【解決手段】針板17又は送り歯14に針穴15が形成されたミシン10において、下糸Dの縫い開始端部をエアーにより下側から針穴に挿通させる下糸挿通機構2と、針穴に通された下糸の縫い開始端部を針板の上側で保持する縫い開始端部保持機構50と、縫い開始端部保持機構に保持された下糸の縫い開始端部を切断する第一の糸切り装置60と、ミシンの動作制御を行う制御装置110とを備え、下糸挿通機構2により針穴に通された下糸を縫い開始端部保持機構50が保持し、第一の糸切り装置60が切断することにより下糸の縫い開始端部を短くする。
前記エアーブロー機構は、前記針穴に向けてエアーを吐出するノズルを備え、当該ノズルは、先端部に前記下糸の縫い開始端部を通すスリット部を有することを特徴とする請求項1記載のミシン。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[ミシンの概略]
以下、図面を参照して、本発明にミシン10について説明する。ミシン10は、いわゆる総合送りミシンであり、
図1に示すように、上下動を行うと共に布送り方向に沿って揺動する針棒及び縫い針11(
図18参照)と、針棒に同期して上下動及び前後の揺動を行う送り足12と、送り足12と交互に上下動を行う押さえ足13と、針棒に同期して周期的に送り方向に移動する送り歯14とを備えている。
即ち、総合送りミシンは、送り足12には縫い針11を挿通させる貫通穴12aが形成され、送り歯14には縫い針11を挿通させる針穴15が形成されている。
そして、縫い針11及び送り足12が下降する際に送り歯14が上昇し、これらは全て布送り方向前側に向かって移動する。これにより、布地は送り足12と送り歯14とにより挟持されながら縫い針11が突き通されて布送り方向の前側に送られる。
また、縫い針11及び送り足12が上昇する際に押さえ足13は下降して、押さえ足13が布地を上から押さえている間に縫い針11及び送り足12が後退し、再び被縫製物を送りながら針落ちを行う。
【0017】
なお、総合送りミシンの場合には、周回運動を行う送り歯14に針穴15が形成されており、針穴15の位置は送り歯14の周回運動と共に変動するが、以下の説明において、針穴15との相対的な位置関係を説明する記述は、特にことわりがない限り、送り歯14が上軸角度0°(針棒上死点)に位置する場合の針穴15の位置であることを前提とする。
また、ミシン10は、総合送りミシンとして通常備えている構成、例えば、針棒の上下動機構、布地の送り機構、釜の駆動機構、糸調子、天秤等を全て具備しているが、これらは周知の構成であるため、詳細な説明は省略する。
また、以下の説明では、ミシン10を水平面上に置いた状態で鉛直上方を「上」、鉛直下方を「下」、布送り方向下流側を「前」、布送り方向上流側(オペレータ側)を「後」、前方を向いた状態で左手側を「左」、前方を向いた状態で右手側を「右」とする。
【0018】
図2はミシン10のベッド部16の立胴部側とは逆側(左側)の端部の平面図であり、上面カバーと内部の一部の構成の図示を省略している。また、
図3はミシンの全体構成を示すブロック部である。
図示のように、ミシン10は、ミシンベッド部16の上部に設けられた針板17と、針板17の右下側に設けられた水平釜18と、下糸の縫い開始端部を下側から針穴15に挿通する下糸挿通機構2と、針穴15に通された下糸及び上糸の縫い開始端部をそれぞれ針板17の上側で保持する縫い開始端部保持機構50と、縫い開始端部保持機構50に保持された下糸の縫い開始端部を切断する第一の糸切り装置60と、縫い終わりの下糸を切断すると共に切断された下糸の釜側の端部を次回の縫いの縫い開始端部として保持する第二の糸切り装置70と、縫い開始端部保持機構50のスライド板51によりスライド方向に引き出された上糸及び下糸の縫い開始端部を下方にたぐる糸たぐり機構80と、第一の糸切り装置60により切除された下糸及び上糸の切除片を捕集する捕集機構19と、ミシン10の各構成を制御する制御装置110とを備えている。
【0019】
また、上記下糸挿通機構2は、第二の糸切り装置70による下糸の縫い開始端部の保持状態を解除する保持解除機構20と、下糸の縫い開始端部を針穴15の下側に寄せる糸寄せ機構30と、保持状態が解除された下糸の縫い開始端部をエアーにより針穴15に挿通させるエアーブロー機構40とを有する構成となっている。
【0020】
また、前述したように、ミシン10は、針棒及び縫い針11に上下動及び前後方向の揺動を付与する針上下動機構、送り足12及び押さえ足13を交互に上下動させる押さえ上下動機構、送り歯14を針板17の開口から出没させると共に前後に送る布送り機構、水平釜18を縫い針11の上下動の二倍速で回転駆動する釜機構等を備えており、これらはいずれもミシンモーターを共通の駆動源としている。
以下、上記各構成について順番に説明する。
【0021】
[第二の糸切り装置]
図4は水平釜18の周辺の構成を示す側面図、
図8は斜視図である。
図2〜
図4及び
図8に示すように、第二の糸切り装置70は、針板17よりも低位置であって針穴15に対して前方に配置されている。そして、第二の糸切り装置70は、鈎状の動メス71と、ミシンフレームに固定された固定メス72と、動メス71を固定メス72側に押圧する板バネ73とを備えている。
この第二の糸切り装置70は、最終針の針落ち後に針穴15から水平釜18に渡る上糸及び下糸を捕捉して切断すると共に、切断後の下糸の端部を保持する。この下糸端部は、次回の縫いにおける縫い開始端部となる。
【0022】
