(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-137218(P2016-137218A)
(43)【公開日】2016年8月4日
(54)【発明の名称】開創器
(51)【国際特許分類】
A61B 17/02 20060101AFI20160708BHJP
【FI】
A61B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-15622(P2015-15622)
(22)【出願日】2015年1月29日
(71)【出願人】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(71)【出願人】
【識別番号】591050729
【氏名又は名称】株式会社オーゼットケー
(71)【出願人】
【識別番号】591058459
【氏名又は名称】新和商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】青儀 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 陽彦
(72)【発明者】
【氏名】三橋 克伯
(72)【発明者】
【氏名】森下 喜郎
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160AA11
(57)【要約】
【課題】手術コストを低減でき、開創部が傷つきにくく、作業性が低下することがなく、所要の術野を容易に確保できるとともに、手術の状況に応じた術野変更や術野面積の拡大・縮小を行うことができる開創器を提供する。
【解決手段】手術中に切開された開創部を開いた状態に保持して術野を確保する開創器1であって、線材により形成された帯状体Aと、帯状体Aの一端部に設けられ、帯状体Aの他端部又は中間部と連結された状態で、帯状体Aを所要の大きさのループ状に形成する連結具Bとを備え、前記開創部に生じる前記開創部を閉じる方向の力を、ループ状にした帯状体Aの外側面Dで受け止める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手術中に切開された開創部を開いた状態に保持して術野を確保する開創器であって、
線材により形成された帯状体と、
前記帯状体の一端部に設けられ、前記帯状体の他端部又は中間部と連結された状態で、前記帯状体を所要の大きさのループ状に形成する連結具とを備え、
前記開創部に生じる前記開創部を閉じる方向の力を、ループ状にした前記帯状体の外側面で受け止めることを特徴とする開創器。
【請求項2】
前記帯状体が、コイルばねを加圧して塑性変形させたものである請求項1記載の開創器。
【請求項3】
前記コイルばねが、線径よりもピッチが大きいものである請求項2記載の開創器。
【請求項4】
前記帯状体が、線径よりもピッチが大きい、一対の左巻きコイルばね及び右巻きコイルばねを重ね合わせたコイルばね重合体を加圧して塑性変形させたものである請求項1記載の開創器。
【請求項5】
ループ状にした前記帯状体の外側面に、前記開創部の皮膚を掛止する、周方向に離間した複数の掛止片を設けてなる請求項1〜4の何れか1項に記載の開創器。
【請求項6】
ループ状にした前記帯状体の外側面が、摩擦係数を増大させるように粗面加工されたものである請求項1〜4の何れか1項に記載の開創器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術中に切開された開創部を開いた状態に保持して術野を確保する開創器に関する。
【背景技術】
【0002】
徒手手術において患部に到達する為に切開された開創部には閉じる方向の力が作用するので、患部を手術する際には開創部を開いた状態に保持して術野を確保する必要がある。術野を良好に確保することにより、手術時間の短縮及び安全性の向上、並びに術者(執刀医)の疲労軽減等を図ることができる。
開創部を開いた状態に保持する方法として、先端が鈎状に形成された棒状の医療器具(例えば、非特許文献1参照)を用い、その先端を開創部に掛けた状態で前記医療器具を手術助手が手で引っ張ることが一般的に行われている(以下、「人手による開状態保持」という)。
【0003】
また、先端を開創部に掛けたリトラクタを支柱から伸びた多関節アームで保持する開創器(例えば、特許文献1及び非特許文献2参照)を用いることや、先端を開創部に掛けたリトラクタを支持リング、アーム及び支柱で保持する開創器(例えば、特許文献2及び非特許文献3参照)を用いることもある(以下、「アーム支持タイプの開創器による開状態保持」という)。
