【課題】熱伝導性及び耐摩耗性等の性能に優れると同時に、特に耐薬品性に優れる、実用上、極めて有用なアルミナ系の複合酸化物の提供、当該複合酸化物を各種の樹脂中に混合分散させることで樹脂や形成した塗膜の熱伝導性を改善させた熱伝導性樹脂組成物及び塗工液の提供、これらを用いた、熱伝導性及び耐摩耗性等の特性に優れると同時に、特に耐薬品性に優れる各種製品の提供。
【解決手段】樹脂中に混合分散させることで樹脂の熱伝導性を改善するための熱伝導性複合酸化物であって、少なくとも、アルミナ系化合物と、マグネシウム又は亜鉛の化合物とを主成分として含む原料を焼成して得られるMgAl
を主成分とするスピネル構造を有し、且つ、塩酸、硫酸、硝酸及び水酸化ナトリウムに対する耐薬品性試験における質量の変化率の絶対値がいずれも2%以下である熱伝導性複合酸化物、熱伝導性樹脂組成物及び塗工液。
前記アルミナ系化合物が、アルミナ、水酸化アルミニウム及びアルミナ水和物からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1又は2に記載の熱伝導性複合酸化物。
前記樹脂が、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアミド、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、及びウレタン樹脂からなる群から選択される少なくともいずれかである請求項4〜6のいずれか1項に記載の熱伝導樹脂組成物。
請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導性複合酸化物或いは請求項4〜8のいずれか1項に記載の熱伝導樹脂組成物を、樹脂及び/又は有機溶剤に添加してなることを特徴とする塗工液。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記した従来技術には下記の問題があった。特許文献1によって開示された酸化マグネシウムフィラーは、成形加工性、熱伝導性及び耐水性を改善した酸化マグネシウムフィラーであるが、硬度面を含め、全体的な物性が未だ不十分である。特許文献2によって開示された酸化マグネシウム粉末の充填剤は、耐湿性(耐候性)及び熱伝導性改善のために表面処理を行ったものであるが、その表面を形成する金属種が、マグネシウムとケイ素、或いは、マグネシウムとアルミニウムとの複合酸化物であり、下記の様々の課題がある。すなわち、耐水性改善の点から、ケイ素の使用は効果的であるものの、耐酸性は不十分である。更に、特許文献2におけるアルミニウム塩を使用した改善策は、硝酸アルミニウム等を使用した湿式法による酸化マグネシウムの表面改質に留まっている。従って、基材となる酸化マグネシウム本来の耐水性や耐酸性を改善するものではなく、改善策としては不十分である。また、十分な熱伝導性が得られない。この熱伝導性が十分でないという欠点を補うために多量のフィラー添加を行うと、成形性が損なわれるという別の問題が生じる。この点の課題解決に向けた対応策である特許文献3の技術は、様々なフィラーの特徴を活かそうとした方法ではあるものの、耐水性や熱伝導性を改善するには不十分である。
【0007】
本発明者らは、上記した従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、下記に述べるように、材料特性の一つである硬度面も、使用にあたっては極めて重要であるとの認識を持つに至った。具体的には、例えば、アルミナのような高硬度材料は、混練機や成形機及び金型の摩耗を生じるという点が問題となる。この問題点を改善するため、本発明者らは、アルミナよりも硬度が低く、スピネル構造を有する「耐摩耗性」に優れる複合酸化物に注目して開発を行った。
【0008】
その結果、まず、アルミナ系化合物と、アルミニウム以外の、マグネシウム、亜鉛、カルシウム及びストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の化合物とを主成分として含む原料を焼成して得られる、アルミニウム元素のモル数とアルミニウム以外の金属のモル数との比が0.1以上1.0以下であるスピネル構造を有する複合酸化物は、熱伝導率が高く、しかもモース硬度が9未満と、適度な硬度を有し、樹脂組成物のフィラーとして有用なものとなることを見出した。そして、実用に向けての更なる検討を進める過程で、上記条件を満足するスピネル構造を有する複合酸化物を樹脂中に混合分散させて熱伝導性樹脂組成物とし、これを種々の製品とした場合に、耐酸性等の耐薬品性においてまずまずの満足度のものにできるものの、更なる性能の向上が必要なケースがあるという新たな課題があることを認識した。
【0009】
従って、本発明の目的は、高い熱伝導性を持ち、従来技術において熱伝導材料として使用されているアルミナよりも硬度が低く、従来のアルミナ以外のフィラー材料において生じていた種々の課題が解決された、熱伝導性及び耐摩耗性等の性能に優れると同時に、特に耐薬品性に優れる、実用上、極めて有用な新規なアルミナ系の複合酸化物を提供することにある。更に、本発明の目的は、当該複合酸化物を樹脂中に混合分散させることで樹脂の熱伝導性を改善させた熱伝導性樹脂組成物にすることができると同時に、これを用いて形成することで、熱伝導性及び耐摩耗性等の特性に優れると同時に、特に、耐酸性及び耐アルカリ性の耐薬品性に優れる樹脂製品の提供を可能にできる、熱伝導性樹脂組成物及び塗工液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した従来技術の課題は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、樹脂中に混合分散させることで樹脂の熱伝導性を改善するための熱伝導性複合酸化物であって、少なくとも、アルミナ系化合物と、マグネシウム又は亜鉛の化合物とを主成分として含む原料を焼成して得られるMgAl
2O
4又はZnAl
2O
4を主成分とするスピネル構造を有し、且つ、塩酸、硫酸、硝酸及び水酸化ナトリウムに対する耐薬品性試験における質量の変化率の絶対値がいずれも2%以下であることを特徴とする熱伝導性複合酸化物を提供する。
【0011】
本発明の熱伝導性複合酸化物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。その形状が、球状、板状又は針状であること;前記アルミナ系化合物が、アルミナ、水酸化アルミニウム及びアルミナ水和物からなる群から選ばれる少なくともいずれかであることが挙げられる。
【0012】
本発明は、別の実施形態として、少なくとも、アルミナ系化合物と、マグネシウム又は亜鉛の化合物とを主成分として含む原料を焼成して得られるMgAlO
