ゲル状又は固体の形状を有し、紫外線を含む太陽光に曝されても分解等しにくい耐光性を有しながらも、さらに、太陽光のエネルギーを電力に変換する効率を向上させることができる電解質を具備する色素増感太陽電池を提供することを目的とする。
本発明は、カルボキシル基を有するフッ素化樹脂である高分子成分と、ルイス塩基と、を含有するゲル状又は固体である電解質を具備することを特徴とする色素増感太陽電池、前記電解質に、イオン液体が含有されていることを特徴とする前記色素増感太陽電池、前記ルイス塩基が前記高分子成分に対して、前記ルイス塩基/前記高分子成分=0.001/1〜10/1の重量比で含有されていることを特徴とする前記色素増感太陽電池などにより解決した。
前記ルイス塩基が前記高分子成分に対して、前記ルイス塩基/前記高分子成分=0.001/1〜10/1の重量比で含有されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の色素増感太陽電池。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池は、グラッツェルらの研究グループが1991年に太陽エネルギー変換効率7.1%を発表し(非特許文献1)、さらに1993年に同グループが同変換効率10%を発表したことに端を発し(非特許文献2)、世界的に注目される技術となっている。
【0003】
グラッツェルらが発表した色素増感太陽電池の構成は、ガラス板、又は透明プラスチックシートの内側にインジウム/スズ系の透明電導層を設け、さらにその透明電導層に二酸化チタンなどの微粒子金属酸化物を固定し、この金属酸化物にルテニウム化合物などの有機色素を吸着させた電極と、白金や炭素などの対極との間にヨウ素溶液などの酸化還元体を充填したものである。
【0004】
上記の色素増感太陽電池は、電極間の電解質として液体を使用しているが、実用化に際して電解液の漏洩、溶媒の揮発などにより、耐久性および安定に課題があった。このため、電解質を液体ではなく、固体化、又は、ゲル化して上記課題を解決しようとする試みがなされている。
【0005】
例えば、特許文献1では、固体電解質として、ポリエーテル、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸アルキルエステル、ポリメタクリル酸アルキルエステル、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリシロキサン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリヘキサフロロプロピレン、ポリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリルを主鎖に持つ高分子ないしはこれらモノマー成分2種類以上の共重合体等が開示されている。
【0006】
また、ゲル状電解質として、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸アルキルエステル、ポリメタクリル酸アルキルエステル、ポリカプロラクトン、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリシロキサン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリヘキサフロロプロピレン、ポリフロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリスチレン、ポリビニルピリジン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリアクリルアミド、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルカルバゾール、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリベンズイミダゾール、ポリアミン、ポリイミン、ポリスルフィド、ポリフォスファゼン、を主鎖に持つ高分子ないしはこれらモノマー成分2種類以上の共重合体等が開示されている。
【0007】
さらに、特許文献2では、色素増感太陽電池において、スルホ基、カルボキシル基、又は、ホスホリル基などの酸性の置換基を有するフッ素化樹脂からなるゲル状の電解質が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に関する実施形態について詳しく説明する。なお、範囲を表す表現は、その上限と下限を含むものである。
【0020】
色素増感太陽電池の負極は、0.1〜10mmの透明なガラス基板に酸化インジウムスズなどの材料を用いて、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの方法により100〜600nmの厚みで透明電導膜が形成され、その上に粒子径が1〜100nmである金属酸化物が分散された溶液を塗布し、加熱により溶媒を除去し、さらに高温に加熱して透明電導膜に10〜100μmの金属酸化物層が形成され、そして、有機色素を含有する溶液に金属酸化物層を浸漬し、その後、溶媒を乾燥除去して有機色素を金属酸化物層に吸着させることにより、作製される。