動メス71は前後方向に長尺であってその先端部を後方に向けた状態でリンクを介して第二の糸切りソレノイド74に連結されており、第二の糸切りソレノイド74によって後方に向かって進み、上糸及び下糸を捕捉して前方に向かって下の位置に戻る往復動作を行う。
このため、動メス71の先端部は尖鋭形状であり、先端部近傍には鈎状の返し部が形成されており、返し部の内側には前方に刃先が向けられた切刃が形成されている。
【0023】
固定メス72は、動メス71の上側に配置され、その下面が当該動メス71の上面に摺接する。固定メス72は後方に向かって延出された片持ち梁状であって、その先端部には後方に刃先が向けられた切刃が形成されている。これにより、往復の往路で動メス71が返し部により捕捉した上糸及び下糸を、往復の復路で動メス71の切刃と固定メス72の切刃とで挟み込んで切断する。
【0024】
板バネ73は、動メス71の下側から上方に押圧するので、動メス71を固定メス72に押しつけることができ、これらに隙間が生じることを防止し、より確実な切断を可能とする。
また、板バネ73により、切断後の下糸の釜側の端部(次回の縫製の縫い開始端部)を動メス71と板バネ73との間に挟んで保持することができ、下糸の縫い開始端部の所在を明確にすることができる。
【0025】
[糸寄せ機構]
糸寄せ機構30は、下糸の縫い開始端部をエアーブロー機構40が針穴15を通して上方に挿通させることができるように適正な位置に誘導する機能と、水平釜18の内部のボビンから適正な長さの下糸を繰り出させる機能とを有している。
図5は糸寄せ機構30の斜視図、
図6は後述する糸寄せフック31の動作前後の位置を示す拡大平面図、
図7は糸寄せフック31の先端部における下糸の挙動を示す説明図である。
図2及び
図5に示すように、糸寄せ機構30は、針板17よりも低位置であって針穴15に対して後方且つ幾分左寄りに配置されている。
【0026】
上記糸寄せ機構30は、進退動作により水平釜18から第二の糸切り装置70に渡る下糸の縫い開始端部を捕捉する糸寄せ部材としての糸寄せフック31と、当該糸寄せフック31を進退移動させる第一の糸寄せエアシリンダー32と、糸寄せ機構30全体を支持する支持板33と、第一の糸寄せエアシリンダー32を支持板33に対して所定方向に沿って滑動可能とする支持部材34と、支持板33に対して第一の糸寄せエアシリンダー32を前述した所定方向に沿って往復駆動させる第二の糸寄せエアシリンダー35とを備えている。
【0027】
支持板33は、ミシンベッド部16に対して水平となるように取り付けられており、第一の糸寄せエアシリンダー32の進退動作方向をガイドする長穴331が形成されている。この長穴331は、右斜め前の方向に沿って形成されており、第一の糸寄せエアシリンダー32が第二の糸寄せエアシリンダー35により押し出されると、前進しつつ右方に寄る方向に移動する。
支持部材34は、長穴331内を滑動する図示しない滑動体と支持板33の背面側で第一の糸寄せエアシリンダー32が脱落しないように保持する保持板とからなり、支持板33に対して第一の糸寄せエアシリンダー32が進退移動可能に連結している。
【0028】
支持板33に支持された第一の糸寄せエアシリンダー32は、そのプランジャーの進退方向と糸寄せフック31の長手方向とが一致する状態で保持しており、また、プランジャーの進退方向は、前述した長穴331に比べて右成分がより少ない右斜め前側に沿っている。
【0029】
第一と第二の糸寄せエアシリンダー32,35により、糸寄せフック31は退避位置から二段階で右斜め前に移動する。
図6における実線で示した糸寄せフック31及び下糸は第一及び第二の糸寄せエアシリンダー32,35の両方を前進駆動させた状態における位置を示し、二点鎖線で示した糸寄せフック31及び下糸は両方の糸寄せエアシリンダー32,35を前進駆動させた状態から第二の糸寄せエアシリンダー35のみを後退させた状態における位置を示す。
糸寄せフック31は最前進することにより、その先端部が水平釜18から第二の糸切り装置70に間に渡る下糸と交差する位置に到達する。
また、第一と第二の糸寄せエアシリンダー32,35の両方を前進させた状態から第二の糸寄せエアシリンダー35のみを後退させることにより、水平釜18から第二の糸切り装置70に渡る下糸をエアーブロー機構40のノズル41の先端部と針穴15の間を通過する経路に寄せることができる。
【0030】
糸寄せフック31の先端部は、
図7に示すように、先端部に形成された下糸の縫い開始端部を上方に移動させる第一の傾斜部311と、先端部の上部に形成された下糸の縫い開始端部を捕捉する凹部312と、当該凹部312の内側における後端部側(先端部側の逆側)に形成された下糸の縫い開始端部を下方に移動させる第二の傾斜部313と、凹部312内において第二の傾斜部313と対向する第三の傾斜部314とを備えており、第一の傾斜部311の上端部よりも第二の傾斜部313の上端部の方が高くなるように形成されている。
【0031】
第一の傾斜部311は、傾斜角度θ1に示すように鋭角であって、後方に向かうにつれて上昇する方向に傾斜しており、糸寄せフック31の前進時に第一の傾斜部311に当接した下糸を上方に押し上げることができる。
第二の傾斜部313は、傾斜角度θ2に示すように鈍角であって、後方に向かうにつれて下降する方向に傾斜しており、また、第二の傾斜部313の上端部は第一の傾斜部311の上端部よりも高く形成されている。このため、糸寄せフック31の前進時に、第一の傾斜部311によって押し上げられた下糸を下降させて凹部312内に導くことができる。
