特開2016-135898(P2016-135898A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 福岡県の特許一覧 ▶ 株式会社正信の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-135898(P2016-135898A)
(43)【公開日】2016年7月28日
(54)【発明の名称】電解研磨液
(51)【国際特許分類】
   C25F 3/18 20060101AFI20160701BHJP
【FI】
   C25F3/18ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-11450(P2015-11450)
(22)【出願日】2015年1月23日
(71)【出願人】
【識別番号】591065549
【氏名又は名称】福岡県
(71)【出願人】
【識別番号】512274931
【氏名又は名称】株式会社正信
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(72)【発明者】
【氏名】南 守
(72)【発明者】
【氏名】御舩 隆
(72)【発明者】
【氏名】大和 洋吉
(57)【要約】
【課題】取り扱いが容易で作業の安全性に優れるマグネシウム又はマグネシウム合金用電解研磨液を提供する。
【解決手段】一般式R−SOH(Rは、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれかで置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖アルキル基又は芳香族炭化水素基からなる群より選択される原子又は原子団を表す。)で表され、濃度が、合計で0.7〜3.0mol/Lである1種又は複数種の有機スルホン酸又はその塩と、1種又は複数種の有機塩基又はその塩と、1価、2価及び3価のアルコールからなる群より選択される1種又は複数種のアルコールを含み、有機スルホン酸及びその塩と有機塩基及びその塩とのモル比が7:1〜5:7であるマグネシウム又はマグネシウム合金用の電解研磨液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム又はマグネシウム合金用の電解研磨液であって、
一般式R−SOH(式中、Rは、不飽和結合を含んでいてもよく、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖アルキル基、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよいシクロアルキル基及び水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい芳香族炭化水素基からなる群より選択される原子又は原子団を表す。)で表される1種又は複数種の有機スルホン酸又はその塩と、
1種又は複数種の有機塩基又はその塩と、
1価、2価及び3価のアルコールからなる群より選択される1種又は複数種のアルコールを含み、
前記有機スルホン酸及びその塩の濃度が、合計で0.7〜3.0mol/Lであり、
前記有機スルホン酸及びその塩と前記有機塩基及びその塩とのモル比が7:1〜5:7であることを特徴とする電解研磨液。
【請求項2】
前記有機塩基及びその塩の濃度が、合計で0.1〜3.0mol/Lであることを特徴とする請求項1記載の電解研磨液。
【請求項3】
前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸及びエタンスルホン酸の一方又は双方であることを特徴とする請求項1又は2記載の電解研磨液。
【請求項4】
前記有機塩基がアミンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の電解研磨液。
【請求項5】
ゼロを超え10.0mol/L未満の水を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の電解研磨液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取り扱いが容易で作業の安全性に優れるマグネシウム又はマグネシウム合金用電解研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムは実用金属の中で最も軽量であり、さらにその合金は、比強度が高く、鋳造性、寸法安定性、振動吸収性、電磁波シールド性、リサイクル性に優れた特性を有している。そのため各種産業において、マグネシウム合金の適用が拡大しており、特に携帯電話やデジタルカメラなどの携帯家電の分野では、製品の軽量化・コンパクト化に寄与する軽量化材料として大きな期待が寄せられている。現在、携帯家電の開発競争は激化しており、筐体等の外装部品の意匠性についても重要度が増している。こうした中で、マグネシウム合金についても、金属光沢などの金属質感を活かした製品開発への要望が高くなっている。
