【実施例】
【0036】
以下、本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物に適する脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の組成を特定するために行った試験等について詳細に説明するが、本発明は、以下の構成に限定されるものではない。
[試験1]
本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物における脂肪酸アルカリ塩の組成の乳化安定性への影響を確認するために、各種脂肪酸アルカリ塩の組成毎にクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物を製造し、それぞれの乳化安定性、粘度及び使用感についての評価を行った。
【0037】
具体的には、
図1に示すように、脂肪酸アルカリ塩としてベヘン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、及びパルミチン酸カリウムを含有し、脂肪酸としてステアリン酸を含有する組成(M1)と、脂肪酸アルカリ塩としてM1と同じものを含有し、脂肪酸としてベヘン酸、ステアリン酸、及びパルミチン酸を含有する組成(M2)と、脂肪酸アルカリ塩としてステアリン酸カリウムを含有し、脂肪酸としてM2と同じものを含有する組成(M3)について試験を行った。
また、脂肪酸アルカリ塩としてラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、ベヘン酸カリウム、オレイン酸カリウムをそれぞれ含有し、残留脂肪酸としてM2と同じものを含有する組成(M4〜M8)について試験を行った。
【0038】
なお、
図1において、「ベヘン酸(K)」、「ステアリン酸(K)」、「パルミチン酸(K)」、「ミリスチン酸(K)」、「ラウリン酸(K)」、「オレイン酸(K)」は、それぞれ水酸化カリウムと反応させて脂肪酸アルカリ塩を得るために配合される脂肪酸の量を示している。
【0039】
クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の製造は、次のように行った。
まず、油性成分として、M1〜M8のそれぞれについて、脂肪酸を7.5重量%、その他の油性成分として、ハイオレイックヒマワリ油、ホホバ油、オリーブスクワランからなる液体油を8重量%、防腐剤を0.12重量%、及び酸化防止剤を0.05重量%処方し、これらの油性成分を混合してA相とした。
また、脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量に対する脂肪酸アルカリ塩の含量が29重量%となるように、アルカリと反応させてM1〜M8の脂肪酸アルカリ塩を得るための脂肪酸約2.5重量%を含むB相を準備した。
さらに、水溶性成分として、グリセリンを18重量%、エキス成分を0.1重量%、B相の脂肪酸と等量の48%KOH水溶液を処方し、全体の残量を水として、これらの水溶性成分を混合し、C相とした。
【0040】
そして、B相、C相をそれぞれ75℃に加温してC相にB相を加え、真空乳化機(PVQ−3UN,みづほ工業株式会社製)を用いて30分間混合、撹拌した。次いで、得られた混合物に70℃に加温したA相を加えて、均一に乳化した。その後、得られた乳化組成物を撹拌、混合しながら室温まで冷却し、クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物を得た。
【0041】
クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の乳化安定性の評価は、次の方法により行った。
すなわち、製造後1日経過したクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物を、チャック付きスタンドパック袋 ラミジップLZ−9(株式会社生産日本社製)の底部に40g入れ、ある程度袋を膨らませた状態でチャックをして、熱シールで密封した。これを10℃の恒温槽に入れて3時間以上放置した。次に加圧棒が固定されたレオメーター用昇降テーブルを恒温槽に入れ、上記の袋をテーブルに両面テープで固定した。テーブルを稼働させて加圧棒が袋の底部におけるクリームを十分に押圧できるように調整した。そして、この加圧装置を用いて、毎分24回、24時間加圧を行った。加圧終了後、クリームを底部に寄せて逆さにし、そのまま10℃の恒温槽で離水するまで保存した。
【0042】
クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の乳化安定性の評価基準を、保存開始日から離水の確認された日までの期間(図中の離水までの期間)にもとづいて、以下のように規定した。
・加圧中 :非常に低い(図中の×)
・1〜3日 :比較的低い(図中の△)
・4〜9日 :比較的高い(図中の○)
・10〜29日 :高い (図中の◎)
・30日以上 :極めて高い(図中の☆)
【0043】
本試験では、乳化安定性を加圧試験によって評価しているが、本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、加圧試験における離水までの期間が4日以上であれば、製品として用いるにあたっての十分な乳化安定性を有している。
また、この加圧試験における離水までの期間は、本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の乳化安定性を加速的に評価したものであり、加圧試験で長期間離水しないものは、極めて長期間の保管に適するなど、乳化安定性に関する優れた効果を奏するものである。
【0044】
クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の粘度の評価は、製造の翌日のクリームについて、VISCOMETER(BROOKFIELD社製)及び3号又は4号ローターを使用して粘度[mPa・s]を測定することにより行った。
【0045】
クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の使用感の評価は、製造の翌日のクリームを肌に塗布した際の使用感について、パネラー5名による官能評価をすることにより行った。具体的には、外観、伸び、白残り、被膜感、保湿感の各指標について各パネラーによる5段階評価の平均値にもとづき、以下の基準に従って評価した。
・3.1以上 :良い (図中の◎)
・2.6〜3.0:普通 (図中の○)
・2〜2.5 :やや悪い(図中の△)
・1.9以下 :悪い (図中の×)
【0046】
その結果、
図1に示すように、脂肪酸アルカリ塩としてベヘン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、及びパルミチン酸カリウムを含有し、脂肪酸としてステアリン酸を含有する組成(M1)のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、使用感が概ね良好であり、粘度も適切な値を示しているが、乳化安定性が非常に低いものであった。
