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特開2016-137625樹脂被覆アルミニウム材及びその製造方法、並びに、アルミニウム樹脂接合材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-137625(P2016-137625A)
(43)【公開日】2016年8月4日
(54)【発明の名称】樹脂被覆アルミニウム材及びその製造方法、並びに、アルミニウム樹脂接合材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20160708BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20160708BHJP
【FI】
   B32B15/08 N
   C23C28/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-13517(P2015-13517)
(22)【出願日】2015年1月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100188570
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 あい
(72)【発明者】
【氏名】村岡 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 真一
(72)【発明者】
【氏名】前園 利樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4K044
【Fターム(参考)】
4F100AB10A
4F100AB13B
4F100AB31A
4F100AK01C
4F100AK01D
4F100AK03D
4F100AK07C
4F100AK26C
4F100AK41C
4F100AK57C
4F100AL09D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100BA10D
4F100DD07B
4F100EH23
4F100EH46
4F100EJ69B
4F100EJ85
4F100EJ86
4F100GB32
4F100JB02
4F100JB16C
4F100JB16D
4F100JK06
4F100JL01
4F100YY00B
4K044AA06
4K044BA13
4K044BA17
4K044BA21
4K044BB03
4K044BB04
4K044BC02
4K044BC05
4K044CA04
4K044CA16
4K044CA17
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】熱可塑性樹脂との接着性及び耐食性に優れた樹脂被覆アルミニウム材及びその製造方法、並びに、当該樹脂被覆アルミニウム材と熱可塑性樹脂とを接合させたアルミニウム樹脂接合材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の樹脂被覆アルミニウム材は、アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の少なくとも一方の面に形成された下地処理被膜と、前記下地処理被膜上に形成された第1の熱可塑性樹脂層とを有する樹脂被覆アルミニウム材であって、前記第1の熱可塑性樹脂層の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであり、前記下地処理被膜の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであるとき、下記式(1)で定義されるΔγが30mN/m以下であることを特徴とする。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の少なくとも一方の面に形成された下地処理被膜と、前記下地処理被膜上に形成された第1の熱可塑性樹脂層とを有する樹脂被覆アルミニウム材であって、
前記第1の熱可塑性樹脂層の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであり、前記下地処理被膜の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであるとき、下記式(1)で定義されるΔγが30mN/m以下であることを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材。
【請求項2】
前記下地処理被膜の表面粗さRaは0.03μm以上0.5μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂被覆アルミニウム材。
【請求項3】
前記第1の熱可塑性樹脂層の厚さは1μm以上10μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂被覆アルミニウム材。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の樹脂被覆アルミニウム材における第1の熱可塑性樹脂層上に、第2の熱可塑性樹脂層が形成されたことを特徴とするアルミニウム樹脂接合材。
