【解決手段】本発明の吸着剤は、水酸化セリウム(IV)と難溶性銀化合物とを有する。水酸化セリウム(IV)の含有量が50質量%以上99質量%以下であり、難溶性銀化合物の含有量が、1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。難溶性銀化合物が銀ゼオライト、リン酸銀、塩化銀及び炭酸銀から選ばれる少なくとも1種であることも好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の吸着剤について、その好ましい実施形態に基づき説明する。
【0017】
本発明の吸着剤は、水酸化セリウム(IV)と他の成分とを含有することにより、ヨウ素酸イオンに対する高い吸着性能を維持しながら、同時に他の物質を吸着することが可能である。吸着剤に含有される他の成分としては、ヨウ化物イオンを吸着するための銀化合物、ルテニウムを吸着するための二酸化マンガン等のマンガン酸化物、アンチモンを吸着するための含水酸化ジルコニウムなどがあげられる。
【0018】
特に、本発明の吸着剤は、水酸化セリウム(IV)と難溶性銀化合物とを含有する場合、ヨウ化物イオン及びヨウ素酸イオンの吸着性能が高い。従って、このような本発明の吸着剤によれば、水中のヨウ化物イオン及びヨウ素酸イオンを効率よく除去することができる。本発明の吸着剤では、水酸化セリウムと難溶性銀化合物とを併用することによりヨウ素酸イオンの吸着作用が相乗的に向上するものである。
【0019】
本発明の吸着剤で用いる水酸化セリウム(IV)は、200℃から600℃まで温度上昇したときの重量減少率が一定以上であることが好ましい。本発明者らは、この重量減少率が高い水酸化セリウム(IV)は、水中におけるヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオン等のアニオンとのイオン交換反応に寄与できるOH基の量が多く、このことが、本発明の吸着剤によるこれらのアニオンの吸着性能が高い理由の一つと考えている。前記の重量減少率が、4.0%以上であることは、ヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオン、特にヨウ素酸イオンの吸着性能を高める観点から好ましい。また水酸化セリウム(IV)の前記の重量減少率は、10.0%以下であることが安定した吸着性能を保持する観点から好ましい。これらの観点から、前記の重量減少率は、4.0%以上8.0%以下であることがより好ましい。水酸化セリウム(IV)の重量減少率を前記の範囲とするためには、後述する好ましい製造方法により、水酸化セリウム(IV)を製造すればよい。前記の重量減少率は、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0020】
本発明で用いられる水酸化セリウム(IV)は、赤外吸収スペクトル分析において、3270cm
-1以上3330cm
-1以下の範囲にヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピークが観察され、更に、1590cm
-1以上1650cm
-1以下の範囲及び1410cm
-1以上1480cm
-1以下の範囲にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが観察されることが好ましい。ヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオンの吸着能力の高い水酸化セリウムはこの分析において、3300cm
-1付近にヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピーク並びに、1620cm
-1付近及び1470cm
-1付近にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが明確に認められる。これに対してヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオンの吸着能力の低い水酸化セリウム(IV)はこれらの吸収ピークが小さい。好ましくは、本発明で用いられる水酸化セリウム(IV)の粉体又は粒状体は、赤外吸収スペクトル分析において、3280cm
-1以上3325cm
-1以下、特に3290cm
