(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-137438(P2016-137438A)
(43)【公開日】2016年8月4日
(54)【発明の名称】溶射ガンおよびこれを備えた溶射装置
(51)【国際特許分類】
B05B 7/18 20060101AFI20160708BHJP
C23C 4/12 20160101ALI20160708BHJP
B05B 7/22 20060101ALI20160708BHJP
【FI】
B05B7/18
C23C4/12
B05B7/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-13364(P2015-13364)
(22)【出願日】2015年1月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100161274
【弁理士】
【氏名又は名称】土居 史明
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(72)【発明者】
【氏名】辻井 元
【テーマコード(参考)】
4F033
4K031
【Fターム(参考)】
4F033QA01
4F033QB02Y
4F033QB07
4F033QB12Y
4F033QB19
4F033QG02
4F033QG05
4F033QG13
4F033QG16
4F033QG18
4K031DA03
4K031EA08
4K031FA13
(57)【要約】
【課題】エクステンションノズルを備えた溶射ガンにおいて、溶射処理を効率よく行うのに適した溶射ガンを提供すること。
【解決手段】本発明の溶射ガン200は、所定の軸方向に沿って延びる筒状のケース体210と、ケース体210に内挿されており、溶射ワイヤWを通す一対のワイヤ導管220と、ケース体210の先端側に着脱可能に設けられ、ケース体210の先端側外方において互いの中心軸線O1が交わるように配置された一対の給電チップ230と、一対のワイヤ導管220にそれぞれが内挿され、溶射ワイヤWを案内するための一対のガイドライナ240と、ケース体210の内部に設けられたガス流路250と、を備え、ガイドライナ240の先端部241は、給電チップ230の基端部231に内挿されるとともに給電チップ230の中心軸線O1に沿って延びており、一対のワイヤ導管220は、ガス流路250内に配置されている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸方向に沿って延びる筒状のエクステンション部と、
上記エクステンション部に内挿されており、溶射ワイヤを通すための一対のワイヤ導管と、
上記エクステンション部の先端側に着脱可能に設けられ、上記エクステンション部の先端側外方において互いの中心軸線が交わるように配置された一対の給電チップと、
上記一対のワイヤ導管にそれぞれが内挿され、上記溶射ワイヤを案内するための一対のガイドライナと、
上記エクステンション部の内部に設けられ、溶射ガスを流すためのガス流路と、を備え、
上記ガイドライナの先端部は、上記給電チップの基端部に内挿されるとともに当該給電チップの上記中心軸線に沿って延びており、
上記一対のワイヤ導管は、上記ガス流路内に配置されていることを特徴とする、溶射ガン。
【請求項2】
上記ワイヤ導管は、上記エクステンション部の基端側から外部に延びている、請求項1に記載の溶射ガン。
【請求項3】
上記ガイドライナは、上記ワイヤ導管の全長にわたって内挿されるとともに上記ワイヤ導管の基端から外部に延びている、請求項2に記載の溶射ガン。
【請求項4】
上記ガイドライナは、可撓性を有する樹脂からなる、請求項1ないし3のいずれかに記載の溶射ガン。
【請求項5】
上記エクステンション部の先端側には、互いが異なる方向を向く複数の吐出口が設けられており、
上記ガス流路は、各々が上記吐出口につながる複数の分岐流路と、これら複数の分岐流路の各々が連通する共通流路と、を含み、