【請求項5】
アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の少なくとも一方の面に形成された下地処理被膜と、前記下地処理被膜上に形成された第1の熱可塑性樹脂層とを有する樹脂被覆アルミニウム材の製造方法であって、
前記第1の熱可塑性樹脂層の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであり、前記下地処理被膜の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであるとき、下記式(1)で定義されるΔγが30mN/m以下となるように前記下地処理被膜を形成することを特徴とする樹脂被覆アルミニウム材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3に記載の樹脂被覆アルミニウム材を所定の形状に加工する工程と、
前記第1の熱可塑性樹脂層上に第2の熱可塑性樹脂層を形成する工程と、を有することを特徴とするアルミニウム樹脂接合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂との接着性及び耐食性に優れた樹脂被覆アルミニウム材及びその製造方法、並びに、当該樹脂被覆アルミニウム材と熱可塑性樹脂とを接合させたアルミニウム樹脂接合材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業では軽量化による燃費向上を意図して、アルミニウム材料や樹脂材料の適用が進められている。このため、アルミニウム材料と樹脂材料とを接合することが必要となっている。軽量化を効率的に達成するためリベットなどによる機械的な接合ではなく、アルミニウム材料と樹脂材料とを直接接合する技術の開発が望まれる。しかし、樹脂がポリオレフィンのような難接着性樹脂である場合、アルミニウムとの接合が困難であった。また、アルミニウム材料と樹脂材料との接合が不完全であると、界面に侵入した水によってアルミニウムが腐食し、接合面が破壊されてしまう。
【0003】
例えば、特許文献1には、自動車用モールディング等に利用され、ポリオレフィン樹脂組成物との接合性に優れた樹脂被覆金属材料が開示されている。この樹脂被覆金属材料は、金属芯材に、無水マレイン酸で変性したポリプロピレン樹脂70〜99重量%とエチレン−酢酸ビニル共重合体1〜30重量%からなる0.1〜10μm厚さの接着剤層を形成したものである。接着剤層を形成した金属芯材は、接着剤層を介してポリオレフィン樹脂組成物と接合されている。
【0004】
特許文献2には、複数の凹部が形成されているとともに、厚さ5nm以上1000nm以下のアルミニウム水和酸化物層で覆われた表面を備え、前記複数の凹部の面積が、前記表面の面積の15%以上であることを特徴とする表面処理アルミニウム材が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の樹脂被覆金属材料では、ポリプロピレン樹脂等からなる接着剤層とポリオレフィン樹脂組成物等の樹脂材料との接着性は優れているものの、金属芯材に対する下地処理が最適化されていないため、接着剤層と金属芯材の下地処理面との界面で剥離し、十分な接着強度が得られないという問題があった。特許文献2の表面処理アルミニウム材では、アルミニウム材の表面がアルミニウム水和酸化物層で覆われているため、エポキシ樹脂など極性官能基を有する樹脂との接着性は優れているが、ポリオレフィン樹脂のような無極性樹脂との接着性が悪い。また、アルミニウム材の表面に多数の凹凸が形成されているため、樹脂が十分に覆われず隙間が生じ、耐食性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4656499号公報
【特許文献2】特開2014−062299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂との接着性及び耐食性に優れた樹脂被覆アルミニウム材及びその製造方法、並びに、当該樹脂被覆アルミニウム材と熱可塑性樹脂とを接合させたアルミニウム樹脂接合材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の樹脂被覆アルミニウム材は、アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の少なくとも一方の面に形成された下地処理被膜と、前記下地処理被膜上に形成された第1の熱可塑性樹脂層とを有する樹脂被覆アルミニウム材であって、前記第1の熱可塑性樹脂層の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであり、前記下地処理被膜の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであるとき、下記式(1)で定義されるΔγが30mN/m以下であることを特徴とする。
【0009】
前記下地処理被膜の表面粗さRaは0.03μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0010】
