(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-142351(P2016-142351A)
(43)【公開日】2016年8月8日
(54)【発明の名称】吊りボルトの振動抑制体
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20160711BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20160711BHJP
F16B 2/06 20060101ALI20160711BHJP
E04B 9/18 20060101ALI20160711BHJP
【FI】
F16F15/04 M
F16F15/08 C
F16B2/06 Z
E04B5/58 S
F16F15/08 M
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-19093(P2015-19093)
(22)【出願日】2015年2月3日
(71)【出願人】
【識別番号】507367758
【氏名又は名称】有限会社アールストーン
(74)【代理人】
【識別番号】100073210
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100173668
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 吉之助
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 隆次郎
【テーマコード(参考)】
3J022
3J048
【Fターム(参考)】
3J022DA19
3J022EA17
3J022EB02
3J022EB12
3J022EC12
3J022EC22
3J022ED22
3J022FA01
3J022FB08
3J022FB12
3J022HB06
3J048AA01
3J048AC01
3J048AD16
3J048BA24
3J048BC04
3J048DA07
3J048EA29
(57)【要約】
【目的】吊りボルトの振動を抑制して該吊りボルトの変形や破損を防止すると共に吊り構造物の揺れを抑制することができる吊りボルトの振動抑制体を提供する。
【構成】吊り構造物を吊下げるために天井躯体から吊下固定される吊りボルトに取り付けて、吊りボルトに作用する震動負荷を低減させて震動を抑制する構成の吊りボルトの震動抑制体において、
震動抑制体が、弾性を有する板状材から成り、
板状材の少なくとも上部が、天井躯体下面に当接し、
板状材の上部から下部までの一部乃至は全部が、吊りボルトの外周の三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に吊りボルトの中心が含まれる位置であり、
吊りボルトに対して振動エネルギーが入力された際に、板状材が有する弾性が入力された震動エネルギーの震動方向と逆方向に付勢力を発揮することによって震動エネルギーを抑制乃至は消滅させる構成。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機器・配管類の如き吊り構造物を吊下げるために天井スラブやデッキプレートの如き天井躯体から吊下固定される吊りボルトに取り付けて、該吊りボルトに作用する震動負荷を低減させて震動を抑制する構成の吊りボルトの震動抑制体において、
該震動抑制体が、弾性を有する板状材から成り、
該板状材の少なくとも上部が、前記天井躯体の下面に当接し、
該板状材の上部から下部までの一部乃至は全部が、前記吊りボルトの外周の三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置であり、
前記吊りボルトに対して振動エネルギーが入力された際に、前記板状材が有する弾性が入力された震動エネルギーの震動方向と逆方向に付勢力を発揮することによって前記震動エネルギーを抑制乃至は消滅させる構成であること、
を特徴とする吊りボルトの震動抑制体。
【請求項2】
前記板状材の前記吊りボルトの外周に当接する部分の上端及び/又は下端が曲面で接する構成であることを特徴とする請求項1に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項3】
前記板状材の上部が、前記吊りボルトに非接触で前記天井躯体の下面に当接する構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項4】
前記板状材の上部が、前記吊りボルトに接触した状態で且つ前記天井躯体の下面に当接する構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項5】
前記板状材が、弾性材料から形成された構成であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項6】
前記板状材が、弾性材料が付加されて弾性を発揮する構成であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項7】
前記板状材の下部の前記吊りボルトに当接する位置が、前記吊りボルトに前記吊り構造物を取り付けた部分の上方近傍位置であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項8】
前記振動抑制体が、前記吊りボルトの側方から装着することにより該吊りボルトに取り付けられる構成であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項9】
前記振動抑制体が、前記吊りボルトの端部から挿通して該吊りボルトに取り付けられる構成であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項10】
前記板状体の上部が、前記天井躯体の下面の相対向する三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置である構成であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項11】
前記振動抑制体が、前記天井躯体に固定される構成であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項12】
前記板状材の前記吊りボルトの外周に当接する部分に、該吊りボルトの凸条及び凹条から成るネジ溝に噛合う凹部及び/又は凸部が設けられている構成であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吊りボルトの振動抑制体に関し、詳しくは天井躯体から空調機器・配管類等の吊り構造物を吊り下げる吊りボルトの震動を抑制する震動抑制体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建築物の天井スラブやデッキプレートの如き天井部分には、空調機器の室内ユニット・配管類等の種々の設備機器が配設されている。これらの設備機器は、天井スラブやデッキプレート等の天井躯体に吊下固定されている吊りボルトに固定することによって天吊り支持される場合が一般的である。例えば、