4又はZnAlO
4を主成分とするスピネル構造を有する熱伝導性複合酸化物を、樹脂中に混合分散させてなる熱伝導性樹脂組成物であり、且つ、該組成物の塩酸、硫酸、硝酸及び水酸化ナトリウムに対する耐薬品性試験における質量の変化率の絶対値がいずれも2%以下であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【0013】
本発明の熱伝導性樹脂組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記熱伝導性複合酸化物と樹脂との混合比率が、質量基準で、10:90〜90:10であること;前記熱伝導性複合酸化物の形状が、球状、板状又は針状であること;前記樹脂が、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA)、不飽和ポリエステル(UP)、シリコーン樹脂(SI)、エポキシ樹脂(EP)、及びウレタン樹脂(PU)からなる群から選択される少なくともいずれかであること;更に、前記熱伝導性複合酸化物とは異なる別の熱伝導性フィラーを含有してなることが挙げられる。
【0014】
本発明は、別の実施形態として、上記したいずれかの熱伝導性複合酸化物或いは上記したいずれかの熱伝導樹脂組成物を、樹脂及び/又は有機溶剤に添加してなることを特徴とする塗工液を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱伝導性複合酸化物は、従来のフィラーと異なり、表面処理等の改良策を必須とすることなく、また、他の材料を併用しなくとも単独使用によって、必要とする物性を樹脂に付与することが可能な優れたものである。更に、本発明で規定する熱伝導性複合酸化物を樹脂中に混合分散してなる熱伝導性樹脂組成物を利用することで、得られる製品は、熱伝導性及び耐摩耗性に優れると同時に、特に耐酸性及び耐アルカリ性の耐薬品性に優れ、薬品によって、塗膜、フィルム、成形物等の製品の成形性が損なわれるといった課題が解決されたものになる。具体的に述べれば、本発明の熱伝導性複合酸化物は、MgAl
2O
4又はZnAl
2O
4を主成分として含むスピネル構造を有するものであり、耐水性・耐酸性に劣る酸化マグネシウム又は酸化亜鉛と、モース硬度が9と高いアルミナの欠点が互いに補われ、耐水性・耐酸性が良好で、アルミナよりもモース硬度の低いスピネル構造の複合酸化物となっている。このため、本発明で規定する構成の熱伝導性複合酸化物を樹脂中に混合分散してなる熱伝導性樹脂組成物を利用することで、本発明者らの検討によれば、特に、塩酸、硫酸、硝酸及び水酸化ナトリウムに対する耐薬品性試験における質量の変化率の絶対値がいずれも2%以下である、優れた耐薬品性を示す製品の提供が可能になる。更に、本発明者らの検討によれば、より物性を充実する施策として、熱伝導性複合酸化物の形状を、球状、板状又は針状とすることにより、熱伝導性に異方性をなくす、或いは、持たせるといった機能性を付与した熱伝導性樹脂組成物とすることができる。また、本発明で規定する構成の熱伝導性複合酸化物は、耐薬品性が良好なことから、吸水性のある樹脂でも好適に配合することができ、機械的強度、耐熱性などの求める樹脂特性に応じて配合することができ、樹脂を選ばすに配合できる利点がある。このため、本発明で規定する構成の熱伝導性複合酸化物を樹脂中に混合分散してなる熱伝導性樹脂組成物は、多様な用途に適宜に適用可能な有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好ましい実施の形態を挙げ、本発明の熱伝導性複合酸化物の詳細について説明する。
本発明の熱伝導性複合酸化物は、少なくとも、アルミナ系化合物と、マグネシウム又は亜鉛の化合物とを主成分として含む原料を焼成して得られるMgAl
2O
4又はZnAl
2O
4を主成分とするスピネル構造を有し、且つ、塩酸、硫酸、硝酸及び水酸化ナトリウムに対する耐薬品性試験における質量の変化率の絶対値がいずれも2%以下であることを特徴とする。以下、本発明を構成する成分についてそれぞれ説明する。
【0017】
(アルミナ系化合物)
本発明の熱伝導性複合酸化物は、焼成する原料に、下記に説明するようなアルミナ等のアルミナ系化合物と、マグネシウム又は亜鉛を含む化合物を用いることで得られる、MgAl
2O
4又はZnAl
2O
4を主成分とするスピネル構造を有する複合酸化物である。以下に、本発明の熱伝導性複合酸化物を製造する際に好適に用いられるアルミナ(Al
2O
3)について説明する。アルミナは、耐熱性や化学安定性に優れ、アルミニウム塩、水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシドの熱分解、金属アルミニウムの酸化などで合成される。出発原料と焼成温度の違いから、異なった結晶組成(α、γ、η、θ、χ等)の中間アルミナが得られるが、最終的にはα−Al
2O
3となる。工業的なα−アルミナの製造方法は、原料であるボーキサイトから苛性ソーダ等のアルカリ溶液でアルミナ分を抽出し、アルミニウム水和物である水酸化アルミニウムとし、更にこれを焼成する方法である。上記のボーキサイトから苛性ソーダ溶液で水酸化アルミニウムを抽出する方法は、バイヤー法と呼ばれ、この方法によって製造される水酸化アルミニウムは、通常、3水和物であるギプサイト(A1
2O
3・3H
2O)である。一般によく知られているように、ダイアスポア以外のギプサイト、バイヤライト、ベーマイト〔一般式AlO(OH)で表される水酸化酸化アルミニウムを少なくとも90%含有した無機化合物である。〕等の水酸化アルミニウムや、アルミナゲル等の非晶質アルミナ水和物は、焼成により脱水し、η−アルミナ、χ−アルミナ、γ−アルミナ、κ−アルミナ、θ−アルミナ等々の種々の中間アルミナを経て、最終的には最も安定なα−アルミナになる。この遷移には、出発物質と焼成条件や雰囲気に固有の遷移系列があることもよく知られている。
【0018】
本発明者らは、その出発原料に、安定なα−Al
2O
3、遷移アルミナであるγ−アルミナ、θ−アルミナ、更に、ベーマイトまたは水酸化アルミニウムを使用することにより、容易に反応を制御でき、本発明が目的とするMgAl
2O
4又はZnAl
2O