また、前記第1の熱可塑性樹脂層の厚さは1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明のアルミニウム樹脂接合材は、上記樹脂被覆アルミニウム材における第1の熱可塑性樹脂層上に、第2の熱可塑性樹脂層が形成されたことを特徴とする。
【0012】
本発明の樹脂被覆アルミニウム材の製造方法は、アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材の少なくとも一方の面に形成された下地処理被膜と、前記下地処理被膜上に形成された第1の熱可塑性樹脂層とを有する樹脂被覆アルミニウム材の製造方法であって、前記第1の熱可塑性樹脂層の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであり、前記下地処理被膜の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであるとき、下記式(1)で定義されるΔγが30mN/m以下となるように前記下地処理被膜を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明のアルミニウム樹脂接合材の製造方法は、上記樹脂被覆アルミニウム材を所定の形状に加工する工程と、前記第1の熱可塑性樹脂層上に第2の熱可塑性樹脂層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の樹脂被覆アルミニウム材及びアルミニウム樹脂接合材は、所定の下地処理被膜を介することによりアルミニウム基材と熱可塑性樹脂層との接着性に優れており、さらにアルミニウム基材と熱可塑性樹脂層の接着界面における耐食性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(樹脂被覆アルミニウム材)
本発明の樹脂被覆アルミニウム材は、アルミニウム基材と、当該アルミニウム基材の少なくとも一方の面に形成された下地処理被膜と、当該下地処理被膜上に形成された第1の熱可塑性樹脂層とを有する。なお、以下では、第1の熱可塑性樹脂層を、単に「熱可塑性樹脂層」と記す。
【0016】
(アルミニウム基材)
本発明の樹脂被覆アルミニウム材に用いる基材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材である。以下において、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基材を、単に「アルミニウム基材」と記す。なお、アルミニウム以外の金属を基材に用いることもできる。
【0017】
(下地処理被膜)
本発明の樹脂被覆アルミニウム材において、下地処理被膜は、脱脂処理、塗布型化成処理、反応型化成処理、酸化皮膜系化成処理及び陽極酸化処理のいずれによって形成されてもよい。具体的には、蒸気脱脂、リン酸クロメート、クロム酸クロメート、リン酸ジルコニウム、リン酸チタニウム、塗布型クロメート、塗布型ジルコニウム、ベーマイト、硫酸陽極酸化などの処理で形成される。
【0018】
下地処理被膜の表面粗さRaは0.03μm以上0.5μm以下であることが好ましい。下地処理被膜の表面粗さRaが0.03μm以上0.5μm以下であることで、熱可塑性樹脂層との接触面積が増加し、接着強度を向上させることができる。また、熱可塑性樹脂層と下地処理被膜との間の隙間の発生を抑制することができるため、耐食性の低下を抑制することができる。表面粗さRaが0.03μm未満である場合、下地処理被膜の表面積が低下し、結果として熱可塑性樹脂層との接触面積が低下するため接着強度が低下する場合がある。表面粗さRaが0.5μmを超える場合、下地処理被膜に多数の微細な凹部があり、熱可塑性樹脂層が十分に接触できず隙間が生じるため耐食性が低下する場合がある。
【0019】
(下地処理被膜と熱可塑性樹脂層の表面自由エネルギー)
アルミニウム基材とポリオレフィンなどの難接着性の熱可塑性樹脂を接合する際に、接着性を向上させるため、アルミニウム基材上にプライマーを形成する手法が知られている。しかし、アルミニウム基材に形成された下地処理被膜の表面がプライマーに対し適当なものでない場合、下地処理被膜の表面とプライマーとの界面で剥離し、接着強度が低下する傾向があった。
【0020】
接着物を被着物へ接着させる場合、接着物が被着物にぬれることが重要である。本発明者らは、鋭意検討の結果、単に熱可塑性樹脂層と下地処理被膜の表面自由エネルギーが近いだけでなく、分散成分、極性成分及び水素結合成分といった表面自由エネルギーの成分のそれぞれが近いとき、ぬれ性が高まり、接着強度が高まることを見出した。すなわち、熱可塑性樹脂層の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであり、下地処理被膜の表面自由エネルギーの分散成分、極性成分及び水素結合成分がそれぞれγ、γ及びγであるとき、式(1)で定義されるΔγが30mN/m以下となるように下地処理被膜の形成法を選択することで、樹脂被覆アルミニウム材の接着強度及び耐食性が向上することを見出した。
【0021】
