであり、ベイナイト組織は発見されなかった。
【0023】
上記結果から、C、Si、Mn、P、S、Nb、Moの化学成分を含む実施例1、2のフュ―エルレールは、炉中銅ろう付け加工を施すことによってベイナイト組織を生じさせ、このベイナイト組織の存在により素管への成形加工前よりも高強度且つ高硬度の性質を得ることができることが確認された。また、素管への成形加工前は従来品と同様にフェライト組織、又はフェライト-パーライト組織であるため、成形性に優れ、扁平管や異形管の製造時にも容易に加工できる材料であることが確認された。
【0024】
更に、実施例1、2の材料と、実施例1、2とは異なる化学成分を含む、従来のフュ―エルレールの材料との物性の違いを確認するために、実施例1、2及び従来のフュ―エルレールに使用されている材料について、JIS規格に基づく引張試験及び組織観察を行った。従来のフュ―エルレールに使用されている材料の鉄及び不純物以外の化学成分については、比較例1として表1に示している。この比較例1は、実施例1、2とはその化学成分を異にするものであってNb及びMoを含まないものである。尚、比較例1についても実施例1、2と同様にJIS5試験片(板厚1.6mm、形成幅25mm、形成長さ350mm)を用いた。その結果を以下の表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】
その結果、本実施例1、2は比較例1に比べて引張強度及び硬さともに高い値を示すことが明らかとなった。また、組織の確認を行ったところ、実施例1、2はベイナイト組織が析出しているのに対し、比較例1はフェライト組織であって、ベイナイト組織の析出は見られなかった。このことから、実施例1、2は従来の材料と比較して高強度且つ高硬度であることが確認された。
【0027】
以上の結果から、実施例1、2の材料にて形成したフュ―エルレールは、全体形状を薄肉に形成して軽量なものとすることができるとともに、炉中銅ろう付け加工後は従来のものよりも高強度及び高耐圧の性質を得ることができる。従って、200kPa〜400kPaという従来よりポート噴射用のフュ―エルレールで使用されている燃料圧力に対してのみならず、従来のポート噴射用のフュ―エルレールでは使用困難であった400kPa〜1400kPaの比較的高い燃料圧力下でも使用することが可能となり、200kPa〜1400kPaという幅広い燃料圧力において変形や破損を引き起こしにくい製品を得ることができるものである。