4を主成分とするスピネル構造を有する熱伝導性複合酸化物とできることを確認した。また、出発原料に使用するアルミナ系化合物は、最終的に、得られる本発明の複合酸化物における強度や熱伝導性等の物性をも左右することが確認できた。本発明者らの検討によれば、使用するアルミナ系化合物は、粒子径が0.1〜100μmであることが好ましい。また、使用するアルミナ系化合物の形状は特に限定なく、目的に応じて、球状、板状、針状或いは無定形のものも使用できる。例えば、アスペクト比(長軸平均径/短軸平均径)が1に近い、球状のものを原料に使用すると、得られる複合酸化物の形状を球状とすることができ、アスペクト比が10以上のものを原料に使用すると、針状の複合酸化物ができることを確認している。すなわち原料のアルミナ系化合物を選択することにより目的の形状の複合酸化物を得ることができ、これらを単独、もしくは組み合わせて配合することにより、目的の特性を持つ熱伝導性に優れた熱伝導性樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0019】
(マグネシウム又は亜鉛の化合物)
本発明の熱伝導性複合酸化物は、出発原料に、上記で説明したようなアルミナ系化合物と組み合わせて、マグネシウム又は亜鉛の化合物を併用し、これらを焼成することで、本発明の効果を達成できる、MgAl
2O
4又はZnAl
2O
4を主成分とするスピネル構造を有する熱伝導性複合酸化物が得られる。本発明者らの検討によれば、複合酸化物の製造に際し、マグネシウム又は亜鉛は、酸化物、水酸化物或いは炭酸塩等の化合物として、前記したようなアルミナ系化合物の表面に形成される。合成原料に用いるマグネシウム又は亜鉛の化合物の種類は、合成方法に応じて選択することができるが、好ましくは、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、炭酸塩、塩基性炭酸塩、蓚酸塩及び酢酸塩等から選ばれる少なくとも1種である。
【0020】
(アルミニウムと、マグネシウム又は亜鉛との割合)
本発明の熱伝導性複合酸化物を調製する場合には、その原料の配合を、必須となるアルミニウムと、マグネシウム又は亜鉛の、原料中におけるそれぞれの金属元素の含有割合を、アルミニウムが50〜90モル%、マグネシウム又は亜鉛が10〜50モル%の範囲となるようにすることが好ましい。更に好ましくは、アルミニウムが60〜80モル%、マグネシウム又は亜鉛が20〜40モル%となるようにするとよい。例えば、アルミニウムが90モル%を超えると、MgAl
2O
4又はZnAl
2O
4を主成分とするスピネル構造の複合酸化物において、アルミナの性質が支配的となり、硬度が高くなる結果、製造装置の摩耗の問題が懸念されるので好ましくない。一方、例えば、原料の配合においてアルミニウムが50モル%よりも少ないと、当該原料を焼成すると、マグネシウム又は亜鉛が酸化物を形成し、その結果、耐水性、耐酸性、電気絶縁性等の諸物性に悪影響を及ぼすことが懸念されるので好ましくない。具体的には、本発明の熱伝導性複合酸化物を調製する場合における好適な原料の配合は、アルミナ系化合物のアルミニウム元素のモル数(a)と、マグネシウム元素又は亜鉛元素のモル数(b)との比が、(bモル)/(aモル)=0.25〜0.7の範囲となるように調整することが好ましい。
【0021】
上記したように、本発明の熱伝導性複合酸化物を調製する場合に使用する原料組成を、アルミニウムと、マグネシウム又は亜鉛との使用割合が上記の範囲にあると、焼成して複合酸化物を形成した場合に、安定して、耐水性、耐酸性、電気絶縁性に優れ、更に、強度を保ちつつ、合成樹脂等への配合後の成形性にも優れた複合酸化物とすることができるので、より好ましい。本発明者らの検討によれば、特に、原料組成における、アルミニウムと、マグネシウム又は亜鉛との原料の使用割合を上記の範囲として調製した本発明の複合酸化物は、単独の酸化物である、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、アルミナと比較しても、熱伝導性が良好であり、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛と比較しても耐水性、特に耐酸性に優れたものであった。
【0022】
(熱伝導性複合酸化物の性状)
本発明の熱伝導性複合酸化物は、MgAl
2O
4又はZnAl
2O
4を主成分として含むスピネル構造を有するため、これを合成樹脂等へ混合分散させてなる本発明の熱伝導性樹脂組成物を用いて形成した製品は、耐水性、電気絶縁性、耐磨耗性に優れ、特に、耐酸及び耐アルカリ性の耐薬品性に優れたものとなる。具体的には、後述するが、本発明の複合酸化物は、従来、フィラーに使用されている、酸化亜鉛やアルミナと比較しても、熱伝導性が良好であり、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛と比較しても、耐水性、耐酸性が優れたものとなる。
【0023】
(熱伝導性複合酸化物の表面改質)
本発明の熱伝導性複合酸化物においては、表面処理を行って、その表面を更に改質した形態も好ましく、その機能性がより向上したものとなる。具体的には、例えば、樹脂に添加した際に、表面処理を施すことで樹脂に対する親和性を向上させた複合酸化物は、複合酸化物の分散性を高める効果によって、熱伝導性をより良好なものとすることができる。
【0024】
表面処理に使用する化合物としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩、リン酸エステル、リン酸エステル金属塩、シランカップリング剤、界面活性剤、高分子凝集剤、チタネート及びシリコン等が挙げられ、これらの中から1種以上を選択することができる。これらの化合物の使用量としては、好ましくは複合酸化物に対して、0.01〜20質量%の割合で使用し、表面処理を行うことが好ましい。表面処理の方法としては、特に限定されず、例えば、90℃以上の水に溶解したステアリン酸ナトリウムの水溶液を、複合酸化物をホモミキサーにて解膠した懸濁液中に滴下し、複合酸化物表面にステアリン酸を析出させることによって行うことができる。
【0025】
(熱伝導性複合酸化物の製造方法)
次に、本発明の熱伝導性複合酸化物の製造方法について説明する。本発明の熱伝導性複合酸化物を製造する方法には、湿式法と乾式法があり、どちらも十分な物性の熱伝導性複合酸化物が得られる。しかし、例えば、より高い熱伝導性効果を追求するための施策として、湿式法を用いることで、より均一性に優れた複合酸化物とすることができ、耐薬品性で安定した品質を示すものとできる。また、焼成温度も低く設定できることで、燃料消費が少なくエネルギー効率が高くなる。
【0026】