-1以上3320cm
-1以下の範囲にヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピークが観察されることが好ましく、1600cm
-1以上1640cm
-1以下、特に1610cm
-1以上1630cm
-1以下の範囲にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが見られることが好ましく、1420cm
-1以上1475cm
-1以下、特に1430cm
-1以上1470cm
-1以下の範囲にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが見られることが好ましい。前記の各範囲のピークを有する水酸化セリウム(IV)を得るためには、後述する好ましい製造方法により、水酸化セリウム(IV)を製造すればよい。赤外吸収スペクトルは、後述する実施例に記載の方法により測定できる。
【0021】
本発明で用いる水酸化セリウム(IV)は、その入手方法により限定されるものでないが、以下の製造方法で得ることが好ましい。
上記製造方法とは、3価のセリウム塩を酸化して4価のセリウム塩とし、得られた4価のセリウム塩の水溶液を中和して水酸化セリウム(IV)の粉体を得る方法である。
【0022】
3価のセリウム塩としては、硝酸セリウム(III)、塩化セリウム(III)、硫酸セリウム(III)、酢酸セリウム(III)などを用いることが出来る。硝酸セリウム(III)が、各種のセリウム化合物の製造や精製の出発材料であるため入手しやすい点から好ましい。
【0023】
3価のセリウム塩を湿式酸化する工程は、3価のセリウム塩を溶解した水溶液に、酸化剤を添加して行う。酸化剤としては過酸化水素、過酸化ナトリウムなどが挙げられる。過酸化水素が安価で一般的な点から好適に用いられる。3価のセリウム塩を溶解した水溶液におけるセリウム塩の濃度は、0.25mol/L以上0.8mol/L以下であることが好ましく、0.3mol/L以上0.6mol/L以下であることがより好ましい。酸化剤の添加量は、出発原料である3価のセリウム塩を酸化するのに十分な量であれば足りるが、3価のセリウム塩1molに対して、1.0mol以上2.0mol以下であることが好ましい。この工程により4価のセリウム塩を含む水溶液が得られる。
【0024】
酸化後の水溶液に中和剤を添加して、4価のセリウム塩から水酸化セリウム(IV)を得る。中和剤としては、アルカリが挙げられ、その具体例としては、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることが出来る。中和後のpHを6.5以上9.5以下の範囲とすることが好ましい。
【0025】
前記の酸化反応及び中和反応のそれぞれにおいて、反応を均一に進行させるために、酸化剤、中和剤を添加した後、一定時間反応液を撹拌することが好ましい。
【0026】
以上の工程により水酸化セリウム(IV)を含有するスラリーが得られる。得られたスラリーは常法により濾過して固形物を得、得られた固形物を洗浄し、乾燥する。この乾燥は、50℃以上110℃以下で、2時間以上48時間以下で行うことが好ましい。これにより、水酸化セリウム(IV)の乾燥品が得られる。
【0027】
前記の製造方法で得られた水酸化セリウム(IV)の乾燥品は通常は脆い塊状と粉状の混ざったものである。この乾燥品はこのまま水酸化セリウム(IV)の粉体として用いることができ、また、粉砕や分級等を施して粒度を調整した粉体とすることもできる。この場合の粉砕としては、例えば乾式粉砕が挙げられ、ジェットミルやボールミル、ハンマーミル、パルベライザーなどを用いることができる。
【0028】
本発明の吸着剤中、水酸化セリウム(IV)の含有量は、50質量%以上であることが、ヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオン、特にヨウ素酸イオン吸着剤の吸着性能を高める観点や、コストの高い銀化合物の配合量を抑制でき、製造コストを低減できる観点から好ましい。また本発明の吸着剤中、水酸化セリウム(IV)の含有量が99質量%以下であることが、吸着剤の製造のしやすさの観点や、ヨウ化物イオン及びヨウ化物イオンをバランスよく吸着する観点から好ましい。この観点から本発明の吸着剤中、水酸化セリウム(IV)の含有量は60質量%以上98質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上97質量%以下であることが特に好ましい。吸着剤における水酸化セリウム(IV)の含有量は、蛍光X線回析装置を用いた定量分析により、以下の方法で測定することができる。
