【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の自動車の内燃機関から排出される排ガス中には、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれている。このため、一般的には、車両にこれらの有害成分を分解除去するための排ガス浄化装置が設けられており、当該排ガス浄化装置内に配備された排ガス浄化用触媒によってこれらの有害成分が無害化されている。従来、このような排ガス浄化用触媒としては、アルミナ(Al
2O
3)等の多孔質金属酸化物からなる触媒担体に、貴金属、特には白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の白金族元素を担持させたものが広く知られている。
【0003】
しかしながら、これらの白金族元素は、産出される地域が少なく、その産出が南アフリカやロシア等の特定の地域に偏っていることから、非常に高価な希少金属である。また、これらの白金族元素は、自動車の排ガス規制の強化とともに使用量が増加しており、それゆえ資源の枯渇が懸念されている。このため、白金族元素の使用量を減らすとともに、将来的には、当該白金族元素の役割を他の金属等で代替することが必要とされている。そこで、白金族元素の使用量を減らすための又はそれに代わる触媒成分について多くの研究が行われている。
【0004】
一方で、排ガス浄化用触媒等の担持触媒の活性点に第2、第3の他の金属成分を添加することにより、当該担持触媒の活性や選択性がしばしば劇的な向上を示す場合がある。
【0005】
例えば、特許文献1では、卑金属である鉄と金とを組み合わせた合金触媒によってNOxを浄化する方法が記載されている。
【0006】
ここで、触媒金属に対して他の金属成分を添加した排ガス浄化用触媒を調製する方法としては、例えば、触媒金属を含有する化合物と他の金属成分を含有する化合物とを用いて、これらの成分を同時に又は逐次的に触媒担体に含浸担持する方法が一般的に知られている。しかしながら、このような触媒調製方法では、触媒金属と他の金属成分とが原子レベルで複合化した金属粒子又は活性サイトを形成することは一般に困難である。そして、このような複合化が十分でないときには、触媒金属に対して他の金属成分を添加したことによる効果を十分に発揮することができない場合がある。
【0007】
一方で、異なる金属成分が原子レベルで複合化した金属粒子又は活性サイトを形成しうる方法として、複数種の金属原子を有する多核錯体を用いた方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献2では、NH
3基等の窒素含有基が配位したPd又はPt等の単核錯体を塩基で処理等することにより、脱プロトン化を伴った多量化反応において複数種の金属原子を有する異種金属多核錯体を生成させ、そうして生成された異種金属多核錯体を含む水溶液に多孔質担体を含浸することで、異種金属クラスターを含む触媒を調製し得ることが記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<Ni及びAuを含有する異種金属多核錯体の製造方法>
本発明のNi及びAuを含有する異種金属多核錯体の製造方法は、架橋ヒドロキシル基を含むNi2核錯体とAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]を反応させる反応工程を含むことを特徴としている。
【0016】
触媒金属に他の金属成分を添加した排ガス浄化用触媒を調製する方法としては、先に記載したように、これらの成分を同時に又は逐次的に触媒担体に含浸担持する方法が一般的に知られている。また、別の方法としては、複数の金属元素を含む金属粒子を製造した後、当該金属粒子を従来の含浸法によって触媒担体に担持する方法が知られている。そして、このような複数の金属元素を含む金属粒子を製造する方法の1つとして、当該金属粒子を構成する各金属元素の塩を含む混合溶液にアルコールや水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を添加し、必要に応じて加熱等を行いながら、混合溶液中に含まれる各金属元素のイオンを同時に還元する方法が知られている。
【0017】
しかしながら、上記のような還元剤を用いた金属粒子の製造方法は、溶液中に溶解している各金属元素の塩又はイオンを還元する工程を含むため、当該各金属元素の塩又はイオンの還元されやすさに差がある場合には、各金属元素がナノレベル、特には原子レベルで共存した微細な金属粒子を形成することは非常に困難である。そして、各金属元素がナノレベルで共存していなければ、これらの金属元素を組み合わせたことによる特有の効果を十分に発揮することができない場合がある。
【0018】
