【解決手段】溶接電源装置1と、ワイヤ送給装置2と、ワイヤ送給装置2との間で無線通信を行う遠隔操作装置3とを備えている溶接システムA1において、送給モータ24を駆動するための電力を、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に供給するための電力伝送線51,52を設け、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とが電力伝送線51,52を介して通信を行うようにした。遠隔操作装置3はワイヤ送給装置2の近くに位置するので、無線通信に障害が発生しにくい。また、ワイヤ送給装置2と溶接電源装置1とは離れていても有線通信なので、通信に障害が発生しにくい。したがって、遠隔操作装置3が溶接電源装置1と直接無線通信を行う場合と比べて、通信に障害が発生しにくいので、正確に通信を行える。
溶接電源装置と、ワイヤ送給装置と、溶接トーチと、前記溶接電源装置から前記溶接トーチに、溶接用の電力を供給するためのパワーケーブルと、前記ワイヤ送給装置が有する送給モータを駆動するための電力を、前記溶接電源装置から前記ワイヤ送給装置に供給するための電力伝送線と、前記電力伝送線上に設けられている中継装置と、前記中継装置との間で無線通信を行う遠隔操作装置と、を備えている溶接システムの通信方法であって、
前記遠隔操作装置が、無線によって通信信号を送信する第1の工程と、
前記中継装置が、前記遠隔操作装置が送信した通信信号を受信する第2の工程と、
前記中継装置が、受信した通信信号を、前記電力伝送線を介して前記溶接電源装置に送信する第3の工程と、
前記溶接電源装置が、前記電力伝送線を介して送信された通信信号を受信する第4の工程と、
を備えていることを特徴とする通信方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0025】
図1は、第1実施形態に係る溶接システムA1の全体構成を説明するための図であり、
図2は、溶接用電源部10および送給装置用電源部11の内部構成の一例を示すものである。
【0026】
図1に示すように、溶接システムA1は、溶接電源装置1、ワイヤ送給装置2、遠隔操作装置3、パワーケーブル41,42、電力伝送線51,52、および、溶接トーチ6を備えている。溶接電源装置1の溶接電力用の一方の出力端子aは、パワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2に接続されている。ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ6に送り出して、ワイヤ電極の先端を溶接トーチ6の先端から突出させる。溶接トーチ6の先端に配置されているコンタクトチップにおいて、パワーケーブル41とワイヤ電極とは電気的に接続されている。溶接電源装置1の溶接電力用の他方の出力端子bは、パワーケーブル42を介して、被加工物Wに接続される。溶接電源装置1は、溶接トーチ6の先端から突出するワイヤ電極の先端と、被加工物Wとの間にアークを発生させ、アークに電力を供給する。溶接システムA1は、当該アークの熱で被加工物Wの溶接を行う。
【0027】
ワイヤ電極を送り出すための送給モータ24(後述)などを駆動するための電力は、電力伝送線51,52を介して、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に供給される。電力伝送線51,52は、平行2線で被覆が厚い丈夫なケーブル(例えば、2心のキャブタイヤケーブルなど)が用いられている。なお、耐ノイズ性を高めるために、シールドケーブルとしてもよい。また、電力伝送線51,52は、同軸ケーブル等であってもよい。溶接システムA1は、実際には、ワイヤ電極が巻回されたワイヤリールや、溶接トーチ6から放出するためのシールドガスのガスボンベなどを備えているが、図への記載や説明を省略している。
【0028】
溶接電源装置1は、アーク溶接のための直流電力を溶接トーチ6に供給するものである。溶接電源装置1は、溶接用電源部10、送給装置用電源部11、記憶部12、制御部13、および、通信部14を備えている。
【0029】
溶接用電源部10は、電力系統から入力される三相交流電力をアーク溶接に適した直流電力に変換して出力するものである。
図2(a)に示すように、溶接用電源部10に入力される三相交流電力は、整流回路101によって直流電力に変換され、インバータ回路102によって交流電力に変換される。そして、トランス103によって降圧(または昇圧)され、整流回路104によって直流電力に変換されて出力される。なお、溶接用電源部10の構成は、上記したものに限定されない。
【0030】
送給装置用電源部11は、ワイヤ送給装置2の送給モータ24などを駆動するための電力を出力するものである。送給装置用電源部11は、電力系統から入力される単相交流電力をワイヤ送給装置2での使用に適した直流電力に変換して出力する。送給装置用電源部11はいわゆるスイッチングレギュレータであって、
図2(a)に示すように、送給装置用電源部11に入力される交流電力は、整流回路111によって直流電力に変換され、DC/DCコンバータ回路112によって降圧(または昇圧)されて出力される。送給装置用電源部11は、電圧が例えば48Vに制御された直流電力を、電力伝送線51,52を介して、ワイヤ送給装置2に供給する。なお、送給装置用電源部11の構成は、上記したものに限定されない。例えば、溶接用電源部10と同様の構成であってもよいし、電力系統から入力される交流電力をトランスで降圧(または昇圧)してから、整流回路111で直流電力に変換して出力するようにしてもよい。
【0031】
記憶部12は、溶接電源装置1から出力される溶接電圧を設定するための設定電圧や、溶接電源装置1から出力される溶接電流を設定するための設定電流などの溶接条件パラメータWpを記憶するものである。
【0032】