【0029】
<水酸化セリウム(IV)の含有量の測定方法>
蛍光X線分析装置として、リガク社製ZSX100eを用いる。測定条件は、管球:Rh(4kW)、雰囲気:真空、分析窓材:Be(厚み30μm)、測定モード:SQX分析(EZスキャン)、測定径:30mmφとして、全元素測定を行うことにより測定する。水酸化セリウム(IV)の量は、測定結果よりCO
2成分を除去し、更に全成分から全不純物(セリウム化合物以外の成分、例えばAl
2O
3、Ag
2O、SiO
2、P
2O
5、CaO、SO
3、ZrO
2、Nd
2O
3、Au
2O、Cl、F)を引いた量を求め、水酸化セリウム(IV)の量とする。水酸化セリウム測定用の試料は、吸着剤をアルミリング等の適当な容器に入れ、ダイスで挟みこんでからプレス機で10MPaの圧力をかけてペレット化することにより得る。
【0030】
続いて本発明で用いる難溶性銀化合物を説明する。本発明では、銀化合物として、難溶性銀化合物を用いることにより、本発明の吸着剤が通液等の水処理に供される際に、銀化合物が溶解、流出してしまうことを防止できる。この観点から、本発明で用いる難溶性銀化合物は、20℃における水100gへの溶解度が10mg以下であることが好ましく、5mg以下であることがより好ましい。ここでいう溶解度は、1気圧つまり101.325kPa下における溶解度である。溶解度は常法により測定できる。
【0031】
本発明で用いる難溶性銀化合物の例としては、銀ゼオライト、リン酸銀(Ag
3PO
4、19.3℃の水100gへの溶解度が0.65mg、塩化銀(AgCl、10℃の水100gへの溶解度が0.08mg)、炭酸銀(Ag
2CO
3、 20℃の水100gへの溶解度が3mg)等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
ここで銀ゼオライトとは、三次元網状構造をもつアルミノ珪酸塩の一種であるゼオライトの陽イオン交換能を利用して、アルミノ珪酸塩の構造内に銀イオンを取り込んだものである。具体的にはイオン交換により、アルミノ珪酸塩を構成しているナトリウムイオン、カリウムイオン等の陽イオンの少なくとも一部を銀イオンに入れ替えたものをいう。銀ゼオライトを得るためのイオン交換に供するゼオライトとしては、例えば、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、T型ゼオライト、高シリカゼオライト、ソーダライト、モルデナイト、アナルサイム、クリノプチロライト、チャバサイト、エリオナイトなどの天然産出品、人工ゼオライトなどの半合成品及び化学合成品などが挙げられる。これらのゼオライトのうち、A型ゼオライトを用いることが難溶性銀化合物中の銀含有量を高める観点やイオン交換が容易に実施できる観点から好ましい。銀ゼオライトとしては、銀含有量が10質量%以上のものが好ましく、20質量%以上のものがより好ましい。この上限としては、例えばゼオライトがA型ゼオライトの場合、43.3質量%である。銀ゼオライト中の銀含有量は、銀ゼオライトを酸に溶解して、得られた溶液におけるゼオライト構成成分であるNa、Si、Al及びAgの量をICPでそれぞれ測定することにより、求めることができる。
【0033】
前記の難溶性銀化合物としては、溶解度が低いことや、銀含有率が高い等の観点から、リン酸銀、銀ゼオライト及び塩化銀から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、リン酸銀及び/又は銀ゼオライトであることがより好ましい。
【0034】