【0021】
この粒子状の金属酸化物は、バンドギャップ間の遷移が生じる金属酸化物が、複数集合して多孔質形状を有するものである。個々の金属酸化物の形状については、球状に限られるものでなく、棒状、針状、円錐状などいかなる形状であっても良い。また、その金属酸化物の素材としては、例えば、TiSrO
3 ,BaTiO
3 ,TiO
2 ,Nb
2 O
5 ,MgO,ZnO,WO
3 ,Bi
2 O
3 ,CdS,CdSe,CdTe,In
2 O
3 ,SnO
2などの各種金属酸化物が用いられる。このうち光電変換効率の向上のため、TiO
2を用いることが好ましい。また、TiO
2を用いる場合、結晶構造としてルチル型よりアナターゼ型の方がより好ましい。
【0022】
有機色素は、太陽光の特定の波長を吸収し励起状態となり、その有機色素が吸着する粒子状の金属酸化物に電子を注入する増感色素として機能する。そして、有機色素に含有される金属として、ルテニウム、オスミウム、鉄、銅、白金、コバルト、レニウム、クロムなどの遷移金属が使用される。
【0023】
このような有機色素として、cis−dithiocyano bis(4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)ruthenium;Ru(dcbpy)
2(NCS)
2;N3、bis(tetrabutylammonium)[shis−di(thiocyanato)−bis(2,2’−bipyridyl−4−carboxylate−4’−carboxylic acid)−ruthenium;N719、Ru(tctpy)
2(NCS)
3;N714、Ru(dmipy)(dcbpyH)I、Ru(dcphenTBA(H))
2(NCS)
2、cis−Ru(dcbiqH)
2(NCS)
2(TBA)
2などのルテニウム−ビピリジン系錯体、cis−dithiocyano bis(4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)osmium;Os(dcbpy)
2(NCS)
2などのオスミウム−ビピリジン系錯体、cis−dithiocyano bis(4,4’−dicarboxy−2,2’−bipyridine)iron;Fe(dcbpy)
2(NCS)
2などの鉄−ビピリジン系錯体、bis(2,9−di(4−carboxy)diphenyl−1,10−phenanthroline)copperなどの銅−フェナントロリン系錯体、Pt(dcbpy)
2(L)
2[L:quinoxaline−2,3−dithiolate]などの白金−キノキサリン系錯体、Re(bpy)(CO)
3(ina)などのレニウム−ピリジン系錯体などが挙げられる。
【0024】
また、粒子状の金属酸化物に結合する官能基(イミダゾリル基、カルボキシル基、ホスホン基等)を有し、結合の結果脱着を起こさず、かつ吸着の結果、電極の表面の露出を抑えることができる分子を添加剤として使用することができる。具体的には、例えば、tert−ブチルピリジン(tert−Butylpyridine)、1−メトキシベンゾイミダゾール(1−Methoxybenzoimidazole)、デカンリン酸(decanephosphoric acid)等の長鎖アルキル基を持つホスホン酸などが挙げられる。
【0025】
色素増感太陽電池を作製するときに、対極である正極は、導電性物質であれば任意のものを用いることができるが、絶縁性の物質でも、半導体電極に面している側に導電層が設置されていれば、使用することができる。ただし、電気化学的に安定である物質を対極に用いることが好ましい。具体的には、白金、白金黒、カーボン、導電性高分子などが挙げられる。正極は石英ガラス基板などの透明または不透明の基板上に上記の物質の膜を形成したものであっても良いし、白金基板などであっても良い。
【0026】
本発明で使用される電解質は、ゲル状又は固体であり、液体の漏洩、液体の揮発等により電解質の組成が変化することなく、耐久性及び安定性に優れた色素増感太陽電池を作製することができる。そして、本発明で使用される電解質は、有機色素が吸着された粒子状の金属酸化物との接触面積を大きくすることができ、エネルギー変換効率を向上させることができ、さらには、有機色素が吸着された粒子状の金属酸化物を透明電導膜表面に強固に接着させることもできる。さらには、酸化還元化学種であるヨウ素、ヨウ化物を高い濃度で含有することができる。
【0027】
本発明で電解質として使用される高分子成分としては、カルボキシル基を有するフッ素化樹脂である。このカルボキシル基を有するフッ素化樹脂である高分子成分としては、例えば、下記化学式Iに示すテトラフルオロエチレンと、カルボニルアルコキシドを有するフッ化メチレン鎖とトリフルオロエチレンのビニルアルコールとの共重合体の加水分解物、
テトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2−(2−フルオロカルボニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]との共重合体の加水分解物、カルボニルアルコキシドを有するフッ化メチレン鎖とトリフルオロエチレンのビニルアルコールとの共重合体の加水分解物、パーフルオロ[2−(2−フルオロカルボニルエトキシ)プロピルビニルエーテル]の重合体の加水分解物などが好ましい。炭素−フッ素の結合解離エネルギーは、おおよそ490〜514kJ/molであり、炭素−水素の結合解離エネルギーであるおおよそ410〜431よりも大きいため、紫外線を含む太陽光に曝露されても分解しにくいという耐光性を有する。主鎖の炭素原子に結合する水素原子がすべてフッ素原子に置換された完全フッ素化樹脂でもよいし、耐光性が良好である限りにおいて主鎖の炭素原子に結合する水素原子が一部フッ素原子に置換された部分フッ素化樹脂でもよく、さらに、これらの共重合体であってもよい。カルボキシル基を有することにより、酸化還元化学種であるヨウ素、ヨウ化物を高い濃度で溶解することができる。市販品として、旭硝子社製のFLEMION(登録商標)の分散液などを使用することができる。
【0028】
【化1】
(ただし、m=1〜10の整数であり、n=0.1〜10の有理数であり、x=20〜3000の整数である)
【0029】
さらに、本発明の電解質には、酸化還元化学種としてヨウ素、ヨウ化物、例えばヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどを混合することができる。また、さらに水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどを配合し電解質として中性に調整することが好ましい。
【0030】
酸化還元化学種であるヨウ素は、前記高分子成分に対して、ヨウ素/高分子成分=0.001/1〜2/1の重量比で含有されていることが好ましく、ヨウ素/高分子成分=0.002/1〜1.5/1の重量比で含有されていることがさらに好ましく、ヨウ素/高分子成分=0.0025/1〜1.3/1の重量比で含有されていることが最も好ましい。この範囲にあると、エネルギー変換効率を向上させることができるので好ましい。
【0031】
また、本発明の電解質の膜厚は、0.3〜150μmであることが好ましく、10〜100μmであることがさらに好ましい。この範囲にあると、酸化還元化学種であるヨウ素、ヨウ化物が、ゲル状又は固体の電解質であっても移動し易く、その結果としてエネルギー変換効率を向上させることができるので好ましい。
【0032】
なお、本発明の電解質は、色素増感太陽電池として作製されたときにゲル状又は固体であれば良く、その製造工程において液体を含有するものであっても良い。
【0033】
本発明の電解質に含有されるルイス塩基は、最外殻の電子対のうち共有結合に関与しない非共有電子対を有するブレンステッド塩基、ルイス酸に配位しうる結合電子対を有する化学種などである。電解質にルイス塩基が含有されていることにより、ルイス塩基が前記高分子成分のカルボキシル基などと水素結合し、ヨウ素、ヨウ化物である酸化還元種が分離して生じた負イオンと前記高分子成分のカルボキシル基などとの電気的作用が低減されて、負イオンが電解質中を移動しやすくなるため、変換効率が向上する。ルイス塩基は、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ピリジン、4−tert−ピリジン、イミダゾール、キノリンなどの含窒素化合物、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、フラン、ピラン、クラウンエーテルなどの含酸素化合物、スルフィド類化合物、ジスルフィド類化合物などの含硫黄化合物などが好ましい。このうち、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ピリジン、4−tert−ピリジン、イミダゾール、キノリンなどの含窒素化合物であるアミンがより好ましい。
【0034】
ルイス塩基は、前記高分子成分に対して、ルイス塩基/高分子成分=0.001/1〜10/1の重量比で含有されていることが好ましく、ルイス塩基/高分子成分=0.01/1〜7/1の重量比で含有されていることがさらに好ましい。この範囲にあると、エネルギー変換効率を向上させることができるので好ましい。
【0035】