第三の傾斜部314は、傾斜角度θ3に示すように鈍角であって、後方に向かうにつれて下降する方向に傾斜しており、その上端部は第一の傾斜部311と同じ高さである。このため、糸寄せフック31の後退時に、凹部312内に導かれた下糸を捕捉し、凹部312から下糸が不慮に抜け出ることを防止する。
【0032】
これらの構造により、糸寄せフック31は、下糸が第一の傾斜部311の上端部よりも低位置にあるときには、
図7(A)に示すように、糸寄せフック31の前進により、下糸を第一の傾斜部311に当接させて上方に押し上げ、さらに、第二の傾斜部313により捕捉して凹部312内に導き込むことができる。そして、糸寄せフック31を後退させると、凹部312内の下糸は第三の傾斜部314によって捕捉され、凹部312から抜け出さないように保持される。なお、凹部312内の下糸は後述するエアーブロー機構により上方に吹き上げられるが、その際には第三の傾斜部314に沿って移動するので、移動は妨げられない構造となっている。
【0033】
また、下糸が第一の傾斜部311の上端部よりも高位置であっても第二の傾斜部313よりも低位置である場合には、
図7(B)に示すように、糸寄せフック31の前進により、下糸を直接的に第二の傾斜部313に当接させて凹部312内に導き込むことができる。糸寄せフック31の後退時の下糸の挙動は
図7(A)の場合と同一である。
【0034】
[エアーブロー機構]
図8はエアーブロー機構40のノズル41の後退状態を示す斜視図、
図9はエアーブロー機構40のノズル41の進出状態を示す斜視図である。
これらの図に示すように、エアーブロー機構40は、針穴15の下方から当該針穴15に向けて先端部からエアーを吐出するノズル41と、ノズル41を着脱可能に保持すると共にエアーの供給源(コンプレッサー等)に接続されたノズル保持部43と、ノズル保持部43を介してノズル41を進退移動させるノズル昇降エアシリンダー44と、エアーの供給源からノズル保持部43へのエアーの供給と停止を切り替える切替弁45(
図3参照)とを備えている。
【0035】
ノズル保持部43は、筒状のノズル挿入部431と当該ノズル挿入部431をノズル昇降エアシリンダー44のプランジャーに連結する枠部432とを備えている。
ノズル挿入部431は、ノズル41を挿入可能であり、ネジによりノズル41を固定することができる。また、ネジを緩めることでノズル41の取り外しを容易に行うことができ、平型のノズル41から後述する丸型のノズル42に交換することもできるようになっている。
また、このノズル保持部43には、エアー供給用のホースが接続されており、供給されるエアーによってノズル41の先端部からのエアーの吐出を可能とする。
【0036】
ノズル保持部43に保持されたノズル41は、前斜め上を向いた状態となる。そして、ノズル昇降エアシリンダー44のプランジャーはノズル41の長手方向と同じ方向に沿ってノズル41に進退移動を付与することができる。そして、
図9に示すように、ノズル昇降エアシリンダー44のプランジャーの進出状態において、ノズル41の先端部を針穴15の真下に近接した状態することができる。
【0037】
ノズル41は、
図10及び
図11に示すように、その先端部が概ね左右方向に沿った平型の開口部を有し、エアーを絞って高速で吹き出すことができる。また、ノズル41の先端部における幅方向の中間にはスリット部411が形成されており、ノズル41の進出移動時に下糸の縫い開始端部を内側に収容することができる。即ち、ノズル41の進出時に、前述した糸寄せ機構30の糸寄せフック31に寄せられた下糸の縫い開始端部が、丁度、スリット部411に収容されるようにエアーブロー機構40は配置されている。
【0038】
また、ノズル41は、
図12及び
図13に示す丸型のノズル42に交換することが可能である。この丸型のノズル42もその先端部にスリット部421が形成され、下糸を収容可能となっている。
この丸型のノズル42は、開口部が広くなっていることから広範囲に吹き付けを行うことができる。
【0039】
[保持解除機構]
保持解除機構20は、
図4及び
図8に示すように、第二の糸切り装置70の板バネ73を係止する係止部材21と、係止部材21を昇降させる解除エアシリンダー22とを備えている。
係止部材21は鉛直上下方向に沿って配設され、その上端部が右方に直角に屈曲している。そして、係止部材21の上端部の屈曲部211は、板バネ73の長手方向の中間部の上面に上方から近接対向するように配置されている。
解除エアシリンダー22は、屈曲部211が板バネ73の上面に近接対向する位置にある係止部材21を下降させる方向に駆動し、係止部材21を介して板バネ73を下方に引き下げることができる。
この引き下げにより、板バネ73の先端部が動メス71から離間し、動メス71との間で挟持していた下糸の縫い開始端部を解放する。
【0040】
[針板]
図14は針板17の平面図である。針板17は、ミシンベッド部16の上面に水平に取り付けられている長方形状の平板であって、その長辺の方向が前後方向に沿うように配置されている。
針板17は、上面の中央部に送り歯14が出没する矩形の開口部171が形成され、当該開口部171に連なって第一の糸切り装置60の動メス61及び固定メス62と糸たぐり部材81が配置される切り欠き172が形成されている。これらは針板17に対して上下に貫通して形成されている。
また、開口部171の前側には、当該開口部171に連なって、後述する縫い開始端部保持機構50のスライド板51のガイド溝173が形成されている。このガイド溝173は、開口部171と左右幅が等しくなっている。
