【解決手段】上記課題を解決するため、位相差関数を位相の整数倍の位置毎に分断して得られる複数の回折段差と、互いに隣接する回折段差間に設けられる輪帯と、により構成された回折格子面を有する回折光学素子であって、径方向を位相差関数で正規化した等位相差座標系で前記回折格子面の形状を表したときに、各輪帯は、角度が互いに異なる第1の傾斜面から前記第nの傾斜面のうち、少なくともいずれか一の傾斜面を有し、当該回折格子面には前記第1の傾斜面を有する第1の輪帯から、前記第nの傾斜面を有する第nの輪帯をそれぞれ少なくとも一以上形成する。
下記式1により示される位相関数を位相の整数倍の位置毎に分断して得られる複数の回折段差と、互いに隣接する回折段差間に設けられる輪帯と、により構成された回折格子面を有する回折光学素子であって、
径方向を位相差関数で正規化した等位相差座標系で前記回折格子面の形状を表したときに、各輪帯は、角度が互いに異なる第1の傾斜面から前記第nの傾斜面のうち、少なくともいずれか一の傾斜面を有し、当該回折格子面には前記第1の傾斜面から前記第nの傾斜面まで、それぞれ少なくとも一以上設けられる、
ことを特徴とする回折光学素子。
Φ(r)=(φ2r2+φ4r4+φ6r6+・・・)×m/(2π)・・・式1
但し、式1において、Φ(r)は位相関数であり、rは同径方向における光軸からの長さであり、φ2、φ4、φ6・・・は任意の係数であり、mは回折次数である。
前記回折光学素子面において、前記第1の傾斜面から前記第nの傾斜面が不規則に配置されるように各輪帯が形成されている請求項1又は請求項2に記載の回折光学素子。
前記回折格子面に設けられる複数の輪帯のうち少なくともいずれか一の輪帯は、他の輪帯とブレーズ高さが異なる請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の回折光学素子。
前記回折格子面に設けられる複数の輪帯のうち、少なくともいずれか一の輪帯は、角度の互いに異なる複数の前記傾斜面を有する請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の回折光学素子。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系の色収差などを補正する方法の一つとして、回折光学素子を用いることが行われている。回折光学素子は、負分散、異常分散性を有し、光学系を飛躍的に小型化したり、結像性能を大幅に向上させたりできる。
【0003】
回折光学素子の回折面に入射した光線は、複数の次数の回折光に分かれる。一般に、回折光学素子では、使用波長領域の光束が特定の次数(以下、「設計次数」と称する。)に集中させ、設計次数の回折光の回折効率が設計波長(λ
0)において最適化されるようにその格子構造を決定する。しかしながら、回折光の回折効率は波長依存性を示すため、設計波長(λ
0)近傍の波長における回折効率が最も高く、設計波長(λ
0)からのずれが大きくなるにつれて、回折効率は低下する。このため、使用する光線の波長が広帯域に渡る場合、設計波長(λ
0)近傍以外の波長では、設計次数以外の次数の回折光(以下、「不要回折光」と称する。)が強度を有するようになる。
【0004】
不要回折光は、設計次数の回折光とは別のところに結像するため、フレアなどになる。また、不要回折光の強度も波長特性を有する。このため、可視光の一部の波長域において不要回折光の強度が高くなると、着色したフレア(以下、「色フレア」と称する。)が生じる。このような課題を解決するために、2種類の分散の異なる材質からなる回折格子を積層した格子構造を有するいわゆる積層型の回折光学素子が提案されている(例えば、「特許文献1」参照)。特許文献1に記載されるような積層型の回折光学素子とすることにより、使用する光線の波長が広帯域に渡る場合でも、その全域において、設計次数の回折光の回折効率の波長依存性を低減して、不要回折光に起因する色フレアの発生を防止するものとしている。