上記一対のワイヤ導管は、上記共通流路に配置されている、請求項1ないし4のいずれかに記載の溶射ガン。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の溶射ガンと、上記溶射ガンに溶射ワイヤを送り込むワイヤ送給手段と、上記溶射ガンにガスを送り込むガス供給手段と、上記溶射ガンに電力を供給する電力供給手段と、備えることを特徴とする、溶射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶射物に溶射被膜を形成する溶射ガン、およびこれを備えた溶射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射装置を用いて行うアーク溶射においては、溶射ワイヤを溶射ガンに送給させつつアーク放電によって溶射ワイヤを溶解させる。溶解した溶射ワイヤはガス流によって被溶射物へ噴き付けられ、当該被溶射物の表面に溶射被膜が形成される。狭小部での溶射や長尺管材の内面での溶射などでは、長尺の溶射ガンが必要となるが、そのような長尺の溶射ガンを備えた溶射装置が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【0003】
特許文献1に記載された溶射装置において、溶材W(溶射ワイヤ)は、一対の溶材導管2(ワイヤ導管)の内部に通されて一対の溶材ノズル16(給電チップ)まで送給される。一対の溶材導管2は、互いが略平行となるように長手方向に延びている。一対の溶材ノズル16は、溶材導管2の先端側に配置されている。これら溶材ノズル16は、特許文献1の第5図に示されるように、溶材導管2に対して内向きに屈曲する姿勢とされる。一対の溶材ノズル16の中心軸線は、溶材ノズル16の先端側外方で交わっている(アーク点)。溶材導管2および溶材ノズル16内を通過した溶材Wは、中心軸線上のアーク点に向って移動し、そこでアーク放電を行って溶滴化される。同文献の第4図に示されるように、溶材導管2と略平行に空気導管3(ガス流路)が設けられており、この空気導管3を流れたガスが、溶滴となった溶材に向かって噴出する。なお、同文献の第5図に示されるように、溶材導管2にはテフロン(登録商標)管11(ガイドライナ)が内挿されており、このテフロン管11の内部に溶材Wを通すことによって溶材の摺動抵抗の低減が図られている。
【0004】
一方、特許文献2には、シリンダブロックのボア面(円筒内面)にアーク溶射処理を行うための溶射装置が記載されている。同文献に記載された溶射装置は、比較的に長尺な溶射ガンを備えている。溶射ガンは、ワイヤ導管およびガス流路が円筒部材(エクステンション部)の内部に設けられた構成である。当該溶射ガンをシリンダボア内に挿入した状態にて、ボア面に溶射被膜を形成する。ボア面への溶射被膜の形成は、溶射ガンおよびシリンダブロック(ボア面)を相対移動させながら行う。ワイヤ導管およびガス流路が円筒部材内に配置されているため、ワイヤ導管およびガス流路に溶着ヒューム等が直接付着することはなく、これらワイヤ導管およびガス流路は保護されている。
【0005】
上記特許文献2に示されたような長尺の円筒部材内にワイヤ導管を配置する構成では、ワイヤ導管の経路が長くなるので、ワイヤ導管内でのワイヤの摺動抵抗が増加する。ワイヤの摺動抵抗低減のためにワイヤ導管内にガイドライナを挿入するのが好ましい。また、ワイヤの摺動抵抗を低減する観点から、ガイドライナの材質としては、テフロン樹脂などの樹脂製とするのが好ましい。
【0006】
一方、円筒部材内に配置されたワイヤ導管については、放熱性が悪く、給電チップからの熱により高温になりやすい。ワイヤ導管にガイドライナを内挿する場合、当該ガイドライナを給電チップに近接させると、高温環境に晒されることによってガイドライナが軟化や変質等を来し、ワイヤを案内する機能を損なう虞がある。このような不具合を回避するためには、給電チップに供給する溶射電流を低減して高温化を抑制する、あるいはガイドライナを給電チップから遠ざけて配置する、などの対策が考えられるが、溶射処理速度の低下やワイヤ送給の不安定化によって生産性の低下を来すことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3030442号公報
【特許文献2】特許第4496783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、エクステンションノズルを具備する構成において、溶射処理の効率を改善するのに適した溶射ガン、およびこれを備えた溶射装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0010】