【0003】
金属材料に光沢を付与する手法として、機械的研磨法(バフ研磨、バレル研磨等)と電気化学的研磨法(化学研磨、電解研磨等)に分類できる。マグネシウム合金の場合、機械的研磨法では、研磨で発生する微粉に発火の危険性があるため、安全性を考慮すると電気化学的研磨法が適していると考えられる。電気化学的研磨法の中でも電解研磨法は、電気化学的に金属を溶解させるため、汚れ、異物、加工変質層及び残留応力の発生もなく、また、不働態皮膜ができるため耐食性は研磨前に比べて上昇するという利点がある。
【0004】
マグネシウム又はマグネシウム合金への電解研磨事例として、エチレングリコール、塩化ナトリウム溶液を利用した電解研磨法(特許文献1参照)、メタンスルホン酸、1、2−プロパンジオール、シクロヘキサノール溶液を利用した電解研磨法(特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−348336号公報
【特許文献2】特開2008−121118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の電解研磨事例では、金属組織が単純な純マグネシウムに対する研磨効果については述べられているものの、Mg17Al12化合物相が母相中に分散したAZ91合金のような金属組織が複雑なマグネシウム合金に対する適合性は開示されていない。一般的に、複数の相から構成される金属を電解研磨する場合、各相の物理的特性による違いから特定の相のみが選択的に溶解されるため、平滑、光沢面を得ることは困難である。携帯家電で使われる部材の多くは金属組織が複雑なマグネシウム合金であることから、複数相から構成されるマグネシウム合金に対しても電気化学的に研磨する手法について開発が望まれている。
【0007】
さらに、上記特許文献1では、無水系電解液を利用するため、環境中からの水分の混入を防止する対策を施す必要があり電解研磨処理のコストが高くなる。また、上記特許文献2に開示された電解研磨処理法では、強酸性のメタンスルホン酸とアルコール化合物からなる電解研磨液を40℃以上の温度で用いるため、実用金属中最も卑な電位の金属であるマグネシウムは電解研磨中又は研磨後の洗浄時に素地が荒れることがある。このため、特許文献2に開示された電解研磨処理法では、マグネシウム又はマグネシウム合金に対して金属光沢などの金属質感を活かした電解研磨面を得ることが難しい場合がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、取り扱いが容易で作業の安全性に優れ、単相組織、複相組織いずれでも研磨効果を発現することができるマグネシウム又はマグネシウム合金用電解研磨液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的は、マグネシウム又はマグネシウム合金用の電解研磨液であって、一般式R−SOH(式中、Rは、不飽和結合を含んでいてもよく、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖アルキル基、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよいシクロアルキル基及び水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい芳香族炭化水素基からなる群より選択される原子又は原子団を表す。)で表される1種又は複数種の有機スルホン酸又はその塩と、1種又は複数種の有機塩基又はその塩と、1価、2価及び3価のアルコールからなる群より選択される1種又は複数種のアルコールを含み、前記有機スルホン酸及びその塩の濃度が、合計で0.7〜3.0mol/Lであり、前記有機スルホン酸及びその塩と前記有機塩基及びその塩とのモル比が7:1〜5:7であることを特徴とする電解研磨液を用いることで達成可能である。
【0010】
本発明の電解研磨液において、前記有機塩基及びその塩の濃度が、合計で0.1〜3.0mol/Lであることが好ましい。
【0011】
本発明の電解研磨液において、前記有機スルホン酸が、メタンスルホン酸及びエタンスルホン酸の一方又は双方であることが好ましい。
【0012】
本発明の電解研磨液において、前記有機塩基がアミンであることが好ましい。
【0013】
本発明の電解研磨液において、ゼロを超え10.0mol/L未満の水を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、取り扱いが容易で作業の安全性、工業的生産性に優れるマグネシウム又はマグネシウム合金用電解研磨液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具現化した実施形態について説明する。電解研磨では、被研磨面から金属が溶解して電解液と反応することにより溶解生成物が生じ、被研磨面は高粘度の粘液層によって覆われる。電解液は撹拌されるので、この粘液層表面は金属表面よりも凹凸が少ない。従って、被研磨面の凸部では粘液層が薄く凹部で厚くなる。粘液層は大きな電気抵抗を有するので、凸部の粘液層の抵抗が凹部より小さくなり陽極電流は凸部に集中し、選択的に溶解されることから表面が平滑に研磨される。