制御部13は、溶接電源装置1の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部13は、溶接電源装置1から出力される溶接電圧や溶接電流が記憶部12に記憶されている設定電圧や設定電流になるように、溶接用電源部10のインバータ回路102を制御する。また、送給装置用電源部11から出力される電圧が所定電圧になるように、送給装置用電源部11のDC/DCコンバータ回路112を制御する。また、図示しない設定ボタンの操作に応じて記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpの変更を行ったり、図示しない起動ボタンの操作に応じて溶接用電源部10を起動させたりなどの制御を行う。また、制御部13は、図示しないセンサによって検出された溶接電圧や溶接電流の検出値を図示しない表示部に表示させたり、異常が発生した場合に図示しない報知部に報知させたりする。
【0033】
また、制御部13は、通信部14から入力される信号に基づいても、溶接条件パラメータWpの変更や溶接用電源部10の起動を行い、検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、ワイヤ送給装置2に対するワイヤ送給指令などのための信号を通信部14に出力する。また、制御部13は、あらかじめ設定された送信周期ごとに、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpを読み出して、通信部14に出力する。なお、本実施形態では、送信周期は、10〜500ms程度の範囲で設定されている。
【0034】
通信部14は、電力伝送線51,52を介して、ワイヤ送給装置2との間で通信を行うためのものである。通信部14は、ワイヤ送給装置2から受信した信号を復調して、制御部13に出力する。ワイヤ送給装置2から受信する信号には、例えば、記憶部12に記憶された溶接条件パラメータWpを変更するための溶接条件設定信号や、溶接用電源部10の起動を指示する起動信号などがある。また、通信部14は、制御部13から入力される信号を変調して、通信信号としてワイヤ送給装置2に送信する。ワイヤ送給装置2に送信する通信信号には、例えば、検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpを送信するための溶接条件パラメータ信号、ワイヤ送給指令などのための信号などがある。なお、ワイヤ送給装置2との間で送受信される通信信号は、上記したものに限定されない。
【0035】
通信部14は、直接スペクトル拡散(Direct Sequence Spread Spectrum:DSSS)通信方式を用いて通信を行う。直接スペクトル拡散通信方式では、送信側は、送信する信号に対して拡散符号による演算を行い、元の信号のスペクトルをより広い帯域に拡散して送信する。受信側は、受信した信号を共通する拡散符号を用いて逆拡散することで、元の信号に戻す。通信信号にノイズが重畳された場合でも、逆拡散によってノイズのスペクトルが拡散されるので、フィルタリングによって元の通信信号を抽出することができる。また、溶接システムA1毎に異なる拡散符号を用いていれば、別の溶接システムA1で送受信される通信信号を誤って受信したとしても、当該通信信号は異なる拡散符号で逆拡散されて、ノイズとして除去される。したがって、高い通信品質で通信を行うことができる。
【0036】
通信部14は、結合回路を備えている。当該結合回路は、通信部14の入出力端に接続されたコイルと、電力伝送線51,52に並列接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、通信部14が出力する通信信号を電力伝送線51,52に重畳し、また、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出する。通信部14は、制御部13より入力される信号に応じてキャリア信号をBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調し、変調信号にスペクトル拡散を行い、アナログ信号に変換して送信する。なお、変調方法はBPSK変調に限られず、ASK変調やFSK変調を行うようにしてもよい。また、スペクトル拡散は直接拡散方式に限られず、周波数ホッピング方式を用いてもよい。なお、本実施形態では、スペクトル拡散を行っているが、これに限定されず、スペクトル拡散を行わないようにしてもよい。また、通信部14は、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出し、デジタル信号に変換して、逆拡散およびフィルタリングを行い、復調を行って、制御部13に出力する。溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に送信する通信信号と、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1に送信する通信信号とでは、時間をずらして送受信を行う。なお、異なる周波数帯域を利用するようにしてもよい。
【0037】
ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ6に送り出すものである。また、ワイヤ送給装置2は、溶接電源装置1と遠隔操作装置3との通信を中継する機能も有している。ワイヤ送給装置2は、電源部21、制御部22、中継部23、および、送給モータ24を備えている。なお、ワイヤ送給装置2は、ガスボンベからのシールドガスを溶接トーチ6に供給するためのガス電磁弁などを備えているが、図への記載や説明を省略している。
【0038】