本発明の熱伝導性複合酸化物を製造する方法としては、下記のような湿式法を用いることが好ましい。具体的には、例えば、アルミナ系化合物の懸濁水溶液に、マグネシウム又は亜鉛の化合物の水溶液とアルカリ剤を同時に添加して、アルミナ系化合物の表面に沈殿物を析出させて前駆体を生成させる工程と、生成した前駆体を焼成し、その後に焼成物を粉砕処理することで優れた性状のものが得られる。より具体的には、まず、本発明の熱伝導性複合酸化物を構成する主成分金属を含む原料として、アルミナ系化合物と、マグネシウム又は亜鉛の化合物として、例えば、マグネシウム又は亜鉛の、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、及び酢酸塩等を使用し、アルミナ系化合物を水中に懸濁させ、そこに、上記から選択されるようなマグネシウム又は亜鉛の化合物を含有する水溶液をアルカリと共に滴下し、アルミナ上に沈殿物又は共沈物を析出させるとともに、前駆体を生成させる。次に、濾過乾燥により生成した前駆体を焼成した後に粉砕処理することで、スピネル粉体を得る。そして、このようにして得られたスピネル粉体を樹脂中に練りこむことにより、樹脂に高い熱伝導性を持たせることが達成される。
【0027】
上記で使用するアルミナ系化合物としては、先に挙げたように、ベーマイト等が使用できる。ベーマイトは、AlO(OH)で表される含水化合物であるが、擬ベーマイトとして知られている含水量の多いタイプのものでも同様に使用できる。また、水酸化アルミニウムや、遷移アルミナとして知られるγ−アルミナやθ−アルミナ、安定なα−アルミナをアルミニウム源として使用しても、ベーマイトを用いた場合とほぼ同等のスピネル粉体を得ることができる。
【0028】
上記の製造方法において重要な点は、前駆体としてアルミナ系化合物の表面上に、マグネシウム又は亜鉛の沈殿物を形成することにあり、このためには、上記の沈澱法(共沈法)以外にもアルカリ源となる物質を液中で分解してアルカリを生じさせて沈殿を形成する均一沈殿法や、水酸化物の懸濁液中に炭酸ガスを吹き込み炭酸塩の沈殿を形成するガス法等、一般的に利用される合成法であればいずれも適用可能である。
【0029】
先に述べたように、本発明の熱伝導性複合酸化物は、上記した湿式法に限らず、下記のような乾式法によっても製造することもできる。具体的には、原料となるアルミナ系化合物として、アルミナ、ベーマイト、または、遷移アルミナと、マグネシウム又は亜鉛を含有する、酸化物、水酸化物又は炭酸塩等の化合物を用い、その所定量をミキサーにて混合し、得られた混合物を600℃以上の温度で焼成した後、粉砕処理することで、目的とするスピネル粉体を得ることができる。ただし、ミキサー混合時に、アルミナ系化合物の形状が壊れるおそれがあるため、混合条件には注意が必要である。また、混合は一般に空気中で行うが、水、アルコール等の溶媒を用いて混合を行うこともできる。このようにして得られたスピネル粉体は、単独の酸化物の、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、アルミナと比較しても、熱伝導性は良好で、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛と比較しても、耐水性、耐酸性が優れるものとなる。本発明者らの検討によれば、湿式法と乾式法を比較した場合、乾式法は簡便で多量に合成するのに適した方法であるのに対し、湿式法は均質性に優れた高品位のものを合成するのに適した方法である。従って、本発明の熱伝導性複合酸化物は、目的に応じて、これらの方法を適宜に使い分けて製造することが好ましい。
【0030】
本発明の熱伝導性複合酸化物を製造する方法として特に有用な湿式法としては、アルミナ系化合物の懸濁液中に、マグネシウム又は亜鉛を含む化合物の水溶液と、アルカリ剤を同時に添加して沈殿物を析出させて前駆体を生成させる工程(1)と、生成した前駆体を、例えば、600〜1500℃で焼成した後に粉砕処理する工程(2)とを有する方法が挙げられる。以下、本発明の複合酸化物を得るために好適な湿式製造法の詳細について説明する。
【0031】
上記工程(1)では、まず、アルミナ系化合物の懸濁液と、マグネシウム又は亜鉛を含有する化合物を溶かした水溶液を調製する。該化合物としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、及び酢酸塩等の工業用として一般的に使用されている塩類や塩化物等を用いることができる。上記水溶液中のマグネシウム又は亜鉛の塩や塩化物(以下、まとめて「金属塩」とも呼ぶ)の濃度は、約0.1〜10モル/リットルとすることが適当である。金属塩の水溶液は、例えば、沈殿剤である炭酸ナトリウム等のアルカリ水溶液とともに、予め用意した沈殿媒体中に同時に滴下される。金属塩換算の反応濃度は、沈殿生成物(共沈殿物)に対して特に悪い影響を及ぼす程度ではなければよいが、作業性及びその後の工程を考慮すると、0.05〜1.0モル/リットルとすることが好ましい。0.05モル/リットル未満であると、収量が少なくなるため好ましくない。一方、1.0モル/リットルを超えると、合成物が不均一になる場合がある。共沈殿物を析出させる温度(合成温度)は、湿式法における通常の温度とすればよい。具体的には、0〜100℃で共沈殿物を析出させる(合成する)ことが好ましい。
【0032】
上記したように、金属塩の水溶液と、沈殿剤であるアルカリ剤の水溶液を同時に添加して、アルミナ系化合物の懸濁液に加えて共沈殿物を析出させる際には、そのpHを5〜12の範囲とすることが好ましい。すなわち、共沈殿物が析出する際のpHが12を超えると、アルミナ系化合物の表面が溶解するおそれがあるので、組成が目的のものと異なってしまうおそれがあるので好ましくない。一方、沈殿物(共沈殿物)が析出する際のpHが5未満でも、同様に成分金属が沈殿物を形成しなくなるおそれがあるので好ましくない。
【0033】
上記した工程(2)では、析出した前駆体を水洗及び乾燥する。水洗することで、合成中に副生した水溶性の塩を除去することができる。水洗は、濾液の電気伝導率が、1000μS/cm以下となるまで行うことが好ましく、500μS/cm以下となるまで行うことが更に好ましい。濾液の電気伝導率が上記の範囲を超える時、焼成物に不均一が生ずる場合があり、また焼成時に残留した塩が分解し、有毒なガスを生じるおそれもあるため、好ましくない。
【0034】
更に、上記工程(2)では、水洗及び乾燥した前駆体を、例えば、600〜1500℃、より好ましくは、1000〜1500℃の温度で焼成する。焼成することで前駆体を結晶化させることができる。焼成温度が上記の温度範囲よりも低いと、本発明が目的としているスピネル構造を形成しにくくなるので好ましくない。一方、焼成温度を上記の温度範囲よりも高くしても生成物に大きな変化がないため、エネルギーを無駄に消費することになり、経済的な面で好ましくない。焼成後は、焼成により副生した水溶性の塩を除去するために水洗することが好ましい。水洗は、濾液の電気伝導率が500μS/cm以下となるまで行うことが好ましい。その後、約120℃で約12時間程度乾燥することが好ましく、これにより、本発明の熱伝導性複合酸化物を安定して得ることができる。このようにして得られる本発明の複合酸化物を、例えば、粉末X線回折により分析すれば、スピネル構造を有する異相のない単一化合物であることを確認することができる。