【0016】
本発明の一実施の形態に係る電解研磨液(以下、「電解研磨液」と略称する場合がある。)は、マグネシウム又はマグネシウム合金用の電解研磨液であって、一般式R−SOH(Rは、不飽和結合を含んでいてもよく、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖アルキル基、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよいシクロアルキル基及び水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい芳香族炭化水素基からなる群より選択される原子又は原子団を表す。)で表される1種又は複数種の有機スルホン酸又はその塩と、1種又は複数種の有機塩基又はその塩と、1価、2価及び3価のアルコールからなる群より選択される1種又は複数種のアルコールを含んでいる。
【0017】
(1)有機スルホン酸
電解研磨液に用いられる有機スルホン酸は、一般式R−SOH(式中、Rは、不飽和結合を含んでいてもよく、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖アルキル基、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよいシクロアルキル基及び水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい芳香族炭化水素基からなる群より選択される原子又は原子団を表す。)で表される。有機スルホン酸の具体例としては、エタンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ビニルスルホン酸、3−ピリジンスルホン酸、4−ピリジンスルホン酸、8−キノリンスルホン酸、10−カンファースルホン酸、p−フェノールスルホン酸、4−ビフェニルスルホン酸、タウリン等が挙げられる。有機スルホン酸塩としては、上述の有機スルホン酸と任意の有機塩基又は無機塩基との塩を特に制限なく用いることができるが、後述する有機塩基との塩であることが好ましい。
【0018】
(2)有機塩基
電解研磨液に用いられる有機塩基としては、プロトン受容体であるブレンステッド塩基である任意の有機化合物を特に制限なく用いることができる。有機塩基の具体例としては、窒素原子を含むアミンや、ピリジン、ピラジン、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、インドール、ベンゾイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられるが、好ましくはアミンである。電解研磨液に用いられるアミンの具体例としては、一般式NR(式中、R、R及びRは窒素原子に結合しており、それぞれ独立して、水素原子、不飽和結合を含んでいてもよく、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい直鎖又は分岐鎖アルキル基、水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよいシクロアルキル基及び水素原子の全部又は一部が、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基及びハロゲン原子のいずれか1又は複数で置換されていてもよい芳香族炭化水素基からなる群より選択される原子又は原子団を表す。)で表されるアミンが挙げられる。アミンの具体例としては、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、アリルアミン等の低級モノアルキルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の低級ジアルキルアミン、ピロリジン、ピペリジン等の環状アミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン等の低級トリアルキルアミンまたは低級トリ置換アルキルアミン等が挙げられる。有機塩基の塩としては、上述の有機塩基と任意の有機酸又は無機酸との塩を特に制限なく用いることができるが、上述の有機スルホン酸との塩であることが好ましい。
【0019】
(3)アルコール
電解研磨液は、溶媒として、1価、2価及び3価のアルコールを含んでいる。溶媒として用いることができるアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−アミノエタノール、ジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0020】