電源部21は、制御部22および送給モータ24に電力を供給するものである。電源部21は、電力伝送線51,52を介して溶接電源装置1から電力を供給され、制御部22および送給モータ24のそれぞれに適した電圧に変換を行って出力する。電源部21は、溶接電源装置1から供給される電力を蓄積するコンデンサ、コンデンサから電力伝送線51,52に電流が逆流するのを防ぐためのダイオード、制御部22および送給モータ24に出力する電圧を調整するためのDC/DCコンバータを備えている。なお、電源部21の構成は、上記したものに限定されない。
【0039】
制御部22は、ワイヤ送給装置2の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部22は、溶接トーチ6に設けられている図示しないトーチスイッチより入力される起動のための操作信号に応じて、溶接電源装置1の溶接用電源部10を起動するための起動信号を中継部23に出力する。また、制御部22は、中継部23からワイヤ送給指令を入力されている間、送給モータ24を回転させ、図示しない送給ローラを回転させて、ワイヤ電極の送給を行わせる。
【0040】
中継部23は、電力伝送線51,52を介して、溶接電源装置1との間で有線通信を行うためのものである。また、中継部23は、遠隔操作装置3との間で無線通信を行う。中継部23は、溶接電源装置1と遠隔操作装置3との通信を中継する機能も有している。
【0041】
中継部23は、溶接電源装置1から受信した通信信号を復調する。復調した信号がワイヤ送給指令などのための信号の場合、制御部22に出力する。一方、復調した信号が溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、溶接条件パラメータ信号などの場合、再度変調して、アンテナ23aによって電磁波として遠隔操作装置3に送信する。
【0042】
また、中継部23は、遠隔操作装置3が出力する電磁波をアンテナ23aで受信し、受信した信号を増幅して、溶接電源装置1に送信する。なお、受信した信号を増幅することなく、そのまま送信するようにしてもよいし、受信した信号を一旦復調して、所定の処理を行った上で再度変調して送信するようにしてもよい。また、中継部23は、制御部22より入力される起動信号などを変調して、溶接電源装置1に送信する。なお、中継部23と、溶接電源装置1および遠隔操作装置3との間で送受信される通信信号は、上記したものに限定されない。中継部23も、通信部14と同様に、直接スペクトル拡散通信方式を用いて通信を行う。
【0043】
中継部23は、結合回路を備えている。当該結合回路は、電力伝送線51,52に並列接続されたコイルと中継部23の入出力端に接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、中継部23が出力する通信信号を電力伝送線51,52に重畳し、また、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出する。
【0044】
送給モータ24は、溶接トーチ6にワイヤ電極の送給を行うものである。送給モータ24は、制御部22からのワイヤ送給指令に基づいて回転し、送給ローラを回転させて、ワイヤ電極を溶接トーチ6に送り出す。
【0045】
遠隔操作装置3は、離れた位置から溶接電源装置1を操作するためのものである。遠隔操作装置3は、溶接電源装置1の溶接条件パラメータWpの変更を行う。また、溶接電源装置1で検出された溶接電圧または溶接電流の検出値を表示したり、溶接電源装置1で発生した異常を報知したりする。遠隔操作装置3は、操作部31、記憶部32、表示部33、報知部34、制御部35、および、通信部36を備えている。
【0046】
操作部31は、溶接作業者による操作ボタンの操作を操作信号として制御部35に出力するものである。
【0047】
図3は、遠隔操作装置3の外観図の一例である。同図に示すように、遠隔操作装置3の操作部31には、操作ボタンとして、溶接電流設定用ボタン31a、溶接電圧設定用ボタン31b、および、切替ボタン31cが配置されている。溶接電流設定用ボタン31aは、溶接電源装置1から出力される溶接電流の設定電流を変更するためのものである。溶接電圧設定用ボタン31bは、溶接電源装置1から出力される溶接電圧の設定電圧を変更するためのものである。溶接電流設定用ボタン31aまたは溶接電圧設定用ボタン31bが操作されると、操作部31は、溶接条件を変更するための操作信号を、制御部35に出力する。切替ボタン31cは、表示部33の表示モードを切り替えるためのものである。切替ボタン31cが押圧されるたびに、操作部31は、表示モードを切り替えるための操作信号を、制御部35に出力する。なお、操作部31には、他の操作ボタンも配置されているが、同図では省略している。各操作ボタンの操作の詳細については後述する。
【0048】
図1に戻って、記憶部32は、操作部31の操作ボタンの操作によって設定される溶接条件Wrを記憶するものである。また、記憶部32は、溶接電源装置1から溶接条件パラメータ信号として受信した溶接条件パラメータWpも記憶している。記憶部32は、溶接条件Wrと溶接条件パラメータWpとを、それぞれ定められた記憶領域に記憶している。
【0049】
表示部33は、各種表示を行うものであり、例えば液晶表示装置によって実現されている(
図3参照)。表示部33は、制御部35によって制御されており、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrを表示し、後述する判定処理の結果も表示する。また、溶接電源装置1で検出された溶接電圧や溶接電流の検出値の表示も行う。なお、表示部33は、7セグメントディスプレイ等の簡易な表示装置であってもよい。
【0050】
報知部34は、所定の報知を行うものであり、例えばスピーカによって実現されている(
図3参照)。報知部34は、制御部35によって制御されており、溶接電源装置1の異常を警告音で報知する。また、後述する判定処理の結果も報知する。なお、報知部34は、音で報知を行うものに限定されない。例えば、振動で報知を行うようにしてもよいし、表示部33に文字や画像で報知するようにしてもよい。
【0051】