本発明の吸着剤中、難溶性銀化合物の含有量は、1.0質量%以上であることが、ヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオン、特にヨウ化物イオンの吸着性能を高める観点等から好ましい。また、難溶性銀化合物の含有量は、50質量%以下であることが、ヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオンをバランスよく吸着する観点や、吸着剤の製造しやすさの観点から好ましい。これらの観点から、本発明の吸着剤中の難溶性銀化合物の含有量は1.0質量%以上50質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上30質量%以下であることがより好ましい。吸着剤における難溶性銀化合物の含有量は、以下に記載の方法により測定することができる。
【0035】
<難溶性銀化合物の含有量の測定方法>
例えば、難溶性銀化合物が銀ゼオライトである場合は吸着剤を酸に溶解して、得られた溶液におけるゼオライト構成成分であるNa、Si、Al及びAgの量をICPでそれぞれ測定することにより、求めることができる。また例えば、難溶性銀化合物がリン酸銀又は炭酸銀等の銀の塩や塩化銀等のハロゲン化銀である場合は、吸着剤を硝酸に溶解したのち、難溶性銀化合物の構成成分であるAgの量をICPで測定して、測定値をAg
3PO
4やAg
2CO
3、AgCl等に換算することにより求めることができる。
【0036】
本発明の吸着剤の剤形としては粉状、粒状、カプセル状、シート状、棒状、板状、ブロック状、球状、円柱状等のいずれであってもよく、これらの1種又は2種以上を組み合わせた剤形であってもよい。ここでいう粒状は、顆粒状を含む。水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物はそれ自体は、通常、粉状であるから、これらを各種の成形加工を施すことで、上記の各種の剤形とすることができる。このような成形加工の例としては、例えば水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物を顆粒状に成型するための造粒加工や、水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物をスラリー化して塩化カルシウム等の硬化剤を含む液中に滴下して水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物をカプセル化する方法、樹脂芯材の表面に水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物を添着被覆処理する方法、天然繊維又は合成繊維で形成されたシート状基材の表面及び/又は内部に水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物を付着させて固定化してシート状にする方法などを挙げることができる。造粒加工の方法としては、公知の方法が挙げられ、例えば攪拌混合造粒、転動造粒、押し出し造粒、破砕造粒、流動層造粒、噴霧乾燥造粒(スプレードライ)、圧縮造粒等を挙げることができる。造粒の過程において必要に応じバインダーや溶媒を添加、混合してもよい。特に水酸化セリウム(IV)又は難溶性銀化合物の粒径が小さい場合、これをそのまま吸着塔に充填して通水すると、水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物の粒子が吸着塔内で詰まる場合があるため、上記各種成形加工を施すことによって、吸着塔内で使用しやすい形態とすることが好ましい。
【0037】
前記のバインダーとしては有機及び無機のいずれであってもよく、有機の結合剤としては例えばポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、デンプン、コーンスターチ、糖蜜、乳糖、ゼラチン、デキストリン、アラビアゴム、アルギン酸、ポリアクリル酸、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0038】
無機のバインダの例としては、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、炭酸ジルコニウムアンモニウム、シリカゾル、水ガラス、シリカ・アルミナゾル等が挙げられる。溶媒としては水性溶媒や有機溶媒等各種のものを用いることができる。また前記の成形加工において、顆粒等の成形品に磁性粒子を含有させると、吸着剤をヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオンを含む水から磁気分離で回収可能なものとすることが出来る。磁性粒子としては、例えば鉄、ニッケル、コバルト等の金属又はこれらを主成分とする磁性合金の粉末、四三酸化鉄、三二酸化鉄、コバルト添加酸化鉄、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の金属酸化物系磁性体の粉末が挙げられる。