【0035】
(フィラー)
本発明の熱伝導性複合酸化物は、先に述べたような製造方法によって、球状、板状、針状、などの形態のものを容易に得ることができ、これらはいずれも、熱伝導性を付与する目的のフィラーとして有用である。一般に、熱伝導性フィラーの使用は、配合量が増加するとともに、溶融流動性と同時に機械的強度の低下が課題となっている。例えば、カーボン系フィラーの使用は、導電性があるために樹脂本来の特徴である絶縁性を損ない、セラミック系のものは、絶縁性を持つものの熱伝導性が損なうなどの問題がある。熱伝導性フィラーには、金属系、無機化合物、炭素系フィラー等のものがあるが、例えば、電気絶縁性が求められる電子機器等では、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンド等の材料からなるものが好ましいとされている。ところが、これらのフィラーの添加は、耐水性、特に耐酸性、硬度(耐摩耗性)、電気絶縁性の部分で課題が多い。
【0036】
これに対し、本発明の熱伝導性複合酸化物は、このような従来の各種フィラーの弱点を改善した特性を有していることから、改良フィラーとして有効に使用できる。更に、既存の熱伝導性フィラーの弱点を補う目的から、上記に挙げたような従来のフィラーと共に利用し、双方を組み合わせた使用も好ましい使用方法である。すなわち、本発明の熱伝導性複合酸化物に加え、使用目的とする特性に応じて、従来公知のフィラーを更に含有させた形態としてもよい。
【0037】
(塗工液)
本発明の熱伝導性複合酸化物は、塗料等の塗工液に添加して用いることができる。本発明の熱伝導性複合酸化物を添加して塗工液とする場合、上記したいずれかの熱伝導性複合酸化物を、少なくとも樹脂及び/又は有機溶剤に添加することで構成する。より好適には、本発明の熱伝導性複合酸化物と共に、例えば、その他の着色剤、被膜又は成形物の形成用の樹脂や有機溶剤等をビヒクル内に混合及び分散させて得られる着色用製剤を利用する形態とすることもできる。本発明の塗工液に含有させる複合酸化物の割合は、塗工液全体100質量部当たり5〜80質量部であることが好ましく、10〜70質量部であることが更に好ましい。このようにして調製される本発明の塗工液を用いて形成した塗工被膜や塗工成形物は、耐水性、耐酸性、電気絶縁性に優れ、更に強度を保ちつつ、熱伝導性にも優れたものとなる。
【0038】
塗工液に含有させることのできる樹脂の種類は特に限定されず、用途に応じて適宜に選択することができる。樹脂の具体例としては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリスチレン系、アクリル系、フッ素系、ポリアミド系、セルロース系、ポリカーボネート系、ポリ乳酸系の熱可塑性樹脂;ウレタン系やフェノール系の熱硬化性樹脂等を挙げることができる。
【0039】
塗工液に含有させることのできる有機溶剤の種類は特に限定されず、従来公知の有機溶剤を用いることができる。有機溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ブチルアセテート、シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0040】
塗工液には、用途に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で「その他の成分」を適宜選択して含有させることができる。「その他の成分」の具体例としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、殺菌剤等を挙げることができる。
【0041】
上記のようにして構成した本発明の塗工液を塗工する方法としては、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、スプレー塗装、ハケ塗り、静電塗装、カーテン塗装、ロールコータを用いる方法、浸漬による方法等を挙げることができる。また、塗工した塗工液を被膜とするための乾燥方法としても、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、自然乾燥、焼き付け等の方法を、塗工液の性状等に応じて適宜選択して採用すればよい。
【0042】
本発明の熱伝導性複合酸化物を添加した塗工液を用いることで、各種の基材上に塗工して得られる機能性に優れる塗工被膜や塗工成形物を作製することができる。この際に用いる基材材料としては、金属、ガラス、天然樹脂、合成樹脂、セラミックス、木材、紙、繊維、不織布、織布、及び皮革等が挙げられ、これらを用途に応じて適宜に選択することができる。なお、このようにして機能性が付与された塗工被膜は、家庭用以外にも、工業、農業、鉱業、漁業等の各産業に利用することができる。また、塗工形状にも制限はなく、シート状、フィルム状、板状等、用途に応じて選択することができる。
【0043】
(熱伝導性樹脂組成物)
次に、本発明の熱伝導性樹脂組成物について説明する。本発明の熱伝導性樹脂組成物は、少なくとも、アルミナ系化合物と、マグネシウム又は亜鉛の化合物とを主成分として含む原料を焼成して得られるMgAlO
4又はZnAlO
4を主成分とするスピネル構造を有する熱伝導性複合酸化物を、マトリックスとなる樹脂中に混合分散させてなる熱伝導性樹脂組成物であり、且つ、該組成物の塩酸、硫酸、硝酸及び水酸化ナトリウムに対する耐薬品性試験における質量の変化率の絶対値がいずれも2%以下であることを特徴とする。先に説明したMgAl
2O
4又はZnAl
2O
4を主成分とするスピネル構造を有する熱伝導性複合酸化物は、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等の種々の合成樹脂へ添加することで、樹脂に高い熱伝導性を付与することができる。特に、熱可塑性樹脂へ添加した場合においては、従来の熱伝導性フィラーを用いた場合よりも射出成形等による成型性の自由度が高くなり、この点で好ましい。
【0044】