制御部35は、遠隔操作装置3の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部35は、操作部31より入力される表示モードを切り替えるための操作信号に応じて、表示部33の表示内容を、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrを表示するモードと、溶接電源装置1で検出された溶接電圧や溶接電流の検出値を表示するモードとで切り替える。また、操作部31より入力される溶接条件Wrを変更するための操作信号に応じて、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrを変更する。
【0052】
また、制御部35は、あらかじめ設定された送信周期ごとに、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrを読み出して、通信部36および表示部33に出力する。なお、本実施形態では、送信周期は、10〜500ms程度の範囲で設定されている。制御部35に設定される送信周期は、溶接電源装置1の制御部13に設定される送信周期と同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、送信周期に係わらず、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrが変更された時に、変更後の溶接条件Wrを出力するようにしてもよい。また、溶接電源装置1の溶接用電源部10が起動したときに、溶接条件Wrを出力するようにしてもよい。
【0053】
また、制御部35は、通信部36より入力される溶接電圧または溶接電流の検出値を、表示部33に出力したり、通信部36より入力される異常発生を示す信号に基づいて、報知部34に異常の報知をさせたりする。
【0054】
また、制御部35は、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrが溶接電源装置1に正しく通信されているかを判定する判定処理を行う。
【0055】
図4は、制御部35が行う判定処理を説明するためのフローチャートである。当該判定処理は、所定のタイミング毎に実行される。
【0056】
上述したように、溶接電源装置1は送信周期ごとに溶接条件パラメータ信号を遠隔操作装置3に送信しており、記憶部32は溶接条件パラメータWpとして記憶している。まず、記憶部32に記憶されている溶接条件パラメータWpが取得される(S1)。また、記憶部32は、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrも記憶している。記憶部32に記憶されている溶接条件Wrが取得される(S2)。
【0057】
次に、溶接条件パラメータWpが溶接条件Wrに一致するか否かが判別される(S3)。溶接条件パラメータWpの各要素(設定電圧や設定電流など)が溶接条件Wrの対応する各要素にすべて一致する場合に、溶接条件パラメータWpが溶接条件Wrに一致すると判別される。溶接条件パラメータWpは、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrに基づいて溶接電源装置1に設定されたものである。遠隔操作装置3と溶接電源装置1との間で正しく通信が行われていれば、溶接条件パラメータWpと溶接条件Wrとは一致する。溶接条件パラメータWpと溶接条件Wrとが一致する場合(S3:YES)、正しく通信が行われており、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrが溶接条件パラメータWpとして溶接電源装置1に正しく設定されていると判定され、一致信号(例えば、ローレベル信号)が報知部34に出力されて(S4)、判定処理が終了する。
【0058】
一方、溶接条件パラメータWpと溶接条件Wrとが一致しない場合(S3:NO)、正しく通信が行われておらず、遠隔操作装置3で設定された溶接条件Wrが溶接電源装置1に正しく設定されていないと判定され、不一致信号(例えば、ハイレベル信号)が報知部34に出力されて(S5)、判定処理が終了する。
【0059】
報知部34は、一致信号(ローレベル信号)が入力された場合には報知を行わないが、不一致信号(ハイレベル信号)が入力された場合には、例えば、「ピー」という音声によって、報知を行う。これにより、溶接作業者は、通信が正しく行われていないことに気付くことができる。この場合、溶接が不安定になり溶接品質が悪くなる可能性があるので、溶接作業者は溶接作業を開始せずに、通信状態が改善されるのを待つ。また、本実施形態では、判定処理の結果は表示部33にも出力される。表示部33は、不一致信号(ハイレベル信号)が入力された場合に通信状態の欄に「×」を表示し、一致信号(例えば、ローレベル信号)が入力された場合に通信状態の欄に「○」を表示する(
図3参照)。
【0060】
なお、判定処理のフローチャートは、
図4に示したものに限定されない。例えば、ステップS3でNOとの判別が所定回数(例えば、10回)以上連続している場合にのみ、ステップS5に進み、NOとの判別が所定回数以上連続しない場合にはステップS4に進むようにしてもよい。また、ステップS3でNOとの判別が所定時間(例えば、1秒)以上連続している場合にのみ、ステップS5に進み、NOとの判別が所定時間以上連続しない場合にはステップS4に進むようにしてもよい。溶接作業者が溶接条件を設定している途中には、通信による時間遅れによって、WpとWrとが一致しない瞬間が発生する場合がある。この瞬間的な不一致の場合にも報知が行われると紛らわしいので、所定回数(または、所定時間)以上連続してNOと判別されることで判定を行っている。
【0061】