【0005】
このような積層型の回折光学素子を採用すれば、いわゆる単層型の回折光学素子と比較すると、不要回折光に起因するフレアの発生を抑制することはできる。しかしながら、不要回折光が全く存在しないということはなく、残存した不要回折光により色フレアが生じる場合があった。特に、可視光域の光線を利用する撮像光学系において、この問題は顕著になる。そこで、所定の条件式に従って2つの設計波長を設定することにより、次数の異なる不要回折光同士で、光の加法混色により色フレアの白色化を図る方法などが提案されている(例えば、「特許文献2」参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2には、使用波長域における二つの波長において回折光の回折効率が最大になり、且つ、不要回折光が白色化されるように設計波長を設定することが記載されている。そのため、特許文献2に記載の回折光学素子では、当該回折効率が依然として波長依存性を示すと考えられ、色フレアを白色化することは困難である。
本件発明の課題は、色フレアをより白色に近づけることができる回折光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本件発明に係る回折光学素子は、下記式1により示される位相関数を位相の整数倍の位置毎に分断して得られる複数の回折段差と、互いに隣接する回折段差間に設けられる輪帯と、により構成された回折格子面を有する回折光学素子であって、径方向を位相差関数で正規化した等位相差座標系で前記回折格子面の形状を表したときに、各輪帯は、角度が互いに異なる第1の傾斜面から前記第nの傾斜面のうち、少なくともいずれか一の傾斜面を有し、当該回折格子面には前記第1の傾斜面から前記第nの傾斜面まで、それぞれ少なくとも一以上設けられることを特徴とする。
【0009】
Φ(r)=(φ
2r
2+φ
4r
4+φ
6r
6+・・・)×m/(2π)・・・式1
但し、式1において、Φ(r)は位相関数であり、rは同径方向における光軸からの長さであり、φ
2、φ
4、φ
6・・・は任意の係数であり、mは回折次数である。
【0010】
本件発明に係る回折光学素子において、前記第1の傾斜面の角度をθ
1とし、前記第nの傾斜面の角度をθ
nとしたときに、下記条件式(1−1)又は条件式(1−2)を満足することが好ましい。
【0011】
0.83 < θ
n/θ
1 < 0.98 ・・・(1−1)
1.02 < θ
n/θ
1 < 1.2 ・・・(1−2)
【0012】
本件発明に係る回折光学素子では、前記回折格子面において、前記第1の傾斜面から前記第nの傾斜面が周期的に配置されるように各輪帯が形成されていることが好ましい。
【0013】
本件発明に係る回折光学素子では、前記回折光学素子面において、前記第1の傾斜面から前記第nの傾斜面が不規則に配置されるように各輪帯が形成されていてもよい。
【0014】
本件発明に係る回折光学素子において、下記条件式(2)を満足することが好ましい。
【数1】
【0015】
本件発明に係る回折光学素子において、前記回折格子面に設けられる複数の輪帯のうち少なくともいずれか一の輪帯は、他の輪帯とブレーズ高さが異なっていてもよい。
【0016】
本件発明に係る回折光学素子において、前記回折格子面に設けられる複数の輪帯のうち、ブレーズの最も高い輪帯のブレーズ高さをh
Hとし、ブレーズの最も低い輪帯のブレーズ高さをh
Lとしたときに、両者の比が下記条件式(3)を満足することが好ましい。
【0017】
1.02 ≦ h
H/h
L ≦ 1.2 ・・・(3)
【0018】
またこの場合、下記条件式(4)を満足することが好ましい。
【数2】
【0019】
本件発明に係る回折光学素子において、前記回折格子面に設けられる複数の輪帯のうち、少なくともいずれか一の輪帯は、他の輪帯とピッチが異なっていてもよい。
【0020】