上記において使用する熱可塑性樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂等のポリエチレン樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド(PA、ナイロン)樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂等が挙げられる。そして、目的に応じて、これらから選択される少なくとも1種を使用することができる。
【0045】
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル(UP)樹脂等が挙げられる。そして、目的に応じて、これらから選択される少なくとも1種を使用することができる。
【0046】
本発明では、上記した樹脂の中でも、特に、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミド(PA)、不飽和ポリエステル(UP)、シリコーン樹脂(SI)、エポキシ樹脂(EP)、及びウレタン樹脂(PU)からなる群から選択される少なくともいずれかをマトリックス樹脂に用い、本発明で規定する熱伝導性複合酸化物を混合分散させた樹脂組成物とすることが好ましい。これらの樹脂は、その高い凡用性や機能性から、広範な用途に用いられているが、上記樹脂組成物とすることで、より高い熱伝導性が付与され、特に、耐溶剤性に優れる、より有用な材料となる。
【0047】
本発明で規定する熱伝導性複合酸化物は、上記したようなマトリックス樹脂に配合添加して機能性に優れる本発明の熱伝導性樹脂組成物とできるが、該樹脂組成物は、公知の方法に準じ、更に必要に応じて他の添加剤と共に配合混合されて、押出成形機に供して所定の樹脂成形物品に成形することができる。本発明の熱伝導性樹脂組成物における熱伝導性複合酸化物とマトリックス樹脂との混合比率は、質量基準で、10:90〜90:10であることが好ましく、より好ましくは30:70〜85:15、最も好ましくは50:50〜80:20である。このようにして得られる本発明の熱伝導性樹脂組成物は、耐水性、絶縁性、特に耐酸性等の耐薬品性に優れ、更に、強度を保ちつつ、押出成形機に供される配合混合後の樹脂成形性にも優れている。その使用量が前記範囲を上回ると、強度低下や、成形加工性の低下を起こすことが懸念され、下回った場合には、熱伝導性が劣る傾向があるので好ましくない。
【0048】
樹脂への熱伝導性複合酸化物の添加方法は特に限定するものではなく、従来公知の方法を用いることができる。例えば、樹脂に直接配合し、混練、成形加工する方法の他、予め樹脂成分、滑剤等に高濃度で分散しておいたマスターバッチ等の組成物を使用する方法が挙げられる。先に述べたように、樹脂組成物中の複合酸化物の含有率は10〜90質量%であるが、その他の添加剤として必要に応じ、酸化防止剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、抗菌剤、安定剤、架橋剤、可塑剤、潤滑剤、離型剤、難燃剤、タルク、アルミナ、クレー、シリカ等の無機充填剤を配合することができる。同時に、その分散助剤として、金属石けん類、ポリエチレンワックス等が用いられる。金属石けんとしては、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸コバルト等が挙げられる。また、ポリエチレンワックスとしては、一般重合型、分解型、変成形等の各種ポリエチレンワックスが用いられる。
【0049】
更に、本発明で規定する熱伝導性複合酸化物を利用した前述の塗工液や、上記の熱伝導性樹脂組成物は、通常、白色か淡色であるので、着色剤を添加して、種々に着色された樹脂組成物とすることができる。この際に使用する着色剤としては、各種の有機顔料及び無機顔料を使用することができる。更に、種々に着色された樹脂組成物は、例えば、各種顔料、添加剤等を配合したマスターバッチコンパウンドとし、押出機で溶融混練する方法から得ることができる。具体的には、コンパウンド用の樹脂に、本発明で規定する熱伝導性複合酸化物と分散助剤とを配合し、更に必要に応じて先に挙げたその他の添加剤を添加して、ヘンシェルミキサー等の混合機にて混合するか、混合物を更にニーダーや加熱二本ロールミルで混練し、冷却後、粉砕機で粉砕して粗粉状にするか、押出成形機に供し、押出成形して、ビーズ状、柱形状に成形する方法により得ることができる。成形に用いられる方法は、特に限定はなく、例えば、射出成形、押出成形、加熱圧縮成形、ブロー成形、インフレーション成形、真空成形等の方法により得られる。
【0050】
本発明で規定する熱伝導性複合酸化物は、特に熱伝導性及び耐薬品性等に優れることから、樹脂に混合分散させて塗工液や樹脂組成物とし、これを用いることで、放熱性と同時に、優れた耐酸性、耐湿性を有する電子デバイスとしても使用できる。例えば、金属回路基板、回路基板、金属積層板、内層回路入り金属張積層板等に利用でき、接着性シートあるいは放熱シート、半導体封止剤、接着剤又は放熱スペーサー、放熱塗料、グリース等として使用できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を更に具体的に説明する。なお、以下の文中、「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0052】
[実施例1]
下記のようにして、湿式法にて、本発明の実施例のスピネル構造を有する複合酸化物であるスピネル粉体を作製した。まず、アルミナ系化合物(a)として、α−アルミナ粉末(α−Al
2O
3)100部(0.98モル)を、水3リットル中に撹拌しながら加え、α−アルミナ粉末の懸濁液とした。この際に使用したα−アルミナ粉末には、平均粒子径約16.7μmの球状のものを使用した。次いで、Mg塩又はZn塩(b)として、塩化マグネシウム6水塩(モル質量203.3、表中は「塩化Mg」と略記)200部(0.98モル)を、水200部中に溶解し、塩化マグネシウム水溶液を作製した。また、無水炭酸ナトリウム130部を、水200部中に溶解してアルカリ水溶液を作製した。そして、先に調製したα−アルミナ粉末の懸濁液を撹拌しつつ70℃に加熱し、pH8に調整しつつ、先に調製したマグネシウム水溶液とアルカリ水溶液を滴下した。滴下が終了したら、懸濁液を80℃に加熱し、加温した状態で1時間保持した。その後、懸濁液をデカンテーションにより水洗し、電気伝導度が500μS/cm以下になった段階で濾過した。得られた濾過物を120℃にて乾燥した後、乾燥物を空気中1300℃で5時間焼成した。そして、得られた焼成物を粉砕し、本実施例のスピネル粉体「A−1」を得た。得られたスピネル粉体「A−1」について、平均粒子径、形状、モース硬度、耐水性、電気絶縁性及び熱伝導率をそれぞれ後述する方法で測定し、表1に示した。熱伝導率については、PPにスピネル粉体「A−1」を、50%又は70%含有させた試料を調製して測定した。耐薬品性の評価及び結果については後述する。