通信部36は、ワイヤ送給装置2との間で無線通信を行うためのものである。通信部36は、ワイヤ送給装置2から受信した信号を復調して、制御部35に出力する。ワイヤ送給装置2から受信する信号には、例えば、溶接電源装置1においてセンサで検出された溶接電圧または溶接電流の検出値や、異常発生を示す信号、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpに基づいて送信された溶接条件パラメータ信号などがある。また、通信部36は、制御部35から入力される信号を変調して、ワイヤ送給装置2に送信する。ワイヤ送給装置2に送信する信号には、例えば、記憶部32に記憶された溶接条件Wrを送信するための溶接条件設定信号などがある。なお、溶接電源装置1との間で送受信される信号は、上記したものに限定されない。
【0062】
通信部36は、アンテナ36aを介して通信信号の送受信を行う。通信部36は、制御部35より入力される信号に応じてキャリア信号をBPSK(Binary Phase Shift Keying)変調し、変調信号にスペクトル拡散を行い、アナログ信号に変換して、電磁波として送信する。なお、変調方法はBPSK変調に限られず、ASK変調やFSK変調を行うようにしてもよい。また、スペクトル拡散は直接拡散方式に限られず、周波数ホッピング方式を用いてもよい。なお、本実施形態では、スペクトル拡散を行っているが、これに限定されず、スペクトル拡散を行わないようにしてもよい。通信部36は、アンテナ36aが受信した電磁波をデジタル信号に変換して、逆拡散およびフィルタリングを行い、復調を行って、制御部35に出力する。なお、遠隔操作装置3からワイヤ送給装置2に送信する信号と、ワイヤ送給装置2から遠隔操作装置3に送信する信号とでは、時間をずらして送受信を行う。なお、異なる周波数帯域を利用するようにしてもよい。
【0063】
次に、溶接作業者が遠隔操作装置3を操作して、溶接電源装置1の溶接条件パラメータWpを設定する場合を例として、溶接システムA1の作用について説明する。
【0064】
溶接作業者は、遠隔操作装置3の操作部31を操作して溶接条件Wrを設定する。
図3に示すように、溶接電流設定用ボタン31aには「Current」とラベルが付されており、ボタンの上部を1回押すごとに設定電流の値が1Aずつ増加し、ボタンの下部を1回押すごとに設定電流の値が1Aずつ減少する。また、溶接電圧設定用ボタン31bには「Voltage」とラベルが付されており、ボタンの上部を1回押すごとに設定電圧の値が0.1Vずつ増加し、ボタンの下部を1回押すごとに設定電圧の値が0.1Vずつ減少する。操作部31の操作によって、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrが変更される。記憶部32に記憶されている溶接条件Wrは、表示部33に表示される。
図3においては、現在の溶接条件Wrの一部である「設定電流:150A」および「設定電圧:18.5V」が表示されている。溶接作業者は、表示部33の表示をみて、所望の値になるように操作部31を操作する。なお、同図においては他の溶接条件Wrの表示を省略している。
【0065】
遠隔操作装置3は、記憶部32に記憶されている溶接条件Wrを、送信周期ごとに溶接条件設定信号として、無線通信によってワイヤ送給装置2に送信する。ワイヤ送給装置2は受信した溶接条件設定信号を増幅して、電力伝送線51,52を介した有線通信によって溶接電源装置1に送信する。
【0066】
溶接電源装置1は、ワイヤ送給装置2から受信した溶接条件設定信号に基づいて、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpを変更する。溶接電源装置1は、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpに基づいて制御される。
【0067】
また、溶接電源装置1は、記憶部12に記憶されている溶接条件パラメータWpを、送信周期ごとに溶接条件パラメータ信号として、電力伝送線51,52を介した有線通信によってワイヤ送給装置2に送信する。ワイヤ送給装置2は、受信した溶接条件パラメータ信号を無線通信によって遠隔操作装置3に送信する。
【0068】
遠隔操作装置3は、ワイヤ送給装置2から受信した溶接条件パラメータ信号に基づいて、記憶部32に記憶されている溶接条件パラメータWpを変更する。また、遠隔操作装置3は、所定のタイミング毎に判定処理を行う。すなわち、記憶部32に記憶されている溶接条件パラメータWpと溶接条件Wrとが一致するか否かを判別して、正しく通信されているかを判定する。遠隔操作装置3は、判定結果に応じて、表示部33に所定の表示を行い、報知部34に所定の報知をさせる。
図3の場合は、正しく通信されていると判定されて、表示部33に「通信状態:○」の表示がされており、報知部34による音声での報知はされていない。溶接作業者は、「通信状態:○」の表示により、表示部33に表示されている溶接条件Wrが溶接電源装置1の溶接条件パラメータWpとして正しく設定されていることを確認することができる。もし、「通信状態:×」と表示されていた場合は、表示部33に表示されている溶接条件Wrとは異なる内容で溶接電源装置1の溶接条件パラメータWpが設定されていることを、溶接作業者は認識することができる。
【0069】
本実施形態によると、遠隔操作装置3とワイヤ送給装置2とが無線通信を行い、ワイヤ送給装置2と溶接電源装置1とが電力伝送線51,52を介した有線通信を行う。遠隔操作装置3はワイヤ送給装置2の近くに位置するので、間に隔壁やほかの溶接システムなどが存在する可能性が少なく、無線通信に障害が発生しにくい。また、ワイヤ送給装置2と溶接電源装置1とは離れていても有線通信なので、通信に障害が発生しにくい。したがって、遠隔操作装置3が溶接電源装置1と直接無線通信を行う場合と比べて、通信に障害が発生しにくく、正確に通信を行うことができる。
【0070】
また、遠隔操作装置3は判定処理を行い、溶接電源装置1との間で正しく通信できなかった場合に、その旨を溶接作業者に知らせる。したがって、通信に障害が発生した場合に、そのまま溶接作業を開始して、溶接が不安定になって溶接品質が悪くなってしまうことを抑制することができる。