本発明の第1の側面よって提供される溶射ガンは、所定の軸方向に沿って延びる筒状のエクステンション部と、上記エクステンション部に内挿されており、溶射ワイヤを通すための一対のワイヤ導管と、上記エクステンション部の先端側に着脱可能に設けられ、上記エクステンション部の先端側外方において互いの中心軸線が交わるように配置された一対の給電チップと、上記一対のワイヤ導管にそれぞれが内挿され、上記溶射ワイヤを案内するための一対のガイドライナと、上記エクステンション部の内部に設けられ、溶射ガスを流すためのガス流路と、を備え、上記ガイドライナの先端部は、上記給電チップの基端部に内挿されるとともに当該給電チップの上記中心軸線に沿って延びており、上記一対のワイヤ導管は、上記ガス流路内に配置されていることを特徴としている。
【0011】
好ましい実施の形態においては、上記ワイヤ導管は、上記エクステンション部の基端側から外部に延びている。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記ガイドライナは、上記ワイヤ導管の全長にわたって内挿されるとともに上記ワイヤ導管の基端から外部に延びている。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記ガイドライナは、可撓性を有する樹脂からなる。
【0014】
好ましい実施の形態においては、上記エクステンション部の先端側には、互いが異なる方向を向く複数の吐出口が設けられており、上記ガス流路は、各々が上記吐出口につながる複数の分岐流路と、これら複数の分岐流路の各々が連通する共通流路と、を含み、上記一対のワイヤ導管は、上記共通流路に配置されている。
【0015】
本発明の第2の側面よって提供される溶射装置は、本発明の第1の側面に係る溶射ガンと、上記溶射ガンに溶射ワイヤを送り込むワイヤ送給手段と、上記溶射ガンにガスを送り込むガス供給手段と、上記溶射ガンに電力を供給する電力供給手段と、備えることを特徴としている。
【0016】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る溶射ガンを備えた溶射装置の一例を示す全体概略図である。
【
図2】本発明に係る溶射ガンの一例を示す正面図である。
【
図7】溶射ガンの作用を説明するための
図6と同様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る溶射ガンを備えた溶射装置の一例を示す全体概略図である。溶射装置100は、基台110と、この基台110上に起立する支持板120と、支持板120に設けられた一対のワイヤ送給機構130と、溶射ガン200と、電源部300と、ガス供給手段400と、を備えている。
【0020】
基台110には、載置テーブル111が設けられ、この載置テーブル111上にワーク500(被溶射物)が置かれている。載置テーブル111は、ワーク移動機構112に支持されている。詳細な図示説明は省略するが、ワーク移動機構112は、水平面内でのスライド移動、昇降および回転の各動作を行うことが可能であり、ワーク移動機構112の動作によってワーク500に所望の動きを与えることができる。
【0021】
本実施形態において、ワイヤ送給機構130は、ワイヤリール131、ガイドローラ132、送給ローラ133、およびモータ134を備えており、ワイヤリール131に巻き取られた溶射ワイヤWを溶射ガン200に向けて送り出すものである。
【0022】
ワイヤリール131は、たとえば水平方向に延びる軸心回りに回転可能なリールに溶射ワイヤWが巻き取られた形態を有しており、回転しながら溶射ワイヤWを繰り出すことができる。ワイヤリール131から繰り出される溶射ワイヤWは、ガイドローラ132を経て下向きに方向を変え、溶射ガン200に至っている。
【0023】
送給ローラ133は、対をなすローラの少なくとも一方がモータ134によって駆動される。送給ローラ133は、ワイヤリール131に近接する位置と溶射ガン200に近接する位置との2箇所に設けられている。本実施形態においては、一対のワイヤ送給機構130の駆動により、溶射ワイヤWが対をなして溶射ガン200に供給される。
【0024】
