【解決手段】形状評価方法は、設計形状と評価対象形状との誤差である形状誤差を算出する形状誤差算出工程と、形状誤差と予め定められた視覚特性データとに基づいて視認可能な形状誤差を検出する視認可能誤差検出工程とを含む。
形状誤差算出工程は、評価対象形状の法線方向変化率から設計形状の法線方向変化率を減算することにより、形状誤差として法線方向変化率の誤差を算出する工程を含む、請求項1に記載の形状評価方法。
第1の視覚特性データは、表面に視覚解像度を評価する形状を有する第1の試験物を人が見たときに形状の変化を認識できる境界に基づいて設定された空間周波数の判定値を含み、
第2の視覚特性データは、表面に法線方向変化率の視認限界を評価する形状を有する第2の試験物を人が見たときに形状の変化を認識できる境界に基づいて設定された法線方向変化率の誤差の判定値を含む、請求項3に記載の形状評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1から
図14を参照して、実施の形態における形状評価方法および形状評価装置について説明する。
図1に、本実施の形態における形状評価装置のブロック図を示す。本実施の形態では、評価の対象となる物を対象物と称する。形状評価装置は、加工を行った後の対象物の形状を設計時の対象物の形状と比較する。
【0019】
形状評価装置10は、対象物の表面の形状を評価する装置である。評価を行う対象物としては、金型、機械部品、自動車のボディーなどの工業製品、または意匠性を要する物品を例示することができる。形状評価装置10は、例えば、バスを介して互いに接続されたCPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、およびROM(Read Only Memory)等を備える演算処理装置にて構成されている。
【0020】
本実施の形態における形状評価装置10には、設計データ25および評価対象データ26が入力される。加工を行う対象物は、CAD(Computer Aided Design)装置などにて形状が定められる。設計データ25には、設計時の対象物の形状である設計形状が設定されている。
【0021】
評価対象データ26は、対象物の評価の対象となる形状である評価対象形状が設定されている。評価対象データ26には、対象物の加工を行った後の形状データを採用することができる。例えば、評価対象データ26は、加工過程を模擬したシミュレーションにより得られた仮想的な形状データを用いることができる。または、評価対象データ26は、実際に対象物を加工した後の表面の形状が設定された形状データでも構わない。
【0022】
設計データ25および評価対象データ26は、表面の形状に関する2次元の座標値または表面の形状に関する3次元の座標値を含むことができる。または、設計データ25および評価対象データ26は、表面の形状に関する法線ベクトルの情報または法線方向変化率の情報を含むことができる。本実施の形態においては、設計データ25および評価対象データ26として、2次元の座標値を含む座標データを例示して説明する。
【0023】
形状評価装置10は、設計データ25および評価対象データ26を記憶するデータ記憶部11を含む。データ記憶部11は、設計データ25を記憶する設計データ記憶部として機能する。また、データ記憶部11は、評価対象データ26を記憶する評価対象データ記憶部として機能する。
【0024】
形状評価装置10は、形状誤差算出部12を含む。形状誤差算出部12は、設計データ25に設定された形状に対する評価対象データ26に設定された形状の誤差を算出する。すなわち、形状誤差算出部12は、設計形状と評価対象形状との誤差である形状誤差を算出する。
【0025】
形状評価装置10は、視認可能誤差検出部15を含む。形状誤差算出部12で算出された形状誤差は、視認可能誤差検出部15に入力される。視認可能誤差検出部15は、形状誤差算出部12において算出された形状誤差と予め定められた視覚特性データとに基づいて、人が判別可能な形状誤差を検出する。形状誤差が大きな場合には、観察者は、評価対象形状が設計形状と異なると識別することができる。しかしながら、形状誤差が小さい場合には、観察者が識別することができない。視認可能誤差検出部15は、形状誤差算出部12にて算出された形状誤差から視覚に影響を与える形状誤差を検出する。
【0026】
形状評価装置10は、位置特定部18を含む。位置特定部18には、視認可能誤差検出部15にて検出された視認可能な形状誤差の情報が入力される。位置特定部18は、対象物において視認可能な形状誤差が発生している位置を特定する。
【0027】