【0053】
[実施例2〜5]
アルミナ系化合物(a)とMg塩又はZn塩(b)の種類を、実施例1で使用したα−アルミナと塩化マグネシウムに替えて表1に記載のものにした以外は、実施例1と同様にして、実施例2のスピネル粉体「A−2」、実施例3のスピネル粉体「B−1」、実施例4のスピネル粉体「A−3」、実施例5のスピネル粉体「A−4」を得た。得られたこれらのスピネル粉体についても、実施例1と同様に、平均粒子径、形状、モース硬度、耐水性、電気絶縁性及び熱伝導率を測定し、表1中にまとめて示した。
【0054】
【0055】
[評価方法]
上記で得た実施例1〜5の各スピネル粉体についての評価として表1に示した、平均粒子径、形状、モース硬度、耐水性及び電気絶縁性、熱伝導率は、それぞれ下記の方法で測定した。表1中には、これらの評価結果と、実施例1〜5の各スピネル粉体についての組成を合わせて示した。実施例1〜5の各スピネル粉体についての熱伝導率と耐薬品性と耐摩耗性は、各スピネル粉体を樹脂中に練り込み成型した後、得られた成型物における熱伝導率と耐薬品性及びと耐摩耗を下記の方法で測定し、それぞれ評価した。実施例1〜5の各スピネル粉体についての耐薬品性と耐摩耗性の結果については、表2にまとめて示した。また、熱伝導率についての結果は、表1と表2中に示した。更に、耐薬品性と熱伝導率と耐摩耗性については、後述するように、比較例を挙げて更に詳細に検討した。
【0056】
(数平均粒子径・形状)
スピネル粉体(複合酸化物)の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真から抽出した画像より、無作為に選択した50点の数値を平均した数平均粒子径である。表1中に示した形状は、抽出した透過型電子顕微鏡写真の50点について短軸長と長軸長をそれぞれ測定し、平均値をそれぞれ算出し、(長軸平均長/短軸平均長)の数値が1に近似できるものを球状と判定し、この数値が2/1以上のものを板状又は針状と判定し、その中で10/1以上であるものを針状と判定した結果である。表1中に示した数平均粒子径は、それぞれ測定した短軸長と長軸長の全平均値である。
【0057】
(硬度測定(モース硬度))
スピネル粉体(複合酸化物)の硬度の測定は、1〜10のモース硬度に準拠した比較測定により行って、その値を表1に示した。具体的には、測定物質を、既知のモース硬度値を有する表面平滑な2つの鉱物体の間にて摺合せ、表面状態によって確認した。本発明で規定する熱伝導性複合酸化物は、製造装置への摩耗の問題を考慮すると、このモース硬度が9未満であることが好ましい。すなわち、モース硬度が9のアルミナでは、先に述べたように、従来、硬度が高過ぎて製造装置の摩耗の問題等を生じていたからである。従って、本発明で規定する熱伝導性複合酸化物で所望する、より好ましいモース硬度としては、8以下、更には7以下程度のものである。
【0058】
(耐水性)
スピネル粉体(複合酸化物)を5部用い、純水100部に浸漬し、容器に入れて100℃で5分間煮沸した後、濾過し、その濾液を測定用試料とした。上記のようにして調製した測定用試料を用い、電気伝導度計にて電気伝導度を測定し、下記の基準で耐水性を評価した。評価の結果を表1に示した。
【0059】
<耐水性の判定基準>
◎:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の上昇が100μS/cm未満
○:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の低下が、100μS/cm以上、300μS/cm未満
△:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の低下が、300μS/cm以上、1000μS/cm未満
×:浸漬前の初期値からの浸漬後の電気伝導度の低下が1000μS/cm以上
【0060】
(電気絶縁性)
スピネル粉体(複合酸化物)をアルミニウム製リング中に充填後、油圧プレスにて20MPaで加圧成型して測定用試料を調製した。この測定用試料を用い、電気抵抗率計にて電気体積抵抗値の測定を行い、得られた測定値を用い、下記の基準で判定し評価した。評価の結果を表1に示した。
【0061】
<電気絶縁性の判定基準>
◎:10
10Ω・cm以上
○:10
5Ω・cm以上〜10
10Ω・cm未満
△:10Ω・cm以上〜10
5Ω・cm未満
×:10Ω・cm未満
【0062】
(熱伝導率)
実施例1〜5のスピネル粉体(複合酸化物)の熱伝導率は、下記のようにして測定した。マトリックス樹脂としてポリプロピレン(プライムポリマー社製;MFR(Melt flow rate)20g/10min)を用い、該樹脂に各スピネル粉体(複合酸化物)を50%又は70%の2種類の配合で含有させて、縦20mm×横20mm×高さ60mmの金型を用い、評価用の試験片をそれぞれ作製した。具体的には、設定温度200℃のプラストミルで上記原料を溶融混練し、175℃で、金型プレス成型を行って、評価用の試験片を作製した。そして、得られた試験片の熱伝導率を、京都電子工業株式会社製TPS−2500Sを用いて測定し、測定値を表1に示した。なお、表1中の上段の値は、スピネル粉体(複合酸化物)の含有量が50%の樹脂組成物を用いて調製した試験片(表中に「50%含有」或いは「50%」と表示)についてのものであり、表1中の下段の値は、複合酸化物の含有量が70%の樹脂組成物を用いて調製した試験片(表中に「70%含有」或いは「70%」と表示)についてのものである。
【0063】
また、実施例1〜5のスピネル粉体(複合酸化物)に替えて、比較用1〜4のフィラーとして、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素をそれぞれに50%と70%の2種類で含有させた比較用の試験片を作製し、熱伝導率を測定した。そして、これらのフィラーを用いた比較例1〜4の結果は、実施例1〜5と併せて表2中に示した。
【0064】
更に、マトリックス樹脂を、上記したポリプロピレン(PP)から、ポリアミド(ナイロン樹脂、PA)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)に替えた試験片は、それぞれ以下の製造条件で作製した。
(a)ポリアミド(ナイロン66)
プラストミルの設定温度を270℃とし、プレス成型温度を270℃として作製した。
(b)高密度ポリエチレン(MFR:7.0g/10min)
プラストミルの設定温度を200℃とし、プレス成型温度を170℃として作製した。
(c)ポリフェニレンスルフィド(融点278℃)