電源部300は、溶射ガン200に電力を供給するものである。電源部300からの電力は、定電圧制御されて給電ケーブル310を介して溶射ガン200に供給され、後述のワイヤ導管220、給電部材215を介して給電チップ230に供給される。
【0025】
ガス供給手段400は、溶射ガン200にガスを送り込むものであり、たとえばコンプレッサにより噴出された圧縮エアを、流量および圧力が制御された状態で溶射ガン200に送り込む。
【0026】
溶射ガン200は、被溶射物にアーク溶射を行うものであり、適所に設けられたブラケット140を介して支持板120に支持されている。
図2〜6に示すように、溶射ガン200は、ケース体210と、一対のワイヤ導管220と、一対の給電チップ230と、一対のガイドライナ240と、ガス流路250とを備えている。
【0027】
ケース体210は、筒状本体211、上部カバー212、および下部カバー213を含んで構成される。筒状本体211は、所定の軸方向に長状に延びる円筒形状とされている。上部カバー212は筒状本体211の上端(基端)を塞いでおり、下部カバー213は筒状本体211の下端(先端)に設けられている。筒状本体211は、本発明でいうエクステンション部に相当する。
【0028】
ワイヤ導管220は、溶射ワイヤWを通すものであり、たとえば銅管などの金属製パイプによって構成される。ワイヤ導管220は筒状本体211に内挿されており、ワイヤ導管220の下部は、ケース体210の下端寄りに設けられた絶縁部材214を介して当該ケース体210に支持されている。ワイヤ導管220の上部は、上部カバー212を貫通してケース体210の上端側(基端側)から外部に延びている。ワイヤ導管220は、筒状本体211の軸方向と略平行に延びている。各ワイヤ導管220の下端は、金属製の給電部材215に接続されている。詳細は後述するが、一対のワイヤ導管220は、ガス流路250内に配置されている。
【0029】
給電チップ230は、給電部材215に取り付けられている。給電部材215は、ワイヤ導管220と給電チップ230との間に位置しており、一対の給電チップ230に対応するように対をなして設けられている。より詳細には、
図6によく表れているように、給電部材215の先端部には雌ねじ215aが形成され、また、給電チップ230の基端部231には雄ねじ231aが形成されており、雌ねじ215aに雄ねじ231aを螺合することによって給電チップ230が給電部材215に取り付けられる。このようにして、給電チップ230はケース体210の下端側(先端側)に着脱可能に設けられている。
【0030】
一対の給電部材215に形成された一対の雌ねじ215aは、筒状本体211の軸方向に対して傾斜して延びる。そして、
図6によく表れているように、一対の給電部材215に取り付けられた一対の給電チップ230については、互いの中心軸線O1がケース体210の先端に向かうほど近接している。これら中心軸線O1は、ケース体210の先端側外方において交わっており、当該交点がアーク点Oxとして設定される。
【0031】
図5、
図6に示すように、ケース体210の先端部には、溶射ガスを外部に噴出するための吐出口216が設けられている。本実施形態において、吐出口216は、第1吐出口216a、第2吐出口216b、および第3吐出口216cを含んで構成される。これら第1ないし第3吐出口216a,216b,216cは、互いに異なる方向を向いている。
【0032】
第1吐出口216aは、ケース体210の下端付近に位置する絶縁部材217に形成されており、ケース体210の軸方向であって当該ケース体210の先端側である方向xを向いている。第2吐出口216bは、下部カバー213の下垂部分の先端に形成されている。第2吐出口216bは、方向xと交差する方向yを向いている。
図6に表れているように、第2吐出口216bは、複数の長孔を含む。
図5に示すように、第3吐出口216cは、下部カバー213の下垂部分に形成されている。第3吐出口216cは、方向xおよび方向yのいずれにも直角である方向に見て、方向yよりも方向x側に傾く方向(第3方向)を向いている。第3吐出口216cは、第2吐出口216bよりもケース体210の基端側に位置する。
【0033】