形状評価装置10は、出力部19を備える。出力部19としては、作業者に評価結果を伝達するように構成された装置を採用することができる。本実施の形態の出力部19は、形状の評価結果を表示する表示部である。表示部は、視認可能な形状誤差が存在する場合に、対象物の形状誤差が存在する位置を表示することができる。または、出力部19は、評価結果を他の装置に送出するように形成されていても構わない。
【0028】
図2に、本実施の形態における形状評価方法のフローチャートを示す。
図2に示す制御は、形状評価装置10にて実施する。
図1および
図2を参照して、ここでは、形状誤差として法線方向変化率の誤差を算出する。法線方向変化率の誤差が大きくなると、人は視覚的に評価対象形状が設計形状と異なると認識する。法線方向変化率の誤差は、観察者が対象物を見たときの視覚的に与える影響に良好に対応する。
【0029】
形状誤差算出部12は、設計形状と評価対象形状との誤差である形状誤差を算出する形状誤差算出工程を実施する。形状誤差算出部12は、変化率算出部13と変化率誤差算出部14とを含む。
【0030】
ステップ81において、変化率算出部13は、設計形状および評価対象形状において、対象物の表面の予め定められた点における法線方向変化率を算出する。ステップ82において、変化率誤差算出部14は、変化率算出部13にて算出された法線方向変化率に基づいて、設計形状に対する評価対象形状の誤差を算出する。
【0031】
図3に、設計形状および評価対象形状における法線方向変化率を説明する概略断面図を示す。本実施の形態では、設計データ25および評価対象データ26には、2次元の座標値が含まれている。
図3に示す例では、X軸およびZ軸に平行な平面にて対象物40が切断されている。対象物40の表面において予め定められた間隔ごとに法線ベクトルを設定することができる。X軸およびZ軸に平行な平面にて、対象物40を所定の間隔にて切断する。それぞれの切断面において所定の間隔ごとに法線ベクトルを設定することにより、対象物の表面全体の評価を行うことができる。
【0032】
設計形状の対象物40の表面には、予め定められた間隔ごとに設定点41aが設定されている。また、評価対象形状の対象物40の表面には、予め定められた間隔ごとに設定点41bが設定されている。複数の設定点41bの位置は、複数の設定点41aの位置に対応している。
【0033】
設計形状の設定点41aにおいて、表面の傾きに垂直な法線ベクトルn
iを設定する。法線ベクトルn
iはi番目の設定点41aの法線ベクトルである。法線ベクトルn
iについて法線方向の角度θ
iを設定することができる。ここでは、Z軸に対する角度を法線方向の角度θ
iに設定している。また、評価対象形状の設定点41bにおいて、表面の傾きに垂直な法線ベクトルn
irを設定する。法線ベクトルn
irについても法線方向の角度θ
irを設定することができる。ここでは、Z軸に対する角度を法線方向の角度θ
irに設定している。
【0034】
図4に、座標データから法線方向の角度を算出する方法を説明する概略図を示す。
図4には、設計形状を例示している。本実施の形態の設計形状は、座標値によって設定されている。i番目の設定点42と、(i+1)番目の設定点43との座標値は既知である。これらの2つの設定点42,43の座標値に基づいて、ベクトルa
iを設定することができる。ベクトルa
iは、設定点42から設定点43に向かうベクトルである。そして、ベクトルa
iに垂直なベクトルを法線ベクトルn
iに設定することができる。この時の法線方向の角度θ
iは、次の式(1)にて算出することができる。
【数1】
【0035】
このように、設計形状のi番目の設定点について、法線方向の角度θ
iを算出することができる。同様の方法により、評価対象形状のi番目の設定点41bについて、法線方向の角度θ
irを算出することができる。
【0036】
図1および
図2を参照して、変化率算出部13は、設定点41a,41bにおける法線方向変化率を算出する。法線方向変化率は、互いに隣り合う設定点の法線方向の角度の変化率である。例えば、法線方向の角度θ
iと法線方向の角度θ
i+1における変化率である。法線方向変化率は、次の式(2)にて算出することができる。次の式(2)は、設計形状のi番目の設定点41aにおける法線方向変化率を示している。評価対象形状の法線方向変化率も同様の方法により算出することができる。
【数2】
【0037】
次に、ステップ82において、変化率誤差算出部14は、算出した設計形状の法線方向変化率と評価対象形状の法線方向変化率とに基づいて、法線方向変化率の誤差を算出する。法線方向変化率の誤差は、評価対象形状の法線方向変化率から設計形状の法線方向変化率を減算することにより算出することができる。形状誤差としての法線方向変化率の誤差は、次の式(3)により算出することができる。
