【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る管状組織体形成基材は、生体組織材料の存在する環境に設置して基材表面に管状の結合組織体を形成可能なものであり、棒状の基材本体と、結合組織体の端部を補強可能な端部補強基材とを備え、その端部補強基材を、組織形成空間を挟んで基材本体の端部の外周面と径方向に対向させたものである。
【0009】
上記構成によれば、組織形成空間を挟んで、端部補強基材を基材本体の端部の外周面と径方向に対向させるので、その間隔を適宜設定して、管状組織体の端部を所望の厚さに形成することができる。
【0010】
また、基材本体と端部補強基材との間に管状組織体の端部を形成するので、管状組織体の端部を内外から形成して、その結合組織を厚くかつ均一な密度に形成することができる。つまり、単に基材本体によって内側のみから結合組織を形成すると、その結合組織の外面から基材表面までの距離が長くなるので、厚い結合組織を形成しにくく、その密度も不均一になりやすい。これに対し、結合組織を内外から形成することにより、基材表面から最も離れた部位までの距離を短くして、厚くかつ均一な密度の結合組織を形成することができる。
【0011】
これにより、管状組織体に人工物などの異物を設けることなく、管状組織体の端部を構成する結合組織を増強することができ、移植部位への縫合が容易な管状組織体を形成することができる。
【0012】
ここで、「結合組織」とは、通常は、コラーゲンを主成分とする組織であって、生体内に形成される組織のことをいうが、本明細書及び特許請求の範囲の記載においては、生体内に形成される結合組織に相当する組織が生体外の環境下で形成される場合のその組織をも含む概念である。
【0013】
また、「生体組織材料」とは、所望の生体由来組織を形成するうえで必要な物質のことであり、例えば、線維芽細胞、平滑筋細胞、内皮細胞、幹細胞、ES細胞、iPS細胞等の動物細胞、各種たんぱく質類(コラーゲン、エラスチン)、ヒアルロン酸等の糖類、その他、細胞成長因子、サイトカイン等の生体内に存在する各種の生理活性物質が挙げられる。この「生体組織材料」には、ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物に由来するもの、又はこれと同等の人工材料が含まれる。
【0014】
また、「生体組織材料の存在する環境」とは、動物(ヒト、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳類動物、鳥類、魚類、その他の動物)の生体内(例えば、四肢部、肩部、背部又は腹部などの皮下、もしくは腹腔内への埋入)、又は、動物の生体外において、生体組織材料を含有する人工環境のことをいう。
【0015】
さらに、端部補強基材は、基材本体と一体に形成したものであってもよいが、基材本体とは別体に形成して、基材本体の端部に装着することもできる。
【0016】
すなわち、本発明は、生体組織材料の存在する環境に設置した棒状の基材本体の外周面に形成される管状の結合組織体の端部を補強可能な端部補強基材であって、基材本体の端部に装着することにより、組織形成空間を挟んで基材本体の端部の外周面と径方向に対向する管状組織体用の端部補強基材を提供する。
【0017】
この構成によると、端部補強基材を基材本体の端部に装着することにより、上記の管状組織体形成基材を構成することができる。これにより、端部補強基材を装着する基材本体を所望の長さに設定するだけで、所望の長さの管状組織体形成基材を構成することができ、種々の長さの管状組織体形成基材について、端部補強基材の共通化を図り、管状組織体形成基材の全体としての製造を容易にすることができる。
【0018】
さらに、端部補強基材に、組織形成空間と基材外部とを径方向に連通させる侵入口を形成するようにしてもよい。
【0019】
この構成によると、侵入口によって組織形成空間と基材外部とを径方向に連通させるので、端部補強基材の端縁における基材本体との隙間、すなわち、組織形成空間の端部開口だけでなく、この組織形成空間の端部開口に加えて侵入口から、あるいは侵入口のみから結合組織を侵入させることができる。これにより、組織形成空間に結合組織体を形成するのに要する時間を短くすることができる。
【0020】
さらに、侵入口を基材本体の中心軸と平行なスリットとするようにしてもよい。
【0021】
この構成によると、スリット内に形成された結合組織が、管状組織体の端部から外周側に突出する突条を構成して、管状組織体の端部を補強する補強部として機能し、しかも、その突条が管状組織体の中心軸と平行に形成されて、突条に力が作用することによる管状組織体の捩れを防止する。
【0022】
本明細書及び特許請求の範囲の記載において、スリットとは、スリット長さがスリット幅の2倍よりも大きいものをいい、スリット長さがスリット幅の3倍よりも大きいものがより好ましい。なお、スリットは、結合組織を容易に侵入させることのできるスリット幅に設定され、その2倍以上で、好ましくは3倍以上のスリット長さに設定されるが、端部補強基材の大きさや強度によってスリット長さの上限が定まる。
【0023】
スリットは、そのスリット長さがスリット幅と比較して十分に長いので、スリット幅を狭く設定して、端部補強基材の残りの面積を十分に確保しつつ、周縁部に形成された結合組織によってスリットが早期に閉塞されるのを防止することができ、組織形成空間に結合組織を容易に侵入させることができる。
【0024】
つまり、スリットに代えて、端部補強基材に例えば円形の小孔を形成することも考えられるが、この場合、円孔がその周縁部に形成された結合組織自体によって全方向から閉塞され、組織形成空間への結合組織の侵入を阻害するおそれがある。これに対して、スリット長さが十分に長いスリットは、その周縁部に形成された結合組織によって全方向から閉塞されることがなく、スリット全体が早期に閉塞されるのを防止することができる。
【0025】
さらに、侵入口を端部補強基材のうちの基材本体中央側の端縁に至る形状に形成するようにしてもよい。
【0026】
この構成によると、侵入口が基材本体中央側の端縁に至るので、基材本体から端部補強基材を取り外す際、侵入口内に形成された結合組織を破壊することなく、その結合組織を侵入口の端縁開口から抜き出すようにして、基材本体から端部補強基材を取り外すことができる。
【0027】
さらに、端部補強基材を、その外端側に、基材本体の端部に外嵌する外嵌部を形成して、基材本体の端部に着脱自在なキャップ状としてもよい。
【0028】
この構成によると、外嵌部を基材本体の端部に外嵌するだけで、端部補強基材を基材本体に対して容易に着脱することができ、基材表面に管状組織体を形成した後、基材本体から端部補強基材を取り外して、管状組織体の取り出しをも容易にすることができる。
【0029】
また、本発明は、端部を増強して移植部位への縫合などを容易にした管状組織体を提供する。すなわち、本発明は、生体組織材料の存在する環境に設置された基材の外周面に形成された管状の結合組織体であって、端部の結合組織が中央部よりも増強されたことを特徴とする管状組織体を提供する。
【0030】
本発明の管状組織体は、移植部位に縫合などされる端部を増強しているので、比較的に高い内圧を受ける人工血管として好適に使用することができる。
【0031】
なお、本発明の管状組織体は、管状の組織体であれば、血管以外にも、消化管、気管など、どのようなものに使用してもよい。また、本発明の管状組織体は、移植対象者に対して、自家移植、同種移植、異種移植のいずれでもよいが、拒絶反応を避ける観点からなるべく自家移植か同種移植が好ましい。さらに、異種移植の場合には、拒絶反応を避けるため公知の脱細胞化処理などの免疫源除去処理を施すのが好ましい。