今回、本発明者らは、架橋ヒドロキシル基を含むNi2核錯体とAu単核錯体のAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]とを用いてNi及びAuを含有する異種金属多核錯体を製造する方法を新たに見出した。また、本発明者らは、この方法によって得られた異種金属多核錯体を用いてNi及びAuを触媒担体に含浸担持することにより、水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を用いた従来の方法と比較して、より微細な二元金属粒子が触媒担体に担持された排ガス浄化用触媒を製造することができることをさらに見出した。
【0019】
[反応工程]
本発明によれば、上記の反応工程では、架橋ヒドロキシル基を含むNi2核錯体がAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]と接触される。
【0020】
架橋ヒドロキシル基を含むNi2核錯体としては、特に限定されないが、例えば、以下の一般式(1)、すなわち
【化1】
で表され、式中、R
1及びR
2がそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、フェニル基、アルコキシカルボニル基又はアシル基であり、Xが対イオンであるN−ヘテロサイクリックカルベン配位子を含む錯体が挙げられる。また、このようなN−ヘテロサイクリックカルベン配位子を含む錯体の具体例としては、例えば、以下の構造式(2)を有する化合物が挙げられる。
【化2】
【0021】
強力な電子供与性を有するN−ヘテロサイクリックカルベン配位子を含むことで、Ni2核錯体を反磁性物質にすることができる。この場合には、錯体の合成時に核磁気共鳴(NMR)を使用してその分子構造を同定することができるので、Ni及びAuを含有する異種金属多核錯体の合成をより容易に行うことが可能となる。
【0022】
上記の架橋ヒドロキシル基を含むNi2核錯体は、当業者に公知の任意の方法によって調製することが可能である。例えば、上記の構造式(2)を有するN−ヘテロサイクリックカルベン配位子を含むNi2核錯体は、以下の構造式(3)
【化3】
を有する化合物を出発原料として使用し、これに以下の反応式(4)で示されるように、水酸化ナトリウム(NaOH)などの塩基を加えてヨウ化物イオンを引き抜くことによって合成することが可能である。なお、塩基としては、特に限定されず、NaOH以外にも、水酸化カリウム(KOH)等を使用することが可能である。
【化4】
【0023】
この具体例では、Ni2核錯体は対イオンとしてI
-を含む。この場合、必要に応じて、対イオンを疎水性の特性を有する対イオン、例えば、以下の式(5)で示されるように[B(C
6F
5)
4]
-へと交換してもよい。疎水性の特性を有する対イオンを含むNi2核錯体を使用することで、例えば、Ni2核錯体とAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]との反応において使用される有機溶媒中に当該Ni2核錯体を確実に溶解させることが可能となる。
【化5】
【0024】
反応工程においては、以下の式(6)で具体的に表されるように、Ni2核錯体とAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]の反応が進行する。
【化6】
【0025】
Au(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]は、より具体的には以下の構造式(7)を有し、それは当業者に公知の任意の方法によって調製することが可能である。
【化7】
【0026】
架橋ヒドロキシル基を含むNi2核錯体とAu単核錯体のAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]とを反応させることにより、当該Ni2核錯体中の2つのNiを架橋するOH基とAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]中のAuとを結合させてNi及びAuを含有する異種金属多核錯体を得ることができる。
【0027】
Au(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]は塩基としての特性を有するために、当該Au(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]によってNi2核錯体中の架橋OH基からプロトンが除去される。このような脱プロトン化によって、Ni2核錯体とAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]との間でシリルアミンの脱離を伴う縮合反応が進行する。その結果として、Ni2核錯体中の架橋OH基とAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]中のAuとが結合したNi及びAuを含有する異種金属多核錯体、より具体的にはNi
2Au
24核錯体を得ることができる。
【0028】
本発明の反応工程で用いられるAu単核錯体すなわちAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]は、シリルアミン基、より具体的にはビス(トリメチルシリル)アミン基以外に、トリフェニルホスフィン(PPh