【数3】
【0038】
次に、視認可能誤差検出部15は、算出された形状誤差の中から視認可能な形状誤差を検出する視認可能誤差検出工程を実施する。視認可能誤差検出部15は、形状誤差算出工程において算出された形状誤差と予め定められた視覚特性データとに基づいて、人が視認可能な誤差を検出する。視認可能誤差検出部15は、空間周波数処理部16と誤差判定部17とを含む。視覚特性データには、空間周波数に関する第1の視覚特性データと法線方向変化率の誤差の大きさに関する第2の視覚特性データとが含まれる。
【0039】
ステップ83において、空間周波数処理部16は、法線方向変化率の誤差から視認が不可能な空間周波数の成分を除去する工程を実施する。表面の凹凸が細かくなると、人は凹凸を認識することができなくなる。すなわち、人は、凹凸の空間周波数が高くなると、表面に発現している凹凸を判別することができなくなる。これと同様に、形状誤差の空間周波数が高くなると、人は設計形状に対する評価対象形状の違いを判別することができなくなる。空間周波数処理部16は、このような視認限界を超える高い空間周波数の成分を除去する。
【0040】
空間周波数の処理を行う工程では、第1の視覚特性データを用いる。本実施の形態では、第1の視覚特性データは予め実験により定められている。ここで、第1の視覚特性データについて説明する。第1の視覚特性データの設定には、表面に視覚解像度を評価する形状を有する第1の試験物を用いる。第1の視覚特性データは、第1の試験物を人が見たときに形状の変化を認識できる境界に基づいて設定された空間周波数の判定値を含む。
【0041】
図5に、空間周波数の判定値を設定する為の第1の試験物の斜視図を示す。第1の試験物31は、直方体状に形成されている。第1の試験物31は、表面に間隔が徐々に狭くなる筋状の凹凸を有する。第1の試験物31の表面には、複数の凹部32がX軸方向に延びるように形成されている。凹部32は、断面形状が円弧状に形成されている。凹部32は、矢印91に示すようにY軸方向の正側に向かうにつれて、徐々に浅くなっている。
【0042】
互いに隣り合う凹部32同士の間には、筋33が形成されている。複数の筋33は、X軸方向に沿って延びている。複数の筋33は、互いに平行になるように形成されている。筋33の間隔は、矢印91に示すようにY軸方向の正側に向かうにつれて、徐々に狭くなっている。
【0043】
第1の試験物31を形成する場合には、例えば、ボールエンドミルを矢印92に示す方向に移動させることにより凹部32を形成する。同一のボールエンドミルを使用して、複数の凹部32を形成する。この時に、複数の凹部32の深さが除々に変化するように形成する。すなわち、ボールエンドミルで加工を行うときのピックフィード量を徐々に変えて凹部32を形成する。
【0044】
図6に、第1の試験物におけるY軸の位置と筋の間隔との関係を説明するグラフを示す。Y軸の位置が大きくなるほど筋33の間隔は狭くなることが分かる。この例では、筋33の間隔は、2次関数状に変化している。空間周波数は、長さに関する周波数である。空間周波数は、次の式(4)に示す様に、長さの逆数として定義することができる。
【数4】
【0045】
第1の試験物31においては、筋33の間隔の逆数を空間周波数と定義することができる。第1の試験物31においては、矢印91に示す方向に進むほど、空間周波数が高くなる。
【0046】
図5および
図6を参照して、第1の試験物31を例えば白色の幕で覆った状態で、様々な方向から光を照射することにより、映り込みがない状態にする。そして、真上から観察者が第1の試験物31を観察する。観察者は、筋33の間隔が大きな領域では、複数の筋33を確認することができる。ところが、筋33の間隔が小さくなると、複数の筋33を認識することができなくなる。筋33を認識できなくなる点が人の視覚解像度になる。
【0047】
このように、第1の試験物31は、視覚解像度を評価する形状を有する。
図5および
図6に示す例では、ピックフィード量を0.45mmから0.11mmまで指数関数状に変化させている。一般的に、視覚解像度は視角として表される。視角は、対象物の大きさと対象物と視点からの距離に依存する。このために、筋33同士の間隔は、評価を行う製品を観察する距離に基づいて設定することができる。ここで、視力1.0は視覚解像度にして視角1/60度であることが参考になる。
【0048】
本実施の形態では、観察者が予め定められた距離から第1の試験物を観察する。観察者は、表面の筋33の模様が確認できなくなるY軸の位置を指定する。測定器により、この点のY軸の位置を計測する。そして、Y軸の位置に基づいて筋33の間隔が定まる。筋33の間隔に基づいて、観察者の視認限界の空間周波数を定めることができる。本実施の形態では、複数の観察者にて視認限界の空間周波数を測定する。そして、複数の観察者の視認限界の空間周波数の平均値を算出している。この平均値を空間周波数の判定値に設定している。