本発明の電解研磨液における有機スルホン酸及びその塩の濃度は、合計で0.7〜3.0mol/L程度の範囲であり、1.0〜2.0mol/L程度の範囲であることが好ましい。有機スルホン酸及びその塩の濃度が上記範囲内にあることによって、AZ91合金のような金属組織が複雑なマグネシウム合金においても特定の相の優先溶解を抑制することができ、均一な電解研磨面を得ることができる。これに対して、有機スルホン酸及びその塩の濃度が低すぎる場合、母相と化合物相の溶解速度の違いから、金属光沢を呈するような電解研磨面を形成することができない。一方、有機スルホン酸及びその塩の濃度が高すぎる場合、濃度上昇に見合った効果は得られず実用的ではない。
【0021】
本発明の電解研磨液における有機塩基及びその塩の濃度は、金属光沢が得られる限り特に限定されるものではなく、有機スルホン酸及びその塩の濃度に応じて適宜設定することができるが、合計で0.1〜3.0mol/L程度の範囲であることが好ましい。
【0022】
本発明の電解研磨液における有機スルホン酸及びその塩と有機塩基及びその塩との配合割合は、特に限定されるものではないが、有機スルホン酸及びその塩と有機塩基及びその塩とのモル比が7:1〜5:7程度の範囲であることが好ましい。
【0023】
本発明の電解研磨液は、水を含有していてもよい。ただし、その場合、水の濃度は、10.0mol/L未満であることが好ましく、8.0mol/L未満であることがより好ましい。水の濃度が10.0mol/L以上であると電解研磨後の研磨面が荒れ光沢が得られない場合がある。
【0024】
電解研磨における電圧は特に限定されないが、電圧が低すぎる場合、通電開始直後にエッチング反応が起こり電解研磨は困難となる。一方、電圧が高すぎる場合、発熱による温度上昇から電解研磨は困難となる。このため、電解研磨における電圧は、25〜90V程度の範囲であることが好ましく、40〜80V程度の範囲であることがより好ましい。
【0025】
電解研磨における電流密度は特に限定されないが、電流密度が低すぎる場合、光沢な電解研磨面を得るために長時間を要する。一方、電流密度が高すぎる場合、発熱による温度上昇から研磨面に形成される粘液層が安定して保持できなくなり、金属光沢を呈するような電解研磨面を形成することができない。このため、電解研磨における電流密度は、5〜50mA/cm程度の範囲であることが好ましく、5〜25mA/cm程度の範囲であることがより好ましい。なお、定電圧で電解研磨する場合、電流密度は電解開始直後から時間とともに変動する場合がある。したがって、本発明における電解研磨液を用いて電解研磨する際の電流密度は、電解研磨処理時間における平均値を示すものとする。
【0026】
電解研磨における温度は特に限定されないが、温度が高すぎる場合、電解液の粘度が低くなって液の流動性が増加し、研磨面に形成される粘液層が保持できなくなり光沢な電解研磨面が得られない。このため、電解研磨における温度は、0〜30℃程度の範囲であることが好ましく、0〜20℃程度の範囲であることがより好ましい。
【0027】
電解研磨における処理時間は特に限定されないが、時間が短すぎると研磨表面の仕上がりが不十分となり、時間が長すぎると実用的ではない。このため、電解研磨における処理時間は、1〜10分程度の範囲であることが好ましい。
【0028】
本発明の電解研磨液を用いた電解研磨の適用対象となるのは、マグネシウム又はマグネシウム合金である。マグネシウム合金の例としては、Mg−Al系合金、Mg−Al−Zn系合金、Mg−Al−Zn−Ca系合金などが挙げられるがこれらに限定されない。また、本発明においては、電解研磨する前のマグネシウム及びマグネシウム合金の成形法は特に限定されず、ダイカストのような鋳造法でもよいし、射出成形法でもよいし、圧延法でもよい。
【0029】
マグネシウム又はマグネシウム合金は、電解研磨の効果をより向上させるため、電解研磨前に脱脂処理を受けていることが好ましい。脱脂処理法は特に限定されず、溶剤脱脂でもよいし、アルカリ脱脂でもよいし、界面活性剤による脱脂でもよいし、これらの組み合わせでもよい。
【0030】
本発明の電解研磨液を用いた電解研磨処理は、公知の方法で行うことができる。例えば、電解研磨液を貯留する電解研磨槽と、この電解研磨槽に浸漬される陰極電極と被研磨材であるマグネシウム又はマグネシウム合金としての陽極電極と、この陰極電極と陽極電極に接続される電源と、電解研磨液の温度を調節する冷却加熱装置と、電解研磨液の温度を測定する温度計と、電解研磨液を撹拌する撹拌装置を配置して電解研磨処理を行うことができる。
【0031】
陰極電極の素材は特に限定されず、ステンレスでもよいし、チタンでもよいし、白金でもよく、電解研磨液の組成等に応じて適宜選択できる。また、陰極の形状は特に制限はなく、被研磨材の形状に応じて電流分布が一様になるような形状にすることが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例等により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施例中での試験方法は以下の方法に従って行った。