さらに、筒状の可撓性スリーブの両端開口部周縁に体内側環状部材及び体外側環状部材を固定してなる開創器用い、前記可撓性スリーブの外面を開創部に当接させる提案(例えば、特許文献3参照)や、弾性を有する長方形の板状体を、始端と終端が摺動可能な状態で丸めて円筒状に成形してなる開創器を用い、全体が小径の円筒になるように小さく丸め込んだ状態で開創部へ挿入し、手を離して弾性力で拡開して円筒の径が大きくして開創部を広げる提案(例えば、特許文献4参照)がある(以下、「独立タイプの開創器による開状態保持」という)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−55607号公報
【特許文献2】特開平7−239727号公報
【特許文献3】特開2013−55993号公報
【特許文献4】特表2007−82674号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「コッペル単鈎/コッペル二爪鈎」のカタログ,株式会社田中医科器械製作所,インターネット<URL:http://www.e-tanaka.co.jp/products/display_detail/23-18-G_19-G>
【非特許文献2】「オクトパス万能開創器」のカタログ,ユフ精器株式会社,2012年11月,インターネット<URL:http://www.yufu.co.jp/pdf/octopus.pdf>
【非特許文献3】「テーブルマウント式リトラクターシステム」のカタログ,ソルブ株式会社,インターネット<URL:http://www.solve-net.com/MakerBusiness/Surgical/img_Mediflex/RetractorProducts.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
人手による開状態保持では、先端が開創部に掛けられた所要個数の前記医療器具を所要人数の手術助手が手で引っ張って保持する必要があるので、前記医療器具の先端が掛けられた開創部が傷つきやく、手術助手の負担が大きいとともに、手術助手の人件費が掛かるため手術コストが増大する。
【0007】
また、アーム支持タイプの開創器による開状態保持では、前記医療器具を引っ張って保持する手術助手が不要になるので、人手による開状態保持と比較して人件費を削減できる。
しかしながら、リトラクタの先端を開創部に掛けて引っ張るので、開創部が傷つきやすい。
その上、開創器が比較的大掛かりなものになるので、開創器の製造コストが増大するため、その分の手術コストが増大する。
その上さらに、支柱やアーム等が術者の邪魔になって作業性が低下する場合があるとともに、手術の状況に応じた術野変更をフレキシブルに行うことができない。
【0008】
さらに、独立タイプの開創器による開状態保持では、前記医療器具を引っ張って保持する手術助手が不要になるので、人手による開状態保持と比較して人件費を削減できるとともに、アームや支柱等が無いため、アーム支持タイプの開創器による開状態保持と比較して、支柱やアーム等が術者の邪魔になって作業性が低下することがない。
しかしながら、手術の状況に応じた術野変更や術野面積の拡大・縮小を行うことができない。
その上、特許文献3の構成の独立タイプの開創器による開状態保持では、可撓性スリーブの外面を開創部に当接させるように装着する作業に手間が掛かる。
その上さらに、特許文献4の構成の独立タイプの開創器による開状態保持では、弾性力で拡開して円筒の径を大きくして開創部を広げるので、所要の開創保持力が得られない場合があり、よって所要の術野を確保できない場合がる。