【0049】
図7に、第1の試験物を観察した結果のグラフを示す。
図7に示す例では、第1の試験物31を通常の事務所内の明るさで25cmの距離から観察した場合の評価結果を示している。視覚解像度は、観察者に依存してばらつきが生じる。
図7に示す例では、視覚解像度の平均は0.27mmであり、視角にして0.07度である。すなわち、筋33同士の間隔が0.27mmになった時に、多くの人が筋33の模様を判別できなくなると判断することができる。この時の視認限界の空間周波数は、1/0.27[1/mm]になり、この値を空間周波数の判定値に採用している。
【0050】
本実施の形態においては、筋33の模様が見えなくなる間隔として、複数の観察者の平均値を採用しているが、この形態に限られず、観察者の結果を統計的に処理することができる。例えば、余裕を考慮して、観察者の測定結果の平均値よりも所定の値だけ加算した間隔を採用しても構わない。
【0051】
第1の試験物31を採用することにより、視覚解像度を定量的に設定することができる。また、対象物を観察する人の種類に合わせて視覚解像度を設定することができる。視覚解像度は人の網膜の視細胞の大きさと眼球の屈折率により決まる。このために、大きな個人差は生じにくいと考えられる。しかしながら、例えば近視の人と遠視の人とでは最も見やすい焦点距離が異なるために、同じ距離にある対象物を見た場合に視覚解像度が異なる場合がある。
【0052】
このために、例えば、子供が使う製品には、子供の観察者により設定した視覚解像度を用いて、老人が使う製品には、老人の観察者により設定した視覚解像度を用いることができる。このように、観察者として実際に対象物を観察する人の種類を選定し、視覚解像度を設定することにより、実際の製品の面品位を向上させることができる。
【0053】
また、視覚解像度は、対象物からの距離に依存する。このために、観察者による測定を行う場合には、実際の製品を人が見る時の距離に対応した距離にて測定を行うことが好ましい。
【0054】
第1の試験物は、上記の形態に限られず、視覚解像度を設定するための任意の試験物を採用することができる。例えば、Y軸方向に沿って、筋同士の間隔を線形的に変化させても構わない。また、上記の第1の試験物では、平面視した時に筋の模様が直線状に形成されているが、この形態に限られず、平面視した時に曲線状に形成されていても構わない。
【0055】
なお、本実施の形態の第1の試験物は、ボールエンドミルを用いて形成している。ボールエンドミルの工具径を変化させると凹部の断面形状が変化する。発明者らは、工具径が異なる複数のボールエンドミルを用いて複数の第1の試験物を作成した。1つの第1の試験物を作成する期間中には、ボールエンドミルを変えずに同一のボールエンドミルを使用した。この結果、ボールエンドミルの工具径が異なっても、観察者の視覚解像度はほぼ一定であることが分かっている。
【0056】
図1を参照して、上記の様に求められた視認限界の空間周波数に基づいて、空間周波数処理部16は、法線方向変化率の誤差から視認限界を超える空間周波数の成分を除去する。視認限界を超える空間周波数の成分を除去する方法としては、例えば、ローパスフィルタ等の公知のフィルタを用いることができる。または、法線方向変化率の誤差をフーリエ変換し、フーリエ変換した結果から視認限界より大きな周波数成分を取り除く。この後に、逆フーリエ変換することにより、視認が不可能な空間周波数の成分を除去した法線方向変化率の誤差を得ることができる。
【0057】
または、
図3を参照して、それぞれの設定点41bの前後における複数の設定点を用いて、法線方向変化率の誤差の平均値を算出することにより所望の高周波成分を除去することができる。i番目の前後の設定点における法線方向変化率の誤差の平均値が、i番目の設定点における高周波成分が除去された法線方向変化率の誤差になる。高周波成分が除去された法線方向変化率の誤差は、次の式(5)にて表すことができる。
【数5】
【0058】
ここで、平均値E
ivisを算出するための設定点の個数Nは、視認限界の空間周波数と設定点同士の間隔に基づいて算出することができる。平均値E
ivisを算出するための設定点の個数Nは、次の式(6)にて算出することができる。
【数6】
【0059】
このように、法線方向変化率の誤差の移動平均値を算出することによっても視認限界を超える高周波成分を除去することができる。人が認識できない細かい凹凸に関する誤差を除去することができる。