【0041】
[縫い開始端部保持機構]
縫い開始端部保持機構50は、上糸及び下糸の縫い開始端部をそれぞれ保持するための上糸捕捉孔及び下糸捕捉孔としての第一の開口部511及び第二の開口部512が形成されたスライド板51(
図15〜
図20参照)と、スライド板51に前後方向の動作を付与する第一の糸保持エアシリンダー52と、スライド板51及び第一の糸保持エアシリンダー52に前後方向の動作を付与する第二の糸保持エアシリンダー53(
図3参照)とを備えている。
【0042】
スライド板51は、真直に延びた長尺の平板であり、針板17のガイド溝173内に前後方向に沿って配置される。スライド板51の後端部には上糸の縫い開始端部を保持する第一の開口部511が貫通形成され、後端部から幾分前方となる位置に下糸の縫い開始端部を保持する第二の開口部512が貫通形成されている。
スライド板51は、前後移動により、第一又は第二の開口部511,512を針穴15の真上に位置決めし、下糸又は上糸の縫い開始端部を挿通させてから前方に移動することで、下糸D又は上糸Uの縫い開始端部をスライド板51の下面と針板17のガイド溝173の内面との間に挟み込むことにより保持を行う。
【0043】
上記スライド板51は、まず、針穴15に対して第二の開口部512を位置決めした下糸挿通位置でエアーブロー機構40によって吹き上げられた下糸Dの縫い開始端部を挿通し(
図16)、かかる状態から前方に向かって移動して針穴15に対して第一の開口部511を位置決めした上糸挿通位置となる(
図19)。上糸挿通位置では、下糸Dの縫い開始端部がスライド板51と針板17の間で挟まれて保持されると共に、上糸Uの縫い開始端部が挿通可能となる。上糸Uの挿通後、スライド板51はさらに前方の退避位置まで移動して、スライド板51と針板17の間で下糸Dと上糸Uの縫い開始端部が保持された状態となる(
図20)。
従って、スライド板51は、下糸挿通位置と上糸挿通位置と退避位置の三位置の間を移動位置決めする必要がある。
【0044】
上記第一の糸保持エアシリンダー52は、そのプランジャーにスライド板51が直接的に連結されており、スライド板51を上記下糸挿通位置から上糸挿通位置への間の移動を行う。
第二の糸保持エアシリンダー53は、そのプランジャーに第一の糸保持エアシリンダー52の本体が直接的に連結されており、スライド板51と第一の糸保持エアシリンダー52を上糸挿通位置から退避位置への間の移動を行う。
なお、第一の糸保持エアシリンダー52は、前後方向に移動可能なスライドガイド等によりミシンベッド部16内で支持する構成としても良い。
【0045】
[第一の糸切り装置]
図21は第一の糸切り装置60の斜視図、
図22〜
図24は第一の糸切り装置60の動メス61及び固定メス62の斜視図、
図25は後面図である。
第一の糸切り装置60は、左右方向に長尺であって右端部に右方に向けた刃先を備える動メス61と、左右方向に長尺であって右端部に鈎状部621を備える固定メス62と、動メス61に左右方向の往復移動を付与する第一の糸切りエアシリンダー63(
図3参照)とを備えている。
【0046】
動メス61は、先端部の刃先が前後方向にフラットであり、固定メス62の上に重ねて配置されている。また、動メス61の基端部は第一の糸切りエアシリンダー63のプランジャーに取り付けられた支持板64にネジ止めにより固定されている。
そして、動メス61は、非切断時には、針板17の切り欠き172内において、スライド板51及び固定メス62よりも左方に位置しており、切断時には右方に移動してスライド板51の下側に進入する。
【0047】
固定メス62は、その右端部の鈎状部621の内側に左方に向いた刃先が形成されており、鈎状部621の内側に入り込んだ下糸及び上糸を固定メス62の刃先と動メス61の刃先と挟んで切断を行う。
固定メス62は、非切断時の動メス61よりも右方に延出されており、スライド板51の下側に入り込んだ状態で配置されている。
【0048】
[糸たぐり機構]
糸たぐり機構80は、
図22〜
図25に示すように、スライド板51に保持された下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を捕捉して下方にたぐる糸たぐり部材81と、糸たぐり部材81を所定の糸たぐり方向に沿って移動させる糸たぐりエアシリンダー82(
図3参照)とを備えている。
【0049】
糸たぐり部材81は、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を上から押さえる保持部811と、当該保持部811の先端部(右端部)で下方に屈曲して下糸D及び上糸Uの縫い開始端部が保持部811から抜け出さないように保持する爪部812と、保持部811から糸たぐり方向(左斜め下方向)に延出された延出部813とを備え、延出部813の基端部は糸たぐりエアシリンダー82のプランジャーに連結されている。
【0050】
糸たぐり部材81の先端部は、前述した第一の糸切り装置60の固定メス62のすぐ前側に隣接する配置となっている。さらに、糸たぐり部材81は、保持部811と爪部812と延出部813とにより略U字状に形成され、その内側をスライド板51が通過するように配置されている。従って、スライド板51が前方の退避位置まで移動して下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を保持すると、当該下糸D及び上糸Uの縫い開始端部はU字状の内側空間を通過している状態となる。