【0009】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、手術コストを低減でき、開創部が傷つきにくく、作業性が低下することがなく、所要の術野を容易に確保できるとともに、手術の状況に応じた術野変更や術野面積の拡大・縮小を行うことができる開創器を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る開創器は、前記課題解決のために、手術中に切開された開創部を開いた状態に保持して術野を確保する開創器であって、線材により形成された帯状体と、前記帯状体の一端部に設けられ、前記帯状体の他端部又は中間部と連結された状態で、前記帯状体を所要の大きさのループ状に形成する連結具とを備え、前記開創部に生じる前記開創部を閉じる方向の力を、ループ状にした前記帯状体の外側面で受け止めることを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、連結具によりループ状にした帯状体の外側面で開創部を閉じる方向の力を受け止めるので、先端が鈎状に形成された棒状の医療器具を引っ張って保持する手術助手が不要になるため、人手による開状態保持と比較して人件費を削減できるとともに、救命救急等において応急手術や緊急手術が必要で一人の医師で手術を行わなければならない場合であっても迅速な対応が可能になる。
その上、前記医療器具の先端やリトラクタの先端を開創部に掛けて引っ張らないため、人手による開状態保持及びアーム支持タイプの開創器による開状態保持と比較して開創部が傷つかない。
その上さらに、邪魔になるアームや支柱等が無いため、アーム支持タイプの開創器による開状態保持と比較して作業性が低下しない。
その上、線材により形成された帯状体を連結具によりループ状に形成する簡素な構成であるので、アーム支持タイプの開創器による開状態保持と比較して開創器の製造コストを低減できる。
【0012】
その上さらに、連結具により帯状体を所要の大きさのループ状に形成できるので、従来の独立タイプの開創器による開状態保持と比較して、所要の術野を容易に確保できるとともに、手術の状況に応じた術野変更や術野面積の拡大・縮小を容易に行うことができる。
その上、帯状体が線材により形成されたものであるので、従来の独立タイプの開創器による開状態保持と比較して、ループ状にした開創器を円形だけでなく、楕円形、卵形等に変形させて所要の術野を確保できるとともに、帯状体は幅方向へも変形可能であるため、下部の骨、筋肉又は血管等を傷付けないように避けることができる。
【0013】
ここで、前記帯状体が、コイルばねを加圧して塑性変形させたものであると好ましい。
このような構成によれば、線材により形成された帯状体が、ばね巻き機(コイリングマシン)等により製作が容易なコイルばねを、例えばロール間に通して加圧し、塑性変形させることにより形成されるので、製造コストを低減できる。
その上、コイルばねを加圧して塑性変形させて帯状体を形成しているので、ループ状の大きさを変えた場合であっても、帯状体の表面(上面及び下面、並びに外側面及び内側面)が滑らかな状態が維持されるため、患者の内臓等を傷付けることがないとともに、術者の手術手袋を破損することもない。
【0014】
また、前記コイルばねが、線径よりもピッチが大きいものであるのがより好ましいものである。
このような構成によれば、コイル間に隙間が形成されるので、加圧して塑性変形させて帯状体を形成する作業が容易になるとともに、ループ状にした開創器を変形させやすいため、手術の状況に応じた術野変更や、下部の骨、筋肉又は血管等の損傷回避が容易になる。
その上、線材により形成される帯状体の空所率が高くなり、ループ状にした帯状体に比較的大きな隙間が形成されることから、手術の際に術部及びその周辺が見やすいため、作業性を向上できる。
【0015】
さらに、前記帯状体が、線径よりもピッチが大きい、一対の左巻きコイルばね及び右巻きコイルばねを重ね合わせたコイルばね重合体を加圧して塑性変形させたものであると一層好ましい。
このような構成によれば、一対の左巻きコイルばね及び右巻きコイルばねを重ね合わせたコイルばね重合体を加圧して塑性変形させて帯状体を形成するので、取扱い容易化等のために軽量で剛性が高くない線材を用いた場合であっても、開創部を閉じる方向の力を受け止めて開創部を開いた状態に保持するための所要の剛性確保が容易になる。
その上、一対の左巻きコイルばね及び右巻きコイルばねを用いているので、重ね合わせてコイルばね重合体を形成する作業が容易であるとともに、ばね巻き機(コイリングマシン)等により製作が容易な一対のコイルばねを用いているため、製造コストの上昇を抑制できる。
【0016】
さらにまた、ループ状にした前記帯状体の外側面に、前記開創部の皮膚を掛止する、周方向に離間した複数の掛止片を設けてなるのがより一層好ましいものである。
このような構成によれば、掛止片により開創部の皮膚が確実に掛止された状態が保持されるので、開創部のずれを防止できる。よって、開創部が不意に動いて手術の妨げとなることや手術器具等が患部でない部位に不意に接触して傷付けることがないとともに、術野を確実に維持した状態で手術を効率的に行うことができる。