【0060】
ところで、視覚は、対象物の表面のコントラスト、すなわち輝度の変化を認識していることが知られている。対象物の表面の輝度は、表面の向き、光源、および視点の位置との関係により定まる。対象物の表面の輝度の変化は、表面の法線方向の変化に依存する。法線方向の変化が大きいと対象物の表面の輝度の変化も大きくなる。従って、人が視覚的に認識できるコントラスト、すなわち輝度の変化率は、法線方向変化率に置き換えて評価することができる。対象物の表面の法線方向変化率の視認限界を定量化することにより、表面に視覚的な問題が存在するかどうかを評価することができる。
【0061】
図1および
図2を参照して、ステップ84において、誤差判定部17は、第2の視覚特性データに基づいて、視認が可能な法線方向変化率の誤差が存在するか否かを判定する工程を実施する。法線方向変化率の誤差が判定値よりも大きい場合には、人が評価対象形状と設計形状とが異なると認識する。換言すれば、評価対象形状には、設計形状と異なると認識される部分が含まれると判別することができる。
【0062】
第2の視覚特性データは、法線方向変化率の誤差の大きさに関するデータである。本実施の形態では、第2の視覚特性データは、第2の試験物を人が見たときに形状の変化を認識できる境界に基づいて設定された法線方向変化率の誤差の判定値を含む。第2の試験物は、表面に法線方向変化率の視認限界を評価する形状を有する。
【0063】
図8に、第2の視覚特性データを設定するための第2の試験物の斜視図を示す。第2の試験物35は、直方体状に形成されている。第2の試験物35は、2つの平面が交差している形状を有する。第2の試験物35は、2つの平面が交差することにより、Y軸方向に沿って延びる稜線36を有する。稜線36において、平面の延びる方向が変化する。第2の試験物35は、稜線36での法線方向変化率が稜線36の延びる方向に沿って連続的に変化する形状を有する。
【0064】
図9に、稜線の近傍のX軸の位置に対する法線方向変化率のグラフを示す。稜線36の頂線のX軸の位置が零になる。
図9は、第2の試験物35のY軸方向における位置y
a,y
bを通るグラフが示されている。第2の試験物35は、形状変化の周期がおおよそ0.5mmになっている。
図8および
図9を参照して、矢印93に示す向きに進むほど法線方向変化率が増大している。Y軸の位置y
aは、第2の試験物35の一方の端面の位置であり、法線方向変化率の大きさが最大である。第2の試験物35の中央部の位置y
bでは、法線方向変化率が位置y
aよりも小さくなっている。Y軸の位置y
cは、第2の試験物35の他方の端面の位置であり、法線方向変化率が零である。このように、矢印93に示す方向に向かうにつれて、一つの平面の傾斜が徐々に大きくなるように形成されている。本実施の形態では、法線方向変化率を0[rad/mm]から−0.013[rad/mm]まで、指数関数状に変化させている。法線方向変化率の変化の状態は、この形態に限られず、例えば線形的に変化させても構わない。
【0065】
観察者が第2の試験物35を観察すると、法線方向変化率が大きな部分では、稜線36を視覚的に認識することができる。一方で、観察者は、法線方向変化率が小さな部分では、稜線36を視覚的に認識することができない。観察者が稜線36を確認できる限界を法線方向変化率の視認限界に定めることができる。
【0066】
観察者は、稜線36を確認できなくなった点を指定する。測定器により、この点のY軸の位置を計測する。そして、Y軸の位置に基づいて法線方向変化率の視認限界を定めることができる。本実施の形態では、第2の試験物35においても、複数の観察者が第2の試験物35を観察する。そして、複数の観察者の法線方向変化率の視認限界の平均値を判定値として採用している。
【0067】
図10に、複数の観察者が見たときの法線方向変化率の視認限界の出現度数のグラフを示す。
図10に示す例では、通常のオフィスの明るさで第2の試験物35を25cmの距離から観察した場合を示している。法線方向変化率の視認限界は観察者によりある程度のばらつきが生じる。観察者の平均値は、法線方向変化率が0.0045[rad/mm]になっている。すなわち、多くの人は、法線方向変化率が0.0045[rad/mm]になったときに、稜線36を認識することができなくなっている。本実施の形態では、この値を法線方向変化率の誤差の判定値に設定している。法線方向変化率の誤差の判定値の設定方法は、この形態に限られず、観察者の評価結果に基づいて統計的に算出しても構わない。
【0068】
図11に、形状誤差算出部により算出した法線方向変化率の誤差のグラフを示す。横軸は、X軸の位置であり、所定の位置を零に設定している。法線方向変化率の誤差は、それぞれの位置において大きく変動していることが分かる。すなわち、法線方向変化率の誤差は、高周波成分を含んでいる。