図11は4本の吊りボルトによって天吊り支持された空調機器の屋内ユニットであり、4本の吊りボルトの各々の上端は天井躯体にアンカー等を用いて埋込固定されている。
【0003】
これらの天吊り支持される構造物(本明細書においては吊り構造物と言う)は、地震時には建築物の耐震構造・免振機構によって建築物そのものの損傷等は免れるように構成されているが、天吊りされている吊り構造物の揺れや振動の発生を防ぐまでには至っていない。
【0004】
従って、吊り構造物を天吊りする吊りボルトに振動負荷が作用することになり、変形や破断が生じてしまう場合があるという問題点を有していた。
【0005】
本発明者の研究によれば、吊りボルトの変形や破断は特に天井躯体に固定された根元部分に応力が集中することによって発生することが多いことが判った。
【0006】
そこで、吊りボルトを一本構成とするのではなく根元部分において分断し、この分断部分に前後左右方向等に揺れを許容する連結部材を介在させることによって根元部分における吊りボルトの変形や破断を回避する構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−031694号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1の技術では、吊りボルトの根元部分における変形や破断を防ぐことはできるものの、特に大きな揺れが発生した場合には吊り構造物を充分に保護することができずに破損させたり、酷い場合には脱落・落下させてしまう場合も考えられる。
【0009】
そこで本発明の課題は、吊りボルトの振動を抑制して該吊りボルトの変形や破損を防止すると共に吊り構造物の揺れを抑制することができる吊りボルトの振動抑制体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は下記構成を有する。
【0011】
1.空調機器・配管類の如き吊り構造物を吊下げるために天井スラブやデッキプレートの如き天井躯体から吊下固定される吊りボルトに取り付けて、該吊りボルトに作用する震動負荷を低減させて震動を抑制する構成の吊りボルトの震動抑制体において、
該震動抑制体が、弾性を有する板状材から成り、
該板状材の少なくとも上部が、前記天井躯体の下面に当接し、
該板状材の上部から下部までの一部乃至は全部が、前記吊りボルトの外周の三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置であり、
前記吊りボルトに対して振動エネルギーが入力された際に、前記板状材が有する弾性が入力された震動エネルギーの震動方向と逆方向に付勢力を発揮することによって前記震動エネルギーを抑制乃至は消滅させる構成であること、
を特徴とする吊りボルトの震動抑制体。
【0012】
2.前記板状材の前記吊りボルトの外周に当接する部分の上端及び/又は下端が曲面で接する構成であることを特徴とする上記1に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0013】
3.前記板状材の上部が、前記吊りボルトに非接触で前記天井躯体の下面に当接する構成であることを特徴とする上記1又は2に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0014】
4.前記板状材の上部が、前記吊りボルトに接触した状態で且つ前記天井躯体の下面に当接する構成であることを特徴とする上記1又は2に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0015】
5.前記板状材が、弾性材料から形成された構成であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0016】
6.前記板状材が、弾性材料が付加されて弾性を発揮する構成であることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0017】
7.前記板状材の下部の前記吊りボルトに当接する位置が、前記吊りボルトに前記吊り構造物を取り付けた部分の上方近傍位置であることを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0018】
8.前記振動抑制体が、前記吊りボルトの側方から装着することにより該吊りボルトに取り付けられる構成であることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0019】
9.前記振動抑制体が、前記吊りボルトの端部から挿通して該吊りボルトに取り付けられる構成であることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0020】
10.前記板状体の上部が、前記天井躯体の下面の相対向する三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置である構成であることを特徴とする上記1〜9のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0021】
11.前記振動抑制体が、前記天井躯体に固定される構成であることを特徴とする上記1〜10のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0022】
12.前記板状材の前記吊りボルトの外周に当接する部分に、該吊りボルトの凸条及び凹条から成るネジ溝に噛合う凹部及び/又は凸部が設けられている構成であることを特徴とする上記1〜11のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に示す発明によれば、吊りボルトの振動を抑制して該吊りボルトの変形や破損を防止すると共に吊り構造物の揺れを抑制することができる吊りボルトの振動抑制体を提供することができる。
【0024】
特に、振動抑制体の板状材の吊りボルトの外周への当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置にあるように当接する構成によって、吊りボルトに入力される振動エネルギーの振動方向が360度全周のどの方向であっても、振動エネルギーの振動エネルギーと逆方向に板状材の付勢力が発揮されるので、振動エネルギーを抑制乃至は消滅させることができる。従って、吊りボルトの根元部にかかる負荷を著しく軽減することができ、該吊りボルトの変形や破損を防止することができる。
【0025】
請求項2に示す発明によれば、吊りボルトと板状材との当接端が面接触する構成によって、この当接端への振動エネルギーの応力集中を避けることができるので、吊りボルトの根元部のみならず、この当接端における吊りボルトの変形や破損を防止することができる。