【0017】
また、ループ状にした前記帯状体の外側面が、摩擦係数を増大させるように粗面加工されたものであるのがより一層好ましいものである。
このような構成によれば、帯状体の外側面は粗面加工により摩擦係数が増大しているので、帯状体の外側面に開創部の皮膚が当接した際に滑り止め機能が発揮されて開創部のずれを防止できる。よって、開創部が不意に動いて手術の妨げとなることや手術器具等が患部でない部位に不意に接触して傷付けることがないとともに、術野を確実に維持した状態で手術を効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係る開創器によれば、
(1)連結具によりループ状にした帯状体の外側面で開創部を閉じる方向の力を受け止めるので、人件費を削減でき、応急手術等が必要で一人の医師で手術を行わなければならない場合であっても迅速な対応が可能になるとともに、開創部が傷つかないこと、
(2)邪魔になるアームや支柱等が無いため作業性が低下しないこと、
(3)線材により形成された帯状体を連結具によりループ状に形成する簡素な構成であるので、開創器の製造コストを低減できること、
(4)連結具により帯状体を所要の大きさのループ状に形成できるので、所要の術野を容易に確保できるとともに、手術の状況に応じた術野変更や術野面積の拡大・縮小を容易に行うことができること、
(5)帯状体が線材により形成されたものであるので、変形させて所要の術野を確保できるとともに、幅方向へも変形可能であるため、下部の骨、筋肉又は血管等を傷付けないように避けることができること、
(6)線材により形成された帯状体がコイルばねを加圧して塑性変形させたものであると、製造コストを低減できるとともに、ループ状の大きさを変えた場合であっても、帯状体の表面(上面及び下面、並びに外側面及び内側面)が滑らかな状態が維持されるため、患者の内臓等を傷付けることがなく、術者の手術手袋を破損することもないこと、
(7)線径よりもピッチが大きいコイルばねを用いることにより、帯状体を形成する作業が容易になり、ループ状にした開創器を変形させやすいため、手術の状況に応じた術野変更や、下部の骨、筋肉又は血管等の損傷回避が容易になるとともに、ループ状にした帯状体に比較的大きな隙間が形成されることから、手術の際に術部及びその周辺が見やすいため、作業性を向上できること、
(8)線材により形成された帯状体が、線径よりもピッチが大きい、一対の左巻きコイルばね及び右巻きコイルばねを重ね合わせたコイルばね重合体を加圧して塑性変形させたものであると、取扱い容易化等のために軽量で剛性が高くない線材を用いた場合であっても、開創部を閉じる方向の力を受け止めて開創部を開いた状態に保持するための所要の剛性確保が容易になるとともに、製造コストの上昇を抑制できること、
(9)ループ状にした前記帯状体の外側面に、開創部の皮膚を掛止する、周方向に離間した複数の掛止片を設けてなるか、あるいは、前記外側面が、摩擦係数を増大させるように粗面加工されたものであると、開創部のずれを防止できるので、開創部が不意に動いて手術の妨げとなることや手術器具等が患部でない部位に不意に接触して傷付けることがないとともに、術野を確実に維持した状態で手術を効率的に行うことができること、
等の顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態に係る開創器を連結具によりループ状にした使用状態の一例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る開創器を帯状に伸ばした状態を示す正面図である。
【
図4】(a)は左巻きコイルばね及び右巻きコイルばねの斜視図、(b)はコイルばね重合体の斜視図である。
【
図5】コイルばね重合体を一対のロール間に通して塑性変形させて帯状に成形している状態を示す説明図である。
【
図6】(a)は開創部の皮膚を掛止する掛止具が取り付けられた開創器を示す斜視図、(b)は前記掛止具の斜視図である。
【
図7】変形例の開創器を帯状に伸ばした状態を示す正面図である。
【
図8】変形例の開創器を帯状に伸ばした状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明するが、本発明は、添付図面に示された形態に限定されず特許請求の範囲に記載の要件を満たす実施形態の全てを含むものである。