【0051】
この時、
図22に示すように、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部は、固定メス62の鈎状部621に対して右上に位置するので、そのままの状態では切断することはできない。
しかしながら、糸たぐり部材81は、
図25に示すように、糸たぐりエアシリンダー82により左斜め下側に向かって移動するので、
図23に示すように、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を固定メス62の鈎状部621の内側に引き込み係合させることができる。
これにより、動メス61を右方に移動させることで下糸D及び上糸Uの縫い開始端部の切断が可能となる。
【0052】
[捕集機構]
捕集機構19は、ミシンベッド部16の内部であって第一の糸切り装置60の下方に配設されている。この捕集機構19は、上部が開口した筐体と、筐体内部に設けられたファン191(
図3参照)と、筐体内に吸引された下糸及び上糸の切除片を捕集するトラップとを備え、ファン191の駆動によりトラップに切除片を捕集することを可能としている。
【0053】
[ミシンの制御系]
ミシンの制御系を
図3に基づいて説明する。
ミシン10の制御装置110は、制御、判断等各種処理用の各種プログラムが記憶、格納されたROM112と、これらの各種プログラムに従って各種演算処理を行うCPU111と、各種処理におけるワークメモリとして使用されるRAM113と、各種の縫製データ及び設定データを格納したEEPROM114とで概略構成されている。
そして、制御装置110には、システムバス及び駆動回路等を介して、縫製の駆動源となるミシンモーター117、保持解除機構20の解除エアシリンダー22、糸寄せ機構30の第一の糸寄せエアシリンダー32及び第二の糸寄せエアシリンダー35、エアーブロー機構40のノズル昇降エアシリンダー44及び切替弁45、開始端部保持機構50の第一の糸保持エアシリンダー52及び第二の糸保持エアシリンダー53、第一の糸切り装置60の第一の糸切りエアシリンダー63、第二の糸切り装置70の第二の糸切りソレノイド74、糸たぐり機構80の糸たぐりエアシリンダー82、捕集機構19のファン191、各種の操作を入力する操作入力部115、縫製の開始を入力するスタートペダル116等が接続されている。
【0054】
なお、制御装置110は、実際には、解除エアシリンダー22、第一の糸寄せエアシリンダー32、第二の糸寄せエアシリンダー35、ノズル昇降エアシリンダー44、第一の糸保持エアシリンダー52、第二の糸保持エアシリンダー53、第一の糸切りエアシリンダー63、第二の糸切りソレノイド74及び糸たぐりエアシリンダー82を個々に作動させる電磁弁に対して制御を行うが、ここでは各電磁弁の図示は省略する。
また、ミシンモーター117やファン191はドライバー回路を介して制御されるがその図示も省略する。
【0055】
[縫い開始端部の切断制御]
図30は下糸D及び上糸Uの縫い開始端部の切断制御のフローチャートである。上記構成からなるミシン10の制御装置110が実行する、縫製の開始時に行われる下糸D及び上糸Uの縫い開始端部の切断制御について、主に、
図15〜
図20の斜視図、
図26〜
図29の動作説明図及び
図30のフローチャートに基づいて説明する。なお、
図26〜
図29において符号Cは被縫製物である布地を示している。
以下に説明する縫い開始端部の切断動作では、当初はミシンモーター117は針棒が上死点に位置する状態で停止していること及び前回行われた縫製により下糸の先端部が第二の糸切り装置70にクランプされている状態であることを前提とする。また、ミシンの電源がOFFになった状態では、スライド板51は退避位置(
図26(A))に位置しており、ミシンの電源がONになるとスライド板51は下糸挿通位置(
図26(B))に位置移動するように制御される。以下の説明では、ミシンの電源がONになった状態で、スライド板51が下糸挿通位置に移動した状態から説明する。
【0056】
第一及び第二の糸保持エアシリンダー52,53を進出状態として、スライド板51は第二の開口部512が針穴15に重合する下糸挿通位置に位置している(
図30のステップS1)。この時、糸たぐりエアシリンダー82は進出状態であり、糸たぐり部材81はスライド板51よりも上側へ位置している(
図15)。
そして、
図4に示すように、水平釜18から第二の糸切り装置70に渡る下糸の縫い開始端部に対して、糸寄せ機構30の第一及び第二の糸寄せエアシリンダー32,35を進出状態として糸寄せフック31を前方に進出させる。これにより、凹部312内に下糸の縫い開始端部を捕捉した後、第二の糸寄せエアシリンダー35のみを後退状態とする。これにより、水平釜18から下糸が繰り出されると共に下糸の縫い開始端部が針穴15の真下を通過する経路となるように引き寄せられる。
【0057】
次いで、エアーブロー機構40のノズル昇降エアシリンダー44を進出状態としてノズル41を上昇させ、下糸及び針穴15に対してノズル41の先端部を近接させる。
さらに、保持解除機構20の解除エアシリンダー22を後退状態として係止部材21を下降させることにより、第二の糸切り装置70による下糸の縫い開始端部の保持状態を解除する。さらに、エアーブロー機構40の切替弁45を制御してエアーの供給状態に切り替えを行う。その結果、下糸Dの縫い開始端部は、エアーブローによって針穴15の下から上に向かって吹き上げられ、針穴15及び第二の開口部512に挿通された状態となる(