さらに、本発明の電解質にイオン液体を含有させることができる。イオン液体は、150℃以下程度の比較的低い温度で、液体で存在しうる塩である。イオン液体は不揮発性の有機溶媒であり、経時変化により揮発して減量することがなく、電解質に一定の流動性を付与する。さらに、電解質にイオン液体が含有されていることにより、とりわけゲル状または固体状の電解質を具備する色素増感太陽電池において、電解質と酸化チタンとの接触面積を増大させて電解質から酸化チタンへの電荷の移動が改善されるため、変換効率が向上する。イオン液体として、例えば、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド(DMPII)、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムアイオダイド(BMII)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド(EMII)、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムアイオダイド(OMII)、テトラ−n−ブチルアンモニウムアイオダイド(TBAI)などが好ましい。
【0036】
イオン液体は、前記高分子成分に対して、イオン液体/高分子成分=0.001/1〜10/1の重量比で含有されていることが好ましく、イオン液体/高分子成分=0.01/1〜7/1の重量比で含有されていることがさらに好ましい。この範囲にあると、エネルギー変換効率を向上させることができるので好ましい。
【0037】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
シート抵抗10Ωsq
−1の酸化インジウムスズ膜(ITO膜)が塗布されたガラス(品番:No.0052,Geomatec社製)のITO膜表面に、粒径が約20μmでアナターゼ型の酸化チタンの微粒子を含有するペースト(品番:PST−18NR,日揮触媒化成株式会社製)をスクリーン印刷法にて塗布した。そして、炉内において窒素雰囲気下500℃で焼きなました。得られた多孔質酸化チタンの膜厚は、おおよそ9.0μmであり、面積はおおよそ25mm
2(5mm×5mm)であった。
【0039】
次に、有機色素として、ルテニウム色素N719〔di−tetrabutylammonium cis−dithiocyano bis(2,2’−bipyridyl−4,4’−dicarboxylate)ruthenium(II)〕を無水エタノールに溶解し、濃度3×10
−4mol/Lの色素吸着用の溶液を作製した。この溶液に、前記酸化チタン層を25℃で20時間浸漬し、ルテニウム色素を吸着させた。そして、酸化チタン電極をN719溶液から取り出して、エタノールにて洗浄し、乾燥させた。酸化チタン電極と対向電極とのスペーサーには、膜厚85μmで両面に接着剤が塗布されて6mm四方の孔を有するポリイミドフィルムを用いた。
【0040】
カルボキシル基を有するフッ素化樹脂であるFLEMION(登録商標)及びエタノールの混合溶液818mg(FLEMION(登録商標)として56mg)(品番:FSS−2,旭硝子株式会社製)に対し、ヨウ素(東京化成工業株式会社製試薬)を12.7mg、ヨウ化リチウム(和光純薬工業株式会社製試薬)を13.4mg、ルイス塩基として4−tert−ブチルピリジンを67.7mg(シグマアルドリッチ社製試薬)混合し電解質溶液を作製した。有機色素を吸着させた酸化チタン層を取り囲むようにITO膜上にスペーサーであるポリイミドフィルムを貼り、ポリイミドフィルムの6mm四方の孔に、これら電解質溶液を表面張力で盛り上がるまで滴下し、オーブン中で50℃で5分間過熱し、引き続き、ホットプレート上で125℃で1分間加熱してエタノールを蒸発させて、ゲル状の電解質層を形成した。
【0041】
次にITOガラス基板上に白金層を堆積させ、直径1mmの孔を開けて対向電極を作製した。以上の対向電極を上記スペーサーであるポリイミドフィルムに貼り合わせることにより色素増感太陽電池を作製した。
【0042】
(実施例2)
電解質溶液におけるイオン液体として、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド(東京化成工業株式会社製試薬)80mgをさらに混合した以外は、実施例1と同様に色素増感太陽電池を作製した。
【0043】
(実施例3)
電解質溶液におけるイオン液体として、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド(東京化成工業株式会社製試薬)160mgをさらに混合した以外は、実施例1と同様に色素増感太陽電池を作製した。
【0044】
(比較例1)
電解質溶液におけるルイス塩基として4−tert−ブチルピリジン、イオン液体として1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドをともに混合しなかった以外は、実施例1と同様に色素増感太陽電池を作製した。
【0045】
(比較例2)
電解質溶液におけるルイス塩基として4−tert−ブチルピリジンを混合せずに、イオン液体として1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイド(東京化成工業株式会社製試薬)160mgを混合した以外は、実施例1と同様に色素増感太陽電池を作製した。
【0046】
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた色素増感太陽電池にキセノンライトを照射し(AM1.5,100mWcm