【0071】
なお、本実施形態においては、溶接条件が設定電圧および設定電流を含んでいる場合について説明したが、これに限られない。溶接条件は、設定電圧および設定電流のいずれか一方を含んでいなくてもよい。また、溶接条件が、設定電圧および設定電流のいずれも含まないようにしてもよい。例えば、溶接条件を、設定電圧、設定電流、その他の条件を組み合わせたパターンとして溶接電源装置1の記憶部12に記憶しておき、遠隔操作装置3とはパターンのナンバーだけを溶接条件として送受信するようにしてもよい。
【0072】
本実施形態においては、コイルによる磁気結合を利用して、通信部14および中継部23が通信信号を電力伝送線51,52に重畳し、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出する場合について説明したが、これに限られない。例えば、コンデンサによる電界結合を利用するようにしてもよい。また、電力伝送線51,52に並列に通信信号を入力するのではなく、電力伝送線51または52に直列に通信信号を入力するようにしてもよい。
【0073】
本実施形態においては、送給装置用電源部11が電源部21に直流電力を供給する場合、について説明したが、交流電力を供給するようにしてもよい。この場合、送給装置用電源部11は、整流回路111およびDC/DCコンバータ回路112に代えてトランスを備えるようにし、電力系統から入力される交流電力をトランスで降圧して出力するようにすればよい。一方、電源部21には、交流電力を直流電力に変換するための整流回路を設ける必要がある。また、溶接電源装置1に送給装置用電源部11を設けずに、電力系統からの交流電力を直接、電力伝送線51,52を介して電源部21に供給するようにしてもよい。
【0074】
本実施形態においては、溶接用電源部10および送給装置用電源部11が、電力系統から入力される交流電力を、それぞれ直流電力に変換して出力する場合について説明したが、これに限られない。溶接用電源部10と送給装置用電源部11とで、構成の一部を共有するようにしてもよい。例えば、
図2(b)に示すように、送給装置用電源部11に整流回路111を設けずに、溶接用電源部10の整流回路101の出力をDC/DCコンバータ回路112に入力するようにしてもよい。また、溶接用電源部10のトランス103の二次側に巻線を追加して電力を取り出し、整流して出力するようにしてもよいし、送給装置用電源部11を設けずに、溶接用電源部10の出力の一部を、電力伝送線51,52を介してワイヤ送給装置2に供給するようにしてもよい。
【0075】
本実施形態においては、溶接電源装置1がアークに直流電力を供給する直流電源である場合について説明したが、これに限られない。例えばアルミなどの溶接を行うために、溶接電源装置1を、交流電力を供給する交流電源としてもよい。この場合、溶接用電源部10にさらにインバータ回路を追加し、整流回路104から出力される直流電力を交流電力に変換して出力するようにすればよい。
【0076】
本実施形態においては、溶接システムA1が消耗電極式の溶接システムである場合について説明した。非消耗電極式の溶接システムの場合、ワイヤ電極を送給するためのワイヤ送給装置は必要ないが、溶加ワイヤを自動送給するためのワイヤ送給装置を用いる場合がある。この場合は、溶接システムA1と同様の構成になり、本発明を適用することができる。
【0077】
上記第1実施形態においては、溶接電源装置1と遠隔操作装置3とが、ワイヤ送給装置2が中継する通信のみを行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、溶接電源装置1と遠隔操作装置3とが直接通信も行うようにしてもよい。直接通信も行う場合を第2実施形態として、以下に説明する。
【0078】
図5は、第2実施形態に係る溶接システムA2の全体構成を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0079】
図5に示す溶接システムA2は、溶接電源装置1’が無線通信部15を備えており、無線通信部15が遠隔操作装置3の通信部36と直接無線通信を行う点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0080】
無線通信部15は、遠隔操作装置3との間で無線通信を行うためのものであり、アンテナを介して信号の送受信を行う。無線通信部15の通信方式は、無線通信であることを除いて、通信部14の通信方式と共通する。溶接電源装置1’は、遠隔操作装置3との通信において、2つの通信経路を有している。無線通信部15は、通信部14が中継部23を経由して遠隔操作装置3に送信する信号と同じ信号を、無線通信により遠隔操作装置3に直接送信する。また、遠隔操作装置3が送信する信号は、中継部23を経由して通信部14によって受信され、無線通信部15によっても受信される。通信部14が受信した信号と、無線通信部15が受信した信号とが一致する場合、いずれの通信経路でも通信障害が発生していないと考えることができる。
【0081】
制御部13’は、通信部14が受信した信号と無線通信部15が受信した信号の比較を行い、両者が一致する場合にのみ、当該信号を受け付けて処理を行う。一致しない場合は、当該信号の再送信を要求する。
【0082】
図6は、溶接電源装置1’の制御部13’が行う比較処理を説明するためのフローチャートである。当該比較処理は、溶接電源装置1’が起動されたときに開始される。
【0083】
まず、通信部14および無線通信部15が信号を受信したか否かが判別される(S11)。信号が受信されるまでステップS11の判別は繰り返され、信号が受信された場合(S11:YES)に、通信部14が受信した信号S
1が取得され(S12)、無線通信部15が受信した信号S
2が取得される(S13)。
【0084】