3)基を含む。しかしながら、上記式(6)からも明らかなように、このAu単核錯体は、Ni2核錯体との間でシリルアミンの脱離を伴う縮合が生じるものであればよく、それゆえシリルアミン基、特にはビス(トリメチルシリル)アミン基を必須の構成要素として含むものであればよい。したがって、上記式(6)の反応に直接的には関与しないAu単核錯体中のトリフェニルホスフィン(PPh
3)基は、必要に応じて他の任意の適切な基又は配位子と置換することが可能である。例えば、このようなAu単核錯体としては、以下の一般構造式(8)
【化8】
を有し、式中、R
3が水素原子、炭素数1〜20の置換又は非置換のアルキル基、フェニル基、アルコキシカルボニル基又はアシル基である化合物が挙げられる。
【0029】
上記の反応工程において導入されるAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]の量は、Ni2核錯体中のNiとの間の所望のモル比に応じて、あるいは最終的に得られる異種金属多核錯体中の所望のAu含有量に応じて適宜決定すればよい。特に限定されないが、一般的には、Au(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]は、Ni2核錯体中のNiに対してAuとNiのモル比(Au:Ni)が、1:0.1〜10となるような範囲において導入することができる。
【0030】
なお、上記の反応工程は、例えば、Ni2核錯体を溶媒に溶解した溶液に、Au(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]を溶媒に溶解した溶液を導入し、次いで所定の温度及び時間、例えば溶媒の凝固点以上でかつ約25℃以下の温度、特には約−95℃〜約25℃(室温)の温度で約1時間から約20時間にわたり攪拌等することによって実施することができる。なお、上記の溶媒としては、Ni2核錯体及びAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]を溶解させることができる任意の溶媒を使用することができ、特に限定されないが、好ましくは有機溶媒を使用することができる。
【0031】
反応工程における上記の有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル等のエーテル、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンセン及びジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素、N−メチル2−ピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド、並びにこれらのうち少なくとも1種とn−ヘキサン(単に「ヘキサン」と略記する場合がある)等の炭化水素との混合溶媒を挙げることができる。
【0032】
Ni2核錯体とAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]を反応させた後(すなわち反応工程の後)、任意選択で精製工程をさらに追加してもよい。このような精製工程は、当業者に公知の任意の方法によって実施することができる。特に限定されないが、例えば、反応工程後の粗生成物を再結晶等の操作によって精製することで、上記式(6)においてより純度の高いNi及びAuを含有する異種金属多核錯体を得ることが可能となる。
【0033】
<排ガス浄化用触媒の製造>
例えば、本発明の他の態様によれば、本発明の方法によって得られたNi及びAuを含有する異種金属多核錯体は、自動車等の排ガス浄化用触媒の調製において使用することができる。具体的には、反応工程、さらには任意選択の精製工程を経て上記のようにして製造されたNi及びAuを含有する異種金属多核錯体が、次いで担持工程において触媒担体に担持されて排ガス浄化用触媒が調製される。
【0034】
[触媒担体]
この担持工程において導入される触媒担体としては、特に限定されないが、排ガス浄化用触媒の技術分野において一般に触媒担体として用いられる任意の金属酸化物を使用することができる。このような触媒担体としては、例えば、アルミナ(Al
2O
3)、シリカ(SiO
2)、セリア(CeO
2)、ジルコニア(ZrO
2)、チタニア(TiO
2)、及びそれらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0035】
[担持工程]
担持工程においては、本発明の方法によって製造されたNi及びAuを含有する異種金属多核錯体を含む溶液に所定量の金属酸化物(触媒担体)の粉末を、Ni及び/又はAuの量(金属換算担持量)が当該触媒担体に対して一般的に0.01〜10wt%の範囲になるような量において導入する。次いで、これを所定の温度及び時間、特には異種金属多核錯体の錯塩部分を分解除去しかつNi及びAuからなる金属粒子を触媒担体上に担持するのに十分な温度及び時間において乾燥及び/又は焼成することにより、Ni及びAuからなる金属粒子を触媒担体に担持してなる排ガス浄化用触媒を得ることができる。