【0039】
本発明の吸着剤は、200μm以上1000μm以下の粒度を有する粒状体からなることが好ましい。200μm以上1000μm以下の粒度を有する粒状体からなるとは、具体的には、JIS Z8801規格による目開きが212μmの篩と、前記の目開きが1mmの篩とを用いたときに、本発明の吸着剤の99質量%以上が目開き1mmの篩を通り且つ99質量%以上が目開き212μmの篩を通らないことが好ましい。このように、本発明の吸着剤中に200μm未満の粒径のものが少ない場合、吸着剤を吸着塔に充填して通水すると、粉体が吸着塔内で詰まりにくいため好ましい。また、本発明の吸着剤中に1000μm超の粒径のものが少ない場合、吸着剤の吸着能力が高く、全体の吸着性能が高くすることができるため、好ましい。特に、本発明の吸着剤は、300μm以上600μm以下の粒度を有する粒状体からなることが好ましい。具体的には、本発明の吸着剤は、JIS Z8801規格による目開きが300μmの篩と、目開きが600μmの篩とを用いたときに、99質量%以上が前記の600μmの篩を通り且つ99質量%以上が前記の300μmの篩を通らないことが好ましい。
【0040】
本発明の吸着剤は、前述したように、バインダや、硬化剤といった、水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物以外のその他の成分を含有することが可能である。一般に、本発明の吸着剤において水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物以外のその他の成分の含有量は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
特に例えばバインダや硬化剤等のその他の成分を極力用いない場合、本発明の吸着剤のヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオンの吸着性能を高めることができるため好ましい。このような場合の吸着剤中のその他の成分の量の例としては、5質量%以下、とりわけ3質量%以下が挙げられる。例えば本発明の吸着剤を、後述する製造方法により製造すると、このようにその他の成分を極力用いずに吸着剤を成形できるため好ましい。その他の成分の量は、上記の方法により水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物の含有量を求め、100質量%から、それらの含有量を引くことにより、求めればよい。
【0042】
以下では、本発明の吸着剤を製造する上記の好ましい製造方法を説明する。
この製造方法は、難溶性銀化合物と、湿式粉砕された水酸化セリウム(IV)とを含有する混合スラリーを得る工程と、該混合スラリーを固液分離した後、得られた固形物を乾燥して乾燥物を得る工程と、該乾燥物を粉砕して粉砕物を得る工程とを有する。
【0043】
前記の難溶性銀化合物と、湿式粉砕された水酸化セリウム(IV)とを含有する混合スラリーを得る工程の例としては、好ましくは以下の(a)及び(b)が挙げられる。
(a)難溶性銀化合物及び水酸化セリウム(IV)の混合物を湿式粉砕することで混合スラリーを得る。
(b)水酸化セリウム(IV)を湿式粉砕してスラリーを得、次いで、難溶性銀化合物を該スラリーに混合して混合スラリーを得る。
【0044】
以下ではまず、(a)の工程について説明する。
湿式粉砕としては、粉砕媒体を使用することが好ましく、この場合に使用する湿式粉砕機としては、例えばビーズミル、アトライタ(登録商標)、サンドグラインダー、ペイントシェーカー等が挙げられる。粉砕媒体としては球状(ボール)、円筒形等種々のものが使用可能であるが、球状のものが好ましい。粉砕媒体の材質としては、ガラス、アルミナ、ジルコニア等を挙げることができる。粉砕媒体の直径としては0.5mm以上5mm以下が好ましく、1mm以上3mm以下がより好ましい。湿式粉砕における分散媒は、水のほか、水と極性有機溶媒との混合溶媒等を用いることができる。極性有機溶媒としては、アルコールが好ましく、例えばメタノールやエタノール等が挙げられる。