ガス流路250は、ケース体210の内部に設けられており、溶射ガスを吐出口216(216a,216b,216c)まで流すための流路である。本実施形態において、ガス流路250は、ケース体210の内部空間によって構成されており、共通流路251、第1分岐流路252、および第2分岐流路253を有する。共通流路251は、筒状本体211の内側空間の大部分を占めており、比較的に大きな容積である。筒状本体211の外径寸法に対して共通流路251の占有する断面積が比較的大きい。
【0034】
ワイヤ導管220は、共通流路251において露出しており、このようにして、ワイヤ導管220は、共通流路251(ガス流路250)内に配置されている。第1分岐流路252は、第1吐出口216aにつながっている。第2分岐流路253は、第2および第3吐出口216b,216cにつながっている。第1および第2分岐流路252,253は、互いに分離している。本実施形態において、第1分岐流路252は、方向yに離間する2箇所に設けられている。第1および第2分岐流路252,253は、各々、共通流路251に連通している。
【0035】
一対のガイドライナ240は、それぞれ一対のワイヤ導管220に内挿されている。ガイドライナ240は、可撓性を有する円筒形状とされており、溶射ワイヤWを挿通させることによってこの溶射ワイヤWを案内する機能を果たす。ガイドライナ240を構成する材料としては、溶射ワイヤWの摺動抵抗の小さいものが好ましい。そのような材料としては、たとえばテフロン樹脂などの合成樹脂を挙げることができる。
【0036】
各ガイドライナ240は、ワイヤ導管220の全長にわたって内挿される。
図6によく表れているように、ガイドライナ240の下端部241(先端部)は、給電チップ230の基端部231に内挿されており、給電チップ230の中心軸線O1に沿って延びている。
図3、
図4に表れているように、ガイドライナ240の上端部(基端部)は、ワイヤ導管220の上端(基端)から突出して外部に延びている。
【0037】
次に、上記した実施形態に係る溶射ガン200および溶射装置100の作用について説明する。
【0038】
溶射装置100を用いて行う溶射作業時には、ワイヤ送給機構130によって溶射ガン200に溶射ワイヤWが送給される。送給された溶射ワイヤWは、ガイドライナ240内を挿通し、このガイドライナ240によってガイドされながらワイヤ導管220内を進む。そして、溶射ワイヤWは、ガイドライナ240の下端部241を経て給電チップ230へ送られ、給電チップ230に接触しながら中心軸線O1に沿ってアーク点Oxに向かう。
【0039】
溶射ガン200には電源部300によって電力が供給される。溶射ワイヤWが給電チップ230に接触することにより、給電部材215から給電チップ230を介して溶射ワイヤWに電力供給される。そして、一対の給電チップ230から送り出された一対の溶射ワイヤWがアーク点Oxで短絡することによって、一対の溶射ワイヤWの先端間にアークが発生する。
【0040】
溶射ガン200にはまた、ガス供給手段400からの圧縮ガスが送り込まれる。当該ガスは、ガス流路250(共通流路251、第1および第2分岐流路252,253)を通過し、吐出口216(第1ないし第3吐出口216a〜216c)から噴出される。当該噴出されたガスは、溶射ワイヤWの先端のアークに吹き付けられ、溶融金属が液滴や微粒子状となって被溶射物の表面に溶射被膜が形成される。
【0041】
本実施形態の溶射ガン200においては、長状の筒状本体211に内挿されたワイヤ導管220が、ガス流路250(共通流路251)内に配置されている。このような構成によれば、ガス流路250(共通流路251)を流れるガスによってワイヤ導管220が冷却される。溶射アークの発生時には、給電チップ230付近でのアークの輻射熱やワイヤ導管220での抵抗発熱によって給電チップ230ないしワイヤ導管220が高温になりやすい。長状の筒状本体211に内挿されるワイヤ導管220は、比較的に長尺であるので、このワイヤ導管220をガス流路250(共通流路251)に晒すことによって、ワイヤ導管220ないし給電チップ230を効率よく冷却することができる。その結果、ワイヤ導管220ないし給電チップ230が高温環境に晒されるのを回避することができる。
【0042】