次に、信号S
1と信号S
2とが一致するか否かが判別される(S14)。一致する場合(S14:YES)、2つの通信経路のいずれにも通信障害が発生しておらず、受信された信号S
1および信号S
2は正しく通信されたものであると考えられるので、信号S
1(または信号S
2)に応じた処理が行われて(S15)、ステップS11に戻る。例えば、信号S
1,S
2が溶接条件設定信号であった場合、記憶部12の溶接条件パラメータWpが変更される。一方、一致しない場合(S14:NO)、2つの通信経路のいずれか一方または両方で通信障害が発生していると考えられるので、遠隔操作装置3に対して信号の再送信が要求されて(S16)、ステップS11に戻る。
【0085】
信号が受信された場合(S11:YES)に、信号S
1と信号S
2とが一致すれば(S14:YES)、処理が行われて(S15)、次の信号の受信待ち状態(S11)になる。信号S
1と信号S
2とが一致しなければ(S14:NO)、再送信が要求されて(S16)、再送信される信号を待つ(S11)。
【0086】
第2実施形態によると、溶接電源装置1’は2つの通信経路で受信された信号が一致する場合にのみ処理を行うので、通信障害が発生して正しく通信できていない状態で受信した信号に基づいて処理をしてしまうことを防止することができる。
【0087】
なお、
図6に示すフローチャートの場合、信号S
1と信号S
2とが一致するまで再送信が要求されるので、処理が行われるまでに時間がかかる場合がある。信号S
1と信号S
2とが一致しない場合でも、いずれか一方の通信経路では通信障害が発生していない場合がある。したがって、信号S
1と信号S
2との比較が所定回数行われても一致しない場合には、通信障害が発生していない可能性が高い通信経路の信号に基づいて処理を行うようにしてもよい。
【0088】
図7は、溶接電源装置1’の制御部13’が行う比較処理の別の実施例を説明するためのフローチャートである。
図7に示すフローチャートは、
図6に示すフローチャートに対して、ステップS21〜S24が追加され、ステップS15がS15’に変更されている。具体的には、比較回数Nをカウントして(ステップS23)、所定回数N
0を超えたか否かを判別し(S22)、超えた場合(S22:YES)には、信号S
1に応じた処理が行われる(S15’)。ステップS21およびS24は、比較回数Nを「1」に初期化するステップである。
【0089】
受信された信号S
1と信号S
2とが一致しなければ(S14:NO)、ステップS22,S16,S23,S11〜S14が繰り返され、比較回数Nがカウントされる。比較回数Nが所定回数N
0を超えた場合(S22:YES)、信号S
1に応じた処理が行われ(S15’)、比較回数Nが「1」に初期化されて(S24)、次の信号の受信待ち状態(S11)になる。
【0090】
無線通信部15が遠隔操作装置3との間で無線通信を行うのに対して、通信部14はワイヤ送給装置2との間で有線通信を行い、ワイヤ送給装置2と遠隔操作装置3とは近い位置で無線通信を行っている。したがって、通信部14が受信した信号S
1の方が無線通信部15が受信した信号S
2より信頼性が高い。よって、ステップS15’では、信号S
1に応じて処理を行うようにしている。
【0091】
この実施例の場合、信号S
1と信号S
2とが一致するまで再送信要求をする場合より信頼性は低くなるが、処理が行われるまでの時間を短縮することができる。なお、比較回数Nが所定回数N
0を超えた場合(S22:YES)に、遠隔操作装置3に注意を促すための信号を送信するようにしてもよい。当該信号を受信した遠隔操作装置3が注意を報知するようにすれば、溶接作業者に通信障害の可能性があることの注意を促すことができる。
【0092】
さらに別の実施例として、信号S
1と信号S
2とが一致しない場合に、再送信要求をせずに、信号S
1に応じた処理を行うようにしてもよい。この場合のフローチャートは、
図6に示すフローチャートにおいて、ステップS16をステップS15’に置き換えたものになる。この実施例の場合、さらに信頼性は低くなるが、処理が行われるまでの時間をさらに短縮することができる。
【0093】
また、遠隔操作装置3の制御部35にも同様の機能を持たせるようにしてもよい。すなわち、制御部35が、通信部36が無線通信部15から直接受信した信号と、中継部23で中継されてから通信部36が受信した信号との比較を行い、両者が一致する場合に当該信号を受け付けて処理を行い、一致しない場合には当該信号の再送信を要求するようにしてもよい。
【0094】
上記第1および第2実施形態においては、溶接電源装置1(1’)と遠隔操作装置3との通信の中継をワイヤ送給装置2が行う場合について説明したが、これに限られない。例えば、中継部を備える中継装置を別途設けるようにしてもよい。電力伝送線51,52の途中に中継装置を設けた場合を第3実施形態として、以下に説明する。
【0095】
図8は、第3実施形態に係る溶接システムA3の全体構成を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0096】
図8に示す溶接システムA3は、ワイヤ送給装置2’が溶接電源装置1と遠隔操作装置3との通信の中継機能を有しておらず、中継機能を有する中継装置7が電力伝送線51,52の途中に設けられている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0097】
ワイヤ送給装置2’は、中継部23の代わりに、溶接電源装置1との通信のみを行う通信部23’を備えている。溶接電源装置1と遠隔操作装置3との通信の中継は、中継装置7の中継部71が行う。
【0098】