【0069】
図12に、空間周波数処理部により高周波成分を除去した法線方向変化率の誤差のグラフを示す。
図11のグラフと比較するとグラフが滑らかになり、それぞれの位置における高周波成分が除去されている。
図12には、法線方向変化率の誤差の判定値LEが記載されている。
【0070】
前述のように、対象物の法線方向変化率の誤差が人が視認可能な法線方向変化率よりも大きい場合には、人は評価対象形状と設計形状とが異なると認識すると考えることができる。このために、形状誤差の判定値LEとしては、第2の試験物35によって得られた法線方向変化率の視認限界を用いることができる。
図12に示す例では、法線方向変化率の誤差の判定値LEは、0.0045[rad/mm](
図10参照)を用いている。
【0071】
判定値LEを超える部分が、人が設計形状に対して評価対象形状が異なると認識する部分になる。例えば、人が位置x
aにおいて評価対象形状が設計形状と異なると認識すると判断することができる。
【0072】
図1および
図2を参照して、ステップ84において、誤差判定部17は、法線方向変化率の誤差が判定値を超えているか否かを判別する。ステップ84において、全ての領域において法線方向変化率の誤差が判定値以下の場合には、ステップ86に移行する。ステップ86においては、表示部に視認可能な形状誤差が存在しないことを表示する。ステップ84において、少なくとも一部の領域にて法線方向変化率の誤差が判定値を超えている場合には、ステップ85に移行する。
【0073】
ステップ85において、位置特定部18は、対象物において、法線方向変化率の誤差が判定値を超えている位置を特定する。
図12に示す例では、位置x
aを特定する。位置x
aにおいて形状に視覚的な問題が生じると判断することができる。次に、ステップ86に移行する。ステップ86において、表示部は、視認可能な形状誤差が存在することを表示する。また、表示部は、視認可能な形状誤差が発生している位置を表示する。
【0074】
第2の視覚特性データは、第1の視覚特性データと同様に、実際の製品を主に使用するユーザ層および使用環境に基づいて作成することが好ましい。また、これらの視覚特性データは、視力別や年齢別等の製品を使用する人の種類に応じて作成することができる。
【0075】
法線方向変化率の誤差の判定値を設定する方法や評価を行う時の評価方法は、評価対象形状に要求される視覚的な特性および実際の製品の使用状態等に基づいて設定することができる。例えば、上記の実施の形態では、複数の観察者の測定結果の平均値を判定値に採用しているが、この形態に限られず、平均値に余裕を含めた判定値を採用しても構わない。
【0076】
上記の実施の形態では、法線方向変化率の誤差が判定値を超える位置を検出しているがこの形態に限られず、例えば数mmの区間における法線方向変化率の誤差の平均値を算出し、この平均値が他の位置よりも大きくなる場合に人が視認可能であると判定しても構わない。また、この平均値が予め定められた判定値よりも大きくなる場合に、人が視認可能であると判定しても構わない。または、法線方向変化率の誤差に対して、人の視覚の空間周波数特性を含むコントラスト感度曲線を用いて、人が視認可能であると判定しても構わない。法線方向変化率の誤差に空間周波数による重みづけを行った後に、法線方向変化率の誤差が判定値を超えているか否かを判別し、法線方向変化率の誤差が判定値を超えている場合には人が視認可能であると判定しても構わない。
【0077】
上記の実施の形態では、第2の試験物35を観察者が見て法線方向変化率の視認限界を定めている。この方法を採用することにより、法線方向変化率の視認限界を定量的に定めることができる。また、第2の試験物の色、材質、または表面粗さを実際の製品と同一にすることにより、実際に人が見た時の面品位をより正確に判定することができる。更に、製品と同じ表面処理を施しておくことにより、面品位をより正確に判定することができる。これらの方法により、対象物の表面の色や質感の違いによる影響についても考慮することができる。
【0078】
なお、法線方向変化率の視認限界を定める場合には、観察者が第2の試験物を実際に見る方法に限られず、第2の試験物の写真や第2の試験物をカメラにて撮影した画像を表示した表示装置を見て法線方向変化率の視認限界を設定しても構わない。
【0079】
上記の実施の形態では、空間周波数の高周波成分を除去した後に法線方向変化率の誤差の判定を行っているが、空間周波数の高周波成分を除去する工程は実施しなくても構わない。たとえば、評価対象データとしてシミュレータ等の計算機にて算出したデータを用いる場合には、高周波成分が発現しない場合がある。このような場合には、空間周波数の高周波成分を除去する工程は実施しなくても構わない。