熱可塑性樹脂層及び下地処理被膜の表面自由エネルギーの関係において、式(1)で定義されるΔγが30mN/m以下であることで、熱可塑性樹脂が溶融したときに熱可塑性樹脂と下地処理被膜とのぬれ性が向上し、熱可塑性樹脂層が下地処理被膜表面の凹凸を覆い、熱可塑性樹脂層と下地処理被膜の接触面積が増加するため接着強度が増加する。また、熱可塑性樹脂層と下地処理被膜との間に生じる隙間の発生が抑制されるため耐食性が向上する。さらに、熱可塑性樹脂層と下地処理被膜のぬれ性が向上することで、熱可塑性樹脂層中の分子と下地処理被膜中の分子の間の距離が近づき、双極子―双極子相互作用や水素結合が有効に作用することで接着強度が向上する。Δγは20mN/m以下であることがより好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂層及び下地処理被膜の表面自由エネルギーの関係において、式(1)で定義されるΔγが30mN/mを超える場合、熱可塑性樹脂が溶融したときに下地処理被膜へのぬれ性が低下し、熱可塑性樹脂層と下地処理被膜の接触面積が減少するため接着強度が低下する。また、熱可塑性樹脂層が下地処理被膜表面の凹凸を完全に覆うことができなくなるため、熱可塑性樹脂層と下地処理被膜との隙間が生じ耐食性が低下する。Δγが40mN/mを超える場合、更に接着性及び耐食性が低下する。なお、熱可塑性樹脂層及び下地処理被膜の表面自由エネルギーは、表面自由エネルギーが既知の液体にて測定した接触角を基に拡張Fowkesの式より算出することができる。
【0023】
(熱可塑性樹脂層)
本発明の樹脂被覆アルミニウム材において、熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂は、付加重合樹脂及び縮合重合樹脂のいずれであってもよい。具体的に、熱可塑性樹脂はポリオレフィン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂などである。熱可塑性樹脂の融点は350℃以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂の融点が350℃を超える場合、熱可塑性樹脂層を下地処理被膜上に形成する際に下地処理被膜が熱分解するため接着強度及び耐食性が低下する。
【0024】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン等の炭素2〜6のα−オレフィン、シクロペンテン、メチルシクロペンテン、ジメチルシクロペンテン、シクロヘキセン;メチルシクロヘキセン、ジメチルシクロヘキセン、ノルボルネン等の炭素数3〜7のシクロオレフィン;ブタジエン、イソプレン等のジエン類;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン類;をモノマーとした単独重合体又は共重合体が挙げられる。好ましくは、エチレン、プロピレンの単独共重合体である。ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、10000〜100000であることが好ましく、より好ましくは20000〜70000である。
【0025】
飽和ポリエステル樹脂は、具体的に、重合性不飽和結合を有しない二塩基酸又はその低級アルキルエステル誘導体と、ジオールとの重縮合物である。
【0026】
重合性不飽和結合を有しない二塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、無水フタル酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム等の芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、マロン酸、蓚酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸無水物等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、必要に応じて安息香酸などの重合性不飽和結合を有しない一塩基酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの重合性不飽和結合を有しない多塩基酸、ε−カプロラクトン等のラクトンを併用してもよい。
【0027】
ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、2−メチルプロパンジオール、1,5−ペンタジオールなどの炭素数2〜10の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂環式ジオール;ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタンなどの多価アルコールを併用してもよい。
【0028】
飽和ポリエステル樹脂の数平均分子量は特に限定されないが、例えば5000〜50000である。また、水酸基価は特に限定されないが、例えば10000〜30000である。
【0029】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、アリーレン基とスルフィド結合とを有する樹脂である。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、ジフェニレンエーテル基、ジフェニレンスルホン基、ビフェニレン基、ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが挙げられる。ポリアリーレンスルフィド樹脂は、好ましくはポリフェニレンスルフィド樹脂である。