本件発明に係る回折光学素子において、前記回折格子面に設けられる複数の輪帯のうち、少なくともいずれか一の輪帯は、角度の互いに異なる複数の前記傾斜面を有していてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本件発明によれば、色フレアをより白色に近づけることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1.回折光学素子の基本形態
以下、本件発明に係る回折光学素子の基本形態を説明する。本件発明に係る回折光学素子は、下記式1により示される位相関数を位相の整数倍の位置毎に分断して得られる複数の回折段差と、互いに隣接する回折段差間に設けられる輪帯とにより構成された回折格子面を有する回折光学素子であって、径方向を位相差関数で正規化した等位相差座標系で回折格子面の形状を表したときに、各輪帯は、角度が互いに異なる第1の傾斜面から第nの傾斜面のうち、少なくともいずれか一の傾斜面を有し、当該回折格子面には前記第1の傾斜面から前記第nの傾斜面まで、それぞれ少なくとも一以上設けられることを特徴とする。
【0024】
Φ(r)=(φ
2r
2+φ
4r
4+φ
6r
6+・・・)×m/(2π)・・・式1
但し、式1において、Φ(r)は位相関数であり、rは同径方向における光軸からの長さであり、φ
2、φ
4、φ
6・・・は任意の係数であり、mは回折次数である。
【0025】
ここで、従来の一般的なキノフォーム型の回折光学素子では、上記式1で表す位相差関数で径方向を正規化した等位相差座標系(X軸とする)で当該回折格子面の形状を表した場合、
図1(a)に示すように各輪帯の傾斜面の角度(θ)(以下、「傾斜角」と称する。)が同一であり、各輪帯の断面が同一の鋸歯形状を示す周期構造を有する。すなわち、
図1(a)に示すように、等位相差座標系では、各輪帯のX軸方向の幅(ピッチ)W、各輪帯の回折段差の高さ(以下、「ブレーズ高さ」と称する)hがいずれも同じである。但し、
図1に示すX軸方向が径方向であり、Y軸方向がブレーズ高さ方向であり、X軸と輪帯の傾斜面とがなす角度が傾斜角である。なお、輪帯は、輪帯部或いはブレーズと同義である。
【0026】
このような従来の回折光学素子では、等位相差座標系で表したときに、輪帯の形状が同一であり、各輪帯の回折効率の波長依存性は同じであり、設計次数の回折光が設計波長に対して最大の回折効率を示すように回折格子構造が決定される。しかしながら、上述したとおり、従来の回折光学素子は回折光の回折効率が波長依存性を示し、設計波長近傍以外の波長では、設計次数の回折光の回折効率が低下し、不要回折光が強度を有する。このため、当該回折光学素子を可視光域で使用する光学系等に適用した場合、使用波長域内の特定の狭い波長範囲において不要回折光の強度が強くなると、色フレアが生じる場合がある。
【0027】
これに対して、本件発明に係る回折光学素子では、径方向を位相差関数で正規化した等位相差座標系で回折格子面の形状を表したときに、各輪帯は傾斜角の角度が互いに異なる第1の傾斜面から第nの傾斜面のうち、少なくともいずれか一の傾斜面を有し、当該回折格子面には前記第1の傾斜面から前記第nの傾斜面まで、各傾斜面がそれぞれ少なくとも一以上設けられるものとしている(
図1(b)〜(f)参照)。
【0028】
但し、
図1(b)及び(c)には、傾斜角θ
1の傾斜面を有する輪帯と、傾斜角がθ
2の傾斜面を有する輪帯とを備えた例、すなわち、上記等位相差座標系で表したときに一つの輪帯が一つの傾斜面を有し、傾斜面の傾斜角が異なる複数の輪帯が回折格子面に形成された例を示している。また、
図1(d)〜(f)には傾斜角がθ
1の傾斜面と、傾斜角がθ
2の傾斜面とを有する輪帯を備えた例、すなわち、上記等位相差座標系で表したときに、一つの輪帯が傾斜角の異なる傾斜面を複数備えた例を示している。このように、本件発明に係る回折光学素子では、各輪帯がそれぞれ一つの傾斜面を備えてもよいし、各輪帯がそれぞれ複数の傾斜面を備えてもよく、回折格子面内に傾斜角の異なる複数の傾斜面が設けられていればそれでよい。