【0045】
湿式粉砕に供する水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物との合計量に対する分散媒の量比は前記の合計量100質量部に対して分散媒を100質量部以上200質量部以下とすることが好ましく、125質量部以上185質量部以下とすることがより好ましい。また、湿式粉砕に供する水酸化セリウム(IV)及び難溶性銀化合物との合計量に対する粉砕媒体の量比は、前記の合計量100質量部に対して粉砕媒体を100容量部以上180容量部以下とすることが好ましく、110容量部以上170容量部以下とすることがより好ましい。この水酸化セリウム(IV)と粉砕媒体との量比における質量部とはg基準の量であり、容量部とはmL基準の量である。
【0046】
また湿式粉砕における粉砕粒度としては、平均粒子径で0.7μm以上3.0μm以下の範囲が好ましい。平均粒子径が0.7μm以上であることは、湿式粉砕後の固液分離で濾過を行った際に濾過の時間が短くなり効率を向上できるため好ましい。また平均粒子径が3.0μm以下であると、固液分離した固形物を乾燥して得られる乾燥物(乾燥ケーキ)が硬くなりやすく、その後の粉砕及び分級工程で、好適な粒状品が得やすいため好ましい。この観点から前記の平均粒子径は0.7μm以上3.0μm以下の範囲が好ましい。前記の平均粒子径は例えば、日機装(株)社製のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置であるマイクロトラック(例えば、マイクロトラックMT3000II)により測定できる。測定の際には、イオン交換水にヘキサメタリン酸ソーダを0.3%溶解させた溶液をマイクロトラックの試料循環器のチャンバーに入れる。このチャンバーに乾燥させた粒子を、装置が表示する適正濃度となるまで添加して分散させる。
【0047】
以上の(a)の工程により、湿式粉砕により混合スラリーが得られる。難溶性銀化合物を湿式合成反応やイオン交換反応により得る場合、(a)の工程の湿式粉砕では、難溶性銀化合物はこれらの反応終了後のスラリーを固液分離して得られたケーキを水酸化セリウムに加えて湿式粉砕を行うことが好ましい。
【0048】
上述した通り、(b)の工程は、(a)の工程と同様の湿式粉砕により水酸化セリウム(IV)を湿式粉砕してスラリーを得た後に、該スラリーに難溶性銀化合物を混合することにより混合スラリーを得る。水酸化セリウム(IV)に添加する難溶性銀化合物は、予め粉砕したものであることが好ましいが、難溶性銀化合物の粒径が既に十分に小さい場合等は、粉砕していないものであっても良い。難溶性銀化合物を予め粉砕して用いる場合は、当該粉砕は、湿式粉砕及び乾式粉砕のいずれであってもよい。また、スラリーと難溶性銀化合物の混合には、通常の撹拌混合機のほかに、ホモジナイザーなどの高速攪拌機を用いることができる。
【0049】
混合スラリーの固液分離は濾過により行うことが好ましく、またフィルタープレスや遠心分離機など、分離した固形物がブロック状で得られる分離設備により行うことが好ましい。また、固液分離により得られた固形物の乾燥は箱型乾燥機等で行うことができる。乾燥温度は100℃以上120℃以下が好ましい。乾燥温度を120℃以下とすることは、水酸化セリウム(IV)のイオン交換可能なヒドロキシル基が減少するのを防止しやすい観点から好ましい。乾燥した固形物の粉砕は、例えばローラーミル等で幅0.5mm以上2.0mm以下のスリットを通過させる方法が好ましい。
【0050】
また、固形物を乾燥し、次いで乾燥物を粉砕する各工程においては、含水状態の固形物をそのまま粉砕、乾燥させることに替えて、含水状態の固形物を複数の開孔が形成された開孔部材から押出成形して成形体を得、得られた該成形体を乾燥させた後、粉砕して粒子状としてもよい。この場合の粉砕は、ランデルミルにより行うことができる。開孔部材に形成された孔の形状としては、円形、三角形、多角形、環形等を挙げることができる。開孔の真円換算径は0.4mm以上1.0mm以下が好ましい。ここでいう真円換算径は、孔一つの面積を円面積とした場合の該面積から算出される円の直径である。
【0051】
粉砕物はそのまま用いてもよいが、上述した理由から、200μm以上1000μm以下の粒度に分級することが好ましく、300μm以上600μm以下の粒度に分級することがより好ましい。