【0021】
図1の使用状態の一例を示す斜視図、及び
図2の帯状に伸ばした状態を示す正面図に示すように、本発明の実施の形態に係る開創器1は、手術中に切開された開創部を開いた状態に保持して術野を確保するものであり、線材により形成された帯状体Aと、帯状体Aの一端部に設けられ、帯状体Aの他端部又は中間部と連結された状態で、帯状体Aを所要の大きさのループ状に形成する連結具Bとを備える。そして、
図1のようにループ状にした帯状体Aの外側面Dで、前記開創部に生じる前記開創部を閉じる方向の力を受け止める。
ここで、帯状体Aを形成する線材は、純チタン、チタン合金、アルミニウム合金、銅合金若しくはステンレス鋼等の金属線、ニッケル・チタン系合金若しくは銅系合金等の超弾性合金の金属線、又はPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PA(ポリアミド)樹脂若しくはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂等の合成樹脂線(ガラス繊維又は炭素繊維等の強化繊維を添加したものであってもよい)であり、その断面形状は、本実施の形態のような円形、若しくは多角形である。
また、連結具Bは、ステンレス鋼等の金属製、又はPET樹脂等の合成樹脂製である。
【0022】
図3の要部拡大斜視図に示すように、帯状体Aの一端部に設けられた連結具Bは掛止片4を備えているので、掛止片4を帯状体Aの他端部又は中間部の線材に掛止することにより、帯状体Aを容易に所要の大きさのループ状の形態にできるとともに、ループ状の大きさの変更も容易である。
なお、連結具Bの形状や構成は、
図3に示す連結具Bに限定されるものではなく、帯状体Aの一端部と、他端部又は中間部とを連結できるとともに、その連結を解除できるものであればよい。
【0023】
次に、開創器1の帯状体Aの製造方法の一例について説明する。
先ず、
図4(a)の斜視図に示すように、所定の線径d及びピッチp、並びに外径及び巻き数の圧縮コイルばねを、ばね巻き機(コイリングマシン)等により成形し、線径dよりもピッチpが大きい(d<p)一対の左巻きコイルばね2及び右巻きコイルばね3を準備する。
次に、
図4(b)の斜視図に示すように、左巻きコイルばね2及び右巻きコイルばね3を重ね合わせる(組み合わせる)ことにより、コイルばね重合体Cを製造する。ここで、巻き方向が異なるコイルばね2,3は容易に重ね合わせることができる。
【0024】
次に、
図5の説明図に示すように、コイルばね重合体Cを一対のロールR1,R2間に通して塑性変形させることにより、帯状体Aを製造する。
なお、コイルばね重合体Cを塑性変形させて帯状体Aを製造する工程は、
図5のような一対のロールR1,R2を用いずにプレス金型等により行ってもよいが、一対のロールR1,R2を用いることにより製造コストを低減できる。
そして、このように製造された帯状体Aの一端部に連結具Bを取り付けることにより、開創器1が完成する。
【0025】
このようにして完成された開創器1(
図1及び
図2参照)に対して、さらに、
図6(a)及び(b)の斜視図に示すように、ループ状にした帯状体Aに対して、開創部の皮膚を掛止する掛止具Fを、周方向に離間した状態で複数(本実施の形態では3個)設けるようにしてもよい。ここで、掛止具Fは、ステンレス鋼等の金属製、又はPET樹脂等の合成樹脂製である。
このような構成によれば、ループ状にした帯状体Aの外側面Dに、周方向に離間した複数の掛止具Fの径方向外方へ突出する掛止片5が設けられているので、掛止片5により開創部の皮膚が確実に掛止された状態が保持されるため、開創部のずれを防止できる。よって、開創部が不意に動いて手術の妨げとなることや手術器具等が患部でない部位に不意に接触して傷付けることがないとともに、術野を確実に維持した状態で手術を効率的に行うことができる。
【0026】
あるいは、
図6(a)のような掛止具Fを設けることなく、
図1のような開創器1において、ループ状にした帯状体Aの外側面Dを、投射材と呼ばれる粒体を衝突させるショットブラスト等で粗面加工することにより、外側面Dの摩擦係数を増大させてもよい。
このような構成によっても、開創部のずれを防止できるので、開創部が不意に動いて手術の妨げとなることや手術器具等が患部でない部位に不意に接触して傷付けることがないとともに、術野を確実に維持した状態で手術を効率的に行うことができる。
【0027】