【0029】
つまり、本件発明に係る回折光学素子は、第1の傾斜面を有する第1の回折領域から第nの傾斜面を有する第nの回折領域まで、回折特性の異なる複数の回折領域を回折格子面に有する。そのため、各回折領域において回折した回折光の強度はそれぞれ波長依存性を示すが、各回折領域で回折した不要回折光の強度が最も強くなる波長範囲がそれぞれ異なるため、回折格子面全体でみたときに不要回折光の強度の波長依存性を低減することができる。従って、不要回折光の強度が使用波長域内の特定の狭い波長範囲においてのみ強くなることを防止し、色フレアをより白色に近づけることができる。
【0030】
以下では、本件発明に係る回折光学素子がキノフォーム型(ブレーズ型)の回折光学素子である場合を例に挙げて説明するが、本件発明に係る回折光学素子はキノフォーム型の回折光学素子に限定されるものではなく、例えば、ステップ型の回折光学素子であってもよい。
【0031】
ここで、第1の傾斜面の角度をθ
1とし、第nの傾斜面の角度をθ
nとしたときに、下記条件式(1−1)又は条件式(1−2)を満足することが好ましい。
0.83 < θ
n/θ
1 < 0.98 ・・・(1−1)
1.02 < θ
n/θ
1 < 1.2 ・・・(1−2)
【0032】
上記条件式(1−1)又は(1−2)を満足する場合、回折格子面全体でみたときの不要回折光の強度の波長依存性をより低減することができ、色フレアをより白色に近づけることが容易になる。
【0033】
ここで、色フレアをより白色に近づけるという観点から、条件式(1−1)及び条件式(1−2)はそれぞれ下記条件式(1−1a)及び条件式(1−2a)であることが好ましい。
【0034】
0.86 < θ
n/θ
1 < 0.96 ・・・(1−1a)
1.05 < θ
n/θ
1 < 1.17 ・・・(1−2a)
【0035】
また、本件発明に係る回折光学素子において、回折格子面に第1の傾斜面から第nの傾斜面がどのような配列で配置されていてもよい。すなわち、回折格子面に第1の傾斜面から第nの傾斜面が周期的に配置されるように各輪帯が形成されていてもよいし、各傾斜面が不規則に配置されるように各輪帯が形成されていてもよい。
【0036】
いずれの場合であっても、色フレアをより白色に近づけるという観点から下記条件式(2)を満足することがより好ましい。
【0038】
各傾斜面の配列が周期的である場合であっても、不規則である場合であっても、上記条件式(2)を満足させることにより、回折格子面内において第一の傾斜面から第nの傾斜面を均一に分布させることができ、回折格子面全体でみたときに不要回折光の強度の波長依存性をより低減することができ、色フレアをより白色に近づけることが容易になる。
【0039】
2.本件発明に係る回折光学素子の具体的態様
次に、
図1(b)〜(g)に示した各態様をより詳細に説明する。
【0040】
(1)第一の態様
図1(b)に第一の態様の回折格子構造の構成例を示す。第一の態様の回折格子構造は、回折格子面に設けられる複数の輪帯のうち少なくともいずれか一の輪帯は、他の輪帯とブレーズ高さが異なる。例えば、
図1(b)に示すように、第1のブレーズ高さ(h
1)を有し、第1の傾斜角(θ
1)の傾斜面を有する第1の輪帯と、第2のブレーズ高さ(h
2)を有し、第2の傾斜角(θ
2)の傾斜面を有する第2の輪帯等、ブレーズ高さが互いに異なる第1の輪帯から第nの輪帯が同じピッチで形成された回折格子構造とすることができる。このとき、
図1(b)に示すように、第1の輪帯と第2の輪帯を交互に配置されるなど、ブレーズ高さの異なる各輪帯が周期的に配置されてもよいし、特に順序等なく不規則に配置されていてもよい。
【0041】
上記式1に対応する切り替えピッチで各輪帯を設ける際に、互いに隣接する輪帯のブレーズ高さを変化させることにより、この第一の態様の回折格子構造を得ることができる。例えば、