【0036】
一般的には、上記の乾燥は、減圧下又は常圧下において約80℃〜約250℃の温度で約1時間〜約24時間にわたって実施することができ、一方で、上記の焼成は、酸化性雰囲気中、例えば空気中において約200℃〜約800℃の温度で約30分間〜約30時間にわたって実施することができる。
【0037】
最後に、上記のようにして得られた排ガス浄化用触媒は、必要に応じて、例えば、高圧下でプレスしてペレット状に成形するか、又は所定のバインダ等を加えてスラリー化し、これをコージェライト製ハニカム基材等の触媒基材上に塗布することにより使用することができる。
【0038】
本発明の方法によって製造されたNi及びAuを含有する異種金属多核錯体を使用することで、NiとAuがナノレベル、特には原子レベルで共存した二元金属粒子であって、より均一で微細な二元金属粒子が触媒担体に担持された排ガス浄化用触媒を製造することができる。
【0039】
これとは対照的に、単に従来公知の共含浸法や逐次含浸法によって触媒担体にNi及びAuを担持したとしても、それらがナノレベルで共存した二元金属粒子を形成することはできない。一方で、先に記載した水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤を利用した方法によれば、NiとAuがナノレベルで共存した二元金属粒子を製造することは可能である。しかしながら、このような方法によって得られたNi−Au二元金属粒子は、本発明による異種金属多核錯体を使用して得られるNi−Au二元金属粒子と比較すると、平均粒子径が大きく、また組成の均一性も劣る場合がある。その結果として、触媒成分であるNiの排ガス浄化性能を十分に発揮できない場合や、NiとAuの複合化による効果を十分に発揮できない場合がある。
【0040】
本発明の方法によって製造されたNi及びAuを含有する異種金属多核錯体を使用することで、一般的には0nm超20nm以下、特には0nm超15nm以下、0nm超10nm以下、0nm超5nm以下、0nm超3nm以下、0nm超2nm以下、又は0nm超1nm以下のNiとAuからなる二元金属粒子が触媒担体に担持された排ガス浄化用触媒を製造することが可能である。
【0041】
一般的に、Ni等の卑金属は、白金族元素に比べて酸化されやすいことが知られている。そして、Niが排ガス中に含まれる酸素等の酸化性成分によって酸化された場合には、そのメタル化が不十分となり、結果として、排ガスの浄化、特にはNOxの還元浄化に対して十分な触媒活性を達成することができない。しかしながら、本発明によれば、NiとAuがナノレベル、特には原子レベルで共存していることで、酸素に対する親和力が比較的弱いAuによってそれと近接して存在しているNiの酸化が顕著に抑制されるものと考えられる。その結果として、Niを活性の高いメタルの状態に維持することが可能となり、得られる排ガス浄化用触媒の排ガス浄化活性を顕著に改善することが可能となると考えられる。
【0042】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
以下の実施例では、本発明の方法によってNi及びAuを含有する異種金属多核錯体を製造し、その構造等について調べた。また、当該異種金属多核錯体を用いて排ガス浄化用触媒を調製し、その特性について調べた。
【0044】
[実施例1]
[Ni及びAuを含有する異種金属多核錯体の製造]
特に断りのない限り、以下の全ての実験操作は、窒素雰囲気下で通常のシュレンクを用いて行った。テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサン、ジエチルエーテルは関東化学より脱水されたものを購入し、脱気した後用いた。アセトニトリルは和光純薬工業から脱水されたものを購入し、脱気して用いた。なお、分析は、以下に示す測定機器及び条件において行った。
IR測定:JASCO FT−IR4100
NMR測定:JEOL ECP500を用いて常温で測定
X線構造解析:リガクR−AXIS Rapidを使用し、リガクPROCESS−AUTO及びABSCORプログラムで処理後、直接法(SHELXS 97)を用いて構造解析を行い、ORTEP−3プログラムにより構造を図示した。
元素分析:Perkin Elmer 2400 CHNS/O analyzer
【0045】
Ni及びAuを含有する異種金属多核錯体の製造は、以下の式(9)に示されるようにして行った。
【化9】
【0046】
まず、出発原料の化合物1を水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で処理し、架橋ヒドロキシル基を含むNi2核錯体2を収率89%で得た。次いで、I
-から[B(C
6F
5)
4]
-へ対イオンの交換を行い、Ni2核錯体3を得た。次いで、当該Ni2核錯体365.4mg(0.183mmol)をテトラヒドロフラン(THF)5mLに溶解した後、−90℃に冷却し、別途調製した3当量のAu(PPh