上述のようにワイヤ導管220ないし給電チップ230を効率よく冷却することにより、ワイヤ導管220ないし給電チップ230が高温環境に晒されるのを回避することができる。このため、ワイヤ導管220に内挿するガイドライナ240についてたとえば樹脂製のものを採用しても、給電チップ230側までガイドライナ240を挿入することができる。そして、本実施形態において、
図6を参照して上述したように、ガイドライナ240の先端部241は、給電チップ230の基端部231に内挿され、当該給電チップ230の中心軸線O1に沿って延びている。このような構成によれば、溶射ワイヤWをアーク点Oxに向けて安定して送給することができるので、溶射被膜の品質向上を図ることができる。また、ガイドライナ240としてテフロン樹脂等のように摺動抵抗が小さいものを採用することができ、溶射ワイヤWの送給安定性が向上する。
【0043】
ガイドライナ240の先端部241が給電チップ230の基端部231に内挿される構成によれば、給電チップ230の雄ねじ231aを緩めて当該給電チップ230を取り外すと、
図7に示すように、ガイドライナ240の先端部241が筒状本体211の下端外方に臨む。これにより、ガイドライナ240を交換する際、使用済のガイドライナ240を筒状本体211の下部から抜き出すとともに、新しいガイドライナ240を筒状本体211の下部から挿入することができる。したがって、ガイドライナ240の交換作業性に優れている。
【0044】
ガイドライナ240は、ワイヤ導管220の全長にわたって内挿されるとともにワイヤ導管220の基端から外部に延びている。このような構成によれば、ガイドライナ240の交換作業性を良好にしつつ、ガイドライナ240による溶射ワイヤWの送給安定性をより向上させることができる。
【0045】
ガス流路250は、各々が吐出口216a(216b,216c)につながる複数の分岐流路252,253と、これら複数の分岐流路252,253の各々が連通する共通流路251と、を含む。一対のワイヤ導管220は、共通流路251に配置されている。本実施形態においては、吐出口(216a,216b,216c)が3系統であるのに対し、ガス流路250については、共通流路251を経て各吐出口に対応する分岐流路(252,253)に向かわせる。このような構成によれば、共通流路251を流れるガスの流量は、各分岐流路252(253)を流れるガスの流量よりも多い。したがって、共通流路251に一対のワイヤ導管220を配置する構成は、当該ワイヤ導管220を効率よく冷却するのに適する。
【0046】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲は上記した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、すべて本発明の範囲に包摂される。
【0047】
上記実施形態において、給電チップが1つの部材から構成される場合について説明したが、給電チップを2以上の部材によって構成してもよい。たとえば、給電チップを、ワイヤ導管側に位置する第1チップ部材と、この第1チップ部材に対して着脱可能に取り付けられる第2チップ部材とからなる2部材によって構成してもよく、この場合、ガイドライナの先端部は、第1チップ部材の全体から第2チップ部材の基端に至るまで内挿される。このような構成によれば、エクステンション部の先端側にある第2チップ部材を取り外すだけでガイドライナを交換することができる。
【符号の説明】
【0048】
100 溶射装置
110 基台
111 載置テーブル
112 ワーク移動機構
120 支持板
130 ワイヤ送給機構
131 ワイヤリール
132 ガイドローラ
133 送給ローラ
134 モータ
140 ブラケット
200 溶射ガン
210 ケース体
211 筒状本体
212 上部カバー
213 下部カバー
214 絶縁部材
215 給電部材
215a 雌ねじ
216 吐出口
216a 第1吐出口
216b 第2吐出口
216c 第3吐出口
217 絶縁部材
220 ワイヤ導管
230 給電チップ
231 (給電チップの)基端部
231a 雄ねじ
240 ガイドライナ
241 (ガイドライナの)下端部(先端部)
250 ガス流路
251 共通流路
252 第1分岐流路
253 第2分岐流路
300 電源部
310 給電ケーブル
400 ガス供給手段
500 ワーク(被溶射物)
O1 中心軸線
Ox アーク点
W 溶射ワイヤ
x 方向
y 方向