図1(b)に示す例では、第1の輪帯に入射した光線と、第2の輪帯に入射した光線の波長及び入射角が同じ場合であっても、それぞれの回折効率は異なる波長依存性を持つ。それぞれの色フレアの色相を変えることで、回折格子面全体でみたときの不要回折光の強度の波長依存性を低減することができ、色フレアをより白色に近づけることができる。
【0042】
この第一の態様のように、ブレーズ高さの異なる輪帯が回折格子面に形成される場合、傾斜面の傾斜角の異なる複数の輪帯のうち、ブレーズの最も高い輪帯のブレーズ高さをh
Hとし、ブレーズの最も低い輪帯のブレーズ高さをh
Lとしたときに、両者の比が下記条件式(3)を満足することが好ましい。
【0043】
1.02 ≦ h
H/h
L ≦ 1.2 ・・・(3)
【0044】
条件式(3)を満足させることにより、傾斜面の傾斜角が上述した条件式(1)を満足させることが容易になり、不要回折光に起因する色フレアをより白色に近づけることができる。
【0045】
またこの場合、下記条件式(4)を満足することが好ましい。
【数2】
【0046】
条件式(4)を満足させることにより、上述した条件式(2)を満足させることがより容易になり、不要回折光に起因する色フレアをより白色に近づけることができる。
【0047】
(2)第二の態様
図1(c)に第二の態様の回折格子構造の構成例を示す。第二の態様の回折格子構造は、回折格子面に設けられる複数の輪帯のうち、少なくともいずれか一の輪帯は、上記等位相差座標系で表したときに、他の輪帯とピッチが異なる。例えば、
図1(c)に示すように、第1のピッチ(W
1)を有し、第1の傾斜角(θ
1)の傾斜面を有する第1の輪帯と、第2のピッチ(W
2)を有し、第2の傾斜角(θ
2)の傾斜面を有する第2の輪帯等、ピッチが互いに異なる第1の輪帯から第nの輪帯が同じブレーズ高さで形成された回折格子構造とすることができる。このとき、
図1(c)に示すように、第1の輪帯と第2の輪帯を交互に配置するなど、ピッチの異なる各輪帯が周期的に配置されてもよいし、特に順序等なく不規則に配置されていてもよい。
【0048】
上記式1に対応する切り替えピッチを変化させることにより、この第二の態様の回折格子構造を得ることができる。この第二の態様でも、第1の態様と同様に、第1の輪帯と第2の輪帯は異なる回折特性を示し、各輪帯における設計次数の回折効率が100%になる波長が異なる。従って、回折格子面全体でみたときの不要回折光の強度の波長依存性を低減することができ、色フレアをより白色に近づけることができる。
【0049】
第二の態様では、互いに隣接する輪帯部のブレーズ高さ(h)は共通であるため、エッチングなどの手法により輪帯構造を形成する場合、この第二の態様を採用することは有効である。第二の態様の場合、各輪帯の面積が異なるため、例えば、
図1(c)に示す場合のように、第1の輪帯から第nの輪帯まで、各輪帯が順番に繰り返し配置されるように輪帯を形成すると、回折格子面全体における回折効率は各回折領域の回折効率の単純平均とはならない。各輪帯の平均的な回折効率を得たい場合には、一部で繰り返しパターンを変えるなどして各輪帯の面積比を調節しても良い。
【0050】
(3)第三の態様
図2(d)〜(f)に第三の態様の回折格子構造の構成例を示す。第三の態様の回折格子構造は、少なくともいずれか一の輪帯は、角度の互いに異なる複数の傾斜面を有する。例えば、
図2(d)〜(f)に示す回折格子構造は、上述したとおり、一の輪帯部が複数の傾斜面を備える。各傾斜面は、所定の回折特性を有する回折領域である。すなわち、第三の態様では、一つの輪帯が回折特性の異なる複数の回折領域を有する。
図1(d)〜(f)に示す回折格子構造では、いずれも第1の傾斜角(θ
1)の傾斜面を有す領域が第1の回折領域となり、第2の傾斜角(θ
2)の傾斜面を有する領域が第2の回折領域となる。
図1(d)及び(e)に示すように、各輪帯内において第1の傾斜角(θ