プラストミルの設定温度を320℃とし、プレス成型温度を310℃として作製した。
(d)液晶ポリマー(融点290℃)
プラストミルの設定温度を360℃とし、プレス成型温度を340℃として作製した。
【0065】
上記した各製造条件で、マトリックス樹脂としてポリプロピレンを使用した先に説明した場合と同様にして、マトリックス樹脂を変更し、実施例2のスピネル粉体(A−2)及び、比較例1(アルミナ)、比較例2(酸化マグネシウム)をそれぞれ、50%と70%の2種類の配合で含有させた試験片を作製し、得られた試験片について、それぞれ熱伝導率を測定した。そして、これらの各樹脂に替えた試験片における熱伝導率測定結果を表3に示した。
【0066】
また、マトリックス樹脂を、熱硬化型の樹脂である不飽和ポリエステル(UP)に替えた試験片は以下の方法で作製した。不飽和ポリエステル(ジャパンコンポジット社製)に対し、実施例2のスピネル粉体(A−2)及び、比較例1(アルミナ)、比較例2(酸化マグネシウム)をそれぞれに50%と70%の2種類で含有させた樹脂組成物を、ディゾルバーで混合した後、硬化剤を添加し、再度ディゾルバーで混合したものを150℃で金型プレスを行って試験片を作製し、ポリプロピレンを使用した際と同様にして熱伝導率を測定した。更に、不飽和ポリエステル(UP)をウレタン樹脂(PU)、シリコーン樹脂(SI)、エポキシ樹脂(EP)に替えた試験片は以下の方法で作製した。ウレタン樹脂については80℃で1時間静置させ硬化、シリコーン樹脂は160℃で金型プレスを行い硬化、エポキシ樹脂は130℃で15分間静置させ硬化し試験片を作製し、ポリプロピレンを使用した際と同様にして熱伝導率を測定した。熱伝導率の測定結果を表3及び4に示した。
【0067】
(耐薬品性)
実施例1〜5の各スピネル粉体(複合酸化物)と、熱伝導率を比較するために使用したフィラーと同様の、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素をそれぞれに用い、マトリックス樹脂中にフィラー濃度が70%となるように配合して練り込み、熱伝導性樹脂組成物からなる試験片を作製し、得られた試験片を用いて、JIS K7114の「プラスチック−液体薬品への浸漬効果を求める試験方法」に準じて、各種の薬品に対する耐薬品性の試験を行い、評価した。なお、耐薬品性については、マトリックス樹脂にポリプロピレン(PP)を用いて詳細な検討を行った後、更に、先に用いた、ポリアミド(PA)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、不飽和ポリエステル(UP)、ウレタン樹脂(PU)、シリコーン樹脂(SI)、エポキシ樹脂(EP)の各樹脂をマトリックスに用いて得たそれぞれの樹脂組成物について、上記と同様にして耐薬品性を評価した。
【0068】
<評価用の試料の作製>
実施例1〜5の各スピネル粉体(複合酸化物)と、上記した比較用の各フィラーをそれぞれ用い、マトリックス樹脂にポリプロピレン(PP)を用い、以下のようにしてフィラーの異なる評価用の試験片をそれぞれ作製した。具体的には、ポリプロピレン(プライムポリマー社製;MFR(Melt flow rate)20g/10min)に、フィラー濃度が70%となるように配合し、設定温度200℃のプラストミルで溶融混練し、175℃で金型プレス成型を行い、熱伝導性樹脂組成物からなる成型体を得た。そして、得られた成型体から、厚さ1mmの40mm角のシートを切り出して評価用の試料を作製した。また、用いるフィラーを、実施例1〜5の各スピネル粉体(複合酸化物)に代えて、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛及び窒化ホウ素をポリプロピレンに配合した以外は、上記と同様にして試験片を得、比較例1〜4の評価用の試料を調製した。
【0069】
上記で調製した、PP中にフィラー濃度が70%となるように配合された実施例及び比較例の評価用の各試料(厚さ1mmの40mm角シート)を、5%の、塩酸、硫酸、硝酸及び水酸化ナトリウムのそれぞれの水溶液に浸漬させ、1日1回撹拌し1週間静置した。浸漬前後における角シートの重さを測定し、重さの変化率を算出し、その変化率の絶対値がいずれも2%以下であるか否かで、各薬品に対する耐薬品性の良否を判定した。そして、表2中に、各溶液に浸漬した場合に生じた重さの変化率(%)の実測値と、2%以下を○とし、2%超を×として、評価結果を示した。
【0070】
(耐摩耗性)
表2中に、耐摩耗性の試験結果を示した。具体的には、ラボプラストニーダーで溶融混練したサンプルを熱プレスして1mm厚のシート状に成形したものを目視により相対的に評価した。評価結果は、フィラー色のままなら○、薄いグレー色のものを△、濃いグレー色のものを×で示した。
【0071】
(マトリックス樹脂の違いによる耐薬品性)
フィラーとして、比較例1で使用したアルミナ、比較例2で使用した酸化マグネシウム及び実施例2で使用したA−2のスピネル粉体(複合酸化物)をそれぞれ用い、先に説明した各種マトリックス樹脂を使用した際の熱伝導率評価用の試験片作成法に従って試験片を作製した。但し、試験片は、いずれも厚さ1mmの40mm角シートとした。そして、先に説明した同様の方法で耐薬品性試験を行った。具体的には、HDPE(高密度ポリエチレン)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、LCP(液晶ポリマー)、ナイロン(PA)、不飽和ポリエステル(UP)、ウレタン樹脂(PU)、シリコーン樹脂(SI)、エポキシ樹脂(EP)の各種樹脂中に、アルミナ、酸化マグネシウム及びA−2を、それぞれ各フィラーが70%となるように配合して練り込み、試験片を作製し、得られた試験片を用いて、JIS K7114の「プラスチック−液体薬品への浸漬効果を求める試験方法」に準じて、各種の薬品に対する耐薬品性の試験を行い、評価した。結果を表5及び6に示した。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
上記した表1〜6の実施例及び比較例に示されているように、本発明で規定する熱伝導性複合酸化物は、適度なモース硬度を実現し、耐摩耗性に優れ、また、耐水性や電気絶縁性にも優れ、特に、これを使用することで、各種の薬剤に対する高い耐薬品性、中でも従来のフィラーでは達成が難しかった高い耐酸性を実現でき、しかも、樹脂に添加混合して樹脂組成物とした場合に、いずれの樹脂に対しても従来のフィラーに比べて遜色のない、場合によっては従来のものよりも高い熱伝導性を示すものとなるため、多様な用途に適用可能な機能性の高い材料として広範な用途での利用が期待される。