【0026】
請求項3に示す発明によれば、板状材の上部が吊りボルトから離れた位置で天井躯体の下面に当接する構成によって、より安定した状態での吊りボルトの振動抑制が可能である。
【0027】
請求項4に示す発明によれば、板状材の上部が吊りボルトに当接した状態で天井躯体の下面に当接する構成によって、吊りボルトの根元部にかかる応力集中をより有効に防止することができる。
【0028】
請求項5に示す発明によれば、板状材の弾性によって吊りボルトにかかる振動エネルギーの抑制が可能である。
【0029】
請求項6に示す発明によれば、板状材に付加される弾性材料の弾性によって吊りボルトにかかる振動エネルギーの抑制が可能である。
【0030】
請求項7に示す発明によれば、吊り構造物の取付位置に近い位置での振動エネルギーの抑制を図ることができるので、吊りボルトの変形や破損をより防止することができる。
【0031】
請求項8に示す発明によれば、吊りボルトに吊り構造物が既に取り付けられた後であっても振動抑制体の吊りボルトへの取付けが可能である。
【0032】
請求項9に示す発明によれば、吊り構造物を吊りボルトに取り付ける前に該吊りボルトに予め振動抑制体を取り付けておくことが可能である。
【0033】
請求項10に示す発明によれば、振動抑制体の板状材の天井躯体の下面に当接する三箇所以上が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置にあるように当接する構成によって、吊りボルトに入力される振動エネルギーの振動方向が360度全周のどの方向であっても、振動抑制体を天井躯体の下面に対して安定した状態で当接させることができるので、より振動エネルギーの抑制乃至は消滅が可能となる。
【0034】
請求項11に示す発明によれば、振動抑制体が天井躯体の下面に固定されるので、該振動抑制体の板状材の上部は少なくとも一箇所が前記下面に当接されるだけでよい。
【0035】
請求項12に示す発明によれば、吊りボルトに対する振動抑制体の当接面積が増大することになると共に、該吊りボルト軸方向への板状体の当接部分の位置ズレが抑制されるので、振動エネルギーの抑制乃至は消滅効果が著しく向上する。
また、吊りボルトと板状材との当接部分の噛合せにより、振動エネルギーに対向する板状材の付勢力が、該振動エネルギーの逆方向に加えて、吊りボルトのネジ溝の螺旋方向においても発揮されるので、振動エネルギーの抑制乃至は消滅効果が更に一段と向上する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明に係る吊りボルトの振動抑制体の一実施例を示す説明側面図(一部断面)
【
図2】吊りボルトに対する振動抑制体の板状材の当接状態の一例を示す要部端面図
【
図3】吊りボルトに対する振動抑制体の当接位置の複数例を示す要部説明端面図
【
図4】天井躯体の下面に対する振動抑制体の板状材上部の当接状態の一例を示す要部端面図
【
図5】天井躯体下面に対する振動抑制体の板状材上部の当接位置の複数例を示す要部説明端面図
【
図6】振動抑制体の板状材上部の他の構成例を示す説明側面図(一部断面図)
【
図7】振動抑制体の板状材の吊りボルトへの当接部の他の実施例を示す説明側面図
【
図8】振動抑制体の板状材の天井躯体下面への当接部の他の実施例を示す説明側面図(一部断面図)
【
図9】振動抑制体の板状材の吊りボルトへの当接部の他の実施例を示す要部側面図
【
図10】振動抑制体の板状材の吊りボルトへの当接部の他の実施例を示す要部断面図
【
図11】吊り構造物の天吊り支持構成の一例を示す概略説明斜視図
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、添付の図面に従って本発明を説明する。
【0038】
本発明に係る吊りボルトの振動抑制体(以下、振動抑制体と言うこともある。)は、天井躯体から、例えば、
図11に示すように空調機器・配管類等の吊り構造物4を吊り下げる吊りボルト3・3・3・3の震動を抑制する技術であり、その具体的な構成例としては、
図1〜
図5に示すように、
吊り構造物を吊下げるために天井スラブやデッキプレートの如き天井躯体2から吊下固定される吊りボルト3に取り付けて、該吊りボルト3に作用する震動負荷を低減させて震動を抑制する構成の吊りボルトの震動抑制体1において、
該震動抑制体1が、弾性を有する板状材10から成り、
該板状材10の少なくとも上部11が、前記天井躯体2の下面21に当接し、
該板状材10の上部11から下部12までの一部乃至は全部(
図1に示す本実施例では上部11)が、前記吊りボルト3の外周の三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上(
図2及び
図3に示す本実施例では三箇所)の当接部13が形成する多角形(
図3に示す本実施例では三角形)内に前記吊りボルト3の中心3A(
図3参照)が含まれる位置であり、
前記吊りボルト3に対して振動エネルギーが入力された際に、前記板状材10が有する弾性が入力された震動エネルギーの震動方向と逆方向に付勢力を発揮することによって前記震動エネルギーを抑制乃至は消滅させる構成となっている。
【0039】
以下、本発明の振動抑制体1について更に詳説する。
【0040】
振動抑制体1の板状材10としては、配管支持具に用いられる公知公用の素材である金属・合成樹脂を用いることができ、該板状材10自体が弾性を有する材料であるか、又は弾性を有する他部材を板状材10に付加した構成とすることもできる。
図1〜
図5に示す本実施例では板状材10が弾性材料から形成された構成の態様を示す。
【0041】
板状材10を例えば配管支持バンド等と同様の折曲・屈曲等の加工によって、上部11が天井躯体2の下面21に当接する共に下部12が吊りボルト3に外周に当接した状態で該板状材10から成る振動抑制体1を吊りボルト3に装着固定することができる。
【0042】
板状材10の吊りボルト3外周へ当接する当接部13は、本実施例では
図2に示すように三箇所(符号13・13・13)であり、
図3に示すようにこの三箇所の当接部13・13・13によって形成される三角形T3内に吊りボルト3の中心3Aが含まれる位置となっている。吊りボルト3の中心3Aは該吊りボルト3の重心であるため、この中心3Aを当接部13・13・13から形成される三角形内に含むことにより、吊りボルト3に対して入力される振動エネルギーの振動方向がいかなる方向であっても、この入力した振動エネルギーに対して板状材10の付勢力が前記振動方向とは逆方向に作用することになるので、前記振動エネルギーを抑制乃至は消滅させることが可能となる。
【0043】
図2に示す実施例では吊りボルト3の外周の三箇所に等間隔に板状材10が当接する構成になっているため、三箇所の当接部13・13・13から形成される三角形T3は