−2)、Agilent社製のDesktop EasyEXPERTソフトウエアー(V.4.0)を搭載したHewlett−Packard社製の半導体パラメーターアナライザー(品番:HP41563)を用いて、それぞれ電流―電圧特性を測定した。得られた電流―電圧曲線から、電池の短絡電流、開放電圧、FF(フィルファクター)および光電変換効率を算出した。また、電気化学的インピーダンスを、キセノンライト(AM1.5,100mWcm
−2)照射の下、ポテンショスタット(SP−150、BioLogic社製)を用いて測定した。この時、開回路電圧モードで、交流振幅10mV、適用周波数は10Hz〜100kHzであった。得られたインピーダンススペクトルをBioLogic社製のEC−labソフトウエアー(V10.18)を用いて等価回路によって解析した。
【0047】
前記した電解質に使用した高分子成分、酸化還元化学種、添加剤の種類及び量、さらにそれら電解質を用いて作製した色素増感太陽電池の電気特性の一覧を表1に示す。
【0049】
表1の結果より、電解質の高分子成分として、イオン液体である1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドやルイス塩基である4−tert−ブチルピリジンを添加した実施例1〜3において、これらを添加しなかった比較例1よりも短絡電流、開放電圧が向上し、その結果として、光電変換効率も向上することが分かった。
【0050】
また、実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた電解質について、化学結合状態を窒素雰囲気下でフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)(品番:FT/IR−6100,JASCO社製)にて測定し、内部形態を走査型電子顕微鏡(SEM)(品番:JSM−7400S,JEOL社製)にて特定し、含有されるヨウ素をエネルギー分散型X線分析(EDS,JSM−7400Sに取り付けられた装置)にて量的に分析した。
【0051】
FTIRの分析から、1419cm
−1、1460cm
−1、1538cm
−1における吸収が1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドのC=C又はC=Nの伸縮振動に起因し、1587cm
−1における吸収が4−tert−ブチルピリジンのC=C又はC=Nの伸縮振動に起因し、2875cm
−1、3073cm
−1における吸収が1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドのC−Hの伸縮振動に起因し、2964cm
−1における吸収が4−tert−ブチルピリジンのC−Hの伸縮振動に起因し、3428cm
−1における吸収がO−Hの伸縮振動に起因していることが分かった。
【0052】
フーリエ変換赤外分光光度計、走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分析から得られた結果から、
図1に示すように、電解質は、フッ化炭素骨格(Fluorocarbon frame)、イオンクラスター(Ion cluster)、それらの境界(Interface)の3つの領域に区分されることがわかった。
【0053】
表1の結果を考察すると、上記各種分析等から、比較例1、2では4−tert−ブチルピリジンが含有されておらずヨウ化物イオン及び三ヨウ化物イオンがFLEMIONのカルボキシル基の負電荷に反発されて、電解質におけるそれらの移動が大きく阻害されているのに対して、実施例1〜3では それらの電気的反発が、4−tert−ブチルピリジンとそのカルボキシル基との水素結合により弱められ、ヨウ化物イオン及び三ヨウ化物イオンが移動し易くなったために、短絡電流、開放電圧、そして、光電変換効率が向上したものと考えられる。
【0054】
さらに、表1の結果から、実施例2,3において、イオン液体である1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドが含有されていることにより、酸化チタン(TiO
2)と電解質との界面抵抗値が、実施例1よりも低下しており、イオン液体の含有量が実施例2より多い実施例3の方がその界面抵抗値がより低下している。これは、実施例1では、色素増感太陽電池の作製工程において、多孔質の微粒子酸化チタンの微細な孔に高分子成分を含む電解質が侵入していたところ、高分子成分の溶媒であるエタノールを蒸発させてゲル状にしたときに、酸化チタンの微細な孔が空洞になるなど、エタノールを蒸発させた後の電解質と酸化チタンとの間に隙間が生じるために、電解質から酸化チタンへの電荷の移動が悪く電解質と酸化チタンの界面における電気抵抗が大きい。一方、実施例2、3では、エタノールを蒸発させた後の電解質と酸化チタンとの間に生じた隙間にイオン液体が浸潤するため、電解質から酸化チタンへの電荷の移動が改善され電解質と酸化チタンの界面における電気抵抗が小さくなり、短絡電流、フィルファクター、そして、光電変換効率が向上したものと考えられる。