3)[N(SiMe
3)
2]を加え、昇温攪拌後、室温で12時間攪拌した。反応液は黄色から変化しなかった。次いで、乾固後、ヘキサンで洗浄(10mL+5mL+4mL)し、THF/ヘキサン二層再結晶により、架橋ヒドロキシル基を含むNi
2Au
24核錯体を黄色ブロック状結晶として、錯体3に対して収率83%(437.9mg、0.152mmol)で得た。得られた錯体の分析結果は以下のとおりであった。
【0047】
1H NMR(500MHz,CD
3CN):d 3.79(s,NMe,24H),6.77(s,HC=CH,8H),7.45〜7.65(m,PPh
3,30H)
31P{
1H}NMR(202MHz,CD
3CN):δ 27.8(s,PPh
3)。
【0048】
図1は、実施例1において製造されたNi
2Au
24核錯体のX線結晶構造解析の結果を示す図である。
【0049】
[実施例2]
[Ni
2Au
24核錯体を用いた排ガス浄化用触媒(Ni−Au/SiO
2)の調製]
まず、50mLのビーカーにアセトニトリル20mLを入れ、そこに実施例1で製造されたNi
2Au
24核錯体0.28g(0.10mmol)を溶解した。次いで、室温で攪拌しながら、シリカ担体(Nanotek S
BET=94m
2/g)2.0gを加えて10分間攪拌した後、粉体を濾別した。次いで、これをアセトニトリルで洗浄した後、120℃で一晩乾燥することにより、Ni担持量が担体重量比で1wt%の排ガス浄化用触媒(Ni−Au/SiO
2)の粉末を得た。
【0050】
[比較例1]
[水素化ホウ素ナトリウム還元によるNi−Au粒子の合成]
まず、200mLのビーカーに酢酸ニッケル四水和物(Ni(CH
3COO)
2・4H
2O)2.71g(10.9mmol)を秤取り、それにテトラエチレングリコール80mLを加えて約80℃で加熱攪拌して溶解し、その後氷浴で冷却した。次いで、500mLのビーカーに保護剤としてのポリビニルピロリドン(PVP K−25)を21.6g(194mmol)秤取り、それにテトラエチレングリコール160mLを加えて約80℃で加熱攪拌して溶解し、その後氷浴で冷却した。次いで、30%塩化金酸(HAuCl
4)水溶液5.3g(10.9mmol)を100mLのビーカーに秤取り、テトラエチレングリコール40mLに溶解し、上記の酢酸ニッケル溶液及びPVP溶液と混合した。次いで、得られた溶液をフラスコに移し、窒素でバブリングしながら、これにテトラエチレングリコール40mLに溶かした水素化ホウ素ナトリウム4.4g(117mmol)を加え、バス温220℃で30分間にわたって加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却した後、アセトン3.6Lで希釈し、遠心分離(3000rpm×10分間)後、上澄み液を除去した。沈殿物に100mLのエタノールを加えてNi−Au粒子を含有する分散液を得た。
【0051】
[水素化ホウ素ナトリウム還元によるNi−Au粒子を用いた排ガス浄化用触媒(Ni−Au/SiO
2)の調製]
まず、上で得られたNi−Au粒子を含有する分散液(約50mL)を300mLのビーカーに入れ、水50mLを加えた後、マグネチックスターラーで攪拌した。次いで、シリカ担体(Nanotek SiO
2)をNi担持量が担体重量比で1wt%となるような量においてビーカーに入れ、加熱攪拌することにより分散媒を除去した。次いで乾燥機において120℃で12時間乾燥した後、乳鉢で粉砕し、最後に空気中300℃で30時間焼成することにより、排ガス浄化用触媒(Ni−Au/SiO
2)の粉末を得た。
【0052】
[STEMによる触媒の分析]
実施例2及び比較例1の排ガス浄化用触媒について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)(JEOL製JEM−1000、加速電圧:200kV)によってそれらの測定を行った。なお、各測定試料をエタノールに分散させ、モリブデングリッドに滴下後、乾燥させたものについて測定を行った。その結果を
図2及び3に示す。
【0053】
図2及び3は、それぞれ実施例2及び比較例1の排ガス浄化用触媒のSTEMによる分析結果を示している。
図3を参照すると、水素化ホウ素ナトリウム還元を利用して調製した触媒では、シリカ担体上に約5nm程度の粒子が存在することを確認することができる。これに対し、
図2を参照すると、Ni
2Au
24核錯体を用いて調製した触媒では、水素化ホウ素ナトリウム還元を利用して調製した触媒と比較してより小さな一次粒子、例えば数nm、特には約1nm以下の粒径を有する微細な粒子が数多く形成されていることを確認することができる。なお、EDXによる組成分析から、実施例2及び比較例1の両触媒について、これらの粒子おいてNiとAuの両方の元素が検出された。これらの結果は、Ni
2Au
24核錯体を用いて調製した触媒と水素化ホウ素ナトリウム還元を利用して調製した触媒の両方において、NiとAuの両元素が共存するナノ粒子が形成していることを裏付けるものである。