【0080】
本実施の形態における形状評価方法および形状評価装置は、人が視覚的に感じる対象物の表面の品質を評価することができる。また、設計において意図的に設けられた形状変化による輝度変化であるか、または、製造誤差等の形状誤差に起因する輝度変化であるかを判別することができる。また、実際に作成した製品が無くても、視覚的な問題の発生を評価することができる。例えば、後述するように、実際に加工した対象物の表面の形状の測定結果の代わりに、加工シミュレーションの結果を用いることにより、対象物に視覚的な問題が生じるか否かを評価することができる。
【0081】
また、本実施の形態における形状評価方法および形状評価装置は、空間周波数に基づく視覚解像度と、コントラストの視認限界とを分けて評価することができる。
【0082】
本実施の形態の視覚特性データは、第1の視覚特性データと第2の視覚特性データとを有する。これらの視覚特定データを、人が試験物を観察した結果に基づいて作成することにより、面品位の評価精度を向上させることができる。視覚特性データを実際の人の視覚に基づいて作成することにより、本発明による評価を実際の視覚による評価と精度よく一致させることができる。例えば、意図的に設けられた形状変化か否かを精度よく判別することができる。
【0083】
上記の実施の形態では、2次元の座標データから算出した法線方向データを用いて法線方向変化率の誤差を算出しているが、この形態に限られず、3次元の法線方向データを用いても構わない。すなわち、上記の実施の形態において、設計データおよび評価対象データは、2次元の座標情報を含むが、この形態に限られず、3次元の座標情報を含んでいても構わない。3次元の法線方向変化率は次の式(7)、式(8)により表すことができる。
【数7】
【0084】
設計データおよび評価対象データは、座標値を含むデータおよび法線方向を含むデータの他に、CAD装置で扱うことができるSTL(Standard Triangulated Language)データ等であっても構わない。
【0085】
また、本実施の形態では、形状誤差として法線方向変化率の誤差を算出しているが、この形態に限られず、形状誤差算出部は、設計形状に対する評価対象形状の任意の形状誤差を算出することができる。例えば、
図3を参照して、形状誤差としては、法線方向の角度の誤差であっても構わない。法線方向の角度の誤差は次の式(9)にて算出することができる。
【数8】
【0086】
図1を参照して、本実施の形態では、設計データおよび評価対象データをデータ記憶部に記憶させているが、この形態に限られず、設計データおよび評価対象データに基づいて算出した法線方向変化率をデータ記憶部に記憶させても構わない。この場合には、変化率算出部は、データ記憶部よりも前に配置される。また、法線方向変化率の誤差をデータ記憶部に記憶させても構わない。この場合には、形状誤差算出部はデータ記憶部の前に配置することができる。これらのどの場合でも数学的には等価である。
【0087】
図13に、本実施の形態の第1の加工システムのブロック図を示す。第1の加工システムは、前述の形状評価装置10を備える。第1の加工システムでは、CAD(Computer Aided Design)装置51にてワークの形状を設計する。CAD装置51は、ワークの設計データ52をCAM(Computer Aided Manufacturing)装置53に供給する。また、ワークの設計データ52は、形状評価装置10に入力される。
【0088】
CAM装置53は、設計データ52に基づいて、数値制御式の工作機械を駆動するための入力数値データ54を生成する。入力数値データ54には、ワークに対する工具の相対的な経路の情報が含まれている。CAM装置53には、工具条件や加工条件等の入力パラメータ57が入力される。工具条件には、工具の種類、工具径、および最適の切削速度等が含まれる。加工条件には、ピックフィード量、送り速度、および主軸の回転速度等が含まれる。
【0089】
第1の加工システムは、加工シミュレータ55を含む。加工シミュレータ55は、入力数値データ54および入力パラメータ57に基づいて、工作機械による加工を計算機にて模擬する。加工シミュレータ55に入力される入力パラメータ57には、模擬される工作機械の制御パラメータ等も含まれる。そして、加工シミュレータ55は、加工後のワークの形状の情報を含むシミュレータ出力データ56を出力する。シミュレータ出力データ56は、加工後のワークの座標値の情報や法線方向の情報等を含む。第1の加工システムでは、シミュレータ出力データ56が評価対象データに相当する。シミュレータ出力データ56は、形状評価装置10に入力される。