図16,
図26(B),
図30のステップS5)。
【0058】
次いで、第一の糸保持エアシリンダー52を後退状態としてスライド板51を第一の開口部511が針穴15に重合する上糸挿通位置に移動させる(
図17,
図26(C),
図30のステップS7)。これにより、下糸Dの縫い開始端部はスライド板51と針板17との間に保持される。また、この時、ノズル昇降エアシリンダー44を後退状態としてノズル41を下降させる。
【0059】
そして、ミシンモーター117を駆動させて縫製を開始する(
図18,
図30のステップS9)。
これにより、縫い針11が下降して、第一針目の針落ちが行われ、上糸Uが第一の開口部511及び針穴15に侵入し、ミシンモーター117の駆動により回転を始めた水平釜18の剣先にすくわれて、上糸Uの縫い開始端部は針穴15の下側に引き込まれる(
図19,
図27(A))。
【0060】
次いで、縫い針11が上昇して針穴15から抜けるタイミングで第二の糸保持エアシリンダー53を後退状態とし、スライド板51を退避位置まで移動させる(
図20,
図27(B),
図30のステップS11)。
これにより、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部は前方に引き出され、糸たぐり部材81の下側においてその前後に延在した状態となる。
【0061】
そして、糸たぐりエアシリンダー82を後退状態とし、糸たぐり部材81を下降させる(
図27(C),
図30のステップS13)。
これにより、糸たぐり部材81は、
図23に示すように、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を捕捉し、下方にたぐり寄せて、第一の糸切り装置60の固定メス62の鈎状部621の内側に引き込んだ状態とする。
【0062】
そして、ミシンモーター117による運針が継続し、二針目の針落ちが行われる(
図28(A))。
この時、糸たぐりエアシリンダー82は後退状態を維持し、糸たぐり部材81は下糸D及び上糸Uの縫い開始端部に対して下方への引き込み力を付与し続けている。このため、縫いが進んで布地Cが前進すると、下糸D及び上糸Uに余長が生じてその分だけ糸たぐり部材81はさらに下降し(
図28(B))、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を固定メス62の鈎状部621の内側にさらに引き込んだ状態とする。
この間、制御装置110は、ミシンモーター117の駆動による針棒の位置を監視し続け、三針目の縫い針の引き上げタイミングを待ち続ける(
図30のステップS15)。
【0063】
上記三針目の縫い針の引き上げタイミングが到達すると、第一針目の針落ち位置が第一の糸切り装置60の糸切断位置の真上となる。このタイミングで第一の糸切り装置60の第一の糸切りエアシリンダー63を進出状態とすることにより、動メス61が前進して下糸D及び上糸Uの縫い開始端部の切断が行われる(
図24,
図28(C),
図30のステップS17)。
上記のタイミングで下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を切断すると、上糸Uの縫い開始端部を最も短くすることができる。また、第一針目では結節が形成されないので、下糸Dは布地Cの第二針目の針落ち位置から垂れ下がっているが、下糸Dの縫い開始端部も十分に短くすることができる。
なお、下糸Dの縫い開始端部をより優先的に短くしたい場合には、次の四針目の縫い針の引き上げタイミングで糸切断を実行すれば良い。
【0064】
次いで、縫製終了後に、第一及び第二の糸保持エアシリンダー52,53を進出状態とし、スライド板51を第二の開口部512が針穴15に重合する下糸挿通位置に移動させる(
図29、
図30のステップS19)。これと同時に、捕集機構19のファン191を作動させる(
図30のステップS21)。
これにより、スライド板51に保持されていた下糸D及び上糸Uの切除片が解放されて落下し、捕集機構19に捕集される。
これにより、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部の切断制御が終了する。
【0065】
[発明の実施形態の技術的効果]
ミシン10は、下糸Dの縫い開始端部を下側から針穴に挿通する下糸挿通機構2と、針穴15に通された下糸Dの縫い開始端部を針板17の上側で保持する縫い開始端部保持機構50と、縫い開始端部保持機構50に保持された下糸Dの縫い開始端部を切断する第一の糸切り装置60とを備えている。
このため、布地Cに残る下糸Dの縫い開始端部をより短く切断することができ、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
【0066】
また、ミシン10は、縫い終わりの下糸Dを切断すると共に切断された下糸Dの釜側の端部を次回の縫いの縫い開始端部として保持する第二の糸切り装置70を備え、下糸挿通機構2は、第二の糸切り装置70による下糸Dの縫い開始端部の保持状態を解除する保持解除機構20と、下糸Dの縫い開始端部を針穴15の下側に寄せる糸寄せ機構30と、保持状態が解除された下糸Dの縫い開始端部をエアーにより針穴15に挿通させるエアーブロー機構40とを有している。
これにより、縫い終わりには下糸Dの釜側の端部を次回の縫い開始端部として保持しておくことができる。そして、保持解除機構20、糸寄せ機構30、エアーブロー機構40の協働により、下糸Dの縫い開始端部を自動的に針穴に挿通させることが可能となる。