中継部71は、第1実施形態に係るワイヤ送給装置2の中継部23が行う中継機能を備えている。すなわち、中継部71は、第1実施形態に係る中継部23と同様に、結合回路を備えており、通信信号を電力伝送線51,52に重畳し、電力伝送線51,52に重畳された通信信号を検出することで、電力伝送線51,52を介して、溶接電源装置1との間で有線通信を行う。また、中継部71は、アンテナ71aによって通信信号を電磁波として送受信することで、遠隔操作装置3との間で無線通信を行う。中継部71は、受信した信号を増幅して送信する。なお、受信した信号を増幅することなく、そのまま送信するようにしてもよいし、受信した信号を一旦復調して、所定の処理を行った上で再度変調して送信するようにしてもよい。
【0099】
中継装置7は、溶接電源装置1との間で電力伝送線51,52を介した有線通信を行い、遠隔操作装置3との間で無線通信を行う。また、中継装置7は中継機能を有する。中継装置7は、電力伝送線51,52の任意の位置に設けることができるが、遠隔操作装置3との間で無線通信を行いやすいように、できるだけ遠隔操作装置3に近い位置に設ける方がよい。なお、中継装置7は、電力伝送線51,52上で移動可能に配置されるようにしてもよい。第3実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0100】
上記第1ないし第3実施形態においては、専用の遠隔操作装置3を用いる場合について説明したが、これに限られない。例えば、遠隔操作装置3に代えて、タブレット端末やスマートフォンなどの携帯型端末を用いるようにしてもよい。携帯型端末に、遠隔操作装置3が有する機能を備えさせるためのアプリケーションをインストールする。携帯型端末はもともと、遠隔操作装置3の操作部31、記憶部32、表示部33、報知部34、通信部36に相当する機能を有している。アプリケーションをインストールして、携帯型端末の制御部を遠隔操作装置3の制御部35として機能させることで、携帯型端末を遠隔操作装置3の代わりに用いることができる。この場合、遠隔操作装置3を別途用意する必要がない。
【0101】
一般的に、携帯型端末には複数の通信方法(例えば、WiFi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、LTE(Long Term Evolution)、3G、赤外線通信など)が備えられている。ワイヤ送給装置2の中継部23(中継装置7の中継部71)にも複数の通信方法を持たせて、最も通信状態のいい通信方法に切り替えて、通信を行うようにしてもよい。この場合、通信方法の種類を気にすることなく、最適な方法で通信を行うことができる。
【0102】
また、
図1などにおいては記載していないが、溶接システムA1には、シールドガスをガスボンベから溶接トーチ6に供給するためのガス配管が備えられている。電力伝送線51,52を、このガス配管の内側に配置するようにしてもよいし、このガス配管と束ねるようにしてもよい。電力伝送線51,52をガス配管の内側に配置した場合を、第4実施形態として、以下に説明する。
【0103】
図9は、第4実施形態に係る溶接システムA4を説明するための図である。
図9(a)は、第4実施形態に係る溶接システムの全体構成を示している。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA1(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。なお、
図9(a)においては、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2の内部構成の一部の記載を省略している。また、遠隔操作装置3の記載も省略している。
図9(b)は、ガス配管9の断面図を示している。
【0104】
図9に示す溶接システムA4は、電力伝送線51,52がガス配管9の内側に配置されている点で、第1実施形態に係る溶接システムA1と異なる。
【0105】
ガス配管9は、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2を介して、ガスボンベ8と溶接トーチ6とを接続するものであり、ガスボンベ8のシールドガスを溶接トーチ6の先端に供給する。電力伝送線51,52は、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間で、ガス配管9の内側に配置されている。電力伝送線51,52は、ガス配管9に設けられた貫通孔からガス配管9の内側に引き込まれる。ガス漏れや水分の浸入を防ぐために、電力伝送線51,52を通した後の貫通孔を、密閉する必要がある。
【0106】
第4実施形態によると、電力伝送線51,52が、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続しているガス配管9の内側に配置されているので、電力伝送線51,52がガス配管9とは別に配置される場合と比べて、ワイヤ送給装置2を移動させる際の邪魔にならない。また、電力伝送線51,52は、ガス配管9に囲まれているので、外部からの衝撃を受けにくく、電力伝送線51,52が断線することを抑制することができる。
【0107】
なお、
図10に示す溶接システムA4’のように、電力伝送線52をパワーケーブル41に接続して、パワーケーブル41に電力伝送線52を兼用させるようにしてもよい。この場合、ガス配管9の内側に配置されるのは電力伝送線51のみでよくなる。ガス配管9の内側に配置される電力伝送線が1本だけであれば、
図10(b)に示すように、溶接電源装置1に設けられたガス配管用の接続金具1a(ワイヤ送給装置2に設けられたガス配管用の接続金具2a)をコネクタとして利用することで、電力伝送線51の配置を容易にすることができる。
【0108】
本発明に係る溶接システム、溶接システムの通信方法、および、中継装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る溶接システム、溶接システムの通信方法、および、中継装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。