図3(a)に示すように正三角形となり、吊りボルト3の中心3Aは三角形T3の中心に位置することになる。従って、振動エネルギーの振動方向は吊りボルト3の360度全周のいかなる方向であっても板状材10の不勢力を均等に発揮させることができる。
【0044】
尚、当接箇所である当接部13・13・13から形成される多角形は、該多角形内に吊りボルト3の中心3Aが含まれる構成であれば上記実施例の正三角形に限定されず、
図3(b)に示すように正三角形以外の三角形T3でもよいし、
図3(c)に示すように当接箇所を四箇所として四箇所の当接部13・13・13・13から形成される四角形T4であってもよい。但し、
図3(d)に示すように、当接部13・13・13から形成される三角形T3に吊りボルト3の中心3Aが含まれない構成では、この含まれない側に抜けるように入力される振動エネルギーに対して不勢力を発揮することはできないため本発明外となる。
【0045】
振動抑制体1の板状材10の吊りボルト3の外周への当接部13の上端と下端は、
図1に示す本実施例のように曲面で接するように構成することが好ましい。かかる構成によれば、吊りボルト3と板状材10との当接部13の当接端が面接触する構成となるので、この当接端への振動エネルギーの応力集中を避けることができ、吊りボルト3の根元部のみならず、この当接端における吊りボルト3の変形や破損を防止することができる。
【0046】
板状材10の上部11は、前述したように天井躯体2の下面21へ当接するが、この当接は上記した吊りボルト3外周への当接と同様に、板状体10の上部11が天井躯体2の下面21の相対向する三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルト3の中心3Aが含まれる位置となる構成であることが好ましい。
【0047】
図4及び
図5に示す本実施例では、
図4に示すように当接箇所は三箇所(符号14・14・14)であり、
図5に示すようにこの三箇所の当接部14・14・14によって形成される三角形T3内に吊りボルト3の中心3Aが含まれる位置となっている。吊りボルト3の中心3Aは該吊りボルト3の重心であるため、この中心3Aを当接部14・14・14から形成される三角形内に含むことにより、吊りボルト3に対して入力される振動エネルギーの振動方向が360度全周のどの方向であっても、振動抑制体1を天井躯体2の下面21に対して安定した状態で当接させることができるので、より振動エネルギーの抑制乃至は消滅が可能となる。
【0048】
図4に示す実施例では天井躯体2の下面21の三箇所に等間隔に板状材10の上部11・11・11が当接する構成になっているため、三箇所の当接部14・14・14から形成される三角形T3は
図5(a)に示すように正三角形となり、吊りボルト3の中心3Aは三角形T3の中心に位置することになる。従って、振動エネルギーの振動方向は吊りボルト3の360度全周のいかなる方向であっても天井躯体2の下面21への当接が均等になる。
【0049】
尚、当接箇所である当接部14・14・14から形成される多角形は、該多角形内に吊りボルト3の中心3Aが含まれる構成であれば上記実施例の正三角形に限定されず、
図5(b)に示すように正三角形以外の三角形T3でもよいし、
図3(c)に示すように当接箇所を四箇所として四箇所の当接部14・14・14・14から形成される四角形T4であってもよい。但し、
図3(d)に示すように、当接部14・14・14から形成される三角形T3に吊りボルト3の中心3Aが含まれない構成では、この含まれない側に抜けるように入力される振動エネルギーに対して下面21への当接が不均等になってしまうことから安定した状態で当接することができなくなるため本発明外となる。
【0050】
尚また、
図1、
図4及び
図5に示す実施例では、板状材10の上部11が吊りボルト3に非接触で天井躯体2の下面21に当接する構成、即ち、板状材10の上部11が吊りボルト3から離れた位置で天井躯体2の下面21に当接する構成になっており、かかる構成によって、より安定した状態での吊りボルトの振動抑制が可能である。
【0051】
以上の構成を有する本発明の振動抑制体は、吊りボルト3への装着・取付に際しては、吊りボルト3の側方から装着する構成としてもよいし、吊りボルト3の端部(下端)から挿通して取り付ける構成としてもよい。
【0052】
振動抑制体1を吊りボルト3の側方から装着する構成によれば、吊りボルト3に吊り構造物4が既に取り付けられた後であっても取付けが可能であり、また、吊りボルト3の端部(下端)から挿通して取り付ける構成によれば、吊り構造物4を吊りボルト3に取り付ける前に該吊りボルト3に予め振動抑制体1を取り付けておくことが可能である。
【0053】
以上、本発明に係る吊りボルトの振動抑制体について実施例に基き説明したが、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の範囲内において他の態様を採ることができる。
【0054】
例えば、上記実施例では、板状材10の上部11が吊りボルト3に非接触で天井躯体2の下面21に当接する構成としていたが、
図6に示すように板状材10の上部11が吊りボルト3に当接した状態で天井躯体2の下面21に当接する構成としてもよい。かかる構成によれば、吊りボルト3の根元部にかかる応力集中をより有効に防止することができる。
【0055】
また上記実施例は、板状材10が弾性材料で形成された構成としていたが、
図7に示すように板状材10に弾性材料15が付加されることによって弾性を発揮する構成としてもよい。更に、弾性材料から形成された板状材10に弾性材料15を付加する態様とすることもできる。
【0056】
弾性材料15の材質としては、合成ゴム、天然ゴム、軟質合成樹脂、これらの混合物等の素材構成が弾性を有する材料や、コイル状バネ、板状バネ等の構造的に弾性を有する材料を挙げることができ、
図7に示す実施例では、種々ゴム類等の素材構成自体が男性を有する材料を用いた構成を示している。
【0057】
更に上記実施例では、板状材10の上部11が複数箇所(
図3及び
図4では三箇所)で天井躯体2の下面21に当接する構成としていたが、
図8に示すように板状材10の上部11をボルト等の如き固定手段5を用いて天井躯体2の下面21に固定する構成とすることにより、当接箇所を三箇所以下(
図8では一箇所)とすることもできる。
【0058】
更に上記実施例では、板状材10の吊りボルト3外周への当接面は平滑面としていたが、
図9に示すように板状材10の吊りボルト3外周への当接部13に、吊りボルト3の凸条及び凹条から成るネジ溝に噛合う凹部及び/又は凸部16を設けた構成としてもよい。かかる構成によれば、吊りボルト3に対する振動抑制体10の当接部13の当接面積が増大することになると共に、該吊りボルト3軸方向への板状体10の当接部13の位置ズレが抑制されるので、振動エネルギーの抑制乃至は消滅効果が著しく向上する。
また、吊りボルト3と板状材10との当接部10の噛合せにより、振動エネルギーに対向する板状材10の付勢力が、該振動エネルギーの逆方向に加えて、吊りボルト3のネジ溝の螺旋方向においても発揮されるので、振動エネルギーの抑制乃至は消滅効果が更に一段と向上する。