【0033】
光沢度の評価
電解研磨処理後のマグネシウム又はマグネシウム合金の試験片の光沢度の評価は、光沢計(日本電色工業(株)製、PG-IIM)を用い、JIS−Z8741−1997に基づき60度鏡面光沢にて行った。
【0034】
電解研磨試験
大きさ70mm×150mm×3mmの日本マグネシウム協会製AZ91標準試験片を70mm×30mm×3mmの大きさに切断し研磨試料とした。研磨試料はエメリー研磨紙にて#2000まで研磨後、アセトン中で超音波洗浄したのちフッ素樹脂製テープでマスキングすることにより研磨面積を30mm×20mmの大きさに調整し電解研磨に供した。続いて、電解研磨槽として100mLのビーカーを用い、研磨試料を陽極に、SUS304ステンレス板を陰極に配置し、極間電圧40V、電解研磨液設定温度15℃、電解時間5分という条件でそれぞれ電解研磨を行った。
【0035】
電解研磨液の調製及び電解研磨試験(1)
メタンスルホン酸とn−ブチルアミンをエチレングリコールに溶解し、比較例1〜6(最初に添加したメタンスルホン酸濃度が0.7mol/L未満である。)及び実施例1〜15の電解研磨液を調製した。比較例1〜6及び実施例1〜15において調製した電解研磨液組成を表1に、電解研磨処理前後のAZ91標準試験片の光沢度を表2に、それぞれ示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
比較例1〜6では、処理前と比べ処理後の光沢度は低下した。一方、実施例1〜15では、処理前と比べ処理後の光沢度は増加した。
【0039】
電解研磨液の調製及び電解研磨試験(2)
次に、メタンスルホン酸とn−ブチルアミンをエチレングリコールに溶解し、比較例7〜8(比較例7ではn−ブチルアミンを添加しておらず、比較例8では、メタンスルホン酸とn−ブチルアミンのモル比が5:7を超えている。)及び実施例16〜19の電解研磨液を調製した。研磨試料、電解研磨前に行った試験片表面調整及び脱脂処理は比較例1〜6及び実施例1〜15と同様である。また、電解研磨槽、陰極も比較例1〜6及び実施例1〜15において用いたものと同様である。極間電圧40V、電解研磨液設定温度15℃、電解時間5分という条件でそれぞれ電解研磨を行った。表3に電解研磨液組成及びモル比を、表4に電解研磨処理前後のAZ91標準試験片の光沢度をそれぞれ示す。
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
比較例7、実施例16〜17では、メタンスルホン酸とn−ブチルアミンとの配合割合において、n−ブチルアミンの比率が増加するに従い処理後の光沢度は増加した。一方、実施例18〜19、比較例8では、メタンスルホン酸とn−ブチルアミンとの配合割合において、n−ブチルアミンの比率が増加するに従い処理後の光沢度は低下した。
【0043】
電解研磨液の調製及び電解研磨処理試験(3)
次に、メタンスルホン酸とn−ブチルアミンと純水をエチレングリコールに溶解し、実施例20〜22及び比較例9(水の濃度が10mol/Lを超えている。)の電解研磨液を調製した。研磨試料、電解研磨前に行った試験片表面調整及び脱脂処理は比較例1〜6及び実施例1〜15と同様である。また、電解研磨槽、陰極も比較例1〜6及び実施例1〜15において用いたものと同様である。極間電圧40V、電解研磨液設定温度15℃、電解時間3分という条件でそれぞれ電解研磨を行った。表5に電解研磨液組成を、表6に電解研磨処理前後のAZ91標準試験片の光沢度をそれぞれ示す。
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
実施例20〜22、比較例9の結果より、水の濃度の増加に伴い処理後の光沢度は低下する傾向を示すことが確認された。
【0047】
異なる素材を用いた電解研磨試験
次に、表7に示す5種類の試験片の電解研磨試験を行った。電解研磨前に行った試験片表面調整、脱脂処理は比較例1〜6及び実施例1〜15と同様である。また、電解研磨槽、陰極も比較例1〜6及び実施例1〜15において用いたものと同様である。電解研磨液として、ジエチレングリコールにエタンスルホン酸1.5mol/Lとモノエタノールアミン1.5mol/Lを加えたものを用いた。極間電圧80V、電解研磨液設定温度15℃で10分間電解研磨を行った。実施例23〜27の電解研磨処理前後の試験片の光沢度を表8にそれぞれ示す。
【0048】
【表7】
【0049】
【表8】
【0050】
表8より、本電解研磨液では、全ての実施例において処理前後で光沢度が改善され、研磨が良好に行われたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係るマグネシウム又はマグネシウム合金用電解研磨液は、マグネシウム又はマグネシウム合金を使用する電気・電子機器類の各種部材の研磨処理に利用することができる。特に、光沢性が強く求められる携帯電話やノートパソコンといった携帯用機器の筐体において利用可能性が高い。