さらに、これに伴い、針穴15から上方に挿通された下糸Dの縫い開始端部は、縫い開始端部保持機構50により保持され、第一の糸切り装置60により切断されるので、これら一連の動作を自動的に行うことができ、作業負担の軽減、作業効率の向上を実現することが可能となる。
【0067】
また、ミシン10の糸寄せ機構30は、前進移動により下糸Dの縫い開始端部を針穴15の下側に寄せる糸寄せフック31を有し、当該糸寄せフック31は、先端部に形成された下糸Dの縫い開始端部を上方に移動させる第一の傾斜部311と、先端部の上部に形成された下糸Dの縫い開始端部を捕捉する凹部312と、当該凹部312の内側に形成された下糸Dの縫い開始端部を下方に移動させる第二の傾斜部313とを備え、第一の傾斜部311の上端部よりも第二の傾斜部313の上端部の方が高くなるように形成されている。
これにより、糸寄せフック31による下糸Dの縫い開始端部の捕捉可能な上下の範囲を広くとることができ、より確実に下糸Dを針穴15の下方へ導くことが可能となる。
【0068】
また、ミシン10のエアーブロー機構40は、針穴15に向けてエアーを吐出するノズル41、42を備え、当該ノズル41,42は、先端部に下糸Dの縫い開始端部を通すスリット411,421を有している。
従って、ノズル41,42の上昇時にスリット411、421内へ下糸Dの縫い開始端部を導き保持することができ、より確実に下糸Dの縫い開始端部を吹き上げて、針穴15へ挿通させることが可能となる。
【0069】
また、ミシン10の縫い開始端部保持機構50は、第一の開口部511と第二の開口部512とがスライド方向に沿って並んで形成されたスライド板51を備え、第二の開口部512と針穴15が重合した下糸挿通位置からスライドすることにより、下糸Dの縫い開始端部をスライド板51と針板17の対向面との間に挟んで保持し、第一の開口部511と針穴15が重合した上糸挿通位置からスライドすることにより、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部をスライド板51と針板17の対向面との間に挟んで保持することを可能としている。
従って、一部材で下糸D及び上糸Uの縫い開始端部の両方を保持することを可能とし、部品点数の低減を図ると共に、これに伴い、機構の小型化、省スペース化を実現する。
【0070】
また、ミシン10は、スライド板51が布地の送り機構である送り歯14による送り方向下流側にスライドして上糸U及び下糸Dの縫い開始端部の保持を行い、第一の糸切り装置60を針穴15に対して送り機構の送り歯14による送り方向下流側に配置している。
そして、制御装置110は、縫い開始端部保持機構50によって、第一針目の針落ち前に下糸Dの縫い開始端部の保持を行い、第一針目の針落ち後に上糸Uの縫い開始端部の保持を行い、第二針目の針落ち以降で第一の糸切り装置60による上糸及び下糸の縫い開始端部の切断を行うように制御する。
これにより、布地から垂れ下がる下糸D及び上糸Uの縫い開始端部の根本部分を布地の送り方向の下流側にある第一の糸切り装置60に近接させ、切断後に布地側に残る下糸及び上糸の縫い開始端部をより短くすることが可能となる。
【0071】
また、ミシン10は、第一の糸切り装置60の動メス61,固定メス62をスライド板51よりも下方に配置し、スライド板51によりスライド方向に引き出された上糸U及び下糸Dの縫い開始端部を下方にたぐる糸たぐり機構80を備えている。
このため、第一の糸切り装置60の動メス61,固定メス62が布地に接触して傷等を付けないように配置して布地の保護を図ることが可能としつつも、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を適切に動メス61,固定メス62に導くことができ、より確実な切断を行うことが可能となる。
【0072】
[糸たぐり機構の他の例]
上述した糸たぐり機構80は、一本の糸たぐり部材81により下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を第一の糸切り装置60の固定メス62側にたぐり寄せていたが、二本の糸たぐり部材を使用しても良い。
即ち、
図31に示す糸たぐり装置80Aは、保持部811Aと爪部812Aと延出部813Aとを備える第一の糸たぐり部材81Aと、保持部831Aと爪部832Aと延出部833Aとを備える第二の糸たぐり部材83Aと、第二の糸たぐり部材83Aを支持して第一の糸たぐり部材81Aの保持部811Aに対して第二の糸たぐり部材83Aの保持部831Aを上昇により押圧接触させる第一の糸たぐりエアシリンダー82Aと、第一の糸たぐり部材81Aと第二の糸たぐり部材83Aと第一の糸たぐりエアシリンダー82Aとを支持して、これらを昇降させる第二の糸たぐりエアシリンダー84Aとを備えている。
【0073】
上記構成では、第一の糸たぐりエアシリンダー82Aを進出状態とすることにより、第一の糸たぐり部材81Aの保持部811Aに対して第二の糸たぐり部材83Aの保持部831Aを上昇により圧接することができ、これらの間で下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を挟持することができる。
そして、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部の挟持状態で、第二の糸たぐりエアシリンダー84Aを後退状態とすることにより、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を第一の糸切り装置60のメス61,62側にたぐり寄せることができる。