【0059】
更に、板状材10の吊りボルト3外周への当接部13は、
図10に示すように板状材10の下部12の一部を切起し形成することにより形成する構成としてもよい。
【0060】
更に、板状材10の下部12の吊りボルト3に当接する位置としては、吊りボルト3に吊り構造物4を取り付けた部分の上方近傍位置(
図11のい符号3Bで示す位置)とすれば、吊り構造物4の取付位置に近い位置での振動エネルギーの抑制を図ることができるので、吊りボルト3の変形や破損をより防止することができる。
【0061】
尚、振動抑制体1を構成する板状体10は、吊りボルト3や天井躯体2の下面21に当接する各々が独立して構成されていてもよいが、連設乃至は連結された一部材構成であることが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
1 振動抑制体
10 板状材
11 上部
12 下部
13 吊りボルトとの当接部
14 天井躯体の下面との当接部
15 弾性材料
16 凹部及び/又は凸部
2 天井躯体
21 天井躯体の下面
3 吊りボルト
3A 吊りボルトの中心
3B 上方近傍位置
4 吊り構造物
5 固定手段
【手続補正書】
【提出日】2016年3月11日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機器・配管類の如き吊り構造物を吊下げるために天井スラブやデッキプレートの如き天井躯体から吊下固定される吊りボルトに取り付けて、該吊りボルトに作用する震動負荷を低減させて震動を抑制する構成の吊りボルトの震動抑制体において、
該震動抑制体が、弾性を有する弾性板状材から成り、
該弾性板状材の少なくとも上部が、前記天井躯体の下面に当接し、
該弾性板状材の上部から下部までの一部乃至は全部が、前記吊りボルトのネジ溝部分の外周の三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置であり、
前記吊りボルトに対して振動エネルギーが入力された際に、前記弾性板状材が有する弾性が入力された震動エネルギーの震動方向と逆方向に付勢力を発揮することによって前記震動エネルギーを抑制乃至は消滅させる構成であること、
を特徴とする吊りボルトの震動抑制体。
【請求項2】
前記弾性板状材の前記吊りボルトのネジ溝部分の外周に当接する部分の上端及び/又は下端が曲面で接する構成であることを特徴とする請求項1に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項3】
前記弾性板状材の上部が、前記吊りボルトに非接触で前記天井躯体の下面に当接する構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項4】
前記弾性板状材の上部が、前記吊りボルトに接触した状態で且つ前記天井躯体の下面に当接する構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項5】
前記弾性板状材が、弾性材料から形成された構成であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項6】
前記弾性板状材が、弾性材料が付加されて弾性を発揮する構成であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項7】
前記弾性板状材の下部の前記吊りボルトのネジ溝部分に当接する位置が、前記吊りボルトに前記吊り構造物を取り付けた部分の上方近傍位置であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項8】
前記振動抑制体が、前記吊りボルトの側方から装着することにより該吊りボルトに取り付けられる構成であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項9】
前記振動抑制体が、前記吊りボルトの端部から挿通して該吊りボルトに取り付けられる構成であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項10】
前記弾性板状材の上部が、前記天井躯体の下面の相対向する三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置である構成であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項11】
前記振動抑制体が、前記天井躯体に固定される構成であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【請求項12】
前記弾性板状材の前記吊りボルトの外周に当接する部分に、該吊りボルトの凸条及び凹条から成るネジ溝に噛合う凹部及び/又は凸部が設けられている構成であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吊りボルトの振動抑制体に関し、詳しくは天井躯体から空調機器・配管類等の吊り構造物を吊り下げる吊りボルトの震動を抑制する震動抑制体に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建築物の天井スラブやデッキプレートの如き天井部分には、空調機器の室内ユニット・配管類等の種々の設備機器が配設されている。これらの設備機器は、天井スラブやデッキプレート等の天井躯体に吊下固定されている吊りボルトに固定することによって天吊り支持される場合が一般的である。例えば、
図11は4本の吊りボルトによって天吊り支持された空調機器の屋内ユニットであり、4本の吊りボルトの各々の上端は天井躯体にアンカー等を用いて埋込固定されている。
【0003】
これらの天吊り支持される構造物(本明細書においては吊り構造物と言う)は、地震時には建築物の耐震構造・免振機構によって建築物そのものの損傷等は免れるように構成されているが、天吊りされている吊り構造物の揺れや振動の発生を防ぐまでには至っていない。
【0004】
従って、吊り構造物を天吊りする吊りボルトに振動負荷が作用することになり、変形や破断が生じてしまう場合があるという問題点を有していた。
【0005】
本発明者の研究によれば、吊りボルトの変形や破断は特に天井躯体に固定された根元部分に応力が集中することによって発生することが多いことが判った。
【0006】
そこで、吊りボルトを一本構成とするのではなく根元部分において分断し、この分断部分に前後左右方向等に揺れを許容する連結部材を介在させることによって根元部分における吊りボルトの変形や破断を回避する構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−031694号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし特許文献1の技術では、吊りボルトの根元部分における変形や破断を防ぐことはできるものの、特に大きな揺れが発生した場合には吊り構造物を充分に保護することができずに破損させたり、酷い場合には脱落・落下させてしまう場合も考えられる。