【0052】
以上の製造方法で得られた吸着剤は、その高いヨウ素酸イオン及びヨウ化物イオンの吸着性能を生かして、放射性物質吸着材を充填してなる吸着容器及び吸着塔を有する水処理システムの吸着剤として好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り「%」は「質量%」を表す。実施例及び比較例で使用した評価装置は以下のとおりである。
【0054】
<評価装置>
・熱重量分析(TG−DTA分析):メトラー・トレド社製熱重量測定装置TGA/DSC1を用い、30mgの試料を、30℃から1000℃まで昇温速度5℃/minで温度上昇したときの200℃における試料の重量と600℃における試料の重量を測定し、下記計算式より重量減少率を算出した。
重量減少率(%)=(A−B)/A×100
(A:200℃における試料重量、B:600℃における試料重量)
・赤外吸収スペクトル分析:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NICOLET6700により、分解能:4cm
-1、積算数:256回、測定波数領域:400cm
-1〜4000cm
-1の条件にて測定した。ATR法により測定し、ATR補正及びスペクトルのスムージング処理を行った。
・吸着試験におけるヨウ化物イオン及びヨウ素酸イオンの濃度:イオンクロマトグラフ測定装置(ダイオテック社製DIONEX ICS1600)により測定した。
【0055】
<製造例1>銀ゼオライトの調製
A型ゼオライト(日本化学工業社製、製品名NA-100P)と硝酸銀との下記の反応により、銀交換A型ゼオライトを調製した。
Na
2O・Al
2O
3・2SiO
2・4.5H
2O+AgNO
3→
(Na,Ag)O・Al
2O
3・2SiO
2・4.5H
2O+NaNO
3
具体的には、前記のA型ゼオライト36.5gを500mLビーカーに入れ、イオン交換水300gを加えて撹拌してA型ゼオライトを分散させ、ゼオライト分散スラリーを得た。硝酸銀17.0gを100mLのイオン交換水に溶解して、ゼオライト分散スラリーに添加した。添加後、常温で3時間撹拌を継続してイオン交換させた。その後、反応後のスラリーをろ過し、得られた固形分を洗浄後、乾燥して銀交換A型ゼオライトを調製した。使用した硝酸銀の量は、A型ゼオライトの陽イオン理論交換容量の50%に相当する量であった。上記の方法で銀交換A型ゼオライト中の銀含有量を測定したところ、22.6%であった。
【0056】
<製造例2>リン酸銀の調製
リン酸水素2ナトリウムと硝酸銀との下記の反応により、リン酸銀を調製した。
Na
2HPO
4+3AgNO
3→Ag
3PO
4+2NaNO
3+HNO
3
リン酸水素2ナトリウム12水塩35.8gを300mLのイオン交換水に溶解した。硝酸銀51.0gを150mLのイオン交換水に溶解して、リン酸水素2ナトリウム水溶液に添加し、添加後、常温で1時間撹拌を継続して反応及び熟成させた。その後、反応後のスラリーをろ過し、得られた固形分を洗浄後、洗浄物を乾燥することによりリン酸銀(重量測定による推定純度:100%)を得た。
【0057】
<製造例3>水酸化セリウムの調製
硝酸セリウム(III)6水和物86.8g(0.2mol)を1Lビーカーに秤量して、イオン交換水500mLに溶解した。ここに35%過酸化水素水19.4g(0.2mol)を添加して1時間撹拌した。得られた混合物に、アンモニア水(6mol/L)を添加することにより、該混合物のpHを9.0とし、一昼夜撹拌を継続して、反応スラリーを得た。得られた反応スラリーをろ過して固形物を得、この固形物を洗浄した後、50℃で24時間乾燥して水酸化セリウム(IV)の乾燥品を得た。得られた水酸化セリウム(IV)について測定した前記重量減少率は4.3%であった。また得られた水酸化セリウムについて赤外吸収スペクトル分析を行った。得られたチャートを
図1に示す。
図1より、3270cm
-1以上3330cm
-1以下にヒドロキシル基の伸縮振動に帰属する吸収ピークが明確に認められ、また、1590cm
-1以上1650cm
-1以下及び1410cm
-1以上1480cm
-1以下の各範囲にヒドロキシル基の変角振動に帰属する吸収ピークが明確に認められた。得られた水酸化セリウムは、上述した蛍光X線回析装置を用いた定量分析により、純度が99%であることが確認された。