以上の説明においては、コイルばね2,3のコイル形状が円形である場合を示したが、コイル形状を円形ではなく楕円形等にしてもよい。
また、以上の説明においては、開創器1を構成する帯状体Aが一対の左巻きコイルばね2及び右巻きコイルばね3から製造される場合を示したが、左巻きコイルばね及び右巻きコイルばねのどちらか一方を加圧して塑性変形させて製造した、
図7の正面図に示すような帯状体Aであってもよい。
さらに、開創器1を構成する帯状体Aを、コイルばねを加圧して塑性変形させて帯状にすることなく、平面内に線材を引き回して帯状に形成した
図8の正面図に示すような繰り返し形状の帯状体Aであってもよい。
【0028】
以上のような構成の開創器1によれば、連結具Bによりループ状にした帯状体Aの外側面Dで開創部を閉じる方向の力を受け止めるので、先端が鈎状に形成された棒状の医療器具を引っ張って保持する手術助手が不要になるため、人手による開状態保持と比較して人件費を削減できるとともに、救命救急等において応急手術や緊急手術が必要で一人の医師で手術を行わなければならない場合であっても迅速な対応が可能になる。
また、前記医療器具の先端やリトラクタの先端を開創部に掛けて引っ張らないため、人手による開状態保持及びアーム支持タイプの開創器による開状態保持と比較して開創部が傷つかない。
さらに、邪魔になるアームや支柱等が無いため、アーム支持タイプの開創器による開状態保持と比較して作業性が低下しない。
さらにまた、線材により形成された帯状体Aを連結具Bによりループ状に形成する簡素な構成であるので、アーム支持タイプの開創器による開状態保持と比較して開創器1の製造コストを低減できる。
また、連結具Bにより帯状体Aを所要の大きさのループ状に形成できるので、従来の独立タイプの開創器による開状態保持と比較して、所要の術野を容易に確保できるとともに、手術の状況に応じた術野変更や術野面積の拡大・縮小を容易に行うことができる。
【0029】
さらに、帯状体Aが線材により形成されたものであるので、従来の独立タイプの開創器による開状態保持と比較して、ループ状にした開創器1を円形だけでなく、楕円形、卵形等に変形させて所要の術野を確保できるとともに、帯状体Aは幅方向へも変形可能であるため、下部の骨、筋肉又は血管等を傷付けないように避けることができる。
さらにまた、帯状体Aがコイルばねを加圧して塑性変形させたものである場合は、線材により形成された帯状体Aが、ばね巻き機(コイリングマシン)等により製作が容易なコイルばねを、例えばロール間に通して加圧し、塑性変形させることにより形成されるので、製造コストを低減できる。
また、コイルばねを加圧して塑性変形させて帯状体Aを形成することにより、ループ状の大きさを変えた場合であっても、帯状体Aの表面(上面及び下面、並びに外側面及び内側面)が滑らかな状態が維持されるため、患者の内臓等を傷付けることがないとともに、術者の手術手袋を破損することもない。
【0030】
さらに、前記コイルばねが、線径dよりもピッチpが大きいものであると、コイル間に隙間が形成されるので、加圧して塑性変形させて帯状体を形成する作業が容易になるとともに、ループ状にした開創器1を変形させやすいため、手術の状況に応じた術野変更や、下部の骨、筋肉又は血管等の損傷回避が容易になる。その上、線材により形成される帯状体Aの空所率が高くなり、ループ状にした帯状体Aに比較的大きな隙間E(
図1参照)が形成されることから、手術の際に術部及びその周辺が見やすいため、作業性を向上できる。
さらにまた、帯状体Aが、線径dよりもピッチpが大きい、一対の左巻きコイルばね2及び右巻きコイルばね3を重ね合わせたコイルばね重合体Cを加圧して塑性変形させたものであると、取扱い容易化等のために軽量で剛性が高くない線材(例えば、アルミニウム合金製の線材)を用いた場合であっても、開創部を閉じる方向の力を受け止めて開創部を開いた状態に保持するための所要の剛性確保が容易になる。
また、一対の左巻きコイルばね2及び右巻きコイルばね3を用いているので、重ね合わせてコイルばね重合体Cを形成する作業が容易であるとともに、ばね巻き機(コイリングマシン)等により製作が容易な一対のコイルばね2,3を用いているため、製造コストの上昇を抑制できる。
【符号の説明】
【0031】
1 開創器
2 左巻きコイルばね
3 右巻きコイルばね
4,5 掛止片
A 帯状体
B 連結具
C コイルばね重合体
D ループ状にした帯状体の外側面
d 線径
E 隙間
F 掛止具
p ピッチ
R1,R2 ロール