【0009】
そこで本発明の課題は、吊りボルトの振動を抑制して該吊りボルトの変形や破損を防止すると共に吊り構造物の揺れを抑制することができる吊りボルトの振動抑制体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は下記構成を有する。
【0011】
1.空調機器・配管類の如き吊り構造物を吊下げるために天井スラブやデッキプレートの如き天井躯体から吊下固定される吊りボルトに取り付けて、該吊りボルトに作用する震動負荷を低減させて震動を抑制する構成の吊りボルトの震動抑制体において、
該震動抑制体が、弾性を有する
弾性板状材から成り、
該
弾性板状材の少なくとも上部が、前記天井躯体の下面に当接し、
該
弾性板状材の上部から下部までの一部乃至は全部が、前記吊りボルトの
ネジ溝部分の外周の三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置であり、
前記吊りボルトに対して振動エネルギーが入力された際に、前記
弾性板状材が有する弾性が入力された震動エネルギーの震動方向と逆方向に付勢力を発揮することによって前記震動エネルギーを抑制乃至は消滅させる構成であること、
を特徴とする吊りボルトの震動抑制体。
【0012】
2.前記
弾性板状材の前記吊りボルト
のネジ溝部分の外周に当接する部分の上端及び/又は下端が曲面で接する構成であることを特徴とする上記1に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0013】
3.前記
弾性板状材の上部が、前記吊りボルトに非接触で前記天井躯体の下面に当接する構成であることを特徴とする上記1又は2に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0014】
4.前記
弾性板状材の上部が、前記吊りボルトに接触した状態で且つ前記天井躯体の下面に当接する構成であることを特徴とする上記1又は2に記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0015】
5.前記
弾性板状材が、弾性材料から形成された構成であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0016】
6.前記
弾性板状材が、弾性材料が付加されて弾性を発揮する構成であることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0017】
7.前記
弾性板状材の下部の前記吊りボルト
のネジ溝部分に当接する位置が、前記吊りボルトに前記吊り構造物を取り付けた部分の上方近傍位置であることを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0018】
8.前記振動抑制体が、前記吊りボルトの側方から装着することにより該吊りボルトに取り付けられる構成であることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0019】
9.前記振動抑制体が、前記吊りボルトの端部から挿通して該吊りボルトに取り付けられる構成であることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0020】
10.前記板状体の上部が、前記天井躯体の下面の相対向する三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置である構成であることを特徴とする上記1〜9のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0021】
11.前記振動抑制体が、前記天井躯体に固定される構成であることを特徴とする上記1〜10のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【0022】
12.前記
弾性板状材の前記吊りボルトの外周に当接する部分に、該吊りボルトの凸条及び凹条から成るネジ溝に噛合う凹部及び/又は凸部が設けられている構成であることを特徴とする上記1〜11のいずれかに記載の吊りボルトの振動抑制体。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に示す発明によれば、吊りボルトの振動を抑制して該吊りボルトの変形や破損を防止すると共に吊り構造物の揺れを抑制することができる吊りボルトの振動抑制体を提供することができる。
【0024】
特に、振動抑制体の
弾性板状材の吊りボルトの外周への当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置にあるように当接する構成によって、吊りボルトに入力される振動エネルギーの振動方向が360度全周のどの方向であっても、振動エネルギーの振動エネルギーと逆方向に
弾性板状材の付勢力が発揮されるので、振動エネルギーを抑制乃至は消滅させることができる。従って、吊りボルトの根元部にかかる負荷を著しく軽減することができ、該吊りボルトの変形や破損を防止することができる。
【0025】
請求項2に示す発明によれば、吊りボルトと
弾性板状材との当接端が面接触する構成によって、この当接端への振動エネルギーの応力集中を避けることができるので、吊りボルトの根元部のみならず、この当接端における吊りボルトの変形や破損を防止することができる。
【0026】
請求項3に示す発明によれば、
弾性板状材の上部が吊りボルトから離れた位置で天井躯体の下面に当接する構成によって、より安定した状態での吊りボルトの振動抑制が可能である。
【0027】
請求項4に示す発明によれば、
弾性板状材の上部が吊りボルトに当接した状態で天井躯体の下面に当接する構成によって、吊りボルトの根元部にかかる応力集中をより有効に防止することができる。
【0028】
請求項5に示す発明によれば、
弾性板状材の弾性によって吊りボルトにかかる振動エネルギーの抑制が可能である。
【0029】
請求項6に示す発明によれば、
弾性板状材に付加される弾性材料の弾性によって吊りボルトにかかる振動エネルギーの抑制が可能である。
【0030】
請求項7に示す発明によれば、吊り構造物の取付位置に近い位置での振動エネルギーの抑制を図ることができるので、吊りボルトの変形や破損をより防止することができる。
【0031】
請求項8に示す発明によれば、吊りボルトに吊り構造物が既に取り付けられた後であっても振動抑制体の吊りボルトへの取付けが可能である。
【0032】
請求項9に示す発明によれば、吊り構造物を吊りボルトに取り付ける前に該吊りボルトに予め振動抑制体を取り付けておくことが可能である。
【0033】
請求項10に示す発明によれば、振動抑制体の