1)を有する第1の傾斜面に連続して、第2の傾斜角(θ
2)を有する第2の傾斜面とが段差なく連続して設けられていてもよいし、
図1(f)に示すように、各輪帯内において、第1の傾斜角θ
1を有する第1の傾斜面と、第2の傾斜角(θ
2)を有する第2の傾斜面とが小段差を介して不連続に配置されていてもよい。この第三の態様では、回折特性の異なる複数の回折領域が狭い範囲内で繰り返されるため、実形状において輪帯の幅が広くなる光軸の近傍においても、本件発明の効果を得ることができ、小絞りが必要な光学系に適用することが好ましい。
【0051】
更に、一つの回折面内に、第一の態様の回折格子構造〜第三の態様の回折格子構造が混在していてもよい。これらの態様を一つの回折面内に混在させる場合、光軸近傍には第三の態様の回折格子構造を設け、それ以外の領域には第一の態様及び/又は第二の態様の回折格子構造を設けることが好ましい。
【0052】
次に、実施例及び比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0053】
実施例1は、上述した第一の態様の回折光学素子に関する。
図3に、実施例1の回折光学素子の断面を模式的に示す。
図3に示す回折光学素子は、いわゆる積層型の回折光学素子であり、回折格子面を挟んで第1の材料からなる第1層10と、第2の材料からなる第2層20とが積層されている。回折格子面には、式1の位相関数に対応するピッチ幅で形成された複数の輪帯を有する。ブレーズ高さが(h
1)の第1の輪帯と、ブレーズ高さが(h
2)の第2の輪帯とが径方向に向かって交互に設けられた上記第1の態様の回折格子構造を有する(
図1(b)参照。)。すなわち、回折格子面に第1の輪帯と、第2の輪帯とが同じ比率(1:1)で形成される。但し、
図3は、回折光学素子の実形状を模式的に示したものである。一方、
図1及び
図2は、回折格子面の形状を等位相差座標系で表している。このため、
図1(b)では各輪帯のピッチは等間隔になっているが、これを実形状に変換すると、
図3に示すように各輪帯のピッチは付加すべき位相に応じた間隔となる。
【0054】
第1層10を構成する第1の材料及び第2層20を構成する第2の材料のd線(587.6nm)に対する屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θgF)はそれぞれ表1に示すとおりである。
【0055】
【表1】
【0056】
また、第1の輪帯のブレーズ高さ(h
1)及び第2のブレーズ高さ(h
2)は、それぞれ以下のとおりであり、下記のとおり条件式(3)を満足する。
【0057】
h
1=14.4μm
h
2=15.4μm
【0058】
h
1=h
L、h
1=h
H
h
H/h
L=15.4/14.4=1.0694
【実施例2】
【0059】
実施例2は、実施例1と同様に上記第1の態様の回折光学素子に関する。実施例2の回折光学素子は、第1の輪帯と第2の輪帯とを2:1の比率で設けたことを除いて、実施例1と同様にして回折光学素子とした。また、第1の輪帯と、第2の輪帯とは、第1の輪帯、第1の輪帯、第2の輪帯の順に配列されるように各輪帯を形成した。
【0060】
[比較例1]
比較例1では、ブレーズ高さが第1の高さ(h
1=14.4μm)である実施例1でいう第1の輪帯に相当する輪帯のみを回折格子面に設けたことを除いて、実施例1と同様にして、比較例1の回折光学素子を得た。当該比較例1の回折格子構造は、
図1(a)に示す従来の回折光学素子と同じであり、回折格子面に設けられる輪帯の形状を上記等位相差座標系で表すと、全て同じ形状となる。
【0061】
[比較例2]
比較例2では、ブレーズ高さが第2の高さ(h
2=15.4μm)である実施例1でいう第2の輪帯に相当する輪帯のみを回折格子面に設けたことを除いて、実施例1と同様にして、比較例2の回折光学素子を得た。
【0062】
[比較例3]