これに対して、脂肪酸アルカリ塩としてM1と同じものを含有し、脂肪酸としてベヘン酸、ステアリン酸、及びパルミチン酸を含有する組成(M2)のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、使用感が概ね良好であり、粘度も適切な値を示し、乳化安定性が極めて高いものであった。
また、脂肪酸アルカリ塩としてステアリン酸カリウムを含有し、脂肪酸としてM2と同じものを含有する組成(M3)のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物も、使用感が概ね良好であり、粘度も適切な値を示し、乳化安定性が極めて高いものであった。
【0047】
すなわち、M1と、M2及びM3とを比較すると、M2及びM3では脂肪酸としてベヘン酸、ステアリン酸、及びパルミチン酸を含有させることによって、乳化安定性が飛躍的に向上している。
一方、M2とM3とを比較すると、脂肪酸アルカリ塩の組成による大きな影響は見られず、M2とM3の乳化安定性は、ほぼ同等である結果となっている。
これらのことから、乳化剤である脂肪酸アルカリ塩の組成よりも、脂肪酸の組成が乳化安定性により強く影響していることが分かる。
【0048】
また、脂肪酸アルカリ塩として飽和脂肪酸のアルカリ塩であるラウリン酸カリウム、ミリスチン酸カリウム、パルミチン酸カリウム、ベヘン酸カリウムをそれぞれ含有し、脂肪酸としてM2と同じものを含有する組成(M4〜M7)のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、使用感が概ね良好であり、粘度も適切な値を示し、乳化安定性が極めて高いか又は高いものであった。
一方、脂肪酸アルカリ塩として不飽和脂肪酸のアルカリ塩であるオレイン酸カリウムを含有し、脂肪酸としてM2と同じものを含有する組成(M8)のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、使用感が概ね良好であり、粘度も適切な値を示しているが、乳化安定性が非常に低いものであった。
したがって、脂肪酸アルカリ塩としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などのC12〜C22の飽和脂肪酸のアルカリ塩を用いることが好ましいことが明らかとなった。
【0049】
[試験2]
本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物に脂肪酸として含有させるベヘン酸、ステアリン酸、及びパルミチン酸の3成分の好適な割合の範囲を特定するための試験を行った。
具体的には、以下のP1〜P18までの18通りの脂肪酸組成について、脂肪酸アルカリ塩としてパルミチン酸カリウムを用いると共に、脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量を9.3重量%、脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量に対する脂肪酸アルカリ塩の含量を29重量%として、各クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物を製造し、乳化安定性、粘度、使用感についての評価を行った。
なお、本試験のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の製造方法、並びに乳化安定性、粘度、及び使用感についての評価方法は、試験1と同様である。
【0050】
以下、本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物に脂肪酸として含有させるベヘン酸、ステアリン酸、及びパルミチン酸の合計100重量%に対する、ベヘン酸、ステアリン酸、及びパルミチン酸の割合を、(ベヘン酸(重量%):ステアリン酸(重量%):パルミチン酸(重量%))の形式で示す。P1〜P18の脂肪酸組成は、次の通りである。
【0051】
P1(80:10:10)
P2(10:80:10)
P3(10:10:80)
P4(45:45:10)
P5(10:45:45)
P6(45:10:45)
P7(33:33:33)
P8(56:22:22)
P9(22:56:22)
P10(22:22:56)
P11(20:70:10)
P12(70:20:10)
P13(70:10:20)
P14(20:10:70)
P15(60:30:10)
P16(20:80:10)
P17(50:50:0)
P18(50:0:50)
【0052】
P1〜P18についてのクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の乳化安定性、粘度、及び使用感の評価結果を
図2及び
図3に示す。
これらの図において、P4(45:45:10)(実施例7)、P6(45:10:45)(実施例8)、P7(33:33:33)(実施例9)、P8(56:22:22)(実施例10)、P9(22:56:22)(実施例11)、P10(22:22:56)(実施例12)、P11(20:70:10)(実施例13)、P14(20:10:70)(実施例14)、P15(60:30:10)(実施例15)、P16(20:80:0)(実施例16)、及びP17(50:50:0)(実施例17)の脂肪酸組成のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、使用感が概ね良好であり、粘度も適切な値を示し、極めて高いか、又は高い安定性を示していた。
【0053】
(乳化安定範囲の特定)
試験2により優れた乳化安定性、粘度及び使用感を示すことが確認された脂肪酸の組成を、三角図に表した。その結果を
図4に示す。
図4の三角図において、(B)は、ベヘン酸を、(S)は、ステアリン酸を、(P)は、パルミチン酸を示し、右斜辺がベヘン酸の重量%を、左斜辺がステアリン酸の重量%を、底辺がパルミチン酸の重量%をそれぞれ示している。三角図内の任意の点により、これら3種類の脂肪酸の合計が100重量%となる脂肪酸組成を表すことができる。
【0054】
優れた乳化安定性、粘度及び使用感を示すことが確認された脂肪酸組成は、以下の4点:(B=65,S=35,P=0);(B=65,S=5,P=30);(B=15,S=5,P=80);及び(B=15,S=85,P=0)で囲まれる重量比の範囲、すなわち、ベヘン酸15〜65重量%、ステアリン酸5〜85重量%、及びパルミチン酸0〜80重量%の範囲に存在していることがわかる。
【0055】
また乳化安定性が高いものは、以下の4点:(B=60,S=40,P=0);(B=60,S=10,P=30);(B=20,S=10,P=70);及び(B=20,S=80,P=0)で囲まれる重量比の範囲、すなわちベヘン酸20〜60重量%、ステアリン酸10〜80重量%、及びパルミチン酸0〜70重量%の範囲に存在している。