弾性板状材の天井躯体の下面に当接する三箇所以上が形成する多角形内に前記吊りボルトの中心が含まれる位置にあるように当接する構成によって、吊りボルトに入力される振動エネルギーの振動方向が360度全周のどの方向であっても、振動抑制体を天井躯体の下面に対して安定した状態で当接させることができるので、より振動エネルギーの抑制乃至は消滅が可能となる。
【0034】
請求項11に示す発明によれば、振動抑制体が天井躯体の下面に固定されるので、該振動抑制体の
弾性板状材の上部は少なくとも一箇所が前記下面に当接されるだけでよい。
【0035】
請求項12に示す発明によれば、吊りボルトに対する振動抑制体の当接面積が増大することになると共に、該吊りボルト軸方向への板状体の当接部分の位置ズレが抑制されるので、振動エネルギーの抑制乃至は消滅効果が著しく向上する。
また、吊りボルトと
弾性板状材との当接部分の噛合せにより、振動エネルギーに対向する
弾性板状材の付勢力が、該振動エネルギーの逆方向に加えて、吊りボルトのネジ溝の螺旋方向においても発揮されるので、振動エネルギーの抑制乃至は消滅効果が更に一段と向上する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明に係る吊りボルトの振動抑制体の一実施例を示す説明側面図(一部断面)
【
図2】吊りボルトに対する振動抑制体の
弾性板状材の当接状態の一例を示す要部端面図
【
図3】吊りボルトに対する振動抑制体の当接位置の複数例を示す要部説明端面図
【
図4】天井躯体の下面に対する振動抑制体の
弾性板状材上部の当接状態の一例を示す要部端面図
【
図5】天井躯体下面に対する振動抑制体の
弾性板状材上部の当接位置の複数例を示す要部説明端面図
【
図6】振動抑制体の
弾性板状材上部の他の構成例を示す説明側面図(一部断面図)
【
図7】振動抑制体の
弾性板状材の吊りボルトへの当接部の他の実施例を示す説明側面図
【
図8】振動抑制体の
弾性板状材の天井躯体下面への当接部の他の実施例を示す説明側面図(一部断面図)
【
図9】振動抑制体の
弾性板状材の吊りボルトへの当接部の他の実施例を示す要部側面図
【
図10】振動抑制体の
弾性板状材の吊りボルトへの当接部の他の実施例を示す要部断面図
【
図11】吊り構造物の天吊り支持構成の一例を示す概略説明斜視図
【発明を実施するための形態】
【0037】
次に、添付の図面に従って本発明を説明する。
【0038】
本発明に係る吊りボルトの振動抑制体(以下、振動抑制体と言うこともある。)は、天井躯体から、例えば、
図11に示すように空調機器・配管類等の吊り構造物4を吊り下げる吊りボルト3・3・3・3の震動を抑制する技術であり、その具体的な構成例としては、
図1〜
図5に示すように、
吊り構造物を吊下げるために天井スラブやデッキプレートの如き天井躯体2から吊下固定される吊りボルト3に取り付けて、該吊りボルト3に作用する震動負荷を低減させて震動を抑制する構成の吊りボルトの震動抑制体1において、
該震動抑制体1が、弾性を有する
弾性板状材10から成り、
該
弾性板状材10の少なくとも上部11が、前記天井躯体2の下面21に当接し、
該
弾性板状材10の上部11から下部12までの一部乃至は全部(
図1に示す本実施例では上部11)が、前記吊りボルト3の外周の三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上(
図2及び
図3に示す本実施例では三箇所)の当接部13が形成する多角形(
図3に示す本実施例では三角形)内に前記吊りボルト3の中心3A(
図3参照)が含まれる位置であり、
前記吊りボルト3に対して振動エネルギーが入力された際に、前記
弾性板状材10が有する弾性が入力された震動エネルギーの震動方向と逆方向に付勢力を発揮することによって前記震動エネルギーを抑制乃至は消滅させる構成となっている。
【0039】
以下、本発明の振動抑制体1について更に詳説する。
【0040】
振動抑制体1の
弾性板状材10としては、配管支持具に用いられる公知公用の素材である金属・合成樹脂を用いることができ、該
弾性板状材10自体が弾性を有する材料であるか、又は弾性を有する他部材を
弾性板状材10に付加した構成とすることもできる。
図1〜
図5に示す本実施例では
弾性板状材10が弾性材料から形成された構成の態様を示す。
【0041】
弾性板状材10を例えば配管支持バンド等と同様の折曲・屈曲等の加工によって、上部11が天井躯体2の下面21に当接する共に下部12が吊りボルト3に外周に当接した状態で該
弾性板状材10から成る振動抑制体1を吊りボルト3に装着固定することができる。
【0042】
弾性板状材10の吊りボルト3外周へ当接する当接部13は、本実施例では
図2に示すように三箇所(符号13・13・13)であり、
図3に示すようにこの三箇所の当接部13・13・13によって形成される三角形T3内に吊りボルト3の中心3Aが含まれる位置となっている。吊りボルト3の中心3Aは該吊りボルト3の重心であるため、この中心3Aを当接部13・13・13から形成される三角形内に含むことにより、吊りボルト3に対して入力される振動エネルギーの振動方向がいかなる方向であっても、この入力した振動エネルギーに対して
弾性板状材10の付勢力が前記振動方向とは逆方向に作用することになるので、前記振動エネルギーを抑制乃至は消滅させることが可能となる。
【0043】
図2に示す実施例では吊りボルト3の外周の三箇所に等間隔に
弾性板状材10が当接する構成になっているため、三箇所の当接部13・13・13から形成される三角形T3は
図3(a)に示すように正三角形となり、吊りボルト3の中心3Aは三角形T3の中心に位置することになる。従って、振動エネルギーの振動方向は吊りボルト3の360度全周のいかなる方向であっても
弾性板状材10の不勢力を均等に発揮させることができる。
【0044】
尚、当接箇所である当接部13・13・13から形成される多角形は、該多角形内に吊りボルト3の中心3Aが含まれる構成であれば上記実施例の正三角形に限定されず、
図3(b)に示すように正三角形以外の三角形T3でもよいし、
図3(c)に示すように当接箇所を四箇所として四箇所の当接部13・13・13・13から形成される四角形T4であってもよい。但し、
図3(d)に示すように、当接部13・13・13から形成される三角形T3に吊りボルト3の中心3Aが含まれない構成では、この含まれない側に抜けるように入力される振動エネルギーに対して不勢力を発揮することはできないため本発明外となる。
【0045】
振動抑制体1の
弾性板状材10の吊りボルト3の外周への当接部13の上端と下端は、
図1に示す本実施例のように曲面で接するように構成することが好ましい。かかる構成によれば、吊りボルト3と
弾性板状材10との当接部13の当接端が面接触する構成となるので、この当接端への振動エネルギーの応力集中を避けることができ、吊りボルト3の根元部のみならず、この当接端における吊りボルト3の変形や破損を防止することができる。
【0046】