比較例3では、ブレーズ高さが第3の高さ(h
3=16.5μm)の輪帯のみを回折格子面に設けたことを除いて、実施例1と同様にして、比較例3の回折光学素子を得た。
【0063】
実施例1及び実施例2の回折光学素子の回折効率不要回折光の波長依存性をそれぞれ
図4、
図5に示す。また、比較例1〜比較例3の回折光学素子の回折効率不要回折光の波長依存性を
図6に示す。
【0064】
また、色フレアの色を評価するために、実施例1及び実施例2の回折光学素子の不要回折光の強度分布に基づいて、
図7に示すCIE1931表色系により、Y値、x値、y値をそれぞれ求めた。同様にして、比較例1〜比較例3の回折光学素子のY値、x値、y値、及び、14.0μm〜18.0μmの範囲でブレーズ高さを変化させたときのY値、x値、y値を求めた。結果を表2に示す。そして、各回折光学素子について、それぞれのx値、y値に基づいて、
図7に示す色度座標系にプロットし、不要回折光の色を評価した。
【0066】
[評価結果]
(1)不要回折光の回折効率の波長依存性
実施例1及び実施例2の回折光学素子は、
図4及び
図5に示すように、不要回折光の強度が2%以下を示す波長範囲が、420nm〜670nmであり、可視光波長域における広い波長範囲において不要回折光の強度が低く、波長依存性も低いことが分かる。これに対して、
図6に示すように比較例1の回折光学素子は、不要回折光の強度が2%以下を示す波長範囲が430nm〜650nmであり、比較的広い波長範囲で不要回折光の強度を低く抑えることができるが、実施例1及び実施例2と比較すると不要回折光の強度が2%以下を示す範囲が狭く、可視光波長域内における特定の狭い波長範囲において不要回折光が一定以上の強度を有し、不要回折光が着色光として観察され得る。比較例2及び比較例3の回折光学素子は、不要回折光の強度が2%以下を示す範囲がさらに狭く、不要回折光の波長依存性が高いことが分かる。特に、ブレーズ高さの最も高い比較例3の回折光学素子は、490nm付近において不要回折光が10%近くの強度を有し、着色光として観察される可能性が高いことが分かる。
【0067】
(2)色フレアの評価
次に、
図7を参照すると、実施例1及び実施例2の回折光学素子の不要回折光による色フレアをCIE1931表色系で表すと、白近傍の色度座標を有する。一方、比較例1〜比較例3の回折光学素子を含む従来の回折光学素子の回折格子構造(
図1(a)参照)では、表2に示すようにブレーズ高さを変化させても、その不要回折光はCIE1931表色系で表すと赤みを帯びた紫〜黄色に相当する色度座標を有する。
【0068】
なお、ここでは、視感度に基づくCIE表色系を用いて色フレアの評価を行ったが、色フレアの評価の方法は、これに限定されるものではない。例えば、ISO等で規定されるCCI(カラーコントリビューションインデックス)や実際に用いられる撮像センサー等の分光感度を用いて色度を計算評価し、色フレアの評価を行うこともできる。
【0069】
以上より、径方向を位相差関数で正規化した等位相差座標系で回折格子面の形状を表したときに、実施例1及び実施例2の回折光学素子は、ブレーズ高さが異なり、傾斜面の角度の異なる第1の輪帯と、第2の輪帯とを混在させることにより、回折格子面全体でみたときの不要回折光の強度の波長依存性を低減し、不要回折光により色フレアが生じる場合でも、色フレアを白色により近づけることができることが確認された。一方、
図1(a)に示すように上記等位相差座標系で回折格子面の形状を表したときに、各輪帯の形状が同じである比較例1〜比較例3の回折格子構造では、ブレーズ高さを変化させることにより、不要回折光の強度の波長依存性も変化するが、可視光域内の狭い範囲で不要回折光の強度が一定値以上に高くなる範囲があり、不要回折光によりフレアが生じた場合、色フレアとして観察される可能性が高いことが確認された。従って、本件発明に係る回折光学素子を採用することにより、色フレアをより白色に近づけることができる。