【0030】
ポリアクリルアミド樹脂は、アクリルアミドをモノマーとした単独重合体又は共重合体である。ポリアクリルアミド樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、1000〜100000であることが好ましく、より好ましくは5000〜50000である。
【0031】
熱可塑性樹脂層の厚さは1μm以上10μm以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂層の厚さを1μm以上10μm以下とすることにより、熱可塑性樹脂層の内部に蓄積する内部応力が抑えられ、接着強度の低下を抑止することができ、良好な耐食性を付与することができる。厚さが1μm未満の場合、下地処理被膜の一部が露出し耐食性が低下する場合がある。厚さが10μmを超える場合、熱可塑性樹脂層の内部に蓄積する内部応力が大きくなり、下地処理被膜との接着強度が低下するため接着性が低下する場合がある。
【0032】
熱可塑性樹脂層は、押出コートラミネート、塗装によって下地処理被膜上に形成することができる。押出コートラミネートは溶融した熱可塑性樹脂を押出ダイからフィルム状に押出し、基材に貼り付ける方法であり、塗装は熱可塑性樹脂を溶剤に溶解し、得られた溶液を下地処理被膜上に塗布し焼付乾燥する方法である。
【0033】
(アルミニウム樹脂接合材)
本発明のアルミニウム樹脂接合材は、上記樹脂被覆アルミニウム材における熱可塑性樹脂層上に、第2の熱可塑性樹脂層が形成された材料である。
【0034】
(第2の熱可塑性樹脂層)
第2の熱可塑性樹脂層を構成する第2の熱可塑性樹脂は、付加重合樹脂及び縮合重合樹脂のいずれであってもよい。具体的にはポリオレフィン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアクリルアミド樹脂等である。第2の熱可塑性樹脂の融点は350℃以下であることが好ましい。第2の熱可塑性樹脂の融点が350℃を超える場合、第1の熱可塑性樹脂層を被覆する際に第1の熱可塑性樹脂層及び下地処理被膜が熱分解するため接着強度及び耐食性が低下する。なお、第2の熱可塑性樹脂層を構成する第2の熱可塑性樹脂と、第1の熱可塑性樹脂層を構成する第1の熱可塑性樹脂は同じであっても異なっていてもよい。
【0035】
第2の熱可塑性樹脂層は、押出成型や熱圧着によって樹脂被覆アルミニウム材における第1の熱可塑性樹脂層上に形成することができる。
【0036】
(用途)
本発明の樹脂被覆アルミニウム材及びアルミニウム樹脂接合材は、接着強度と耐食性に優れている。このような樹脂被覆アルミニウム材及びアルミニウム樹脂接合材は、例えば自動車用モールディングとして好適に用いられるが、接着強度及び耐食性が必要とされるものであれば使用可能であり、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
(樹脂被覆アルミニウム材の作製)
アルミニウム基材表面には、下地処理被膜および熱可塑性樹脂層を以下のようにして形成した。まず、アルミニウム合金板(A5052−H34材、0.50mm厚さ)に下記の方法で下地処理を施した。得られた下地処理被膜の表面自由エネルギーを表1に示す。表面自由エネルギーは後述の方法で測定した。
脱脂+りん酸クロメート(A1):アルミニウム合金板表面を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗した後に乾燥した。次いで、市販のリン酸クロメート処理液を用いて下地処理を施した。
脱脂+酸洗+りん酸クロメート(A2):アルミニウム合金板表面を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗し2%希硫酸で酸洗した後に乾燥した。次いで、市販のリン酸クロメート処理液を用いて下地処理を施した。
脱脂+酸洗+りん酸クロメート+加熱(A3):アルミニウム合金板表面を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗し2%希硫酸で酸洗した後に乾燥した。次いで、市販のリン酸クロメート処理液を用いて下地処理を施した後に150℃雰囲気下で30分間乾燥した。
脱脂(A4):アルミニウム合金板表面を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗した後に乾燥した。
脱脂+ベーマイト(A5):アルミニウム合金板表面を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗した後に乾燥した。次いで、沸騰した純水中に1時間浸漬した。
脱脂+陽極酸化(A6):アルミニウム合金板表面を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗した後に乾燥した。次いで、20℃、15%硫酸中において1.5A/dmの電流を20分間印加し陽極酸化を施した後に、沸騰水中に浸漬し封孔処理した。