弾性板状材10の上部11は、前述したように天井躯体2の下面21へ当接するが、この当接は上記した吊りボルト3外周への当接と同様に、板状体10の上部11が天井躯体2の下面21の相対向する三箇所以上に当接し、且つその三箇所以上の当接箇所が形成する多角形内に前記吊りボルト3の中心3Aが含まれる位置となる構成であることが好ましい。
【0047】
図4及び
図5に示す本実施例では、
図4に示すように当接箇所は三箇所(符号14・14・14)であり、
図5に示すようにこの三箇所の当接部14・14・14によって形成される三角形T3内に吊りボルト3の中心3Aが含まれる位置となっている。吊りボルト3の中心3Aは該吊りボルト3の重心であるため、この中心3Aを当接部14・14・14から形成される三角形内に含むことにより、吊りボルト3に対して入力される振動エネルギーの振動方向が360度全周のどの方向であっても、振動抑制体1を天井躯体2の下面21に対して安定した状態で当接させることができるので、より振動エネルギーの抑制乃至は消滅が可能となる。
【0048】
図4に示す実施例では天井躯体2の下面21の三箇所に等間隔に
弾性板状材10の上部11・11・11が当接する構成になっているため、三箇所の当接部14・14・14から形成される三角形T3は
図5(a)に示すように正三角形となり、吊りボルト3の中心3Aは三角形T3の中心に位置することになる。従って、振動エネルギーの振動方向は吊りボルト3の360度全周のいかなる方向であっても天井躯体2の下面21への当接が均等になる。
【0049】
尚、当接箇所である当接部14・14・14から形成される多角形は、該多角形内に吊りボルト3の中心3Aが含まれる構成であれば上記実施例の正三角形に限定されず、
図5(b)に示すように正三角形以外の三角形T3でもよいし、
図3(c)に示すように当接箇所を四箇所として四箇所の当接部14・14・14・14から形成される四角形T4であってもよい。但し、
図3(d)に示すように、当接部14・14・14から形成される三角形T3に吊りボルト3の中心3Aが含まれない構成では、この含まれない側に抜けるように入力される振動エネルギーに対して下面21への当接が不均等になってしまうことから安定した状態で当接することができなくなるため本発明外となる。
【0050】
尚また、
図1、
図4及び
図5に示す実施例では、
弾性板状材10の上部11が吊りボルト3に非接触で天井躯体2の下面21に当接する構成、即ち、
弾性板状材10の上部11が吊りボルト3から離れた位置で天井躯体2の下面21に当接する構成になっており、かかる構成によって、より安定した状態での吊りボルトの振動抑制が可能である。
【0051】
以上の構成を有する本発明の振動抑制体は、吊りボルト3への装着・取付に際しては、吊りボルト3の側方から装着する構成としてもよいし、吊りボルト3の端部(下端)から挿通して取り付ける構成としてもよい。
【0052】
振動抑制体1を吊りボルト3の側方から装着する構成によれば、吊りボルト3に吊り構造物4が既に取り付けられた後であっても取付けが可能であり、また、吊りボルト3の端部(下端)から挿通して取り付ける構成によれば、吊り構造物4を吊りボルト3に取り付ける前に該吊りボルト3に予め振動抑制体1を取り付けておくことが可能である。
【0053】
以上、本発明に係る吊りボルトの振動抑制体について実施例に基き説明したが、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の範囲内において他の態様を採ることができる。
【0054】
例えば、上記実施例では、
弾性板状材10の上部11が吊りボルト3に非接触で天井躯体2の下面21に当接する構成としていたが、
図6に示すように
弾性板状材10の上部11が吊りボルト3に当接した状態で天井躯体2の下面21に当接する構成としてもよい。かかる構成によれば、吊りボルト3の根元部にかかる応力集中をより有効に防止することができる。
【0055】
また上記実施例は、
弾性板状材10が弾性材料で形成された構成としていたが、
図7に示すように
弾性板状材10に弾性材料15が付加されることによって弾性を発揮する構成としてもよい。更に、弾性材料から形成された
弾性板状材10に弾性材料15を付加する態様とすることもできる。
【0056】
弾性材料15の材質としては、合成ゴム、天然ゴム、軟質合成樹脂、これらの混合物等の素材構成が弾性を有する材料や、コイル状バネ、板状バネ等の構造的に弾性を有する材料を挙げることができ、
図7に示す実施例では、種々ゴム類等の素材構成自体が
弾性を有する材料を用いた構成を示している。
【0057】
更に上記実施例では、
弾性板状材10の上部11が複数箇所(
図3及び
図4では三箇所)で天井躯体2の下面21に当接する構成としていたが、
図8に示すように
弾性板状材10の上部11をボルト等の如き固定手段5を用いて天井躯体2の下面21に固定する構成とすることにより、当接箇所を三箇所以下(
図8では一箇所)とすることもできる。
【0058】
更に上記実施例では、
弾性板状材10の吊りボルト3外周への当接面は平滑面としていたが、
図9に示すように
弾性板状材10の吊りボルト3外周への当接部13に、吊りボルト3の凸条及び凹条から成るネジ溝に噛合う凹部及び/又は凸部16を設けた構成としてもよい。かかる構成によれば、吊りボルト3に対する振動抑制体10の当接部13の当接面積が増大することになると共に、該吊りボルト3軸方向への板状体10の当接部13の位置ズレが抑制されるので、振動エネルギーの抑制乃至は消滅効果が著しく向上する。
また、吊りボルト3と
弾性板状材10との当接部10の噛合せにより、振動エネルギーに対向する
弾性板状材10の付勢力が、該振動エネルギーの逆方向に加えて、吊りボルト3のネジ溝の螺旋方向においても発揮されるので、振動エネルギーの抑制乃至は消滅効果が更に一段と向上する。
【0059】
更に、
弾性板状材10の吊りボルト3外周への当接部13は、
図10に示すように
弾性板状材10の下部12の一部を切起し形成することにより形成する構成としてもよい。
【0060】
更に、
弾性板状材10の下部12の吊りボルト3に当接する位置としては、吊りボルト3に吊り構造物4を取り付けた部分の上方近傍位置(
図11のい符号3Bで示す位置)とすれば、吊り構造物4の取付位置に近い位置での振動エネルギーの抑制を図ることができるので、吊りボルト3の変形や破損をより防止することができる。
【0061】
尚、振動抑制体1を構成する板状体10は、吊りボルト3や天井躯体2の下面21に当接する各々が独立して構成されていてもよいが、連設乃至は連結された一部材構成であることが好ましい。
【符号の説明】
【0062】
1 振動抑制体
10
弾性板状材
11 上部
12 下部
13 吊りボルトとの当接部
14 天井躯体の下面との当接部
15 弾性材料
16 凹部及び/又は凸部
2 天井躯体
21 天井躯体の下面
3 吊りボルト
3A 吊りボルトの中心
3B 上方近傍位置
4 吊り構造物
5 固定手段