このように、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部を挟持しながらたぐり寄せるので、下糸及び上糸の縫い開始端部が各糸たぐり部材81A,83Aから不慮に外れることが防止され、より確実に糸たぐり動作を行うことが可能となる。
【0074】
[縫い開始端部保持機構の他の例]
上述した縫い開始端部保持機構50は、直線状のスライド板51を備えているが、その形状は直線状に限定されない。例えば、
図32及び
図33に示すように、円弧状のスライド板51Aを備える縫い開始端部保持機構50Aを採用しても良い。
この縫い開始端部保持機構50Aは、上糸捕捉孔及び下糸捕捉孔としての第一の開口部511A及び第二の開口部512Aを円弧状のスライド板51Aの一端部と一端部の近傍とに形成し、円弧の中心を回動中心としてスライド板51Aを回動可能に支持すると共に、スライド板51Aと同軸で連動して回動を行う入力アーム54Aに対して回動動作を付与する第一の糸保持エアシリンダー52Aと、第一の糸保持エアシリンダー52Aのプランジャーの移動方向と同じ方向に沿って当該第一の糸保持エアシリンダー52Aを進退移動させる第二の糸保持エアシリンダー53Aとを備えている。
【0075】
この場合、スライド板51Aの円弧を含む円周上に針穴15が位置するようにスライド板51Aを配置し、入力アーム54Aと第一の糸保持エアシリンダー52Aのプランジャーとは、軸と長穴とにより連結して円弧により変位を許容しつつ連動する構造とする。
また、第一の糸保持エアシリンダー52Aと第二の糸保持エアシリンダー53Aの両方が進出状態の時にスライド板51Aの第二の開口部512Aが針穴15に重合し、第一の糸保持エアシリンダー52Aと第二の糸保持エアシリンダー53Aのいずれか一方が進出状態の時に第一の開口部511Aが針穴15に重合し、第一の糸保持エアシリンダー52Aと第二の糸保持エアシリンダー53Aの両方が後退状態の時にスライド板51Aの全体が針穴15から外れた位置となる退避位置となるように各構成を配置する。
【0076】
これにより、開始端部保持機構50Aは、開始端部保持機構50と同様に、各糸保持エアシリンダー52A、53Aを制御することにより、スライド板51Aを下糸Dの縫い開始端部の挿通位置、上糸Uの縫い開始端部の挿通位置及び退避位置にきり替えることが可能となる。
また、スライド板が直線状である場合には針穴15の前方に対してスライド板51の配置スペースを広く確保しなければならないが、スライド板51Aが円弧状とした場合には、針穴15の前方に対して配置するスペースを低減し、省スペース化を図ることが可能となる。
【0077】
[糸たぐり部材の規制板]
上記円弧状のスライド板51Aを使用すると、
図34に示すように、各開口部511A,512Aは円弧に沿って移動するので、縫い開始端部の保持の際には下糸Dや上糸Uの縫い開始端部は前後方向から左右方向(
図34のようにスライド板51Aが左側に湾曲している場合には左側)に逸れて引き寄せられることになる。
また、スライド板51Aは湾曲しているので、糸たぐり部材81の保持部811の幅をスライド板51Aの幅よりも広く設計しなければ内側を通すことができない。
これらにより、下糸Dや上糸Uの縫い開始端部は糸たぐり部材81の保持部811の左右方向の端部に寄りすぎて、糸たぐり部材81が所定方向に移動しても下糸D又は上糸Uの縫い開始端部が固定メス62の鈎状部621の内側に適正に導くことができなくなる懸念がある。
【0078】
そこで、円弧状のスライド板51Aを使用する場合には、下糸及び上糸の縫い開始端部がスライド板51Aの幅よりも左右方向に移動しないように規制する規制板85A,86Aを糸たぐり部材81の前後方向の片面側に設けることが望ましい。
また、スライド板51Aの湾曲方向の内径側となる規制板85Aには、下糸D及び上糸Uの縫い開始端部が下に潜らないように傾斜851Aを設けることが望ましい。なお、外径側には下糸D及び上糸Uの縫い開始端部は寄りにくいので、外径側の規制板86Aは省略しても良い。
【0079】
[保持機構の他の例]
係止部材21の上端部の屈曲部211は、板バネ73の長手方向の中間部の下面に下方から近接対向するように構成してもよい。
この構成の場合、板バネ73は外力を受けないときには動メス71の下方に離れた状態となるように支持されており、解除エアシリンダー22は、屈曲部211が板バネ73の下面に近接対向する位置にある係止部材21を上昇させる方向に駆動し、係止部材21を介して板バネ73を上方に押し付ける。そして、この押し付けにより、板バネ73の先端部が動メス71を加圧し、動メス71との間で挟持していた下糸の縫い開始端部を保持する。
また、下糸の保持を解除する際には、解除エアシリンダー22を駆動し、係止部材21を引き下げて離間させることによって、係止部材21による板バネ73への加圧を解除することができる。
【0080】
[その他]
ミシン10は、総合送りミシンを例示したが、針棒が揺動を行わない他のミシン(例えば、本縫いミシン等)に、下糸及び上糸の縫い開始端部の保持及び切断を行うための各構成を適用しても良い。
また、針穴15が送り歯14に形成されている場合を例示したが、これに限らず、針板に針穴が形成されているミシンに下糸及び上糸の縫い開始端部の保持及び切断を行うための各構成を適用しても良い。