脱脂+塗布型クロメート(A7):アルミニウム合金板表面を弱アルカリ脱脂液で脱脂処理し、水洗した後に乾燥した。次いで、市販の塗布型クロメート処理液をCr付着量が10mg/mとなるように塗布し、雰囲気温度180℃の熱風乾燥炉で30秒間加熱乾燥した。
【0039】
【表1】
【0040】
次いで、アルミニウム合金板表面に形成した下地処理被膜上に熱可塑性樹脂層を形成し、樹脂被覆アルミニウム材を作製した。具体的に、B1、B2、B3の熱可塑性樹脂を、それぞれ200℃、200℃及び300℃で溶融させ、押出コートラミネートによって下地処理被膜上に熱可塑性樹脂層を形成した。また、B4の熱可塑性樹脂を、固形分比が10mass%となるように純水に溶解し、得られた塗料組成物を下地処理被膜上に塗装し、焼付乾燥させることによって熱可塑性樹脂層を形成した。到達板表面温度(PMT)は200℃、焼付時間は30秒とした。下記に使用した熱可塑性樹脂を示す。熱可塑性樹脂毎の被覆方法と表面自由エネルギーを表2に示す。表面自由エネルギーは後述の方法で測定した。
ポリオレフィン樹脂(B1):ポリプロピレン樹脂(商品名「ノバテックPP MA3」:日本ポリプロ株式会社製)
ポリエステル樹脂(B2):数平均分子量16000のポリエステル樹脂(商品名「エリーテルUE3125」:ユニチカ株式会社製)
ポリアリーレンスルフィド樹脂(B3):フィラーを含まないポリフェニレンスルフィド樹脂(商品名「トレリナA900」:東レ株式会社製)
ポリアクリルアミド樹脂(B4):重量平均分子量600000のポリアクリルアミド樹脂(商品名「ポリストロン503」:荒川化学工業株式会社製)
【0041】
【表2】
【0042】
(アルミニウム樹脂接合材の作製)
幅20mm、長さ55mmの寸法とした樹脂被覆アルミニウム材の熱可塑性樹脂層が形成された面に対して、圧縮比3のフルフライト型スクリューを備えた単軸押出機を用い、オレフィン系熱可塑性エラストマー(EXCELINK1300、MFR170g/10min、230℃:ジェイエスアール(株)製)を押出成形により5mm厚さで被覆することにより、第2の熱可塑性樹脂層を形成し、アルミニウム樹脂接合材を作製した。
【0043】
(アルミニウム樹脂接合材の評価)
実施例1〜12および比較例1〜10のアルミニウム樹脂接合材について、式(1)を用いてΔγを算出した。また、それぞれのアルミニウム樹脂複合材について接着性、耐食性を後述の方法で測定した。結果を、あわせて表3〜4に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
(表面自由エネルギー)
表面自由エネルギーの各成分が既知の液体として、蒸留水、ジヨードメタン及びエチレングリコールを各供試材に滴下した。各液体の接触角を測定し、表面自由エネルギーを算出した。なお、水の分散成分、双極子成分、水素結合成分はそれぞれ、29.1mN/m、1.3 mN/m、42.4 mN/mとし、ジヨードメタンの分散成分、双極子成分、水素結合成分はそれぞれ、46.8 mN/m、4 mN/m、0 mN/mとし、エチレングリコールの分散成分、双極子成分、水素結合成分はそれぞれ、30.1 mN/m、0 mN/m、17.6 mN/mとした。
【0047】
(接着性)
アルミニウム樹脂接合材の両端をチャックでつかみ、チャック間距離の変位速度が5mm/分となるように引張せん断試験を実施した。下記評価基準に基づいて評価した。
◎:界面剥離なし
○:界面剥離率が20%未満且つ接着強度1kN以上
△:界面剥離率が20%以上50%未満、又は、界面剥離率が20%未満且つ接着強度1kN未満
×:界面剥離率が50%以上
◎、○を合格とした。
【0048】
(耐食性)
JIS Z2371に基づき、塩水噴霧試験を1000時間行い、レイティングナンバー(R.N.)により耐食性を測定した。
◎: R.N. 9.5以上
○: R.N. 9.0以上 9.5未満
△: R.N. 7以上 9.0未満
×: R.N. 7未満
◎、○を合格とした。
【0049】
表3に示すように実施例1〜12はいずれも接着性及び耐食性が良好であった。また、実施例4〜6、8は接着性と耐食性が高いレベルで両立しており、極めて良好な接合面を形成している。
【0050】
これに対し、表4に示すように、比較例1〜6ではΔγが30mN/mを超えており、接着性に劣った。特に比較例3、6ではΔγが40mN/mを超えており、下地処理被膜への熱可塑性樹脂のぬれ性が低下し、熱可塑性樹脂層が下地処理被膜表面の凹凸を完全に覆うことができなくなるため耐食性も劣った。比較例7では、表面粗さRaが0.03μm未満となるため、接着強度がさらに低下し、接着性及び耐食性に劣った。比較例8では、表面粗さRaが0.5μmを超えるため、下地処理被膜表面に存在する多数の微細な凹部に熱可塑性樹脂が十分に接触できず隙間が生じ、接着性及び耐食性に劣った。比較例9では、熱可塑性樹脂層の厚さが1μm未満となるため、下地処理被膜表面の一部が露出し接着性及び耐食性に劣った。比較例10では、熱可塑性樹脂層の厚さが10μmを超えるため、熱可塑性樹脂層内の内部応力が大きくなり、下地処理被膜との接着強度が低下し、接着性及び耐食性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、熱可塑性樹脂との接着性及び耐食性に優れた樹脂被覆アルミニウム材、及び、樹脂被覆アルミニウム材と熱可塑性樹脂を接合させたアルミニウム樹脂接合材を得ることができる。