【0090】
形状評価装置10は、設計データ52およびシミュレータ出力データ56に基づいて、加工後のワークの形状に視認可能な形状誤差が含まれるか否かを判別する。視認可能な形状誤差が含まれる場合に、作業者は、出力部19に出力される評価結果に基づいて、CAD装置51にてワークの設計変更を行うことができる。または、作業者は、加工後のワークの形状に視認可能な形状誤差が含まれないように入力パラメータ57を変更することができる。
【0091】
このように、数値制御式の工作機械による切削加工のように、工具の軌跡が表面の形状に対応する場合には、工具の移動を模擬した数学モデルにより評価対象データを生成することができる。
【0092】
第1の加工システムでは、実際の加工を行わなくても加工後の形状の評価を行うことができる。そして、実際の加工を行う前に、加工後のワークの形状に視認可能な形状誤差が含まれないように設計形状を変更したり、入力パラメータを変更したりすることができる。
【0093】
図14に、本実施の形態の第2の加工システムのブロック図を示す。第2の加工システムは、数値制御式の工作機械60と、工作機械60にて加工した加工物(ワーク)の表面形状を測定する加工物測定器63を備える構成が第1の加工システムと異なる。CAM装置53にて出力された入力数値データ54は、工作機械60に入力される。工作機械60には制御パラメータ62が入力される。制御パラメータ62には、加減速の時定数、バックラッシ補正、および送り軸のフィードバック制御におけるゲイン等が含まれる。工作機械60は、制御パラメータ62および入力数値データ54に基づいて自動的にワークを加工することができる。工作機械60は、加工物61を形成する。
【0094】
加工物測定器63は、加工物61の表面形状を測定する。加工物測定器63としては、粗さ測定機や3次元測定機を例示することができる。そして、加工物測定器63は、加工物61の表面の形状の測定結果に基づいて、測定データ64を生成する。測定データ64には、座標値の情報や法線方向の情報等が含まれている。測定データ64は、評価対象データに相当する。測定データ64は、形状評価装置10に入力される。
【0095】
形状評価装置10は、設計データ52および測定データ64に基づいて、加工後の加工物61の形状に視認可能な形状誤差が含まれるか否かを判別する。視認可能な形状誤差が含まれる場合に、作業者は、出力部19に出力される評価結果に基づいて、CAD装置51にてワークの設計変更を行うことができる。または、作業者は、加工物の形状に視認可能な形状誤差が含まれないように、制御パラメータ62を変更することができる。
【0096】
このように、評価対象形状が実際の加工物の形状の場合にも定量的に表面形状の評価を行うことができる。また、評価結果が定量的に示されるために、制御パラメータ62およびワークの設計変更が容易になる。
【0097】
または、ワークを配置しない状態にて工作機械を駆動した時の工具およびワークの移動軌跡を測定することができる。そして、移動軌跡の測定結果に基づいて評価対象データを作成しても構わない。例えば、工具またはワークを配置するテーブルの移動軌跡を、ボールバーを含む真円測定器、グリッドエンコーダ、変位計、または加速度計などにより測定することができる。これらの測定結果に基づいて評価対象データを生成することができる。または、工作機械の制御装置において実施されるフィードバック制御に関する情報等を用いることもできる。
【0098】
この方法では、実際の加工を行うための工作機械の駆動を実施することができる。または、予め定められた工作機械の基本動作により測定を行うことができる。基本動作の測定結果に基づいて、実際の加工の工作機械の動作を推定し、推定した動作に基づいて評価対象データを作成しても構わない。この方法においても、実際のワークを加工しなくても加工後のワークの表面形状の評価を行うことができる。
【0099】
本発明の形状評価方法および形状評価装置は、人の視覚による評価が行われる製品の形状の評価に用いることができる。また、設計を行う時に形状公差の設定や、視覚的な問題が生じた場合に問題を解決する方法を定める時に用いることができる。
【0100】
上述のそれぞれの制御においては、機能および作用が変更されない範囲において適宜ステップの順序を変更することができる。上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの図において、同一または相等する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される実施の形態の変更が含まれている。