【0056】
さらに、乳化安定性が極めて高いものは、以下の5点:(B=60,S=30,P=10);(B=60,S=20,P=20);(B=20,S=20,P=60);(B=20,S=50,P=30);及び(B=40,S=50,P=10)で囲まれる重量比の範囲、すなわちベヘン酸20〜60重量%、ステアリン酸20〜50重量%、及びパルミチン酸10〜60重量%の範囲に集中していることがわかる。
このように、本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、上記の脂肪酸の含有割合の範囲において、好適な乳化安定性、優れた粘度及び使用感を示すことが明らかとなった。
【0057】
[試験3]
本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物における脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の好適な合計含量を特定するための試験を行った。
具体的には、クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物における脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量が2.1重量%、4.2重量%、8.4重量%、9.2重量%、10.5重量%、12.6重量%である場合のそれぞれについて、脂肪酸アルカリ塩としてステアリン酸カリウムを用いると共に、脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量に対する脂肪酸アルカリ塩の含量を29重量%、脂肪酸組成を(B=33,S=33,P=33)として、各クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物を製造し、それぞれの乳化安定性、粘度及び使用感についての評価を行った。本試験のその他の点についてのクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の製造方法、並びに乳化安定性、粘度、及び使用感についての評価方法は、試験1と同様である。その結果を
図5に示す。
【0058】
図5に示される通り、脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量が2.1重量%のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、粘度が極端に低く、比較的低い安定性を示し、実用に適さないものであった(比較例10)。
一方、脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量が4.2〜10.5重量%のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、使用感が概ね良好であり、粘度も適切な値を示し、極めて高いか又は比較的高い安定性を示した(実施例18〜21)。
また、脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量が12.6重量%のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、極めて高い安定性を示したものの、粘度が極端に高く、実用に適さないものであった(比較例11)。
したがって、本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物に含有される脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量を3〜11重量%とすることが好適であることが分った。
【0059】
[試験4]
本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物における脂肪酸アルカリ塩の好適な含有割合を特定するための試験を行った。
具体的には、脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量に対する脂肪酸アルカリ塩の含量(石けん分割合)が17重量%、21重量%、29重量%、36重量%、43重量%、50重量%である場合のそれぞれについて、脂肪酸アルカリ塩としてステアリン酸カリウムを用いると共に、脂肪酸組成を(B=33,S=33,P=33)として、各クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物を製造し、それぞれの乳化安定性、粘度及び使用感についての評価を行った。本試験のその他の点についてのクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の製造方法、並びに乳化安定性、粘度、及び使用感についての評価方法は、試験1と同様である。その結果を
図6に示す。なお、
図6におけるS3のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、
図5におけるT4(実施例20)のものと同一である。
【0060】
図6に示される通り、石けん分割合が17重量%のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物(比較例12)は、使用感が概ね良好であり、粘度も適切な値を示しているが、安定性は比較的低いものであった。
一方、石けん分割合が21〜43重量%のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物(実施例22、20、23、24)は、使用感が概ね良好であり、粘度も適切な値を示し、極めて高いか、高いか、又は比較的高い安定性を示した。
また、石けん分割合が50重量%のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物(比較例13)は、粘度は適切な値であるものの、外観が悪く、比較的低い安定性を示した。
【0061】
したがって、本実施形態に係るクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物は、クリーム状化粧料用水中油型乳化組成物に含有される脂肪酸及び脂肪酸アルカリ塩の合計含量に対して、脂肪酸アルカリ塩が20〜45重量%含有されることが好適であることが分った。
【0062】
以上、本発明のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物の好ましい実施形態と実施例について説明したが、本発明のクリーム状化粧料用水中油型乳化組成物はこれらの実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、脂肪酸以外の油性成分として、実施例とは異なる他の液体油を含有させるなど適宜変更することが可能である。