【0058】
<実施例1〜6>水酸化セリウム/銀化合物複合品の調製
水酸化セリウム(IV)として、製造例3で得られた水酸化セリウム(IV)の乾燥品を用いた。また、難溶性銀化合物として、製造例1で得られた銀ゼオライト又は製造例2で得られたリン酸銀を用いた。
100mLマヨネーズ瓶に、水酸化セリウム(IV)と、製造例1又は2で得られた難溶性銀化合物とを合計で35gとなるように入れた。水酸化セリウム(IV)と難溶性銀化合物との配合比(配合量)は、表1に示す通りとした。このマヨネーズ瓶に更に、イオン交換水50g及び2mmφのガラスビーズ60g(40mL)を入れて、ペイントシェーカーで20分間粉砕した。粉砕後のスラリーの平均粒子径を上記の方法で測定したところ、1.2μmであった。粉砕品をろ過した後、110℃で乾燥させた。乾燥後の固形物を乳鉢粉砕により粉砕した。得られた粉砕物を分級し、JIS Z8801規格における公称目開きが600μmの篩に通し、この篩を通ったものを、前記の公称目開きが300μmの篩に通して、粒度が300μm以上600μm以下の粒状品を得、これを各実施例の吸着剤とした。
【0059】
<比較例1>
製造例3で製造した水酸化セリウム(IV)35gをそのまま、比較例1の吸着剤とした。
【0060】
<比較例2>
製造例1で製造した銀ゼオライト35gをそのまま、比較例2の吸着剤とした。
【0061】
<比較例3>
製造例2で製造したリン酸銀35gをそのまま、比較例3の吸着剤とした。
【0062】
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られた吸着剤について、下記の方法で吸着試験を行った。
【0063】
<吸着試験方法>
塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl
2)、塩化マグネシウム(MgCl
2)、ヨウ化カリウム(KI)及びヨウ素酸(HIO
3)をイオン交換水に溶解することにより、以下の組成の吸着試験液を調製した。
(吸着試験液の組成)
NaCl 0.3%
Ca
2+ 400ppm
Mg
2+ 400ppm
I
- 50ppm
IO
3- 100ppm
【0064】
100mLのポリビンに、実施例1〜6及び比較例1〜3の何れかで得られた吸着剤0.5gと吸着試験液100gとを秤量し、密栓した。密栓したポリビンを10回倒立して静置した。静置開始から24時間経過後に再び10回倒立した。その後、ポリビンの中の吸着試験液をろ過してろ液を得た。得られたろ液におけるヨウ化物イオン(I
-)及びヨウ素酸イオン(IO
3-)の濃度を測定した。吸着前後における濃度の差を、吸着試験前の濃度で除すことにより、ヨウ化物イオン(I
-)及びヨウ素酸イオン(IO
3-)の吸着率を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
表1から明らかな通り、実施例1ないし6で製造された、水酸化セリウム(IV)と難溶性銀化合物とを含有する吸着剤は、ヨウ化物イオンの吸着率が82.2%以上と高く、しかも、ヨウ素酸イオンの吸着率も53.7%以上と高い。これに対し、水酸化セリウム(IV)を有し難溶性銀化合物を有しない比較例1では、ヨウ化物イオンの吸着率が31.6%と大幅に劣り、しかも、ヨウ素酸イオンの吸着率も45.6%に過ぎない。このことから、本発明の吸着剤は、水酸化セリウム(IV)に加えて、難溶性銀化合物を含有することにより、ヨウ化物イオン及びヨウ素酸イオンの両方について高い吸着性能を有することが明らかである。
また水酸化セリウム(IV)を有さず難溶性銀化合物を有する比較例2及び3では、ヨウ化物イオンの吸着率は高いものの、ヨウ素酸イオンの吸着率がゼロである。このことから明らかな通り、難溶性銀化合物はそれ単独ではヨウ素酸イオンの吸着作用を示さない。ところが、水酸化セリウムのみを用いた比較例1と、水酸化セリウムと難溶性銀化合物との混合物を用いた実施例1〜6とを比較すると、実施例1〜6では水酸化セリウムに難溶性銀化合物を添加することによりヨウ素酸イオンの吸着率が向上している。このことから、本発明の吸着剤では、水酸化セリウムと難溶性銀化合物とを併用することによりヨウ素酸イオンの吸着作用が相乗的に向上していることが判る。